【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
いつも感想評価ありがとうございます。返信はできていませんが、全て読ませていただいております。ものすっごく嬉しいです。
――大西洋連邦首都、ワシントンDC。そこにある名門のミドルスクールでは、緊急のホームルームで担任から説明を受けていた。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。今、地球の衛星軌道上にあったユニウスセブンが落ちてきています」
ざわざわとざわめくクラスの中、リリス、アイリ、フロンの三人は不安げな表情で担任の話を聞いていた。
「しかし、安心してください。今地球軍が破砕作業に当たっています。あの『魔弾の天使』も作業に当たっているそうですので、心配しないでください」
その言葉に、三人は目を見開いた。『魔弾の天使』。その二つ名を持つ人間と、三人は友人なのだ。
「な、なんでミーシャが……?」
「わ、わからないよ。そうだニュース」
リリスが怒られることを覚悟でニュースを開く。すると、臨時ニュースがどこの番組を見ても報道されていた。
「現在、地球降下軌道に入ったユニウスセブンを破砕するべくアークエンジェル級2番艦ドミニオンが現場に到着しました。モビルスーツ隊が……あれはフリーダムです! あのカラーリングは前大戦の英雄、魔弾の天使です」
ニュースの映像は一人のパイロットの光学カメラを編集したものだった。襲い来るジンを次から次へと撃墜し、一発も外すことなく敵を葬り味方を守る、まさしく魔弾の天使の戦いぶりだ。
「――こ、こんな戦い方するんだ……」
友人三人はそのニュース映像を見て驚き、慄いた。優しい子だった。本当に人当たりもよく、仲のいい友達だった。だが映像の中のミーシャは優しさのカケラもなく、冷酷に敵を殺し続けている。ビームライフルで、サーベルで、わらわらと湧いてくるテロリストの機体を撃破する友人を、三人は心配そうな表情で見ていた。
「なんでミーシャが戦ってるの……? 今も学校にいるんじゃないの?」
「しかし……。ミーシャがいなければこの人たちは作業どころではなかったのではないでしょうか」
リリスが悲し気に言う。ミーシャは強い。自分でも強いと言っていたが、こんなにも強いとは思わなかった。
「では、皆さん。念のため学校のシェルターに避難しましょう。念のためにですよ」
そう言って、担任は生徒たちを引率してシェルターに避難した。リリス達の見ていたニュース番組では、テロを起こしたテロリスト達の主張がいかに的外れで時代遅れで、滑稽かを懇切丁寧に解説していた。
それから数時間。ユニウスセブンの破片が北米大陸東海岸近海に墜落。大規模な津波が発生し、甚大な被害が発生した。他にも地上にも破片が直撃した地域もあったが、幸い、都市丸ごと1つ消し飛ぶような大きな破片は存在せず……ユニウスセブン墜落テロはなんとか地球を終わらせることなく終わることとなった。この後地球全土は地獄のような復興作業に追われることとなる。
――パナマ基地に辿り着いたミーシャは、基地の通信システムを使ってアズラエルへ連絡を取っていた。
「ごめんなさい、アズラエルさん。砕ききれなかった」
「いえ……。幸い致命傷を負った地域は確認されていません。作戦は成功ですよ。
マスコミの批判はこっちで押さえます。あなたはしばらく休暇を取ったのち、通常勤務に戻ってください。すぐに命令が下るでしょう」
「うん。……ブルーコスモスとしては、今回の件どうするの?」
ミーシャはザフトと協力したから、ザフトが今回の件を企んだとは思っていない。しかし、現場を知らず外から今回の件を見れば、自分でテロを起こして自分で防いだ……そう見えなくもない。
「私としては、向こうの言い分を聞いてやって、その代わりいくつか譲歩を迫る……そんな落としどころを考えています。しかし……」
「しかし?」
「ジブリールがきな臭いのです。一戦やる気ですよ」
「どうやって? 今世界中で復興作業中で軍人の手も借りなきゃどうにもならないところ結構あるよね?」
「ええ。モビルスーツは優秀な重機代わりにもなりますからね」
「……休暇さ、取りやめて私を復興作業に回してもらえない?」
