剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました   作:加藤あきら

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第30話『逃亡の末に』

  5

 

 

 何か、嫌な予感がする。

 寒いし、体が痛い。俺は今どこに寝転がっているんだ? 床で寝ているのかと思うくらいに、硬くて冷たい。ベッドから転がり落ちちまったのか?

 

 疑問が疑問を呼ぶような状況に、俺は恐怖で目を開けることができない。

 

 だって、俺の後ろに、何かがいるんだ。

 

 

――グルルルルルルルルル。

 

 

 それは獣のような咆哮だった。なんで、俺の部屋に動物がいるんだ? しかも一匹ではない。いくつもの咆哮が重なり合っている。

 そもそもここは俺の部屋なんだろうか。そんな考えに至ったとき、ヒヤリと、急に背中が凍ってしまうような感覚に陥った。

 

 ヤバイ。

 

 直感的にそれを感じ取った俺は、意を決して目を開けた。

 するとどこまでも暗い漆黒が視界を支配した。

 何かが迫ってくることを察知して、ゴロゴロと転がりながら、それから距離をとった。

 

 それは狼のような、虎のような、カンガルーのような、二本足で立つ何かがそこにいた。

 鈍く輝く爪が、さっきまで俺が寝ていた場所に突き刺さっていた。

 

 

――なんだよ、これ……。

 

 

 思わず俺は一人でつぶやく。

 ここがどこなのかも、この俺がどんな状況に陥っているのかも、まったく理解できない。だが、理解できない化け物が俺を睨みつけている。それだけは理解できた。

 薄暗いが、所かしこに生物的な輝きが見られるこの場所はいったい何なのだろうか、その答えを出している暇など、今この状況ではありはしないのは明白だった。

 

 

 逃げろ。

 

 

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。

 

 

 頭の中がそれだけで支配される。

 

 叫び声をあげる余裕すらなかった。もたついて転びそうになる体を無理やり整えて走り続けるだけ。だけど、後ろからドタドタと何かが追いかけてくる音が聞こえてくる。その音は、とんでもなく近い。

 

 俺は妄想の中で、あの鈍く光る爪に貫かれる様子が描かれる。

 

 冷静ではない俺は、ついに走り続けることができなくなった。なぜなら、顔面からすっ転び、鼻を強打。鼻血を出しながら、その痛みに悶絶し、のた打ち回るしかできなかったからだ。

 

 薬漬けになりながら最強の戦士になった存在だってのに、このザマは笑えない。

 

 目の前には禍々しい漆黒の存在。その中にある鈍く輝く鋭利なものが振り落とされるのを、俺は見てしまった。もう、何も考えることはできなかった。死んでしまうだとか、そんな事も、走馬灯も、何もかも、頭に思い描くことなく、それが俺に――。

 

 そして、俺は失神するようにして俺は気を失った。

 

 おそらく、鼻血を出し、糞尿撒き散らして、情けない表情をしていただろう。だけど、それを俺は覚えてはいない。

 なぜなら――。

 

 

――俺は……誰だ? ここは、どこなんだ?

 

 

 何もかもを忘れ、記憶を失い、覚えてはいなかった。

 気が付けば、どこまでも広く、荒れ果てた荒野のど真ん中に転がっていた。

 

 

――なんで、俺は……。これから、いったい、俺は、どうすれば。

 

 

 見知らぬ地に、俺はひざを付いて倒れこむ。

 記憶を失い、糞尿を撒き散らし、知らない場所に飛ばされる。これが心折れた俺への罰だというのなら、これから頑張るから許しておくれよ。

 

 あぁ、神様。いったい、どうしたら、許してくれるのでしょうか?

 

 誰か教えてくれよ……誰か、助けてくれよ……。

 

 そしてまた、俺は気を失うようにして意識を手放す。

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