【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
世界がコズミック・イラを迎える遥か前、アズラエル家、バレンタイン家を始めとする莫大な資産を持つ資産家たちの集まりがあった。世界を支配する……というには強固ではなく、かといって趣味の集まりというには関りが密接で……とにかく、目的も定めぬまま巨大な力を持つ組織が存在していた。彼らの名をロゴス。莫大な資金を背景に日夜暗躍する秘密結社である。そして、ブルーコスモスの母体でもある。
「……で、あなたが今回プラントに向けて核兵器持ち出した上にボッコボコに負けた人?」
「くっ……。クソガキが……」
月基地にある通信室の一室を借りて、ミーシャはロゴスの会合に出席していた。いつもはまばらな参加者も、魔弾の天使、バレンタイン家の新当主が参加するとあってほぼ全員が参加していた。10人ほどの、富裕層の集まりというには小規模な会議。その中で最初の議題が先の大敗についての責任追及だった。
「優先順位間違わないでほしいんですけど。今大事なのは復興支援だよね? これを機に弱った地域に出資すれば将来的にたくさんリターン返ってくるっていうのにさ、戦争なんかに金使ってどうするの?」
「――私には計画があるんだ。大部分は成功していた!」
「核ミサイルの大量消費が計画ってんなら、そりゃ成功したと思うけどね」
ミーシャは辛辣だった。もしかしたらユニウスセブンの件を対話で……もしくは小競り合いで済ませられるかも、というレベルに近づいていたというのにいきなり絶滅戦争待ったなしの状況になったのだ。イラつきもする。最初は『ザフトの脱走兵の独断のテロであり関係者は全員死亡……』というプラントの意見を受け入れたのに、ジブリールが子飼いの政府関係者を煽って『先の声明は全くの欺瞞でありザフトはあくまで首謀者である。先の救出作業はマッチポンプにすぎない。そうでないなら首謀者をだせ』といった内容の声明を発表させ、一方的に開戦したのだ。
長年のロゴスメンバーを差し置いて自由に発言しているミーシャであるが、窘めるものは誰もいない。
今の彼女は力もあるし金もある。投資や資産運用も堅実で、お家騒動も乗り切って家は万全。なんで前線にいるのかこの場にいる誰もが理解できないほど彼女は成功者なのだ。ロゴスとしても、若い彼女を妨害するよりかはやらかし続きのジブリールを何とかする方が優先度が高いためミーシャに好き勝手言わせている。
「そういうあなただって、ユニウスセブンの破砕作業、失敗したじゃないか! 偉そうなことを言わないでもらいたい!」
「アレは……アレは成功よ。一応はね。こっちは人道支援、そっちは民間人の虐殺。もう大西洋連邦はプラントを国家承認したんだから、『アレはテロリスト』っていう言い訳も聞かないから」
「――全く。お子様はこれだから困ります」
ジブリールは無理矢理取り繕って言う。ミーシャは不思議そうな顔でジブリールを見つめる。
「計画の果てにあるのはコーディネーターの殲滅です。ザフトの絶滅も当然計画のうちです。あなただってそれは望むところでしょう?」
「それはそうなんだけどね……。正直コーディネーターってわざわざこっちが滅ぼしにかからないといけない相手なの?」
「は? 我らブルーコスモスを何だと思っているのですか?」
「環境保護団体。……だってあと50年もしないうちに絶滅危惧種でしょ、あいつら」
ジブリールが顔を顰める。確かにそうだ。現在第2世代コーディネーターが子供を産もうとしてそれができないと深刻な社会問題になるにはもう少しだけかかる。大体10年後くらいには問題になって、30年後くらいには本格的に人口減少が深刻化し、殲滅よりも増やさないと勝手に絶滅するという段階に来るはずだ。