ミーシャが静かな声で言うと、アズラエルはしばらく考えたそぶりを見せる。
「いいでしょう。ファントムペインの次の任務は大西洋連邦の被害が大きいところへ行って復興作業支援です。余計な横やりはファントムペインの権限で押しのけてください」
「ん。我儘言ってごめん」
「いえ。願ったり叶ったりです。ともすればあのバカあなたを戦争に引っ張り出す気でしたのでね」
ミーシャは顔を俯かせる。
「今は戦争って気分じゃないかな。私が上手く粉々に出来なかったせいで……地球のみんなが苦しんでる」
「重ね重ね言いますが、あの作戦は失敗ではありません。……ですが、気になるならその手で人を救ってください。そうすれば、気も楽になると思います」
「うん……」
ミーシャはアズラエルにお礼を言うと、通信を切る。隊長室にあるベッドに体を投げ出すと、天井を見上げる。
「……敵を殺しても、守れないものばっかりだ」
視界が濡れたように潤む。守れなかった。滅びはしなかったが、完全に守り切れなかった。ザフトと手を組んでまでしたのに。
「私って……なにやってるんだろ」
ミーシャは涙を流しながら目を閉じた。
――それから数日後。ドミニオンはパナマ基地を出発していた。大多数のファントムペインのモビルスーツ隊は休暇で基地に残り、バレンタイン隊第一小隊……ネオ、スティング、アウル、ステラ、そして隊長のミーシャが復興支援の任務についた。
ドミニオンのブリッジでは、ナタルが艦長席に座り、二つある副長席にミーシャとネオが座っていた。
「勝手知ったる艦で人道支援なんて、非正規部隊でやれるとは思いませんでしたよ」
ネオが若干口元を笑みの形にして言った。後ろ暗いことばかりすると思っていた部隊で正義の為に行動できるのだから、笑顔になるのもある意味当然だった。
「大事な任務なんだからね。正直まだテロるバカが出てこないとも知れないんだから」
「さすがにユニウスセブンの亡霊も市街地でやるとは思えないが……まともな思考があるならユニウスセブンは落とさないか。総員、油断するな」
「了解!」
ナタルはちらちらと仮面の男に視線を向けながら会話する。……聞き覚えのある声に、口調。だがムウは自分がローエングリンで撃墜したはずだ。陽電子砲を、シールドで防いだとはいえ直撃されて生きているわけがない。
「石投げられないといいけど」
「フリーダムには効かないでしょう?」
「心にクるの。バジル―ル大佐、最初はどこ?」
ナタルは手元の端末に視線を向ける。大西洋に落ちた大きな破片は沿岸部に甚大な水害被害を齎し……さらに、破片が直撃した地域もあった。
「南アメリカのフォルタレザだな」
「……そこってこの前独立しようとしてなかった?」
「していたが、失敗した。結果論だが、そのおかげでこうして我々も手を差し伸べることができる」
ナタルは現実的な意見を言うが、ミーシャの表情は暗い。
「……やっぱり石投げられるのかなぁ」
「悲観すんのはやめましょう、大佐」
「悲観……かなぁ」
ミーシャは沈痛な面持ちでブリッジから見える海を眺める。この進路の先に、自分たちが守れなかった町がある。そう思うと、心は痛むばかりだ。
ミーシャはフォルタレザの町の近海に着くと、フリーダムで出撃する。
「……ストライカーパックなしって本気で言ってんですか、隊長」
スティングが明らかに不機嫌な顔で出撃準備をしている。アウルもステラもそれぞれ不安げな表情である。
「私たちの目的はあくまで復興支援だからね」
「復興支援って……特殊部隊のやることかよ。もっとさー、テロリストの支援者探しだして攫うとかあると思うんですよ。暇な部隊他にいなかったんですかー?」
アウルが不満たらたらの様子で言う。アウルは割と戦いたいタイプなのだ。そしてミーシャとてそれはわかっている。本来ならアウルの言うような任務がメインのはずなのだ。
「暇な部隊がウチしかいないの。みんな地元の支援で大わらわ。それに加えて普段の防備までやるとなるとみーんな不眠不休ってレベルで頑張ってるはず。今攻め込まれても私たちが出ることになるよ」
「そっちの方が良かった」
「こら。そういうこと言わないの。アウル、人殺し志望はいいけどトゲ隠さないと後々大変なことになるよ?」
「どう大変になるんですかね?
