【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
キラが宇宙に投げ出された光景を目にしたミーシャは捜索に出ようとするところを留められ、格納庫に戻った。コクピットから降りて通路に足を付ける。その表情は青く、暗い。
「大丈夫か、嬢ちゃん」
「……ムウさん」
同じくメビウスゼロから降りたムウが、まっさきに声をかける。
「キラが……」
「朗報だ。キラの機体反応は消えてない。位置も捕捉できてる。すぐ回収できるさ」
ムウがほほ笑みながら事実を言うと、ミーシャの顔はみるみる明るくなった。死んでいない。いなくなっていない。その事実がミーシャの心を明るくした。
「ホント!? よかったー! それに、ロボから降りていいってことは、もう敵はいないってことだよね、殺されたりしないってことだよね!」
「ん、まぁな。よくやったよ、嬢ちゃん」
ポン、とムウはミーシャの頭を撫でる。しばらく撫でられていたミーシャだったが、だんだんとまた表情が暗くなる。落ち着いてくると、ついさっきまでのことを思いだしてしまったのだ。殺されそうになった恐怖。楽しみながらも人を撃ち、たくさんの人を殺した事実を。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「――人を、殺した。たくさん、何人も。わたし、私……! うっ」
ミーシャは口元を抑えて視線を彷徨わせる。ムウがトイレを指差すと、一目散に向かっていった。
「……俺はきっと、碌な死に方しないな」
トイレに向かうミーシャを見つめ、ムウは呟く。
――ミーシャにはああ言ったが、実際の状況は、最悪なままだった。
ひとしきり吐き終わったミーシャは、ムウに連れられてアークエンジェルのブリッジに来ていた。初めて目にする戦闘艦のブリッジに、ミーシャは目を輝かせる。
「わぁ……! これがブリッジ? すごい!」
「あんまりはしゃぐと、みんな無駄に張り切っちまうからほどほどにな」
「はーい!」
元気に返事すると、ミーシャは目にするすべてが興味深いと言わんばかりに顔と視線をいったり来たりさせる。
「……ラミアス艦長、正規兵はどのくらい残ってる?」
そんな彼女に微笑ましい表情を向けたあと、ムウはラミアスに聞いた。
「ここにいる人間と、格納庫にいる整備兵……それで全てよ」
「嬢ちゃんや坊主の代わりになれるようなのは……」
ラミアスは首を振る。完成されたOSは操作難度が高く、歩かせるのすらできるか怪しいレベルである。
「……つっても、坊主と嬢ちゃんにこのまま戦わせるのもなぁ」
「――我々だけなら、使えなくても問題ないのだけど、ね」
ムウもその言葉に頷いた。ラミアスもムウも、この場にいる軍人全員、別にキラとミーシャ、それにこの船に乗せている一般人がいないなら、動かせもしないストライクとバスターを抱えてメビウスゼロ一機で決死行をするのもいいだろう。だが、そうはできないのだ。この船に一般人がいる限り。
――それに。
「使えないって……もしかしてもう私を戦わせないつもり? そんなのだめだよ。私がみーんなやっつけて、みんなを守るから!」
「だがなぁ、嬢ちゃん」
それに、ここには力を持ってしまった幼子がいる。
優しく、勇敢で、そして狂気を抱きつつある小さな小さな女の子がいる。
「それに! さっき聞いてたけど、私よりアレ使える人いないんでしょ? なら私がやる!」
ミーシャの言葉に、先程まで沈黙していたナタルが口を開く。
「これ以上、お前が手を汚す必要などない」
「今更だよ! 私が今日何人殺したと思ってるの!?」
その言葉に、ラミアスとムウが暗い表情をする。周囲のクルーもだ。ミーシャは泣き笑いのような表情になって、絞り出すように言う。
「あはは、はは、覚えてもないんだよ! こんなの悪者じゃん。殺人鬼だよ。だから、だからいいよ。ほら、悪者みんな言うじゃん。一人殺すも二人殺すもおんなじって」
たくさん人を殺した。いけないことだと言われてるのに、パパにもママにもダメだって言われて、それは悪いことだって言われてたのに。もう何人殺したのかすら覚えてないのだ。
「お前は悪者などではない」
「じゃあ、何だっていうのさ。たくさん人を殺して……もう死んでも天国にもいけない」
「ただの被害者だ。お前は何も悪くない。私がお前に引き金を引かせた」
ナタルはミーシャの目をじっと見つめた。
「な、何言ってるのさ。私が撃ったんだよ。笑って、楽しくて……」
「気にするな」
しばらく、ミーシャは目を見開いてナタルを見た。それから、額に少し汗を垂らし……いたずらっぽく笑った。挑発するように、試すように。
