【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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 感想、評価いつもありがとうございます。執筆の励みになっております。


バレンタイン隊の一番長い日

 月基地、ファントムペインに割り当てられた秘密宇宙港の中にガーティ・ルーは停泊していた。先の作戦成功を祝い、大多数の人間は休暇……もしくは打ち上げに行っている。未成年のミーシャは不参加である。ネオもイアン達ブリッジクルーと共に夜の街へ繰り出しているのだろう。 

 

「――これ何?」

 

 だが、バレンタイン隊第1小隊のメンバーはブリーフィングルームでミーシャに詰められていた。机の上にはアウルが買い込んだ大量のポルノが広げられている。アウルは飄々としている。スティングは苦い顔をして、ステラは机の上のブツを潰れた毛虫を見るような目で見ている。

 

「隊長が好きなの買っていいって言ったしーいっかなーって思いましたー」

「これが観光客として違和感ない買い物?」

 

 ミーシャが呆れ返ったように聞きながら、山のようになっているポルノを手に取る。なんというか、煽情的なパッケージだ。コズミック・イラになっても性的な欲というのは度し難いらしい。ミーシャも直接こういうものを見たことはなかった。

 

「そうそう、だってほら、プラントの成人って15じゃないですか? 浮かれてる観光客ならまずこういうのかなって」

「ま、一理あるかな……。にしても肌きれいだねこの人。私男の裸も女の裸も暗いところでしか見たことないからなー。見てると結構ドキドキするね」

 

 ミーシャは赤い髪の女優がパッケージに書かれてるポルノを手に取るとまじまじと見る。

 

「……で、これアウルが使()()の? スティングと山分け?」

「俺は関係ないっす。アウルが勝手にやりました」

 

 スティングは1秒も迷わずアウルを切り捨てた。一緒にされてはたまったものではない。

 

「ふーん……。子供相手のはないんだね」

「あるわけないでしょ……」

 

 アウルは恐ろしいことを言う隊長に恐々とした様子で言った。にしても全然思った反応が帰ってこない。もっと動揺してくれれば面白いのに。

 

「ま、好きなの買ってこいって言ったの私だし。理由もそれっぽかったしいいよ。でも、ステラのいる前でやることじゃなかったね」

「……すみませんでした」

「ちゃんと謝りなよ? あとそれから、自室に持って帰ること」

「……これ全部?」

「もちろん。国の金で買ったんだからちゃんと使ってね。……にしてもたくさん種類あるんだね。これとかすごいよ、『連合女兵士を――』ってやつ。こんなとこまでプロパガンダ? しかも赤髪って」

 

 あーやだやだ、とミーシャは手にしたポルノを呆れながら眺める。

 

「……隊長、さっきから赤髪ばっかなのはなんか理由あるんすか?」

「おいアウル」

 

 スティングが止めるが、ミーシャは特に気にした風もない。

 

「初めて関係持った女の人がこんな感じの髪の色でね。舐めてあげると可愛い声で啼いたんだよ」

「……いやいや」

 

 アウルは絶句する。

 

「アークエンジェル時代にねー。あんときはヤバかった。婚約者いる子でこれはヤバいなーって思ってたんだけどズルズル続けちゃってねー。でもキラとフレイ3人いっぺんにした時が人生で一番気持ちよかったなぁ。……あ、そうだ、ステラ」

「……な、何……?」

 

 ステラはミーシャに怯えたような目を向けて答えた。隊長の得体が知れない。アークエンジェル時代といえば隊長は10か11歳のはずだ。そんなことを……?

 

「隊内恋愛は禁止の方向だけど……誰かを好きになっちゃったら一応報告してね。それが嫌なら最悪それでもいいけど別れたら絶対に報告して」

「……そういうの興味ない……」

 

 声を震わせながらステラが言う。同僚の二人は男としてはあんまり()()感じである。スティングはまだいいとしてもアウルはガキっぽすぎる。

 

「そっか。でも恋って落ちるものだから。ステラとスティングはもう行っていいよ」

「うん……ありがとう隊長」

「失礼します、隊長」

 

 ステラが拙い口調で、スティングがしっかりと敬礼して部屋から出ていく。残されたアウルは悪戯っぽい笑みが浮かんでいるが、若干冷汗をかいている。

 

「……アウル、これ貰ってもいい?」

「え!?」

 