年下の隊長相手に楽しげに皮肉ったことを言うアウルだが、ミーシャは気にした様子もない。
「いつか正規軍になったときドン引きされるよ。私それで何度か友達ドン引きさせちゃったんだからね」
「……なんて言ったの、隊長」
ステラが興味深そうに聞いた。ステラはミーシャのことを憧れの目で見ているのだ。血塗られた世界にいたのに、平和な人たちのいる学校にも馴染めていた。きっと、もしかしたら自分もそうなれるかも……。ステラにとって彼女はそんな希望の象徴なのだ。
「え? なんかみんなが戦争について思い出話してほしいって言ったから……友達のルミナが脱出シャトルに乗ったところを撃ち落とされたこととか、ずーっと一緒に戦っててエッチなこともした男と最終的に殺し合うことになったとか、そういう話したらドン引きされちゃって。アハハ、戦争にいい思い出なんてないのにみんな何期待してたんだろうね?」
冗談めかしてミーシャは笑うが、三人はにこりともできない。三人とも自分は結構酷い境遇の中生きてきたと思っているが、実際に配属されてからはそこまでキツイことはなかった。今まで幸せな人生を生きてきていきなり過酷な戦場に放り込まれること――どっちが辛いのか、わからなかった。
「……ま、世間話はともかく。さっきブリーフィングでも言った通り今回の任務、私たちは一発も引き金引かないことが理想だからね。テロリストのゴミが出てきたら私が処理するから、みんなは民間人の保護を優先して」
「了解」
「じゃ、任務開始」
ミーシャはフリーダムを宙に躍らせた。大きく翼を広げて、自身の存在をアピールする。ゆっくりと町に近づくと、町の方からビームが飛んでくる。光学カメラでズームすると、ジンが長距離用ビームライフル……バルルスをこちらに向けていた。
「……見つけた」
「いーなー隊長。僕も殺りたかった」
「はいはい、今は市民のヒーローよろしくね」
ミーシャはフリーダムの推力に任せてジンの直上まで一気に移動する。ジンの真上に辿り着くと、ミーシャはビームライフルを射撃。ジンの頭上からコクピットを貫いて、爆発もさせずに撃破した。
「ブルーコスモスを親に持ったからには、環境には気を遣わないと……なんてね」
ミーシャの視界では、部下三人が瓦礫だらけの町に到着し、撤去作業に取り掛かっていた。作業が終わると、部下が乗っているダガーLの周りには市民が集まり、歓迎の意を示していた。
――ところ変わって、オーブ港。ミネルバは港に停泊して長めの休暇を満喫していた。オーブ代表であるカガリを送り届けたお礼として、補給と修理を受けられることになったのだ。ミーシャ達ガーティ・ルー……ボギーワンにやられた傷をここで完璧に修理して万全な態勢で次の任務に臨む意気込みである。
「議長、地球の情勢は非常によろしくない方向かと思います」
艦長室で私服のタリアが通信先のデュランダルに話しかける。壁にあるモニターには連日のニュースが映っている。
『魔弾の天使、被災地で復興支援! 出没したテロリストを一瞬で撃破!』
『地球軍、ザフト、各地で復興支援!』
デュランダルは地球軍に先んじて復興支援をすることで人心をプラント寄りにする計画だったが、その計画以上に地球軍の動きが迅速かつ膨大だった。人員こそカツカツでやっているようだが、彼らの物資は全く尽きる様子がない。
「どうやら、地球軍に莫大な資金を投資している者がいるようだ……」
「ブルーコスモスですか?」
プラントの議長室で、デュランダルはコーヒーを啜る。時折、音声が乱れる。ユニウスセブン崩壊の影響で通信にも影響が出ているのだ。月基地をはじめとして何個もの通信衛星を経由しての通信はラグも酷く品質もお世辞にも高いとは言えないし、映像まで映すことはできないが、それでもできないよりかはマシなのだ。
「恐らくは。こういう手合いは過激派思想に取り付かれた愚物より遥かに恐ろしい」
「誰が投資しているかはわからないのですか?」
「いや。……わかっているからこそ困っているのだよ」
デュランダルは手元の資料を見る。地球軍に投資したり寄付したりしている者のリストだ。金額トップにはムルタ・アズラエルの名前があり、その次の名前にはミーシャ・バレンタインの名前があった。
「タリア。君は資産家の娘が……あるいは、資産家本人が戦場に出ることはあり得ると思うかな?」
「いえ……。まさか。大事に育てられて、全ての危険から遠ざけられるものでしょう? 資産家本人ならなおさらです。豪邸に住んでワインを片手に戦場をチェスゲームみたいに指揮官気取りで眺めているのだと思います」