「じゃ、じゃあ、私、これからもっと殺すよ。だって死にたくないもん! まだ地獄には行きたくない! だ、だからまた殺すよ! それでも、それでもナタルさんは自分のせいだって言えるの?」
「言える。私は軍人だ。軍人たる私がお前に戦えと強制した。これからも、お前が武器を取るたび命令する。殺せと」
――ミーシャはくしゃっと顔を歪ませる。わからない。なんでそんなに自分のせいにしたがるのか全然理解できない。
「――わかんないよ、なんでそんなことするの?」
「いずれわかる。そして……最後までわからなくとも、かまわない」
ナタルがそう言うと、同時刻くらいだろうか。ブリッジに通信が入った。
「こちらストライク! こちらストライク! アークエンジェル、聞こえますか?」
「あ、キラ! 生きてたんだね!」
ミーシャが通信兵の横から通信コンソールに顔を出す。通信兵が困ったように上官を見るが、ナタル、ラミアス、ムウの三人は肩を竦めて答えた。
「ミーシャちゃん! キミも無事だったんだね!」
「うん! あんまり遅いと探しに行こうかなって思ってたんだからね!」
「ごめんね……。ラミアス艦長はいる?」
ラミアスは艦長席に座ると、通信を開いた。
「はい、こちらラミアス」
「今から帰ります。……その、お願いしたいことがあって」
「お願い? 何かしら」
「――脱出ポッドを、拾いました」
「救難信号は?」
ナタルがすかさず聞いた。キラは何のことだかわかっていない様子だったが、しばらく何かを調べて……首を振った。
「いえ、特に信号はないみたいです」
その言葉に、ラミアスとナタルの間に、緊張が走る。
「……キラくん」
恐る恐る、ラミアスが口を開く。
「私達は、余裕がない。そして、救難信号のない船は救助する義務はないの。それはわかってくれるわね?」
「はい、でも放っておけなくて。だってここ、まだ危険なんですよ!?」
「オーブにはもう話は伝わっているはずよ。すぐに救出されるはず。だから救難信号がないのだと思うわ」
「はず、はずって! それを言うなら、僕らは戦争なんて関係ない『はず』だったんですよ! それに、ザフトが脱出ポッドを撃たないとも限らないじゃないですか」
「彼らはそこまで……」
野蛮じゃない、なんてラミアスは口にすることはできなかった。何せザフトの基本方針はナチュラルの捕虜は取らない、である。規律も緩く、敵に対する軍規違反が咎められることはほとんどないらしい。
「――キラ。我々はすでに避難民を受け入れてしまっている。これ以上受け入れることはできない」
「できないって……」
「食料も水も、足りないのだ」
「でも! そんなの、でも……! 一度掴んだのに、放り出せって言うんですか!!」
ナタルはグッと背筋を伸ばし、断言した。ここは言わなければならない。たとえ、嫌われることになったとしても。
「そうだ。キラ・ヤマト。今すぐその脱出ポッドを離し、アークエンジェルに帰投せよ」
「――できない! そんなの嫌です!」
「我々には余裕が――」
「キラくん、バジルール少尉」
二人の口論を、ラミアスが止めた。
「決定を伝えます。脱出ポッドを回収するので、今すぐキラくんは帰ってきて」
「――ありがとうございます!」
「艦長!」
ナタルが進言するが、ラミアスは首を振る。
「ごめんなさい。今ここで時間を取りたくないの」
「……。――了解」
理由を聞いたナタルは、敬礼で答える。
「――優しい人だと思ったのに」
ブリッジに、幼い声が響いた。
「ナタルさん、優しい人だと思ったのに!! 信じられない!」
ミーシャはそう言うと、ブリッジを飛び出してしまう。
慌てて、ムウが追いかける。
「……私が言うべきだったわね」
「いえ。職務を果たしたまでです」
そう言ったナタルの顔は、寂しそうに見えた。
ブリッジから出てすぐの通路で、ムウはミーシャに追いついた。
「おい、嬢ちゃん」
「何、ムウさん」
「ああ言うほかになかったのさ、わかってやれとは言わんが……」
「――わかってる、つもりなの。でも、なんか、なんか裏切られたような気持になって。ナタルさんは優しかったよ。ちょっぴり怖かったけど。でも、優しかったの……」
後悔するようなミーシャの様子に、ムウはがりがりと後頭部を掻く。反射的に言ってしまったのであろうことは容易に想像できる。
「バジル―ル少尉は難しい立場なんだよ。お前らに優しくする一方で、この船の面倒も見なきゃならん」
「うん……」
「まぁ、本人だって、お前らに嫌われるの覚悟で言ったんだ」
「――嫌われるってわかってて、言ったの? なんで?」
「んー難しいな。軍人って、そういうもんなんだ」
「そうなの?」
ムウは頷く。
「軍で通用するのはこれだ」
