【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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断頭する剣

 それからしばらくの時が経ち、場所は月基地。先の対アークエンジェル戦闘で経験を積んだドミニオンは、いつものように訓練に励んでいた。

 

「スレッジハマー、てえっ! バリアント照準ポイントデルタ! 射撃間隔30! ゴッドフリート、照準正面敵モビルスーツ! 1番2番交互に放て!」

 

 矢継ぎ早に下される命令にも慣れた様子でクルー達は応じる。もう一月はこうして訓練に励んでいる。最初はぎこちなく拙い手つきも実戦を一度経験したことで大きく伸びた。

 

「――アルスター曹長! バレンタイン隊について報告!」

 

 極秘情報の奪取に成功した……という建前で曹長まで昇進したフレイは、オペレーター席でナタルの指示を受け、しどろもどろになる。

 

「えっ、オルガ機健在、敵艦隊と砲撃戦中! クロト機中破、帰還申請出てます! シャニ機――」

「帰還申請は即刻報告せんか!」

「すみません!」

「すみませんで済むかバカモノ! 貴様のミスでクロト機が死ぬぞ! 報告を続行!」

 

 厳しいナタルの言葉に涙目になりながら、フレイは報告を続ける。

 

「しゃ、シャニ機小破、戦闘継続は可能です。現在敵モビルスーツと交戦中! バレンタイン機、敵モビルスーツを殲滅中、敵部隊の撃破に成功しました!」

「よし! バレンタイン隊の奮戦により我々は勝利した。訓練終了!」

 

 ナタルの宣言に、クルーは座っているシートの上にぐでっと脱力した。

 

「だいぶよくなったね、バジルール少佐」

「うむ。新入りも磨きがいがある」

「あんまりいじめないでね」

「鉄は叩いて鍛えるものだ。軍人も同じくな」

「おーこわ」

 

 ミーシャはクスクスと笑いながら訓練の反省会をする。モビルスーツ隊の訓練としても今回は参考になった。

 

「クロト、中破しても戦場ウロウロしてたら死んじゃうよ? こういう時は格納庫の整備クルーにハッチ開放の権限あるから、そっちに連絡して入れてもらってね」

「了解」

 

 それからミーシャは、ちょっと不満げにクロトにお小言を言う。

 

「この艦の誰がどんなことをできるのか頭に入れておいてって言ったよね? ゲームもいいけど、せめて自分の命に関わるところくらい暗記してよ……」

「……反省しまーす」

「ならよし! シャニ、データだと胸部に攻撃受けたけどなんでかわかる?」

「わかってる。サーベルで盾を壊された」

「そう。無敵のゲシュマイディッヒ・パンツァーだけど、ビームサーベルだけには弱いから気をつけてね。特にアスランはサーベル・ブーメラン狂だから隙あらば投げてくるよ。オルガ、だいぶ良くなったね。あとはエネルギー消費に気を遣えればオッケー」

「隊長みてーにはやれねぇけどな」

「何言ってんのさ! オルガみたいな高火力機が撃ってくるだけで敵はストレスなんだよ? 嫌がらせしてこね」

「へいへい……」

 

 ナタルの目から見ても、ミーシャは立派に隊長をしていた。報告の書類も内容は拙いもののちゃんと上げるし、訓練の合間にちゃんと勉強もしてる。ナタルは、はしゃぐように人殺しの練習をするミーシャを微笑ましく見てしまう。同年代の人間が勉強をし、ゲームで人を撃っている間、ミーシャは人殺しの練習をして実際に人を撃っている。そのことを思い返すたびにナタルの胸に痛みが走る。――だが、もうミーシャは戻れない。戻る気もないようだった。

 

「……そういえば、バジルール少佐、私に特別な用があるってアズラエルさんから聞いてるんだけど……」

「こちらも把握している。バレンタイン少佐は1300、昼休憩後月基地の第3格納庫前に集合だ。――新型機を受領すると聞いている」

「新型! 私もついにバスター卒業かぁ。これ次は誰が使うの?」

「流石に時代遅れだな。今後は研究所行きか……あるいは、将来のために博物館か」

 

 ナタルは冗談とも本気とも捉えられる言葉を発した。博物館?

