【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
コクピットで待機していると、オーブ艦隊が領海ギリギリまで護衛してくれることを知ったミーシャ。不思議そうな顔をして、キラに聞く。
「オーブってなんでここまでしてくれるんだろ?」
「さあ……? カガリをここまで守ったし、OSの開発も手伝ったから、かな?」
「それにしたって手厚いと思うよ?」
ミーシャはコクピットの中に足を投げ出すようにしてくつろいでいた。リクライニングがないためとても窮屈な感じだが、そもそもこのコクピットはミーシャにとって大きいのだ。スペースにはかなり余裕がある。
「……アスランたちと戦うんだよね」
「うん」
「私はデュエルを殺す。必ず殺す」
「ミーシャ、復讐は……」
「わかってる。目を曇らせたりしない。でも、撃てるなら撃つ。殺せるなら殺す」
ミーシャは自分で言いながら、なんて冷たい人間なんだろうと自己嫌悪する。復讐ってもっと心が燃え上がるものじゃないのか。復讐ってもっと平静を欠く物じゃないのか。もっともっと心の底から憎悪が沸き上がってくるものなんじゃないのか。
なんで一回失敗したくらいでスッと頭が冷静になって心も落ち着いてしまうんだろう。復讐できるチャンスなのに、どうして。
――やっぱり私、人でなしなのかな。最初から。だってママのことも……。
自分が無感情な戦闘マシーンになったような錯覚を覚えて、つい自分の手のひらを見てしまう。見た目だけはキレイで、物理的に血に汚れたことは一度もない手。――だが、無数の人の血に汚れてる。
……ふと、封印していた記憶の蓋が少し開く。
赤だ。ピンク色も見える。人の形に赤とピンク色が撒き散らされている。その人形のナニカはピクピクと痙攣して、まるで手招きするように、いや、助けを求めるように手のような部分をミーシャに向けて……。
急に溢れた記憶のカケラを首を振って振り払うと、気分を変えてキラに話しかける。
「キラはカガリのこと好きなの?」
「――彼女は、明るいから」
「まあ、そうだね。カガリも戦ってたのに、私達みたいになってないし……やっぱり自分で銃を取って人を殺したっていうのが違うのかな?」
「……そうかもね」
キラはカガリの煌めくような金髪を思い出していた。彼女の優し気な、それでいて活発な瞳も。彼女はもう大丈夫。何せ彼女は元国家元首の娘だ。たとえオーブが戦場になったとしても最高の護衛と共に最優先で避難できる。
「……それにしてもさ、オーブってお偉いさんの娘さんがアフリカでザフト相手にレジスタンスやってもいいのかな?」
「え――」
確かに、思い返してみればそれは相当ヤバいことのような気がする。これが大西洋連邦の要人の娘ならそこまで問題にならないかもしれないが、カガリはオーブの人間だ。中立で、他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の侵略に介入しない、という理念を掲げる国なのだ。……やはりヤバい気がする。
「ミーシャ、何があっても絶対に、誰にもカガリがレジスタンスになってたことを言っちゃだめだからね」
「はーい。カガリの立場が悪くなったら可哀そうだもんね」
幸いミーシャはリスクをわかってくれた。キラがほっと息を吐くと、アークエンジェルの警報が鳴った。オーブの領海を出て、ザフトが襲撃に来たらしい。
「……来たね」
「うん」
ミーシャはわずかに震える身体を押さえつけるようにして力を込めてレバーを握る。大丈夫。もうバスターは直った。傷も完治した。戦える。ブリッジから通信が来た。通信を繋ぐと、ミリアリアの顔が映った。
「キラ、ミーシャ、敵が来てるわ! Gタイプたちよ!」
