【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
また、指摘があったので前話の描写を変更しています。
・アズラエルにフリーダムを授与されるシーンで、ミーシャに見せるため起動状態である描写を追加
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ミーシャは三つ巴の戦場で殺しやすい敵から殺していた。部下と密に連携を取り、ザフトを殺して殺して殺し続ける。マルチロックオンを用いたハイマット・フルバーストで無数の敵を葬り去る。フリーダムの設計思想そのままに、圧倒的火力で戦場を支配する。
「もう……もうやめろ!」
キラはそんなミーシャを見ていられなかった。あまりに殺しすぎる。一人でいったい何人殺すんだ。そんなことをしてミーシャの心は大丈夫なのか。キラがミーシャに応戦しようとしたその時。通信が入る。
「避けろ! ジェネシスが来る!」
キラはそのザフト兵……イザークの言葉に咄嗟に回避行動を取る。ジェネシスが何か、どんな兵器かは知らない。だが避けねば死ぬと直感が叫んでいた。
ミーシャはその動きを見て不審がる。一体何が? ミーシャは追撃するか引くかを悩む。
「全機一旦母艦付近まで後退。なんかヤバそう」
ミーシャは部下と共に後退する。キラの動きに意味があると思ったミーシャは退却を選択した。
その時、ヤキンのすぐそばの宙域に巨大な建造物が現れた。ミラージュコロイドで今の今まで隠れていたのだ。その場にいるザフト、地球軍全員が疑問に思った次の瞬間。
――音もなく、光もなく。
ミーシャが知覚できたのは、いきなり味方艦隊の大多数が派手に爆発したことだけだった。
――ヤキン・ドゥーエ撃滅艦隊及びピースメーカー隊、全滅。致命的打撃を負った地球軍艦隊は残存戦力をまとめて後退。前線は下げたが月基地まで戻ることはしなかった。ドミニオンもMS隊を収容し、残存艦隊の最前線に陣取って護衛する構えだ。
「……バレンタイン隊、待機。……次の戦闘はすぐだから、今のうちに休んでて」
ミーシャは悲痛な表情で命令を下す。ふらふらとおぼつかない様子でコクピットから降りてきたミーシャを、部下たちが心配そうに見る。
「隊長、大丈夫かよ?」
「――また味方がいっぱい死んだ。何アレ? 何されたの?」
「アレが敵の新兵器としたら、怖いですね」
「うん。多分アレを壊さないと多分戦争は終わらない」
「モビルスーツいっぱい壊せばいいんじゃね?」
「それもそうかもしれないけど……どうかな。とにかく私はブリッジに報告に行くよ」
ミーシャは部下に別れを告げて、ブリッジに向かう。ブリッジに入ると、ナタルとアズラエルが凄まじい勢いで言い争っている最中だった。ブリッジに入ってきたミーシャにも気付かず、恐々とするクルー達のど真ん中で喧嘩している。
「――だから! 後方に引っ込んで兵を休ませる暇なんてないんだよ! あんなデカブツ! あそこに1秒だって存在することは許されないんだぞ!」
「しかし! 残存戦力は疲弊しています。月基地に帰還して――」
アズラエルにとってその計画はあまりに悠長すぎる。
「バカ言ってんじゃないよ! アレがなんなのか本気でわからないのか!」
「――アレ、なんなの?」
ミーシャが喧嘩に割り込むように聞くと、アズラエルとナタルがミーシャの方を見た。いつもは取り繕おうとするアズラエルが、今は全く余裕がなく、怒鳴るように言った。
「ミーシャ、今すぐ出撃準備だ! 僕らもすぐに出る! ここであのデカブツ落とさないと地球が滅びるんだ!」
「どういうこと?」
チッ、とアズラエルは舌打ちするとブリッジの正面ディスプレイに資料が表示される。簡易的なジェネシスの推論が書かれている。
この短時間でアズラエルはその仕組みから影響範囲まで推定したらしい。この辺は有能な男なのだ。だからこそ誰よりもジェネシスの危険度を理解し……未だに理解できない周囲に苛立つのだ。ミーシャはいい。子供で何も知らないのが当たり前だ。だが優秀な軍人であるナタルすら危険性を認識していないという状況が非常に苛立たしい。
「ガンマ線レーザー……核の毒を圧縮して撃ち出す兵器なんだよアレは! 何がナチュナルの野蛮な核だ! アレのほうがよっぽど野蛮じゃないか!