 

「なんで博物館?」

「将来お前の乗機として飾るのだ」

「えー……」

 

 ミーシャは一瞬ナタルなりの冗談かと思ったが、その割にはナタルはにこりともしていない。本気で将来今乗っているバスターが博物館に飾られると思っているように見える。

 

「お前は連合が誇る英雄だからな。まぁ、50年は後になるかもしれんが」

「50年後か。……生きてるかなぁ」

 

 ミーシャは今、さすがに今日明日死ぬとは思っていない。軍事基地にはいてもアークエンジェルの時のようにひっきりなしに敵が襲ってくるわけでも、戦力がミーシャしかいないということもないからだ。

 

「ま、とにかく。新型って言うんならもらっとこ」

 

 ミーシャはそう軽い気持ちで言った。

 

 13時。ミーシャは巨大な格納庫の中で、自分に授与される新型MSを見上げていた。その新型モビルスーツは、ミーシャに見せるため起動状態で佇んでいる。見慣れたバスターの色になっているそれを見て、ミーシャは目を輝かせる。

 

「これ! 新しく作ったの!?」

 

 その隣ではアズラエルが同じようにその機体を見上げていた。

 

「ええ。1から作るのでは流石に無理でしたが……フレイさんが持ってきたデータには設計図もセットだったのですよ。作れるものなら作っておきたいものでしょう? コストはかかりますが……まぁ、少し遅くなりましたが昇進祝いと言うやつです。是非受け取ってください」

「ありがとうアズラエルさん! これで……これでザフトをたくさん殺せる! キラにだって負けない!」

 

 ミーシャは笑顔ではしゃぐ。新しい武器を与えられて、心から喜ぶ子供。ミーシャはそういうモノになってしまった。アズラエルは複雑な表情をしているが……この機体なら、ミーシャはきっと殺されずに済む。

 

「さ、次の任務はもう決まっています。お互い頑張りましょうね」

「うん!」

 

 ――ミーシャが新型を受け取って数日後。ミーシャは新型のコクピットの中で暗い顔をしてドミニオンの直掩をしていた。ゆっくり進むドミニオンには、何隻もの戦艦が随伴している。随伴艦艇からは大量のメビウスが出撃して、目標へと向かって行っている。ドミニオンの任務は味方艦隊とメビウス隊の防衛である。メビウスはメイン武装のリニアライフルを別の装備……核ミサイルに変更しており、核を撃ったあとはほとんど戦力として使い物にならない有様になってしまう。そこをバレンタイン隊が護衛するのだ。

 

「……バジルール少佐、これで終わるかな?」

「わかりきっていることを聞くな。これは始まりにすぎない」

 

 目標地点、ザフト宇宙要塞ボアズに向けてメビウスが進む。ボアズをやればあとは禄に武装もないヤキン・ドゥーエがあるくらいなのだ。ザフトの戦力はもうほとんど残されていないのだし、地球連合の勝利は目前だ。

 ――だが、きっとアズラエルはプラントを全て核で撃ち落とすまで止まらないだろう。無数の民間人を虐殺する爆弾も、命令なら守らなければならない。ミーシャの心は千々に乱れる。

 

「ミーシャ、護衛よろしくお願いしますね」

「……うん。早く戦争終わらせたいしね」

「同感です」

 

 ミーシャは受領した新型のモビルスーツを進める。

 

「バレンタイン隊、核とメビウスを守るよ。メビウスには私たちしかいないんだから、一機たりとも落とさせちゃダメ。私達ならできるよ」

「了解」

 

 ボアズから防衛戦力が次から次へと出てくる。ミーシャのレーダーは一気に赤い点で埋め尽くされる。

 

「……」

 

 ミーシャはコクピットの特殊コンソールを起動する。レーダー上に表示される敵戦力を一体一体、次から次へとロックオンする。

 

「私は。私は地球連合大西洋連邦所属、ミーシャ・バレンタイン少佐。たとえ守るのが核ミサイルだとしても。命令なら、命令なら……戦う」

 

