剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました   作:加藤あきら

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第26話『衝撃』

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 ルビーちゃんを助けてからというもの、彼女はよく事務所に訪れるようになった。

 

 

「えっへっへぇ、サカイく~ん」

 

 

 のほほ~んとした雰囲気を醸し出しているだけあって、彼女はとてもやわらかかった。なぜそんなことが分かるのかといえば、現在進行形でルビーちゃんに抱きつかれているからであって、周りの、特に女性陣からの視線がとても痛かった。

 

 

「サカイさん。公私混同はいけないと思いますけど」

 

 

 と、冷たい言葉をリリーからぶつけられた。

 

 

「…………」

 

 

 フェルトは相変わらずの無表情で、無言のプレッシャーを与えてくる。

 

 

「なぜこんなことに……まさか、そんな……」

 

 

 小さくぶつぶつ呟くマリナさんは、なんか怖い。

 

 

「お、おぉ……」

 

 

 そしてロディは少し離れた場所からこの状況をドン引きしながら見ていた。

 そりゃそうよね。修羅場ってレベルじゃねぇぞ。どうしてこうなった!

 いや、誰に好かれようが嫌われようが、今この状況で気にしているのは場違いってもんだ。今問題なのは、選挙がついに明日開かれるということ。ルビーちゃんが操られた日から、マリナさんへの襲撃がなくなってしまった。

 

 ちょっとばかし不気味だ。

 

 あれだけ執拗に何らかの方法を使ってマリナさんの命を狙ったってのに、この二日間、何事もなく平和な日々を送ることができた。これぞ嵐の前の静けさと言わずなんと言う。

 今日、または明日、絶対に良くないことが起きるに違いない。

 

 

「えっと、ルビーちゃん。俺、まだ仕事中だから離れてくれると嬉しいな」

 

「え~。でもぉ、サカイ君が私を守ってくれるんでしょ?」

 

「いやいやいや、俺が、じゃなくて、俺たちが、って言ったんだけども」

 

「それでも……この前はサカイ君が助けてくれたし」

 

「まぁ、そうだけどもさ。俺はマリナさんの護衛任務もあるわけで、ルビーちゃんだけを見ているわけにもいかないんだよ」

 

「う~……。それじゃ、マリナちゃんの護衛任務が終わったらぁ――」

 

「あー! あー! ああー!! あんなところに変なものがぁ!!」

 

 

 唐突にリリーが奇声を発した。あまりにも大きな声だったから、さすがに驚いてちょっと飛び跳ねたが、悠長に構えている暇などない。

 

 

「どうしたリリー!? いったい何が?」

 

 

 俺はルビーちゃんを払いのけてリリーが指差していた空を窓から見上げる。

 

 しかしそこには何もなく、雲ひとつない晴天が広がるばかり。リリーの冗談だと分かったときには、彼女がナイスフォローをしてくれたのだと気づいた。そうか、このどうしようもない状況を打破するためにそんなことをしてくれたのか。

 

 乗るしかない。このビッグウェーブに。

 

 

「もしかすると、またマリナさんを襲撃するための何かかもしれない。みんな、用心するんだ。何が起こっても不思議じゃないんだから」

 

 

 冗談だと分かっていても、俺自身がつい本気にしてしまうほど、緊張しきっていたみたいだ。この冗談が本当になってしまうかもしれないという恐怖が、俺を支配している。きっとロディも、リリーも、フェルトも、誰もが思っていることだろう。

 そのとき――ドクンと、心臓がはねた。

 

 

「ナオシさん」

 

 

 フェルトが俺の名を呼ぶ。

 

 

「ロディ、車を出す準備をしろ」

 

「へ?」

 

「早くエンジン温めろって言ってんだよ! リリーも、杖の準備はいいか?」

 

 

「サカイさん? まさか、本当に?」

 

「あぁ、マジだ。ヤベェぞこりゃあ。この街が滅ぶかもしれない……」

 

「まさか、冗談ですよね? サカイ様?」

 

「残念だが、これは冗談じゃない。40秒以内に仕度しろ。移動するぞ」

 

 

 そして、俺たちは事務所を出てロディの赤いセダン車『ファルカオ』に乗り込んだ。

 ロディの熱い希望により家で留守番をしているエリカも連れて行きたいということで彼女を車に乗せた。彼女は親が両働きで今はひとりだ。確かに放ってはおけない。しかし定員オーバーになってしまったため、俺とフェルトは屋根の上に乗ることになった。粒子の力を借りて張り付けば振り落とされえることはないし、何か起こったときもすぐに対応できることから、これが最善だと判断した。

 

 

「ローにぃ、これからどこに行くの?」

 

「あぁ? あー、ちょっと遠くまでかな?」

 

 

 という会話が車内から聞こえてくる。

 そして……その時がやってくる。

 上空から聞いたこともない轟音が鳴り響く。

 鳥のようで、しかしそれは鋼で出来ているかのように鈍色に輝いていた。

 

 

「なんだよ、あれは……」

 

『ナオシさん、あれは私の世界に存在した兵器。個体名はフォートレス=ホークです』

 

「は?」

 

『ナオシさん。あれは私の世界にあった兵器のひとつです。ジェネレーターの技術を流用し、作り出された飛行輸送自律兵器です』

 

「待て。なんだよ私の世界って……。まるで別世界にいたような口ぶりだな」

 

『はい。私はこの世界で生まれたわけではありません。そして、ナオシさんも、元々はこの世界の住人ではありません』

 

「…………」

 

 

 理解できず、俺は黙り込むしかない。

 その言葉をどうにかして拒絶しようとするけど、なぜかその言葉が段々と染み込んでくるのが分かる。なぜだ。なぜ、俺はその言葉を肯定しようとする?