……そして、30年後のその時ミーシャは43歳で、ジブリールは61歳。ミーシャは現役バリバリの年齢だが、ジブリールはもう後進に道を譲る頃だ。……時間が解決する問題だが、ジブリールにとってしてみれば、その時間が惜しいのだ。
「私はわざわざ座して待つつもりはありません。皆さんだってそうでしょう?」
「……まぁ、待ってはおれんわな」
口々に同意の言葉が返ってくることにジブリールはほくそ笑む。ロゴスの幹部の中では、ジブリール、アズラエルはミーシャに次いで若手なのだ。普通、よっぽどの才能がなければ金もコネも手に入れるには時間がかかるものなのだ。老境に至っている彼らに、コーディネーターが絶滅するまでただじっと待つなど、そんな気の長いことをする時間はないのだ。
「宇宙では辛くも敗北を喫しましたが、地上ではそうはいきません。ザフトの拠点を攻め込み、地球上から奴らをたたき出します。バレンタイン、あなたにも手伝ってもらいますよ! まず手始めにミネルバの追撃を!」
「別にそれはいいけど。ミネルバってそんなに保有モビルスーツ多いわけじゃないし、私が行くなら拠点攻めた方がよくない? ビクトリアでの私の戦績見てよ。拠点攻め得意なんだよ、私」
パン、とアズラエルが手を打った。
「確かにバレンタインさんは拠点攻略において重要な戦力です。しかし、今は彼女のネームバリューを利用するべきでは?」
ミーシャも、ジブリールも、アズラエルがどう話を持っていこうとしているのかがわからない。
「どういうこと?」
「オーブとの同盟締結に前向きな回答がもらえましたので……オーブ代表のカガリ・ユラ・アスハの結婚式にバレンタインさんを招待させようと思っておりましてね。あなたが睨みを利かせれば、彼らも同盟締結の意思を固くするでしょう」
それからしばらく会議は続くが、ミーシャのオーブ派遣が決まる以外に具体的な何かが決まるわけでもなく、ただ時間が過ぎていく。老人たちの会合は、時間の無駄なんじゃないかと思ったミーシャだった。
――それから数日後。ミーシャはドミニオンに艦を乗り換えてオーブに寄港していた。ナタルと一緒にドミニオンの昇降口から降りると、オーブ軍人の案内で、首長官邸の貴賓席に案内される。
「……なんか変な気分。またオーブに来るなんて」
「私もだ」
「オーブの人に殺されたりしないかな。撃たれるって痛いのかな……。ナタルさん、頭と胸どっちのほうが楽に死ねると思う?」
ミーシャが悲観的な気持ちになっていると、ナタルは呆れたようにため息を吐く。
「悲観はよせ。我々は正式にオーブから招待されているんだ。いきなり殺されたりはしない」
「フリーダムも持ってきてないし不安」
フリーダムを持ってこれるわけがない。ここは中立国で、今後は同盟軍になるのだとしても今はまだ違うのだ。しかも魔弾の天使はオーブを焼いた悪魔そのものだ。刺激しないに越したことはない。
「それに結婚式前にカガリと会談って……何話せばいいの? オーブ兵士何人も殺してごめんなさいって?」
「上はアスハ代表とお前がアークエンジェルで知り合いだったという事しか見ていなかったのだろう。仲がいいと思われたのではないか?」
「仲は良かったよ。……でもなぁ」
ミーシャは憂鬱だった。こっちは攻め込んだ側だ。カガリにいきなり罵倒される可能性もある。それくらいならまだいい方で、実はカガリが自分の抹殺を企てている可能性だってあるのだ。そうなったら自分はどんな反応をするのだろう。もしかしたら、素直に刃を受け入れるのかもしれない。
「とにかく、祝い事だ。過激な発言は避けろ」
「わかってるよ、バジルール大佐」
なんか非正規部隊に所属してから戦争以外のことばっかりやってるな。そう思わずにはいられなかった。
――
オーブ首長室。カガリは婚約者のユウナを怒鳴りつけていた。
「ミネルバを追い出した!? 大西洋連邦に売っただと!? 何考えてる! 彼らはユニウスセブン破砕に協力してくれた恩人なのだぞ!」
