【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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元より間違っているナニカ

 キラとミーシャはレジスタンス……明けの砂漠のアジトに到着するとまず、MSでアークエンジェルの擬装を手伝うことになった。アークエンジェルの上部に乗り上げ、擬装幕を各所に巻き付けるのだ。

 

「ねえキラ、こんな布でごまかせるの?」

「これは電子的に誤魔化すから……レーダー探知はされなくなるけど、目視だと無理だと思う……そもそも、色がね」

「真っ白だもんね、アークエンジェル。カッコいいから好きだけど」

「はは……」

「キラはストライクのこと好き?」

「え? 僕は……」

「ほら、男の人って鉄砲とか、ロボットとか、好きでしょ? ルミナが……うん、ルミナが、言ってたから」

「……ミーシャ……」

 

 落ち込むミーシャに、何と声をかければいいのかわからないキラだったが、ミーシャはかぶりを振ると、気を取り直して雑談に戻った。

 

「で、どうなのさ?」

「僕は……デザインは好きかな。でも……でも、やっぱりこれは人殺しの道具だからさ」

「使い方だよ、何事も」

「……そうだね」

「そう言えば、キラはあのカガリって人と知り合いなの?」

 

 ミーシャが聞くと、キラは頷く。

 

「ヘリオポリスのモルゲンレーテにいて、逃げ遅れた子だったんだ」

「パパの職場に? なんであんな子が?」

「僕もよくわからないよ。でも、無事でよかった」

「そだね。いきなり殴ってくるような人だけど、死んでほしいまでは思わないし」

 

 擬装が終わると、ストライクとバスターを並べて待機させ、コクピットから降りる。

 

「はー、あっつい! でもここが地球! 久々ー」

「ミーシャは地球にいたの?」

 

 ミーシャは岩に腰掛けて水筒で水分補給しながら休憩し始める。ごくごくと水を飲むと、キラの質問に頷いた。

 

「うん。ちっちゃい頃はワシントンで暮らしてたんだって」

「……それでオーブに?」

「別に私オーブ国民じゃないよ? 一時的にオーブに許可貰ってヘリオポリスに住んでたはず。よく覚えてないけどね。国籍はまだ大西洋連邦にあるんだと思う」

「そっか……僕やみんなは、みんなオーブ国民だから。あ、フレイだけは別だけど」

「フレイが? へー。あ、そう言えばフレイのパパは地球軍の軍艦に乗ってたね」

「――うん」

 

 フレイの父を守れなかったことを思いだして、表情を暗くするキラ。そんなキラの手を握り、手の甲にキスをした。

 

「えっ」

「落ち込まないの。キラだけの罪じゃないでしょ? あのことはキラと、私と、二人の罪だよ。一緒に背負わせてよ」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 

 にっこりと笑って、ミーシャは自分の水筒をキラに渡す。

 

「はい、キラも飲まないと倒れちゃうよ?」

「え、これ……」

 

 ミーシャが口を付けた水筒をそのまま渡してきたことに、キラは戸惑う。しかし、当のミーシャはけろっとしていた。

 

「キスもその先までしたのにそんなこと気にするの? あはは、おっかしー! ほら、飲んじゃってよ、ホントに倒れちゃうよ?」

「……ごめん、ありがとう」

「ふふっ、変なキラ」

 

 ミーシャはキラが水筒に口を付けて中の水を飲む様子を慈しむような表情でじっと、じっと見つめていた。

 

「あ……あの人だ」

「あ……」

 

 岩場の向こうから、カガリがゆっくりと歩いてくる。ミーシャはキラの前に立つと、カガリを睨みつける。

 

「何?」

「う……。謝りに、来たんだ」

「――そっか」

 

 ミーシャはそれを聞くと、すっとキラの横に移動する。そんな二人の様子に複雑そうな顔をすると、キラの前まで歩く。

 

「……あのことは、悪かった。殴る気がなかった……とは、言わないが。弾みなんだ。その……許せ」

 

 ずいぶんとまぁ、上から目線の謝罪もあったものだ。だが、ミーシャも、キラも、彼女の申し訳なさそうな、照れくさそうなそんな表情を見て、咎めるどころか、その不器用な彼女をつい、許してしまう。

 

「……いいよ、カガリ。僕はもう気にしてないよ」

「そ、そうか! ありがとう。本当に悪かった。……気にしてたんだ。ずっと」

「え?」

「あの時お前は……私を避難船に押し込んで、一人残った。あの後……お前が、死んでしまったんじゃないかと、気が気でなかった。……どうしてたんだ?」

 