アレの位置からして月へも地球へも撃てる。地球へ撃たれたが最後地球は滅びる!」
滅びる。妻と息子がいる地球が滅びてしまう。アズラエルは焦る。今すぐにでもアレを破壊しなければならないというのに。
「ほ、滅びる? あそこから地球にほんとに届くの?」
「光だぞ!? 届くに決まってるだろうが! 着弾地点が高温になるだけじゃなく、オゾン層の大部分を消失させるんだ! すぐに地球は死の星になる! 撃たれる前にデカブツか、撃とうとしてるやつを殺すしかないんだ!」
地球が滅ぶ。
ミーシャはそのスケールの大きさについていけなくなりそうになる。あそこから地球を滅ぼせる。やらなきゃやられる。みんな死ぬ。この場合のみんなとは地球に存在する全生命体である。人間だけじゃない。動物も虫も植物も、みんなの生死が地球軍の……ミーシャの肩にかかっている。
――状況は絶対絶命。……しかし、ヒロイックだった。幼いミーシャはそのあまりにも重すぎる責任と、使命に心を軋ませる。その重圧にまた、心を歪ませる。自分はヒーローだ。地球を救う英雄だ。そう思わないと、潰れてしまいそうだった。
「ザフトを、殺さないと。
「ああ、そうだ! ミーシャ、戦闘準備だ! 僕達全員でやるしかない!」
「無茶です! あれだけの大質量、残存戦力では」
「無茶でもなんでもやるんだよ! 死んでもやらなきゃ地球が滅ぶんだ!」
アズラエルの鬼気迫る表情に、ナタルは気圧される。
「月基地のピースメーカー隊と全戦力をヤキンとプラントに向ける! 敵に圧力をかけてヤキンの防衛を手薄にさせるんだ!」
「プラントは……人が」
ミーシャが渋ると、アズラエルが怒鳴る。
「覚悟を決めろ! あっちが滅ぶかこっちが滅ぶか2つに1つだ! ――あんな殺戮兵器を議会承認するような連中、滅ぼすしかないんだよ!」
ミーシャはぐ、っと悲痛な顔をする。震えそうになる。泣きそうになる。ルミナを思い出す。ルミナを喪った時の絶望を、恐怖を怒りを、思い出す。両親を失った時の感情を思い出す。狂いそうだ。虐殺に加担するなんて絶対に嫌だ。嫌だけど。
――嫌だけど、どんな手段を取ってでもあれは破壊しないといけない。
さっきみたいにプラントへの核攻撃を妨害する余裕はない。例え手足がもがれようと、プラントにいる赤ちゃんを殺してお年寄りを殺して、生まれてくる命も死にゆく命もまとめて核で焼き払ってでも前に進んでジェネシスを破壊しなければならないのだ。そうしないと、地球が滅んで人類が、生命が全滅する。
「ナタルさん。私は軍人だよ。命令には従う」
「そうか。――私もだよ」
ナタルは納得したわけではない。何も核を使わなくてもいいのではないか……。今でもそう思うし、できることなら辞めさせたい。だが、ミーシャは選んだ。命令も下った。――ならナタルに選択肢はなかった。制帽をしっかりと被ると艦長席に座る。
「アズラエル理事。当艦はまっすぐ目標を目指します」
「ああ。先に行って敵戦力を減らすんだ!」
「私達ならできるね。――準備する。部下にも説明しないと」
ミーシャはブリッジから出て格納庫に向かった。彼女は最後の決戦に向かう。
それから数十分後。バレンタイン隊はコクピットの中でブリーフィングをしていた。
「……と、言うわけで私達は弱りきったザフトを叩いて地球を救ったヒーローになるの。わかった?」
部下に不安を与えないため、殊更明るく振る舞ってミーシャは言った。だが部下の表情は暗い。彼らは馬鹿でも知識がないわけでもないのだ。
「……隊長、俺達捨て駒じゃねぇよな? 知ってるぜ。アラスカじゃ派手にやったらしいじゃねぇか」
「それに僕たちはブーステッドマン……元より使い捨てみたいな扱いをされてたって知ってます? 信じられるかよ」
「俺だって死にたいわけじゃないんだよね」
軍全体がピンチで、オルガもクロトもシャニも不安になっているのだろう。ミーシャに愚痴のような気持ちを吐露する。
その気持ちはミーシャにだってわかる。正直ジェネシスを破壊するためなら地球軍はどんな犠牲も払うだろう。その犠牲にミーシャが含まれていないなどと楽観できるわけがない。あんなに活躍したアークエンジェルが捨て駒にされたのだ。
だが、ミーシャは内心の不安をおくびにも出さず、にこやかに、余裕綽々に言った。
「アズラエルさん乗ってて、地球軍の英雄がいる艦を捨て駒って、ありえないよ。捨て駒にするにはこの艦は貴重すぎるよ」
ミーシャの表情はいつもより楽しそうな笑顔だった。だが、部下三人からしてみれば、無理をしているのは簡単にわかる。
「――まぁ、隊長が言うなら信じるけどよ」
「僕も、地球軍は信じられねぇけど、隊長なら信じるぜ」
「俺も同じく。歌のセンスは合わないけど」
ミーシャは苦笑する。ブリッジと通信をつなぐと、フレイの顔が映る。
「……ミーシャ……」
「フレイ。私戦ってくるよ。後援もいるしね」
