【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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闇の核心

 翌朝。アークエンジェルの昇降口にはアークエンジェルクルーが整列し、転属する4人の見送りをしていた。ブリッジクルーは昇降口の中で見送りをするため集まっていた。

 

「……アルスター二等兵! いい加減にしろ!」

「いや、嫌よ! 転属なんて! アークエンジェルから降りるなんて!」

「フレイ、流石にちょっと見苦しいと思う……」

 

 グズるフレイに、ちょっと引き気味にミーシャが言った。

 

「何よ! あんたこそアークエンジェルから降りるのになんとも思ってないの!?」

「そりゃ名残惜しいよ。でも軍人ってそういうもんなんでしょ、ナタルさん?」

 

 ミーシャが聞くと、ナタルは頷いた。

 

「そうだ。この時期にというのは珍しいが……あり得ない話ではない。それと、いい加減お前もバジルール中尉と呼べ。もうアークエンジェルを降りるんだぞ」

「それもそうだね。寂しいけど……。軍規は重要、でしょ、バジルール中尉」

 

 素直に名前を言い直したことに、ナタルの方こそ一抹の寂しさを感じてしまった。しかし、それはきっと成長なのだ。そう言い聞かせて、表情には出さなかった。

 

「そうだ。アルスター二等兵、わかったら行くぞ」

「いや! サイ! 助けて!」

 

 ついに自分からフッた元婚約者に助けを求めてしまう。サイは苦い顔をして言う。もうできることなどないのだ。

 

「助けようにも……。俺も二等兵なんだ。できることなんてないよ。正式な命令だし……」

「――!」

 

 フレイはがっくりと項垂れる。暴れる様子がなくなったと見たナタルは、ブリッジクルーと別れを告げることにした。

 

「ラミアス少佐。――お世話になりました」

「……最後まで、あなたには迷惑かけたわ。色々あったし、馬の合わないところもあったけど……あなたのおかげで、ここまでこれたわ」

「いえ。ラミアス少佐の尽力あってのことかと」

 

 ナタルは本心からそう言った。もし自分が艦長ならきっと、キラとミーシャの信頼を損ない離反すらされていたかもしれない。軍人としては甘い一面があるラミアスだが、その甘さがあの時のアークエンジェルには不可欠だったと、ナタルは断言できる。

 

「お世辞はやめて頂戴。器じゃなかったのよ。階級ばっかり上がって……」

「私は分不相応だとは思いません」

「もう。――元気でね。また会いましょう」

「はっ。戦後にでも、是非」

 

 ナタルは敬礼すると、ラミアスから離れた。昇降口の近くにいるミーシャに声を掛ける。

 

「いいのか、別れは?」

「ラミアスさんとはさっきしたよ。行ってきます、元気でね、って。それ以上のお別れだと……最期みたいで、やだ」

 

 ……そうか、とナタルは納得する。最後かもしれない。そんな気持ちでするお別れなんて辛いだけだ。実際にミーシャは永遠の別れを経験し過ぎた。手を降って別れてまだ生きている知人など、ハルバートンとカガリしかいない。他は皆死んだ。

 

「嬢ちゃん……いや、もう一人前か。バレンタイン少尉」

「やめてよムウさん……フラガ少佐」

 

 どんどん寂しくなってくる。でも、心配はなかった。アークエンジェルはここで優雅な後方勤務。ムウは教導隊で新人教育。フレイは広報班で、ナタルは一緒。

 

「フラガ少佐、私より弱い新兵育てたら許さないからね」

「そいつはハードな要求だな……。ま、気楽にやるさ。バレンタイン少尉、死ぬなよ」

 

 ムウとミーシャは敬礼し合う。また寂しさが募る。

 

「死なないよ。戦争が終わるまで、戦い続けるの」

「――そうか。頑張れよ」

「うん」

 

 敬礼を解くと、ミーシャはフレイを見る。

 

「……フレイ。元気でね」

「――あんたこそ。死んじゃ嫌よ」

「……死なないよ。できる限りね」

 

 断言しないミーシャに、フレイは顔を歪ませる。フッと顔から力を抜くと、ミーシャの唇にキスをした。

 

「……え?」

「――戦争終わっても生きてたら、一緒に暮らしてもいいわよ。だから……だから、死んじゃダメよ」

「……いいの? フレイって女の子興味ないんじゃ」

 

 ミーシャが言うと、フレイは顔を真っ赤にして怒った。

 