「――わかった。行って戦ってくる。ミーシャ・バレンタイン。バスター、行ってきます!」
「もうこれ以上誰も……傷つけさせない。キラ・ヤマト。ランチャーストライク、行きます!」
「もうやられるわけにはいかんでしょ! ムウ・ラ・フラガ。スカイグラスパー、出るぞ!」
三機が出撃した後、もう一機のスカイグラスパーがカタパルトにセットされる。乗り込んでいるのはトールだった。
「トール……死んじゃダメだよ」
ミリアリアが心配そうに言った。
「ああ。ミーシャちゃんみたいな小さい子でも戦えるんだ。俺だって! トール・ケーニヒ、スカイグラスパー、行きまーす!」
カタパルトから凄まじいGを感じながら外に飛び出すと、もう戦闘は始まっていた。電源コネクタを接続したストライクがアグニを次から次へと射撃している。同じようにアークエンジェルの上に陣取っているミーシャのバスターが射撃してこようとする敵を目ざとく見つけると、ビームを撃って回避を強いる。エール装備のスカイグラスパーを駆るムウは、この戦場で最も優れた推力を生かして敵を翻弄し、ちまちまとダメージを与えている。敵はグゥルに乗ったイージス、ブリッツ、デュエル、狙撃タイプのジンの4機のみ。だが、その4機が何よりも強くしぶとい。
「え……ケーニヒさん!? 戦う気!?」
「許可はもらってるよ! 俺だって戦える!」
「――死んだらダメだからね!」
「わかってる!」
トールは戦闘空域の遥か上を飛び回る。ややあって、アークエンジェルが煙幕を張った。アークエンジェル周辺の視界がゼロになるが、トールのスカイグラスパーからの情報を得てキラとミーシャは問題なく戦える。
「――こんな中でも、敵がわかる! そこ!」
煙幕を切って走るビームが、デュエルの脚を貫いた。そこからさらにイージスのグゥルを撃ちぬいた。
「やった! イージスを押さえた!」
「ありがとうミーシャ!」
キラはランチャーストライカーパックをパージする。
「フラガ大尉!」
「わかった! 宅配便だぜ、坊主!」
ムウも同じようにエールストライカーパックをパージすると、その場から退避する。シールドとライフルを追加でパージすると、そのまま上昇を続けて安全を確保する。
キラは空中でエールストライクへと換装すると、ブースターをふかして空を飛ぶブリッツに肉薄する。ブリッツはビームライフルで迎撃しようとする。しかし、出力の低いブリッツのライフルはストライクのシールドの前には無力だった。飛び上がった体勢のままストライクは膝蹴りでブリッツのコクピットを攻撃。衝撃でひるんだところをビームサーベルで両断しようとする。ギリギリで回避され、ブリッツの右腕を切断するに留まった。だが、グゥルからは叩き落した。さらに有利になった。持ち主のいなくなったグゥルは、次の瞬間にはミーシャに撃ち落とされていた。
――今なら。
「トール! ストライカーパックを!」
キラはエールストライカーパックをパージするとトールに呼びかける。
「う、うん!」
トールは訓練でやった動作を必死に思い出しながらソードストライカーパックをパージ。武装が少なくなって怯える心が命ずるがままに上空へ上がった。
「よくやった、トールの坊主」
「は、はい」
ムウに褒められて照れるトール。眼下ではキラ達が終始有利に戦闘を進めている。ミーシャとジンはビームを撃ち合っていて、キラはソードストライクのメイン武装である対艦刀、シュゲルトゲベールを構え、アスランに突っ込む。
――アスランを討つ。もうこれ以上……やらせない!
キラの脳裏にはイージスの一撃でエンジン部を航行不能なほどに撃破する光景と、ラクスを逃がそうとするとき、イージスに対して怯えを見せるミーシャの姿が映っていた。
――今、ここで、アスランを討つ。討たないと。討つんだ!
