【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
コロニーメンデル内にミーシャがたどり着くと、そこは混沌とした状況になっていた。
見慣れないザフトっぽいモビルスーツ……ゲイツ、ストライク、フリーダムの三機がコクピットを開けて待機していたのだ。三機とも戦闘の痕跡が見て取れる。ミーシャのコンソールにはメンデル内部へ逃げ込む……というより、誰かを追うムウが映った。さらに、遠くの方では米粒みたいな小さなモビルスーツが二機、向かい合って立っている。パイロットは乗っていないようだった。妙な状況だった。ここにはミーシャのを除いて五機もモビルスーツがあって、陣営が違うのもあるのに全員コクピットを降りているのだ。
「……」
ミーシャはしばらく考える。このまま機体を撃ってもいいのかもしれない。
――今、ここに誰かの目はない。自由に戦えとも言われた。軍人としては撃つべきなのかもしれない。でも、今撃つのは卑怯な気がしてしまう。武士道なんてないつもりなのだが、どうしても忌避感がある。ただの機体なのに。……ああ、そうか。ここでモビルスーツを撃ってしまえば、パイロットはこの何もないコロニーで朽ちるしかない。ミーシャはそんな残酷な殺し方をしたくないのだ。
……それに、ミーシャはムウと話したくなったし、話すべきだと思った。――ずっと気になっていたことも聞きたかった。
アラスカ基地の自爆。その真実をどうしても知りたかった。アズラエルはやむを得ない反撃だと言っていた。メインゲートにまで入りこまれてどうしようもなかったと。
――だが、キラは明らかに騙し討ちされたかのように言っていた。どっちが正しいのか、聞いてみる必要があった。
ミーシャはコクピットに備え付けてある拳銃を手に取る。アークエンジェル時代のなんちゃって軍人だった時と違い、今は規定通りに拳銃を所持している。相応の訓練も受けて、生身でも近づかれなければ戦うことが出来る。弾もしっかり入れられるだけ装填してるし、替えの弾倉もちゃんと持っている。
「――」
逡巡は短く。ミーシャはコクピットを開けると、コロニーに降り立つ、メンデル内の廃棄施設に向かって走り出した。すぐに銃声がいくつも聞こえる。音のする方に走ると、やがてキラとムウ、そして仮面の男が銃撃戦をしている場面に出くわした。
「おやおや、まさか君まで来るとはな、ミーシャ・バレンタイン。頑健な鉄の鎧なしに君はちゃんと戦えるのかね?」
「その感覚――ヘリオポリスにいた強いヤツ! 鎧無しはそっちだっておんなじでしょ!」
ミーシャが拳銃を構えながら叫ぶ。キラもムウも拳銃を構えて向き合っている。
「……ふふふ、はははは! 実に運命的だな、ミーシャ・バレンタイン」
「ザフトが人の名前呼ばないでくれる? てかあなた誰?」
ミーシャが聞くと、クルーゼは楽しそうに名乗りを上げた。
「初めましてだな、ミーシャ・バレンタイン。私はラウ・ル・クルーゼ。ようこそすべての始まりの場所へ」
「――薬漬けのうちの部下より意味分かんないこと言わないでくれる?」
ミーシャがクルーゼを睨みながら言う。ムウとキラは椅子の影に隠れていて、その顔は見えない。ミーシャはクルーゼに視線を向けたまま叫ぶ。
「ムウ! 聞こえるなら答えて! アラスカで一体何があったの!?」
「……ほう、君はあの場所の真実が知りたいのかね」
「あんたには聞いてないんだけどクソザフト」
ミーシャは辛辣にクルーゼを拒絶する。対するクルーゼは楽しそうに含み笑いをするだけだった。
「嬢ちゃん……! アラスカは戦闘が始まってすぐ司令部はもぬけの殻だった! 俺たち防衛隊は最初っから捨て駒だったんだ!」
