【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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解放される力

 ミーシャはバスターに乗り込むと、今更ながらにクルーゼと撃ち合った時にできた傷が痛み出した。

 

「キラ達とも戦闘にならなくてよかった」

 

 あのあとキラ達と戦闘になっていたらもっと傷を負って身動き取れなかったかもしれない。そうなればバスターは取られるし自分も死ぬしで大変なことになっていた。生身で戦うなんて自分には十年早いと後悔する。ミーシャはその場のノリで行動すると痛い目を見ると学習した。

 

「それにしても……バレンタイン家ってそんなことしてたんだ……? 帰れたら調べてみるかな?」

 

 ミーシャはバスターを発進させると、絶賛戦闘中のドミニオンの近くまで移動する。ジャスティスをフォビドゥン、レイダーが抑え、カラミティがアークエンジェルを砲撃していた。だがみたところ押されている。今フォビドゥンの大きな盾がジャスティスに切り裂かれた。

 

「ドミニオン、戻ったよ!」

「バレンタイン少佐! 無事か!」

「多分! それから報告があるの! 今近くにザフトがいる! 今襲われたらヤバい!」

「ザフトが……? そんなの誰に聞きました?」

 

 疑わしい表情でアズラエルが聞くが、ミーシャは続けて言う。

 

「コロニーの中でクルーゼっていうザフトの白服と会った! 撃ち殺してやろうと思ったんだけど無理だった!」

「モビルスーツを降りたのか!? 何を考えているバカモノ!」

 

 ミーシャは叱られた子どものようにビクリと肩を竦めた。

 

「全く……。何やってるんですかミーシャ。あなたが強いのはモビルスーツに乗ってる時だけですよ?」

「ご、ごめんなさいバジルール少佐、アズラエルさん」

「全く……! とにかく報告はわかった。一旦退却して態勢を立て直す! バレンタイン隊、撤退の援護だ!」

「ちょっと待ってください」

 

 アズラエルはナタルの命令に異議を唱えた。ナタルは自分の職責を侵され、苛立ったようにアズラエルを睨む。

 

「ここは戦場です。ここでの口論が死を招くかもしれないのです」

「それはわかっています。しかし栄えあるアークエンジェル2番艦が初陣でなんの成果も得られませんでした……は通じません。致命的な失敗は死を招く……ビジネスでは常識です」

「生きていればどうとでもなります」

「ソレはあまりに短絡的な意見ですねぇ。評判、成果。これが意外と馬鹿にできない。あなた、勝てる戦しかしないタイプ?」

「軍人にそれを聞きますか? この場にいる全員の命を預かっているのです。もちろんあなたのもです」

 

 アズラエルとナタルは戦場ど真ん中で意見をぶつけ合う。これに割を食うのはバレンタイン隊の面々である。刻一刻と変化する戦場。一秒だって惜しい時に頭二つが喧嘩する。キレそう。

 

「ああもう! 私今艦長が船に一人しかいない理由実感した!」

 

 ミーシャはバスターで戦場に参加すると、大立ち回りをするジャスティスと戦い始める。

 

「戦果上げりゃ文句ねぇんだろ! アークエンジェルを落とす!」

「撤退なんてカッコ付かねぇだろ! 滅殺!!」

「殺す殺す殺す! うらああああああああ!」

 

 部下の3人もミーシャの後方支援を受けて連携してジャスティスとアークエンジェルと戦う。しかし本気になったキラですら倒せなかったアスランはそう簡単に落とせない。

 そんな時、ミーシャのレーダーに赤い点が新たに表示された。その方向に視線を向けると、彼女は舌打ちする。

 

「ドミニオン! 喧嘩するのもいいけど早く決めて! ザフトが来た!」

「データベース検索……ヴェサリウスです!」

「どっちと戦うかまで喧嘩しないでね!」

 

 ミーシャが叫ぶと、アズラエルとナタルはお互いを睨み合う。折れたのはアズラエルの方だった。

 

「……ま、気に食わないですがこの場は艦長さんの意見に従いましょう。責任は取っていただきますが」

「ここで死ねば降格も左遷もさせられませんよ」

「それは実に困りますねぇ」

 

 アズラエルは不敵に笑うと自分の席に座り直す。ナタルも同じように艦長席に座り直すと再度指示を出す。

 

