【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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SEED編最終回。過去1長いです。


終わらない明日へ

 ミーシャにしてみれば、3隻同盟は行動目的がさっぱりわからない意味不明の連中である。しかし、アスランとキラの目的は実にシンプルだ。両軍の絶滅兵器を止めたい。だから、ジェネシスを守るザフトも撃つし、核ミサイルを乱射する地球軍も撃つ。撃たねば人々は行ってはならないところに行ってしまう。

 ……そして、二人の行動を阻むエースが両軍にいる。

 一人はザフトのクルーゼ。もう一人は地球軍のミーシャ。部下も手強く、アスランやキラですら焦りが生まれる。

 そして、艦載機が存在しなくなったドミニオンとアークエンジェルはお互いに向き合って戦闘を続けていた。

 

「クソッ! ピースメーカー隊の損耗率が高い! だからミーシャに守らせろって言ったんだ! 地球軍のカタブツ共め!」

 

 アズラエルは通信機を耳にしながらさっきから怒鳴り続けていた。相手はどうにも動きの鈍い地球軍である。ジェネシスの存在を事前に察知できなかったことに始まり、この作戦におけるバレンタイン隊の使い方も納得がいっていない。

 

「か、カラミティ信号ロスト!」

「チッ! ミーシャは何やってるんだ! 死んでるんじゃないだろうな!」

「アークエンジェルに火線を集中! 敵の砲台を狙え!」

「とっとと落とすんだよ! 味方の援護に行かなきゃこっちが負ける!」

 

 敗北。ナタルはその二文字が怖い。だが核を使って絶滅兵器を使って……そこまでして勝ちたいのか。勝つべきなのか。

 ……そう思ったとき、ミーシャの顔が浮かぶ。苦しんで、迷って、壊れそうになって。それでも命令を果たすことを選んだ少女の顔を思い出す。ならば、少女より先に、ミーシャより先に自分が軍人をやめるわけにはいかない。中途半端な正義を振りかざして、命令に背くわけにはいかない。

 たとえ、虐殺者として名を残すことになったとしても、だ。ナタルは艦長として、上級者として、彼女に命令を下したのだと言う義務がある。ミーシャに命じたのだと。プラントを撃てと、虐殺する友軍を守れと、そう命令したのは自分だと、そう断言してミーシャを守るためにも、ここで迷うわけにはいかない。

 

「ローエングリン照準! 目標アークエンジェル!」

 

 ドミニオンの片方しかないローエングリンが展開され、アークエンジェルを狙う。ロックオンが完了した報告を受け、ナタルが叫ぶ。

 

「撃てーー!」

 

 ローエングリンが放たれる。確実な命中コース。

 ――しかし、ブリッジに命中するその寸前。ボロボロのモビルスーツが盾を構えてローエングリンに割り込んだ。

 

「何……!?」

 

 ムウは計器全てが異常を知らせるコクピットの中で、ラミアスに向かって言う。

 

「ハハッ……! 俺はやっぱり……不可能を可能に……!」

 

 ややあって、ストライクが爆発する。しかし、アークエンジェルは健在だった。

 

「――ローエングリン、照準……!」

 

 確実に撃墜したはずの一撃を受けて無傷。その事実にナタルは一瞬指示を出すのが遅れる。

 

「――回避!」

「間に合いません!」

 

 アークエンジェルのローエングリンが、ドミニオンの中心、脚の間にある中心部に命中した。爆発と振動。クルーは全員気を失った。

 

 ――ふと、ナタルは目を覚ました。……生きている。

 

「――そう、いん……。損害、ほうこく……」

「なん、とか、生きていますよ……」

 

 ナタルとアズラエルが呻くように言った。

 

「アークエンジェルは……」

 

 よろよろと、無事な人員が少しずつ立ち上がる。フレイも立ち上がると、痛む頭を押さえながら状況を確認する。

 

「通信機能は……ぶじです。味方機の信号も拾ってます……でもバレンタイン隊は通信範囲外です……あたまいたい」

「よくやったアルスター曹長。もう少しだ頑張れ……」

「航行能力全損……生命維持装置オールグリーン……とりあえず生きてはいけそうです」

「そうか……」

 

 ナタルは生きている人員を助け起こす。アズラエルも、近くのクルーの手をとって助け起こす。他のクルーを助け起こそうと手を取ったところ、想像以上に重い。よく見るとそのクルーは目を見開いてピクリとも動かなかった。

 

「……」

 

 アズラエルは無言でそのクルーの目を閉じてやる。

 ゆっくり体を起こすと、ナタルの方を見る。

 

「艦長さん……アークエンジェルは居ないみたいですね」

「どの陣営も余裕はないのでしょう。総員退艦準備。脱出ポッドで脱出せよ。私はこの艦に残る」

 

 アズラエルは訝しげな顔になる。

 

「なぜです? この船、戦闘能力ゼロなんですが」

「通信は生きている。バレンタイン少佐が戦っているなら、私はこの船から離れるわけにはいかないのです」

「ふーん。……馬鹿みたいですね」

 

 アズラエルはそう言い切った。

 

「さぁみなさん、退艦命令ですよ。早く行って下さい」

 

