【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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敗者のみの戦場

 現在の戦闘空域には3つの勢力が存在していた。ディオキア基地防衛戦力とミネルバを擁するザフト。ユウナ・ロマ・セイラン指揮下のオーブ軍。ミーシャ・バレンタイン大佐が総司令の地球連合軍大西洋連邦艦隊。オーブ軍と地球軍は同盟関係にあり、両軍を持ってザフトを撃滅し、ディオキアを再び地球軍勢力下に置くのが今回の目的である。

 ……そこに、本来なら現れるはずのない第三者が現れた。

 アークエンジェルと白いフリーダム。そして、カガリ・ユラ・アスハが搭乗しているストライクルージュ。前の大戦が終戦すると同時に裏に引っ込んで表舞台に出てこなかった彼らが、今になって出てきた。ストライクルージュからはオーブ軍に向けて、広域通信が絶えず発信されてして……オーブへの戦闘停止と撤退を命じていた。

 

「もう一度通達する! オーブ首長連合国代表カガリ・ユラ・アスハが命じる。オーブ軍はその理念にそぐわぬ戦闘行為を停止し、直ちに撤退。オーブへ帰還せよ!」

 

 コクピットでミーシャは頭を抱える。なんだって今こんな時に言うんだ。そりゃ気持ちはわかる。オーブは中立なんて誰でも知ってる。それを国の理念にしてることも。でもだからって戦場のど真ん中でそれを叫ばれても正直困る。

 

「……ユウナ様」

 

 ミーシャはタケミカヅチに乗船しているユウナ・ロマ・セイランに話しかける。

 

「な、なんだ? いったい何がどうなって……」

「カガリが戦闘行為の停止と撤退命じてますけどどうします?」

「ど、どうしますって……」

 

 この期に及んでまだ決心のついてないユウナに、ミーシャは苛立つ。

 

「オーブと地球連合は今後同盟組むってのは決まった話ですよね? それを反故にするのかどうかって聞いてるんです」

 

 ミーシャの声は酷く冷たく聞こえた。ユウナが息を呑む。通信コンソール越しだというのに怖い。ユウナの脳裏にふと、今まで自分が散々軽んじた彼女の戦歴と戦果を思い出す。

 ……もし彼女がオーブに向けて銃を向けたら、ここにいるオーブ軍はミーシャ1人に全滅させられる。彼女にはそれができるだけの腕と、モビルスーツの性能がある。勝ち目はゼロである。

 

「も、もし反故にしたらどうするん……ですか?」

「さあ……。上に聞いてみないことにはどうにも。でも、こんな土壇場で一方的に同盟破棄して戦線離脱……ブチ切れても許されると思いませんか?」

「あ、あ、そうだね……私もそう思う……よ」

 

 ザフトはこっちに攻撃してこない。話の流れによってはオーブが……敵の数が大幅に減るのだ。なんならこのまま同盟破棄になってくれとすら思っているだろう。

 

「で、答えは?」

「――か、カガリの……カガリの命令には従えない」

 

 ユウナは答えを出した。ミーシャは満足そうに微笑んだ。さっきまでの冷たい雰囲気が霧散して、一気に友好的な様子を見せるミーシャに、ユウナはさらに恐怖が煽られる。

 

「よかった! あー、心配したんだよ、ユウナ様。ここで決断できる人、凄いと思います。

 じゃあ、カガリはとりあえずほっといて戦闘再開ってことでいいですか?」

「も、もちろんだとも。さあ、全砲門開け!」

 

 ユウナが命じるが、トダカ一佐は応えようとしない。

 

「どうしたんだよ? なぜ撃たない?」

「あれは……あれはカガリ様です」

「でも、今は僕が指揮官だ! お前、それに今から『じゃあ帰ります、地球軍さんあとは頑張って』って言って帰れるとでも思ってるのか!?」

「……それは」

 

 トダカですら、それは通らないだろうなと思う。

 

「それに! 私なら帰る前に撃つ! 魔弾の天使が殺すと決めたらウチは全滅だ! そうなったらお前責任取れるのか!?」

「……失礼しました」

 

 悲壮感溢れるそのやり取りを聞いていたミーシャはため息を吐く。別に威圧も脅しもしてないのに。少し悲しくなった。いや……脅しはしたかもしれない。でも大の大人がそんなにビビらなくても……。そんなことをミーシャは思った。

