【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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刹那の休息

 勝算はあったつもりだった。カガリは手にしたロケットランチャーを肩に構えながら悔しさに歯ぎしりする。

 6台の武装トラックで焼き討ちにきたバクゥに反転攻勢をかけると決めた時、アークエンジェルのクルーであるいけ好かない男……ムウと言い争った。危険だ、手加減してもらったんだと言う彼にカガリは畳み掛けたのだ。砂漠の虎なんて言われちゃいるが、卑怯な真似しかできない腰抜けだと。奴らは弾薬を使い切っているから勝機はあると。

 今になって思う。甘かったと。とんでもなく甘かったと。

 ロケットとミサイルで攻撃を加えて、敵が反応してしばらく。撃ってこない様子を見てカガリはほくそ笑んだ。やはり弾薬はない。勝てる。そう思った。調子付いて次から次へとロケットとお見舞いしてやる。バクゥが1機、足をやられて行動不能になった。このままなら――そう思ったところで、バクゥが味方のトラックに向けて足を振り下ろした。

 

 それだけで、味方のトラックはぺしゃんこになって爆発した。それはもう呆気なく吹き飛んでバラバラになった。まるでおもちゃみたいに潰されて、コメディみたいに人が死ぬ。

 

「……え」

 

 呆然とその様子を見つめる。そして、ようやく気づく。

 自分たちを殺すのに、弾などいらないということに。

 

「――クソッ、キサカ!」

「わかっています!」

 

 回避に集中し、バクゥから距離を取りつつ、ロケットランチャーを撃っていく。さっきからかなりの数を当てているというのに、全く堪えた様子がない。火力が足りない。

 まるでコバエを振り払うかのようにバクゥが足を動かすと、バクゥの足に当たったトラックがバラバラになって横転する。……戦友があっけなく死んだ。

 

「アフメド! アフメド! ちくしょう!」

 

 撤退すらままならない。万事休すか、そう思われた時、遥か彼方から緑色の閃光が飛んできて、バクゥのコクピットを正確に撃ち抜いた。

 

「あれは……あの子が乗ってた……」

 

 ミーシャの乗るバスターが遠くに見える。まるで人間と同サイズに見えるほどの遠距離だ。カガリはジープの上で立ち尽くす。

 バスターに援護されながら、エールストライクが戦闘地域に突っ込んでくる。

 

「あ、悪魔だ……! 魔弾だ! 嫌だ、殺される!」

「ストライクも……! なんでだよ! なんでこんな蟻共と魔弾が繋がってるんだよ!?」

 

 バクゥは背部に搭載されたミサイルの殆どをバスターに向けて射出した。ストライクは狙いがわかっていたかのようにイーゲルシュテルンで迎撃し、残ったミサイルはバスターがあっさり散弾砲で撃墜した。エールストライクはバクゥに向けて加速すると、すれ違い様にビームサーベルでバクゥを真っ二つにした。

 

「――強い……」

 

 いや、強すぎるように見える。カガリの目には二機が鬼神か何かのように見えた。バスターのとんでもなく正確な射撃。その射撃に守られながら前線で大暴れするエールストライク。バクゥの攻撃が当たらないわけではない。だがフェイズシフト装甲に守られている二機に、目立ったダメージは与えられない。ハイレベルな操縦に、凄まじい戦術。2対3という不利な状況でも臆することなく戦う度胸。不利なのに圧倒するその実力。

 

「……ありゃ無理だな。ちょっと数が多いくらいじゃ手も足も出ん」

 

 遠くで離脱している最中のバルトフェルトは苦い顔をして言った。噂より遥かに強い。そして前回よりも強くなっている。冷静かつ的確で、気がついたら撃ち落とされる。怖がる兵が出るのも納得である。

 味方が瞬く間に二機も減った残りのバクゥは転身して撤退。蜘蛛の子を散らすように逃げていった。レジスタンスの車両が動きを止め、下りてくる二機を恐々とした様子で見守っていた。もし、もしあの二機がこっちを攻撃してきたら抵抗の余地なく殺される。

 怯えすら含む視線の中、ストライクからパイロットが降りてきた。バスターはストライクの横につけて、武器を構えたまま周囲を警戒している。――もちろん警戒している対象にレジスタンスも含まれているのだろうことは、機体の角度からなんとなくわかる。