 背部にあるウイング・バインダーに格納されているバラエーナプラズマ収束砲を展開。腰部にあるクスィフィアスレール砲を変形させて展開する。両手に持つルプス・ビームライフルを構え、引き金を引く。

 

「なんで……! なんで連合がフリーダムを――」

「あの色――」

「まさか魔弾のあく――」

 

 一斉射で6機。全て狙い通りにコクピットを貫いた射撃は、メビウスの迎撃に出てきたザフト勢力の勢いを削ぐのに十分な衝撃があった。

 

 三機の最新Gシリーズを従え、メビウスの部隊の後方でザフト兵を殺し続けている機体。

 

 肩と胸部を緑色に塗り、メインの装甲をベージュにカラーリングされた、フリーダムだった。キラのフリーダムと違うのは、そのカラーリングと武装。ミーシャはシールドを持たず、空いた左手にもビームライフルを装備している。

 形式番号ZGMF-X10A-フリーダム。ミーシャはついに、新しい翼を手に入れたのだ。

 

「ザフトの勢いが死んだよ。みんな、攻撃開始」

「了解! やってやるぜ!」

「行くぜ! 必殺!」

「ぶっ殺す! 死ねええええええええ!」

 

 カラミティがその火力で敵を減らし、レイダーが敵陣の真っただ中で敵をかく乱し、フォビドゥンの曲がるビームが予想もしない軌道で敵を撃つ。

 

「行け! 青き清浄なる世界のために!!」

 

 メビウスから核ミサイルが発射されるが、ザフトにはもうどうしようもなかった。三機のGシリーズはもとより、後方に控えるミーシャのフリーダムがたった一人で複数の地点へ正確な射撃を次から次へと放つのだ。一発たりとも妨害されることなく核ミサイルはボアズへ到着。まるで太陽がこの場に生まれたかのような凄まじい光と共に、要塞の全てを消滅させた。

 

「見た目だけはキレイなのにね」

「ひゅうー……あれで大量のザフトをやったんだろ? いいことじゃねぇか」

「ですね。戦争の終わりももうすぐですよ、隊長」

「キレー……いいな、アレ」

 

 ミーシャは顔を暗く沈めたまま、護衛を続けた。

 

 ――エターナルのブリッジ内。ラクス・クラインは艦長席でその知らせを聞いた。つい先ほど戦闘が始まったボアズ宇宙要塞が、撃破されたと。

 

「……ボアズが落ちたのですね」

「さすがに早すぎる」

 

 副官として乗艦しているのはかつてミーシャやキラと戦ったアンドリュー・バルトフェルトだった。ボアズ宙域で混乱している戦場の通信を傍受しながら、自身の手元に来る情報とすり合わせ、今後の予定を話していく。

 

「連合は核を使って早々に落としたようですわ」

「核……ニュートロンジャマーキャンセラーか。今から行ってももう遅いな……。果たして、お嬢さんは関わっているのかねぇ」

「……ミーシャさん」

 

 ラクスは顔を曇らせてその名を呼んだ。

 ラクスの中でミーシャはかなり重要な人間だった。不幸な出来事があって、親を亡くしてすぐに戦争に巻き込まれ、戦い、傷つき、壊れそうになりながらもそれでも明るく振舞って。実際に父を亡くして、彼女の強さを改めて認識した。

 ――そしてその危うさも。

 

「彼女は軍人になることを選びました。そうするしかないとしても」

 

 彼女は選択肢が提示された時点で、もう引き返せないところにいた。無垢なままなら、手が綺麗なままならきっと素直に民間人に戻れただろう。しかしそうはならなかった。そうするべきではないし、そうしてはならないと彼女が思い込むほどに彼女は戦いすぎた。

 

「――彼女は今の私を見て何と思うでしょう」

 

 彼女は、ミーシャは、ただアイドルとしての自分を好きでいてくれた。戦争真っただ中、プラント評議会議員の娘という立場は嫌でもついて回る。アイドルとして成功したのだって親の力だと何度陰口を叩かれたのかわからない。だが、戦場のあの場で、アイドルとして好きでいてくれたことは……普段ありのままの自分を見てほしいと願うラクスでも、救いとなっていた。ルミナとミーシャの幼くも純真な好意が、心からの癒しになったのだ。