「普通はそう思うし、普通はそうなのだがね……。魔弾の悪魔。彼女は厄介だよ」
タリアは興味を抱いてデュランダルから送られてきた資料をのぞき込む。タリアにしてみれば信じられない名前があった。魔弾の悪魔。ミーシャ・バレンタインの名前が出資者リストの二番目にある。
「……あれほどのエースパイロットがこれほどの資産を?」
「バレンタイン家は歴史ある名家だよ。フラガ家、アズラエル家と並んで、代々莫大な資産を運用している家系だ」
「金もあって力もあるなんて……」
「それに名声もだ。前大戦のドキュメンタリー映画を製作予定で本人役で出演予定……バカバカしいが民衆には効果が高い。今回の件も彼女の名声に大いに寄与しただろうね」
「映画……。酷いプロパガンダです」
「だが先の大戦、現場を知るものは少ない。両軍ともに夥しいほどの死者が出た。ヘリオポリスから戦って生き残っている者などほんの一握りだ。いくらでも話は作れる」
デュランダルは最近の地球連合が毛色が変わっていると感じていた。今までは大雑把なプロパガンダで効果を確認することもなくおざなりな大義名分を掲げて大艦隊で攻めてくる……それが通例だった。今もなおそういう動きはある。だが、それとは別に民衆を扇動し、意見を誘導し、しっかりと浸透していることを確認し、世論を形成するやり方もしてくる。直接攻撃に出る可能性は減ったが、今までより遥かにやりにくいと感じていた。……まるでブルーコスモスに2つの意思があるかのようにも思える。
「しかし……彼女はあくまで前線に出て戦う兵士だ。限界はあるだろうさ」
デュランダルは空を自由に飛び回り、湧いてくるテロリストを撃破するフリーダムの姿を見つめる。鮮やかな手並み。ジンとはいえ強化された機体をまるで的当てのように次から次へと撃墜している。タリアは酷いプロパガンダと言っていたが、デュランダルはそう切って捨てるわけにはいかない。
元ザフトがテロを起こしたのは事実なのだ。
「コーディネーターのテロをどうにかしない限り、ナチュラルの対コーディネーター感情は悪化し続ける……。歯がゆいな」
デュランダルは頭の中で様々なことを思考しながら呟く。絶えず変化し続ける情勢は、彼を以てして読み切れるか怪しいほど混迷を極めていた。だが、彼は駒を進めるべく知略を巡らせる。
全ては、争いのない平和な世界を作るため。そのためならデュランダルは、
――オーブ首長会議室。なんとか生きて帰ってこれたカガリは、次なる戦場に見舞われることになる。……政治である。
「……ウナト。もう一度言ってくれ」
「はい。我々は大西洋連邦と同盟を結ぶべきだと考えております」
カガリは机を叩いた。なぜそんな意見が出るのかわからなかった。
「なぜだ? なぜかつてオーブを焼いた国と同盟を結ぶなんて話になる?」
「たしかに、かつてオーブと大西洋連邦は不幸な行き違いから戦端を開くことになりました。しかし、現在我々は主権を取り戻し、こうしてカガリ様を代表として主権国家として存続しております」
「……一方的に攻め込まれたが、生かしてくれたから仲良くするべきだ……そう言いたいのか?」
オーブ宰相ウナト・エマ・セイランは滅相もない、と首を振った。
「しかし、かつての大西洋連邦と今の彼らは別物です。カガリ様もご覧になったのではないですか? ユニウスセブンを必死になって砕き、復興支援に全力を以て当たる彼らの姿を」
「魔弾の悪魔は……ミーシャは、そういう優しいやつだからだ。地球軍全体のことじゃない」
カガリが悔しげに拳を握る。ミーシャは前の大戦で何人オーブ兵を撃ったと思っているんだ。マユラもジュリも彼女に殺されたんだぞ。
だが今や彼女は大西洋連邦の英雄で、復興支援の天使様だ。
「大西洋連邦と同盟を結べば、その魔弾の天使が味方になります。これほど心強いことはありません」
「だが……我らオーブの理念は中立だ! 大西洋連邦に味方すればもはやオーブは中立ではなくなる!」
「理念、中立と……」
その時、今まで黙っていた優男……ユウナ・ロマ・セイランが言葉を発する。
「お題目は結構です! 我々は現実に生きているんだ! いい加減感情でモノを言うのはやめなさい!」
まるで出来の悪い子供を叱るような言い分に、カガリは歯噛みする。誰もユウナの言葉を窘めない。つまり、ここにいる総意でもあるのだ。
「クソッ……!」
カガリは会議の中、歯噛みすることしかできない。
――ところ変わって、月基地。ミーシャは復興支援の任務を完了し、再び非正規部隊、ファントムペインの母艦に戻っていた。ミーシャは隊長室で書類整理をしていた。そうしていると、通話が入る。通信に出ると、そこにアズラエルの顔が表示される。