 てっきり怒られると思っていたアウルが、素っ頓狂な声を上げる。ミーシャの手の中には赤髪の女と黒髪の優男が映るパッケージがあった。

 

「ま、記念に。初任務成功のお土産だしね」

「……隊長もそんなの見るっていうんです?」

「いや……これが初めてかな? あと、こういう話をすると部下と距離が縮まるって本に書いてあったし……ネオも言ってたし」

 

 俺ならこうするなーと言う文脈で、冗談交じりに言ったことがまさか実行に移されるとはネオも思っていなかっただろう。そして、現にアウルと距離を縮めることには成功している。

 

「……あのおっさん子供に何言ってんだ」

「まあまあ。私とネオは付き合い長いから」

「いつからなんだ?」

「いつからだったかな……。そう、アークエンジェルが第8艦隊と合流したときに補充要員として配属になった人なの。だからその縁かな」

「それなら、結構な付き合いなわけっすね」

「そういうこと」

「そん時から仮面だったんすか?」

 

 ミーシャはしばらく思い出すような……考えるようなそぶりをする。

 

「まー、そうだね。してた」

「長い付き合いなのに顔も知らないんすか?」

「まぁ、顔知らなくても一緒に戦えるしね。……ねえ、アウル。アウルは……悪いことするの好き?」

 

 ミーシャの質問に、アウルはにんまりと笑う。

 

「もち! ラボにいるときはそりゃ毎日嫌だったけどさ、今はワクワクしてる。どんな悪いことできるんだろうって!」

 

 アウルの言葉に、ミーシャは目を細める。咎めるような感じではない。ただ、その真意を探るような雰囲気だった。

 

「そっか。私は……ま、私も楽しめるよう頑張るよ。人攫ったり拷問したり虐殺したり……きっとアウルは向いてると思う」

 

 何をするのか具体例を出され、アウルは少し顔を顰める。……だが、そういうのも悪くないとさえ……思う。思い込む。今更普通の軍人にはなれないし、なる気もない。なら今の環境を、仕事を、楽しむしかないじゃないか。――それとも、やるしかない仕事をずっと苦しんで後悔し続けろとでも?

 

「ま、大事なのは任務について余計なこと考えないことだと思ってるよ。さ、私はもう行くね。ちゃんとお片付けすること」

「りょうかーい……」

 

 ミーシャはひらひらと手を振りながら部屋から出ていった。

 

「……なんなんだアークエンジェルって……隊長って……」

 

 アウルの呟きが一人きりのブリーフィングルームに響いた。

 

 ――

 

 休暇に入ったばかりのバレンタイン隊だが、ミーシャに休む暇はない。ガーティー・ルーの隊長室でミーシャはコーヒーを飲みながらアズラエルと通信をしていた。手元の個人用端末には先程送られてきた情報が表示されている。

 

「……水中機、地上用機。これ作っといて地球に攻める気ないなんてよく言えたね。きっとザフトの面の皮は象の脚くらい厚いんだと思うよ。――4機目のモビルスーツが情報から漏れた理由は……あれが戦闘機として開発されてたってこと?」

「まぁそういうことですね。『合体機能があるだけの戦闘機なので戦力増加とみなさない』という建前だそうです」

 

 ミーシャはパイロットも機体の名前も知らないが……インパルスはザフト内でも戦闘機として開発されていた。そのためミネルバの格納庫内でも分離した状態で格納されているし、公式発表でもあれはあくまで戦闘機である。欺瞞にもほどがあるとミーシャは思うが、まぁこっちもこっちで()()()()しなぁ、となんとも言えない気持ちになる。何せ核動力のMSが隊長機の、ミラージュコロイドを搭載した戦艦が母艦の部隊だ。インパルス以上に無茶苦茶やっている。

 

「……まぁ、逃がした魚はどうでもいいよ。……いいよね? そっちよりも重大なのが――ユニウスセブンが降下ルートを辿ってるってことだよね……落ちたらどうなるの?」

「もちろん地球は滅びます。早急に状況の把握、並びに可能なら破壊してください」

 

 ミーシャは自分の配下の全戦力を頭の中で思い出す。ダークダガーLがメインで構成されていて、高火力な砲を備えているのはアビスくらい。フリーダムもバラエーナがあれば破砕に貢献できるだろう。しかし……。総合的に判断すると、不可能だと言わざるを得ない。

