剣になれる銀髪美少女を助けた俺は何でも屋を始めることにしました   作:加藤あきら

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第9話『駆け抜けろ! そして飛べ!』

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 スキンヘッドの筋肉モリモリマッチョマンの作戦が上手く行き、俺は無事に荷物を届ける事に成功した。別に魔法を使った訳じゃない。いたって簡単なバカらしいトリックだ。

 

 できるだけ警察を引き離し、トンネルに入る。そこの入口は外からは死角となっていて中を見ることはできない。

 だからトンネルにあらかじめ用意してあった同じ車を別人に走らせ、俺はトンネルを走るトレーラーの中に隠れたってわけ。単純明快、それでもって効果は抜群だった。

 

 デコイとなったもう一台の白いスポーツカーが出来るだけ時間稼ぎをしてくれている間に、俺たちは街を脱出。こうやって目的地に着くことができたんだが……。

 

 

「で、やっぱりこういう結末になるわけ?」

 

「悪いが、これも仕事なんでな」

 

「仕事か。それなら仕方がない。でもさ、俺もここで死ぬわけにはいかないんだわ」

 

 

 ただ今ハンドガンが俺の頭に突きつけられている。

 街から離れた周りに何もない自然豊かな川沿い。ここに例のグレゴリーがやってくるそうだが、肝心のそいつがまだここに到着していない。

 とりあえずスキンヘッドのおっさんは麻薬を車から降ろし、そして俺は律儀にこの車の中で待っていた。そして銃を突き付けられちまった。

 彼も依頼された身であり、傭兵の彼としては仕事を完遂しなくてはならない。

 

 だが俺も、仕事を完遂しなくちゃならねぇんだよ。

 じゃねぇと、エリカを助ける事が出来なくなっちまう。

 

 

「お互い、仕事を任された身としてさ、少しだけ話をしないか?」

 

「その気はない。俺はお前を殺し、仕事を終わらせる」

 

 

 話し合う気ゼロかよ……。どうする? この状況は一体どうすれば正解なんだ? 俺はこんな危険な仕事をしたこともない。そもそもこめかみに拳銃を突き付けられるなんて体験生まれて初めてだ。

 

 初めて体験することに対応するなんて俺にできるわけがない。俺はあまり器用じゃない方だ。何度も何度も繰り返し、繰り返して体に染み込ませるタイプの俺は、急なアドリブに弱いんだよ。

 

 クソッ。俺は、ここまでなのか……?

 すまねぇ、エリカ。俺はお前とドライブしてやる事が出来ないかもしれない。

 

 

「!?」

 

 

 その瞬間――スキンヘッドの手が何かに貫かれた。

 それは緑色に輝く杭の様な形をしたもの。たまらず銃がその手から離れ、足元に落としてしまった。このチャンスを見逃さず、俺は車から脱出し逃げる。

 後ろからパンパンパンと乾いた音が聞こえたが、その銃弾は俺を貫く事はなかった。

 

 

「おいおいロディ。こんな状況に陥るとかマヌケにも程があるだろ」

 

「すまんなナオシ、助かったよ」

 

「き、貴様ら……」

 

「わりぃなおっさん。これも仕事だからさ」

 

 

 車の中から聞こえてくるスキンヘッドのおっさんに、俺は冷たく答える。

 これまでの窮地を助けてくれたのは間違いなく、このおっさんだ。このおっさんのおかげで、俺はここまでたどり付くことが出来た。

 しかし、これはあくまでILAの仕事だ。グレゴリーや13th(サーティンス)の依頼ではない。

 

 

「ナオシ、エリカは……?」

 

「……それが、監禁されてると思わしき場所にエリカちゃんがいなかったんだ」

 

「はぁ!? じゃあ、エリカは――」

 

 

 冗談じゃねぇぞ。

 何のために俺はお前にエリカを託したと思ってんだ。

 

 

「もちろんどこに行ったかを問いただしたさ。そしたら13th(サーティンス)の奴らが吐いた。グレゴリーが連れて行ったと」

 

「グレゴリーが!?」

 

「だから俺はダイナさんと共にここまで急いでやって来たんだ。お前が警察を巻くために同じ街をグルグル回っていたおかげで何とか追いつくことが出来たよ」

 

 

 そうか。そういうことか。悔しいが、グレゴリーの奴がエリカを連れて行った事で俺の命が助かったと言える。何だよコレ、何で俺はそんなもんで助かってんだよ。ダメだろそれじゃ、エリカに嫌な思いさせたことで助かったとか、シャレになんねぇよ。クソッ……!