 フレイや生きているクルーを、押し出すようにしてアズラエルはブリッジから退避させた。それから、アズラエルはため息をつくと通信士の席に付く。

 

「アズラエル理事……?」

「ま、僕も馬鹿ということで。戦友残して脱出なんてしたくないですし……プラントを撃墜した報告はいの一番に聞きたいですしね」

「……」

「それに、あなた艦長でしょう? たとえ相手が素人でも、指示する人間がいないとカッコつかないですよ。ま、フレイさんに出来たことができないとは言いませんが」

 

 アズラエルは微笑みながら言う。体の節々が傷むせいで、その笑みは引き攣っていた。

 ナタルはふっと柔らかく笑うと、艦長席に座る。痛みを堪えて毅然と言う。

 

「私は厳しいですよ」

「よく知ってます」

「――()()()()()()()()()()。バレンタイン隊との通信が繋がり、バレンタイン少佐の勝利報告を受けるまで待機。――復唱!」

「了解です。バレンタイン隊との通信が繋がり、ミーシャの勝利報告を受けるまで待機。……これで合ってます? 艦長さん」

「初めてにしては上出来です」

 

 通信以外何もできない二人きりのブリッジクルーは、しかし、それでも統制されていた。

 

 ――戦場はあいも変わらず人の死に溢れ、憎しみに溢れた怒りに溢れていた。

 

「――フォビドゥン、レイダー後退!」

「でも命令は……!」

「エネルギー切れがいたって邪魔なだけでしょ! 早くしないと下がることもできなくなる!」

 

 ミーシャは部下二人の撤退を支援しながら敵を撃つ。核動力で無限のエネルギーが得られるフリーダムと違い、フォビドゥンとレイダーはバッテリー稼働だ。もう限界に近い。ミーシャは肩で息をしながら命令する。レーダーで戦況をざっと確認すると鋭く命令する。

 

「私達より後ろに敵はいない! 早く引いて!」

「――了解! 死んではダメですよ!」

「死んじゃダメだよ。ヘビメタ布教終わってねーんだから」

「私はバラードが……いや、ヘビメタ聞く」

 

 ラクスの歌声を思い出して、ミーシャはシャニに返した。後退していく二人を見送って、苛烈な戦闘が続くエリアを抜けたことを確認すると、前に進む。

 ――一人きり。遠く後ろにいる母艦とは随分前に通信できなくなっていた。味方艦隊もほとんどいない。ピースメーカー隊も数えるほどしか残ってない。ザフトの勢力圏……ヤキンの防空圏。まで入ると、ミーシャは狂気の笑みを浮かべる。

 見つけた。

 

「イザーク……!」

 

 ミーシャは敵モビルスーツ――強行偵察複座型ジンと一緒にいるデュエルと通信を繋ぐ。

 

「イザーク・ジュール! それに……そっちはディアッカ・エルスマンだな!」

「ミーシャ・バレンタインか! 畜生……!」

 

 ディアッカは唸る。最悪のタイミングで最悪のヤツと出会ってしまった。――殺される。

 

「まずはお前だ! パパの……パパの仇!」

 

 ミーシャはジンの射撃を搔い潜る。難しいことではない。もはや戦争初期に稼働していたMSなど時代遅れ甚だしい。銃口を移動させる速度が、フリーダムの移動速度より遥かに遅い。右に左に細かく動きながら近づくだけで、ジンは――ディアッカはついてこれない。ミーシャはビームサーベルを抜き放つ。長かった。本当に、本当に今まで長かった。

 

 ――やっと仇を討てる。やっとパパの仇を殺せる!!

 

「ディアッカ!」

 

 イザークがミーシャを妨害しようとフリーダムが接近してきたら辿り着くであろう位置に射撃するが、それも無駄に終わる。ビームサーベルを抜いたのはあくまでフェイント。ミーシャは背面のバラエーナを展開すると、ジンに向けて照準。ロックオン。ディアッカのコクピットにロックオンアラートが鳴り響くが、回避しようにも振り切れない。――パイロットの腕ではカバーしきれないだけの性能差がそこにはあった。

 

「クソッ! クソーッ! ――ミリアリア!」

 

 ミーシャの射撃がコクピットど真ん中に命中し、ジンが爆散する。

 

「ハハハ……! アハハハ! ハハハ!」

 

 ミーシャは笑う。一度はアークエンジェルに捕虜として捕まえるために我慢しなきゃいけなかった。戦場にいるなら、我慢する必要なんてない。仇は討った。父を殺した仇を。ミーシャは笑い続ける。ディアッカが最期に叫んだ名前は知り合いのものだったが……今のミーシャにそんなことは気にならない。

 

「あー、可笑しい! さいっこうに楽しい! ……アークエンジェルで大人しくしとけばよかったのにね! そんな機体で戦場に出るからだよ、バーカ!」

 

 イザークは旧来の友人を討たれ、激昂する。

 

「魔弾の悪魔め……! ……貴様! ディアッカをよくも!!」

「悪魔はお前だ人殺し! お前の断末魔を聞かせてよ! 大事な物を呟いて死ぬのかな!? 女の人の名前を言って死ぬのかな? もしかしてお母さんだったり!? ディアッカやニコルみたいにさ!」