 

「もう、曲はできているのに……歌がまだなのです」

 

 あれから色々とあった。アイドルとして最後に活動したのはいつだったか。激化する戦争を憂い、戦争を止めるための活動に身を投じ……。それを後悔しているわけでも、間違っていたとも思ってはいない。そう思ってはいないが……。心残りがあるのだ。メロディーも歌詞もできているのに、収録が終わっていない。ミーシャに向けた、ミーシャの為の歌が。もしできたとしても、渡すことなど果たしてできるのだろうか。

 

「戦場で会うことになるのでしょうね……」

「なんとか説得できればいいんですがねぇ」

 

 バルトフェルトは言いながら、無理だろうなと思っていた。同じ船に乗っていた元戦友に誘われて拒絶するようなら、もうどうにもならない。

 

「――わたくしは、わたくしのやるべきことをやるだけですわ。それが……それがどのような結末になろうとも」

 

 もしかしたら、ミーシャを殺すことになるかもしれない。

 

「ミーシャさん……」

 

 ラクスは暗い顔をする。仕方ないとは言え……知り合いに向かって武器を向けることが辛くてしかたがなかった。キラはいつもこんな思いで戦っていたのか。少し知り合ったミーシャ相手でもこんなに辛いなら、旧年来の幼馴染と殺し合うキラはどれほど辛かっただろう。

 

 ――ドミニオン、ブリッジ。戦闘の結果を見て、アズラエルは心底楽しそうに笑っている。ナタルはボアズを照らす煌々とした光を睨みつけている。そしてフレイは、自分の情報が齎した結果に慄いていた。戦争を終わらせる鍵。それは、連邦がザフトを……プラントを皆殺しにするということだと今気付いたのだ。

 

「ははは! 素晴らしい! あとはあの砂時計を叩き落すだけだ!」

「アズラエル理事、もう核は……」

「何言ってるんです、バジルール少佐。核は持ってて嬉しいコレクションじゃあない。高い金かけて作ったのは使うためですよ。……宇宙の化け物相手にね!」

 

 ブルーコスモス思想を間近で聞かされて、ナタルは辟易したようにため息をつきつつ言った。

 

「民間人への虐殺はご法度ですよ」

「馬鹿言っちゃいけないよ、バジルール少佐! あのプラントに民間人はただの一人もいない!」

 

 アズラエルの言葉にナタルは訝しむ。その時、戦闘を終えて部下に休息を命じたミーシャがブリッジにやってきた。

 

「ただいま。軍事施設に撃つ分には楽で安全に戦争出来ていいもんだね」

「おかえりなさい、ミーシャ。プラントにいる連中がなんなのか、バジルール少佐に教えてやってくれよ!」

 

 その口調から、かなりハイになってるなとミーシャは思った。やれやれと首を振ると、ミーシャはナタルに教えられたことをそのまま言った。

 

「プラントの始まりはプラント所有国が持ってた生産施設を勝手に奪って勝手に独立ごっこしてるだけの人たちらしいよ。だからプラントにいる人間は全員不法滞在してるテロリストおよびテロリストの子孫……なんだってさ」

「――そんな理屈!」

「事実だろうが! プラント建設にはアズラエル財団(うち)も関わってるんだぞ! そもそもプラントを国家承認してる国なんてない! やつらはただの武装組織とその母体にすぎないんだ!」

 

 激昂するアズラエルに、ミーシャは近づく。

 

「落ち着いてよ、アズラエルさん。ナタルさんが何言ったか知らないけどさ、そんな怒鳴らなくてもいいじゃん」

「――!」

 

 アズラエルはミーシャを睨みつける。しかし、何度か深呼吸すると、深くため息を吐いて自分の席に座った。

 