「馬鹿言わないでよ! ――一人ぼっちのあなたが可哀想なだけ! ……どうせ、部屋余る……だろうし」

「……そっか。じゃあ、生き延びないとね。さ、バジルール中尉、フレイ。行こう!」

「ああ」

 

 ナタルはミーシャとフレイ、ムウを伴って整列したクルー達の間を通る。割れんばかりの拍手が4人を祝福していた。

 

「――ごめんなさい」

 

 小さく、口の中だけでフレイは呟いた。可哀想なミーシャ。一人きりで、まともな恋を知らない子供。

 戦後くらい、責任取って一緒に暮らしてやろうと思うくらいには、フレイはミーシャに絆されていた。

 

「……生き残らないと」

 

 ミーシャはフレイとの生活をぼんやりと想像する。爛れた関係になるか、あるいは……あるいは、気の良い同居人みたいな関係になったり、出来るんだろうか。

 

 ミーシャは戦後のためにも、生き残る決意を新たにした。

 

 ――それから諸々の手続きを経て、ミーシャとナタルは潜水艦の中で隣り合って座っていた。ムウとフレイは別の艦で移動するらしく、これでお別れかと思うと泣きそうになった。しかし、発進してからしばらく。ミーシャは早くもギブアップしそうだった。

 

「椅子ないの……?」

「潜水艦だ。我慢しろ」

 

 椅子がなく、貨物室に他の兵と同じように詰め込まれていたのだ。一人ひとりのスペースは広めだが、硬い床の上だ、足やらお尻やらが痛くなってくる。

 

「訓練ではより過酷な状況も想定される。長い時間劣悪な環境で大人しく揺られることも訓練だと思え」

「アークエンジェルより過酷な状況で訓練したりするの?」

「ない」

「じゃあダメじゃん」

「そうは言うがな。全く……。お前というやつは」

 

 ナタルはほんのりと微笑んだ。ナタルとて急な転属は不安が多かったのだ。こうして幼いとはいえ見知った同性の人間がいるというのは心強い。

 ――が、他の人間の噂話に、二人の心はかき乱される。

 

「……なぁ、おい聞いたか?」

「ん? なんだよ」

「ヤバめの噂」

「……なんだよ?」

「ザフトの狙い。上はパナマだって言ってたけど、実はアラスカなんだって」

 

 ――アラスカ?

 

「その話詳しく」

「おい、よせバレンタイン少尉」

 

 ミーシャがその兵士の側によると、その兵は怯えたように敬礼した。

 

「こ、こど……いえ! 自分は何も!」

 

 自分の娘くらいの年の女の子が詰め寄ってきて、一瞬普段通りに接しようとした兵は、この船に乗る際言いつけられた特記事項を思い出した。

 ――この船に子供が乗るが、彼女は連合の新しい英雄、ミーシャ・バレンタイン少尉である。決して失礼のないように。

 そう言われたことを思い出した兵は慌てて自分の言葉を否定する。

 

「いいから、教えてよ」

「――しかし」

「お願い」

 

 根負けした兵は、ミーシャに自分の知る情報を伝える。

 

「――ザフトの大軍がアラスカにやってきてて、実は防衛隊は決死隊だって噂です」

「……! ナタルさん、じゃなかった、バジルール中尉! バスターに行く! ザフトの連中皆殺しに――!」

「やめろ、バレンタイン少尉」

「でも!」

 

 ナタルは立ち上がってミーシャを見下ろす。止めようとするナタルの顔は不安げで、横に降ろしている手は力を込めて握られている。本当ならミーシャに行けと、助けに行けと言ってやりたい。だが、もう物理的に不可能なのだ。

 

「――バスターはパーツ毎に分解された状態で運ばれている。そしてこの艦にモビルスーツの発進能力はない」

「なんで! 地球軍の船でしょ?」

「知ってるだろう、バレンタイン少尉。地球軍が運用しているモビルスーツは現在バスターのみなのだ。モビルスーツを扱う能力がある艦も、アークエンジェルだけなのだ」

 

 ……ナタルの説明で、ミーシャは今の状況を完璧に理解した。

 ――何もできることがない。ミーシャはその場にへたり込んで膝を抱え、頭を埋めてしまう。

 

「――何にもできないんだね」

「ああ。私だって悔しい。だが……」

「……わかってる。アラスカは本陣なんでしょ? その防御力に期待するしかない……んだね」

「ああ」

 

 ナタルもミーシャの隣に腰掛けると、その俯いて震える背中に手を回す。

 