 

「コロニーバラバラにするのはうちじゃ無理だよ」

「ならできそうなプランを提示してください。金のことは考えなくていいです」

 

 アズラエルの焦ったような言葉に、ミーシャはしばらく考える。それから、ややあって答えた。

 

「ランチャーストライクの大砲……アグニだっけ? あれをたくさん。あとドミニオンのローエングリン。私のバラエーナがあれば多分いけるかも」

「用意させます。バレンタイン隊のモビルスーツ隊は全員ドミニオンに出向。ランチャーストライク隊でユニウスセブンの破砕に向かってください。直ちに、お願いします。邪魔する勢力は問答無用で皆殺しでお願いします」

 

 ミーシャは送られてきた正式な命令書を眺める。そこにはユニウスセブンの破砕を至上とする命令があった。

 

「了解、アズラエルさん。また乗るの?」

「こっちはこっちでやることがあります。ミーシャ、ジブリールには気をつけてください。あの単細胞は戦争のことしか考えていません」

 

 うげ、という顔をミーシャはする。ミーシャは戦争第一の人間が何より苦手なのだ。ロゴスだってよっぽどブルーコスモス思想に傾倒している人間でもなければ戦争は回避したい考えの人間が多い。

 一部の無知な人は戦争経済が云々……とか言うが、そんなものは存在しない。確かに武器は売れるし高いモビルスーツも売れるだろう。だが何よりも、人々は明日死ぬかもしれないという精神状態でまともな経済活動などできないのだ。金は回らねば増えない。戦争で1兆儲かったとしても、今後10年で経済損失が20兆とかではまるで意味がないのだ。バレンタイン家だって消費が落ち込むと困るし、なにより当主が死ぬとお家断絶なのだ。戦争などないに越したことはない。

 

「ロゴスのトップを狙ってる人だよね? アズラエルさん押しのけるのは無理じゃないかなぁ」

「油断は足元を掬われますよ。ミーシャ、早く取り掛かってください」

「わかった。ちなみにストライク何機用意できるの?」

「そっちに渡してるダークダガーLはストライカーパックを使えますので、ランチャーストライカーパックをそちらにあるだけ渡します。あと、予備のダガーLも積めるだけ積んでください」

 

 そういえば今ガーティ・ルーに積まれているダガーLはストライカーパック対応だった。ランチャーストライカーパックは手持ちになかったのでありがたい。

 

「……そんなにある?」

「ストライカーパックだけなら量産してありましたのでね。今はとにかくストライカーパックの使える機体が要るんです。……とにかく、バジル―ル()()と協力して正規軍として調査、破砕任務に従事してください」

「うん。地球は私が守る」

「よろしくお願いします」

 

 ミーシャは通信を切ると即座にネオに電話をする。休暇に入ったばかりなので、ネオはすぐに出た。後ろでは飲み会をやっているのか滅茶苦茶騒がしい。……案外出てくれたのが奇跡なのかもしれない。

 

「ネオ?」

「ん、隊長。どうしたんだ?」

「今から連絡網で配下に以下命令を伝えて。『モビルスーツ隊隊員は全員休暇を中止。直ちに停泊中のドミニオンに出向せよ』って」

「何があった?」

「ユニウスセブンが地球に落ちる。何が何でも止めないといけない」

 

 その言葉で、ネオは事の重大さを即座に認識した。

 

「了解。ただちに連絡網にて周知します」

「よろしく。私もすぐに向かう」

 

 ミーシャは通話を切ると、隊長室から出てガーティ・ルーから退艦し、別の宇宙港にあるドミニオンまで向かう。懐かしさを感じる余裕もなく、停泊中のドミニオンの警備をしている警衛に話しかける。

 

「ミーシャ・バレンタイン大佐よ。ドミニオン艦長、ナタル・バジル―ル大佐はブリッジ?」

「はっ! お疲れ様です! ご用件を伺います!」

「緊急の命令が下達されてるはずよ。ウチの部下全員そっちに行くことになるわ」

「少々お待ちください!」

 

 警衛の兵士は耳元の通信端末でどこかとやり取りをする。しばらくして、彼は相方の警衛と目配せし、頷き合った。ミーシャに道を開けると、敬礼してミーシャを迎え入れた。

 