 

「お前……」

 

 カガリはキラに駆け寄る。大勝したというのにキラの表情は暗く、まるで自分が許されざる罪を犯したかのような顔をしていた。

 

「――なんでこんな無駄なことを」

「無駄? ――無駄と言ったのか!」

 

 キラの言葉に、カガリは一瞬で頭に血を上らせてキラに掴みかかった。

 

「お前――! みんな必死に戦ったんだぞ! 勝つために! 必死に戦ったのに、なんでそんな言い草を――」

 

 パン、と。

 

 鋭い痛みと共に、頬を張られたことに気付いた。

 

「戦った……? これが君達の言う戦いなの……? 何発撃っても塗装剥がすくらいしかできないくせに……!」

「なっ」

「思いだけで――気持ちだけで一体何が守れるっていうんだ!」

 

 キラの悲痛な叫びに、カガリは呆然とすることしかできなかった。気まずい雰囲気を破るように幼い声がバスターの外部スピーカーから聞こえてきた。

 

 「……それで? 大人しく帰るなら護衛くらいしてあげるけどさ、まだ追うつもりなら……遺言と、あと家族に渡したい遺品預かってあげるくらいはするけど……どうする?」

「我々は帰還する。――恥を忍んで、護衛をお願いしたい」

 

 しばらく返答はなかった。キラが無言で踵を返し、ストライクのコクピットに乗り込んだあたりで、バスターから返答があった。

 

「いいってさー。助けたのに帰り道で死なれたら寝覚め悪いしね」

 

 その、まるでか弱い存在を守るかのような言葉に、レジスタンスの戦士たちは、モビルスーツにとって自分たちがどのような存在なのか、嫌でも理解させられたのだった。

 

 アークエンジェルに帰還して、一夜過ぎて。ミーシャ達パイロットはブリッジで今後の予定を話し合っていた。

 

「……私なんで参加するの? 人殺ししかできないんだけど……」

「ヤマト少尉、バレンタイン少尉はこの艦における上級者の一人だ。この艦の行動決定の場では参加する権利と義務が発生する」

 

 ナタルの杓子定規的な言葉に、ミーシャはクスリと笑って頷いた。そうそうこれこれ、と彼女は「いつもの感覚」を楽しむ。

 

「そういうことなら、参加しないとね」

「うん……」

 

 対するキラは顔が暗い。寝不足だろうか。昨日からコクピットで寝泊まりを始めた彼は、何もないというのに追い詰められた表情をしている。もちろんラミアスとムウ、ナタルがそんなキラに気付いていないわけがない。ワケがないが……事は非常にデリケートな問題なのだ。

 ――ミーシャとキラ、さらにフレイとの関係はブリッジにいるほぼ全員に知れ渡っている。狭い艦の中だ、噂が広まるのは早い。

 問題はいくつもある。ミーシャとキラの年齢と、それからフレイとサイを交えた三角関係、さらにさらにもっというならハーレム状態となっている3人、とまともな常識から判断すれば山のように問題が積み上がっている。だが――今は全て棚上げだ。

 

「――物資が足りないわ」

 

 ラミアスが言う。

 

「補給、ハルバートンさんから受けたんじゃなかったっけ?」

「レジスタンスにかなりの支援をしたのが原因ね。彼らとの関係維持のために、必要な投資だったと思っているわ」

「ま、そりゃそうだ。俺達がこうしてのんびりおしゃべりできるのも、彼らのおかげ、ってな」

 

 ムウは飄々とした様子で言った。結局のところアークエンジェルはアジトに間借りさせてもらったりクルー達の休息場所を用意してもらったりと、かなりの融通を利かせてもらっている。ここで物資の出し惜しみをしては、友好関係にヒビが入るだろう。

 

「補給ってことですか? ――でもそんなのどうやって」

「あなた達にお願いがあるの」

「私達に?」

 

 ラミアスは艦長席に置いてあるクリップボードを手に取ると、キラに渡した。ミーシャが背を伸ばしてそれを見る。

 