「――なんで……私が戦えれば……」

「――信じろ。ラミアス艦長と、戦友達を」

「……うん」

 

 ミーシャは何時間も、そうして戦えない自分の無力を嘆いていた。

 

 ――彼女がアラスカの顛末を知るのは、もう少し後のことになる。

 

 大西洋連邦艦隊は現在、オーブ近海で隊列を組んでいた。その旗艦のブリッジに、いかにも自分がこの場で最も偉いのだと言わんばかりに方方へ指示を出す男がいた。軍服を来た人間しかいない空間で、一人だけ特注の白いスーツを着ている彼は、とても浮いていた。

 金髪の若い男。彼こそがアズラエル財閥の当主にしてブルーコスモスの盟主。ムルタ・アズラエルである。

 

「――全く。ちょっとマスドライバー貸してくれといっただけじゃないですか。武器の供与も物資の徴用も要求していないのに。これじゃ交渉の余地がない」

「彼は頑固ですからな」

 

 隣りにいた将校の言葉にアズラエルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「僕は彼から『オーブの理念に反するので拒否する』以外の言葉を聞けた試しがありません。ま、本当に受け入れられちゃったらどうしようかと思ってたところなんです。予定通り新型のテストと……あの子の実力をこの目で見てみたいものですね」

 

 アズラエルが遠い目をして言うと、旗艦の艦長が聞いた。

 

「あの……魔弾の天使が? 来るのですか、この船に?」

 

 連戦連勝。彼女のいる戦場に敗北なしと言えるほどの伝説を作る新しい英雄、幼い伝説、ミーシャ・バレンタイン。彼女の存在を旗艦の艦長ももちろん知っていた。

 

「もちろん呼んでありますよ。データを見るにエース級には少々手を焼くようですが、雑魚相手なら彼女の敵ではありません」

「素晴らしい……! 流石アズラエル氏ですな」

「何、彼女は友人でしてね。彼女は素晴らしい。ナチュナルの本質をよく表している」

「――といいますと?」

 

 アズラエルは楽しそうに笑った。

 

「天然自然の天才に、作り物が勝てるわけがないということですよ」

 

 しばらくして、アズラエルの元にミーシャが到着した知らせが来る。艦橋に呼び出されたミーシャは、緊張した面持ちで旗艦のブリッジに入室した。

 

 ――そこには、子供用に設えた地球軍の制服を着たミーシャがいた。幹部用の白い制服を着て、首の襟には少尉の階級章がある。黒い髪に茶色の瞳。通った鼻筋に丸みを帯びた輪郭。愛らしい10歳の少女が、軍人の服を着て敬礼している。

 

「バレンタイン少尉、命令により出頭しました!」

 

 元気よくそう言うと、アズラエルはパチパチと拍手をした。彼の顔には自然な笑みが浮かんでいる。

 

「中々様になってるじゃないですか」

「アズラエルさん。久しぶり」

「お久しぶりですね、ミーシャ。行儀も気を遣わなくていいですよ。この船は私の物ですので。君は好きにすると良いですよ」

「――ありがとう。でも上官相手にそんなことしないよ」

 

 ミーシャがきっぱり言うと、アズラエルは面食らったような顔をした。アズラエルの提案を断ったのが意外らしかった。

 

「……全く、見ないうちに軍人らしくなっちゃってまぁ。とにかく……クラウスとサフィアのことは残念でした。ルミナさんのこともです」

「ん……ありがとう」

「おせっかいかと思いましたが、状況が状況だったので、バレンタイン家の資産ですが……そっくりそのまま君が相続するようにしておきました」

 

 ミーシャがキョトンとする。バレンタイン家の、資産? どれくらいあるんだろうか。ミーシャは自分の家がお金持ちに分類されることは知っていたが、どれくらいお金持ちなのかまでは知らなかった。

 

「戦争が終わったら屋敷で確認してください。――税金を忘れちゃ駄目ですよ? 戦争なんかよりよっぽど怖い。……笑いどころですよ? ――わからないなら税理士に聞きなさい」

「はーい。それで、アズラエルさん。なんでこんなとこいるの? 私次どこに行って戦えばいい?」

 

 ミーシャはなんでもないように言った。自分の暮らした家を話題にされて、それでもミーシャに郷愁の念は見えない。しかも、最初の質問が次の戦闘についてだ。戦争に巻き込まれる前のミーシャをよく知るアズラエルは、あまりの変わりように同情の気持ちが湧いてくる。