「きっさま……! 二人を笑ったな!?」

 

 デュエルとミーシャが交戦する。だが、勝負はあっさりとついた。何せバスターですらキラのフリーダムについていくのがやっとだったのだ。戦意がほとんどないキラが相手でもキツイのが初期Gシリーズとフリーダムとの差なのだ。推力が違う。火力が違う。羽一枚と脚1つないくらいだと、ハンデにもならない。絶望的な差がそこにはあった。武装をあっさり破壊すると、ミーシャはビームライフルをイザークに突きつける。気分が良く、ハイになっているミーシャは即座に殺すのは避けて、イザークに自分の犯した所業を自覚させてから殺そうと決めた。

 

「お前が殺したシャトルのこと教えてあげようか!」

「なに!?」

 

 シャトル。大気圏低軌道の戦闘でのことだ。イザークはすぐ思い出せた。腰抜けのナチュナルの兵士を始末して――

 

「お前が殺した私の友達はね! ルミナって言ってね、将来の夢はケーキ屋さん!」

「――!」

 

 ケーキ屋さん? イザークは頭が真っ白になった。

 

「お母さんにお菓子作りを教えて貰っててね、太ったら駄目だからって砂糖控えめのクッキーがすごく美味しいんだよ! ――そんなルミナも、ルミナのお母さんもお前が殺した! あのとき、お前はストライクもバスターも目の前にいたのに! お菓子作りのが趣味の十歳の女の子の方が危険だと思ったんだよね! だから撃ったんでしょ!? この節穴!」

「……! ば、バカな……!」

 

 イザークは慄く。嘘だ。そんな事はありえない。でもあのシャトルが非武装だったのは確かだ。

 

「殺してやる! ルミナの仇ぃ!」

「お、俺は、俺は!」

 

 ビームサーベルを抜き放ち、ミーシャは突撃する。コクピットに突き立ててやる。あとちょっと。そのとき、遠くからイザークを守るようにしてビームが飛んできた。ミーシャが忌々しげに撃ってきた方を見ると、ジャスティスがそこにいた。ミーティアユニットを装備したジャスティスはもうすでに小さくなっている。今度は射撃で、と思ったところでドラグーンが1基やってきてミーシャを狙う。

 

「このちっこいの……! クルーゼ!」

「イザーク下がれ。君はまだ死ぬべきではない」

「……!! ――ありがとうございます、クルーゼ隊長!」

 

 無数のドラグーンに守られ、イザークは別の戦場に向かっていった。ミーシャは憎しみの目をクルーゼに向ける。

 

「人の復讐邪魔しないでくれる!? ――どうせならディアッカも守ってやったらよかったのに!」

「残念だが私はあくまでザフトでね。ディアッカはザフトを裏切った。……守れる味方がいるのなら守るのは当然だろう?」

「本気でそれ言ってんの?」

「もちろん本気だとも。――君の邪魔をしてやりたいだけなどと、そんな肝の小さいことは考えていないさ」

「思ってるでしょクソザフトめ!」

 

 ミーシャは無数に、四方八方から迫りくるビームを躱しながら怒鳴る。遠くからキラがやってくるのが見える。

 

「クルーゼ! ミーシャ!」

 

 キラはクルーゼに向けて射撃する。まるで未来が……あるいはキラの意思が読めているかのようにあっさり交わすと、クルーゼはキラとも通信を繋いで持論を展開する。

 

「君たちはこの世界の歪みそのものだ……知れば誰もが望むだろう。君たちのようでありたいと! 君たちのようになりたいと!」

「そんなこと!」

「私達が望んでこうなったみたいな言い方辞めてくれる!?」

「君たちは数多の努力を嘲笑い、こうしてここに立っている……戦場の支配者として! これが歪みでなくてなんだ……ただの学生が、ただの子供が! 誰よりも強くここに在る!」

 

 キラは歯噛みする。そんな言い方はあまりに残酷だ。僕はしたくてしてるんじゃない。戦いたくて戦ってるわけじゃないのに。

 

「力だけが……僕の全てじゃない!」

「それが誰にわかる!」

「私がわかってる!」

 

 ミーシャは叫びながらビームライフルでドラグーンの砲塔を一つ墜とす。

 

「君が理解した所で無知な群衆は結果しか見ない! 彼らは愚かだ。ただ自分が望むことだけを見て、自分が望むことだけを信じる! 君だってよく知っているだろう、ミーシャ・バレンタイン! 青き清浄なる世界のために……青き清浄なる世界のためにと、無意味な理想を信じて血を流し、欲望を加速させ、世界を荒れさせる!」

 

 

 キラの攻撃がクルーゼを襲う。無数のミサイルをドラグーンのビームで作ったカーテンで防ぐと、あっという間に背後を取ってミーティアユニットを破壊した。2機のフリーダムがクルーゼに向かう。

 

「君たちも戦争の災禍の一つだ、ミーシャ・ バレンタイン。キラ・ヤマト! 正義と信じ、わからぬと逃げ……。その果ての終焉が今ここに在る! 人は滅ぶ……滅ぶべくしてなぁ!」

