【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
・オーブ出撃直前のバレンタイン隊で戦闘時のポジションをブリーフィングするセリフの追加
・オーブ戦時、バスターが船上で戦い、必要に応じてジャンプして高度を得るという描写の追加
・オーブのマスドライバーが炎上する際、アークエンジェルとクサナギが最後に打ち上げられる描写の追加。
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オーブの宇宙戦艦、クサナギのドッキング作業を護衛し終わったキラはアークエンジェルの休憩スペースで宇宙をぼんやりと眺めていた。何かを思っているわけでも何かを考えてるわけでもなく、無心で宇宙に瞬く星を眺めていた。
「キラ」
「あ……アスラン」
そんなとき、同じように作業を終えたアスランがやってきた。
「カガリは大丈夫そう……?」
「いや……かなり参ってる」
カガリは部屋に閉じこもって落ち込んでいる。戦場に出て数秒後に落とされたマユラのこともそうだし、父をなくしたこともそうだ。そして、キラとカガリがきょうだいと知らされたことも。何もかもがカガリを打ちのめしていた。
「――キラ、あの悪魔とのことを聞かせてくれ」
「……ミーシャは悪魔なんかじゃない」
キラは悲し気な顔をしてアスランの言葉を否定する。ザフトからしたら悪魔に見えるのもわかる。でも、あの子はよく笑う子だった。作り物の笑顔はやがて本当になって、戻れなくなってしまった子だった。
「それなら、それでもいい。なぜあいつはお前に愛していたなどと言った? アークエンジェルで何があったんだ?」
「……」
キラは黙りこくる。できれば聞かないで欲しい。アスランとて聞いてほしくなさそうなのは察している。だが、アスランにはアスランの理屈があった。
「お前は、愛した子供を撃てるのか?」
アスランはキラとミーシャが親子関係もしくは兄妹関係を築いていたと思っていた。だからこそ、そんな子供を撃てるのか、戦えるのか確認しなければならなかった。
「僕は誰も撃たない! それに、ミーシャを愛したことなんてない! 僕が――僕があの子を傷付けたんだ」
「……話すだけでも楽になる。話してみろ」
「アスラン……」
キラはそれからポツポツとアークエンジェルであったことを話し始めた。
何一つ守れなくて壊れそうになったとき、フレイが誘ってきて、ミーシャに見られたこと。フレイがミーシャも巻き込んで――そして、ズルズルと関係を持ってしまったこと。
……二人のことが本気で好きだったわけではない。愛してもいなかった。だが二人との関係は中々辞められなかった。延々と傷付けて、踏みにじって……。そんなことを聞かされたアスランは衝撃を受ける。あのキラが、子供に手を出した。それを知ったアスランのショックはすさまじい。それとは別に、一発こいつをぶん殴るべきか大いに悩んだ。だが、キラを狂わせたのは戦争の災禍だ。そして、アスランにも大きく原因がある。偉そうなことは言えなかった。
「――お前は後悔しているんだな」
「うん。僕はあの子を傷付けて。フレイも……婚約者がいるのに。本当はサイのことが好きだったのに、傷付けてしまった」
キラは俯いたまま、自分の行いを深く嫌悪する。アスランは握り拳を強く握り込む。
「お前ができることは、一刻も早く戦争を終わらせることだ」
「うん」
「そうすれば、ミーシャが戦うこともなくなる」
「――そうだね」
キラは同意する。たった二隻と少ないモビルスーツで何をするのかキラは知らない。知らないが、戦争を続けることしか考えてないザフトや連合にいるより遥かにマシのように思えた。
「……僕は戦うよ。戦争を終わらせるために」
「俺もだ」
キラとアスランは二人で頷きあった。
――
ビクトリア基地を落としてマスドライバーを使えるようになった地球軍は、再び宇宙と地球間のやり取りができるようになっていた。
そんな中、月面基地の訓練宙域で浮かんでいる戦艦があった。
ダークグレーの両脚がついた戦艦……アークエンジェル級2番艦、ドミニオンである。
「敵艦隊補足! バジルール
ミーシャの気の抜けた報告を受けて、艦長席に座るナタル・バジルール少佐が細かく指示をする。通常戦闘機動は問題ない。