 

「……まぁまぁ、そんな焦らずに。君が戦う場はちゃんと整えます。それよりも今回、君がこの船で戦うに当たって部下を用意しました。絶対に逆らわないので指揮の練習をしてください」

 

 ミーシャはアズラエルの言葉に不思議そうな顔をした。

 

「……そんなことある? 絶対に逆らわないって」

「方法はいくつかあるんですよ。さ、彼らの部屋を案内しましょう」

 

 アズラエルは立ち上がってミーシャを連れてブリッジを出る。

 

「……戦争はどうですか、ミーシャ」

 

 アズラエルはつい、そんなことを聞いてしまう。どんな答えを期待していたのだろうか。

 

「――別に。ザフトを殺せるならなんでもいいかな。……あ、でもアズラエルさんみたいに、コーディネーター抹殺までは考えてないからね!」

 

 ……自分と近しい考えになって、本来は嬉しいはずなのに。小さな友人に起こった大きな変化を齎したのが戦争……引いてはコーディネーターだと思うと、アズラエルの胸に怒りが沸き起こる。

 

「おやおや、それは残念です。ですが、しばらくは手が組めそうで実に嬉しいですね」

「ふふふ、アズラエルさんの頭と私の力があればザフトなんてすぐ倒せるよ!」

 

 楽しそうに笑うミーシャを見て、アズラエルも微笑む。

 ――アズラエルは彼女のことを赤子のころから知っている。ミーシャの父、クラウス・ バレンタインとは旧知の仲で、ブルーコスモスのメンバーとしても財力を持つ者同士としてもよく話が合った。クラウスとの仲を続けているうち、自然と彼女とも話すようになったのだ。

 重度のコーディネーターアンチで人を人とも思わないようなアズラエルだが、いくらなんでも友人の娘くらい人並みに可愛がる。結局、娘のミーシャに対しても友人と言えるだけの関係を持つことになった。

 そんな彼女がヘリオポリス崩壊に巻き込まれて避難船の避難者リストに名前がないと知った時は肝が冷えた。せめて彼女の弔いのため宇宙のゴミ共をゴミらしく塵に変えてやろうと思っていたら……。

 ……第8艦隊の報告書に、なんと彼女の名前があった。しかも、大西洋連邦でもかなり入れ込んでいたGシリーズとアークエンジェルに多大な戦果を齎した上で、元気に戦場を暴れまわっているときた。数少ない友人の華々しい戦果に誇らしい気持ちになると同時、心配が募っていた。

 そして、心配は的中することになる。彼女の心は変わり果てていた。

 

 戦争に巻き込まれる前は、人を殺すなんて冗談でも言わないし、コーディネーターを抹殺するなどと言おうものなら本気で怒るような優しい子だった。それが、『ザフトを殺せるならなんでもいい』? アークエンジェルでの死闘が、彼女が失ってきた様々なものが、彼女をそう思わせたのだ。

 

「――ええ。そうですね。さっさと戦争なんて終わらせて、悪い宇宙人を追い詰めてやるとしましょう」

「……ふふふ、悪だくみだね!」

 

 ……彼女の変化が、嬉しいようで、同時にひどく悲しかった。

 

 ――しかし、彼女の本質はやはり優しいのだろう。アズラエルは彼女の部下にと用意したブーステッドマンの三人を紹介して、その『使い方』を教えると、烈火の如く怒りだしたのだ。

 

「アズラエルさん! これが人に対してやることなの!? 仲間に対してやることなの!?」

「人ではありませんよ。彼らは生体CPU。機体のパーツです」

 

 ミーシャの怒りのボルテージが上がる。船に備え付けられた研究室のような部屋に連れてこられたと思ったら、部下になる予定の人を紹介された。――定期的に薬を摂取しないと禁断症状でずっと苦しむような、そして摂取したところでいつかは死んでしまうような、そんな状態にされた人を紹介されたのだ。これが仲間? 部下? 冗談じゃない。

 

「名前がある機械のパーツなんて聞いたことないよ! それにこんな薬……! 今すぐやめさせて!」

「それはできません。が、あなたが望むなら彼らが人間に戻れるよう研究を始めましょう」

 

 ミーシャの叫びに、アズラエルはあっさりと言を翻すような事を言った。後ろでなんとはなしに聞いていた三人が意外そうな顔をする。

 

「ですが、この戦争の間は戦ってもらわねば困ります。高い金かけて作ったんですから」

「もう! ……じゃあ、この人たちの訓練と、健康管理は私の責任ってことだよね!」

「――ええ。それが?」

 

