【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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また支援絵をいただきました。ものすっごく嬉しいです。これからも応援、評価、感想是非お待ちしております!


地球最後の日

 今から2年前。ミーシャはここユニウスセブンに来たことがあった。その時は物資と水を盗むためで……。今は、それを破壊するため。業、という言葉がミーシャの脳裏によぎる。

 

「自然現象なのかな」

 

 ミーシャは内心そうであってくれと思っている。だが、現実は無情であった。一度安定軌道に入った大質量の物体が予兆もなしにいきなり動いて地球へ落ちるなど、そんな事はありえない。

 その証拠に、ユニウスセブンの各所には巨大なブースターが取り付けられており、もうすっかり燃焼が終わったようだった。周りには黒くカラーリングされたジンがちらほら見える。

 

「バジルール大佐、撮ってる?」

「ああ。――クソッ。犯人は何を考えてる?」

「何も考えてないんでしょ」

 

 ミーシャは辛辣に断言すると、ブリッジから格納庫に向かおうとする。

 

「私出るね」

「ああ。全モビルスーツ隊に通達! 第一戦闘配備!」

 

 ――ドミニオンから出撃したバレンタイン隊は、全員警戒を密にしながらユニウスセブンの方角へ進んでいた。ミーシャのレーダーに感あり。その方角へカメラを向けると、ミーシャは舌打ちする。

 

「ミネルバ……。こんな時に。バジルール大佐、私があいつらとコンタクト取る」

「大丈夫なのか?」

 

 ナタルが心配そうに聞く。この場合、明らかにザフトは敵に思える。だがミーシャは確証はないが分の悪い賭けだとは思っていなかった。

 

「あいつ等が犯人ならこんなところにノコノコ出てこないでしょ」

 

 ――

 

 ミネルバ艦内。タリアは舌打ちして歯噛みした。フリーダム。バスターカラー……悪魔色に塗られているその機体がなぜここにいるのだ。

 

「議長、やはりボギーワンは……」

 

 ミネルバに乗艦しているギルバート・デュランダル議長は渋い顔をして答えた。

 

「どうかな。よく見るといい。アレはドミニオン……前大戦で活躍した戦艦だよ。奪取した新型も使用していないところを見るに、はぐらかされるだけだろう」

「いかが対応いたしますか?」

 

 その質問に、デュランダルは隣に座るカガリとアスランを見ながら答えた。

 

「もちろん、相手の出方次第だ。願わくば、地球軍にも理性的な人間がいればいいが……」

 

 そんなことはないだろうと思いながら、デュランダルは言う。しかし、モビルスーツ隊を出撃させたあたりで、国際救難チャンネルでミネルバに通信が来た。

 

「……議長?」

「話し合いをするというのなら応じるのは吝かではないよ」

「了解。アーサー、出して」

「は、はい!」

 

 タリアが命じると、ミネルバの艦長席の通信コンソールに幼い少女……ミーシャが大写しになった。その顔に、ブリッジにいるカガリとアレックスが驚いた顔をする。

 

「こちら地球軍大西洋連邦所属艦、ドミニオンモビルスーツ隊隊長、ミーシャ・バレンタイン大佐。ザフト所属艦とお見受けしますが貴艦の意図を教えてもらっても?」

「こちらはギルバート・デュランダル議長です」

 

 ミーシャの通信に出たのはデュランダルだった。その場で最も権限があるのがデュランダルなのだからある意味では自然なのだが……ミーシャはその声と確認をした瞬間、凄まじく顔を憎悪に歪めたのだ。

 

「ギルバート・デュランダル? ……そ、そう。で、ユニウスセブン落とそうとしたのそっちですか? もしそうなら撃ち落としますけど」

「ユニウスセブン落下にはザフトも、評議会も関わっていないことは明言しておきます」

 

デュランダルは相手が子供だとわかっても丁寧な口調を辞めず、相手を尊重した話し方を続ける。ミーシャもてっきりデュランダルはナチュラルなんて死んで当然みたいな考えをしていると思い込んでいたのだ。まさかこんな風に丁寧に接されるとは思ってもみなかった。