 

「……わかった。私がカガリの真意聞くから、みんな聞いてて」

 

 ミーシャは広域通信をしているカガリに通信を繋ぐ。この場にいる全員に、カガリとミーシャの会話が聞こえるようになる。

 

「カガリ、聞こえる?」

「……ミーシャか! お前なんでこんなところにいる!?」

「そりゃこっちのセリフなんだけど……まあいいや。私はいま地球連合艦隊の総司令だよ。で、そっちは? どんな権限があってオーブ軍に命令してるの?」

「私はオーブ代表だ! オーブ軍は私の命令に従う義務がある!」

 

オーブのことをよく知らないミーシャはその言葉が正しいのか間違っているのかわからなかった。ユウナが口を挟んでこないことから、間違ってはいないのだろうなと推測する。

 

「……そっか。で、カガリ。今私達仲良く一緒に戦ってるわけだけど、何が気に入らないの? どうせだし一緒に戦おうよ? また一緒に……あの時みたいにさ」

「私は……私はもうそんなことはしない! オーブは中立なんだ! それが理念なんだ! ミーシャだって知ってるだろう!? 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の侵略に関与しない。……この戦闘はその理念に反している!」

 

 ミーシャはなんとも言えない気持ちになった。確かにそうかもしれない。中立ってのはそんなにこだわるような理念なのかどうかはわからないが、まぁこの状況だと中立なんて言えないだろう。

 

「中立、ねぇ。私が知ってるオーブは……ヘリオポリスで地球軍と一緒にMS作ってて、お姫様がアフリカで()()()()してて……今こうして地球軍と肩並べて戦ってる。そんな国だよ」

「……!」

 

 ミーシャからすれば、オーブはだいぶ前からかなり地球連合よりの国だ。そして国家として同盟を組むことに同意した以上、もう中立という理念は一旦棚上げしたと思っていたのだが。

 

「別に今中立じゃなくても、戦争終わって平和になったあと中立になればいいじゃん。ね?」

「そんなもののどこが中立なんだ! オーブ軍人は中立であり、オーブの理念に従うことが大切なんだ! 彼らに理念に反する戦いをさせないでやってくれ!」

「――って言ってるけどどうなの、トダカ一佐」

 

 いきなり話を振られてトダカ一佐は答えに窮する。しかもこの返答はこの場にいる全軍に聞こえるのだ。下手な言葉は国際問題になる。大西洋連邦との関係、オーブの国際的信用。内心ではカガリに同意したくとも、今この場でできるわけがない。

 

「もちろん、我らの理念は中立です。しかし、同盟を結んだ以上は、その責務を果たすまでです」

「……だってさ」

 

 トダカの言葉に、カガリはショックを受けたような顔をした。

 

「何を言っている……! 中立の理念が……」

「理念はもういいよ、カガリ。私達は現実に生きてるの。ここだけはハッキリさせとこうよ。もし軍が引かないってなったらカガリはどうしたいの?」

「私は……私はこの戦闘を止めたい! オーブが間違った道を進む前に止めたいんだ!」

 

 ミーシャは肩を竦める。どうやってオーブ兵を味方に引き込むか。それを考えてしばらく。ミーシャは少し笑って、それから憐れむような声色で言った。

 

「間違った道、ねぇ。オーブ軍の兵士さんも可哀そうに。同盟軍ながらに同情するよ。大好きなカガリ様直々に間違ってるなんて言われるなんてね。

 ま、そう言うんじゃしょうがないね。――私と()()殺し合いたいんだね。せっかく……せっかく、カガリとまた一緒に戦えると思ってたのにさ」

「う……。だが、私は……」

「……でも、ジェネシスでの借り、あったから。カガリだけは撃たないでおいてあげる」

 

 ミーシャはそう言って広域通信を切る。

 

「……というわけだから、ユウナ様、ウチはカガリを撃たないよ。引くなら引く、戦うなら戦うではっきりしてね」

「……ミーシャ・バレンタイン大佐、オーブ軍の公式見解を伝えます」

 

 ユウナが神妙な顔でミーシャに言う。

 

「聞くよ」

「あのカガリ・ユラ・アスハは……偽物です」

「へえ」

 

 そんな方向に舵を切ってくるとは思っていなかったミーシャは、少し悲しそうにそう言った。

 