「後退してヴェサリウスを射角に収める! モビルスーツ隊は引き続きアークエンジェル討伐を続行、本艦はヴェサリウスを撃つ!」

「……この船だけでヴェサリウスと戦うつもりですか?」

「私はできると考えています」

「――アークエンジェル上がりの艦長さんは度胸も並外れてますね」

 

 アズラエルは恐ろしいものを見るような目でナタルを見る。

 ザフトとの戦闘が始まろうとするその瞬間、ヴェサリウスから通信が入った。

 

「こちらザフト所属ヴェサリウス。戦闘開始前に捕虜の返還をしたい」

 

 その放送は緊急救難チャンネルでされていて、その場にいる全員が聞くことができた。放送開始と同時、コロニーからフリーダムとストライクが出てきた。ストライクは即座にアークエンジェルの格納庫に引っ込んでいった。

 

「どういうつもり?」

「捕虜の返還が完了したと同時、本艦は地球軍所属艦に攻撃を開始する。……これは人道的観点からの放送であり……地球軍所属艦に置いては紳士的な対応を期待する」

 

 クルーゼの声だ。ミーシャは不審に思うも、ヴェサリウスの前に進路を取る。ややあって、本当にヴェサリウスから避難ポッドが射出された。

 

「罠……?」

 

 全員がその場で訝しんでいた。そこで、避難ポッドから助けを求める声が聞こえた。

 

「――助けて! 私、フレイ! フレイ・アルスター! 助けて……! 助けてミーシャ!」

 

 ミーシャは即座に行動を開始した。ヴェサリウスに向かってブースターをふかして救難ポッドに向かう。

 

「バレンタイン少佐! 本当にアルスター二等兵かどうかまだわからん! 戻れ!」

「肌重ねた女の人の声聞き間違えるはずないでしょ!」

「そこを狙われてる可能性があるから止まれ!」

 

 ミーシャは悔しさに顔を歪ませて機体を逆噴射させてその場に停止した。向こうからフリーダムがやってきているのが見える。ブリッジではどういうこと……? という困惑の顔をアズラエルが浮かべていた。

 

「助けて……! 助けてよミーシャ!」

「――これがもしかしたら敵かもしれないの!?」

「録音かもしれん」

「なら通信すればいいでしょ!」

「それは……そうだが」

 

 ミーシャは即座に救難ポッドと同じ周波数で通信を始める。国際救難チャンネルである。この場にいる全員にミーシャの声が聞こえる。

 

「フレイ! 聞こえる!?」

「ミーシャ!? ミーシャなの!? 私鍵を持ってるの!」

「鍵?」

 

 フレイの言葉に、クルーゼの顔が嫌でも思い浮かぶ。

 

「戦争を終わらせる鍵って言われたの……! これがあればミーシャ、あなたが戦わなくてもよくなるわ!」

 

 そんなものがあるわけがない。フレイは錯乱しているのかそう思い込んでいるのか……。どちらにせよ、ミーシャのやることは変わらない。フレイを守るんだ。

 

「もう大丈夫! 安心して、私が守ってあげる! ……キラ! お姫様は私をご指名だよ! 寄ってこないで! バレンタイン隊! 返事はするな! フリーダムを撃て!」

 

 ミーシャの命令で、オルガ、シャニ、クロトの3人は向かってきたフリーダムに攻撃を加える。いつもの神懸った回避はどうしたのか、次から次へと被弾する。

 

「キラ? キラは生きてるの?」

「一応ね。艦長! 回収して良いでしょ?」

 

 ナタルは国際救難チャンネルで喋りまくるミーシャに頭を抱える。だが機密やらには気を遣い、致命的なミスをしないあたり怒るに怒れない。しかも救難対象者と話すのは軍規的にも問題はなく……。悪知恵付けたな、とナタルはつい思ってしまう。軍規を逆手に好き勝手する様子は、軍規のために苦しんできた彼女を見てきたナタルにとって、嬉しいような、呆れるような、そんな気持ちになった。

 

「許可する」

「了解!」

 

 ミーシャは国際救難チャンネルを閉じると、慣性で移動してきた救難ポッドを掴む。これで接触通信でフレイと話せるようになった。

 