 

「――なら、ユニウスセブンは砕いていいってわけですね」

「やむを得ないが、我々も地球を滅ぼしたいわけではありません。是非お願いします。我々もメテオブレイカーという装置で破砕を試みます」

 

 滅ぼしたいわけじゃない? 本当なのか? ミーシャは不愉快そう顔を一瞬だけする。しかし、そのすぐあと表情を取り繕って言った。

 

「了解。では、そちらのモビルスーツ隊と連携して破砕に当たりたいと思います。そちらのモビルスーツ隊で最も上級者は誰ですか?」

 

 ミーシャが聞くが、すぐに答えは返ってこなかった。隠すようなことなのかな、とミーシャは思ったが実情は違う。

 上級者などいないのだ。隊長とその部下という括りはあっても、階級が存在しないので厳密なことを求められると答えに窮すしかないのだ。……人によってはその括りすら否定的な人間がいる始末である。

 

「……俺が出る」

 

 デュランダルの隣に座るアスランが立ち上がって言った。

 

「アレックス……」

「ミーシャがもしこっちを攻撃してきたら、エース級でないと厳しい」

「――わかったわ。バレンタイン大佐、こちらはオーブ代表の護衛、アレックスが隊長よ」

「オーブ? ……まあいいです。こっちは同士討ちしたくないだけなんで。じゃあ、共同戦線といきましょうか」

 

 ――

 

 インパルスに乗るシン・アスカは苛立っていた。なんでジンがユニウスセブンを落とそうとするのか。アレックスという新顔をいきなり自分たちの隊長に据えるのか。納得いかないことばかりだった。しかし、通信コンソールに出てきた顔を見たシンは頭を真っ白にした。

 

「ザフトの人たち聞こえる? 私はミーシャ・バレンタイン大佐。一時的に共同戦線張ることになった地球軍の隊長よ」

 

 その顔はまだ子供だった。シンよりも遥かに幼く……ちょうど、妹のマユが生きていたらこれくらいだろうな、と、それくらいの年に見える。なんでそんな子が戦っているんだ? ミーシャ・バレンタインって言えば魔弾の悪魔の名前だ。……オーブを焼いたヤツの仲間だ。もしかして二代目ということなのか? もし本当にこの子が魔弾の悪魔なら、当時……10歳頃? マユと殆ど年齢変わらないじゃないか。

 困惑でいっぱいになるシンだったが、状況は進む。

 

「あ、そうだ……ザフトのみんなは大佐ってわかる? 大体は艦長をやったり基地司令やったりする階級でモビルスーツ隊の隊長とかもやる階級で……」

 

 子供に物を教えるかのようにシンも知ってることを話されて、シンは怒りに震える。馬鹿にされた。こんな子供に!

 

「バカにして……! あんたら地球軍は俺達がなんにも知らないって思ってるのかよ!」

 

 怒鳴られたミーシャも同じように怒りでシンに怒鳴り返した。ザフトと共同戦線というだけでも腸煮えくり返りそうなのに、親切してやって怒鳴られるなんて!

 

「あんたらが階級ないって言うから説明しただけじゃん! どんな階級かも知らないでこんな小娘の言う事聞けるっての!?」

「魔弾の言う事なんて誰が聞くか!」

「ハァ!? こっちはあんたの上と話しついてんだけど!?」

「知るかよ! なんで地球軍と協力なんて!」

「あっそう! じゃあお前らみんな皆殺しにしてやろうか! ユニウスセブン墜落の工作してたのもジンだったし、やっぱり関わってるんでしょ!?」

「あんな奴らと一緒にすんなよ! そうだったら止めに来るわけないだろ!? そんなこともわからないのか!?」

「シン! やめろ!」

 

 シンとミーシャの言い争いを止めたのは、ザクに乗って出撃してきたアレックスだった。

 

「ミーシャ! お前も落ち着いてくれ」

「落ち着いてる! アスランなんでオーブ所属なの? ザフト裏切ったから帰れなくなったの?」

 