「ザフトを殺すためなら多少の人員は仕方ない……君はそう思うかね、魔弾の悪魔」
「うるさいって言ってんでしょ! そんなの私はどうしようもないんだから、知らない!」
ミーシャはいやいやと首を振って、思考を止めたかのような言葉を言う。
「ミーシャ! 君は、君は本当に地球軍を信用しているのか!? 君だっていつかは捨て駒にされるかもしれないんだ!」
キラの叫びにミーシャは顔を顰める。それはそうだ。いつかは自分もそうやって見も知らぬ誰かの為に、死ぬとわかっている戦いに身を投じなければならなくなるだろう。無意味に、誰の助けにもならずに死ぬかもしれない。……それも、覚悟の上だ。捨て駒にされるとわかればみっともなく泣き喚くかもしれない。脱走しようと画策するかもしれない。上の文句をひたすら言って作戦を決めたやつを呪い続けるかもしれない。けれど、作戦は決行するだろう。命令で人を殺してきたのだから、命令が死ねと言うなら死ぬべきだと思う。無意味に、死ぬとわかっている作戦に従事して命を散らす。そこまでやってようやく、今までの罪が清算される気がするのだ。
「……私は、それも含めて覚悟したんだよ、キラ! 殺してるのに殺されたくないなんて、そんなのは通らないんだよ!」
「ミーシャ!」
「今まで山ほど殺しといて今更命が惜しくなったの!?」
「僕たちは……!」
キラが思わず頭を出したところを、クルーゼが撃つ。
「キラを撃ったな!?」
ミーシャが即座にクルーゼに照準。引き金を引くがクルーゼはまるで引き金を引く瞬間が読めているかのように容易く身を翻し躱す。クルーゼは柱の陰に隠れてミーシャを狙う。直観に任せて、ミーシャは体を捻る。肩を弾丸が掠めた。パイロットスーツを引き裂き、切り傷のような跡をミーシャの肩に残した。慌てて柱に隠れると、息を潜める。
「まったく……生身での射撃も天下一品とは、この様子では嫉妬もできんな。才能とは実に恐ろしいな。……歴史は好きかね、ミーシャ・バレンタイン」
「最近勉強始めてね、あんたらザフトが核使えなくしたせいで10億人寒空の下で飢餓状態だってさ!」
「そうとも。血のバレンタインの報復だよ。この世界はいつもそうだ。わかるかね。仇を取って仇になる、血塗られた連鎖が延々と続く。血のバレンタインはその前の凶行の報復で、その凶行はとある件の報復で……君ももうその連鎖のうちの一つというわけだ」
「私は地獄でその分苦しむからいいの!」
「はっはっは! 地獄と来たか! ある意味で潔いな! しかし何もあの世に行かずとも地獄はある! ここがその一つだ!」
ミーシャは周囲を見渡す。ベンチに受付。標識には小さく番号が書かれている。ミーシャはこの施設に心当たりがあった。子供の頃何度か行ったことのある施設。病院だ。
「病院に見えるけど? なんかヤバい感染症でも……あ、S2インフルエンザだっけ? それの専門治療病院とか?」
「残念だが全く違うな。だがここが感染源だったのだよ」
「感染源?」
「そうとも。人の業、人の夢、人の欲望を肥大化させる、人類全体を病ませる欲望の感染源……!」
キラはその言葉で何かを察した様子だった。
「……ここってもしかして」
「そうともキラ君! ここは遺伝子診療所……コーディネーターを生み出した場所の一つだ!」
「ここで……コーディネーターが?」
ミーシャが聞く。
「そうとも。ここで人々は子供に夢を託す。子供に理想を押し付けた。高い金を掛けて他者より先へ、他者より上へ。……だが夢はそう簡単に叶わないから夢なのだ」
――ようこそ。ご注文はいかがしますか?
――流産!? 高かったのに何考えてるんだ!
――目の色が違うわ!