キラはストライクを走らせる。
「援護するよ!」
ミーシャの援護射撃がイージスに飛んでくる。飛び上がろうとすれば即座に射抜かれるであろう牽制射撃に、イージスは思ったような移動ができない。イージスはキラの斬撃をギリギリまで引き付けて回避する心積もりらしい。キラはストライクの身の丈ほどもある巨大な実体剣を横に構える。
キラの意識がどんどん戦闘に適応していく。感情を排したように、ただ敵を殺すことだけを考える。その『敵』が、大切な幼馴染の、アスランであることすら忘れたように――
――その時、満身創痍のブリッツが駆け出してきた。ギリギリまでミラージュコロイドで隠れていたらしい。残った左腕にランサーダートを持って、ストライクの方に突っ込んでくる。
「アスラン! 逃げて!」
……その声は広域通信で、キラとミーシャにも聞こえる通信周波数だった。意識が朦朧としているニコルが、操作を誤ったのだ。キラはその声を聴いても、ただ煩わしく思うだけだった。隙だらけに見える。キラは戦闘本能に自分の全てを任せて、戦う。アスランに向かっていたストライクをブリッツの方へと方向転換すると、ランサーダートをしゃがんで躱し、すれ違いざまに胴体を切り裂いた。コクピットど真ん中にビーム刃が入り込む。
「ニコル!!!」
そのアスランの絶叫で、キラは正気に戻った。思わず操縦を止めてしまう。
「あ……あす……らん……」
ニコルはビームで下半身を焼かれながら、今際の言葉を残す。もはや痛みすら感じなかった。熱いはずなのに、痛いはずなのに。怖いはずなのに、心は穏やかだった。
「僕の……ピアノ……」
ピアノ。アスランはその続きを聞きたかった。もっと声を聴きたかった。ピアノをどうすればいい。誰かに渡すのか。もらってもいいのか。あるいは、処分するのか。お願いだ。続きを言ってくれ。
「……」
ニコルは続きを話すことができなかった。コクピット内で事切れたあと、ブリッツが爆発した。
「ニコルゥゥゥウウウ!」
アスランの叫びが、キラの耳にこびりつく。イージスがキラを見た。戦おうとした瞬間、ミーシャのビームが二者の間に撃ち込まれる。イージスが足を止めると、アークエンジェルを見上げる。
「キラ! 戻って! もう逃げれる!」
「……わかった!」
キラはイージスに……アスランに何かを言おうとして、やめた。アークエンジェルに帰投するまでミーシャが護衛し、アークエンジェルはザフトの襲撃を凌いだのだった。
――格納庫はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。何せ散々苦しめられてきたGタイプの機体を撃破したのだ。コクピットから降りたキラは、喜色に満ちた格納庫を見回して苦い顔をする。最初は、キラに激励しようとする整備兵もいたのだ。だが、先のミーシャとのやり取りを見て、思い直したのだった。――キラは、そういうことをされて喜ぶ人ではないのだと。
ミーシャも同じようにバスターから降りてほう、と一息ついた。格納庫から足早に去ろうとするキラを追いかけ、駆け寄る。
「キラ」
「ミーシャ……」
また、何か言うのか。そう思ってキラが振り返ると、そこには顔を俯かせるミーシャの姿があった。
「……最期の言葉、初めて聞いた」
人が死ぬ最後の瞬間。パパはなんと言っていたか。ママはなんと言っていたか。覚えているはずなのに、知っているはずなのに、ミーシャは思い出せなかった。深い深い記憶の奥底に埋没させて、関連した記憶すら曖昧にしていた。
「――僕もだ」
「あんなこと、言うんだね」
「……」
ピアノ。ニコルという人にとってそんなに大事だったのだろうか。キラは陰鬱な気持ちのまま思考を続ける。
アスランとは仲が良かったんだろうか。ニコルという人に親はいるんだろうか。……ニコルの親にとって、自分は息子の仇なのか。そんな、考えてもしょうがないことをずっと考え続ける。
「……多分また追ってくると思う」
「僕も……僕もそう思う」
アスランならきっと、追ってくるはずだ。――自分を殺しに。
仇を討ちに。
もう、戻れないところまで来てしまった。
「――キラ、泣いてるよ」
「……僕は……殺したくなんか、なかった」
「うん」
それでも、戦いになったら体が動く。動かさなきゃ、死んでしまう。アークエンジェルが墜ちてしまう。たくさんの人が死んで、自分の友達がみんな死ぬ。だから動く。だから殺す。それが辛くて、苦しい。
「ミーシャは、もう……」
「――ごめんね、キラ。私は……断末魔聞いたのは、辛かったけど。殺すこと自体は、なんとも」
「……そっか」
どっちが正しいんだろう。キラはわからなくなった。いつまで経っても戦場と殺人に慣れない自分なのか、それとも、さっさと慣れてしまったミーシャなのか。どっちが――
「私……コクピットで待機してるからさ。少し、休んできなよ。フレイを抱いて……そうすれば、きっと気分もよくなるよ」
「別れたよ」
キラはきっぱりと言った。オーブでフレイとは別れた。こんなこともう辞めようと、突き放したのだ。元々、フレイはサイの婚約者で、フレイもサイのことが好きだった。