カガリの怒声も、ユウナは余裕の表情で受け流す。
「大西洋連邦の公式発表はザフトのマッチポンプ……ならば彼らは恩人などではないよ。真の恩人は地球連合軍だ」
「だからといって! なんで今急に追い出したんだ!」
「彼らが来るからさ」
「彼ら……?」
「カガリも知っているだろう? 大西洋連邦所属艦、英雄艦ドミニオンと魔弾の天使。僕たちの結婚式に招待したんだ。オーブ近海で魔弾の天使とミネルバが戦闘になることは流石に避けたいからね。破砕に協力してくれた両者が殺し合うなんて光景、見たいものでもないし」
「――招待だと!? ナタルさんとミーシャをか!? なぜそんな勝手なことをした!」
「なぜって……そうして名前を呼ぶ仲だからに決まっているだろう? 向こうも快諾してくれた。久々に会ったらどうだい」
カガリは執務机を叩く。事はそう簡単ではないのだ。確かに仲は良かった。アークエンジェルにいたときならば結婚式に招待するのも喜んだだろう。だがもう違うのだ。
「簡単に会えるか! 私達は殺し合ったんだぞ!」
会えない理由のあまりの深刻さ、殺伐具合に温室育ちのユウナが怯む。
「それは……そうかもしれないが。彼女は命令がなければ撃たない。なにせ彼女は軍人だ」
「――だが! ミネルバへの不義理は……!」
「魔弾が来るとわかっているのに逃さないなんて、そっちのほうが不義理だと僕は思うけど? ちょっとはこっちの事情もわかってほしいものだね、カガリ」
子供を諭すかのような言葉に、カガリは歯噛みすることしかできなかった。
――オーブ到着から数日後。オーブ沿岸にある慰霊碑の前に、ミーシャは普段着で立っていた。結婚式までは日にちがあるので、ミーシャには短い休暇が与えられていた。慰霊碑には山のように名前が書かれている。
……マユ・アスカという名前をはじめとして、本当に色んな名前がある。
「……」
ミーシャは花を慰霊碑の前に供える。こんなことをされても彼らは喜ばないだろう。もしミーシャに強い霊感があったなら、今にも呪い殺さんと恨み言を言う霊魂が見えるだろう。だが、そうせずにはいられなかった。
「……ミーシャ……?」
ふと、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには記憶よりほんの少し背の伸びたキラが立っていた。
「……キラ……?」
二人は少しずつ歩きだす。キラの向こうには二人の男女が立っている。二人の距離が近づくと、男女……キラの両親が駆け寄ってくるのが見える。
「生きてたんだ……ジェネシスの近くで戦ってたから死んでたと思ってた」
「――死んでた方が良かったんだ、僕は。ねぇミーシャ、僕はなんで生きてるんだと思う……?」
キラは淀んだ目でミーシャに問う。流石に様子がおかしいことには気がついた。
「……キラ、大丈夫?」
「僕は大丈夫」
大丈夫に見えないから聞いているのだが。ふと、キラの母親がやってきて、ミーシャに頭を下げた。
「あの、はじめまして。私、カリダ・ヤマトともうします。その……あなた、ミーシャさん、でいいかしら?」
「え、はい。こんにちは。はじめまして。地球連合軍大西洋連邦所属、ミーシャ・バレンタイン大佐です」
ミーシャは背筋がすっと伸ばし、しっかりとした様子で手を差し出す。カリダが握手に応じると、ミーシャもペコリと会釈した。
「御子息のキラさんとはアークエンジェル時代に一緒に戦っていました。事情があって敵対することにはなりましたが……個人的な恨みはありません。ご安心ください」
「……その、ミーシャ……さん。うちの息子があなたに……酷いことをしたと」
ミーシャはキョトンとした。それから思い出す素振りをしてから首を振る。
「いえ。キラさんとはいい戦友でした。カリダさんが懸念するようなことは何も――」
「――全部母さんには言ったんだ」
「は?」
ミーシャは驚く。言った? 全部? なんで!?