 ミーシャが当然の事実であるかのようにアレックスの正体を口に出して、しかも出戻りできない理由まで言い放ったのだ。ザフトのモビルスーツ隊の空気が凍る。

 

「俺は……俺はアレックスだ。アスランなんて奴は知らない」

「……そ。ごめんなさい人違いだった。アレックスさん、本当にごめんなさい」

 

 ミーシャは素っ気なく形式上だけ謝った。アスランは冷や汗をかきながらユニウスセブンの宙域を進む。

 しばらくすると、ランチャーストライカーパックを装備したダークダガーLが大量に展開されていることに気付いた。

 

「地球軍は本気でユニウスセブンを砕くつもりなのか……」

「当たり前でしょ! ……で、そっちはドリルで砕くんだね?」

 

 ミーシャが聞くと同時、ザフトの戦艦がミネルバの他にもやってきて、モビルスーツ隊を展開した。隊長機に守られたザクは、巨大な重機のような装置を運搬している。破砕ユニットであるメテオブレイカーだった。

 

「ミネルバ! こちらメテオブレイカー隊隊長イザーク・ジュールだ! 状況はどうなっている! 何故国際救難チャンネルで地球軍と通信しているんだ!」

「イザーク・ジュール? 隊長って言った?」

 

 ミーシャは呆然とその名前を繰り返す。

 

「何だ貴様……み、ミーシャ・バレンタイン……!」

 

 通信コンソールに出てきた顔を見て、イザークが狼狽える。イザークはミーシャに負い目があるのだ。銃殺刑で裁かれておきながら、刑を免れたという負い目が。ミーシャの顔がみるみる不機嫌になる。

 

「――死に損ないの卑怯者が。……チッ。戦争犯罪者が堂々と隊長? ザフトって凄い組織だね」

「バレンタイン大佐! ザフトとは一時的にとはいえ協力関係にあることを忘れるな!」

 

 ナタルに指摘され、ミーシャは再度舌打ちする。

 

「わかってるよバジルール大佐。イザーク・ジュール! この場で誤射なんかしないから、しっかり砕いて! 手抜いたらテロ幇助で撃ち落とす!」

「わかっている! 全力でやるからいちいち脅すな!」

 

 お互いに怒鳴り合って、両軍作業を開始した。

 

「バレンタイン隊! 総員ユニウスセブンを小石に変えるよ! ザフトは撃つな!」

「この場にいるザフト兵に告ぐ! 破砕ユニットを死守しろ! 連合には撃たれるまで撃つんじゃないぞ!」

 

 アグニ12門による一斉射撃に、ドミニオンのローエングリンとフリーダムのバラエーナも加えての最大火力をユニウスセブンに叩き込む。戦艦1隻が悠々は入りそうなほどの凄まじい範囲の地面が抉れ、壊れ、砕けた。……しかし。

 

「――続けて撃って! こんなのどうすれば……!」

 

 しかし、広大なユニウスセブンの大地からすれば猫の額ほどの面積、範囲でしかない。百発撃っても半分も削れないだろう。地球滅亡。その二文字がミーシャの……この場にいる全員の脳裏によぎる。

 各軍、最初のギスギスした雰囲気はどこへ行ったのやら、精力的に協力し合って破砕作業は続く。そんな中、黒いジンがやってきて破砕ユニットで作業していたザクに攻撃を加えた。ビームは狙いを逸れて破砕ユニットのそばの地面に当たる。その次の瞬間、ジンはミーシャのバラエーナに撃たれてコクピットブロックごと消滅した。

 

「今アレに攻撃するってことはテロリスト……! 文句ある、ギルバート・デュランダル!」

「いいや。お礼を言わせてください」

「そんなの要らない……! 早くユニウスセブンを砕いて! バレンタイン隊! ジンしかいないなら私だけでやる! ジンごときにエネルギー使わないで!」

 

 ミーシャは叫びながら襲いかかってくるジンに応戦する。向こうからも通信が入ってくる。草臥れた様子のおじさんだった。彼は怒りで顔を真っ赤にして、ミーシャに怒鳴りつける。

 