「そうならないために戦ってんでしょうが……! 地球はやらせない!」

「プラントも……地球も……! どっちも撃たせたりするもんか!」

 

 ミーシャが細かく移動するドラグーンに回避一方なのに対して、キラは少しずつ反撃を加え始める。

 

「実に滑稽だろう、この世界は……! 他者より先へ、他者より上へ……! そんな思いが世界を灼く!」

「かけっこにも文句言いそうね……! クルーゼ、あんた頭の中身もおじいちゃんなわけ!?」

「何……?」

 

 ストレートな罵倒にクルーゼが顔を顰める。

 

「私が学校通ってたときどうやって友達作ったか教えてあげよっか? 友達と戦争ゲームやって対戦しあってできたんだよ!」

 

 親友と呼べるほどの友達はルミナしかいなかったが、一緒にゲームをする友達くらいミーシャにはいた。数は少なかったが。

 

「……今どきの子供は存外野蛮だな!」

「リアルで人殺すよりよっっっぽどマシだし!」

「賢しらに物を言う……! 人の殺し方しか知らないだろうにな!」

「人の愛し方くらい知ってるし!」

「ハッ! 一方通行のそれが愛かね!」

「私は尽くすタイプなの!」

 

 ミーシャとクルーゼは言葉の応酬をやめて、ビームを撃ち合う。回避しながらの射撃は精神的な負荷がかなり高い。だが、フリーダムならできないことではない。ミーシャとキラ、二人がドラグーンに対応し始めたことをに気付いたクルーゼは不利を悟る。

 

「チッ……」

 

 ドラグーンが落とされたことに舌打ちをすると、クルーゼはまた違う戦場へ向かった。追おうとするキラのコクピットに、ロックオンアラートが鳴る。ミーシャのフリーダムからだった。

 

「ミーシャ!」

「キラ! もうこれ以上好き勝手させない!」

「僕は虐殺を止めたいだけなんだ!」

「そのせいでもうジェネシスどうやって壊せばいいのかわかんなくなったじゃん!」

 

 ミーシャは叫ぶ。もう周囲にメビウスは一機もいない。……核ミサイルは残っていない。そして、近づいてみてようやくわかった。あんな巨大なもの、モビルスーツでどうこうするのは不可能だ。遠目で見たぶんには、ローエングリンすら弾いているように見えた。

 

「それは……」

「そりゃ、虐殺なんてしたくないしプラント守ってくれたのは正直感謝してるよ。でも限度あるじゃん! なんで全滅させるの!? こんなの、ザフトに味方してるのとどう違うの!?」

「僕はそんなつもりはない!」

「事実はそうなってない!」

 

 ミーシャは手にしたルプスビームライフルをキラに向けて撃つ。キラも歯を食いしばってミーシャに向けて射撃する。

 

「何その射撃!? 舐めてんの!? コクピット撃つ気あるわけ!?」

「――ない! 僕は誰も殺さない!」

 

 ミーシャとキラはビームを撃ち合いながら叫びあう。殺し合いをしているつもりなのに、キラにはその気がないらしい。

 

「殺さない? 戦場に出といて!? 自分はもう人殺ししません、クリーンな戦争やってますって!?」

「違う! 殺したくないんだ……! もう、誰も!」

「そんなの無理に決まってんじゃん! これ以上罪を重ねたくないって!? 無駄だよ、無駄! 今更人殺し辞めたところで、私達が地獄に落ちるのは変わらない! 私達はね! 生きて謝ったってしょうがないの! 地獄で苦しみながら謝るの!」

「……そんなの! 僕は信じない!」

「ヴァルハラでも信じてるの!?」

「死んだあとのことなんて……!」

「今考えずにいつ考えるのさ! 次の瞬間に死んでるかもしれないのに!」

 

 キラはミーシャのビームをビームサーベルで切り払う。 

 キラは不思議だった。それしか知らないならそう思うのも無理はない。でも、なぜ、なぜミーシャはヴァルハラという概念を知っているのに、頑なに地獄を信じるのだろう。

 

「戦士が地獄に落ちるなら! それならここにいる人みんな地獄にいくことになる!」

「当たり前でしょ! みんな地獄に行くの! 死ぬ前は殺し合ってても……あの世に行ったら仲良く一緒に苦しむの!」

「違う! 君は信じたっていいはずだ! 戦士にも救いがあるって信じれたはずだ! なんで君は頑なに苦しもうとする! 傷つこうとするんだ!」

 

 思えばミーシャは常に苦しもうと傷つこうとしていた。楽になったなら、楽になったままでいればいいのに。

 

「――私は、私は苦しまないといけないの。許されちゃダメなの」

 

 ミーシャの口は彼女の思考を垂れ流す。もうどれほど戦っているのか。体は限界を感じていた。だが地球のためを思えば、疲れようが狂おうが戦う手を止めるわけにはいかない。たとえ指一本動かすのが精一杯だとしても前に出て、ヤキンを、ジェネシスを討たなきゃいけない。

 

「そんなことはない! 僕は……僕にだって大切な人ができた! 君にだって!」

「……私に好きな人なんてできない。私のことを好きになってくれる人なんていない!」

 

