剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました   作:加藤あきら

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第29話『記録されし記憶』

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 俺はちょっと裕福な家庭に生まれた。父が投資家で、いわば日本経済を動かしている一人でもあった。まぁ、ガキの頃の俺じゃあ、どんな仕事なのかよく理解できていなかったがな。ま、すごいお父さんだと思っていたよ。

 

 しかし、それは突如として崩れ去る。

 

 それは大きな投資だった。とても、とても、大きな。成功が見込まれていて、約束された勝利だった。そう――だった……過去形だよ。特許だかなんだかの影響で裁判沙汰になり、金の力を持ってしても敗北。

 

 きっと裏があったんだ。だけど、お父さんはそれを見抜けなかった。

 

 そっからは崖を落ちるかのようにひもじい生活になってしまった。

 

 金がないはずの父親は酒に溺れ、お母さんに暴力を振るうようになった。

 

 俺はくだらない正義感からお母さんを守らなくちゃいけない、と思っていた。

 

 もう一度、家族で仲良くしたかっただけなのに、それを世界は認めなかった。

 

 あんなにやさしかったお父さんの姿は見る影もなく……恐ろしい形相をしていた。まるで、悪魔にでもその身をのっとられたかのような感じだった。

 

 そしてお母さんは、ストレスから俺に暴力を振るうようになった。お父さんからも、暴力を振るわれた。体はボロボロになり、精神も擦切られ、焦燥しきっていた俺は、いったい何を考えていたのだろうか。

 

 お父さんとお母さんを救うには、この世界から開放してあげなくちゃいけない。

 

 そんな歪んだ正義感を抱くようになった。

 

 きっとそれは、苦痛から逃れるために、理由を自分勝手に正当化したんだろう。

 

 そして、俺は両親をぶっ殺した。いや――開放してやったんだ。この歪んでいて、醜くて、苦しい世界から。

 

 肉と血の赤い海に佇む俺は、いったいどんな表情をしていたのだろうか。

 

 きっと、満足げに、良いことしたんだと、満面の笑みだったんだろう。

 

 いずれその事実は明るみになる。いっせいにメディアがその特集を組んだ。

 

 悪魔に取り付かれた子供だとかなんとか、良く分からないことを言う奴もいた。

 

 ネット上では俺のことを特定する奴もいた。ホント暇人だよな、そういうことをする奴ってさ。まぁ、その結果、俺の周りからは人がいなくなり、孤独になった。

 

 そして、当時一〇歳の俺は分岐点に立たされる。

 

 胡散臭い黒ずくめの男が俺の元にやってきた。

 

 

――君のその想い……人の役に立てたいとは思わないかね?

 

 

 そんなことを言い放った。今の俺からしたら、ふざけんなと突っぱねるだろうが、精神がマトモじゃない当時の俺じゃあ、簡単にその手を取った。そりゃあ、誰からも必要とされない孤独から、頼りにされるようになるんだったら、やっちゃるよな。

 

 で、俺は見知らぬ海外に飛ばされた。

 

 そこでは俺と同じくらいの子供たちが戦闘訓練を行っていた。その黒ずくめの奴が言うには、優秀な戦士を作り上げるプロジェクトだとかなんとか。まぁ、ここで一番になれと言われて、俺はそれを実行した。

 

 薬漬けになりながらも、正気を保ち、力を手にした。いや、元々狂っていたから、それを乗り越えられたんだろう。子供ながらに強靭な肉体を手に入れた俺は、そこで最強の戦士として君臨した。

 

 だが、そこで終わりではない。

 

 この最強の戦士を作り出すプロジェクト……違法なものだったんだ。いや、身寄りのない子供を集めて、薬物投与をしながら戦闘訓練を繰り返し、戦士を作り出す? よく考えなくても正常なことではない。

 

 この施設はとある特殊部隊により壊滅。実験材料となっていた子供たちは保護された。

 

 しかし、俺は最後まで抗った。

 

 一番になり、安寧の地となりつつあった場所を、再び壊されたのだ。

 俺はそれを許すことはできず、その特殊部隊の奴らを殺し、殺し、殺しまくった。

 

 最初は保護しようとやさしく声をかけてきてくれた若い男だった。そいつの頭にナイフを突き刺した。そして素早くもう一本のナイフでそこにいたもう二人の隊員の太ももを刺し、機動力を奪ったところで首の骨を折ってやった。

 

 他愛もなかった。特殊部隊だかなんだか知らないけど、弱すぎた。

 

 俺を止められる奴なんていない。そう思うとなんだか楽しくなってきて、狂ったように高笑いしながら俺は歯向かう奴を次から次へとぶっ殺した。

 

 正気を保っているつもりでも、傍から見れば正常ではない。明確な異常が、そこに存在していた。

 

 そんな異常者である当時一〇歳の俺こと、堺直志はその特殊部隊のとある男によって止められた。それは敵の排除という目的ではなく、あくまで保護という名目で。

 

 幾人もの命を奪った少年は、この日、一時戦いから身を引くことになる。

 

 この俺を止めたその男の名は有馬大輔。

 

 生きる意味を失いかけていた俺に、新たな生きる意味を持たせてくれた男だ。

 

 有馬大輔は家庭を持っていた。とは言っても、妻はすでに亡くなっており、娘と二人で暮らすシングルファーザーであった。大輔はその仕事ゆえに、家を空けることが多かったが、その娘さんがしっかりしていたから問題はなかった。

 

 

 有馬裕紀。

 

 

 俺のひとつ上のお姉さんで、弟として俺は面倒を見てもらった。

 精神がぶっ壊れていた俺相手に四苦八苦していたけど、それでも、彼女が諦めず懸命にお世話してくれたから、俺は比較的正常になることができたんだ。

 

 有馬家で本当の家族のように過ごした俺は、無事に義務教育を終えた。

 

 そこで俺は考えたんだ。

 

 自分に何ができるんだろうか、って。戦うしか能のない俺は、このまま高校生になってもいいのだろうか? そんな悩みを持ってしまった俺は、大輔に相談した。

 

 すると大輔は笑顔でこう答えてくれた。

 

 

――馬鹿野郎が。いいか、お前はその歳じゃ一人で何もできない。今の時代、最低でも高校を卒業しなくちゃいけないんだ。当たり前だよなぁ? そんな、当たり前のことをする資格がお前にはあるんだよ直志。過去が何だ。辛いことを乗り越えたから、そんな風に悩むことができるんだろう? だったら、自分をしっかり理解しろ。正しい答えは必ずあるんだ。それは、己が後悔しない解が正解だぞ。

 

 

 そんなことを言われちまえば、答えは必然的にひとつだった。

 

 俺は過去をしっかりと背負って、新しい道を歩むんだ。

 

 しかしだ。

 

 世界は、この俺を許すことなどできないのだろう。何人もの命を奪い、人としての道を外れた奴が、そう簡単に元の道に戻れると思ったら大間違いだと、世界はほくそ笑んでるに違いない。

 

 ここで俺の記憶は途切れていた。

 

 次の記憶は――。

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