 カガリの質問に、キラは答えられない。事態は、説明するだけならあまりに単純だ。巻き込まれて、戦って、人を殺しながらここまで来たと。だが、それを言う勇気がキラにはなかった。

 

「いろいろ、あったんだよ」

「……」

「色々……本当に色々、あったんだ」

「……そうか」

 

 キラも、カガリも、お互い気まずそうにしていた。

 

――

 

 それからしばらくして、アークエンジェルの格納庫にキラとミーシャはいた。

 

「格納庫デートだね」

「はは……うん、そうだね」

 

 苦笑いするキラは、今ストライクの調整をしている最中だった。ミーシャはバスターのコクピットの整備をしていた。掃除機でコクピットシートの周りを吸わせている。

 

「ほんのちょっと開けてただけなのにかなり砂入り込んでるなぁ。キラのところはどう? やってあげようか?」

「え? ……これ終わったらバスターの調整するから、頼んでもいい?」

「うん、全然オッケー!」

 

 ミーシャはウキウキとした様子で掃除を続ける。彼氏であるキラの役に立てるのが嬉しくて仕方ないのだろう。その様子がわかるだけに、キラは初々しさに微笑ましくなる。

 

「……」

 

 それも束の間、キラの表情は次第に曇っていく。

 彼女は今笑っている。それは事実だ。楽しそうにしている。それも事実。

 だが、キラはミーシャを傷付けて取り返しのつかないことをしたと思っていた。

 彼女を欲望のままに貪ってしまった。言い訳はいくらでもできる。だが、手を出した事実は消えない。自分は彼女に消えない傷を付けて、歪めて、そして彼女の彼氏などと――。

 

「……僕は」

「なにー?」

「僕は……このままでいいのかな」

「世間的にはだめだと思うよー。でも、私はキラが彼氏だと嬉しい。ロリコンだと思われるなら……もう誰かに言うのはやめるけど」

「いや……いいよ、別に――」

 

 これ以上彼女に何を我慢させるのか。自分の評判は悪くなるだろうし、落ち着いて平和になったら捕まるだろう。でも、それでもよかった。それが自分には相応しい罰だと思った。ロリコンは刑務所で酷くいじめられて、あるいは殺されるらしい。……人殺しには相応しい最期だ。そう陰鬱な心で思う。

 

「こっちは終わった。ミーシャ、バスターの調整するね」

「私もー、キラのコクピット掃除するね」

 

 キラは罪悪感を覚えながらもミーシャを振り払うことができない。

 ミーシャは間違っていることは知っていても、誰かの大切な人になれたという甘美を失いたくない。

 二人の心は、本当に救われているといえるのか。

 

 ――

 

 作業が一通り終わると、すっかり夜になっていた。アークエンジェルの乗降口まで来て、レジスタンスのアジトで一息つこうとした二人だったが、岩場の向こうからフレイが来て足を止めた。

 

「あ、フレイ」

「ミーシャ! キラ!」

 

 フレイは二人のところに辿り着くと、さっとキラの後ろに隠れてしまった。ミーシャが不思議に思っていると、サイがフレイを追いかけてきていた。

 

「アーガイルさん、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも……! フレイ! どうして僕を避けるんだ! 確かに僕たちは親が決めただけの関係だ! でも、だからといってこんな一方的なのはあんまりじゃないか!」

 

 サイの言葉に、フレイは一瞬、傷付いたような表情をする。しかし、彼女はサイを睨むようにして叫んだ。

 

「関係ないわ……そんなこと!」

「関係ないって……」

「それに……私、昨日はキラの部屋にいたんだから!」

 

 サイが呆然とした表情になる。それから、困惑したようにキラを見る。

 

「……何言ってるんだよ。キラ、違うよな? だってお前は……ミーシャちゃんと付き合ってるんだろ? なんでフレイに手を出すんだよ!?」

「……え、アーガイルさんに、関係あるの?」

 

 ミーシャが思わず聞くと、サイはミーシャを睨みつけた。思わず、ミーシャもキラの後ろに下がる。

 

「僕はフレイの婚約者だ! 関係ないわけないだろ!!」

「え? ……そなの?」

「――親が決めたことよ」

 

 本当らしい。ミーシャは困惑で頭がいっぱいになる。

 