「――今、月基地が撃たれたの。全艦隊の半分がなくなったらしいわ」
ミーシャは目を見開く。そうか。光だから振動も音もないのか。……月基地が落ちた? それって……。
――もう負けたんじゃ? ちらりと思った言葉を必死に振り払う。
「――わ、私達なら増援なんてなくても勝てる。だって私は最強のパイロットなんだから」
次から次へと湧き上がってくる不安、恐怖を誤魔化すように、自己暗示するようにミーシャは言った。
「……死なないでね、ミーシャ。出撃命令出たよ」
「了解。フレイも怖いと思うけど頑張ってね。ミーシャ・バレンタイン。フリーダム行ってきます!」
「これで生きて帰れたら奇跡だな。オルガ・サブナック、カラミティ出る!」
「ここでひとつヒーローになるのも面白れぇ! クロト・ブエル。レイダー出る!」
「殺される前に殺しゃいいんでしょ? シャニ・アンドラス、フォビドゥン出る!」
バレンタイン隊が出撃すると、戦場がよく見えた。
核ミサイルを搭載したピースメーカー隊と、それを撃墜するザフト。それに、核ミサイルを防ぐミーティア装備のキラとアスラン。
ヤキンの前にはザフト宇宙軍のほぼ全艦隊、全部隊が出撃しており、地球軍の進軍方向とは別方向からは3隻同盟が進軍している。
「みんな、踏ん張りどころだよ……! 死なずに殺して、私達は英雄だ!」
ミーシャはハイマット・フルバーストで何機もの敵機を撃破しながら前進する。次々と落とされていくピースメーカー隊は守らない。今のバレンタイン隊に期待されているのは前に進んでヤキンを墜とすか、ジェネシスを破壊するかのどちらか。その任務にピースメーカー隊の護衛は含まれていない。……守ってる暇があったら前に進めと言われたのだ。守る力があって、守れるのに。守るなと言われる。――だが今はそれでも前に進まないといけない。
「みんな、来るよ!!」
雲霞の如く、という言葉がピッタリなくらいの敵がレーダーに表示される。次から次へとやってくる敵を撃滅しながら、ミーシャは前に進む。嫌な予感がして、ミーシャは速度を緩める。極太のビームが目の前を通過した。その数秒後、ミーティアユニットを装備したジャスティスが通り過ぎた。
「アスラン……! 邪魔しないでよ!」
「お前は核なんて守ってどういうつもりだ! 虐殺に加担しているとわかっているのか!」
アスランから通信が入る。鬱陶しいことこの上ない。なんでここに至ってそんな綺麗事を言うんだ。
「わかっててここにいるに決まってるでしょ! ザフトをぶっ殺さないと地球がヤバいの!」
「だからと言って、プラントを落とすことが正義なのか!」
「戦争してるんだよ!? 正しいやつなんて一人だっているもんか!」
ミーシャは近づいてくるミーティアのビームサーベルを掻い潜り、右手でビームサーベルを抜く。くるりと回転しながら巨大な複合ビーム砲を両断する。
「くっ!」
「小回り効かない機体で私を殺る気!? バレンタイン隊、攻撃!」
バレンタイン隊の総攻撃で、ジャスティスは回避を強いられる。推力に任せて遠くに移動し、バレンタイン隊の射程外まで一気に退避した。
「引いてった? まぁいい、前進!」
「了解!」
その時、キラリとヤキン・ドゥーエから一つの機体が出撃した。
ゴツい背部装備に、巨大なビームライフル。左手に装備されているのはシグーの流れを汲むビームサーベル複合盾。急ピッチで組み上げられたため剥き出しの胸部動力パイプ。
プロヴィデンス。搭乗者ラウ・ル・クルーゼ。
凄まじい兵器を搭載したその機体が、戦場に現れた。
戦闘は苛烈を極めた。どんなエースパイロットであっても数秒後の命が保証できないような地獄の戦場で、両陣営容赦なく殺し合いを続ける。
時間が経てば経つほど艦艇達の相対距離は縮まり、火線が凄まじくなってくる。
ドミニオンと3隻同盟の距離が近づくにつれ、バレンタイン隊とアークエンジェル、クサナギ、エターナルは交戦距離に至る。
「海賊艦隊め……!」
余裕がないミーシャはアークエンジェルが相手だとしても容赦なく攻撃を加える。
「ゴッドフリート1番被弾! バリアント1番オフライン! ミーシャちゃんの攻撃です!」
オペレーターミリアリアが悲鳴のような声を上げる。頼もしかったミーシャの実力がアークエンジェルに襲いかかる。――わかっていたことだが強すぎる。特に正確な射撃に、今はフリーダムの火力もあるのだ。戦艦との相性が悪すぎる。
「キラくん! 戻ってきてアークエンジェルの護衛を! ミーシャちゃんに取りつかれてるわ!」
ラミアスが指示を出すと、キラは悲痛な顔をして反転する。
そのとき、アークエンジェルから狙いを自分に向けようと、エターナルがミーシャに通信を繋いだ。
「お久しぶりですわ、ミーシャさん」
驚愕と衝撃で、ミーシャの思考は一瞬空白になる。ラクス? ラクス・クライン? いるとは聞いていた。聞いていたが……なんで。
――なんで戦艦のブリッジに!?
