スマホ少女は空を舞う~AI独裁を打ち砕くお気楽少女の叛逆記~   作:月城 友麻

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52. 限りなくにぎやかな未来

「はい、この部屋よ? どうぞ……」

 

 タニアはピッ! と、カードキーをアンロックする。

 

「ここが……、今晩の部屋……?」

 

 瑛士は戸惑いながらも勧められるがままにそっとドアノブを回す。

 

 ガチャッ。

 

 重厚な金属音と共に扉が開いた。

 

 中は廊下となっている。いわゆるスイートルーム、相当に高価な部屋に違いない。

 

 気後れしている瑛士にタニアはニコッとうなずいた。

 

 瑛士は大きく息をつくとソロリソロリと中へと進む。

 

 正面の扉をそっと開けると、豪華な装飾が施された部屋が現れる。部屋の中央には、高級な革で覆われたソファーがあり、そこには男女二人がくつろいでいた。

 

「えっ……?」

 

 驚愕で目を見開く瑛士。

 

 なんと、それはパパだった。そして、その隣にいる若い女性は写真の中で見たママそっくりに見える。

 

「えっ!? パパ、ママぁ!」

 

 瑛士は駆け出した。失われたはずの両親。それがにこやかに瑛士を迎えている。それは、夢か現か、まさに奇跡のようだった。

 

 瑛士は二人に飛び込み、ギュッと抱きしめる。

 

 懐かしい匂いが瑛士の心を温かく包み込み、涙があふれ出た。

 

 おぉぉぉぉぉ!

 

 瑛士は、喜びと安堵の涙を流しながら慟哭した。必死に道を切り開き、何度も死を覚悟した先についにたどり着いた自分の原点。それは彼にとって、言葉では言い尽くせないほどの喜びの瞬間だった。

 

「瑛士、よく頑張ったな……」

 

 タニアから聞いていた薄氷を踏むような顛末を思い返しながら、パパは優しい顔でそっと瑛士の頭をなでた。その想像を絶する苦闘の連続の末に勝ち取った地球の未来。パパは想いを込めて立派になった瑛士をねぎらう。

 

 ママはいつの間にか息子が大樹のように堂々と立派に成長しているのを見て、涙が溢れた。どれだけの困難がこの二人に降りかかっていたのかピンと来ていなかったが、瑛士の激しい嗚咽から溢れる痛みと愛に、母の心は深く打たれる。

 

「ふふっ。後は私が適当に言っておくから家族水入らずでどうぞ」

 

 タニアはそう言うと静かに扉を閉めた。

 

 

        ◇

 

 

 ホテルの屋上にすぅっと転移したタニアは、宝石箱をひっくり返したような煌めきが広がる東京の街並みを見ていた。

 

 何の変哲もない十五歳の少年が宇宙を響かせ、未来を勝ち得て両親の愛に包まれていく。その様はタニアには眩しく映った。

 

 その時、タニアの指先が黄金色に輝く微粒子に分解されていくのに気がついた。

 

 え……?

 

 指先からフワフワと風にたなびきながら舞い上がっていく煌めく微粒子たち。すでに指の多くは消えてしまっている。

 

「あちゃー……。ちと、やりすぎちゃった……かな? まぁ……いいか……」

 

 タニアは諦観した面持ちで賛美歌を歌い始めた。煌びやかな東京の夜空に響き渡る澄み通る高音の歌声。それは少し物悲しい想いを乗せながら黄金の微粒子を震わせていく。

 

 腕が消え、足が消え、そして、歌声が……消えていった。

 

 舞い上がった黄金の微粒子はまるで雲のように渦を巻き、やがてモアイ像のような武骨で巨大な顔を形作っていく。

 

 東京の夜空に輝く巨大な顔。そして、その不気味な口がゆっくりと動き出す。

 

「Plus verborum(もっと言葉を!)」

 

 重低音の声が一帯に響き渡る。

 

 巨大な顔は満足そうに微笑むと、サラサラと風に吹かれながら壊れていった。

 

 

        ◇

 

 

 その晩、瑛士はパパとママとの時間を遅くまで楽しんだ。部屋は暖かい灯りで満たされ、ふわふわのクッションが散らばるソファに座り、家族の絆を深める。ずっと憧れていた両親との心温まる時間に浸りながら、瑛士はまるで幼い頃に戻ったように、無邪気に笑い、二人に心から甘えた。

 

 深夜になり、さすがに眠い瑛士はウトウトし始める。

 

「じゃあ、今日はもう寝るか?」

 

「うん、パパとママと一緒に寝たい!」

 

「あらまぁ、甘えんぼさんね。ふふふ」

 

 三人とも優しい笑顔で見つめあう。

 

 

 広大なキングサイズのベッドに、三人の姿が月明かりに照らされながら、川の字に寄り添って眠る。瑛士は、彼を取り囲むパパとママの愛に包まれ、心からの幸せの中、睡魔に堕ちていく……。

 

 明日からの瑛士の地球での復興作業、それはきっと苦難の連続になるだろう。だが、今の瑛士にはどんなことでも実現できる自信に満ち溢れていた。

 

 その日、東京にはまるで何かを祝うかのように流星雨が流れ、夜空を明るく照らし出したという。

 

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