妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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再会 Ⅰ

日はとうに沈みきり、雲の隙間から僅かに垣間見える満月が空高くにある。

慰霊祭も終わり、騒ぎ疲れた大部分の人は自らの家に帰っていた。

それでも騒ぎ足りない一部の人間のみが残る宴会場を傍目に俺は旅立ちの用意を済ませていた。

この町に来た時には持っていなかった大剣(鉄柱)を背負い、ボロボロになっていた幾つかの装備を更新する事もできた。

餞別だと言って貰ったものもたくさんある。

やった事より貰った物の方が遥かに大きい。

だから何時か落ち着く日が来たならば今度はその恩を返すために再び来よう、そう心に誓う。

遠くから酔っぱらい達の陽気な笑い声が聞こえる。

 

「……そう言えばカタントの時もこんな感じだったな」

 

ふと昔の事を思い出す。

初めて妖魔と出会い、殺した時の事だ。

その時は町を出ようとした時にジェシカに邪魔――助けて貰ったと言った方が正しいかも知れないが――されたのだ。

 

「まぁ、あんな事がそう何度も起きる訳ないな」

 

実際、放浪していた中で妖魔を打倒した事もある。

特に妖気を隠したりしていない時の事だったがそれでも当然何も起きなかった。

あの時と比べれば妖気の隠蔽だって遥かに上達している。

何も起きる訳がない。

そんな事を思いながら門へ向かって歩き出す。

既に別れを告げてある。

寂しくなるがカタントの時と違い一生の別れではない。

会いたくなればまた訪れればいい。

門へと歩みを進める。

 

一歩一歩踏みしめるように歩いていると黒い影が二つ近づいてくる。

セネルとカムリだ。

見送りに来てくれたのだ。

 

「行ってしまうのか?」

「ああ」

「お元気で、我が神の名において……いえ、やめておくべきでしょう。ただ旅の無事を祈る事にします」

 

カムリは俺に祝福をしようとして途中で辞め、個人として旅の無事を願ってくれる。

 

「ありがとう」

 

言葉少なにだが万感の思いを込めてそれだけを伝える。

そして再び旅立ちへと歩き出す。

セネルとカムリも付いてくる。会話はない、ただ共に歩く。

別れは既に確定している。

その事を全員が理解していた。

だからこそ共にある最後の時を噛み締めていた。

 

ほんの少し歩けば門が見えるぐらいまで来た時だった。

門の方から何か騒ぎが聞こえる。

 

「……すまん、どうやら仕事らしい、旅立ちの時に騒がせて悪い」

 

しかめっ面になったセネルがため息を一つ付いた後そう言い、騒ぎの現場へと向かう。

 

「いや、湿っぽいよりよっぽどいいさ」

「これもこちらの方がお似合いだという神の思し召しでしょうか?」

 

この後に何が待ち受けているのか等全く知らずに俺とカムリもセネルに続く。

せっかくだから手伝ってやろう、その程度の軽い気持ちだった。

 

 

門に到着した時、俺が目にしたのは人混みだった。

家に戻ろうとしていた人々が野次馬となり集まっているらしい。

何があるのか門の辺りをぐるりと野次馬が取り囲んでいるのだ。

その先では何か言い争いが聞こえてくるが野次馬のざわめきにかき消されてよく聞き取れない。

野次馬からも"何故?"とか"そんな……"とか"誰が……"と言った断片しか聞き取れない。

分かるのは野次馬が動揺している事、そしてそこに恐怖と困惑がある事だ。

何があるのか確認するために人混みを掻き分け奥へと進もうと試みる。

 

突然の事だった。

不意に人混みが開ける。

前に居た野次馬が何かを避けるように左右に分裂したのだ。

 

「……あっ」

 

そこに居たのは美しい銀髪と銀眼を持った少女だった。

女性と呼ぶにはまだ若く、女の子と言うには幼さを喪っている。

目の前に居たのはクレイモアだった。

それもこのクレイモアは見たことがある。

盗賊を支援していた組織を襲撃した時に出会ったクレイモアだ。

妖気を抑えているらしく、今まで気付くことができなかった。

どうやらいつの間にか気が緩んでいたらしい。

普段通りであればいくら妖気を隠している状態でもここまで接近してしまう事はなかった。

とは言え妖気を隠蔽する技術であればこちらも負けてはいない。

精々妖魔の匂いが濃い怪しい奴程度で済ませられる筈だ。

 

何か不思議な光を湛えた銀の瞳と目が会う。

――どこかで見た事がある?

目と目が会った瞬間そう思う。

何故か胸の奥から込み上げてくる物がある。

これは……懐か、しいのか?