まるでプラモデルのように子供をデザインし、生まれられなかった命を嘆く前に消費した金を気に掛ける。いざ産まれれば、祝福する前に注文と違うとクレームを叫ぶ。
「ここでは子供を完全に調整するための研究が行われていた……。無数の命が実験の為に消費され、この世に生まれることなく死んでいった……。キラ君、君だって無関係ではない。何せ関わっていたのが君の本当の親で……君がその唯一の成功体だからだ」
キラは一瞬、思考が真っ白になる。隣のムウが即座に言い返す。
「与太話を信じるな! こんな廃棄コロニーが都合よくお前に因縁がある場所なんて、そんなことあるわけないだろ!」
「これを見てそう言えるといいが」
そう言ってクルーゼは一枚の写真をキラのほうに投げた。キラはほとんど何も考えず、頭を出してその写真を拾う。クルーゼは撃たなかった。
その写真には二人の研究員が映っている。一人は若い男だ。そしてもう一人は女性。鏡でよく見た顔にとてもよく似た、女性がいる。
「……これ」
「君の本当の親だよキラ君。君は完璧な調整を受けた最高のコーディネーターだ。調整する際において最も不確定要素を孕む母体を不要とした、人工子宮で生まれた人間。それが君だよ」
「できた作り話だな!」
ムウはクルーゼの話を止めるべく射撃を幾度か繰り返す。しかしクルーゼは話すことを辞めなかった。
「君は人の業の、人の夢の果てにあるものなのだ! 穢れ、歪んだ技術の成功例なのだ!」
「うっさいよ! なんだって使い道でしょ!」
ミーシャも銃撃に参加する。クルーゼはせせら笑ってミーシャに問う。
「使い道? こんな技術の正しい使い道などあるのかね?」
「私がもし戦争でお腹がどうにかなっちゃったとき! その時人工子宮の技術があれば、子宮が吹っ飛んじゃっても卵子さえ無事なら子供を授かれる!」
「……ほう」
クルーゼは思わず感心したような声を上げた。全く想像もしていなかった……そして、想像以上に『正しい』使い道だった。今でも代理母という制度がなくはない。だがクルーゼはあれを『技術』と認めるつもりはない。この世界の闇を深くした一つだと思っている。
「安全確実に子供が産まれてきてくれるなら、それに越したことはない! その技術が安全かどうか……キラがホントにそうなら、キラが生き証人になってくれる!」
ミーシャの言葉に、クルーゼは思わず笑みを見つける。闇の中に放り込まれたはずなのに、それでもなおミーシャの心は善性を残している。稀有なことだった。
「君は良いところを見つけるのが得意のようだな。つくづく君が血に塗れることになったのが惜しい」
「あんたに褒められてもなんも嬉しくないし! 人の元カレいじめないでくれる!?」
「元カレ……?」
クルーゼは思わずミーシャとキラを見た。それからニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「キラ君。君はずいぶんと悪行に手を染めてしまったようだな。こんな子供に手を出すとは……。今のご両親が聞いたらさぞ悲しまれるだろうな」
「またキラをいじめたな! ぶち殺す!」
ミーシャはクルーゼのほうに体を乗り出すと撃たれそうになっても射撃を続けた。ミーシャは直観と反射神経に任せて回避をしながら射撃する。ミーシャの身体に細かい傷がたくさんできる。
「君は激情家だな。君のような人間がこの戦争を激化させる!」
「うるっさいなぁいちいち! 偉そうに言わないでよ!」
「偉そうに、か……。ははは……! 私にはあるのだよ! この宇宙でただ一人、人類を裁く権利が!」
「は!? クスリでもキメてんの?」
クルーゼは乱暴な言葉に、不愉快そうに口元を歪める。ミーシャの物言いはいちいち気に障る。
「私はムウ・ラ・フラガの父、アル・ダ・フラガのクローンなのだよ! ヤツの歪んだ欲望の果てに生み出された私は、この宇宙を審判する権利がある!」
「じゃあその裁判はあんたが死んで終わりだよ!」
「その物言い――君はまるで自分が業とは無関係だと思っているな?」
「違うって? 私はナチュナルだ!」
「そうとも! ナチュラルだとも……! 天然自然の天才を作るべく生み出された人類の一人だとも!」
ミーシャは怪訝な顔をする。
「……どういう意味」
