剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました 作:加藤あきら
「マリナさんッ!!」
俺はとっさにマリナさんに抱きつき、粒子の操作によって防壁を作り出す。その次の瞬間――視界が反転した。下だったものは上に、上だったものは下に。
そう、車が突き飛ばされたんだ。あの黒い何かによって。
「マリナさん、運転手さん! 大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……だ、大丈夫ですわナオシ様」
続けて運転手さんからも返事を貰った。シートベルト様々だな。こんな事になっても命が助かるとは。
俺たちもフェルトの力のおかげで無傷で済んだ。
そして聞こえてくるのは叫び声。恐怖が凝縮されたようなその声たちは状況の深刻さを想像させる。いったい何が現れたのか、それを知るためにはまずはこの車から出なくてはならない。
ひっくり返った車のドアのノブを引っ張り、叩くようにしてそれを開ける。ずりずりと身体を擦りながら外に出ると、そこにいたのは黒い獣であった。しかし、その肌は黒く光っており、毛はまるでない。目は光っているが、自然光ではなく、電球が光っているような黄色い光。全体像は虎か狼かを想像させるようなディテールだが、二足歩行している。そして爪は何もかもを切り裂き、貫くような鋭さを持っていた。
何だアレは?
とてもこの世のモノとは思えないおぞましさがあり、理解ができない存在だと感じる。
そもそも今のこの世の技術力であんなものが作れるのか? アレは間違いなく機械人形だが、その動きは獣のように滑らかで生き物のように感じる。明らかなオーパーツ。この世の中にはまったくそぐわない場違いなモノ。絶対にアレは普通に考えたらここには存在しないモノだ!
「何ですか……? あれは……?」
俺の背後に立つマリナさんがそうつぶやいた。
だがその問いには答えられない。だって俺が聞きたいからな。
とにかく今はマリナさんを守るためにアレと戦わなくちゃいけないということだ。
『ナオシさん、心拍数が上がっています。落ち着いてください』
ジェネレーターの剣を握り、今にも切りかかろうとする俺にフェルトはそう言った。
そこで俺はようやく気付いたんだ。何故かアレに異常なまでの恐怖心を覚えていると。理解できない存在だからか? マリナさんを守り切れるか不安だからか? それとも俺は勝てないと、心のどこかで確信しているからか?
分からない。
もしかすると、失った俺の記憶に関係があるのかもしれない。元々俺はあの黒い機械の獣に因縁があるのか、それか一度負けているのか。
いやいやいやいや! 怖がっている場合じゃねぇぞ俺!!
「フェルト! いつもの杭だ!! ありったけ作れェ!!」
ジェネレーターによって生み出された緑色の粒子が杭の形へと変わっていく。俺の周りには数えきれないほどのそれが展開された。
これで穴だらけにしてやらァァァ!!
「一斉射出だッ!!」
緑色の杭が黒い機械の獣へと向かっていく。
ジェネレーターの力ならあんな奴なんてこれで倒せるはずだ。だってジェネレーターは理解できない存在であり、強大な力を持っている存在でもあるのだから。
行け! 壊れろ! 化け物め!
「…………え?」
しかし、目の前で起こった事実はなんとも呆気ないものだった。
一振り――鈍く輝く銀色の爪によるたった一度の払う動作によって無数の杭が払われた。ヤツに当たるであろう杭は全て霧散し、当たらなかった杭は地面に刺さっていく。
なんてこった……フェルトが言ってくれたじゃねぇか。落ち着いてください、ってよ。さっきの攻撃で防御に回す分の粒子まで全部杭に使っちまった。
これじゃ、今まさに目の前に迫ってくる鋭い爪を防ぐことはできない……!!