「何考えてるのさ、キラ。オーブでのキスのことだって、別に会うこともないんだから適当に誤魔化せば……」
「母さんに話せば警察に通報してくれると思ったんだ。でも……僕はまだ捕まってない。おかしいよね?」
ピクリとも表情を動かさず、キラは言う。ミーシャは恐る恐る、キラに聞く。
「……キラ、カウンセリング受けてる? 精神科は?」
「僕にそんなの要らない……。僕は……」
「それ、ちゃんと治療しないと引きずるよ? クロトとシャニ……あ、フォビドゥンとレイダーのパイロットね。二人だってまだ戦争の記憶引きずってるんだから」
さも当然のことのようにミーシャは言う。だがキラはそういうところにかかれない理由があった。
「――僕のことを話すと……大切な人たちに迷惑がかかるから」
何がきっかけでラクスのことが世間に露見するかわからない。だからキラはすべてをひた隠しにするためにも、孤独な療養生活を選んだのだ。それに……。なにより、自分は救われてはならないという気持ちが強かった。
「……別に、医者ってそこまで口軽いわけじゃないよ?」
「じゃあ、君は僕とのこと、お医者さんに話した?」
「話すよ。それが治療なんだから」
ミーシャはうつむく。たぶんこう言ってもキラは治療を受けようとは思わないだろう。ミーシャだって最初は相手が女性のカウンセラーだとしても、言うのは流石に恥ずかしいと思っていたのだ。治療を受けて治りたいとも思っていなかった。心の傷を抱えて、一生傷ついたまま、一生苦しんで死ぬべきだと本気で思っていたのだ。だが……それは、戦争の災禍なのだ。アズラエルにクロトとシャニと一緒にまとめて病院に叩き込まれていなければこうやって振り返ることすらできなかっただろう。
「……それでも僕はいい。ミーシャ、それが僕の償いなんだ」
「別に私キラに苦しんで生きて欲しいなんて思ってないし。せっかく両親が生きてるんだしさ、元気になってあげたら? 親孝行してあげなよ」
「……こんな人殺しでも?」
「きっとキラが町一つ虐殺してたとしても、キラのお母さんは抱きしめてくれると思うけど? ……小さな女の子に手を出してたとしてもね。それにさ、キラ、ちゃんと食べてる? なんか痩せて……って窶れてない?」
「大丈夫。ちゃんと食べてるよ」
キラは嘘をついた。カリダも二人のやり取りをハラハラしながら見守っている。
「なら、いいんだけど。でもキラは戦争辞めれたんだね。良かった良かった! 心配してたんだよ? ずっと人殺し嫌だーって言ってたから」
「……ミーシャは、まだ地球軍に?」
「もちろん! この前もユニウスセブン破砕作業して地球のヒーロー! パトリック派のテロリスト共もちゃーんと地獄に送っといたから!」
キラはそのミーシャの言葉を聞いても曖昧に微笑むだけだった。
「そっか……。ミーシャは元気にしてるんだね」
「ま、まぁ、そうだけど」
「……どうしてミーシャがオーブに?」
「ん? ……休暇。罪滅ぼしかな」
ミーシャはさらりと言う。
「……私もう行くね。書店巡りするの」
「……そっか。ミーシャ、本読むんだね」
ミーシャは頷く。
「オルガの趣味だからね。オススメの本、まだ全部買いきれてないし。じゃ、元気しててね、キラ。また海賊になって戦場に出てきちゃダメだよ! あとそれからさ。私、キラと関係持ったこと後悔してないし……あの時はあれが最善だったと思ってる。キラのことを好きで、キラのために尽くすことが救いだったの。だからさ、もう気にしないで。――それでは、失礼します」
ミーシャはそう言うとその場から離れ、帰路につく。
「いい子なのね」
カリダが去っていくミーシャの背を見ながら言った。
「うん。――そんな子を僕はずっと傷付けて……」
「……あの子自身、気にしてなかったじゃない。キラ、そんなに思い詰めないでいいと思うわ……」
カリダはキラの背を押しながら、同じように帰路につく。ミーシャとの再会が良いように作用すればいいのだが……。母の心配は絶えない。