「……まぁ、武器も持たない人間を殺したくないあなたの感覚は理解しましょう。ただ現状において停戦に向けた交渉が全く進んでいないのも事実なのです。どうやらザフトはまだ戦えるつもりでいるようですね。ご理解いただけます、この感覚?」

 

 今度はナタルが唸る番だった。現状、地球にあるアフリカ周辺にあるザフトの基地を除くと、残る軍事拠点はそれこそヤキンしかない。そこを落とせばプラントまで防衛施設は皆無だ。地球連合のように別口で軍事基地があるならまだわからないが、ザフトにはそう言ったものもない。戦力だって削られて今後どうやって戦うのか。

 

「つまり、降伏するまで叩きのめすと、そういうことですか」

「そういうこと。まぁ、次の戦闘で戦争終結ですよ。……やっとミーシャを前線から離せる」

 

 その言葉はナタルにもミーシャにも、アズラエルの変わらぬ本音のように聞こえた。アズラエルは穏やかに微笑むとミーシャを見る。

 

「戦後は忙しいですよ、ミーシャ。戦争を勝利に導いた魔弾の天使として広告塔になってもらいますからね。テレビに雑誌……有名人の仲間入りですよ。ドキュメンタリー映画も作らせましょう。ザフトの悪行を世に広めるのです」

「ふふ! 地球軍の募集ポスターとか?」

「もちろんあなたがメインのポスターですよ」

 

 ミーシャはニマニマとして浮かれる。彼女とて人並みの承認欲求はある。有名になりたいという欲もある。

 

「……ま、全部生き残ってからだからね。アズラエルさんも死んじゃダメだよ? アズラエルさんにプロデュースしてほしいんだから」

「私も暇ではないのですがねぇ」

 

 冗談めかして言うと、ミーシャも朗らかに微笑みながら言う。

 

「いいじゃん、戦友でしょ?」

 

 アズラエルはキョトンとした。

 

「何言ってるんですか? 僕はここに座ってるだけですよ」

「一緒の戦艦に乗ってるんだから戦友でいいじゃん。基地でふんぞり返ってるなら私もこんなこと言わないよ」

「――そうですか。なら、戦友のプロデュースくらいやりますよ。任せてください」

「ふふ、やりぃ! 戦後の楽しみが増えたよ、ナタルさん!」

「……そうだな。刹那的に生きるよりよほどいい」

 

 ナタルはアズラエルがこんな微笑ましい会話ができるのかと、心から驚いていた。

 

 ――それからしばらくの時が過ぎ。

 連合の大艦隊がヤキンの宙域を飛んでいた。ボアズでやったように、ヤキン・ドゥーエを核の炎で焼いてやるのだ。

 

 ミーシャはヤキンに向かうメビウス……ピースメーカー隊を見守りながら戦場を跋扈していた。コクピットでは、ルミナとミーシャ、ラクスの歌声が響いている。自分の端末の録音データを流しているのだ。こうやってルミナの声を聴いて、ルミナを想って、そうして憎悪を掻き立てないと頭がどうにかなりそうだった。……亡き親友の平和を願う歌を聞いて憎悪を呼び起こす時点で、きっと自分はおかしいんだろうな、とどこか冷静な自分が思う。

 おかしくないとやってられない。きっと今この場に麻薬があれば手を出していただろう。そんなギリギリの精神状態でミーシャは戦場にいた。なにせ、今度は射程内にプラントがある。もし暴走してピースメーカー隊の誰かがプラントに撃てば絶滅戦争だ。相手の種を殺しつくすまで戦争が終わらなくなってしまう。

 

「……」

 

 彼女の感覚が敵を捉えると同時に射撃し、爆発が起こる。今さっき殺されかけたメビウスのパイロットは歓声を上げて喜んだ。

 

「流石魔弾の天使様! ありがとうございます! ――俺は俺の仕事をやりますよ! 青き清浄なる世界のために!」

 

 ピースメーカー隊はヤキンに向けて核ミサイルを発射する。そして、一部の部隊はプラントに向けてミサイルを撃った。ミーシャは慌ててその部隊に通信を入れる。

 