「ええ。彼女はテロリストに攫われその命を散らしました。……彼女の声も、姿も、性格も、口調も、全て作り物です」

 

 偽物。……多分そう言うしかないのだろう。でも、本物だと知ってて撃つオーブ兵も、オーブ兵に攻撃されるカガリも……あまりに悲しく、救われない。

 

「……そっか。わかった。でも、約束だからウチはカガリ……っぽい誰かは撃たないよ」

「そうですか」

 

 ミーシャはオーブとの通信を切る。はあ、とため息を吐く。

 

「……大丈夫か、大佐」

「ん-、大丈夫じゃないけど、大丈夫かな」

 

 ミーシャはネオの言葉にあいまいに頷く。ずーっとどこにいたのかわからなかったがまさかこうやって同盟を邪魔するために機会を伺っていたとは思わなかった。それとも、ずっと隠居するつもりだったけどオーブが同盟を組むと知って慌てて出てきたのか。この段取りと準備のなさからして後者っぽいなとミーシャは思う。

 

「とりあえず……バレンタイン隊、ストライクルージュは撃たないようにね。フリーダムは……まぁ、殺されない程度に相手して。あくまで目標はザフトだからね。あんな意味わかんないくらい強いの相手にして戦闘不能とかバカバカしいよ」

「了解。白いフリーダム……あいつも強いのか、クソ……」

 

 スティングが悔しそうに言う。

 

「強いヤツばっかでやんなるけどさ……別に僕たちだって弱いわけじゃないもんね!」

 

 アウルがアビスを変形させて海中に潜航させながら言った。

 

「インパルスとは離れる……。シンとは戦わなくていい……。隊長……ありがとう……」

 

 ステラがガイアをジャンプさせ、ミネルバから距離を取りつつディオキアの防衛戦力と戦うつもりだった。インパルスと戦わなくていいよう計らってくれたミーシャには感謝しかない。

 ミーシャはフリーダムを前進させ、遠くのザクを撃ち落とした。その一撃が契機となって、戦闘が再開する。三つ巴の戦闘が。

 

 ――狂気だった。そのMSは端から見て狂気に満ちていた。ザフトも、連邦も、最初にタンホイザーを攻撃したことから当然フリーダムは連合オーブ艦隊に味方すると思われていた。しかし。

 

 次にフリーダムが撃ち落としたのは、ミーシャの傍を飛んでいたウィンダムだった。ウイングユニットと武装を破壊され、海に落ちていくウィンダム。ミーシャはそれを見て、静かに怒りを宿す。キラに通信を繋ぐ。

 

「キラ、どういうつもり?」

「僕は……僕はこの戦闘を止めたいんだ」

「止めたいで戦闘は止まらないって散々経験したよね?」

「だから……だから、僕はこの場にいる全部を止める。――力づくで」

 

 キラの目は淀んだまま、何の感情も抱いていないように見える。まるで自殺寸前の鬱病患者のようだ。だがその体は最高の結果を齎すべく正確に、機敏に動く。誰よりも卓越した技能と、どんな機体よりも優れたモビルスーツで。

 

「そっか。……やってみなよ」

 

 キラのコクピットにはカガリの泣く声が響いている。ミーシャのスピーカーもそれを拾っていて、ミーシャは顔を顰める。

 

「カガリに言ってよ。泣くほど辛いなら……政治でなんとか止めてりゃよかったのにって!」

 

止められない不幸を、どうにもならない無力を嘆きたい気持ちはわかる。

だが、だがカガリはただの女の子ではなかったのだ。巻き込まれるだけの民間人というわけでもなかった。やりようはいくらでもあったように思う。

 

「君はカガリが不幸になってもいいっていうの? 君だってカガリを攫うのは喜んでいたよね?」

「そりゃ喜ぶよ! カガリが一般人として生きて、アスランと結婚するんだって思ったからね! まさかこんな風に代表面して戦場に乗り込んでくるとは思ってなかった!」

「それが彼女のしたいことなら……僕は手伝ってあげたい。たとえ……たとえもう何もかも遅くて、たとえどんなに間違ったやり方だとしても」

 

 キラは言いながらその実力を発揮し、敵を……この場合のキラの敵とはこの場にいる全勢力全戦力のことである。敵を無力化するため攻撃を開始した。地球連合のMSを中心に、キラは攻撃を加える。ザフトを攻撃しようとしたオーブ軍も、連合を攻撃しようとしたザフトも、皆平等に攻撃する。しかし数は多い連合がキラの標的になることが多かった。

