剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました 作:加藤あきら
4
俺はフェルトとともに、主様とかいう奴の場所へと向かった。
そこはアウトローなやつらが溢れかえっているスラム街というべき場所。
薄暗くて、ホコリっぽくて、今まで知らなかった世界がそこにあった。
別にビビってなんかない。
たしかに顔に傷があるスキンヘッドの野郎とか、ナイフをシャキンシャキン音を出しながら気味の悪い笑い声をあげている奴もいる。
とにかくおっかない人たちばかりいる場所だけど、俺は明確な目的を持ってここに来たんだ。
迷い込んだ子猫ちゃんじゃない。
「主様、ただいま戻りました」
「フェルト、そちらのお方は……どなたかな?」
少しだけ大きな事務所のような場所、その一階のとある部屋に連れてこられた俺は、その主様とやらに会った。
黒いハットと黒いスーツを着た中肉中背の男。
こいつがこの街を取り仕切っている支配者。金・暴力・セックス。そのすべてを手に入れた奴が目の前の男。この俺とは正反対の、根っからの悪人。
「ナオシ=サカイさんです。主様にお話があるそうで、連れてきました」
「そうか。で、お客様? 何か失礼な事でもありましたでしょうか?」
俺は、コイツからフェルトを解放する。
「お願いがあるのですが……」
「なんでしょう?」
「フェルトを……買いたいと思っています。いくらで――譲っていただけますか?」
「そーだねぇ。ソイツはとびっきりの上玉で、珍しく銀髪と来た。これからいくら稼げるかを考えると……さしずめ1000万シャムってとこか?」
分かっていた。俺みたいなやつが一生かかっても稼げないような金額を要求されるだなんて事は。
だから最初から払うつもりなんて毛頭ない。
「1000万! 困ったなぁ、そんな金額すぐには用意できないよ」
「ではお引き取り――」
黒スーツの男が言い終わる前に、俺は言葉を挟み込む。
「出世払いで付けとくってのは、ダメっすか?」
「おい、ガキィ……!! 俺はやさしいから忠告しといてやるが、ここはお前の様な奴がケンカふっかけて良いような場所じゃねぇんだぞ」
正直おしっこちびっちまいそうな迫力があった。やはり本物は違う。
街の不良どもなんかごっこ遊びの様に感じちまうくらいに、醸し出すオーラからして違う。本気で殺しにかかったら、俺なんか一瞬でハチの巣にされる。
鉛玉ぶちこまれて昇天必須だ。
「そんなの承知の上で言ってんだ。俺は本気だぜ? 金もなしにこんな要求するからには、手ぶらで来るわけないじゃん」
「ふ、ふふふ、あははははははは! こりゃ驚いた。この世には、こんな阿呆がいるとはな」
「ホント、こんな阿呆が世界中、どこ探しても中々いないですよ。だからさ――」
俺は宣言する。
この世から隠されていた、未知なる力を今この手に……!
フェルト、この俺に力を貸せ。
「ジェネレート! コード:フェルト!」
フェルトは白く輝き、その姿が崩れていく。
次の瞬間――剣の姿となり、俺の手の中に納まっていた。
それは剣にしては妖艶で、神秘的で、思わず見とれてしまう不思議な力があった。
その剣はステンドグラスがひび割れたような模様が入っている緑色に透き通った剣身が特徴的で、その見た目から何かにぶつけた瞬間に砕け散りそうだ。
だけど、伝わってくる。その強大な力が剣から溢れ出しているのが。
『ナオシさん、思う存分にこの力を振るい、私を助けてください』
脳内に直接フェルトの声が響く。
原理は良く分からないが、とにかく、フェルトがそう望むのなら俺はそれに応えよう。
「お、おい、ガキ!! あの銀髪の女を……どこにやりやがった!? それに、その剣、どこから取り出しやがったんだ!?」
黒いスーツの男が混乱しながら俺に質問をぶつけてくる。
だけど俺は答えられない。だって、俺にすら、この状況を良く理解できていないのだから。
「お、おいオマエら! 今すぐこいつを殺せ! 撃てぇ!!」
ボディーガードの屈強な男らは拳銃を取り出して、一斉に俺へ向かって発砲した。
だけど、俺にはそれを回避する術も、守る術も持っていない。
あるのはこの剣だけ。この剣で、無数の銃弾を切り落とせとでも言うのかよ、無茶言うな。
『大丈夫です。あなたは、この粒子を使ってその身を守ればいい』
粒子……? 剣から出てくるこの緑色に輝く星屑みたいなものの事だろうか?