ムウは首元の階級章を見せる。大尉の階級章を見せられても、ミーシャはぽかんとしていた。
「……それ?」
「ああ。階級が上のやつの言う事を聞く。それが嫌いな相手でも。だから、階級が上の奴は、嫌われるようなことを言ったり、命令したりできるってわけさ」
「……人殺ししなきゃいけないから?」
ミーシャの理解に、ムウはにこりと笑った。
「そうさ。どこそこにいってあいつを殺してこい、なんて命令する奴、好きになれるか? 俺は無理だね。だから軍じゃ『これ』が大事なのさ」
「ふーん……」
ミーシャはしばらく思案顔になって、それからムウを見た。
「でも、私、ナタルさんのこと、嫌いじゃないよ」
「そりゃ、嬢ちゃんが優しいからだろ? さ、格納庫に行こうぜ。坊主が拾ってきたポッドの見物さ」
「うん、いく」
ムウが手を差し出すと、ミーシャはその手を重ねる。ふわりと、格納庫に向かって移動を始める。
「後それからさ」
「?」
「俺のこと、さん付けはいらないぜ」
「いいの?」
「まぁ、仲間だろ、俺たち?」
「そうだね。……これからもよろしくね、ムウ」
「ああ、よろしくな、嬢ちゃん」
二人の顔には微笑みが浮かんでいた。
――アークエンジェル格納庫に、楽しそうな会話の声が聞こえる。
「フレイ!」
「ルミナ!」
脱出ポッドから出てきた二人の少女。赤い髪の16歳頃の少女、フレイ・アルスター。そして、金髪の愛らしい容姿の少女、ルミナ・ラインアーク。二人は脱出ポッドの出入り口から出ると、真っ先に自分の友人の方に向かった。フレイはサイの方に。ルミナという少女はミーシャのところに。
フレイはキラをはじめとするアークエンジェルにいた友人たちに囲まれ、ルミナはミーシャに抱きつかれる。
「ルミナ、よかった……!」
「ミーシャこそ! 逃げ遅れたかと……!」
ひし、と抱き合う二人や、再会を喜ぶキラ達を、ムウが遠巻きに眺めていた。隣には整備兵のマードックがいる。
「――少なめでよかったですね」
「あれくらいなら今日明日、ってことはねぇな」
脱出ポッドに乗り込んでいたのは10人に届くか届かないか、そんな数だった。もっとすし詰めでもおかしくはなかったし、誰もがそう予想した。しかし蓋を開けてみればこの通り……なんとか問題無いレベルの人数だったのだ。
「……にしても、嬢ちゃんにも友達がいるんですねぇ」
「そりゃ、いるだろうさ」
困ったねぇ、とムウは言う。ここに至ってしまっては、もう後戻りなどできないだろう。守るために、彼女もキラも、ずっと戦い続けることになるだろう。アークエンジェルが真に安全と言える場所にたどり着くまで、ずっと。それはいつになるのか、ムウにはわからなかった。
「で、進路はどうなるんです?」
「現状、月基地が最終目標ではある。が……まぁ、無理だろうな」
大西洋連邦所属の月基地まで行けば何もかも問題なくハッピーエンドとなるだろう。だが、今アークエンジェルには避難民がいる。彼の飲食の面倒も見てやらなければならない。
「ってことはこの周辺で一番近い友軍っていやぁ……アルテミスですか? でもあそこユーラシア所属でしょ?」
「背に腹は代えられんし、やってみなきゃわかんないだろ? まぁ、艦長とバジル―ル少尉次第だろうが……ま、同じ判断するだろうさ」
そう言うムウの視線の先では、キラとミーシャがお互いを友人に紹介しているところだった。
「ルミナ! この人、キラっていうの。私の戦友だよ」
「戦友って……もしかしてミーシャ、戦ってるの!?」
「へへん、すごいでしょ? このロボット、私のなんだよ!」
そう言って、ミーシャは灰色になっているバスターを指さした。バスターは現在整備中で、整備兵が何人も作業中だった。
「ね、キラ」
「う、うん……。紹介するね、フレイ。彼女はミーシャちゃん。僕の……戦友、だよ」
「この子もキラも……戦ってるの? なんで? だってあなた、そういうことしないタイプでしょ?」
「うん……」
フレイの疑問の声に、キラは歯切れ悪く答える。反対にミーシャは、友人のルミナと話は淀みない。話の内容は同じくらい重々しいが。
「死んじゃうかもしれないのに、なんで戦ってるの? 子供が戦争に参加したって殺されるだけだよ!」
「それはそうなんだけど……。何もしなくても死んじゃうよ? ま、この船に乗ったからには安心してね、私が守ってあげる!」
にこりと笑って戦う意思を見せる友人に、ルミナの心配はさらに募る。
「ミーシャ、パパとママはどうしたの? 二人が戦っていいって言ったの?」
「――パパとママは、死んじゃった。だから、もういいの」
ミーシャは笑う。ルミナは絶句した。知らない仲ではなかった。ミーシャのおうちに遊びに行ったとき、歓迎してくれて、何かとお世話になった人だった。死んだ?