「地球軍――ナチュラルがぁ! 穢れたお前らが土足でこの地に踏み入るとはどういう了見だ!」

 

 テロリストグループの一人がミーシャに向かって叫んだ。

 

「地球がヤバいから来たに決まってるでしょ! お前らのせいだ! 考えなしのテロリストめ!」

「考えなしだと!?」

「こんなの地球に落としてどうする気だったの!? 人類滅ぶのが望みなわけ!?」

「これでナチュラルは滅ぶ!」

「地球にもコーディネーターいるんだけど!? そんなことも知らないの? 頭大丈夫? 大丈夫だったらこんなことしないか! ははは! 薬キメて幻覚でも見てれば良かったのに!」

 

 ミーシャの品の悪い煽りに、一斉にテロリストのジンが向かう。その数、3機。そのうちの一機を、アレックスのザクが体当たりで受け止めた。

 

「アレックス!? 私が引き受けるから破砕に集中して!」

「貴様――! なぜプラントがナチュラル共と一緒に戦っているのだ!」

「なぜお前はこんなことをする!」

 

 アレックスが近接戦闘をしながら聞く。他のテロリストはもうミーシャに殺されていた。

 

「決まっている! ユニウスセブンで死んだ娘のためだ! 娘の墓標! 落としてやらねばならんのだ!」

「こんな風にテロするお父さん持って、娘さんも可哀想にね! きっと天国で泣いてるよ! お父さんやめて、こんなことしないでって!」

「何だと貴様……!」

「ミーシャ! 無闇に煽るな!」

「こっちの気も知らないで……!」

 

 言葉で向こうから向かってくるならいくらでも煽る。今1番されたらマズイのはランチャーストライクダガーと破砕ユニットの数を減らされることだ。今いる全員が全力で作業に当たっても砕けるかわからないのにその上数まで減らされたらたまったものではない。

 言葉一つで自分に狙いを向けられるなら、いくらでも悪名を被る。どんな悪口だって言える。

 

「このような悪童に協力するのが今のプラントなのか!? なぜわからん……! パトリック・ザラの示した道こそが、コーディネーターのあるべき姿なのだと!」

「!?」

 

 アレックスは絶句する。パトリック・ザラ……自分の父親の狂った思想に共感した人間。驚いたのも束の間、近づいてきたミーシャがビームサーベルでそのジンを切り裂いた。

 

「はははは! よかったねテロリスト! 大好きなイカレ野郎のところに行けて幸せでしょ!? 地獄でカマでも掘ってもらえば!?」

 

 アレックスはミーシャの下品な煽りに顔を顰める。だが……ここに至ればミーシャの狙いは見えてくる。狙い通り、破砕作業の妨害をしていたテロリストのジンが続々とミーシャのところに向かってきたのだ。自分たちの掲げた思想と、その思想を唱えたパトリック・ザラを侮辱されて激昂したのだ。

 

「貴様――! 我らの理想を! コーディネーターのあるべき姿を嘲笑ったな!」

「大事なお墓地球に落とすバカの思想なんて笑われるに決まってるでしょ! もしかしてプラントに賛同して貰えると思ってたの? 褒めてもらえるって!? コズミック・イラ始まって以来のバカだね!」

 

ミーシャは彼らの平静を奪うために煽り続ける。

 

「あんたらもしかして知らなかったの? 地球にジェネシス向けてたパトリック・ザラは後ろから撃たれて死んだんだってさ! マジ笑える死に方だよね!」

「……」

 

 アレックスの表情がどんどん色を無くしていく。一方で父のあり様が狂信され、もう一方では徹底的に嘲笑われる。父の思想に共感する人間がまだいるのか、という落胆と罪悪感を抱く。その一方で、父の名誉が貶められることに傷付き、不快感を抱く。フラフラと心が彷徨って……まるで定まらない。戦況はミーシャが一方的である。なにせ相手はジンだ。前の大戦で初期Gシリーズにボコボコにされていたような機体を相手に、フリーダムを使って手こずるわけがない。

 