「キラ……! お前何考えてるんだよ! フレイに……僕の婚約者に手を出して! そんな小さい子に彼氏彼女だって言わせて!」

「――サイ、二人が怖がってるよ」

「キラ!」

「……君の言う通り……僕が悪い。僕が全部悪い。でも……でも、フレイは、僕を選んだんだ……それがすべてだと思う」

 

 キラは暗い顔をしたまま、フレイとミーシャの肩を抱いてアークエンジェルの中に戻ろうとする。

 このまま二人を部屋に連れ込んで何をするつもりなんだ。思わず、サイはキラの方に駆け寄って、その肩を掴んだ。キラはサイの手を払うと、手首を掴んで後ろ手に拘束した。サイの顔が苦痛に歪む。

 

「……やめてよね」

 

 キラの顔は、傷付けているのに、傷付いているように見えた。苦しそうで、辛そうで、それでもサイに向けた敵意だけは本物のように見える。

 

「僕とサイが本気で喧嘩して――僕に敵うはずないだろ?」

「――!」

「僕たちの方がずっと強いから、ずっと戦ってきて――僕たちがどんな気持ちで戦ってきたのか、誰も、気にしないくせに!」

 

 悲鳴のような叫びだった。キラはサイを突き飛ばすと、ミーシャと手をつなぎ、フレイの肩を抱く。

 

「……フレイは優しかった。ミーシャはずっとそばで戦ってくれた。二人共……僕の大切な人なんだ」

 

 キラはアークエンジェルの通路を進む。後ろからはサイの慟哭が聞こえる。声を殺して、キラは涙を流し続ける。

 

「……フレイ、ホントに良かったの?」

「いいのよ、ミーシャ。それとも、やっぱりミーシャはキラを独り占めしたい?」

「ち、違うよ。そういうつもりで言ったんじゃないの。でも……」

 

 フレイは歩きながら、ミーシャに微笑みかける。

 

「ミーシャは優しいね」

「え……?」

「本当のあなたはすごく優しいの。でも、これは仕方ないことなの。私が好きな人と一緒になるためには、サイを傷付けないといけないの――これは、そういうものなのよ」

 

 フレイの言葉に、ミーシャはわかったようなわからないような、そんな顔をした。

 

「今はわからなくても大丈夫。いつかわかるようになるわ。キラ、あなたも気にしないで……私が悪いの」

「違う、僕が、僕が悪いんだ……」

 

 ミーシャは二人から視線を外し、通路の床を見る。

一人の男を二人の女で共有する。……そこまで生々しい考えをミーシャが思ったわけではない。だが、ミーシャにはわかっていた。

 ――この関係、やっぱり間違ってる……んだろうなぁ。

年齢もそうだし、3人で、なんてのもそうだ。

 でも、辞めるなんてできない。大人になれるかなれないか、どころか明日生きてるかすら怪しいんだ。したいこと、できること、できる限りしてみたい。キラのことも好きだし。

 ――それに、キラも悦んでたし。

 

 そうミーシャは自分に言い訳すると、暗い顔をゆっくりと微笑みに変えていく。

 3人の関係は歪でぎこちなく、どこまでも間違っている。だが、キラとミーシャにとって、きっと救いであり、癒やしなのだ。

 

 そして、ミーシャがキラとフレイ、3人で川の字になって寝ていると、遠くで何か爆発のような音が聞こえた。

 

「――敵……?」

 

 眠い目を擦りながらミーシャは起き上がる。シーツがはだけて、幼い裸体が露わになる。眠りこけるキラを揺すって起こすと、立ち上がって服を着始める。同じように起きたキラもまた裸だった。

 

「警報鳴ってないし……大丈夫だとは思うけど、一応コクピット行っとこうよ」

「――うん、そうだね」

 

 ミーシャは服を着ると、まだ寝ぼけ眼のフレイに近づくと、そのほっぺたにキスをした。

 

「……ミーシャ……?」

「いってくるね。キラと一緒だから、アークエンジェルは大丈夫!」

 

 キラは服を着ると足早に格納庫へと向かっている。ミーシャも返事もまたずに駆け出した。残されたフレイはキスされた頬に手を当てると、ややあって、にやりと笑う。

 

「……ふふっ、バカな子……本当に、バカな子……! 利用されてるとも知らずに……。アハハ、ハハハッ!」

 

 フレイは頬をごしごしと拭いながら嘲笑う。

 その目からは涙が筋になって流れていた。声とは裏腹に、言葉とは裏腹に、フレイの表情は傷付いた人間の表情だった。

 