 

「……ウチばっかり狙って! キラって地球連合嫌いなの!?」

「そういうんじゃないよ。今、この場で君たちが一番強い」

「だからクソザフトを支援するって? ザフトに協力するテロリストとか絶対許せない存在なんだけど?」

 

 ミーシャが脅すように言うと、オーブ軍にライフルを向けていたザクをキラが無力化する。両手両足を撃ち、バックパックも撃って完全に戦闘不能の状態にする。そのザクは海へと向けて落下する。

 

「別に、ザフトを支援してるつもりはないよ」

 

 その言葉はどこまでも本気で、どこまでも純粋だった。

 

「本気でこの場の全員無力化する気……? 名実ともにテロリストじゃん!」

「僕は戦闘を止められるなら、そう呼ばれてもいいよ」

 

 ミーシャは舌打ちする。本格的にキラの様子がおかしい。だが、戦場でこうして出会ってしまったなら、キラを思い遣ることはできない、敵として立ちはだかるのなら倒すしか……殺すしかない。

 ミーシャは悲しみや苦しみ、戦いたくないという心の底にある気持ちを塗りつぶすように自分を鼓舞する。私は地球軍の総司令官だ。感情に流されるわけにはいかない。自分の指示一つで人が死ぬ。仲間が死ぬ。

 ミーシャは好戦的な笑みを浮かべる。その目にはほんのりと涙が浮かんでいた。それを気にした様子も見せず、キラに向かって叫ぶ。

 

「そう! キラがそういうなら、私の敵になるってことでいいんだよね!」

「……そうなるね」

 

 ミーシャは何の気なしに、まるで自分を脅威と感じていないような口ぶりに怒りを募らせて……爆発させる。プライドを傷付けられたように感じたのだ。ミーシャなんていつでも無力化できる程度の相手でしかない……。キラにそう思われてると思うと、腸が煮えくり返るような思いがする。一緒に戦って、ずっと隣で戦ってたのに、その実力をまるで認めてもらえていなかったなんて、そんなのみじめすぎる。だから、ミーシャはキラと戦う。今のミーシャはモビルスーツ戦以外の手札がキラより多いのだ。相手の精神を揺さぶる方法も沢山勉強した。

 

「今の私が敵相手に()()()すると思ったら大間違いだよ。私がまだ10歳の時みたいになんの力もないと思ってるの? キラ、敵になっちゃったらしょうがないよね。キラが悪いんだよ? 私の敵になるから! ……アビス、今海に落ちたザク捕捉できてる?」

「もち。どうすんだ隊長?」

 

 アウルはにやにやと笑みを浮かべている。ミーシャは冷徹に、キラにも聞こえるように大声で命じる。

 

「そのザクを撃て」

「ミーシャ!」

「了解!」

 

 数秒して、海の中が爆発し、大きな水柱が上がった。キラが愕然とその光景を見る。

 

「ミーシャ……! なんてことを! あの人は何もできなかったんだ! それは虐殺とどう違うんだ!」

「相手が軍人であることと……それから、モビルスーツに乗ってることかな。まぁ、()()()動けなかったけど偶然偶然。

 キラ。私はね、今からキラが無力化したザフト兵みんな殺すよ。私と、私の部下がね。――あの時みたいに協力しようね、キラ」

「ミーシャ!!」

 

 キラがフリーダムでミーシャに向けて攻撃する。ひらり、ひらりとミーシャは回避に集中する。ミーシャはキラとの通信を切ると、連合に向けて指示を出す。

 

「全部隊、敵フリーダムは私が受け持つ! 事前通り、作戦通り行動して! バレンタイン隊、ミネルバを狙え!」

 

 流石にキラの攻撃を避けるとなるとミーシャも攻撃する余裕はない。だが、キラもミーシャを放置するわけにはいかない。誰も殺さずに全員を無力化する……それはミーシャが行動できる限り不可能なのだ。だがミーシャもただ黙って撃たれて無力化されるような雑兵ではない。

 

「くっ……ミーシャ……君はどうしてそんな風に変わってしまったんだ!」

 

 最後に戦ったときと様子があまりにも違う。知っている彼女は、こんな戦い方をする子ではなかったのに。長い戦乱が彼女の心を歪めたのか、それとも、彼女がそう変わることを望んだのか。キラにはわからなかった。