 キラは息を呑む。泣きながら言われたその言葉があまりにも衝撃だった。

 

「そんなことはない! 君にだって」

「ずっと一緒に戦って! 私の全部をあげたのに! それでもキラは愛してくれなかった……! 私が人でなしだから……私が人殺しだから……! 同じ目に遭っている人でも愛してくれないような私を、一体だれが好きになってくれるって言うの! もう私は、ずっと一人で生きるの!」

 

 ミーシャの悲鳴のような言葉に、キラは罪悪感で死にそうになる。自分がしてしまったこと。やってはいけないことをしてしまった。だからミーシャはこんなにも苦しんでいる。これからも苦しむ。……一生。それが悲しくて……辛くて。

 

「なんで……なんで君は地球軍に……! 戦いから離れて、学校に行くべきだったのに! 」

「そっちこそなんで海賊なんかになったの! 掛け合うって言ったのに! アズラエルさんは私の友達なの! 偉い人なの! その人に掛け合ってもらえばきっと復隊も出来たのに! なんで信じてくれなかったの!? 一緒に戦った仲間なのに! ――あんなに一緒だったのに!!」

 

 ミーシャは叫びながらキラに攻撃を続ける。バラエーナを撃って、腰のレールガンも、ビームライフルも、バルカンさえ使ってキラと戦う。

 

「僕は……! 正しいことのために戦うんだ! 戦争を止めたいんだ! 君も、そうしたいんじゃないのか!?」

 

 キラのバラエーナが頭部に命中し、メインカメラが吹っ飛ぶ。ミーシャは衝撃で一瞬気を失うが、すぐに目を覚まして戦闘を続ける。頭がぼうっとする。

 意識が朦朧とする。

 

「武器持った時点で間違ってるんだよ、キラ! でもそれでいい……! 私はそれでいい! 傷ついて、苦しんで――! そうして私は死んで地獄に落ちる。そうしてやっと、ママに謝れる!」

「お母さん……?」

 

 キラは牽制でバルカンとレールガンを撃つ。これならコクピットに当たっても気絶ですむ。だがミーシャは腕で防いでみせた。

 

「私は、この世界でもあの世でも苦しむべきなの!」

「そんなことはない! 君は生きてる! ご両親はきっと、生きてる君を祝福してる!」

「死ぬ間際に、気持ち悪いって思った私でも!?」

「――えっ」

 

 ミーシャは朦朧した意識のまま、記憶の蓋を開いて、その中身を口に出す。

 

「ヘリオポリスのあの日! 私はママと一緒に脱出ポッドに乗ろうとしてた! でも、私が乗るちょっと前に扉が吹き飛んで、ママが……ママが!」

 

 あの日の光景が、今この瞬間に起こっているかのように鮮烈に思い出される。フラッシュバックの中、ミーシャはかつての自分の罪を思い出す。

 

 ……爆発の熱と衝撃にやられて、ミーシャの母は酷い状態になった。

 熱で赤く焼け爛れた全身と、顔。美しかった母の顔は唇が焼失し歯が剥き出しになっている。瞼も燃えて、目玉がぎょろぎょろと動いている。吹き飛んだ扉の部品に全身を切り裂かれ、臓物のピンクがお腹周りに露出していた。たおやかだった指先は全部の指があらぬ方向に折れ曲がり、爪はグチャグチャになって蠢いていた。下半身から下は血と肉の塊にしか見えない。

 そして、そんな状態でもミーシャの母は生きていた。即死できなかったのだ。

 

「ママの死体は本当に気持ち悪かった……! 大好きだったのに! 愛してたのに! 今思い出しても気持ち悪くなるの! ――こんなの、こんな気持ちまともじゃない!」

 

 震える手で、母はミーシャの方へと手を伸ばした。何かうわごとを言っていたかもしれない。だがミーシャは怯えるように、嫌悪するように後ずさった。死に瀕する母の姿があまりにもグロテスクで、ミーシャはそれが母だとわかっていても込み上がる嘔吐感を抑えることができなかった。

 そして、ほどなくして母は亡くなる。意識を失って動かなくなるまで、母はずっとミーシャを見ていた。

 

「ママが人生最期に見たのは、自分を気持ち悪がって自分を見て吐く娘の姿だよ! ママに謝らないと……! たくさん苦しんでたくさん辛い思いしなきゃいけないの!」

「ミーシャ……! たとえ君がどう思ったって、君は二人の子供だ! 君を愛していたはずだ!」

 

 キラは精神的な動揺と、疲労で動きの鈍ったミーシャの脚を斬ろうとビームサーベルを抜いて近づく。

 

「こんなのが娘だなんて……! パパもママも本当にかわいそう!」

「違う……! 違う! 親に愛されて生きてきた君ならわかるはずだ!」

 

 ミーシャは斬られる寸前、ビームライフルで反撃する。キラのフリーダムの片翼と、ミーシャのフリーダムのもう片足が完全に破壊される。

 

「君を愛した両親なら……! 無茶苦茶に苦しんだりしなくても、一言謝るだけで許してくれる!」

「――もう遅いんだよ何もかも!」

 

