【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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戦争の終わりは如何に

 ミーシャは手の中の拳銃を虚ろな目で見つめながら、シャワーを浴びるカガリを守っていた。あれから敵将であるアンドリュー・バルトフェルトに連れられて彼の邸宅に招待された3人は、まずカガリがシャワーに誘われた。護衛だと言って、ミーシャもついていくことにした。拾った拳銃を取り上げられると思ったミーシャだが、レディの護衛に武器は必要だろう? と言われ、武装を許された。

 広いバスルーム……ここまで広いと浴場だ。シャワーを浴びるカガリと、拳銃だけ持って裸のミーシャ。カガリは居心地悪そうにしている。

 

「……じっと見られたら恥ずかしいんだが」

「別に。私フレイ以外の女の子に興味ないし」

「……お前キラとその、恋人なんじゃないのか」

 

 ミーシャは暗い表情のまま、浴場の入口を見張る。本来なら他人にこんな事言うべきではないことはわかっている。だが、カガリはこの砂漠から離れるときにはお別れなのだ。なら、別にいいだろう。行きずりみたいなものだ。

 

「キラともそうだけど、フレイともそうだよ」

「フレイ……あの赤い髪のヤツか?」

 

 ミーシャは頷く。

 

「二人共好きなのか?」

「別に。キラだけ。フレイとは身体だけ」

「うえっ!?」

 

 嘘だろ? カガリは思わず身体を洗う手を止めてミーシャを見た。か、身体だけの関係!? こんな小さな子供が!? カガリの思考は半ばパニックになる。

 

「お、お前フレイとそんな関係なのか?」

「――成り行きで?」

「成り行き!? お前もっと自分を大切にしろよ!」

 

 カガリは思わず怒鳴るようにして叱ってしまう。ピク、とミーシャはカガリの瞳を見返す。その伽藍洞な瞳に、カガリは怯えて後ずさる。

 

「……暖かくて優しかったんだもん」

 

 ミーシャは言い訳するように、視線を逸らして独白する。それは誰にも吐露したことのなかった内心だった。

 

「――」

「冷たくて真っ暗な宇宙で、次々人が死んでいってさ。山ほど人を殺して……。心まで凍りついていく感覚がして……慣れちゃうのが怖くて。人を殺してもなんとも思わなくなっていく私が、心底気持ち悪くてさ」

 

 人を殺しても辛い、なんて思ってたのも最初のうちだけで、地球に降りてからはチクリとも心が傷まない。ただただ死の恐怖だけが溢れていく。死後の安寧が得られないと、自分は地獄に堕ちるのだと信じているからこその恐怖だった。

 

「――どうにかなりそうだったときに……キラにキスしてもらって、フレイに触ってもらって、舐めてもらって……キラのを受けて止めて……ホッとしたの」

 

 どう反応したらいいのかカガリにはわからなかった。カガリはまだ乙女で、まだ誰のことも知らない。そして、何よりカガリは自分で望んで銃を手に取った。カガリは喉を鳴らす。

 

「……みんな、私が傷付けられたって言うの」

「それは」

「キラにね、傷付けられたって、みんなが言うの」

 

 みんな、気を遣ってミーシャの前であからさまに噂をすることはない。だが、通路の曲がり角の先で、扉の出入り口前で、聞こえてしまうことがある。

 キラは、欲に任せてミーシャを傷付けていると。虐待していると。

 ……ミーシャの気持ちを利用していると。

 

「私は、キラに救われたのに。一緒に戦ってくれる人がいるだけでどんなに救われるか。キラと私はおんなじ痛みを知ってるんだよ。おんなじ苦しみを知ってるの。なら、おんなじ気持ちよさを感じたっていいじゃんか。おんなじようにあったかい気持ちになったっていいじゃん。……それにさ、カガリ」

「な、なんだよ」

「人殺すのがよくて、えっちなことするのはダメなの? えっちなことは人を殺すより悪いことなの?」

 

 カガリは何も言えない。

 

「私、大気圏でジンのブースターを撃ったよ。その人、機体のパワーが足りなくて母艦に帰れなくて燃え尽きたよ。きっと燃え尽きて死ぬ瞬間までずっと怖かったと思う。物凄い絶望だったと思う。そんな残酷な殺し方するより悪いことなの?