クルーゼはこの世界の歴史の、隠された一片をミーシャに語る。クルーゼも普通の出自なら知る由もなかっただろう。奇しくも、古くから資産家であるフラガ家の一員として過ごした時期があったからこそ知れた事実だった。
「まだコーディネーターという言葉生まれるどころか、人工受精という言葉すら想像の埓外だった時代、メンデルが遺伝の法則を、ダーウィンが進化の法則を世に生み出した。お嬢さん、理科の時間に教わらなかったかね?」
「……進化? ――たしか……『ある要素が増える』んじゃなくて、『その要素を持たないやつがみんな死んだ』ってこと……だったような」
「勉強は苦手かね」
「うるさい! みんなが勉強してる間人殺ししてるんだからしょうがないでしょ!」
その言い訳のような叫びはキラとムウの心に深い傷を与える。そうだ。ミーシャの同年代はみんな今頃勉強して遊んで、自由に過ごしているはずなのに。
「ははは……悪かったな、お嬢さん。だが苦手な割に本質は合っている。そうとも。進化とは――自然とは、適応できない生き物全てを殺す残酷なものなのだよ。だから遺伝子は常にとんでもない変化を齎すことを良しとする。――例えば……ある日突然『特定の色を識別できない』ことが生存に有利に働く可能性を除外できないからだ」
もちろん、その生命の仕組みは時として残酷な結果を生物に齎す。種全体が生き残るためなら、ほんの少数が生存に著しい不利を被ることすら許容する……遺伝子とは、生命とは、在り様からして優しくできていないのだ。
「それが、どうしたのさ!」
「はるか昔、君のご先祖様が考えたのだよ。『犬を品種改良するように人を変えることができたなら』――その果てにいるのが君だ!」
「――だから、どうした! パパもママも優しかった!」
「それは優しいだろうさ! 君はこんな子供の時から大人顔負けの才能を示している! ご両親が存命の時もさぞや活躍したのだろうね! 才能のある子供を可愛がらない親などいないだろうさ! だが君の血筋は無数の死の上にある……可愛い子犬を作るために無数のそうでない犬が犠牲になるように!」
ミーシャは額に汗を流しながらクルーゼに銃を撃つ。
――心当たりがないわけではない。両親は実家の……バレンタイン家についてほとんど教えてくれなかった。資産家の子女だというのにこの年になっても家のことを全く知らないなど普通はあり得ないはずだ。……そして、一度だけ見せてもらった莫大な量の家系図……。一夫多妻で、たくさんの子供がいて……。そんな代が延々と続く家系図だ。だが、それは過去のことだ。祖父母の代にはもうそんなことはなかったのだ。
「下手な嘘つくな! そんな壮大な計画あるならなんで私には何も教えられないの! ママは言ってた! 好きな人と恋人になって、好きな人と結婚しなさい! って!」
「コーディネーターが世に生まれ、バレンタイン家の品種改良はその必要をなくしたのだよ。品種改良の方法は、こんな迂遠なことをしなくてもできるとな! だが、成果である君の能力は本物だ。金で、コネで、ありとあらゆる手段で集めた優秀な遺伝子を天然自然のまま掛け合わせて『進化』を促す。その果てにあるのが君だ」
「別に私そんなにすごい人間じゃないし!」
「殺し合いで生き残り続けているのに? そもそもミーシャ・バレンタイン。君は同年代に勝負事で負けたことがあるのかな?」
ない。ミーシャは友達と勝負をして負けた経験がほとんどない。じゃんけんすら感覚に任せると大抵は勝つくらいだ。元々友達が少なく、ルミナくらいしかいなかったのも勝ちすぎるからという側面が多い。
「そんなの証拠になるもんか!」
「君はあらゆる分野で才能を発揮するだろう……凄まじい天性の才能を! 知れば誰もが望むだろうな!」
「それが――どうした! 私は私だ!」
ミーシャはクルーゼの言葉にも堪えた様子がなかった。クルーゼは苛立ちのまま言葉を放つ。
「……計画は潰えたというのに君の血は凄まじいな。優秀な人間を見つけるのが特にうまいらしい」
ミーシャは一瞬ぽかんとして、それから顔を真っ赤にして激昂した。
「今お前、私とキラのこと侮辱したね? ぶち殺す」
ミーシャはひたすらにクルーゼに向かって銃を撃つ。言いたいことはよくわかる。かつての貴族が美男美女揃いだったのと同じことを、長い時間をかけて行ったとそう言いたいのだろう。だからどうした。それの何が悪い。人がステイタスを見て結婚して子供を産むのとどう違う。