 どうすりゃいいんだよ、この感情……!

 

 

「おいフェルト。そりゃあどういう意味だ?」

 

『言葉の通りです。ナオシさんも、私も、こことは違う、別の世界からやって来たんです。ヘーレジアの力によって』

 

 

 ヘーレジア――それは伝説となっている英知の塊。それを手に入れれば、この世界を支配できるという逸話がある謎の存在。それはどんな形なのか、大きさはどれ位なのか、そもそも生物なのか、無機物なのか分からない。

 

 名前と曖昧な伝承だけで存在している本の中だけにあるもの。

 それが、なぜフェルトの口から、この話の流れで出てきたんだ?

 

 

「理解できないな。ふざけた話をしている場合じゃない。とにかく、フォートレス=なんとかってのを破壊しないとヤバイんだろ?」

 

『はい。あれは大変危険です。あれそのものもそうですが、注意しなければならないのは、あの中に更なる兵器を積んでいるということです。あれは、輸送兵器ですから。それと、私はふざけてなどいませんよ、ナオシさん』

 

「おいナオシ! なにフェルトちゃんと話してんだよ!? さっきの鳥みたいなの、アレから逃げたほうがいいんじゃねぇのか!?」

 

 

 気持ちの整理がつかないまま、ロディにそんな質問を投げられる。

 マトモに返答できるはずもなく、俺は言葉を荒げる。

 

 

「当然だろ!! 俺らはマリナさんと、ルビーちゃんを助けなくちゃらねぇんだ! いいからかっ飛ばせ!」

 

「なにイラついてんだよ……。それくらいヤバイのか?」

 

「いいから、逃げろッ!!」

 

 

 しかし、速度はあっちの方が上だった。ものすごいスピードで旋回し、こちらに一直線に突撃してくる。逃げられない。なら、受け止めるしかない。

 

 

「フェルト!」

 

『はい、ナオシさん』

 

 

 緑の粒子が防壁の姿に固まり、それを五枚作り出す。

 これで受け止めるしかない!

 そのフォートレス=ホークはついに目の前まで迫る。二階建ての一軒家ほどの大きさの鉄の塊が目の前に迫ってくるのは、とてつもない圧迫感だ。

 

 ガザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!

 

 という激しい音とともに、車内からは悲鳴が聞こえてくる。そりゃそうだ、自分の乗っている車の上には、鳥の姿をした大きな鉄の塊が俺たちを押しつぶそうとしてんだから。

 

 

「おいナオシ! 何とかなんだろうな!?」

 

「あぁ!! なんとかしてやっから、お前は前見て事故らないように運転しやがれ!」

 

 

 とは言っても、もう少しで一枚目の防壁が破られそうだ……!

 

 

「くっ……どうしかしねぇと」

 

 

 その瞬間――ガラスが砕けるような音とともに一枚目の防壁が破られた。その結果、とてつもない衝撃が俺たちを襲った。たまらず、車はバランスを崩す。右へ左へと振られながらも、しっかりと前に進んでいるのはロディの運転テクニックがなせる業だろう。

 周りの建物を破壊しながら、フォートレス=ホークはその質量で押しつぶそうと前進をやめようとしない。まもなく二枚目の防壁もやられる。

 

 

「ロディ、二枚目がやられる。衝撃がくるぞ、気をつけろォ!!」

 

「マジかよ……ぐぅう!!」

 

 

 衝撃。

 

 二枚目の防壁がやられた。残りは三枚……。だが、フォートレス=ホークの勢いは衰える様子を見せない。

 

 まさに防戦一方。

 

 今の俺じゃ、守ることで精一杯だ。だから、俺は仲間を頼るほかない。

 

 

「おい、ロディ、リリー。なんとかならねぇのかよ! 俺はコイツを受け止めることで精一杯だッ!」

 

「この場面で人任せとか戦闘要員の名が聞いて呆れるぜナオシよぉ?」

 

「ちょっとピットマンさん!? いったい何をする気ですか? ここは私に任せて――」

 

「リリーは力を温存するべきだ。今日はここから何が起きるか分からないからな」

 

 

 その瞬間――三枚目の防壁も破壊された。

 

 

「ぐぅぅ!? あっぶねぇ……。危うく事故るところだったぜ」

 

「もう! ピットマンさんは運転に集中していてくださいよ!」

 

 

 車の中からロディとリリーの口論が聞こえてくるが、もう防壁の数は二枚だ。長々と討論している暇はないんだよ。もう四枚目の防壁もヒビが入り始めてるからな。

 だから俺はお前を信じるぜ。

 

 

「おいロディ。何か良い案があるってんなら、俺はお前に任せるぜ」

 

「おうよ。任されたぜナオシ。見てろよ、俺のドライビングテクニックを!!」

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