「ら、ラクス!? なんでそんなところに!? もしかして捕まってるの!? 今助ける!」
即座に自分の救出を考えるミーシャに、ラクスは苦い思いをする。……優しい子なのだ。だが、現実はミーシャに優しくない。
「ミーシャさん。わたくしは自分の意志でここにいます。エターナルの艦長席に座っております」
ミーシャは苦い顔をする。だが、彼女はまだラクスが自分の意思で戦争に参加し、戦艦を指揮しているなどと信じたくなかった。
「さ、流石海賊だね! アイドルを矢面に立たせるなんて何考えてるの!」
「わたくしはアイドルではありません。ラクス・クラインですわ」
ミーシャはその言葉にショックを受ける。ラクスは好き好んでアイドルになったと思っていたのだ。お仕事だったとしても、アイドルという仕事に誇りを持っていると思っていたのだ。まるで、そう思われるのが嫌みたいな言い方に、衝撃を受けたのだ。
「……ラクス! ひ、人を撃てって命じた口で愛を歌うの? 人に撃たせておいて優しい歌を歌うつもりなの!?」
「――わたくしは、もう歌うつもりはありません。最後に歌うのは、あなたへの曲だけです」
……覚えていてくれたんだ。でももうミーシャはラクスの歌を喜べない。敵になってしまったのなら、もう、もうラクスの歌なんて聞けない。――聞きたくない。もう何も考えたくなかった。
「――そんなの要らない! こうやって戦場に出てラクスが手を汚すくらいなら……! あのとき! アークエンジェルに閉じ込めておくんだった!!」
ミーシャはエターナルに向かって射撃をする。……好きなアイドルも殺すんだ。ルミナと一緒に歌を歌った、あんなにもかわいい人をこれから殺すんだ。
ミーシャの心は捻じくれるような思いをする。泣きながら戦い、嗚咽を漏らしながら引き金を引く。
その時、無数の小さなビーム砲塔が四方八方から飛んできて、無数のビームを放った。
「――なに!?」
直感に任せて回避をするが、ウイングバインダーを片方撃たれた。強力な火砲、バラエーナが半分死んだ。ミーシャは舌打ちして撃ってきた敵の方を見る。見慣れない新型が見える。
「君の歌は好きだったがね……。現実は歌のように優しくはない。――歌手の君も、存外残酷なことをするじゃないか」
「……その声! ラウ・ル・クルーゼ!」
ミーシャは叫びながらクルーゼと戦う。遠くからキラがやってきて、三つ巴の戦いになった。
「バレンタイン隊! 私はキラとクルーゼと戦う! 作戦続行!」
「了解!」
部下に指示を出して、ミーシャは強敵との戦いに集中する。
「また君か……。厄介な奴だよ、君は」
「何を!」
「キラ! 一時休戦! コイツをぶっ殺すよ!」
「それは……」
「こいつは強い! ……でも、クルーゼ! 殺し合う前に一個だけ言っとく! ありがとう!」
「君にお礼を言われる筋合いはないつもりだが」
「フレイのこと、守ってくれてありがとう! でも話聞いたらずっと部屋に連れ込んでたってどういうこと!? ザフトは捕虜に手を出すなっていうお前の命令すら聞けない奴ばっかだとでも言うつもり!?」
「そうだと言ったら君はどうする? 彼女を守るためにやむを得なかったのだよ」
ミーシャは舌打ちする。ザフトはやっぱりクズしかいない。隊長のクルーゼにさえそう思われてるんだからよっぽどだ。やっぱり皆殺しにしないと。
「隊長の女には手を出さないって!? 蛮族かお前ら!」
「君は戦場の男を信じすぎるな……。地球軍も一皮剥けばどうかな?」
「私は手を出されてないし! 適当なこと言うな!」
「キラ君には手を出されたのではないかね?」
「それは同意の上! あんまり無茶苦茶言うならぶっ殺すよ! 言わなくても殺すけど!」
クルーゼはニヤリと笑って機体を反転させる。
「それは困るな――残念だがここで終わるわけにはいかないのでね」
「逃げるな! 命置いてけ!」