ミーシャは怒りで思考を塗りつぶしながら、危険な思考をしていることにも気付かずクルーゼと撃ち合う。
「君はコーディネーターを間違った存在だと思うかね?」
「なにを! 私をブルーコスモスにでもしたいのか! その手には乗らない!」
「コーディネーター同士は子供が出来にくいと知ってもかね?」
「はぁ?」
コーディネーターが子供が出来にくい? そんな欠点だれも教えてくれなかった。
「第2世代……つまり、両親がコーディネーターの子供同士はかなり子供が生まれにくい。第三世代……祖父母の代に至るまで全員がコーディネーターの場合、子供は絶望的だ。……さて君はコーディネーターは間違った種だと思うかね?」
ミーシャはしばらくその質問を考えた。考えて、また銃を撃った。
「間違ってなんかない! でも弱い種族だと思うけどね!」
「――ほう」
コーディネーターは一般的に強い種族だと言われる。頭脳、体力、何もかもナチュナルより上だと。だが幼いこの子はコーディネーターが弱いと言い切った。
「パパが言ってた。今まで絶滅した生き物はみんな弱い生き物だって。弱いから滅んだ。……滅ぶ生き物はみんな弱い。だから、遠からず滅ぶコーディネーターは、弱い種族なんだよ!」
「なるほど。その考えは実に自然淘汰的で……興味深い。君ほどの子がブルーコスモスになればより世界は破滅的になると思ったのだがね」
「アズラエルさんと一緒にしないでくれる!? 私はコーディネーターアンチじゃないからね!」
「君の父君はそのコーディネーターアンチだったようだが?」
ミーシャは驚くほどその様子が見えないが、ミーシャの父クラウスはそれはもうギンギンのブルーコスモスだった。それも、排除する方向ではなく、見下す方向で凄まじく差別していた。
「コーディネーターを滅ぼす? 愚かなことを言ってはいけないよ。彼らは保護しなければならない。彼らが存続できるように、ちゃんと管理して繁殖させないと……弱い彼らは絶えてしまうじゃないか」
……ブルーコスモスの会合で自分の父がそんな持論を展開していたと、ミーシャは知らない。彼女の前の父は優しく頼りがいがありつつも、厳しいところは厳しい、そんな父親だったのだ。
苦虫を噛み潰したような顔で、ミーシャは叫ぶ。半ばヤケクソだった。
「パパはもっとスマートにやるの! 私と違って無駄に人殺ししたりしないんだから!」
「GシリーズのGがジェノサイドの頭文字でもそう思うかね?」
ミーシャは顔を顰める。できれば知りたくなかった真実である。
「別に、武器作っただけだし。あんた銃で殺人起こったらその銃作った人に責任あるとか思うタイプ? カラシニコフさんとブローニングさんとかが諸悪の根源って? バカじゃないの?」
「ああ言えばこう言うな……!」
「それはそっちでしょクソザフト! ネチネチネチネチ!」
「真実を君に伝えているまでだ!」
「真実だからってなんでも言っていいわけ無いでしょ!」
「人の業である君が無知でいることは許されない……ただの子供ならばともかく、こうして戦場に出ているのならばな!」
「うるっさいなぁ! 誰に許されないっていうの? お前? 別に許してほしいなんて思ってないよ! ――もう死んじゃいなよ!」
ミーシャとクルーゼが撃ち合う。お互いにかすり傷が増えてきたころ、キラが手にした拳銃を投げつけた。
「!?」
クルーゼは殺気のないその攻撃に反応できず、顔に当たってマスクが剥がれ落ちる。
「え」
「若い私が老人のような顔で驚いたかね。遺伝子とは実に不思議でな。コーディネーターのように、弄れば弄るほど歪になっていく。――私の老化は人より早い」
「それで同情引こうって?」
ミーシャは撃ちながら叫ぶ。完全に兵士となっている彼女を見てキラもムウも悲しげに歪む。
「事実を言ったまでだ……!」
「老化の心配なんてもうしなくていいよおじいちゃん! ――ここで殺す!」
「ここで君に討たれるわけにはいかないのだよ、お嬢さん! 君には是非プレゼントを受け取って欲しいのでな!」
クルーゼは退路をじわじわと進みながら叫ぶ。
「プレゼント? どうぜ爆弾入りでしょ? なんだろうと撃ち落としてやる!」
「君だけは、そんなことできないさ。それに爆弾などではない。鍵さ」
「鍵ぃ?」
「最後の扉を開く鍵……ハハハ! 楽しみだよ! また会おうお嬢さん、また戦場で!」