「フレイ、なんでザフトにいたの?」

「……アラスカでクルーゼって人に捕まって……」

「――辛かったね」

 

 ミーシャは慰めるようにして言う。何をどうしてザフトのクルーゼがアラスカにいたのかはわからない。だが味方の基地にいていきなり敵に出くわして捕まるなど、フレイの恐怖はいかほどか。想像もできないくらい怖かったはずだ。

 ミーシャはドミニオンに戻ると同時、ドミニオンも本格的に撤退を始める。アークエンジェルとジャスティスも、中破まで追い込まれたフリーダムを回収してこっちを追撃しようとはしなかった。

 ミーシャはコクピットから降りると、同じように降りてきた部下を見る。

 

「全員今から休憩。指示あるまで待機して」

「隊長はどうすんだよ?」

「フレイを出してあげて、バジルール少佐のところに連れてく」

「お知り合いですか?」

「アークエンジェル時代の……元カノ? いやでもフレイとは身体だけだったし……?」

「どうなってんだよアークエンジェル……ロックすぎ」

 

 シャニがアークエンジェルのあまりの事態に慄く。ミーシャは苦笑すると、しっしっと追い出すように手を振る。

 

「ま、そういうわけだからナイト役は譲れないよ。行った行った。しっかり食べてしっかり休みなよ?」

「そりゃ隊長だってそうだろ……。とっとと医務室行けよ」

 

 ミーシャは自分の傷だらけの体を見た。もう大体の血は止まっている。なら動ける。問題ない。

 

「大丈夫大丈夫。とにかくフレイを安心させてあげないと」

 

 ミーシャはそう言うとタラップを蹴って開封中の救難ポッドの前まで浮いた。しばらくして、救難ポッドが開く。中からザフトの制服を着たフレイが出てくる。動揺が走るクルーを押しのけるようにしてミーシャが飛びつき、フレイを抱きしめた。

 

「フレイ……! よかった……! 辛かったね、怖かったね……! もう大丈夫だよ!」

「ミーシャ……! ミーシャ……!!」

 

 フレイはミーシャの体を抱くと、わんわんと小さな子供のように泣き出した。

 

 ――

 

 それからフレイが泣き止むまで待つと、ブリッジに移動した。

 

「バレンタイン少佐以下2名、出頭しました」

「ご苦労。……アルスター二等兵、よく帰ってきた」

 

 ナタルは暗い顔をするフレイに近付くと、その体を抱きしめた。フレイはナタルに抱きつくと肩を震わせて泣き始める。

 

「……うう……うう……!」

「本当に、よく生きて帰ってきた」

「――感動の再会してるところ悪いんですがねぇ」

 

 そこに、ぬるっとアズラエルが口を出した。フレイは怯えた様子でアズラエルを見る。

 

「なに……なんですか」

「『戦争を終わらせる鍵』……見せてくださいません?」

 

 フレイはナタルとミーシャを見る。ミーシャはなんとも言えない顔をして、ナタルは明らかに眉を顰めている。

 

「それがなんであれ、僕くらいでないと活かせないと思うんですけど」

「……わかりました」

 

 フレイはおずおずとデータディスクをアズラエルに渡した。ラベルもなく、見ただけでは内容は伺い知れない。

 

「与太話か気を引くための嘘かと思ったのですが……なんか、本物っぽい? まぁいいです。ミーシャ。私はこれ、中身確認してきますので」

「うん、よろしく。フレイ、もしほんとに戦争終わらせられるなら、勲章モノだよ!」

 

 ミーシャが明るく元気付けるように言うと、フレイは顔を俯かせる。

 

「――アルスター二等兵、個室にて事情聴取する。バレンタイン少佐、立ち会え」

「了解」

 

 ミーシャとナタル、フレイの三人はドミニオンにある小さなテラスのような部屋に入ると、扉を閉めて鍵をかけた。

 

「フレイ、大丈夫? 何もされなかった?」

 

 ミーシャが心配そうに聞く。

 

「ええ、大丈夫よ。何も……」

 

 されなかった。そう答えようとして、フレイの脳裏に今までのヴェサリウスでの生活が一気に蘇る。まるで閃光が走るかのような速さで、その場その時に立ち返るように鮮明に。フレイはじんわりと目に涙を浮かべる。ミーシャを抱き寄せると、ぎゅう、と痛いくらいに抱きしめる。