「お疲れ様です!」

「お疲れ様。頑張ってね」

 

 ミーシャはドミニオンの昇降口から乗り込むと、ブリッジに向かう。ブリッジでは焦った様子のナタルがいた。

 

「ナタルさん!」

「バジル―ル大佐だ! ……バレンタイン大佐か。再会を喜ぶ暇もないな」

「うん。急にこっちのモビルスーツ隊受け入れることになってごめん。この船のMS戦力は?」

「こっちには新兵しか乗ってないから大丈夫だ。混成部隊は指揮に不安があるためこっちから拒否させてもらった。ドミニオンにはそっちの戦力だけを積む」

「うちもあんまりお行儀良い部隊じゃないからそっちのが助かる。ありがとう、ナタルさん」

 

 お互いに迅速に状況をすり合わせながら、ナタルとミーシャは任務について話を進める。

 

「現状、不明な状況が多すぎるよ。とにかく急いでユニウスセブンまで行かないと。今から行けば……惑星低軌道に乗る前に辿り着けるかも」

 

 もちろんその『今すぐ』というのは人員と物資、MSの詰め込み全部が終わってからすぐ、という意味である。ナタルもミーシャの意見に同意した。

 

「ああ。だがランチャーダガーでも破砕できるかどうかは……」

「やってみないとわからないし、やる前から諦めることでもないと思う。……私もフリーダムで出るから。時間との勝負だよ。……みんなのいる地球は滅ぼせない」

 

 ミーシャはぎゅ、と拳を握りながら言う。地球には友達がいるのだ。疎遠になるしかなかった、だがはっきりと親友だと言えるだけの仲になった友達が。

 

「さ、準備と作戦練らないと」

「私も手伝おう」

「よろしく、バジル―ル大佐。頑張ろうね」

「ああ」

 

 ミーシャとナタルは揃ってブリーフィングルームへと向かった。

 

 ――それから、12時間後。10月3日。急ピッチで進められた移管作業はつつがなく終わり、ドミニオンは月基地を出発。ユニウスセブンのあるデブリベルトまでの航路を進み始めた。モビルスーツ隊は全員ブリーフィングルームで作戦の説明を受けていた。ブリーフィングルームのプロジェクターの前に立って、ミーシャが説明をしている。

 

「……まず、現状の整理からね。今から24時間前。ユニウスセブンが地球降下軌道に入っていることを地球の観測部が掴んだ。今までの繰り返し観測した結果から、観測間違いの可能性は否定されている。これを止めなきゃ地球が滅ぶ。現状は以上。シンプルだね」

「ザフトの仕業なんすかね?」

 

 前の席にいるアウルが聞いた。その軽い調子の言葉に、ナタルが睨みつける。

 

「現時点では何もわかってない。――バジル―ル大佐、彼らはこれでいいの」

「しかしだな。……まぁ、バレンタイン大佐が言うならいい」

 

 地球軍の軍服を規定ギリギリまで改造した三人の若いパイロット……。そして前歴の見えぬプロフィール。またぞろ倫理を無視した何某かだと推測したナタルはそこまで強く言わなかった。哀れには思うが、ミーシャの下につくことが救いになればいいのだが。

 

「続けるね。私達が受けた命令は大別して二つ。『なぜ起こったのか』を調べること。それからユニウスセブンを粉々に砕くこと。この二つ以外は気にしなくていいし、調査に関しても後回しでいいよ。プラントが文句言ってくるかもしれないけどそれも気にしないで。もし邪魔する勢力が出てきたら、それが地球軍であれザフトであれ撃ち落として」

 

 ミーシャの言葉に、エクステンデットの三人以外が息を飲む。地球軍と戦う可能性を示唆されたのだから無理もない。

 

「全員ダガーLに乗って、ランチャーパックで出撃。私もフリーダムで出る。破砕が確認できるまで戦線離脱は許可されない。ちなみにユニウスセブンと一緒に地球に降りることも可能性としては考えられる。自爆前提の作戦ではないけど――機体ぶつけてでも砕く羽目にならないよう祈っといてね。質問」

「私達もそれ……乗るの……ですか?」

 

 慣れない敬語を使いつつ、ステラが聞いた。

 

「ええ。ルーシェ少尉、ニーダ少尉、オークレー少尉の三人もランチャーダガーで出て」

「バレンタイン大佐。彼らには専用機があるだろう? なぜわざわざ量産機に乗せる?」

 