「クソッ! クソッ! 我らの想いが、復讐が! こんなガキに! こんな……! ――悪魔め! 我らの想いをなんだと思っているんだ!」

「テロ屋が綺麗事言うな! 後でお前ら世界中の笑いものにしてやるから覚悟しろ! パトリック・ザラのイカレた思想もセットでね!」

 

 ミーシャがまた一機ジンを撃墜した。それでも一体どこに潜んでいたのかというほどの数のテロリストがミーシャに群がる。

 

「魔弾の悪魔……! ここで殺して妻への手向けにする!」

「やってみなよ! そんなオンボロでやれるもんならさ!」

 

 すれ違い様、ミーシャはビームサーベルを細かく動かしてコクピットを薙ぎ払う。胴体から両断されたジンが爆散する。ビームライフルで、腰のレールガンで、バラエーナで、とにかくミーシャは持てる武装全てを使ってテロリストを始末していく。その鮮やかな手並みはこの場にいるザフト、連合全員を感心させるほどだった。

 

「クソっ! 俺たちとお前が一体何が違うって言うんだ! ナチュラルのくせに! なぜこんなにも――! なんでお前に敵わない!」

 

 ミーシャは笑う。楽しそうに見えるように、余裕がたっぷりあるかのように。

 

「コーディネーターが優秀なんて――ハッ! バッッカみたい! 子供が産まれにくい代わりに僕たちは優秀なんだーって!? ナチュラルがどうとかコーディネーターがどうとかじゃなくてね、お前が死ぬのは弱いからだよ! 可哀そうにね! 命を懸けてテロして……こんなところでゴミみたいに死ぬなんて!」

 

 ミーシャはビームライフルで両手両足を撃ちぬいて行動不能にしたあと、バラエーナでコクピットを撃ちぬいた。襲撃が一旦止んだ。

 

「……よし! バレンタイン隊、全機報告!」

 

 ジンを全滅させたミーシャが命令すると、配下のモビルスーツ隊から報告が返ってくる。

 

「第1小隊、全機エネルギーレッド! ――だが全然壊せん!」

「第2小隊、全員エネルギーが足りません! 撃っても撃っても砕けた様子が見えません!」

「第3小隊――」

「第4小隊も――」

 

 次から次へと上がってくる嫌な報告に、ミーシャは顔を顰める。確かに結構砕いたし、かなりユニウスセブンは小さくなった。だが、半分にもなってないのだ。

 

「……全モビルスーツ隊、順次ドミニオンに帰還して補給を受けて。バジル―ル大佐、格納庫にエネルギーパック用意させて!」

「すでに用意してある! 帰還次第取り換え作業に移れる!」

「……よかった。全機行動開始!」

「了解!」

 

 ミーシャの指示に、全ダークダガーLがドミニオンに向けて撤退を始める。

 

「ザフト、そっちの進捗は!?」

「こっちは全機問題なく稼働している! だがモビルスーツがいないと作業が進まな……うわっ!」

 

 ドリルが地面に埋まっていこうとしたその時、生き残っていたテロリストがアレックスの僚機を撃墜してしまう。

 

「ドリルが! このクソテロリスト!」

 

 ミーシャがフリーダムを急行させて、ジンをあっという間に切り捨てる。ミーシャはメテオブレイカーのそばに降り立つと、メテオブレイカーを保持する。

 

「ミーシャ……」

「いいから、使い方教えて! 二人じゃないと動かせないんでしょ!?」

「あ、ああ。使い方は――」

 

 ミーシャはアレックスに操作を教わり、メテオブレイカーを操作する。ドリルが動き、ユニウスセブンの大地奥深くへと埋まっていく。

 

「これで上手くいかなきゃ自爆かな……。低軌道だとコクピットの外出た瞬間燃えつきちゃうし……。アスラ――アレックス、それ核動力じゃないよね?」

「あのな……。ニュートロンジャマーキャンセラーは条約で禁止されているんだぞ」

「条約締結前の機体だからセーフ」

「ったく。……本気で自爆するのか?」

 

 アレックスが聞くと、ミーシャは頷く。

 