 ミーシャと戦いを続ける内に、絡めとられるような錯覚をキラは覚えた。ミーシャにMS戦で負けるとは思っていない。向こうは回避に必死で撃ってこない。その余裕がないのは手に取るようにわかる。このまま戦えばいずれは勝つだろう。……だが、目的を達成できるとはとても思えなかった。悪辣な意志の元、追い詰められているような感覚にさえなる。押しているのはこちらなのに。なぜこうも焦りが生まれる。なぜこうも敗北の2文字がよぎる。

 キラがミーシャに掛かり切りになっている間、オーブと地球軍は自由に動ける。地球軍はザフトを、オーブ軍はカガリを狙って射撃する。

 

「あれはカガリ様じゃ……」

「偽物だ! 偽物だと上は言った!」

 

 ムラサメに乗る一般兵はそう言い聞かせて撃墜命令が出ているストライクルージュに攻撃する。呆然として泣いているばかりのカガリは、向かってくるムラサメに反応できず……というより彼女は今何も見ていない。まさかオーブが撃ってくるとは夢にも思っていないのだ。ロックオンアラートが聞こえて顔を上げたころには、オーブ軍のムラサメが至近距離で銃口をコクピットに向けていた。殺される。そうカガリが思った直後、アークエンジェルから出撃してきたムラサメがオーブのムラサメを撃墜した。

 

「あ……」

「お嬢さん、戦場にいるならぼーっと立ってるんじゃない! 殺されたくないなら対処しろ!」

 

 バルトフェルトがカガリに叱責する。バルトフェルトだってやりたくてやっているわけではない。オーブを止めに来てオーブ兵を撃つのでは何がしたいのかわからなくなってしまう。だが、彼はキラほど上手くないのだ。殺さずに止めるなどそんなことはできないのだ。

 

「で、でも、彼らは、彼らはただ命じられただけで……私は……そんなつもりじゃ」

 

 呆然としていると、次の瞬間、広域通信でミーシャの声が響く。

 

「あのストライクルージュ、オーブだろうと気にせず撃つみたいだね! あんなのがホンモノのカガリだと思うの? カガリはね、優しくてあったかくていい人なんだから! 私だってジェネシスで自爆しようとしていたところを助けてくれた! ――あんなことする人じゃない! オーブ軍、カガリが本当に大事なら――あの偽物を倒すんだ!」

 

 カガリは衝撃を受ける。身を護るためだった。そのために反撃しただけだ。撃ったのは私じゃない。――そんな言い訳は口から出てこない。ただ、状況をいいように利用されたということに衝撃を受ける。バルトフェルトはコクピットの中で舌打ちする。彼女の言葉は今の状況だとあまりにも()()。本当に厄介に成長したものだ。あの時怯えるしかできなかった女の子が……今やこの大多数の人間が動く戦場を誘導し、思うように操作している。

 

「……えげつないことするじゃないの」

 

 ネオがミーシャの手管の悪辣さにため息を吐く。

 

「伊達に2年間広告塔やってたわけじゃないよ。アズラエルさん直々にこういう宣伝戦法っていうの? 教えてもらったし色々勉強したんだから……うわっ! キラ、本気で落としに来たな……!」

「大丈夫かバレンタイン大佐」

「ヤバいかも……戦況は?」

「こっちが優勢だ……だがミネルバはまだ墜ちない」

「いい加減硬いね……」

 

 ミーシャは攻撃の密度が上がったフリーダムを相手に回避に徹する。ふと、キラが急速に距離を離した。何があったのかと思って様子を見ると、陸地に近い浅瀬でガイアとオレンジ色の新機体……グフ・イグナイテッドが交戦している様子が見えた。

 

「まずい……!」

 

 ミネルバのクルーとステラは戦わせたくない。ミーシャも同じように二人のいる近くまで移動する。変形してグフに襲い掛かろうとしたところを、キラのビームサーベルが足と背面の翼を切り落として迎撃する。

 

「ははは……! 今こそ好機!」

 

 体勢が崩れ、弱体化したガイアにグフに乗っているハイネがビームガトリングで攻撃を加え、とどめを刺そうとする。キラはビームライフルで腕部を破壊し、足を切って無力化した。

 

「……手当たり次第か――! この狂人がぁ!」

 