「ぐぅ……!?」
とっさに俺は後ろに飛び、少しでも距離を取った。
そして遅れて痛みが襲ってきたかと思えば、腹に大きな切り傷ができていた。Yシャツが赤く滲んでいく。幸い傷は浅く致命傷ではないが、攻撃にまるで対応できなかった事の方が重大だ。目の前にヤツの爪があったところまでは視認できた。しかし、あくまで視認できただけで、次の瞬間には何もできないまま腹をえぐられていた。
後ろに避けなければきっと俺は上半身と下半身が二つに分かれていただろう。
『ナオシさん、しっかりしてください。少々興奮気味です。落ち着いてください』
「はっ!?」
気が付かなかった……俺の目の前には緑色の防壁によって受け止められていたヤツの爪があった。
認識すらできていなかった。自分の状況把握で精一杯になって、敵の動きまで意識が回っていなかった。なんたる失敗。なんたる醜行。
死にたいのか俺は!!
明確な殺意がある敵を目の前にして思考停止するなんて言語道断だ。俺はフェルトと合わさって初めて力を発揮できる。直接行動に移すのは俺だけど、力を与え、サポートしてくれるのはフェルトなんだ。
「すまねぇなフェルト。こんなときこそ、気持ちを落ち着かせて冷静な判断だよなぁ!!」
俺は粒子の防壁を爆発させ、獣の化け物を吹き飛ばす。
ソイツが怯んだ隙に、フェルトに照準を任せて二つの杭を作り出し、発射。それは吸い込まれるようにして獣の化け物の目をつぶす。これで視界を奪った。あとは簡単だ。
近づき、斬るだけ。
「はあああああああああああああああ!!」
叫び、力み、その首を確実に切り落とすべく、剣を振るう。
ブチィ! と、コードの切れる音が響き渡る。そして、そこからは電気がバチバチと音を立てていた。
「やっぱりこれは生き物じゃ、ない……!? どうやって動いて――」
この驚きが隙を生み出してしまったのだろう。
黒い化け物は、首を落としただけでは息絶えなかったんだ。
「が……!?」
わき腹をその爪で引き裂かれる。血がバクバクと垂れ流れ出し、意識が失いそうになる中で俺はこのまま意識を失うわけにはいかないと、粒子で杭ではなく、槍を無数に作り出す。
「俺は、そんな《領域》には負けはしねぇよ……。いけ、射出だァ!!」
そして、緑色の槍で化け物を串刺しにしてやった。
顔を切り落としているから叫び声もなにもあげることはない。ただ、その場を動こうともがいている様子は見られた。どうやら、思考はできているようだが、いったいどういう仕組みなんだ?
何本もの槍がザクザクと刺さっていく音を聞きながら、意識が遠退いていくのを感じる。これで仕留めれなかったら、この俺も、護衛対象であるマリナさんも、助かることはできない。
俺は唇をかみ締め、血を流しながら、意識が飛んでしまうのを無理矢理食い止める。
「化け物め、ぶっ壊れろォッ!!」
のどが枯れるほどに叫びながら、一直線に剣を構えて突っ走った。
切りかかろうとしたその瞬間――俺は何かを思い出した。
俺は、この機械仕掛けの獣を知っている。いったいどこで対峙したのかは分からない。ただ、確実に、俺は前にもコレを目の前で見たことがあることだけは分かる。
俺の、失われた記憶なのか?
なぜ俺がこの地――ハイレシスにいるのか、それを説明できる存在がこの機械仕掛けの獣だというのか? 分からない。分からないが、ただ今できることは、この壊れかけた漆黒の機械獣を破壊するだけ。
「消えうせろォ!!」
串刺しになり、身動きが取れなくなった黒い獣の化け物へ、剣を突き刺す。
確かな手ごたえを感じた。
でもやっべぇな……意識がぶっ飛びそうだ……。マリナさんを護衛しなきゃならねぇってのに、俺がぶっ倒れたらダメだろうがよ!
「おいナオシ!!」
見慣れた色の車が目の前に現れ、そこから飛び出てきたのは親友の姿だった。安心した。これで倒れてもいいよな、俺。
そして俺は完全に意識を手放し、視界が真っ暗になった。