剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました 作:加藤あきら
7
私は箒に跨り、飛行魔法を使ってオブライエンさんが乗った車を目で追いかけながら、何でも屋『ジェネシス』の事務所へと向う。幸い、奴らが向かう方向がジェネシスと同じ方向で助かった……。
まずは奴らがどこに向かったのかを確認し終えると……私は方向転換してジェネシスの事務所まで箒をかっ飛ばした。
私は雑に地面に降り、箒を投げ捨てて階段を上る。ノックもせずにジェネシスのドアを開けて入り、間髪入れずにすぐさま事情を説明した。そして叫ぶようにして、私は頼む。
「お願いします。オブライエンさんを助けてください!!」
サカイさんたちはお互いに目を合わせて、頷く。
何も言わなくても、目だけで意思疎通が出来ているみたいだ。これが、本当の仲間ってものなのかなと、私はちょっとだけ羨ましく思った。
「お任せください。何でも屋ジェネシスは、頼まれた仕事は何でもやっちゃります。そして、必ず成功させますのでご安心を!」
サカイさんたちは事務所を飛び出して、赤い車に乗り込む。
運転席にはピットマンさんが、そして助手席にはサカイさんが座り、私とフェルトちゃんは後部座席に座る。
「しっかりとシートベルトをしてくれよ。あと、無駄に口を開けない方が良いぜ? 舌噛むからさ」
ハンドルを握った瞬間、ピットマンさんの雰囲気がガラリと変わった。
昨日は鼻くそぼじってマヌケな顔をしていたのに、今はすごく男前に見える。
あ、あれか。ハンドル握ったら性格変わる人のなのか、ピットマンさんは――。
と……冷静に分析している暇もありませんでした。
シートベルトをして、なおかつどこかに掴まっていないと吹き飛びそうになるくらいの走りをピットマンさんはするのです。
加速でノリに乗ったスピードを、ブレーキを思いっきり踏むことで減速。体が前のめりになったかと思えば、ふわりという浮遊感が襲ってきて、私の体が今度は左へと傾く。
車から見える景色が横に流れていき、キィィィィィイイイイイ!! というタイヤが擦れる音と共に、白い煙をモクモクと出している。
何で車が横になりながら進んでいるのよぉぉぉおおおおお!?
「おい、マクファーレン! 目的地はこの先の教会跡地でよかったんだよな?」
「あ、あ、あ、は、はいッ! 旧ファロス教会ですッ!」
私は必死にピットマンさんの質問に答えた。
誘拐犯は丘の上にある、今は廃れて放置されている今は無きファロス教の教会堂を一時的な潜伏地に選んだみたい。確かにあそこは住宅街から離れているし、周りには何もないし、道は整備されていないから人が寄り付かない。隠れるにはいい場所だろう。
でも、私に見られて追いかけられて、しかもそれに気づけていない。
結果、私は助けを呼ぶことができた。
少し落ち着いてきた今なら分かる。あいつらはガバガバな素人集団だってことを!
サカイさんに任せればきっと――あ、あれ?
「うっぷ……!?」
ヤバい。サカイさんがこの揺れに内臓が負けている。これ到着しても、サカイさん使い物のならないんじゃ……いや、そんな事ないよね! だって、この前感じたあの信頼感が事務所を出る前はあったし、現場についても大丈夫――だと、思っていたのは私の勝手なイメージでした。
オブライエンさんをさらった男どもが使っていた白い車が止まっている使われていない廃工場に着くなり、サカイさんが勢いよく外に飛び出した。一刻も早くオブライエンさんを助けに行かなくちゃいけない。だから、ピットマンさんの運転になんて負けている暇なんてないよね!
さすがはサカイさんです。車から飛び降りたところなんて、カッコよかったですよ!