 

 すると川の向こうからクルーザーが流れてきた。おそらくあれにグレゴリーが乗っているはずだ。俺とナオシは木の陰に隠れながら、奴が姿を現すのを待つ。

 そしてクルーザーが止まる。そこから現れたのは拳銃などで武装した奴らだった。

 

 

「やられた!」

 

 

 ナオシが思わずといった感じで叫んで、例の緑色に透き通っている剣を握りしめて飛び出して行った。

 

 完全に油断してた。

 

 だが、それは俺がどうこうできることじゃない。しかし、気を引き締めることくらいはできたはずだ。こんな、どうしていいか分からずに棒立ちすることは少なくともなかったはずだ。

 こうなってしまってはILAの武装隊が一斉に突入するしかない。

 銃弾が飛び交うここは、まるで戦場と化した。

 

 ナオシの野郎は戦う術を持っているが、俺にはない。

 外に出していた麻薬が奴らに奪われる。スムーズに仕事をこなしたグレゴリー側の奴らは、使い捨て上等とばかりにそこにとどまり続け、ILAを抑え込む。

 

 そのとき、俺は見ちまったんだ。

 例のグレゴリーらしき男と、エリカが一緒にいるところを。

 

 ふざけんじゃねぇぞ。もしかすると、エリカがあの汚らしい野郎に穢されるかもしれない。そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺の足は気づかない内に動き出していた。

 

 いま俺にできることはなんだ?

 

 俺は車の運転しかできない弱者だ。だけど、それが取り柄でもある。

 だったら、だったら、だったら! 俺はそれをするしかねぇだろう? 幸い、車は銃弾の嵐に巻き込まれてないんだから。

 

 

 

「ナオシ! 車に乗るから、俺を守ってくれ!」

「なんだって!?」

 

「いいから、頼んだぞ親友!」

 

「あぁ、任せとけよ!!」

 

 

 俺はナオシと共に必死に走り、トレーラーの中にある車に乗り込み、キーを回してエンジンをかける。

 車がトレーラーから飛び出す。当然、奴らは俺のこの車を止めるために何人かが車を撃ってくるが、ナオシの奴が不思議パワーを使って俺の事を守ってくれるから安心だ。

 

 クルーザーはすでに運転を再開して、川を下り始めている。

 だが、速度はこっちの方が上だ。追いつくのは容易なんだが、問題はどうやってアイツの船に乗り込むかだが……そんなの、方法はひとつしかねぇだろう。

 

 

「きっと、ナオシが隣に乗ってたら降ろせとかうるせぇんだろうな」

 

 

 何度かアイツを隣に乗せたことがあったけど、泣き叫びながらゲロ吐いてたっけ。

 後処理大変だったけど、面白かったから一度くらいは許してやったよ。二回目はさすがにキレたがな。

 

 ま、今は俺一人だから好き勝手やれる。

 覚悟しろよグレゴリー。今からお前を捕まえてやる。

 

 

「もっとだ。もっと! もっと速く!」

 

 

 シフトは5速。アクセルを床まで踏み込み、エンジンはレッドゾーン間際まで回ってる。最高速が出てる。減速なんかするもんか。俺は、アイツを、必ず捕まえる!

 

 

「飛べぇ!」

 

 

 おそらく川遊び用の飛び降り台だったのだろう。

 それに躊躇なく乗り上げ、車を飛ばす。綺麗な放物線を描きながら、吸いこまれる様にしてクルーザーへ飛び込んだ。

 

 次に襲ってきたのはとんでもない衝撃。エアバッグが作動して死に至るような衝撃を受ける事はなかったが、それでもとんでもない痛みが体中に走った。

 

 俺は悲鳴をあげる体に鞭を打つかのごとく、シートベルトを外して立ち上がる。助手席の足元に落ちていたあのスキンヘッドのモノらしき拳銃を手に取り、クルーザーの中へ侵入する。

 次に目に飛び込んできたのはこの現状に驚くばかりで身動きが取れなくなっているグレゴリーらしき男とエリカだった。

 

 

「こっちに来いエリカッ!」

 

 

 俺の顔を見るなり表情が明るくするエリカは、今にもすっ転びそうな勢いでこちらに駆けてくる。

 俺の胸に飛び込んできたエリカに、俺は優しくこう言ってやった。

 

 

「すぐ終わるから、とりあえず目と耳をふさいでろ。いいな?」

 

 