「ドミニオン! ミサイル抜けた!」
ミーシャの悲鳴のようなセリフと共に、戦闘管制のコンソールにミサイルの軌道が表示される。ナタルがまたも指示を飛ばすが、対応しきれずに撃墜判定を食らった。
「遅い! 何度目だバカモノ!」
「嘘でしょ? こんなの初陣で沈んじゃうよ!」
訓練を続けるドミニオンだったが、ナタルとミーシャの求める水準には中々達しない。新しいクルーは成績こそいいものの、目まぐるしく変わる状況に対応しきれずにいた。
「バジルール少佐、15分くらい休憩してもう一回やろう。こういう煮詰まったときは休むのが一番!」
「――全く。アークエンジェルの時は休みなく戦ったバレンタイン
「ハッ!」
休憩できるとわかって、クルーの元気な返事が聞こえる。ミーシャはため息を付いた。
「ナタルさん、どう? いけそう?」
「できる限りバジルール少佐と……まぁ今はいい。現在の練度は論外だ。このままでは初陣で撃沈する」
「だよね……。徐々にステップアップしていく方針はどうかな? 簡単なタスクを連続でクリアさせて自信をつけるっていうのも欠かせないよね」
「やはりランダム性は確保したい。間断なく、目まぐるしく変わる戦場をなんとか経験させて……」
そこまで言って、ナタルはふと頬を緩めた。
「どうしたの?」
「いや……お前とこんな話ができるようになるとは思わなくてな」
「なにそれ? 私もう少佐で、部下も3人いるんだからね」
ミーシャとナタルはドミニオン着任と同時に昇進。揃って少佐になった。これでナタルとミーシャは同格になり、一応建前上は普段通りに喋っても問題なくなる。
ドミニオンにミーシャにとっての上級者がいない……この状況にナタルは歪んだ作為を感じる。だが、友人の昇進は素直に嬉しい。今までの苦労が報われた……そんなふうに思えるのだ。
「そうだな。悪かった。――見違えた」
ナタルのストレートな言葉に、ミーシャは照れたように顔を逸らす。
「……とにかく、今は訓練しないとね」
「ああ。バレンタイン隊の訓練はどうだ?」
「こっちは良好。最近は連携を特に意識してるかな。でも個人的な技量もやっぱり――」
ナタルは嬉々とした様子で訓練の調子を語り、これからの展望を話すミーシャを微笑ましい気持ちで見つめていた。
それから一週間ほどがして、ついにドミニオンの初任務が言い渡される日が来た。訓練中のドミニオンのブリッジにサザーランド大佐とアズラエルが入ってくる。ナタルは立ち上がると二人を敬礼で出迎えた。
「熱の入っているところ悪いな、バジルール少佐」
「いえ」
「紹介しよう。今回ドミニオンのオブザーバーとして乗艦いただくアズラエル氏だ」
アズラエルは紹介されるとナタルの前に一歩近づき、見下ろす。ナタルはブルーコスモス盟主に見下され、内心冷や汗をかく。表情も態度も毅然としていたが。
「あなたがバジルール少佐ですね。まずこの船は僕の物だということをしっかり理解してくださいね」
「……」
「ただ、まぁ君の意見を蔑ろにするわけじゃあありません。ミーシャから話は聞いてますよ。優秀な人だと」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、アズラエルは続ける。
「是非僕のためにその力振るってくださいね。艦長さん」
「……了解」
――なんの因果か、私がブルーコスモスの尖兵か。人生どうなるかわからんものだな。ナタルは内心そう思った。
しかし、今はドミニオンで休んでいる幼い戦友を思えば、心強いことこの上ない。
「ではドミニオンの初任務を伝えます。L4宙域に存在するであろうアークエンジェルを撃ち落とします」
「……なっ」
告げられた任務に、ナタルは絶句する。アークエンジェルを討つ? かつての戦友を? 嫌がらせか何かか? 不審な目でナタルはアズラエルを睨む。しかし彼はそんなナタルの視線を受けても飄々とした態度を崩さない。面白がっている様子すらある。
「本気ですか」
「本気ですよ。奴らは国際法上海賊です。彼らは誰の命令も受けずに強力なモビルスーツとアークエンジェルを運用している。――そんな危険な力が宇宙のゴミに向かうならまだいいのですが、彼らの言動から我々に銃を向ける可能性が高いのでね。横槍入れられる前に始末しとこう、そういうわけですね」