「買い物リスト……?」

「ええ。今からバナディーヤという街にレジスタンスと一緒に買い出しに行ってほしいの」

 

 ミーシャはしばらくリストを眺める。お土産やら、珍しい料理やら、数は一つか二つ、種類はざっと見ても20は超えないだろう。これだと補給というよりおつかいだ。

 

「これ……ホントに補給?」

「もちろん。別ルートで武器類の補給は受けるわ。それとは別に、市場に行かなければ手に入らない物もある。二人にはそれの調達に行ってほしいの」

 

 ミーシャはキラの顔を見る。それから、街での買い物に思いを馳せる。みるみる笑顔になると、キラの手を引いてぴょんぴょん嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「よし、行こ! デートだね!」

「ああ、うん、そうだね」

 

 気のない返事をするキラに、ミーシャは少し不満げな顔をする。だが、それを口にすることはなく、ラミアスに向かって敬礼した。

 

「ラミアス艦長、私とキラは物資調達に行ってきます!」

「――全く。そういうときはだな、バレンタイン少尉」

 

 ナタルは苦笑しつつ、ミーシャにこういうときの儀礼を教えた。ミーシャは再びラミアスに向き直ると、今度は少し見栄えが良くなった敬礼をしたあと、大きな声でいった。

 

「ラミアス少佐! バレンタイン少尉以下2名、戦時物資調達の任に付き、行動を開始します!」

「許可します」

 

 ラミアスが答礼と共に許可を出すと、ミーシャはキラを引っ張ってブリッジから出ていった。子供二人がいなくなったブリッジで、大人たちはそろってため息を付いた。

 

「――坊主は見ての通りだが……嬢ちゃんもヤバめだな」

「ええ。あの子は明るく元気に見えるから見逃してたわ。――10歳で戦うなんて無茶を、私達が許したからよ」

 

 ――ミーシャ達の問題が棚上げになったのは、ひとえに彼らの精神が酷く危ういバランスで成り立っているからに他ならない。

 彼らは戦争に巻き込まれてから得た物は何一つなく、ただただ失っていくばかり。軍人としての給料すらまだ受け取っていないのだ。それなのに人を殺して心を削り、友を殺されて正気を削り、果ての見えない行程は余裕を削る。大人だって、戦場に放り込まれるまでに長い訓練と段階を踏む。そうしなければならないと規定されている。そうしなければ心を病むからだ。そして、年齢の規定があるのもまた、同様の理由だ。その二つの規定をぶっちぎって戦争をしている二人の心は急速に荒み、壊れ、狂い、その果ての爛れた関係である。むしろ性的な問題だけで済んでいるだけマシとすら言える。自分が艦を守っているという自意識を肥大化させて見るに耐えないほど傲慢になって横柄に振る舞うとか……最悪のパターンはいくらでも考えられる。

 今の二人は、傍目には崩れかけのジェンガを思わせるほど不安定に見える。しかし、アークエンジェルとしては二人に戦ってもらうしかない。戦ってもらわなければ死ぬからだ。

 故に、ただ、黙認する。

 

「――私、アークエンジェルの艦長になってからずっと、軍人って何かって思い続けてるわ」

「情けないもんだな、俺達」

「――しかし、我々は進まねばなりません」

 

 ナタルは表情を強張らせながら言う。もはや、あの小さな子供は実力だけなら一端である。いや……エースパイロットだと言えるだろう。

 もはやここでアークエンジェルが墜ちるわけにはいかないのだ。たとえクルー全員が地獄に堕ちることになったとしても、この船のために費やされた犠牲を無駄にはできないのだから。

 

「……こういうとき、どうすれば気晴らしになるのかしら」

「――うーん、そうだなぁ」

 

 ムウはちらりと、ラミアスの豊満な胸に視線を向ける。

 

「――まぁ、俺なりのやり方はもう実践してるみたいだからな。俺から言うことはねぇよ」

「……はぁ。困ったものね……」

 

 じとっとした目をラミアスはムウに向ける。――ムウほどの大人になれば、こうしてちょっとしたやり取りや休息で精神もだいぶ持ち直す。

 同じことを10歳や16歳の子供に求めるのは酷だ。

 

「――このお使いが気晴らしになればいいのだけど」

 