 無言で頷き、両手で耳を塞ぐエリカ。

 そして俺はガクガク震えているデブで汚らしいおっさんに拳銃を向ける。

 

 

「俺は、お前を、許すつもりはない」

 

 

 パンパン、と二回引き金を引いて音を鳴らす。

 その銃弾はグレゴリーの太ももを貫き、身動きが取れない状態にしてやった。

 ただ叫び声をあげるグレゴリー。

 

 

「くそぉ、くそぉ……」

 

 

 今にも泣き出しそうなグレゴリーを見て、俺は本気で嫌悪感を抱いた。普段は金だなんだと威張り散らし、人の上に立ち下の者を操る。

 そんな奴の、こんなにも情けない姿を見る羽目になるとは思わなかった。

 

 

「…………ふ」

 

 

 あ? なんだその笑みは。

 喚き散らしていたさっきまでと一転して、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべやがった。

 

 

「ッ……!?」

 

 

 唐突に後ろから気配がする。

 しかし、こういうのは振り向いたときにはもう遅いものだ。完全に失念していた。このクルーザーに乗っているのは何もグレゴリーひとりなわけがないだろう。

 それでも俺は振り向くしかない。それしか俺にできることは残っていないんだ。

 

 

「詰めが甘いんだよ」

 

 

 そんな言葉が聞こえた。正直肝が冷えるくらいにビビったが、すぐに冷静さを取り戻した。

 なぜならその声は、敵のものではない。聞き慣れた、男の声だったからだ。

 緑色の輝く綺麗な塵を撒き散らすその男は、ナオシ=サカイ。俺の最高の親友だ。

 

 

「ホント、最高だよ、お前は」

 

 

 ナオシが来てくれたからには、もう奴らが反撃するチャンスがないことを意味する。当然のように、ナオシの野郎が剣の力を使ってこのクルーザーを制圧したことにより、この事件は幕を閉じた。

 

 

  5

 

 

「なぁ、ナオシ」

 

 

 ILAの人たちがグレゴリーを確保した。俺は今ナオシとフェルト、二人一緒に、川のほとりで腰を落とし、ILAの人たちが事後処理を終えるのを待つだけ。

 そんな中、俺はひとつの疑問をぶつけるべく、ナオシに話しかけた。

 

 

「なんだよ?」

 

「俺ってさ、今回の事件、本当に必要だったのか?」

 

「どういう意味だよ」

 

「俺にできることは車の運転だけだ。だけど今回の事件は、別に俺の力は必要じゃなかったんじゃないかって、思うんだ。結局、お前の力に頼るしかなかったしな」

 

 

 そう、あまりにも情けなさ過ぎた。

 荷物を運び終わってからの俺は、本当なら何もできなかったんだ。あのスキンヘッドの男に撃ち殺されて終了だった。詰めが甘いばかりに、自分の命が危ぶまれる事態に陥った。たとえエリカが助かったとしても、俺が死んじまったら意味がないんだ。

 

 エリカは俺とドライブがしたいと言ってくれた。その願いを叶えるために俺はこうやってILAの協力に応じたんだ。成功と言える結果は、エリカを助け出して俺が生き残る事。それ以外は失敗だ。何をどうしたって成功にはならない。

 

 その事を理解できていなかったのか?

 

 理解できていなかったわけじゃない。考えもしなかっただけだ。

 エリカを助け出す事で頭がいっぱいで、お仕事が無事に終わったと勘違いして、これでエリカが助かると思って、油断して、力をを抜いて、そして殺されかけた。

 そして、エリカがグレゴリーに連れ去られるという事態に陥った事で、ナオシがその場に到着でき、俺の命が助かるといった喜べない展開になったんだ。

 

 これを情けないと言わず何と言う?

 

 

「いや、お前はこの作戦には必要だったよ」

 

「…………」

 

 

 そんな言葉を言われた。

 俺が望んでいた答えが返ってきたのに、素直に喜べないのはなぜだろうか。

 励まされているからか。それとも、心の底ではそんな言葉を俺は望んでいないんだろうか。もう、自分の感情が分からない。

 グルグルと俺の中を駆け回る色のない感情は、どんな色をしていいか分からないし、行き先も分からない。それがあまりにも気持ち悪くて、胃液がこみ上げてくる。

 

 

「――とでも言ったら、お前は救われるのか?」

 

 

 ナオシが聞いてくる。

 予想もしていなかった言葉に、心臓が跳ねた。

 

 