 ミーシャとキラがコクピットに座ると、キラはブリッジに通信を入れる。

 

「ミリアリア、状況は?」

「今フラガ少佐が確認に行ってるわ」

 

 ミリアリアが答えるのと同時期、ムウから通信が入った。

 

「嬢ちゃん、坊主、マズイことになった……」

「どうしたの? どっかの町が虐殺されたとか?」

 

 冗談めかしたミーシャの言葉に、ムウは苦い顔をする。不謹慎な事を言ったと、ミーシャは顔を青くする。

 

「ごめんなさい、ムウ。そんなつもりじゃ……」

「いや、大丈夫だ。近い状況ではあるけどな」

 

 ムウが言うと、通信を聞いていたラミアスが質問する。

 

「どういうことかしら? 報告してちょうだい」

「了解。街がザフトに焼かれたんだが、事前に避難勧告されていたらしく、人死には出ていない。怪我人が山ほどいるし物資も全部火にやられた。残ってるのは人間だけだ」

「……それほんとにザフトの仕業?」

 

 ミーシャが聞くと、ムウが不思議そうに聞き返す。

 

「どういう意味だ?」

「そのままの意味。ザフトが避難勧告? 攻撃の事前通告? そんなのするわけないよ」

「いや……優しいザフトもいるってことじゃないのかねぇ」

「いない」

 

 ミーシャは何も映していないような、虚ろな瞳で断言する。幼い感情のまま、彼女はザフトの全てを否定する。それは子供が持つにはあまりに淀んだ感情で……しかし、この戦争で、誰もが持っている偏見でもあった。多くが持っている憎悪だった。

 

「そんなのいない。いいザフトなんていないよ。……きっと、意地悪な狙いがあるんだと思うよ」

 

 

 その悪意に満ちた決めつけに、ムウは何も言う事はできなかった。諭すこともできる。だが、そういう『良い子ちゃん』な意見を受け入れるには、まだ早すぎるとムウは悟っていた。友達のルミナの乗る避難船が撃ち落とされてまだそう時が経っていない。きっとムウが同じ境遇になったとしても、同じような感情に支配されてしまうだろう。

 

「ま……否定はしないけどな」

「でも何が問題なの?」

「――それがなぁ。レジスタンスの連中、追いかけちまったんだよ、バクゥを」

 

 ムウの言葉に、ミーシャはきょとんとする。

 

「何が悪いの? 敵討ちでしょ? ……死んでないのか。まぁ、仕返しはしないとね」

「奴らの装備が武装したジープと手持ちのロケットだけだとしても、問題ないと思うか?」

 

 ミーシャはその言葉を理解することが一瞬できなかった。ミーシャの感覚ではそれはありえないことなのだ。なにせ砂漠のバクゥは強い。口では雑魚だのなんだと嘯いているが、内心は怖くて仕方ない。三機くらいにたかられたら、それこそ犬に腸貪られるみたいな絵面になって殺されてしまうだろう。それを、車と手持ちのロケットで戦う?

 

「そのロケットが超強いロケットとか?」

「それはないだろうな」

「死にに行くのと同じだ……!」

 

 キラが強い口調で非難する。その顔は悲痛に歪んでいた。

 

「ロケットでバクゥだって……? 百回やったって勝てっこない! 自殺とどう違うっていうんだ!」

 

 キラが苦々しげに吐き捨てると、思案した様子のラミアスが言う。

 

「ヤマト少尉、バレンタイン少尉、二人には救援にいってもらいたいの」

「救援って……バクゥ始末してこいってこと?」

「いいえ。レジスタンスの生存者がいれば助けてあげてほしいの。バクゥとの戦闘ももちろん考えられるわ。今回ばかりは危険を避けても――」

「ザフトが減らせるなら減らしといたほうがいいでしょ。わかったー。いこ、キラ」

「……うん」

「俺は偵察を続ける」

 

 ハッチが開き、真っ暗な空が見える。雲一つ見えない。

 

「ありがとうムウ。死体拾いにならないといいよね」

「それは俺もゴメンだな」

「――どちらにせよ、僕たちは戦うだけだ」

 

 キラの言葉に、ミーシャはにぱりと笑う。

 

「そうだね! さぁ、楽しい戦争の時間だよ! ミーシャ・バレンタイン、バスター、行ってきます!」

「……僕は……。キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」

 

 二機が発進し、ムウのいるポイントに進路を取る。暗い夜の砂漠に、赤い爆炎が見える場所がある。

 ――戦闘は近い。

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