ナタルは絶句するもその命令を拒絶する合理的理由を持たなかった。彼らが海賊であるというのは事実。それなのに強力なモビルスーツを使っているのも事実。危険なのも事実。そんな彼らがザフトと戦っている時に横から入ってきて襲いかかってきたら困るを通り越して絶体絶命……それも事実。
事実、事実事実。正論によって齎される最悪の任務に、ナタルは気分が悪くなりそうだった。
「彼らは地球軍に捨て駒にされたと思ったのが原因です。説得の余地はあると思います」
唯一ナタルが言えるとしたら、その言葉だけだった。だがアズラエルはナタルの提言を鼻で笑う。
「ありませんよそんなの。ミーシャが偉い人と――私のことですね――友達だから地球軍に掛け合うと言っても投降しなかったのです。ミーシャが持ってるコネすらないあなたの説得に応じるとは到底思えませんね」
「……! それは……それはきっと信用できなかったからです」
「これは傑作だ。アークエンジェルのクルーは全員、長らく戦ってきた仲間の言葉も……元恋人の言葉も信用できないらしいですね」
痛いところをついてくるアズラエルに、ナタルは苦い顔をする。
「バレンタイン少佐に、伝えたのですか」
「おや? この船の艦長は誰ですか? 部下に命令を伝えるのは艦長のあなたでしょう? それとも私が伝えてもよろしいので?」
「……私が伝えます」
ナタルが言うと、アズラエルは何が面白いのかにやりと笑みを深めた。
「頼りになる艦長さんでよかった」
「……ところで、アークエンジェルの居所、どのように掴んだのです?」
「信頼できる筋ですよ。ご不満ですか?」
挑発するようなアズラエルの言動にも、ナタルは感情を荒げない。
「まさか。探す手間が省けて非常によろしいかと」
ナタルは制帽を被り直すと、ミーシャの部屋に通信を入れ、彼女を呼び出した。
すぐにミーシャはブリッジにやってきた。真新しい制服をしっかり着こなして、ブリッジに入るなりナタルに敬礼する。
「バレンタイン少佐、呼び出しに応じ参りました!」
「よろしい。……楽に休め」
「ハッ!」
ぴしっと、まるで軍人のように完璧な敬礼をした。すぐに、ふにゃっと笑う。
「……どう、合ってる?」
「それがなければ満点だったよ。……初任務だ」
「よし! うちの子達も仕上がってるからね! どんなのが相手でも大丈夫!」
ウキウキするミーシャを前に、ナタルは目深に制服をかぶる。そして、重苦しい様子で告げる。
「我らの初任務は海賊艦アークエンジェルの撃破だ」
ピタリ、とミーシャは動きを止める。みるみるうちに元気をなくし、暗い表情になる。取り乱したりはしなかった。錯乱することもなかった。ただただ、悲しかった。ただただ、苦しい。
「……そっか」
「ああ」
「――海賊艦だもんね」
「ああ」
ミーシャはここ最近軍事関係と近年の歴史を中心に勉強を続けていた。講師は主にナタルとアズラエルである。ナタルからはしっかりとした軍規、教範、規律を学び、アズラエルからは基本的な勉強と、なぜ今戦争が起こっているのか、コーディネーターとナチュナルとは何なのか……そういったことを教わっている。ミーシャは内心洗脳されているんじゃないかと思うことはあったが……意外にも、アズラエルは思想の強制はしなかった。ミーシャから見ても偏ってはいたが。
ともかく、ミーシャは戦争に関するあれこれは同年代より遥かに詳しくなっている。だからこそ、泣きそうになりながらも拒絶したりしなかった。
アークエンジェルはもはや間違いなく海賊なのだ。歴史的に見ても脱走兵が船を奪ってそのまま海賊に……なんて例はありふれている。船とモビルスーツを勝手に使うことは悪いことなのだ。だから、それを止めようとするこの命令は、非常に納得したくないが、正しいのだ。
「……戦友を殺すのが正義だなんて。人でなしだね、私達」
「ああ。友を殺す命を受けて、それがどんなにしたくないことだとしても。その命令が正しい限り実行されなければならない」
ミーシャは頷く。この命令は正しいのだ。正義の行いなのだ。――そう思わないと、頭がどうにかなりそうだった。だってアークエンジェルは海賊なんだ。今でこそ何にも悪いことしてないが。食うに困って、物資に困って水に困ればきっと奪う。
――ユニウスセブンの時のように。