 もうこんなところに来てしまった。絶滅戦争の片棒を担いで、核ミサイルの護衛をして、山ほどの人を殺した。

 もう戻れない。もう愛されるには汚れすぎてしまった。

 

「ミーシャ……! もう休むんだ!!」

 

 至近距離でキラはレールガンをミーシャのコクピットに向けて放つ。

 

「キャッ――」

 

 もう抵抗の余地はなく、ミーシャは完全に意識を失った。

 

 ――それから、どれくらい気を失っていただろうか。ミーシャが意識を取り戻すと、戦場はほとんど戦っている戦力が少なくなっていた。レーダーを見るとヤキンの周囲にちらほらといるだけで、残存戦力はほとんどないように見える。だが、ジェネシスは健在だった。遠くでエターナルとアークエンジェル、クサナギの3隻が使える武装何でも使って照射用のミラーに攻撃しているが、効いている様子もない。

 ……クサナギから一機、モビルスーツが出撃したのが見える。

 

「核……核ミサイル……」

 

 ミーシャはジェネシスの方に進路を向ける。キラとクルーゼが戦っているのが遠くに見える。その近くに地球軍の脱出ポッドがあるのも見えた。だがミーシャにそれを気にしている余裕はない。ジェネシスを、壊さなければ。

 

「ジェネシスを……地球を……守らないと……」

 

 ジェネシスの近くに行くと、モビルスーツの出入り口用のハッチを見つける。そして、ミーシャは思いついた。ニコリと、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「あった……! そうだ、あった! 一個だけ、核ミサイルがある! ここに!」

 

 ミーシャは豪勢な核ミサイルがここにあるのを思い出した。これでジェネシスが破壊できる。任務を果たせる。地球を守れる。ミーシャは残ったバラエーナをハッチに向けて射撃。溶解したハッチを通ってジェネシス内部に侵入した。敵の姿は見えない。

 

「……よし、自爆……自爆しないと……」

 

ミーシャは淀みない手つきで自爆シークエンスを起動。暗証番号を入力しようとしたところで、なぜか指が動かなくなった。

 

「……あ、あれ?」

 

 指が動かない。震えて動かない。怖くなんてないのに。なにも後悔なんてないはずなのに。納得してるはずなのに。

なのになぜか、指が動かない。

 

「なんで……自爆しないといけないのに……!」

 

 恐怖は麻痺している。何も感じない。なのに最後のストッパーとでも言わんばかりに、固定されたように身体が動かない。

 

「地球が……! 私のせいで地球が滅んじゃう!」

 

 ミーシャは叫ぶ。自分を鼓舞する。

 

「私は……私は!」

 

 

 目に涙を溜めながら、それでも自爆できない。その時、ジェネシス内部にジャスティスが入ってきた。ミーシャは反射的にフリーダムのビームライフルをジャスティスに向ける。

 

「アスラン……」

「ミーシャ……お前か」

 

 ミーシャは撃たなかった。ジャスティスも戦闘しようとはしなかった。

 

「ジェネシスを守りに来たの!? 無駄だよ、これから自爆するんだからね! でっかい核爆弾みたいなのが爆発すれば、ジェネシスといえど壊せるはず!」

 

 ミーシャの言葉に、アスランがピクリと反応する。

 

「自爆……? 地球軍にそうしろと言われたのか」

「こんなのいちいち命令されないとできないとでも思ってるの!? アークエンジェルが捨て駒にされたみたいに……! 私だってここで命を捨てられる! 死んで地球を守るんだ! ザフトのお前に邪魔はさせない!」

 

 アスランは目を細める。ミーシャという少女を誤解していた。確かに彼女は魔弾の悪魔という名に相応しいほど敵を殺す。だが地球を守るという意志は本物だ。

 

「子供のお前がこんなところで死ぬ必要はない……。俺がここでジャスティスを核爆発させる」

「は? なんでザフトが……」

「俺はザフトじゃない。それに……。ザフトだって、コレを撃つのを止められるなら止めたいさ」

「嘘だ!」

「……俺の父は味方に撃たれて死んだ。そういうことだ」

「パトリック・ザラが死んだ?」

 

 その名前は今のミーシャなら知っている。プラント最高評議会議長の名前だ。アスランの父でもある。

 

「父の罪は俺が雪ぐ。だからお前は戻れ」

「……バカ言わないでよ。こんな土壇場で、ジェネシスを破壊できるのがこの宇宙で私とアスランしかいない状況で、信じられるはずないでしょ!」

「……なら、一緒に死ぬか?」

 

 嫌だろうから早く帰れ。そう言うつもりでアスランは言った。だが。

 

「当たり前でしょ!」

 

 アスランは目を見開く。ここまで覚悟していたのか。眼の前の少女はたしかに子供だ。だが地球軍の高潔な戦士なのだと実感した。

 

「……そうか。なら、俺から言うことは何もない」

「私はあるよ。なんでアスランと心中することになるの……もうちょっと生きたかった」

「心残りがあるなら」

「ただの愚痴だからとっとと自爆するの!」

 