 

 なんでみんな、人を殺すなって言わないのに、好きな人とえっちするなって言うの?」

 

 カガリはシャワーを止めた。うつむいて、肩を震わせる。なんと声をかければいいのかわからない。ただ、悲しかった。

 

「……カガリ?」

「――お前は、悪くない。この戦争が、全部悪いんだ」

「……それは、そうだけど」

 

 カガリはミーシャを見つめる。

 

「……もう上がろう。お前も裸で寒いだろう」

 

 カガリは誤魔化すようにして言った。

 気の利いたことも、慰めも、何も言えなかった。無力な自分が、悔しかった。

 

 ――

 

 ミーシャとカガリはバルトフェルトのいる部屋に通された。カガリはお姫様が着るようなドレスを着せられて、ミーシャも少し大人っぽいドレスを着させれていた。

 

「カガリ……君、女の子」

「なんだと!?」

 

 キラのあんまりな評価に、カガリは思わず怒鳴る。がっと大股を開いて詰め寄る姿は、おしとやかとは程遠い。

 

「なんだねって言おうとしただけなんだけど」

「一緒だろうが!」

「ごめんね。……ミーシャ、似合ってる、と思う」

「そこは断言してよ……。もう」

 

 ミーシャはしょうがないなぁ、という様子で言った。そんな若いやりとりを、バルトフェルトはコーヒーを飲みながら眺めていた。

 

「……とりあえず、座って話をしようじゃないか」

 

 席を勧められ、カガリが端に座り、キラは真ん中に、ミーシャはキラの手を握り、隣に座った。バルトフェルトも対面のソファに座ると、三人にコーヒーを勧めた。

 

「コーヒーは好きかね?」

「……いただこう」

「いただきます」

 

 ミーシャ、カガリは恐る恐るマグカップを手にする。マグカップ越しでも、ほんのり暖かい。

 

「二人とも、ドレスが似合っているよ」

「別に、お前に褒められてもうれしくない」

 

 カガリがつっけんどんな対応をすると、バルトフェルトは何が楽しいのかくすりとほほ笑みを浮かべた。

 

「そうかね」

「お前、本当にあの砂漠の虎なのか?」

「証明するつもりはないがね。だったらどうする?」

「お前、どういうつもりなんだ。人を殺さず、町を焼いたりして……」

 

 カガリが聞くと、バルトフェルトはコーヒーを啜る。

 

「町ごと人を焼くのは、可哀そうだろう?」

「何?」

「時に、少年、嬢ちゃん。君たちはどう思うかね」

 

 話を振られて、ミーシャはぎゅっと、キラの手を握っている手の力を強めた。

 

「どう、とは?」

 

 キラが聞き返すと、バルトフェルトはじっとキラの目を見た。

 

「この戦争……どうやったら終わると思う?」

「どう、やったら?」

「――歴史の教科書には、お互い戦える力がなくなったり、人が死に過ぎたりしたら、終わるって書いてあったよ」

 

 ミーシャが答えると、バルトフェルトは呵々大笑した。ミーシャはバカにされたように感じて、むっとなる。

 

「いやぁ、悪い悪い。あの『魔弾の悪魔』からそんな回答が出てくるとは思わなくてね」

「魔弾の悪魔?」

「君の仇名みたいなものさ。君に狙われたら逃げられない、どうか自分への一撃が七発目でありますように、ってね」

 

 七発目? ミーシャは首をかしげる。ただ、魔弾という単語は割と気に入った。

 

「それにしても……教科書か。教科書とはね。いやぁ、そうだね、でもその教科書に書いてある戦争は、きっと昔の戦争のことさ」

「どういうこと?」

「性質が違うのさ、きっとな」

「ナチュラルとコーディネーター、ということですか」

 

 キラが聞くと、バルトフェルトは頷いた。

 

「そうとも。種族間闘争において、戦争に終わりはないのではないか……そう俺は思う。この戦争は、金が尽きても人が尽きてもなお続き、敵である者全て滅ぼすまで終わらないのではないか、と……。君はどう思うかね、ストライクのパイロット君」

 

 キラはハッとなる。バレている。キラは立ち上がって、バルトフェルトからミーシャを庇うようにして移動する。

 

「ここで殺すつもりはない。君たちと話がしたかったんだ」

「話……敵と話すことなんてないよ」

 

 ミーシャが言うと、バルトフェルトは視線を自分のマグカップに落とす。

 