「さ、さぁ……。オブライエンさんを、助けに、いくぞぉ」
と思っていたらこの覇気のない声と、ゲッソリしている顔。
どうやら、ピットマンさんの運転には勝てなかったようです。
「大丈夫ですか、サカイさん?」
「あ、ああ。問題ないよ。すまんね、肝心の俺がこんな調子で。でも大丈夫。間違いなく彼女を助け出すから」
「い、いえ。待っていてください。いま治癒魔法を」
私は呪文を唱えてサカイさんに治癒魔法をかけてあげた。これで気分も元に戻っていつものコンディションで動けるはず。
「お? おお、すげー。ありがとうマクファーレンさん。気分が良くなったよ」
「どういたしまして。ところで、どうやってオブライエンさんを助けるんですか?」
そう、ここまで来てなんだが、私はサカイさんたちがどうやってオブライエンさんを助けるのかが分からない。武器らしい武器も持っていないし、魔法の杖も持っていない。
じゃあ、どうやってあいつらに対抗を……? 相手はオブライエンさんを誘拐して身代金を要求するようなやつら。武装してないはずがない。
「どうやってって、そんなん決まってますよ」
サカイさんは淡々と言い放つ。
「――真正面からですよ。ジェネレート、コード:フェルト」
サカイさんが謎の言葉を吐くと、フェルトちゃんの体が白く輝き始め、変わり果てた姿になって彼の手の中に納まる。
それは剣だった。
緑色に透き通った美しい剣が、キラキラと輝く緑色の星屑に包まれ、禍々しく、妖艶に、そして神秘的に、その存在を演出していた。思わず見とれてしまうくらいに
「あれ、ピットマンさんは行かないんですか?」
「まぁね。俺は車専門で、戦いはできないからさ。あいつは何でもやっちゃる、って言ってるけど、一番得意なのは“戦い”だからね」
「そうですか。戦いが本業……」
「どしたの、マクファーレンさん」
「私も行ってきます!」
「あっ、ちょっと!」
ピットマンさんの制止を求める声なんて聞こえない。
私はちょっと気になるだけなんだ。戦っている人が、どんな風に戦っているのか。人を助けるために、どのようにして戦いに望んでいるのかを。
そして、私は、それを見せつけられる。
それはあまりにも一方的で、無慈悲で、容赦のない攻撃。
目的はただ一つ。マーガレット=オブライエンの救出。それだけ。
「う、撃てよお前ら! もっとだ、もっとだよォ!!」
オブライエンさんをさらった奴らは拳銃を乱射しながらサカイさんを撃ちつづけるが、一発も彼に当たる様子がない。サカイさんは避ける素振りも見せず、ただ前進するだけ。
「おい、それだけかよ。それで終わるんだったら、悪い事は言わねぇ。さっさとマーガレット=オブライエンの身柄をこっちに渡せ。これに拒否する場合は――」
刹那。
緑色の矢……いや、杭? のようなものが勢いよく飛び、誘拐犯の二人の手を貫いた。
拳銃を床に落としながら泣き喚く男たち。
「次はお前の脳天ぶち抜くぞ。いいか、もう一度だけ言う。さっさとマーガレット=オブライエンの身柄をこっちに渡せ」
「ひぃぃぃいいいいいい!! 分かった! 分かったから!! 言うことを聞くから命だけはぁ!!」
「そうだよ。素直が一番だ」
ゴンと、鈍い音が鳴る。そしてドサリと男がその場で倒れた。
きっとサカイさんがアイツを殴り倒したんだ。
「これで結構な恐怖心煽ったし、もうこいつらも反省してる事だろう。ま、警察には通報するんだけどさ。さてと」
サカイさんは手足を縛られ、口をふさがれていたオブライエンさんの拘束を解いてあげた。
物陰に隠れていた私も、オブライエンさんの無事を確認して飛び出す。
「マーガレット=オブライエンだね?」
「は、はい……」
「俺は何でも屋『ジェネシス』のナオシ=サカイ。リリアン=マクファーレンの依頼で君を助けに来た者だ」
「マクファーレンさん……? な、なぜあなたが」
「だ、だって! オブライエンさんが、誘拐されるとこ見てたから」
「そうでしたの、ありが――」
「ごめんなさい!!」
オブライエンさんの感謝の声を遮ってまで、私は謝った。
だって、私はお礼を言われるような資格がないんだ。あの瞬間、恐怖で体が動かなくて、ただ傍観するだけで、オブライエンさんを見捨てたんだから。