よく分からないが、どにかく俺に襲い掛かる銃弾から身を守るイメージを、壁を作るイメージを抱く。何もかもを弾く屈強な壁。それを生み出そうと、俺は粒子を知らず知らずの内に操作した。
「なん……だと……」
確かに火薬が弾ける音がした。硝煙の匂いも確かにする。
だけど俺の体にはひとつとして風穴は空いておらず、放たれた銃弾は俺の回りにパラパラと落ちるだけ。まるで魔法だ。魔法使いにでもなった気分だ。俺には魔法を使う才能なんてなかったのに。
『これが私、ジェネレーターの力です』
「ジェネレーター……。聞いた事もない。だけど、凄い力だってことは分かる」
さっきからずっとパン! パン! パン! という耳に悪い炸裂音が耳をつんざくばかり。
ひたすら弾を撃ち続けるボディーガードの男たちは、無慈悲に落ちゆく銃弾を見続けて何を思っているのだろうか。
弾がなくなるまでそれが続き、拳銃が使い物にならなくなれば今度は自らの身を使う。
だけどその距離は、剣が使える。
模造剣にしか見えない緑色に透き通った剣。しかもひび割れた模様があるから、何かに叩き付けた瞬間に砕け散りそうだ。
だけど――俺は剣を振るう。
「う? へ、は、あ、あ、うわああああああああああああああああああああああ!?」
あまりにも軽くて本当にオモチャでも振り回している感覚だった。
しかしそれは、ボディーガードの屈強な腕を切り落とし、血の飛沫しぶきを撒き散らす。
だけどそれすらも緑色の粒子で作られた壁によって阻まれ、俺に降りかかる事はない。
「さぁて、返事を聞かせてもらおうかな? このフェルトを、俺にくれ」
「本当に……それだけでいいのか? 金は要求しねぇのか?」
「あぁ、必要ないね。それは契約に入ってない」
「だったら、さっさと立ち去ってくれないか? 別に銀髪一人いなくなったところで痛手じゃないんだ。お前に暴れ回られて色々壊される方がよっぽど痛いんだよ」
それはつまり、フェルト以外にも売春行為をさせている女はまだまだたんまりいると言う事。女ひとりくらい居なくなったところで痛くも痒くないのがコイツ――すべてを手に入れた暴君なんだ。
所有物の女に股開かせて男を果てさせれば金が自動的に入ってくる。自身は何もせずとも、暴力というモノを使えばどんな女だって堕落させる。自由をとことん奪い、逃げ出せば殺すと脅しをかけて、金を稼ぐ。
今まで手に入れた物は膨大で、それを壊されてしまえば全てを失う。
フェルトさえ捨てちまえば、そのすべてを守れる。そういう事だろう。
「あぁ、そうかい分かったよ。じゃ、フェルトはもらっていく。お前らが俺を襲わない限りは何もしないから安心しな」
別に俺はこの街のボスを倒しに来た訳じゃない。だって、コイツは悪い事なんてしていない。ただ、自分の力で手に入れた物をここのルールの元、利用しているだけ。それをどう使おうがその人の勝手だ。
ここには、ここのルールがある。
今回はフェルトが「やりたくない」と言ったから、だから俺はそこから解放してやると提案した。そしてそれを彼女は承諾した。
だから俺はフェルトをコイツから奪ったに過ぎない。
もし同じような願いを持ち、そして俺に「助けてくれ」と言う人がいるのなら、きっと俺はコイツから何としてでも離れさせるだろう。
あくまで――お願いされたらだ。
そうじゃなければ、コイツから何かを奪う事はしない。それは、俺の破壊欲求を満たす事に他ならないからだ。
「じゃあな。お前も、何かやって欲しい事があったら俺に言ってくれ。この力でできる事なら、俺は何だってやっちゃるからさ。まぁ、犯罪行為じゃなければだけど」
俺は手を振ってその場から去った。
これが、俺の何でも屋『ジェネシス』の原点。犯罪にならなければ、どのような依頼でも請け負う。
何でもするから何でも屋。
その最初の依頼者は、これからずっとお付き合いしていく俺のパートナーのフェルトだった。
5
「あの、ナオシさん」
俺がこの街を去り、地元のクリオタウンに戻る最中の事だ。
フェルトに裾を引っ張られ、名前を呼ばれた。
「なんだよ?」
「ありがとうございました。それと、お願いがあります」
「お願い?」
お礼を言われても、その表情はなく、声にも抑揚がなく平坦だ。
本当に感情を表現できないのだろう。その原因は、あの黒スーツの野郎に何かされたのか、それともアイツに出会う前に何かあったのか、それは分からない。
「ナオシさん、ずっと私といてくれますか?」
「それってプロポーズ?」
「違います」
「そ、そうかい」
そんなハッキリ言う事ないだろうが。ちょっとしたおちゃめなボケですぜ。
もうちょっとこう……面白おかしくしてもいいんじゃない?