 ミーシャは自爆シークエンスを進める。さっきまで動かなかった指が動く。ひとりじゃない。たとえ敵だとしても同じ意志の人間がいるだけで、こんなに安心するなんて。

 

「辞世の句……そうだアスラン、最期の言葉何がいい?」

 

 まるで友達にレストランの注文を聞くかのような軽さでミーシャが聞く。アスランは呆れてため息をつく。……随分緊張がほぐれた。アスランも同じように自爆シークエンスを進めようとする。

 

 その時。ジェネシスの中にM1アストレイが一機、入ってきた。

 

「バカヤローッ! アスランお前何考えてる!」

「カガリ……」

「生きてたの!?」

 

 

 ミーシャはアストレイに武器を向けようとして……やめる。ここでもし戦闘になって自爆できなければ全てがおしまいだ。

 

「カガリ、お願い。戦いたくないの。私はここで自爆したいだけなの」

 

 ミーシャが通信を開いてカガリに懇願すると、カガリから息を呑む声がする。

 

「――お前は、そうまでして何故命令に従うんだ!? 死ぬ気なのか?」

「……だって、決めたから。ジェネシスを壊さないと、地球が滅ぶ。そのためなら、私喜んで死ねるよ。ほら、カガリだって仲間の仇が死ぬんだよ? 嬉しいでしょ?」

 

 ミーシャがそう言うと、カガリは顔を顰めさせる。

 

「喜べるか!! お前と一緒にするんじゃない! 確かに、マユラも、ジュリも、アサギも、みんなお前とお前の部下に殺された! でも私だってお前の部下や地球軍の兵士を殺したんだ! ――それで憎しみなんて持ってたって、しょうがないじゃないか!」

 

 カガリの言葉に、ミーシャは目を見開く。

 

「……そんなの、私思えない」

「今は無理だろうな! でもいつか! いつかお前だってわかるようになる! だから! だからお前ら! 逃げるんじゃない!」

 

 ミーシャも、アスランも、カガリの言葉に衝撃を受ける。

 

「逃げる……? 私が……?」

「ここには私がいる! 拾える命を捨てて……! それは逃げだ! アスランも、ミーシャも! 二人共戦え! 生きる方が、戦いなんだ!」

「生きる方が……」

「……戦い」

 

 ミーシャも、アスランも、カガリの言葉が胸に響く。しばらくして、アスランは自爆シークエンスを起動する。コクピットから脱出すると、アストレイの手の中に収容される。

 

「ミーシャ! お前は脱出しろ!」

 

 そう言って、アスランは指で出口を指した。ぼんやりと、ミーシャはアストレイを見る。アスランを持つ手の反対側の手にはビームライフルがある。

 

「撃たないの?」

「言っただろう。私はもう復讐で銃を取らないと。さあ、脱出しろ!」

「――二人共……後悔することになるかもよ?」

「後悔なんてしない」

「……カガリ……一つ借りとくね」

 

 ミーシャは痛む頭、朦朧とする意識の中機体を必死に動かしてジェネシス内から退避する。――死なずに済んだ。自爆せず、誰にも看取られずカケラも残らず死ぬ羽目にならなくてよかった。ミーシャはあとからあとから溢れる涙を拭うこともせず、仲間のところに向かって進む。……ふと、フレイが自分の名前を呼んだような気がした。

 

 ――

 

 宇宙に、彼女の思念が響く。ミーシャはぼんやりとそれを聞き取れた。キラにはほんの少しも届かない。

 

『……ミーシャ』

「ん……フレイ?」

 

 ミーシャは自分のそばにフレイがいると感じた。何故だろうか。声も届く気がする。

 

『いい……あなたは今からドミニオンに帰るの……。クルーゼはキラがやっつけてくれるわ』

「……もしかして、フレイ……死んじゃったの?」

 

 クスリと、笑う感覚がする。あやふやだ。確信はない。でもフレイがそばにいる。

 

『あなたには、悪いことをしたわ。ずっと謝りたかったの』

「……謝るなんて。いいんだよ。気持ちよかったし、救われたの」

『私の最期のお願い、聞いてくれる?』

「もちろんだよ。当たり前でしょ?」

 

 涙が流れる。悲しくて仕方ない。なんでフレイは死んだんだ。誰に殺されたんだ。すぐにでも仇を――

 

『私の仇を討とうとしないで。まっすぐにドミニオンに戻って、もう休んで』

「なんで。なんで! なんで……! フレイは殺されたのに! 仇を撃ってほしくないの!?」

『私は、仇を撃ってもらうより……あなたが大きくなって、彼氏を作って、結婚して……子供を産んで。幸せにしてくれる方がいいの』

「そんなの! できるかどうかわかんない!」

 

 フレイがふっと微笑んだような気がした。

 

『難しいわ。復讐するより遥かにね。だからミーシャ、お願い。私のお願いを聞いて?』

 

 ミーシャは涙を流して、何度も頷く。

 

「わかった……わかったよ……。今からドミニオンに帰る。仇のことは、考えない。これでいいんだね? これがフレイの最期のお願いなんだね?」

『ええ……。大好きよ、ミーシャ。私の願いが、あなたの未来を祝福するわ……』

 