「その表情を見るに、それはお前が救われるような答えじゃないんだろうな。まぁたしかに、お前は例の荷物を運んだ。それは間違いなくお前が必要だったさ。だけど、問題はその後だよな」

 

「……ああ」

 

 

 やっぱり、分かっちまうか。

 

 

「お前は完全に気を抜いちまって、あの男に殺されかけた。俺が来なかったらどうなってたか分からない。これは紛れもない事実だよな?」

 

「……ああ」

 

「でもさ、過程がどうであれ、作戦が無事に成功した。これも間違いはないはずだぞ」

 

 そうか。いくら過程が上手くいってたとしても、最終的にエリカを助け出す事ができなかったら、俺が生き残ることが出来なかったら、たとえグレゴリーが捕まったとしてもそれは失敗に他ならない。

 だけども、今回はエリカが助かった。俺も生き残った。グレゴリーも捕まった。

 

 この結果を見れば大成功じゃないか。

 

 

「つまり、結果がすべてって事だろ? どんな道を通ったとしても、成功という名のゴール辿り着くことが出来ればそれは正しかったって事になる」

 

「俺は少なくともそう思ってる。だからさ、成功したんなら、それでよし。反省点があるならば次に生かせばいいんだ」

 

 

 次に生かす……か。ホント、その通りだよな。後ろばっか見ていても進展はしねぇんだ。前に進まなきゃ、進化はない。後ろにあった事を糧にして、成長し続ける事こそが、俺たち人間の責務なのかもしれない。

 それが生きていくことなのかもしれない。

 ここまで優しいだなんて、なんでナオシがドロップアウトしちまったのかが分からないな、何があったかは……俺にも教えてくれない。

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

 後ろからダイナの声が聞こえてくる。

 振り向けば、そこにはエリカの姿もあった。ダイナに手を繋がれながら、どうやらここまで来たらしい。

 

 

「ほら、いってらっしゃい」

 

 

 ダイナがエリカに優しくそう言うと、ダイナの手を放して転びそうな勢いでこちらに駆けてきた。その頭が、俺の胸元へとすっぽりと入った。ぐずぐずと泣き出し、そしてエリカは震えた声でしゃべりだした。

 

「ローにぃ……ありがとう。こわ、かったよぉぉぉぉ」

 

「おーおー、大丈夫だぞエリカ。もう危険はないからな、安心していいんだぞ」

 

「うん……うん……」

 

 

 泣き止む気配がまったくない。俺のシャツはエリカの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってる事だろう。だけど、それでエリカが安心できるならどうだっていいがな。

 それよりも、早いとこエリカには笑顔になって欲しい。

 

 

「よし! じゃ、俺と一緒にドライブしようかエリカ。お前、ずっと俺とドライブしたかったんだろう?」

 

「ふぇ……? い、いいの?」

 

「いいんだぞ。むしろ、今の今まで先延ばしにしてたことを謝りたいくらいなのに」

 

「う、うぅ……」

 

 

 でも今すぐにってわけにはいかないんだよなぁ……だって俺の車はここにはないし。俺としては、今すぐにでもエリカのご希望通りにドライブしたいんだが。

 

 

「ふふふ……そんな事もあろうかと!」

 

「は?」

 

 

 ナオシの野郎が意味深に笑う。

 目線をずらせばそこには、俺の愛車の『ファルカオ』があった。

 それは今回の仕事に使ったものじゃない。間違いなく俺のファルカオがそこにあった。まさか、どうやってここに……?

 

 

「お前の依頼はエリカちゃんを助け出してほしいってものだったからな。それには、エリカちゃんの願い事を叶える事も含まれてんだよなぁ、これが」

 

「ナオシの野郎……お前って奴は。最高だぜコンチクショウ!」

 

「さ、行って来い」

 

「言われなくとも! いくぞエリカ!」

 

「うん!」

 

 

 本当に最高だよナオシ。

 この借りは大きいからな。何をしたら返せるか分からんが、可能ならお前の仕事を手伝ってやるさ。俺にできることは車を運転する事くらいだが、それでもお前の手助けになるなら、俺は何だってやってやる。

 俺の幼馴染で親友だからな。

 

 

「よし! 出発だ!」

 

「しゅっぱーつ、しんこー!!」

 

 

 そして俺は何でも屋『ジェネシス』に身を置くことになる。

 俺は、お前への借りをいったいどれだけ返せただろうか。

 ナオシは貸しとは思ってなさそうだけど、それでも俺は、この恩を絶対に返すんだ。親友の名に懸けてな。

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