 ナタルがもっともな質問をした。ミーシャは気まずそうにしながら答えた。

 

「いや……あれそんなに大火力あるわけじゃないし……あと」

 

 ミーシャはちょっぴり浮いて、ナタルの耳元に口を寄せた。こそこそと耳元で話す。

 

「あれ盗品なの。もしザフトと遭遇したら話し合う余地もなく撃ってくるから」

「……お前はどんな任務に就いてるんだ……?」

「それは秘密」

 

 ミーシャはナタルから離れると、元の位置に戻った。

 

「隊長、俺もダガーなのか?」

「もちろん。エグザスなんてコロニー砕くのになんの役に立つの? それにランチャーストライカー付けた機体なら乗ったことあるでしょ?」

「いやまぁ……。了解」

「他に質問のある人?」

 

 スティングが手を挙げた。ミーシャが指さす。スティングは立ち上がる。

 

「はい、オークレー少尉」「もしザフトが落とそうとしてたってわかったらどうするんですか?」

「その場合でも、破砕を優先。第一小隊は私と一緒に敵戦力を削るわ。敵の戦力によったら私一人でやる。他に質問は?」

 

 ミーシャが聞くと、誰からも質問の声は上がらなかった。

 

「よし。全員、気を引き締めてね。もしこの任務に失敗したら地球が滅んでみんな死んじゃうからね」

「了解!」

 

 士気は旺盛。それもそうだ。後ろ暗い任務ばかりつくはずのファントムペインで、はっきり正義と言える戦いなのだ。やる気が出ないわけがない。

 

「……バレンタイン大佐」

 

 ブリーフィングが終わり、人がいなくなった部屋で、ナタルがミーシャに聞いた。

 

「ん?」

「お前がファントムペインに配属されていたとはな。……なぜ今回お前に任務が割り当てられた?」

「アズラエルさんは私のところしか適任がいないって言ってたよ」

「……確かにな」

「――今きな臭いの?」

 

 ミーシャが聞くと、ナタルは頷いた。

 

「今月基地の大多数はザフトへ睨みを利かせているので精いっぱいだ。まだ先の大戦の傷も癒えきっていないし、咄嗟の緊急事態に対応できる即応部隊がいないのは事実だ」

「ま、ウチがそういう側面もあるってことかな」

「――だが、なぜお前ほどの人間が非正規部隊に?」

 

 ミーシャはナタルの悲し気な声に、飄々と答える。

 

「志願したんだよ。転属しないかって言われてね。ザフトと戦いたかったから。私の身体はまだ血に飢えてるってやつ」

 

 冗談めかして言うが、ナタルは痛ましげに表情を歪めるだけだった。つい最近まで普通に学校に通えていたのに。それがどうしてこんな風に戦場に来てしまったんだ。

 

「それに……きっとさ、運命だったんだよ、これ」

「運命だと?」

「うん。だってファントムペインに入ってなきゃ、地球のピンチをただ見てるだけだったからね。友達みんな守れるなら、ちょこっと……いや、かなり悪いことするくらいなんてことないって」

「……何をするのかわかっているのか?」

「もちろん。虐殺、誘拐、拷問……そんなのでしょ。……知ってる? 部外秘だけど拷問のハウツー教科書もあるんだよ。ナタルさん、子供相手に爪剥ぎなんてことにならないよう祈っといてほしいな」

 

 ミーシャは朗らかに笑いながら、ナタルに別れを告げて部屋から出た。

 

「……本気で……本気でお前はそうまでして戦いたいのか……?」

 

 連合も軍なら何もきれいなことばかりではいられない。ナタル達正規軍が綺麗でいるために後ろ暗いことをするのがファントムペインなのだ。……いや、ミーシャはそれがわかっていて所属しているのだ。それほどまでに、泥をかぶり汚名を被ってでも戦おうとする。その様子はまるで破滅を望んでいるようにも見えた。

 

「だが、今は……」

 

 今だけは、ミーシャは正義の戦いに身を投じることができる。ナタルはブリッジに向けて足を進めた。地球が終わるまで、もう少ししかない。絶対に阻止しなければ。




 ユニウスセブン以降、デスティニー原作はいつ起こったのかがわからなくなるのでこの作品だとそのへんもふんわりとします。
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