――それからさらに数日後、結婚式当日。ミーシャは兵士の案内で花嫁の控室に入室させてもらった。元々の予定だったとはいえこんな大事な時に部外者が入ってもいいのかな、なんてことを想いながら部屋に入る。
「……カガリ」
「……ミーシャ」
二人は実に2年ぶりに、再会を果たした。一度は武器を交えた関係ではある。気まずいは気まずい。しかし、お互いに恨みはない。
「……その、結婚、おめでとう。あと……ジェネシスでのこと、ありがとう」
「あ、ああ……。そうだな……どういたしまして。それから、ありがとう」
ぎこちない挨拶を交わし、二人は無言になる。
「……ねぇ、カガリは……その、好きな人と結婚するの?」
ミーシャはつい、聞いてしまった。結婚相手の名前に記されていたのは全く知らない名前。カガリならキラと結婚すると思っていたのだ。
「いや……。だが、国の為だ」
「そう……」
ミーシャは俯く。国の為。国のために好きでもない人と結婚するのか。自分はどんな人と結婚するのだろうか。こんな結婚はしたくない。カガリの結婚は、自分がそう思うようなものなのだ。……気分ばかりが落ち込む。結婚式って言うのは幸せなもののはずなのに。
「ミーシャ。お前は……お前は、好きな人と結婚するんだぞ」
「……カガリ……」
「私は、できないから」
その時、いきなり部屋の扉が開いて、青い髪の男が入ってきた。
「誰? ここ花嫁の部屋なんだけど」
「おやおや……。これはこれは。噂に違わぬ愛らしさですね。僕はユウナ・ロマ・セイラン。カガリの夫になる男です」
ミーシャはその男をジロジロと見る。それから差し出された手を握る。
「これはご丁寧に。私はミーシャ・バレンタイン大佐です。カガリとは友人で……。どのくらいの仲かというと、花嫁より先に小娘を褒めるような相手だと心配してしまう……くらいですかね」
ユウナは一瞬顔を引き攣らせる。しかしすぐに取り繕うとカガリの肩に手を置いた。
「君もキレイだ。結婚したら髪も伸ばそう。お淑やかに……女の子らしくね。そういえば君、口調も荒っぽかったよね? それも少しずつ直していこう」
「……」
ミーシャは顔を顰める。マジかよ。こんなのがカガリの相手?
「……すみません、セイランさん。私とカガリでもう少し話したいんですが」
「ああ……それは失礼しました。地球軍の大佐殿をご機嫌を損ねるわけにはいきませんからねぇ。それが子供のワガママだとしてもです」
ミーシャは肩を竦める。視線で部屋の扉を指し示すと、ユウナはそそくさと退散していった。
「……ホントにアレと結婚するの? アレ、結婚したらモラハラパワハラDVの嵐だよ? 絶対殴ってくるよ?」
「お前から見ても、そう思うか」
カガリの表情は暗かった。花嫁のする表情だとはとても思えない。
「……アレックス……ってかアスランは? あいつ何してんの?」
「あいつは……あいつは今、プラントにいる」
「プラント? なんで? 匿ってくれて、偽名で護衛なんてポストまで用意してくれたカガリを置いて? ――チッ。所詮ザフトか」
ミーシャは舌打ちをする。すぐにカガリがミーシャに詰め寄った。
「違う! アレックスは……アスランはそんなやつじゃないんだ! あいつなりに思い悩んで、議長に真意を確かめに行くって……! だからミーシャ、あいつを責めないでやってくれ!」
その勢いに、ミーシャは驚く。そして気付く。カガリが落ち込み、暗くなっている本当の理由に。
「あいつのこと、好きなんだ」
「――!」
ミーシャが言うと、カガリは顔を真っ赤にして黙りこくった。ミーシャもその様子を見て確信する。そしてやりきれない気持ちになった。他国の結婚だ。しかもアスランは今プラント。手の打ちようがない。
「……私じゃ、どうにもできない」
「――どうにかして欲しいなんて……思ってない。国のために、仕方なくだ」
ミーシャは歯噛みする。結婚? これが結婚だっていうの?