素知らぬ顔で地球軍もザフトも関係なしに襲い掛かり船から物資を奪うキラたちを想像する。あるいは、キラやラミアスが苦しみながら、心を擦り減らしながらそれでも仕方なく物資のために軍を襲う光景を想像する。どっちだとしてもミーシャはそんな戦友達を見たくなかった。
「……みんなを止めよう。アークエンジェルが本当の海賊になる前に」
「そう……だな。お前は、そう思って武器を取るのか」
ナタルが言うと、ミーシャは泣き笑いの表情になった。
「だって、だってしょうがないじゃん。私達は軍人で、キラたちはもう違うんだもん」
違うから……討たねばならなくなってしまった。
世界はどこまでも、不条理だった。なまじ道理が通っているだけに、たちが悪い。
――L4コロニー群宙域。ここはコロニー開発、放棄が割と頻繁な宙域で、廃棄されたコロニーがかなりの数誰の管理も受けずに存在している宙域だ。アークエンジェルではないがギンギンの海賊達も根城にしていたり、テロ組織が拠点にしていたりと、廃棄コロニー近辺は宇宙のスラムみたいな治安のエリアである。
そこの中でも特に奥まった位置にある廃棄コロニー……メンデル。アークエンジェルとクサナギ、そしてザフト最新鋭艦エターナルは一時の宿としてメンデルの宇宙港を利用していた。
メンデルの宇宙港から微かに見えるアークエンジェルの艦影。ドミニオンはアークエンジェルを見かけると、戦闘準備に入る。
「バレンタイン少佐、聞こえるか」
「聞こえるよ、バジルール少佐」
ナタルがバスターのコクピットにいるミーシャに声を掛ける。
「私は……ここに座った以上、アークエンジェルを沈める。バレンタイン少佐はどうだ?」
「私も。コクピットにいる以上は、キラを、みんなを殺す。――地獄でみんなに謝ろうね」
「そういうことは死んでから考える主義だ」
ナタルの言葉に、ミーシャは笑う。
「それもそうだね! 死んだあとのことなんて死んでから考えても遅くないか! じゃあ、ミーシャ・ バレンタイン、バスター、行ってきます!」
ミーシャに続いて3人の部下がドミニオンから出撃する。アークエンジェルが宇宙港から出て着てドミニオンと相対した。ナタルはおもむろにアークエンジェルと通信を繋ぐ。隣りにいるアズラエルが怪訝な顔をする。
「……マリュー・ ラミアス」
「……バジルール中尉」
「我々が何をしに来たのか、言って聞かせるつもりはない。ただ、最後に通告する。降伏するんだ。今ならまだ罪は軽い」
ナタルの言葉に、ラミアスは毅然とした態度で断言する。
「降伏はしないわ」
「戦艦数隻で何をするつもりだ」
「……今はまだ。でも、この戦争を止めたいの」
「それは地球軍ではできないことなのか」
「ええ。だから、降伏はしない」
「マリュー・ラミアス。地球軍はあなた達を海賊だと認定している。それでも、戦うのか」
「それでも、私達は戦うわ。最後まで」
「――残念だ」
「私もよ」
ナタルはその言葉を最後に通信を切った。ナタルは深いため息を吐いた。
「言ったとおりでしょう、艦長さん?」
「ええ。おっしゃられる通りで。しかし、これで私も覚悟が決まりました。主砲ゴッドフリート照準! 面舵15!ポイントアルファに時限信管で15発射!」
「……そんなところにミサイル撒いて何をするつもりです?」
「失礼ですがわからないなら黙っていただけませんか。ここは戦場ですよ」
冷たいナタルの物言いに、アズラエルは苛ついたようだった。しかし、椅子に深く座ると憮然と言う。
「ではお手並み拝見」
バレンタイン隊対キラ、アスランの戦いは五分五分と言った様子だった。
火力が高く高機動なフリーダムだが、肝心のパイロットに殺意がない。アスランはそんなキラを気遣って全力が出せない。
バレンタイン隊の方は連携を活かして戦っているが、初の宇宙での戦闘にまごついている。そして、バスターの性能不足が足を引っ張っていた。
フリーダム、ジャスティスの推力に負けるのは当然だとしても部下のGシリーズにも負けてしまっている。ミーシャの武器は高火力なため当たれば倒せる。だが、当たらない。ミーシャの射撃はキラとアスランにとって相当のストレスになっている。だが、どうしたって脅威度は他のGシリーズに比べて低くなってしまう。