「ま、しょうがないでしょ。地球を守った英雄として永遠に名を刻むんだ! それはそれで楽しみだよね」

「――そうか」

 

 ミーシャは何でもないように自分の死を話す。取り乱してもおかしくないのに、ミーシャは普通にしている。それほどまでの覚悟をもってこの場に来ていることに、アレックスの心が強く動揺する。前の大戦ではジェネシスで話すまでは戦いを楽しみ、人を撃つ楽しさに取り付かれた悪魔だと思っていたのだが……。改めて接してみると、ただ軍人として生きるだけの少女に思える。

 アレックスが目を細めると、ユニウスセブンの大地が崩壊していく。

 

「やった! よし、これで半分! 地面が見えるならあとはカンタン! ロアノーク少佐、全機の状況取りまとめて報告!」

「エネルギーパックの換装は完了、順次出て破砕作業に戻る!」

「よし! 全機破砕作業に戻って!」

 

 ミーシャの号令で地球連合軍が一斉にユニウスセブンの破片に砲撃を開始する。

 

「こちらもガナーザクで支援するわ。タンホイザー起動!」

 

 ミネルバも同じように全力で破砕作業を続ける。低軌道高度まで来ると、かなり破片は小さく砕かれた。しかし、それでも大きな破片は砕ききれない。これでも小さくなった。なったのだが、地球に対して被害は免れない状況になってしまった。

 

「……自爆してもこんなに散ってるんじゃ……!」

 

 ミーシャは計器を見る。もう高度ギリギリである。まだ味方は破砕作業をしているが、もうエネルギーも限界に近い。次の換装が終わる頃には地球の大気圏に入ってしまう。アグニを撃とうにも外に出た瞬間爆散する危険がある。そうなったら完全な無駄死にである。

 

「バジル―ル大佐、もう無理だと思うんだけど……自爆、どの破片にしたほうがいいかな」

「私も同意見だ。……自爆の必要はない」

「ないって……」

「ユニウスセブンを砕き、破片にした以上、作戦は成功だ。歯がゆいがな」

「でも!」

「バレンタイン大佐。お前が出るならお前の部下も出すしかない。そしてここの指揮官は私だ。――わかるな? 命令だ」

 

 ミーシャは歯噛みする。自爆して核爆弾一個分でも大きい破片を砕けたら……そう思う気持ちが強かった。あれがもしワシントンDCに落ちたら? 友達が死ぬ。――でも、ナタルの言う事に逆らう気もなかった。命令だと言うなら……そうミーシャは無理矢理自分を納得させる。

 

「バレンタイン大佐、責任は私が取る。……今から撤退は不可能だ。このまま地球に降りてパナマ基地を目指す」

「――バジル―ル大佐、了解。全機帰還! 地球に降りるよ!」

 

 ミーシャはドミニオンに帰還していく味方を護衛しながら、ミネルバに最後の通信を入れる。

 

「普段は敵だけど、今回ばかりは助かりました」

「こちらこそ……。地球連合には助けられました」

「戦場で再会しないことを祈ってます」

「こちらこそ……」

 

 ミーシャはデュランダルと通信を切ると、ドミニオンに帰還する。コクピットを降りるとブリッジに向かう。

 一方、ドミニオンでは地球の降下準備をするなかデュランダルがミネルバから退避。救援に来ていたザフトの戦艦に移乗を始める。

 

「……ナタルさん……私達、守れなかった。なんで自爆を許してくれなかったの?」

「――いや、これが限界だ。できる限りをしたのだ。もし、救えぬ命を想うなら……自分を責める前に私を恨め。私がお前に、撤退を命じたのだ」

「……そんなの恨めないよ……」

 

 ドミニオンのブリッジからは、地球に降り注ぐ無数の破片が見えた。小さいものは燃え尽きて、大きなものは大気圏を突破して地表に落ちる。海に落ちても、陸に落ちても、甚大な被害をもたらすそれらが、無数に、地球全土に降り注ぐ。

 

 ――地球滅亡は防ぐことができた。だがミーシャは喜ぶ暇もなく、失われることになる命を想うことしかできなかった。

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