「何やってるの!? 目標はヤキン、プラントじゃない! ――弾を無駄撃ちしないで!」

「無駄撃ちなんかじゃありませんよ天使様! これで宇宙がキレイになる!」

 

 ミーシャは舌打ちするとドミニオンのブリッジに声を掛ける。

 

「アズラエルさんどういうこと!? 私プラントを撃つなんて聞いてない! 虐殺なんて絶対ヤダ!」

「私も驚いていますよ」

 

 アズラエルはほんの少しも表情を変えず言った。

 

「私は彼らに何も命令していないです。司令部もです。残念ながら彼らの独断と言うことになりますねぇ」

 

 嘘は言っていない。どんな資料をあたろうと、どんな記録を見ようと、アズラエルが、地球軍が彼らにプラントを撃てと命令した事実は存在しない。

 アズラエルの言葉は全く持って正しい。彼らは命じられたわけでもない上に命令違反で銃殺刑になるとしても、勝手にプラントに向けて核を撃ったのだ。

 ――もちろんそこまでブルーコスモス思想をキメたパイロットをピースメーカー隊に配属したのは、アズラエルなのだが。地球軍では思想チェックはしていない。証拠は何もなかった。

 ミーシャも友人がここまで言い切るからには証拠はないのだろうと当たりをつける。

 

「頭の芯まで思想キメるなんて……! 宗教戦争やってんじゃないんだよ!? アズラエルさん! 独断だって言うなら拘束する!」

「ご自由にどうぞ。撃墜許可は必要ですか?」

「要らない! ……ピースメーカー隊第四小隊! 即刻母艦に帰投し拘束を受けろ!」

「了解しました天使様!!」

 

 向かってくるか、反抗するか、言い訳するか。そのどれかだと思っていたのに、彼らは元気に敬礼して指示に従った。

 

「……ど、どういうことなの?」

「彼らは……まぁ、彼らなりの正義に殉じたのでしょう。たとえ銃殺刑になるとわかっても、正しいと思ったことをやる。しかし、地球軍と敵対したつもりもないのでしょうね」

「――意味わかんない! そんなにコーディネーターが嫌いなの!?」

「人によりますかねぇ。私は『プラントの』コーディネーターが嫌いなタイプです」

 

 ミーシャは舌打ちする。ミーシャは核ミサイルに照準を向ける。マルチロックオンシステムを使おうとするが、友軍機判定になっておりロックオンができない。だがまぁそれならそれでやりようはある。そもそもミーシャはロックオンせずに射撃するのが大の得意なのだ。

 

「ミサイルを撃つ気ですか?」

「命令違反の攻撃は停止されるべきだよ! ね、バジルール少佐!」

「その通り。軍が行う攻撃は統制されていなければならない。バレンタイン少佐、ミサイルを撃て」

 

 ナタルとミーシャは阿吽の呼吸でやり取りする。

 

「……まぁいいです。今からならどうせ撃てたとしても6発が限度。しこたまぶち込みましたからね」

 

 止められるものか。そう思った次の瞬間、何処からともなく物凄い速度で戦闘宙域に入ってきた2機の大型モビルアーマーが、その機体に搭載された武装を全て使って核ミサイルを全滅させた。

 

 大型モビルアーマー……ミーティアユニットには中心部にモビルスーツがドッキングされていた。

 

 フリーダムとジャスティス。キラとアスランだ。

 

「不明機2機……! 多分キラとアスラン! また超兵器……! バレンタイン隊、全機戦闘開始!」

 

 部下の威勢のいい返事と共に、ミーシャは残存ザフト兵とキラ、アスランとその母艦……後に『3隻同盟』と呼ばれる勢力と戦闘を開始した。




ミーシャ専用フリーダムガンダム
 キラのフリーダムとの相違点は、カラーリングと武装。
 肩のアーマーと胸部を緑色に、それ以外の装甲をベージュに、アクセントとしてオレンジ色を挿し色にされた、後に『バスターカラー』と呼ばれることになるカラーリング。
武装はシールドを取っ払って、左手にもビームライフルを装備して火力の底上げをしている。
キラの使い方よりよほど設計思想に忠実に戦う。
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