「私はジェネレーターとして生を受けました。そして、それを扱うマシンナーとしての素質がナオシさんにはありました」
ジェネレーター、マシンナー、聞いたことなのないワードだった。
そして、きっとこのとき、俺はどこかで理解していたはずだ。
この子の力は本来ここにあってはならない《領域》にある力だってことを。
「なんでそれが分かったの?」
「喫茶店で私に触れた、あのときです。ナオシさんも不思議な感覚があったはずです」
あの心臓が飛び出しそうな気持ち悪い感覚このことか。だからあの時じっと俺の事を見つめていたんだな。
だから急に態度を改めて俺に助けてもらおうとしたんだ。
そしてフェルトはかけてみた。本当に俺がフェルトを剣にできるような人だとしたら、試してみない手はなかった。そしてあの提案だ。つまり俺はまんまと嵌められたって事になる。
だけども、だからこうしてフェルトはあの黒スーツの束縛から解き放たれ、こうして俺と歩いているんだ。
さて、こんなとてつもない力を手にしてしまった俺はどうすればいい?
投げ出すワケにもいかず、一生付き合っていかなくてはならないのだったら、どうやって彼女とともに歩んでいけばいいのか。
その答えは簡単だ。
こんな身に余るような力を悪用してはならない。そして誰かに奪われてはならない。
ならばフェルトという少女を守り、その力を善意で使っていこう。
それが、力を手にした俺の責務なんだ。
じゃあ、どうやって使っていこうか。
彼女と並び、歩きながらその方法を考えていると、ふと思い出す。
俺はフェルトにお願いされ、助けた。そして、あのフェルトの元主様とやらに「やって欲しいことがあったら俺に言ってくれ」と言った。
つまりはそういうことだ。
誰かのお願いを叶える仕事をしよう。
たとえどんなことであっても、なんだってやっちゃる仕事をやればいいんだ。
「俺からもお願い、いいか?」
「なんですか」
そう――俺は何でも屋ってやつを始めるんだ!
「なぁに、簡単な事だよ。俺はクリオタウンに戻ったらいわゆる何でも屋をやろうと思ってる。だからさ、お前と一緒に居てやるから、その代りに俺と一緒に仕事をしてくれないか? 良きパートナーとしてさ。それが俺の、何でも屋として活躍するであろうお前への最初の依頼だ」
この言葉をきっかけに、フェルトは仲間になった。
これからずっと共にしていく、かけがえのない仲間の一人に。
「分かりました。ナオシさんの為に私は一緒に歩みます」
「そうこなくっちゃ。一緒に、やっちゃろうぜ!」
そしてフェルトと俺、二人が合わされば誰にも負けない最強の戦士となった。
自分でも怖くなるくらいに……強すぎた。
だから誓う。絶対にこの力の使い方を誤ってはならないと。
――フェルト、安心してくれ。絶対に、お前を俺の一生を使って大切にする。絶対に不幸になんかさせやしない。そして、お前の力を善意を持って使うと誓おう。これが俺の戒めだ。