「なぜ、あなたが謝るのですか?」
「だって……だって私は、オブライエンさんが誘拐されるとこを見ておいて、何もしなかった臆病者だから。ちょっとばかし魔法が使えるだけの、役立たずだから。あのときオブライエンさんを見捨てた私が感謝される資格はない。だから、私にできることはオブライエンさんに謝る事だけなの!」
私なんか、こんな私なんか、罵ってもらってかまわない。
「……そんなことありませんわ。だって、現にあなたはわたくしを助けに来て下さったではありませんか。確かにその瞬間は何もできなかったかもしれませんが、でも見捨てることなくあなたは、マクファーレンさんは、こうやってわたくしを助けにきてくださりました。それは十分に感謝の言葉を贈るに値する事ですのよ?」
「本当に……?」
「えぇ。ありがとうございました、マクファーレンさん」
「う、うん! どういたしまして」
よかった。本当に、オブライエンさんは人としてとても出来た人だと思う。
私なんか到底及ばない。とても綺麗で、努力家で、負けず嫌いな人。
「も、もしね。もしよかったら」
「なんですか、マクファーレンさん」
「私と、お友達になって欲しいな!」
8
あの瞬間から、私とマーガレットはお互いを高め合うためのライバルとして、そしてかけがえのない親友として、共に大切な存在と化している。
そして、今日は午前で授業が終わる日。マーガレットと一緒にお昼ご飯を食べることにした私は、学校の屋上で二人仲睦ましくお昼ご飯を食べて、そして――。
「ねぇ、マーガレットぉ」
「なんですかリリー?」
「えへへぇなんでもな~い」
「なんですかもう。リリーさんはこんなにも甘えん坊だとは思いませんでしたわ」
もうね、四六時中引っ付いています。ハイ。
だってね、マーガレットっておっぱい大きいし、そこに顔をうずめるととっても気持ちいいの。
いや~癒しってこういうのを言うんだね。いつまでもこうしていたいくらいだよ。
だけど、いつまでもそうしてはいられないのが、この世の辛い所ですよ。ま、私が自分自身で選んだ道だから、文句なんて言えないんだけど。
そう、私の懐に入っている通信端末がピピピ、ピピピ、ピピピ、とうるさく鳴り響くんだ。
これは仕事の合図のようなもの。
「ジェネシスの方からですか?」
「うん。もう、こちとらマーガレットとイチャイチャしてったってのに。はい、どーしたんですか、ピットマンさん」
『ちょいと大仕事だ。政治家の娘さんが乗った列車がジャックされた。それをナオシの奴が救出する依頼なんだが、バックアップ頼めるか?』
「ええ、もちろんよ。で、報酬は?」
『たんまりと出る予定だ。今夜はご馳走だな』
「なんですって!? こうしちゃいられないわ。マーガレット、申し訳ないけど、私はサカイさんの手伝いに行ってくる」
あのサカイさんの戦いを見てから、私はどうしても彼の傍にいたいと思った。
それは決して変な意味ではなく、人を助けるという行為に対して、どうやって向き合って行動に移しているのかを私は知りたかったからだ。
マーガレットが襲われたあのとき、私は動けなかった。
それは私に勇気がなかったから。恐怖に負けてしまったから。
なら、もう動けない、何てことがないように、私は、自分をもっと高める事に決めたの。
だから、今はあのジェネシスでバイトをしている。
「あ、あのリリー!」
「なぁに、マーガレット」
「あ、あの、その……ナオシ様に、よろしく、伝えていただければ、嬉しい、ですわ」
マーガレットはとても可愛らしく顔を赤らめて、髪の毛を指でくるくるさせながらそんな頼み事をしてきた。
サカイさんがマーガレットを助けてから、彼女はサカイさんにもうゾッコン。
さぞかし、あのときは自分を助けに来てくれた
ま、恋しちゃうのもしょうがないとは思うんだけどさ、マーガレットをサカイさんに取られたくないからちょっと複雑な気持ちなんです。
「あ、うん。伝えとく」
「ありがとうございます! いってらっしゃい、リリー!」
「うん、いってきます!」
だけど、こうやってマーガレットに見送ってくれるだけで私は幸せなのだよ。
さて、今夜はご馳走! ステーキ食べましょ、ステーキ!