 

「フレイ……?」

「何も、されなかった……でも怖かった……! ううっ……うっ……」 

「……フレイ……」

 

 何もされなかった。信じていいものか……。ミーシャはナタルを見る。ナタルは痛ましげな顔でフレイを見ていた。ミーシャを気遣って何も言わないのか、本当に何もされていないのか、判断がつかない。

 

「おねがい、これだけは教えて。本当に何もされなかったの?」

 

 泣き声が強くなる。それからしばらくして、蚊の鳴くような小さな声でフレイはその名前を言った。抱きしめているミーシャには、その名前がよく聞こえた。

 

「クルーゼって人に……守ってもらえてたの……」

 

 ミーシャは目を見開く。クルーゼ。ラウ・ル・クルーゼ。仮面を被った理屈っぽい男のことを思いだす。

 

「あ、あの……あのクソザフトが……?」

 

 ミーシャはフレイを強く抱きしめる。

 偉そうなことを言って、あんなに御大層なこと言って、世界全部を呪ってるようなヤツが? フレイを悪意から護ったというのか? にわかには信じられない。だが、フレイが言うなら信じるしかないだろう。

 

「――そっか」

 

 ミーシャは慈愛の目でフレイを見て、強く彼女を抱きしめる。

 

「あいつ……いいとこあるじゃん。……でも、戦場で出会ったら殺すしかない。……恩人を殺す羽目になるけどさ、ごめんね、フレイ」

 

 ミーシャが申し訳なさそうに言った。だが、フレイは声を震わせて首を振った。

 

「いいの、いいのよ……。ミーシャの負担にはなりたくないの……」

 

 板挟みになるミーシャを見たくなくて、フレイは慌ててそんなことを言う。

 

「……ザフトに良い奴なんて一人もいないって思ってたけど。捕虜に手を出しちゃダメってのを守る奴がいるとは思わなかった。珍しいんでしょ? ナタルさん」

「ああ。……もし、実際に手を出されていたとしても、本当に問題になるかはわからんしな」

 

 本当に珍しい。女の身で戦場にあればどうしてもついて回る恐怖だった。そうなりかねないし、なってもおかしくない状況だったフレイ。無事だったのは奇跡だろう。

 

「ふふふ。問題にしてやる方法が一個だけある」

「……言ってみろ」

「ザフトを負かす。完膚なきまでに叩きのめして負けを認めさせる。そうすれば戦争犯罪したやつのやったことは犯罪になる!」

 

 ナタルは制帽を被り直す。否定はしなかった。

 

「完全なる勝利か。まぁ、そうなれば確かに戦争犯罪は裁かれるだろう。……ミーシャ。アズラエル理事に渡した『鍵』。お前に検討が付くか?」

「さっぱり。超強い武器とか?」

「……当たらずとも遠からず、だろうな」

 

 てっきり否定されると思っていたら、ナタルはなんとも言えない反応をした。

 

「どういうこと?」

「フリーダム……ジャスティス……あの二機。明らかに継戦能力が高すぎる」

「キラが上手いとか……いやでも確かに」

 

 ミーシャはキラの戦闘を思い出す。というか今までの戦闘を思い出す。

 敵も味方も、Gシリーズに乗ったが最後エネルギー管理と一生付き合っていくことになる。ミーシャは当然のことながらキラもしょっちゅうエネルギーが切れかけるし、なんなら戦闘中だというのにフェイズシフトダウンを起こすこともあった。Gシリーズと戦うなら、実弾兵器で攻撃して敵のエネルギーを削るのが戦術上有効なくらい電力事情はキツかった。

 ……だがフリーダムもジャスティスも、エネルギー切れを気にした様子は全く見られない。

 

「……でもそれがどうしたの?」

「理論上それを可能にする技術が一つだけある。――核動力だ」

 

 ミーシャは首をふる。つい最近その技術に関することを勉強したばかりなのだ。

 

「アズラエルさん言ってたよ? ザフトが地球に気が狂ってるとしか思えない量のニュートロンジャマーを埋め込んだって。それのせいで核使えなくなったって言ってた」

 

 理論上、ニュートロンジャマーは三個あれば地球全土を覆うことができた。しかし実際にエイプリルフールクライシスの際地球に埋め込まれたニュートロンジャマーの数は……無数。地球全土に無茶苦茶な数を埋め込んだのだ。