逃げに徹するクルーゼを追おうにも、小さなビーム砲塔――ドラグーンがあるせいでロクに追えない。ミーシャはキラの方を見ると転身して部下の方へと向かった。
「ミーシャ! 君は今何をしているのかわかってるのか!?」
「軍人してるんだよ、キラと違ってね!」
ミーシャは吐き捨てるように言うと母艦の近くまで戻る。
アークエンジェルとドミニオンが近距離で撃ち合っていた。ミーシャにいくつか砲塔が潰されているアークエンジェルが不利に見える。しかし、ミーシャがその場に辿り着く前、アークエンジェルのローエングリンがドミニオンの脚部に突き刺さった。離着陸カタパルトとローエングリン1基を丸ごと失ったドミニオンは、さらなる砲火に晒される。
「くっ……! バレンタイン隊! 母艦に構うな! 進撃してジェネシスを落とせ!」
「でも!」
「ここが正念場だ! 進め!」
「――了解!」
ミーシャは震える声でそう叫ぶとジェネシスに向かう。地球軍とザフト本隊と、両陣営に攻撃を加えるジャスティス、フリーダムが見える。
「何がしたいのよあいつら……!」
ミーシャはクサナギから出てきたM1アストレイがカラミティのバズーカに撃たれて撃墜されるところを見る。真っ赤に塗られたストライクがカラミティに向かう。
「またストライク……! 何機あるのよ!」
「その機体……! ミーシャか……!」
赤いストライク……ストライクルージュの肩には特徴的なエンブレムが描かれていた。赤いバラを咥えた、白い獅子の横顔が描かれたエンブレム……オーブの姫、カガリのエンブレムだ。
「あのマークもしかしてカガリ!? なんでお姫様がこんなところにいるの!?」
「隊長知り合いか!?」
「気にするな撃ち殺せ!」
真っ赤なストライク……ストライクルージュに乗っているのはカガリだった。カガリに近づくフリーダムに、クサナギが集中攻撃を加える。特殊兵装のローエングリンすら使っての本気の攻撃だった。流石に戦艦相手に全砲門を向けられては、ミーシャと言えど回避に徹するしかない。……カラミティへの援護ができない。
レーダーを見る。レイダーは敵戦力の撹乱、フォビドゥンは味方の援護。近くにいるが近距離の援護をできるほどではない。
「バレンタイン隊、カラミティの援護を――」
「おおおおおおおっ!」
カガリがカラミティの射撃を掻い潜る。まるで全てが見通しているかのようにカガリの感覚は広がっていた。視界が、思考がクリアになって、どんなことでもできるような気がする。
カラミティの機体下部に向けて急速に加速。カラミティは火力が高く多くの火砲を備えているが、大部分は正面もしくは上方に向いている。脚部から下に攻撃するには手のバズーカか、盾についているビーム砲のみだ。今のカガリにとってそんな射撃を躱すのは容易い。至近距離まで近づいたところでビームサーベルを抜き放ち、脚部の付け根からコクピット、肩部までを斬り裂いた。
「隊長……! 俺は……!」
「オルガ!!」
機体が木端微塵に爆発し、オルガとの通信が途絶える。ミーシャは怒りに支配される。カガリのストライクに向かってダメージを負いながらも射撃をする。左足の太腿にビームをモロに食らうが、ミーシャはストライクの頭上からルプスビームライフルを撃つ。頭部を上方から撃たれ、胸部を貫いて背中側に抜けた。エールストライカーパックが爆発し、それきりストライクは動かなくなった。
「仇は討ったよ、オルガ」
ミーシャは機体を翻すと、さらに勢いが増したクサナギの射撃を避けながら離脱する。
――自分の采配ミスで部下が死んだ。
そう後悔するも悔しがっている暇はない。ミーシャの視界には未だに傷一つついていないジェネシスの姿があった。
次回、SEED編最終回。
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