「君とは間違ってた。でも、フレイとも……間違ってたんだ」
「……じゃあ誰がキラを慰めるのさ」
「慰めなんていらない。僕は……僕は苦しまないと」
「そんなの……そんなの、地獄じゃん」
慰めもなく、救いも癒やしもなく、ただ戦って、ただ傷つく。戦場に出る度心をヤスリがけされるかのように摩耗させて、どんな慰めも振り払って。壊れてもおかしくなっても、死ぬまで戦い続ける。
「――別に、それでいい」
暗く沈んだ表情のまま、キラは自分の部屋に向かう。
「キラ! この世界は……私達が生きてるこの世界は地獄なんかじゃないんだよ!?」
「……僕に救いなんていらない」
そもそもが間違っていたのだ。キラはミーシャを置いて、歩き出す。
フレイのぬくもりを、ミーシャの暖かさを知って救われて、癒やされてしまった。――それが間違いなのだ。
救われるべきではなかった。癒やされるべきではなかった。
人を殺して、戦争に出て、婚約者のいる人間や、幼い少女と関係を持って。そんな人間が救いなど――烏滸がましい。
「キラ……」
傷つき、壊れそうになっているキラに、ミーシャは何も声をかけることができなかった。キラの傷の一つに、自分がいるのだから。
それからそう時を置かず、再度の警報。ミーシャは落ち着いて通信をブリッジと繋ぐ。
「こちらミーシャ。準備オッケーだよ。楽な戦場だね」
ミーシャは言う。なにせブリッツは倒し、デュエルも脚を撃った。出てくるのはイージスとジンだけだ。もうすぐでアラスカも近いらしい。
――決着の時が近づいているのを、ヒシヒシと感じる。
「油断するな、バレンタイン少尉」
「はーい。……キラは大丈夫?」
通信がつながったキラに話しかけると、キラは沈痛な面持ちのまま頷く。
「僕は大丈夫。……アスランは僕が。ミーシャはジンをお願い」
「――わかった。手加減しちゃダメだからね。今度こそ……殺しに来るよ」
「わかってるよ……」
通信にはムウとトールも出た。全員準備は整ったようだ。
「ムウ、ケーニヒさん、敵は少ないよ。落ち着いて、無理しないでね」
「わかってるよ、嬢ちゃん」
「わかってます!」
「……なんで敬語?」
「お、俺は二等兵ですから!」
「気にしないでよ。仲間でしょ?」
ミーシャが言うが、即座にブリッジのナタルから訂正が飛ぶ。
「バレンタイン少尉、お前たち3人に関しては何も言わんが、軍規は守らなければならんものなのだぞ」
「はーい。だってさ、ケーニヒ二等兵。ごめんね」
「いえ!」
敬語で話すキラの友達に、ミーシャは寂しい気持ちになる。
……トールは、ミーシャとキラを尊敬しているのだ。実際に戦場に出て初めてわかった。どれほどの恐怖と緊張の中で今までアークエンジェルを守ってきたのかを。それを知った今、3人に今までのように話すなんてとてもではないができそうになかった。
「敵はジン、イージスの二機だけだ。――全員油断するな!」
「了解!」
四機が出撃し、オーブの領海から遠く、アラスカまでの航路の海に出る。近くには島がいくつか見えて、天気が悪くなっている。雨天……どころか雷も鳴っている。出撃したのと同時、ジンからビームが飛んでくる。ミーシャは加速して躱すと、身を翻して反転し、遠くに見えるグゥルを撃つ。なんとかジンはビームを回避するが、想像以上に不利な戦場に舌打ちをする。
「――クソッ! 敵が多い……!」
ディアッカは忌々しい思いの中戦いを続ける。隙を見てアークエンジェルに向けて攻撃するが、いまいち有効打を与えられない。
イージスがストライクを討てば……。もはやそれに賭けるしかなかった。
キラとアスランは死闘を繰り広げていた。アークエンジェルの進路から後方。近くの島の上空で、悪天候の中戦いを続けている。豪雨に雷。悪い視界の中、二人はお互いの姿だけが見えていた。
「うぉおおおお!!」
今まではまるで手を抜いていたと言わんばかりの猛攻に、キラは押されていた。今の今まで隠していた爪先のビームサーベルも使って、4本のビームサーベルを前に防戦一方だ。レーダーを見ると、ミーシャはジンにかかりっきりである。アークエンジェルはアラスカへの道を進んでいる。どんどん引き離されているせいで援護は期待できそうにない。……それに、キラは一人でアスランと戦うつもりだった。
――キラはそもそも、ムウはともかくトールのスカイグラスパーを当てにできる戦力だと思っていなかった。ミーシャではないが、たかが戦闘機、と思う気持ちがあったのだ。
だから、トールのスカイグラスパーがこっちに突っ込んできた時、ゾッとした。
「キラ! 援護する!」
「やめろトール! 下がれ!」
下がれと言われて下がれるような機体ではないし、トールにもその気はない。ミサイルをイージスに向けて発射する。イージスは盾を構えてあっさり防ぐ。そしてアスランは天性の才覚を遺憾なく発揮する。バスターが緑服のザフトを撃つときのように、ロックオンもせずに盾を投擲したのだ。
「え?」
――ロックオンアラートは?