「……こんなのってないよ」
ミーシャだって結婚に幻想はある。幸せに満ちて、みんなから祝福されて、この世に不幸なんて一つもない……そんな気持ちで迎える物なのだ。それなのに。カガリにとってこの結婚は好きな人へしたくもない裏切りをして、好きでもない人と結ばれる悪夢そのものみたいなものだ。そして、ミーシャにその悪夢を終わらせる方法は存在しない。
「……私、参列席に行ってるから」
「ああ。――元気でな」
「そっちも……せめて、健康にね」
ミーシャはそう言って部屋から出た。部屋の外にはナタルが待っていた。
「……いいの、ナタルさん?」
「別に……。カガリ代表と特別仲がいいわけでもないしな。忙しい花嫁の時間をこれ以上煩わせるわけにもいかん。そろそろ着席の時間だ。行くぞ、バレンタイン大佐」
「了解、バジルール大佐」
二人は式場まで歩いて行った。
――式はつつがなく進む。結婚式が佳境に入り、お互いに愛を誓い合おうとした、その瞬間。
「なっ……!」
――フリーダムがやってきた。純白と青の機体。ミーシャはその機体のパイロットが誰かよく知っていた。
「……!」
フリーダムはカガリをその手に攫うと、大空へと飛び立った。
「――フリーダムだ! 花嫁を攫ったぞ! 撃ち落とせ! ……バレンタイン大佐!」
ユウナがミーシャのところに駆け寄ってくる。内心めちゃくちゃ喜んでいたところを水をさされ、不機嫌そうに返事をする。
「何?」
「フリーダムの討伐をお願いします!」
「自国軍に頼みなよ……。まぁいいよ。バジルール大佐、ドミニオンにモビルスーツ積んでた?」
「いや……」
「ムラサメ貸すから! カガリが攫われてしまう!」
その言葉にミーシャとナタルはお互いに見つめ合う。
「……他国の要人に要請されたら仕方ないよね?」
「上層部はそれで納得するとは思うが……本気か?」
ミーシャは肩を竦める。
「ま、
ミーシャはその場にいた兵士の案内でムラサメを一機借り受けることになった。
「同盟相手だからって無茶させるなぁ、ユウナ。自分とこの軍が不安でそばにエースがいたからってモビルスーツ貸す、ふつー?」
ミーシャはムラサメのコクピットに乗りながらぶちぶちと文句を言っていた。その時、通信コンソールに誰かが映った。
「貴官が救援の地球連合パイロットか……? 若いな」
「こちらミーシャ・バレンタイン大佐。フリーダム追撃任務に一時的に就いてるよ。そっちは?」
「自分はトダカ一等海佐。地球連合軍で言う大佐相当の階級だ」
「了解。フリーダム撃墜したいんだけどなー、手の中にカガリいるしなー、倒せるかわかんないなー」
ミーシャが試すようにそんな事をいうと、トダカ一佐は乗ってきた。
「それならば仕方ないこともあるだろうな……。ご協力感謝する」
ミーシャはニヤリと笑う。
「フリーダムは多分殺しては来ないと思う。回収班予め出しといてほしいな」
「委細承知」
「よーし、できる限り頑張るとするかー。ミーシャ・バレンタイン、ムラサメ、行ってきます!」
ミーシャは変形して戦闘機形態のムラサメに乗って出撃する。OSがバスターのものに似ていた上に、ナチュナル用に組まれているためかなり使いやすい。細かい挙動や精密な射撃、高度な戦闘には向かないが――
――今のミーシャはそのどれもする気はなかった。