「君、死んだ方がマシ、と思ったことはあるかね」

「あるよ」

「ほう」

「デュエルにルミナを撃ち落とされたとき、ルミナが死ぬくらいなら自分が死んだ方がマシだって思った」

「なるほどな」

「ザフトって、そこんとこどうなってるのさ?」

「どう、とは?」

 

 つい、ミーシャは偉い人っぽいバルトフェルトに聞いてしまった。

 

「ザフトは民間人しか乗ってない非武装のシャトル撃ち落としてもいいの?」

「――それは虐殺だろう」

「実際にルミナは、撃ち落とされた」

 

 バルトフェルトは苦々しい顔になった。どう答えるべきか、心底悩む。ザフトにおいて、民間人の虐殺に関する規定は、やってはいけないとはなっている。なってはいるが、戦闘中であればうやむや、なあなあにしているのが現状である。町を焼いた件だって、バルトフェルトでなければ警告なしに町を攻撃していたに違いない。ザフトとはそういう、軍組織として未熟な部分があるのは事実だった。

 ――だがそれを目の前の幼子に言えるかどうか。

 

「軍規上、やってはいけないことになっている」

「……そっか」

「だから俺も、町に警告を出した」

 

 誤魔化すように、バルトフェルトは言う。――やりにくい。戦場の真っただ中に幼子がいるというのはこれほどにやり辛くなるものなのか。バルトフェルトはそれでも、試すようにミーシャに聞く。

 

「君はたくさんのザフト兵を殺してきただろう? 君を恨んでる人もたくさんいるが……そのことについてどう思う?」

「別に。殺し合いなんだから……いつかそうなることはあると思う。いつか、殺される日は来ると思う。……できれば、痛めつけられるのは嫌だけど。――ああ、地獄の予行演習だと思えば、耐えれるかな」

「地獄?」

 

 バルトフェルトは今日日聞かなくなった概念に興味を示した。

 

「死んだら地獄に行くと……あの世があると思っているのかい?」

「ないと思ってるの?」

 

 ミーシャが逆に、きょとんとして聞いた。バルトフェルトは暖炉の上に飾ってある化石のようなクジラの標本を視線で指した。ミーシャが見ると、あ、という顔をした。

 

「宇宙クジラ? 教科書で見た」

「エビデンス01……この世界から宗教の力を激減させた元凶だ。と言っても、それだけが原因ではないがね」

「……このクジラが?」

 

 ミーシャは助けを求めるようにキラを見上げた。キラはミーシャの方を見て、ちらちらとバルトフェルトの方を警戒しながらも答えた。

 

「これは、世界最初のコーディネーター、ジョージ・グレンが持ち帰った化石で……地球以外にも生命が存在する証拠なんだ」

「それが、どうして宗教がなくなっちゃう原因になるの?」

「――神様は、人を特別なものとして作った、って言われてた。でも、この宇宙には地球以外にも生命が存在することで……人は、特別なものじゃないって証明されたんだよ」

「ん……そうなの?」

 

 キラがうなずくが、ミーシャは納得がいかないようだった。ミーシャの感覚は本当に子供っぽく、大人のように込み入っていない。漠然と、物凄い存在として神をイメージしており、死んだら天国か地獄に行く。大雑把に言えばそういうものだ。

 

「他にも理由はある。コーディネーターに対しての意見を集められなかったり、インフルエンザを『神の鉄槌』などと言ったり……まぁ、迷走した結果さ。――少しお嬢さんには難しかったかな。……これは宗教を終わらせただけではなく、我々に新たな欲望を抱かせたのさ。まだ、我々はどこまでもいける、と」

「……別の惑星に移住するってこと?」

「それも含んで、だな」

 

 バルトフェルトはキラをじっと見た。いまだに彼はいざというときはミーシャを守ろうとピリピリしている。本来なら銃で脅かして本音を引き出したかったところだが……こんな様子の二人を前にしてみればわかる。銃を取り出してしまっては話どころではなくなるだろう。やれやれとバルトフェルトは首を振った。

 

「君のガールフレンドを怖がらせるつもりはない。だが……君の意見は聞いてみたいな。戦争は……この戦争は絶滅戦争だと思うかな?」

 

 キラの脳裏には、ザフトで今も戦っているであろうアスランの顔が浮かんでいた。そして、ザフトに返したラクスの顔も浮かんでいた。

 