 ラミアスはディスプレイの向こうで砂埃を上げながら走るジープを見ながらそう呟いた。

 

「……そうだな。バジルール中尉、俺達も買い物行こうぜ」

「ハッ!」

 

 買い物。というよりは本来の補給。大量に必要になる弾薬や物資を闇商人を経由して手に入れるのだ。かなりの金がかかるが、アークエンジェルにはアークエンジェル専用の予算というものがある。サイフの元の持ち主は大西洋連邦のため、信用もある。取引は上手くいくだろう。

 だからこそ、ラミアスは街に出かけた二人が心配だった。

 

 ――

 

 バナディーヤはザフトの支配下にあると言う割には栄えた街だった。ミーシャはジープを降りると顔をキョロキョロさせてキラの手を引いて歩く。

 

「なんか、普通の街だね。街頭に人が吊られてるとか思ってた」

「僕はそこまでは思ってなかったけど、みんな暗い顔してるものだと思ってた」

「――ふん。あいつらに都合がいいヤツしかここにはいられないのさ」

 

 レジスタンスの案内役、カガリは吐き捨てるように言った。レジスタンスの頭目、サイードに言われてここまで来たが、なんでこの二人の案内をしなければならないのかわからなかった。実態はキラとミーシャと同じように、サイードから気晴らしにと抜擢された人選なのだが、カガリは気付かない。

 

「とりあえず、おつかい終わらせよっか。全部回ったらお昼ご飯かな?」

「そうだね。まずは……」

「お洋服だね」

 

 キラとミーシャは手を繋いで並んで歩き出す。その自然な姿に、カガリは面食らう。

 ――カガリはごく普通の乙女である。故に、幼い子ども相手に彼氏彼女だとのたまうキラのことがかなり苦手だった。優しい顔をしているくせに、こんな小さな子供を弄んでいるなんて酷いやつだと思っている。

 ――だが、同時に……そういう評価を覆すほどに優しいとも思えるのだ。ひたすらに、戸惑う。

 

「なぁ、昼飯なんだが、行きつけに案内するぞ」

 

 買い物が終わって。

 カガリはよくわからない二人をよく知ろうと行きつけのケバブ屋に連れて行くことにした。注文してしばらくして、ドネルケバブがミーシャ達のテーブルに運ばれてくる。

 

「へー。これが。カガリの好物? おいしそう!」

「ああ。それにしてもこのフレイってやつの注文は無理だぞ? 化粧水やら乳液やら……ここにあるわけないだろ!」

「フレイ、おしゃれさんだもんね。髪とかすっごいいい匂いするし」

「――そうだね」

「……まったく、アークエンジェルのヤツは何考えてんのか全然わからん! おい、ミーシャ。これはチリソースで食べると旨いぞ、ほら!」

 

 そう言ってミーシャのケバブにチリソースをかけようとした時、3人の後ろから野太い男の声がかかった。サングラスと帽子を被り、素性を隠した男。怪しい男だったが、敵意はないように見える。

 

「チリソース!? そりゃ良くない。ケバブにはヨーグルトソース。これが一番」

 

そう言って白い容器を手に取る男。ミーシャのケバブにヨーグルトソースをかけると、ぐっとサムズアップした。

 

「あーっ! 何やってる!」

「幼子を冒涜の運命から救っただけさ! どうだい、お嬢さん」

 

 ミーシャは不審な顔をしながらパクリとケバブにかぶりつく。

 

「ん、おいし。辛いの苦手だからちょうどよかった」

「そうかそうか! 食い物の好みが合うとは奇遇だな! 少年もどうだね?」

 

 その不審な男は実に軽薄そうな雰囲気を醸し出したまま、ヨーグルトソースを掴み、キラのケバブにかける。

 

「おまえー! またやったな!? キラ、チリソースも美味いぞ!」

 

 カガリも赤いソースをケバブにかけると、キラのケバブは赤と白のソースで山盛りになってしまった。

 

「二人共食べ物で遊ばないの!」

「おっと、ソレは悪かったな、お嬢さん」

「……謝るよ。すまん」

 

 キラはなんでもないように首を振ると、ソースでいっぱいになった自分のケバブを一口食べる。

 