「アズラエルさん。どうしたの?」
「お忙しいところすみません。上げていただいたアビスの強化案なのですが……不可能とは言いませんが高いですよ?」
「別にいいんじゃない? ファントムペインの予算まだあったよね?」
ミーシャの上げたアビスの強化案。現在アビスは変形することで水中、地上、宇宙で行動できる汎用性を獲得している。しかし、連合軍人のミーシャからしてみればアビスの水中性能はいまいちを通り越して弱いのだ。
「ゲシュマイディッヒ・パンツァーもない水中機とか、『もうそれディープフォビドゥンでよくない?』ってなるじゃん」
「それはそうなんですがね……」
ミーシャとアズラエルが話題に上げている機体、ディープフォビドゥン。ミーシャにとっても頼りがいのある防御力を発揮するフォビドゥンの発展機で、水中に特化した機体である。当時のミーシャは知らなかったが、フォビドゥンに装備されているゲシュマイディッヒ・パンツァーは水を弾けるのだ。つまり、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備した水中機は、水圧と水流を無視して移動できる。単純化した表現をすると、海の中を宇宙を飛ぶように飛べるのだ。これがもう信じられないほど強い。
かつてミーシャはグーン達ザフトの水中専用機に苦しめられた。しかし、今そんな思いをするパイロットはいない。もはや地球の海にザフトの水中勢力は存在しない。しても極わずか。せいぜい特殊部隊が数機運用しているレベルでしかないのだ。全て、フォビドゥンブルーをはじめとする連合水中機が駆逐したのだ。
「やっぱりお高い?」
「まぁ、そうですね。やはりアビスの盾は武装が満載されていますから。あれにさらにゲシュマイディッヒ・パンツァーを付けるとなると……かなりの技術革新を要します」
「なら、お願い! はっきりとした弱点は潰してあげたいの」
ミーシャが頼み込むと、アズラエルはため息を吐いた。
「仕方ありませんね。あれだけの汎用性に防御力も得られるとなれば、作る価値はあるでしょう。折半でいいですよ」
「ホント!? ありがとう! ――でも、アビスのことだけじゃないよね?」
ミーシャが言うと、アズラエルは頷いた。
「まず、いくつかこの数日で動きがありました。ジブリールが暴走して軍を動かしプラントに攻め込みました」
「ふーん。で、どこの基地攻めたの? ……まさか月基地? でもそんなの報告されてないよ?」
「プラントですよ」
アズラエルの言葉に、ミーシャは苦い顔をして目頭を指で押さえる。
「初手民間人虐殺って中々ブルーコスモスキマってんね、ジブリールさんって人」
「核攻撃もセットです」
ミーシャはため息を吐いた。いきなりプラントに攻め込んで核攻撃? 嫌になる。なんで自分の父が所属していた組織はこうも度し難いんだ。
「……思想キマりすぎでしょ。現実見えてないの?」
「ないのでしょうね。もう一つ悲報が。核攻撃は失敗しました」
それを悲報というあたり、アズラエルもかなりのブルーコスモスっぷりである。
ミーシャは友人の悪癖にため息を付く。まだ核攻撃部隊の旗艦に乗り込んでいないあたり、最低限の自制心はあるらしい。
「朗報じゃない? もし成功してたらまたジェネシス飛んでくるよ。てかテロとどっこいどっこいじゃん。私ジブリール嫌いだなー」
「――まぁ、そうですね。今ジブリールの責任追及で詰めているところです。なんとかロゴス中枢から切り離せるよう努力します。ミーシャももしかしたら会議に出てもらうかもしれません」
ミーシャは心底嫌そうな顔をする。ブルーコスモスの会合? ロゴスの集まり? 会話の内容に至ってはその場を爆破することを考えてしまうかもしれない。
「出たくないなぁ」
「……折半したのですがね」
アズラエルがぼそりと言った。ミーシャはまた深いため息を吐く。こんなに思い悩む13歳は世界で私だけだろうな、なんて益体もないことを考えながら頷いた。
「それ出されたら何も言えないじゃん。わかった、アズラエルさんの好きなタイミングで呼んで。前線にいるんじゃなきゃ行くよ」
「その言葉が聞きたかったんです。
「何?」
ミーシャはまた悲報かな、なんて思っていると。
「オーブと大西洋連邦との同盟がまとまりそうです」
そんなことを、まるで何でもないことかのように言ったのだった。
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