 じゃあ、とミーシャは周りの研究員にも聞こえるように大きな声で言った。

 

「『言う事聞かないと薬を取り上げるぞ』なんて二度と言わないで! できるだけ苦しまないようにしてあげるの。そうじゃなきゃ私、この人たちを部下になんてできない!」

「できないとは……まぁ、そういうことなら仕方ありませんね。今後は『おしおき』もなしにしましょう。何せもうあなたの部下ですから」

 

 ついてきてください、とアズラエルはミーシャを連れて研究室を出た。扉が閉まるのを確認すると、アズラエルはミーシャに謝った。

 

「あなたの気持ちを踏みにじるような真似をしてすみません」

「――説明してくれるの?」

「もちろんです。あなたに嫌われたくありませんからね。それに……ナチュラルでもやれるときはやれると知っているので」

 

 アズラエルは未だ怒りの冷めないミーシャを前に、説明を続ける。

 

「彼らはブーステッドマン。あなたが生まれる前からアズラエル財閥(うち)で研究を進めていた技術です」

「……うん、それで?」

「もともとはナチュラルと化け物共との差を縮めるための研究でしたが……結局はリスクが高すぎるということで、鈍化していた分野なのです」

「当然だよ。病気でもないのに改造して薬なきゃ生きていけない状態にしてコーディネーターより上とか言えるわけないじゃん」

 

 ミーシャのズケズケという物言いにアズラエルは苦笑する。ミーシャの言っている通りだ。だから、もう次の段階に研究は進んでいる。改造と強化暗示だけでナチュラルの能力を強化する……『エクステンデット』の技術に。

 

「延命研究と薬物依存の解消研究はもうすでに始めています。戦争が始まってすぐくらいですね」

「……なんでそれ言ってあげないの?」

「もとより言うつもりはありませんでしが……あなたが言う事で、彼らの忠誠はあなたに向くでしょう」

 

 ミーシャは顔を顰める。アズラエルのしたいことを理解したからだ。

 

「自分で傷つけて自分で救って……こういうのマッチポンプって言うんでしょ。知ってるよ」

「あなたは何も知らないし関わっていない。マッチポンプではありませんよ」

 

 ミーシャは苦い顔をしたまま、アズラエルをじっと睨む。さあ、なんと言うか。アズラエルは罵倒されることを覚悟した。

 

「……あの三人は強いの?」

「――ええ。機体も最新鋭。腕もあると思いますよ」

「本当に私に任せてもらえる?」

「嘘は言いませんよ。あなたには」

「――じゃあ、わかった。ザフトを殺せるなら」

 

 アズラエルは目を瞬かせる。今この子は何を言った。わかったと言ったのか。

 

「いいのですか? 何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

「ない。だって研究してたのは私が生まれる前で、研究だってだいぶ前に辞めてて、戻すための研究も進めてるんでしょ?」

「まあ、そうですが」

「なら、今更アズラエルさん責めたってどうにもならないよ。強いなら、もしかしたらお礼言う事になるかもね」

 

 ――こんな子ではなかったのに。嫌われて友人としての関係も終わるとおもっていたのに。彼女の顔は嬉しそうな、ワクワクしたような顔をしているのだ。

 

「何があったのですか?」

「何が、って何?」

「いえ、前なら、もっと怒鳴られるかと思ってましてね」

 

 ミーシャはきょとんとした。それから、過去の自分を思い返して、小さく笑う。

 

「前は前だよ。パパもママも、友達も、元彼も殺されてそれでもまともでいるつもりなんてないよ。そっちがやる気ならこっちだってやってやる。もう戦争なんてやる気なくすくらい、ザフトを殺す」

 

 決意に満ちた言葉だった。その瞳には憎悪が宿っていた。手は強く握り込まれて、じんわりと血が滲んでいる。

 

「戦争が終わるか、死ぬまで私は戦うの。――手伝って、アズラエルさん」

 

 ミーシャの壮絶な言葉に、アズラエルは傷ついたような表情をした。それから、力なくほほ笑んで頷いた。

 

「もとよりそのつもりですよ、『魔弾の天使』。一緒にあの宇宙の化け物を退治しましょう」

「敵が戦いを辞めないなら、そうなるかもね」

 

 お互いに固い握手をして、笑いあった。

 

 ――次の日、ミーシャはアラスカが残存戦力ごと自爆したことを知った。

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