「……いいえ。この戦争はいつか、終わります」

「そうかね」

「はい。僕たちはきっといつか、銃を向け合わなくて済むようになるはずです」

「……若いな」

 

 バルトフェルトは悲し気に言った。この二人は実にいい。理性的で、そして世界の理性を信じている。だが……。

 彼は仮面を付けて、一度も素顔も本音も聞いたことがないザフトの白服の男を思い出す。今はまだ何も尻尾を出していない。だがバルトフェルトは感じていた。彼には並々ならぬ憎悪があると。

 

「よーいドンで始まってゴールテープを切ったら終わり……戦争にそんなルールはない。戦争の最終判断は、総司令官が請け負い、もっと言うなら政治家たちがするものだ。終わりも、始まりも」

「……」

 

 カガリが苦い顔をする。戦争が起こるのは政治家のせいだと突き付けられたような感じがしたからだった。

 

「では、その政治家たちに戦争を終わらせる気がなかったとしたら……戦争は果たして終わるのかな? 敵であるものすべてを滅ぼさないと終わらないのではないかな?」

 

 キラとミーシャ、カガリは顔を曇らせて何も答えなかった。終わるわけがない。戦えと命令されて拒否できる軍人はいない。だからこそ……もし、両方のトップが絶滅戦争を望んでいたら、本当はそうではなくてもそうなってしまう。

 

「――もう、コーヒーも冷めてしまったな。送ろう。町の入り口まででいいかな?」

 

 バルトフェルトは部屋の出入り口を指して言った。三人に拒否する理由はなかった。

 

 ――

 

 アークエンジェルに帰った二人は、ずいぶんと遅くなった事情をラミアスに報告すると、かなり心配されてしまった。そして、サイがストライクを勝手に動かして、営巣入りになっていることを聞かされた。

 

「え、アーガイルさんが……」

「サイが」

 

 キラが顔を曇らせる。サイ・アーガイル。キラの友達……だった人。もはやもう友人には戻れないだろう。何せ彼の婚約者を……寝取ってしまったのだから。

 

「――それよりも、今後の予定を共有するわね。我々はレジスタンスの案内で付近の廃工場を通り、紅海へ抜け、そこから海路を通って太平洋に向かいます」

 

 付近の地図を表示され、アークエンジェルの予定を聞かされてミーシャは頷く。土地の名前もあやふやだが、ミーシャがやらなければならないことは決まっている。

 

「その間に邪魔してくる敵を殺せばいいんだよね?」

「ええ。予想されている敵は、砂漠の虎の部隊よ」

「……バルトフェルト」

 

 ミーシャは苦い顔をする。その表情の変化を感じたラミアスは、ミーシャに聞いた。

 

「どうかしたのかしら?」

「ん、いや、大丈夫」

「大丈夫には見えないわ。何かあるなら相談してほしいわ。きっと力になれると思うわ」

「……顔も知ってて、話もした人を殺すのは初めてだなって……」

 

 ラミアスはミーシャの不安に傷ついた表情をした。思わずキラの方を見るが、キラもミーシャと同じような懸念をしているようだった。

 ……ラミアスだって、もしそうなら辛いだろう。だがやってもらわないと困る。しかしそれを子供たちにやってもらうのも……ぐるぐると思考を巡らせているうちに、ミーシャはキラの苦しそうな表情を見てしまった。ミーシャは慌てて微笑みの表情を作る。

 

「私が殺すよ、キラ。――私、人殺し、好きだし」

 

 にっこりと笑って、ミーシャは言った。キラの手を握って、その手の甲に唇を落とす。そんなミーシャに、キラの内心はざわつく。嘘だというのはわかってる。でも無暗に悪ぶるその言い方が……。キラにとって、心がざわめいてしまう原因になっているのだ。

 ――わざわざ口に出さなくても辛いのに。苦しいのに。なんでミーシャは人殺しであることを強調するんだろう。

 もしかして、強調しないともう……ミーシャにとって戦争は……。

 悩んで落ち込むキラに、ミーシャは続けて言う。

 

「だから、キラは雑魚をお願い」

「……ミーシャ、バルトフェルトさんとは僕が戦う」

「でも」

 