 ……ふと、フレイが遠くに行ってしまった感覚がした。

 ミーシャは何もない宙域を見つめる。

 

 ……バカバカしいが、この先にドミニオンがいると感じた。直接向かうと敵に当たる。ルートを変更して、それからまたドミニオンへ向かう感覚を頼りに……。

 

 ミーシャのレーダーは何も言わない。だが、ミーシャは確実に安全に、ドミニオンへの進路を辿っていった。        

 

――キラは涙を流して、泣いて。そして明確な殺意を宿してクルーゼを探す。……フレイが殺された。脱出艇で逃げていたフレイを、クルーゼが殺した。彼を追いかけて、キラは突っ込む。クルーゼはジェネシスと反射ミラーの丁度間にいた。ジェネシスを最後まで守るつもりらしい。殺意を瞳に滾らせて、ビームライフルを撃つ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

「……まだ苦しみたいか」

「あなたは……! あなただけは!」

 

 無数のドラグーンが回り込むようにしてフリーダムを狙う。だがキラはあらかじめわかっていたかのように、ドラグーンの移動先にピタリと照準を向けて、ドラグーンを撃破した。

 

「いつかは、やがていつかはと……戦火は止まず、人の憎悪は際限なく増殖する!」

「僕は……僕はあなたを殺す!」

「今更私を殺したところでどうにもならん! ジェネシスはどうあっても発射される! 大地は焼かれ、涙と悲鳴は新たな争いの狼煙となる!」

 

 クルーゼのライフルがフリーダムの左足に命中する。反撃のビームがプロヴィデンスの左腕に当たり、爆発する。

 

「そんなこと! させやしない!」

「止められやしない! 業を重ね……罪を重ね……! 君とてその一つだろうに!」

 

 キラは顔を顰める。山のように人を殺した。フレイを傷つけて謝ることすらできなかった。10歳のミーシャに手を出して、傷つけて、最後は彼女を裏切る形で敵対し、彼女の気持ちを、するべきことを踏みにじった。クルーゼの言葉に何も言い返せない。何も言い返す気がない。思い返す今までの人生。コーディネーターであることが、ヘリオポリスから今までずっとついて回ってきた。守ってきたのに、コーディネーターであるというだけで何か陰口を言われる。同じミーシャはただ褒められるだけなのに。

 ――でも。

 

「それでも……!」

 

 キラの脳裏に最後に浮かんだのは、アークエンジェルにいる仲間だった。

 そして、オーブにいる両親の顔だった。キラは愛を知っている。愛を知らず世界を呪うだけのクルーゼとは違い、愛されているのだ。

 

「それでも……! 守りたい世界が、あるんだ!!」

 

 ビームサーベルを連結させ、クルーゼに突っ込む。フリーダムの推力に任せ、ひたすらまっすぐ突っ込む。頭が撃たれ、胸部ダクトも撃たれ、でも生きてる。――殺せる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 プロヴィデンスの胸部に、ビームサーベルが突き立った。

 

 ――

 

 ミーシャはやっとキャッチできたドミニオンの信号に向けてふらふらと移動していた。

 

「……聞こえる? ナタルさん? クロト? シャニ?」

 

 数十秒に一回、通信を入れるが中々繋がらない。しばらくして、ミーシャは目を見開く。中心部に大穴が空いたドミニオンが見えたのだ。

 

「え……嘘? ナタルさん? アズラエルさん?」

 

 ミーシャは目に涙を浮かべながら何度も名前を呼びかける。

 

「……そんなに何回も呼ばなくても聞こえていますよ、ミーシャ」

「アズラエルさん! クロトとシャニは!?」

「こちらで回収しています」

「バレンタイン少佐、報告を」

 

 ナタルの声も聞こえる。ミーシャはほっとした様子で目元を拭う。

 

「私がやったんじゃないけどさ、ジェネシスはもう大丈夫」

 

 ……ミーシャが報告すると同時、ジェネシスと、ジェネシスの反射ミラーが大爆発を起こして崩壊した。ジャスティスの核爆発と、ジェネシスの発射が重なり、さらにミラーのそばにあったプロヴィデンスの核爆発でミラーに歪みが発生。ジェネシスの出力を正常に反射できなくなったミラーはそのままジェネシスのレーザーに焼かれて崩壊したのだ。指向性のないレーザーは宇宙に拡散し、そう距離を置かず脅威ではなくなる。

 

「……よくやった、バレンタイン少佐」

「――疲れた……」

 

 

 ミーシャがそう言ってドミニオンの上に着艦すると同時、放送が聞こえる。

 

「宙域のザフト全軍及び地球軍に告げます……現在プラントは地球軍およびプラント理事国に向けて停戦協議についての準備を進めています――」

 

 ミーシャはぼんやりとその放送を聞いていた。もうどこにもビームの光も、機体の爆発の光も見えない。

 ……戦闘は終わったのだ。

 

「……生きてる。生き残ってる」

 

 ミーシャはただ、今生きていることを噛み締めた。




 SEED編、完結です。今後は戦後の話を数話、そのあと運命編へと続きます。
 書いてこられてのも皆さまの感想と評価があったからこそです。いつもありがとうございます。

 感想、評価お待ちしております。
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