眼前に迫る巨大な盾を前にトールが思ったのは、そんなことだった。そして、それが最期だった。
機首を盾でちぎり取るように切断され、爆発四散するスカイグラスパー。
目の前のジンに集中していたミーシャはいきなり味方の信号が途切れたことに苛ついたように叫んだ。僚機との会話はずいぶん前に途切れている。雨のせいで通信距離が極端に落ちているのだ。
「整備の人何やってんの! 戦闘中に故障してるじゃん! ナタルさん、あとでシメといて!」
「バレンタイン少尉」
「何!」
「故障ではない」
「じゃあ何!?」
淡々と、ナタルは言った。言わなければならないことだった。
「MIAだ」
「何それ!?」
「……戦死だ」
ミーシャの手が止まる。幸い、ジンはアークエンジェルの弾幕を前に余裕がない。攻撃は来なかった。ミーシャは何度も目を瞬かせる。
「……嘘」
「嘘などではない」
「だって楽な戦場だよ? だって、こっちのほうが数が多いんだよ! 敵もイージスとジンだけ! なんで、なんでケーニヒさんが!?」
「――戦闘に集中しろ、バレンタイン少尉」
ナタルは歯を食いしばるようにしてミーシャに命令する。ミーシャはアークエンジェルに向けて攻撃しようとするジンを睨む。今は敵勢力の全てが憎かった。
「死ね――! 死ね、ザフト!」
ミーシャは引き金を引いた。アークエンジェルの弾幕に加えてミーシャの射撃。機体への直撃を避けたもののグゥルが撃ち落とされ、ジンが付近の無人島へと落下した。
「――!」
機体こそ無事だったが、ディアッカは数秒意識を失う。目を覚ましてハッとディスプレイを見上げるとそこには、全砲門をこちらに向けたアークエンジェルと、何十人ものザフト兵を葬り去った魔弾の砲口がこちらを向いていた。普段ロックオンなんてしないくせに、動けないディアッカを甚振るようにロックオンして、これ見よがしにロックオンアラートを鳴らしてくる。
ディアッカは悔しげに顔を顰めると、コクピットハッチを開けた。一か八か、降伏するつもりだった。
――キラとアスランは死闘を繰り広げていた。もはやお互いを怨敵としか思っていない。ニコルを殺された恨みを、仇を。トールを殺された憎しみを、仇を!
敵を、討つ。憎悪、怒り、その他数多の負の感情を全開にして、両者は武器を振るう。頭部を、腕を、お互いに破壊する。少しずつ敵の戦力を削いで、殺すその瞬間まで全力で殺し合う。
「お前が!! お前がニコルを殺した!」
「よくも……よくもトールを!! アァアアアアアスラァァァアアアアアアン!!」
「キイイイイラァアアアアアアアア!!」
激しい攻防で両者の機体はどんどん傷付いていく。しかし、ストライクがやや有利。アスランがプラントにいた時もキラは戦い続けていた。経験の差が徐々に出てくる。
「キラ……! 俺が、お前を討つ!!」
アスランは残った四肢からビームサーベルを出してストライクに攻め入る。
「アスラン――! 君だけは、君だけは殺す!」
葛藤も迷いもなく、二人は互いを殺すためだけに存在するかのように戦い続ける。
イージスがストライクの僅かな隙を見つけて変形し、クローアームを展開。胴体部分にガッチリと食い込む。
「……!」
切り裂かれたコクピットハッチの装甲の隙間からスキュラのエネルギーが充填されるのが見える。
「――」
ここまでか。そう思った次の瞬間、イージスのフェイズシフトが落ちた。アスランはそれに気づくとノータイムで自爆プロトコルを起動する。訓練通りにタイマーをセットし、イージスから退避する。
「……アスラン――!!」
なぜ逃げた? その理由に気付いた瞬間、ストライクとキラは爆炎に包まれた。
この話から少しずつオリジナルルートに入っていきます。これからも応援よろしくお願いします