「――うん、ミックスも美味しい」

「……ははは! 君は気の良い少年だな! 君も上品なお嬢さんだ!」

 

 笑いながら、男はキラの肩を叩く。その時、マシンガンを持った男がミーシャの視界に入った。

 

「武器!」

 

 ミーシャが叫ぶ前には、キラの直ぐ側にいた男が行動していた。テーブルをド派手に倒すと、銃撃の盾にした。キラはミーシャを抱きかかえると、テーブルの後ろに隠れて射線から庇う。

 

「キラ! 離して! ……戦わなきゃ! ザフトに殺される!」

「大丈夫……! 僕が守るから!」

 

 マシンガンの掃射が続く中、男は腰からピストルを引き抜くと、応戦を始めた。

 

「……え?」

「ザフトじゃない。アレは私のお客さんだな」

「死ね! 砂漠の虎! 青き清浄なる世界のために!」

「――パパのスローガン」

 

 ミーシャは愕然とする。なぜ父親がパーティで友達とよく言っていたスローガンを叫びながら殺しに来るのだろう。ミーシャの思考は直ぐ側を掠めた銃弾に中断される。恐怖がミーシャを支配する。キラの身体にしがみついて、ガタガタと震えだす。

 

「キラ……死なないで……! 神様、お願い、死ぬなら私が死ぬから――!」

 

 怯えて震えるミーシャを強く抱きしめると、キラは近くに落ちてきた拳銃を拾う。死角から銃を持った男が殺意を顔に漲らせてやってきた。誰を狙っているか、キラにはわからなかった。だから、銃を構える。

 

「――僕は……僕は――!」

 

 躊躇ったら腕の中のミーシャが死ぬ。隣のカガリが死ぬ。初めてだというのに拳銃の照準はピタリと、敵を狙っていた。

 

 引き金を引いて、撃発。乾いた銃声が響き、照準の先にいた男が糸を切ったあやつり人形のように倒れた。もう二度と動かない。動けない。

 キラは初めての人殺しに震える。生身で人を撃った。倒れた敵の頭から血が止めどなく流れている。だが彼はそれを気にする様子もない……もう死んでいるのだ。ミーシャはそんなキラをじっと、見上げていた。グッと涙を拭うと、キラの手から拳銃を奪う。銃撃戦の真っ只中、テーブルから上半身を出すと、ざっと状況を確認する。敵は数人。敵は全員応戦しているサングラスの男に集中していて、子供のミーシャが頭を出しても気にしてる様子もなかった。

 気取られないうちにサッと敵の頭に狙いを付けて、射撃。何度か引き金を引く。引き金を引く度、人が死ぬ。モビルスーツでやったように、そして――そして、ヘリオポリスで父の仇に対してやったように、人を撃つ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 銃声が聞こえなくなって、サングラスをかけた男の味方だろう人間が駆け寄ってくるのを見ながら、ミーシャは荒い息を吐く。拳銃を放り出すと、呆然としているキラの隣に座り込んで、緊張で冷たくなっている手を握る。視界は涙でいっぱいだった。怖くて気持ち悪くて、罪悪感でどうにかなりそうだった。流れ弾で死んだ人たちが見える。どうしようもなく死が溢れている。死を振りまいたうちの一つに自分がいるだなんて、信じたくなかった。でも、ミーシャは涙ながらにもキラに微笑んだ。同じように苦しみ、同じような痛みを共有する恋人を、励ますように。

 

「キラが人を殺すなら、私も殺すよ。一緒に、戦う。どんなに怖くても、どんなに辛くても、キラと一緒」

 

 キラが呆然と頷くと、サングラスをかけた男がやってきて、サングラスと帽子を取って素顔を現した。

 

「俺のお客さんが迷惑かけたな。どうだい少年少女。お詫びと言ってはなんだが、一つお呼ばれしてくれないか? ……お嬢さん方の様子も、気になるしな」

 

 カガリはチリソースを思いっきり被ってしまったし、ミーシャはぐすぐすと泣いている。落ち着けるなら落ち着いておきたかった。

 

「……アンドリュー・バルトフェルト」

 

 カガリが呆然とつぶやいた。

 脅威も危機もまだ、去ってなどいなかった。




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