 キラはきっぱり言った。なんと言われてもこの役割をミーシャに譲る気はなかった。知っている人を撃つなんて経験、ミーシャにさせるわけにはいかない。

 

「僕が戦わなきゃいけないんだ。そんな気がする」

「でも」

 

 キラはラミアスをじっと見る。

 

「ラミアス艦長。僕が砂漠の虎と戦います。ミーシャはアークエンジェルの護衛を」

「……許可します。バレンタイン少尉は戦闘中アークエンジェルの護衛に努めるように」

「……はーい」

 

 ミーシャは不満げに言った。

 

「二人は戦闘が始まるまで休憩しておいて」

「了解」

「はい」

 

 二人は敬礼して、ブリッジを後にした。そのまま二人は休憩室に足を運ぶと、そこにはムウが軽食を採っていた。サンドイッチをほおばりながら、よ、っと手を挙げてあいさつする。

 

「ムウ、元気? こっちは命拾いしたよ」

「みたいだな。敵んとこ連れ去られてよく生きて帰ってきた」

「生きた心地しなかったよほんと」

 

 ミーシャは差し出されたサンドイッチを受け取ると、お礼を言って口につける。そばにある備え付けのコーヒーメーカーから紙コップを出してコーヒーを入れると、グイっと飲む。

 

「はー、生き返る。怖かったね、キラ」

「う、うん」

 

 のびのびとしながらバルトフェルトとの会談について語るミーシャに、キラは面食らう。あの時ミーシャは普通にしていたように見えたのに。全く気付かなかった。

 

「で、どんな話したんだ?」

「なんか戦争がどう終わるのかとか宇宙クジラがどうとか宗教がどうとか……()()()()()()()()延々聞かれた」

 

 キラは衝撃を受ける。キラにとってあの話は大事な話だった。敵の考えてることを、今参加している戦争の終着点など、大事な話題だった。だがミーシャにとってはそうではない。ミーシャにとってあの会話は殺されないためのものであり、敵を刺激しないようにするためのものであり……内容など真実どうでもよかったのだ。その差に、どうしようもない違いを感じてしまう。

 

「正直機体のスペックとか聞かれたらどうしようかと思ってた。答えなかったら拷問されるのかなって」

 

 ミーシャにとってあの場は、どこまでも敵地でしかなかったのだ。あと数日したら会話の内容すら覚えていないのかもしれない。恐怖と緊張が彼女の大多数を占めていて、キラのように考える暇がなかったのだ。

 

「そうなったら答えちまえよ。別に、お前が知ってる情報で大事なものなんてほとんどねぇよ」

「よかったー! ありがとうムウ」

「ああ。どうした坊主?」

 

 和気藹々と話すムウとミーシャに対して、キラは終始表情が暗かった。ミーシャには理由が推察できる。

 

「やっぱり、バルトフェルト殺るの代ろうか?」

「ううん。そうじゃないんだ。僕、君の気持ち全然わかってあげられなくて……情けないんだ」

「えー? そりゃあの場じゃ隠すよ! 敵のど真ん中でビクビク怯えるわけにはいかないもんね」

「うん、そうだね」

「キラはバルトフェルト倒せそう? 強いと思うよ、ああいう人」

「……それでも僕らは、倒さなきゃいけない」

「ま、そうだね」

 

 ミーシャはコーヒーをまた飲むと、にっこりと笑った。

 

「うん、これがコーヒーだよね」

「バルトフェルトさんのコーヒー、おいしくなかった?」

「おいしいおいしくない以前に、味感じてる暇なんてなくてさ。味覚なくなったんじゃないかってびっくりしたよ」

 

 けらけら笑うミーシャだったが、ムウもキラも心配そうだった。

 

「今は大丈夫! さあキラ、ちょっとだけ部屋で寝よう! 敵が来るまでにたっぷり休んどかなきゃ!」

「え、でも」

 

 ミーシャはキラの手を引いて休憩室から出ようとする。

 

「じゃあね、ムウさんもゆっくり休んでね!」

「ああ。嬢ちゃんもしっかり休めよ。……ホントに休めよ?」

 

 キラとミーシャを見送って、ムウはため息を吐いた。……また、子供たちが戦場に出る。そのストレスをお互いの身体で慰め合って、ギリギリの状態で戦い続ける。それを強制する自分に、嫌気がさす。

 

 ……どんな風に思っていたとしても、戦いのときはやってくる。




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