「もう、私のこと怒ってくれたり育ててくれる人、いなくなっちゃったからね。私は、私の好きにするよ」
「そ、それが、それが戦う事なの? おかしいよ! 死んじゃうよ?」
「うん、そうだと思う。ルミナ、私が死んでも、人殺しが一人死んだって、そう思ってほしいな」
「そんなの、思えないよ!! ミーシャのバカ!」
ぎゅ、とルミナはミーシャを強く抱きしめた。目を見開いて、その抱擁に戸惑うミーシャ。もうこんな風に優しくしてもらえる資格なんてない、そう思っていたからこその動揺だった。ミーシャはルミナを抱きしめ返すと、静かに決意を示す。
「……ルミナは、安全なところにいて。私が、守るよ」
「なんで、なんでミーシャが……そうだ、大人たちは? この船の大人は何してるの? ミーシャみたいな子供を戦わせるなんて最低!」
「みんな必死なの。だから……」
その時、船内に警報が鳴り響いた。ミーシャもキラも、ハッとした表情になる。遠くで見ていたムウが駆け寄ってくる。
「坊主! 嬢ちゃん! これは敵襲だ!」
「うん、行こうキラ! 襲ってくるヤツ皆殺しにしよう!」
「ミーシャちゃん!」
誰に言われずともコクピットに向かおうとするミーシャに、キラが声を掛ける。
「ん?」
「ほ、ホントに戦うの? 僕たちは民間人で、子供なんだよ? 戦いなんて軍人に任せて……」
当然、キラは嫌だった。戦うなんて危険なことしたくなかった。ミーシャにだってさせたくなかった。戦争なんてものは軍人に任せるべきだし、そうでないとおかしいのだ。だって軍人はいざというときに戦うために給料をもらっているのだ。そうなるとわかっていて軍人になっている人しかいないはずなのだ。なのになんで真っ先に民間人の自分が戦う羽目になるのだ。おかしいじゃないか。キラの思考が正論に支配される。だが、そんな世の中の道理を知らないミーシャは、きょとんとした様子で返す。
「軍人さん? 今、殺し合いで軍人さんなんて頼りになる? だって今この船で戦えるの、私とキラだけなんだよ?」
「それは……」
「それにさ、キラ」
顔を青ざめさせるキラに向けて、ミーシャはニッと笑う。その額には冷や汗が浮かんでいる。強がりであるというのはひと目でわかる。ミーシャだって怖い。彼女だって嫌だ。それでも、涙をこらえて彼女は笑う。
「私達、こんな状況で勝ったら……ヒーローだよ、ヒーロー!