「クソ! ――キラ、ムウさん、無事!?」
ミーシャはクルーゼが去った方向にヤケクソで2、3発撃つと、銃をしまって二人に駆け寄る。
「ムウさん、怪我してる!」
「こんなのかすり傷だ……! それよりも嬢ちゃん、なんでドミニオンに……」
「なんでって普通に配属されたんだよ」
ムウもキラも、目の前の小さな少女が今も地球軍にいることを改めて認識した。
「ミーシャ、僕たちと一緒に行こう。ラクスもいるんだ」
「アイドルがなんで戦艦乗ってるの? 戦場コンサートとか?」
ミーシャはラクスの職業から導き出されるごく普通の想像をした。よもや旗頭をやっているとは思うまい。
「――残念だけど足抜けする気はないよ」
「なんで……」
「だってそっち行ったって戦争やめられるわけじゃないでしょ?」
キラは押し黙った。戦力の限られるキラたちに、子供だからとミーシャを休ませておく余裕はない。アークエンジェルに来たところで、戦わなくていいよ、ゆっくり休んでね……そう言えるわけがなかった。むしろ地球軍にいる時より休息の時間は減るかもしれない。
「それなら、なんで君は戦ってるんだ。地球軍にはたくさん兵士がいるじゃないか」
「私が一番強いからだよ」
ミーシャは自信たっぷりに答えた。そして、それは紛うことなき真実だった。
英雄魔弾の天使を後方に引っ込めておくほど、地球軍は強いわけではない。たとえ戦後司令部が軒並み首になるとしても、ミーシャの輝かしい戦績と実力は、確実に地球軍に勝利を齎す。ビクトリアに残留していたザフトの占領軍を一方的に殲滅した腕は伊達ではない。
アークエンジェルではやむにやまれず、彼女しかいないから戦わされて。
地球軍に残ってからはその実力が熱望されて戦う。
彼女はもはや逃れられないところまで来ていたし、逃れるつもりもなかった。両手両脚血の沼に浸かって溺れそうになったとしてもミーシャは止まらない。戦い続けると決めたのだ。
「キラ、ムウ。二人共元気そうでよかった。ムウは怪我してるけどね。――お願いだから、ドミニオンの前に来ないでね。……二人を殺すのは嫌だからさ」
ミーシャはそう言うと二人に別れを告げる。その背を、キラは見つめる。彼女はアークエンジェルを沈めようとするだろう。現に、マユラもジュリももう殺された。キラやアスランはやられることはないだろう。だが、キラほど強くない人間は、彼女の射程に入るだけで死ぬ。……ここで、ミーシャを――。
彼女はしばらく離れてから、何かに気付いたように振り返った。
「キラこそ……こっちこなくて大丈夫? アズラエルさんはなんとか私が抑えてみるから」
「僕はいいよ。いいんだ……」
キラは完全に心ここに有らずだった。たとえ一瞬でもミーシャを撃つことを考えた自分を撃ちたかった。
「嬢ちゃん、もう勘弁してやれよ。俺達はしばらく休んでから戻る……。頼むから、もうこっちを殺すのはやめてくれ」
ムウは恨み言を言わなかった。オーブ出身の未熟なパイロットを二人も討ったミーシャを、ムウは恨んでいなかった。戦場に出た以上、仕方ないところはあるのだと彼は割り切っていた。
「……そんなの無理。だって命令だもん」
「命令命令って……! ミーシャ、命令なら誰だって殺すの? ……アークエンジェルも?」
ミーシャは顔を悲しげに歪ませる。それから、顔を背けるときっぱりと言った。
「――うん。だって、キラもアークエンジェルも、もう海賊だもん」
「僕たちは海賊じゃ……!」
「たった数日でユニウスセブンから水盗ること決めたラミアスさんが艦長の船で?」
ミーシャの言葉に、キラは衝撃を受ける。自分たちが正義などと、キラは間違っても言う気はない。それどころか地球軍に討たれることも納得している。だが面と向かって海賊と言われるとは思っていなかった。そしてそれを正しいと思ってしまう自分にも驚く。
「……今は違うよ。でもあと数ヶ月もしたら、もしかしたら物資のために軍を襲うかも……。キラ、ムウ。そうなる前に、私達が止めてあげる。――その命ごと」
ミーシャはそう言うと踵を返して駆け出した。涙がポロポロと横に流れて落ちた。
「……」
キラとムウは、ミーシャが消えた通路をじっと、見つめていた。
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