 

「……レイ、お兄ちゃん」

 

クレイモアが俺の顔を見た途端思わずといった風に茫然と何か呟く。

うまく聞き取れなかった。

否、信じられなかった。

顔をまじまじと見つめ合う。

確かに面影が、ある。

 

「アリス、なのか……?」

「……レイお兄ちゃん、なのか?」

 

アリスが生きていた。

その事実をようやく受け入れる。

とは言えまだ受け入れただけで消化することはできていない。

 

アリスが生きていた事に対する歓喜

何故クレイモアにという困惑

あの時助けることのできなかった罪悪感

どうして生きているのかという疑問

 

様々な感情が心の中を渦巻く。

だが、最も強いのは生きていてくれたと言う感謝だった。

 

「アリス、なのか……生きていて、くれたのか……」

 

アリスは黙ってこちらを見ていた。

その瞳には何と言ったら良いのか分からない色が浮かんでいた。

だが、それを振り払うように首を振るとその背に背負った大剣を抜く。

野次馬達が悲鳴をあげる。

 

「……えっ?」

 

その事を事実として認識しても何を意味しているのか理解できない。

……理解したくなかった、という方が正しいかも知れない。

 

「依頼により妖魔討伐に来た、これより任務を遂行する」

 

アリスは静かに宣言する。

ようやく頭が現実に追いつく。

咄嗟に大剣(鉄柱)を掴む。

それよりも早かったのか遅かったのかアリスが地を蹴る。

一瞬で目前まで踏み込んでくる。

辛うじてアリスの大剣(クレイモア)を受ける。

鉄同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。

受ける事はできたが態勢が全く整っていなかったために無様に吹き飛ばされてしまう。

次の行動に繋げられない尻餅をついた態勢になってしまう。

アリスが大剣(クレイモア)を振り上げているのが見える。

 

――ああ、ここで死ぬのか

 

何故か素直にそう受け入れられた。

アリスに殺されるなら悪くない、そう思ったのかも知れない。

 

「待て!!この町での妖魔は既に俺とレイによって討伐されている!!」

 

セネルが俺とアリスの間に割って入り叫ぶ。

 

「うるさい!!邪魔だ、どけ!?私は、私は妖魔(・・)を斬殺しに来たんだ!!」

「……コイツは変わってなんかいない!!……アリスちゃん、なんだろ?だったら昔みたいに……」

 

俺は立ち上がりセネルを制す。

 

「俺達の問題だ……セネルは、町の人を遠ざけといてくれ、きっと危ない」

「だが!?」

「頼む」

「クッ……必ず生きて帰って来いよ!?」

 

セネルは俺を信じてくれたのだろう。

一度アリスと俺を見た後突然の戦闘に混乱している野次馬の避難を開始する。

アリスは、待っていてくれたらしい。

隙だらけだった筈なのに一歩も動いていない。

 

「……私にはどうしたら良いのか分からない」

「俺にだって分からないさ」

「なら、なら!私は!!任務を全うする!!」

 

そう叫びアリスが突っ込んでくる。

大剣で受ける。

今度は吹き飛ばされずに受けきる事ができる。

さらに袈裟懸け、左薙、右切り上げ、唐竹と次々と斬りかかって来る。

それらを何も言わずにただ受け続ける。

反撃もせずにひたすら受け続けるだけのレイに苛立ったのか段々と剣が感情的になっていく。

大きく振りかぶられた大剣は重くはあるが、避けることはたやすい。

だがそれでもひたすら受け続ける。

 

「何で!?」

 

アリスが叫ぶ。

何を意味しているのか判別できない叫び。

アリスはさらに激しく大剣をぶつけてくる。

そこには既に技工など何もなかった。

 

「何で助けてくれなかった!」

「何で居なかった!」

「何で……」

「何で、助けてくれなかったの……?」

 

魂からの叫び。

俺はようやく理解した。

あの時盗賊のボスの言うこと鵜呑みにしてアリスの生死を確認しなかった。

復讐と自分の都合だけで本当の意味でアリスを省みることはなかった。

その事を理解したのだ。

ならば俺にはどうする事もできない。

俺は確かに助けられなかったのだ。

だから俺にできる事など……

 

「……すまない」

 

ただ謝る事しかできない。

 

「何で!?」

「何で、変わってないのよ、私は一体何を恨めばいいの……?」

 

アリスは大剣を力無く下ろす。

 

「レイお兄ちゃん……」

 

まるで寄る辺をなくした子供のようなアリス。

 

「すまない、俺は何もしてやる事ができなかった……!」

 

大剣を取り落とす泣き崩れるアリス

 

「アリス……」

 

俺に一体何ができるだろうか?

否、アリスのために一体何をすべきなのだろうか?

分からない、それでも俺はアリスへと近づく。

 

「久しぶりね、レイ?」

 

突然、横合いから声を掛けられる。

その声は懐かしいモノだった。

僅かな時間ではあるとは言え共に旅をした。

様々な事を教えて貰った。

返しきれない恩があった。

 

「……ジェシカ」

 

いつから居たのだろうか?そこには二人のクレイモアを引き連れたジェシカが微笑を湛え立っていた。

”今日”と言う日はまだまだ終わらない。

事態はさらに混迷を深めてゆくのだった。

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