キラ、私と一緒に英雄になろう! テレビに出たりさ、軍からたくさんお金もらうの!」
「ミーシャちゃん……」
キラは拳を握りしめる。戦うなんて辛いし、嫌だ。他の人がやれるならなんで僕がやらなきゃいけないんだ。そんなことを思う。
だけど。
こうしてキラに手を伸ばすのは、10歳の女の子なのだ。彼女は状況をわかっている。そのうえで、できる限りポジティブでいようとする。その姿がキラには眩しかった。キラはぐっと胸を張り、ミーシャに向かう。ミーシャのそばにまで辿り着くと、ミーシャの手をとる。
「僕たちで、この船を守ろう。一緒に、戦おう」
辛いし、嫌だし、怖いけど。
――誰かと一緒なら、きっと戦える。
「うん。キラ。たとえどんなに辛いことがあっても、私が一緒だよ。戦友だもん」
「うん、戦友だからね」
ミーシャとキラは頷きあうと、それぞれのモビルスーツのコクピットに乗り込んだ。コクピットハッチを閉めたミーシャは、一人きりになったことを確認すると、ほう、と深いため息を付いた。もう誰もいない。一人っきり。もう泣いてもいいんだ。
「――やだなぁ。戦うの怖いなぁ」
あとからあとから涙が溢れてくる。顔を覆って、声を殺して泣く。
「死にたくないよ……殺したくないよ……パパ、ママ、助けてよぉ……」
ぐす、ぐす、と泣いて……。ブリッジが通信を繋ごうとしていることに気付くと、服の袖で涙を拭う。顔を上げると、そこには楽しそうに笑うミーシャがいた。通信コンソールを開いて、ブリッジと通信を繋ぐ。
「ナタルさん! 敵だよね!」
「ああ。敵はGタイプが3機に、ジンが3機」
「Gタイプ?」
「奪われたモビルスーツだ。……もう出してくるとはな」
「げ。――まぁ。殺してくればいいんだよね?」
過激な物言いをするミーシャを、ナタルは咎めなかった。
「ああ。命令だ。彼らを皆殺しにしてこい」
「わかった!」
ミーシャが元気よく返事すると、ちょうどキラとムウの二人が通信コンソールに表示される。
「キラ、ムウ、準備はいい?」
「うん、僕は大丈夫。ミーシャちゃんこそ大丈夫?」
「大丈夫! 元気いっぱいだよ!」
「俺も問題ない。それで、今回ちょいと作戦があるんだが」
ムウの提案に、キラとミーシャは頷く。二人が聞く様子なのを見て、ムウは作戦を語り始める。
「まず、俺が先行して敵母艦を見つける」
「一緒じゃだめなの?」
「ああ。巡航速度で隠密する」
「そんなことできるの?」
ミーシャの問いに答えたのはキラだった。
「宇宙だと、一度加速したらよっぽどのことがないと勝手に減速したりしないからね。あとはジェネレーターとか切って航行すれば、探知されずに近付けると思う」
「ドンピシャ、その通りさ。そうやって敵母艦に近付いたところを……ズドン! って寸法だよ」
ミーシャはしばらく考えていたようだったが……結局理解しきれなかったらしい。頭を振ると、諦めたように言う。
「ごめんよくわかんない。裏取りっぽいことするってのはわかったんだけど……。キラはいけると思う?」
「うん、敵の母艦の位置と速度が割り出せるなら、現実的な作戦だと思う」
「……ってことはこっちは戦力減ってこと? まぁ、私とキラならどんなやつ相手でも大丈夫だよね」
「嬢ちゃんと坊主には負担をかける。だが上手くいきゃこの追いかけっこも終わりにできる」
「なら、やる価値はあるってことだよね。いいよ、やろう! 一泡吹かせてやるんだ!」
「……うん」
ミーシャの元気な声にも、キラは浮かない表情だった。ミーシャは不思議に思うが、その思考は新たに通信に出てきたナタルに遮られる。
「ラミアス艦長からも許可が出た。フラガ大尉は先行して出撃。敵モビルスーツを確認した後、ヤマト機、バレンタイン機は出撃。質問は?」
「ありません」
「ないよ!」
しばらくして、ムウが静かに出撃していった。
「……ムウさん、一人で大丈夫かなぁ?」
「ムウさんは弱くなんかないよ。僕らのほうが……」
「――そだね。キラ、さっきから浮かない顔してどしたの? そりゃ戦うのは嫌かもしれないけど……」
「そうじゃない、そうじゃないんだ……。実は、実はね……あのGタイプ、赤い機体には僕の――」
キラが何かを言おうとしたとき、もう一度警報が鳴った。ハッと、ミーシャは操縦桿を握る。
通信コンソールに新たな人物が現れた。
「あれ、さっきの……キラの友達?」
「ミリアリア・ハウよ。よろしくね。もう出撃していいって!
キラにばっかり戦わせるのも嫌だしね。ということでこれからは私がオペレーターよ」
ピンク色の制服に身を包んだミリアリアが軽い調子でミーシャに言った。
「よろしく! ミーシャ・バレンタインだよ。今からザフトの連中皆殺しにしてくるから、待っててね」
「え……」
「ミリアリア・ハウ、発進シークエンスを続けろ!」
「え、はい!」
ミーシャの言動に面食らうミリアリアに、ナタルの檄が飛ぶ。
「発進タイミングを、ミーシャ・バレンタインに移譲。いつでもいいよ、ミーシャちゃん」
「わかった! ミーシャ・バレンタイン、バスター、行ってきます!」
宣言と共に、ミーシャのバスターは射出される。
再び、彼らは戦火に巻き込まれる。格上との絶望的な戦いに、彼女たちは臨む。