ミーシャは悔しそうに顔を歪めながら引き金を引く。まるで置いてけぼりにされたような気分になる。当たらない。考えなしに撃てばすぐさまエネルギーが切れそうになる。キラはエネルギー切れなんて全く心配してないみたいな風にビームを連射してくる。回避するのに精一杯。
千日手みたいな状況にどれだけ経ったのか。部下が2回目の薬を飲んだあたりで、クサナギがメンデルの宙域に浮かぶワイヤーデブリに絡め取られた。クサナギからエールストライクとM1アストレイが出撃してくるのが見えた。救援に向かおうとしたアークエンジェルを、あらかじめ撃たれていたミサイルが襲う。完全な奇襲だった。
「ストライク……? 誰が乗ってるの!?」
ミーシャは思わずストライクに通信を繋ぐ。そして、悲しげに目を細めた。そこにはよく見知った顔が……ムウがいたのだ。
「フラガ少佐。なんでそんなとこにいるの。なんで教導隊にいないの」
「地球軍の真実ってやつに気付いちまってな。嬢ちゃんもこっちにこいよ。こっちの居心地も悪くないぜ?」
「誰が! 私はもう私一人の意思で人殺しはしないの!」
「誰かの意思に命じられるまま戦ってていいのかよ?」
命じられるまま戦うことが悪くて、自分の意思で戦うことがなんでいいことなのか。ミーシャにはわからない。だって、その意思が正しいなんて誰が保障してくれるんだ。
「そういう頭良さそうなことはさ! モビルスーツ降りてから言ってよ!」
ミーシャは激情に身を任せてストライクに向かって撃つ。あまりモビルスーツ戦の経験がなく、性能も同じ初期Gシリーズ。ミーシャにとってそう難しい相手ではない。盾に当たり、頭にあたり、足に当たって機能を奪った。しかしムウもさるもの。コクピットへの直撃はしっかり防ぐし、武装を失うような損傷は回避した。
「畜生……! やっぱり強いな!」
「ムウと……そこのへなちょこモビルスーツが特別弱いだけだよ!」
「――!」
ミーシャは船外活動を敵がいる中で実行する勇気ある人間を見つけると、狙いに気付いたムウの猛攻を掻い潜り、一撃で葬り去った。M1アストレイに乗っていたジュリが最後に見たのは、なんとか切れたワイヤーのデブリだった。
「――! 嬢ちゃん! もうこんな戦いは辞めろ!」
味方がまたミーシャに墜とされた。ムウは悔しい気持ちを噛み殺してミーシャに叫ぶ。もうムウは憎しみで引き金を引くことをやめたのだ。
「続けるよ、みんなが降伏するか、みんな死ぬまで!」
ムウは苦肉の策としてメンデルの中へと逃げ込む。
一瞬追おうとしたミーシャだったが、ドミニオンから離れることに気付く。舌打ちしてドミニオンに連絡を取る。
「バジルール少佐、ムウがコロニーに逃げこんだ!」
「ムウ……フラガ少佐ですか。殺れそうですか?」
アズラエルは内心舌打ちしてミーシャに聞く。なんで教導隊に送って今後の新兵の底上げをしているはずの男がアークエンジェルにいるんだ。
「なんとか」
「彼らも討伐の対象です。追ってください」
「しかしアズラエル理事!」
じっと、アズラエルはナタルを睨みつける。
「今ストライクは弱っている。討伐する絶好のチャンスなんですよ? まさかこの機会をふいにするつもりですか?」
「あなたはバレンタイン少佐の友人ではないのですか!」
「それはそれ、これはこれです。それに、私は彼女に死んで欲しいわけでも死んでこいと言っているわけでもありません。ただ、彼女なら出来る。できなくても死ぬことはないだろうと信じているんですよ。まぁ、私達なりの信頼というやつです」
「何をバカな……!」
「ねぇ」
ミーシャは若干イライラした様子で口論をぶった切った。
「二人共、私ただの子どもじゃないんだけど? ――バジルール少佐、早く決めて。引くの、押すの、どっち?」
ナタルは暫く考える。リスクとメリット、様々な視点で考える。そして、決断する。
「――バレンタイン少佐、追撃だ。不意打ちには十分に注意しろ。コロニー内部に通信は届かない。コロニー内では自己判断での戦闘を許可する」
「了解。……仕留めてくるね」
ミーシャはポツリとそうこぼすと、ムウを追ってメンデルの中へと向かった。
――ここが、世界の狂気の象徴だと、ミーシャは気付きもしなかった。
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