 

「使えなくしたなら次に何をするか……自分たちだけ使えるようにする、だ。つまり……」

「ニュートロンジャマーを無効化する装置がある?」

「……おそらくあのデータディスクはその設計図か理論。アズラエル理事に核を渡したらどうなるかわかるだろう?」

 

 ミーシャは顔を曇らせる。趣味はコーディネーターイビリですと言わんばかりの筋金入りのコーディネーターアンチである。コーディネーターならたとえミーシャと同い年の女の子や、自分の息子と同い年の子供でも脳みそ開いてインプラント埋め込んで奴隷にするくらいはやりそうな男だ。核を使えるようにする技術なんて渡したら何するかなんてわかりきってる。

 核ミサイルの雨が降る。

 笑顔で核ミサイルを満載した戦艦に指示を出すアズラエルが目に浮かぶようだ。

 

「……私、次に世界大戦が起きるとしたら、その人たち石と棍棒で戦うんじゃないかな」

「ふむ……そうやって戦って、獲物が多い山やら魚が沢山住む川を奪い合うのだろうな」

 

 二人してため息をつく。フレイの背中を撫でる手は止めず、会話は続く。

 

「――止めれそう?」

「まぁ……無理だろうな。知っての通り私もお前も軍人だ。流石にアズラエル理事が友人のお前に核ミサイルを持たせるとは思わないが……」

「別に命令ってんなら核ミサイル撃ち込むのだってやるけどね。プラントを直接やるんじゃなきゃね」

「――アズラエル理事が軍事施設で止まると思うか?」

 

 ミーシャは1秒たりとも考えることなく首を振る。親しい友人だからこそ彼の行動はよくわかる。やるに決まっている。初手プラントへ核攻撃でも「やっぱりな」としか思えないくらいである。

 

「……とにかく、誰かが核ミサイルを止めてくれることを祈りつつ、消極的戦闘で成り行きを見守る……これでどう?」

「高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に……か? 賢しいことを言うようになったな」

 

 ナタルはミーシャの頭を撫でる。振り払うことはしなかったが、恥ずかしそうだった。

 

「もう。やめてよナタルさん。……フレイ、もう落ち着いた?」

「……うん。ありがとう」

「気にしないで。ねぇフレイ、ベッドで慰めてあげよっか?」

 

 ミーシャが純粋に心配して、好意でそう言った。フレイは嫌悪感を顔に滲ませてミーシャを突き飛ばし、自分の体を守るように自分で抱きしめた。

 

「やめて……!」

「あ……、ご、ごめんなさい、フレイ、そんな、悪気はなかったの」

 

 フレイは傷ついたような表情のミーシャに、ハッとなる。――この子にこんな選択肢を与えたのは自分だ。自分がこんな時にこんな提案をしてしまうような子にしてしまったのだ。

 フレイは自分の罪を自覚する。優しげだった。欲望の色を全く感じず、純粋な好意であんな事を言った。……そんなふうな子にしてしまった。フレイは罪悪感でどうにかなりそうだった。

 

「……お、驚いただけよ。ミーシャ、怖い思いしてきた女の子にそんなこと言ったらダメよ」

「ごめんなさい……。そ、そうだフレイ、他にしてほしいことある? 私この艦で2番目に偉いから、何でも出来るよ」

「そして私は1番偉い。……希望があれば言え。できる限り叶えさせる」

 

 しばらく、フレイは考えるような素振りを見せた。そして――。

 

「私……オペレーターになりたいわ」

 

 その希望を、口にした。キラともう一度会って謝るため。そして、ミーシャ一人で戦わせないために。

 

 ――同時刻。

 

「はははは……あーッハハハハハハハハハハ!!

 

 やったああああああああ!!」

 

 アズラエルの私室で、歓喜の声が上がった。

 地獄へ続く扉が、勢いよく開け放たれ。

 

 

 平和へ続く扉が、固く固く閉ざされた。

 

 ――鍵は、開けるのみにあらず、閉じることにも使われる。




そろそろSEED編も終盤です。SEED編終了後は数話戦後の話を書いた後、運命編へと続く予定です。これからも感想、評価お待ちしております!
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