 キラのフリーダムに向かうグフへ、ステラは変形し、ビームサーベルで切りかかる。

 

「ステラストップ!」

 

 その寸前、ミーシャの声がかかって、ステラは攻撃を中止した。ロックオンアラートがなり、ハイネは後方を確認する。そこにはビームサーベルを構えるガイアの姿がいた。――もう攻撃を中止していることにも気付かなかった。

 

「手負いだろうとお前になどはやられん!」

 

 しかし、同じ方向の上空にいたミーシャを警戒することができなかった。ハイネはガイアが攻撃してくると思い込んでいたのだ。フリーダムの腰のレールガンの射撃がグフのコクピットに命中する。

 

「バカな……! 囮……!?」

 

 その言葉を呟いたあと、ハイネのグフは爆発四散した。

 

「ハイネ!」

 

 シンとアスランが叫ぶ。シンは上空で戦いあうフリーダム2機を睨みつける。

 

「お前らが……!」

 

 シンはフォースインパルスをフリーダム2機が争い合う場所に急行させる。

 

「ステラ、下がって! 別の奴を攻撃して!」

「シン……! でも隊長が!」

「私がヒヨッコに殺されるわけないでしょ!」

 

 言いながら、ミーシャはガイアの撤退を援護する。フリーダムとインパルス、2機に攻められてミーシャは必死の様子である。

 

「好き勝手に暴れて……! 好き勝手に殺して……! あんたらそれで満足なのかよ!」

「随分強くなった……! 勝てるかな……」

 

 ミーシャは近づいてくるインパルスをビームライフルで牽制する。真横からフリーダムのバラエーナが飛んできて右腕が丸ごと焼失した。ミーシャはバラエーナを展開すると、シンとキラ二人を同時に狙って射撃。キラは躱したが、シンは回避しきれず片足を損傷した。反撃にキラとシンからのビームの雨がやってくる。

 

「無理無理無理! スティング、余裕あるならこっちフォローして!」

「了解!」

 

 変形したカオスがこっちに向かってくる。フリーダムがそちらの方に意識を向けた隙にミーシャは距離を一気に離す。

 スティングがフリーダムへ持てる武装全てで牽制射撃。ミーシャを追いかけようとしたキラを妨害する。

 ミーシャは上昇して太陽の光を背にインパルスへ射撃する雨のようにビームを降らせる。

 

「クソッ! うわーっ! フリーダム!!」

 

 シンはシールドでなんとか雨のように降り注ぐビームを防ぐが、両手と両足は防ぎきれずに破壊されてしまった。

 

「ミーシャ……! もうこれ以上やらせない!」

 

 フォースシルエットこそ生きているがまともに戦闘できなくなったシンを護るようにキラがミーシャに攻撃する。カオスに肉薄すると背面のガンバレルポッドを切り裂く。射撃能力と航行能力を削ると、キラは上空に飛び上がってかなりの高度でミーシャと撃ち合う。スティングはカオスを変形させると推力をチェック。今の高度は維持できるが上昇は無理だ。

 

「隊長! 高度が高すぎる! 今のカオスじゃキツイ!」

「……一対一なら多分行ける! カオスは敵を減らして! ……って嘘でしょ!?」

 

 カオスへの指示を出すため一瞬視線をずらした次の瞬間、メインカメラに映っていたのはフリーダムの足の裏だった。頭を思いっきり蹴られて、ミーシャはその衝撃に一瞬気を失う。すかさずキラは残ったフリーダムの左手を撃つ。ビームが着弾すると同時、ミーシャは目を覚ました。

 

「クソッ! ダメージ……左手!? でもバラエーナはある!」

 

 バラエーナで何度も射撃するが、キラは仕留められない。高度を下げて戦況を確認する。優勢だがアークエンジェルとアークエンジェルのムラサメが齎す被害が大きい。ミネルバこそ健在だが、ディオキア基地は艦砲射撃で酷い有様になっている。防衛用の対空砲火も全部沈黙して、モビルスーツ格納庫もいくつか潰れている。そもそも中に格納されているモビルスーツの大半はこの海域に沈んでいる。オーブも連合も被害甚大だが作戦は概ね成功と言っていい状況だった。

 

「ネオ、このままだと無駄に損害が広がると思うんだけどどうかな!」

「ディオキアはあとは地上戦力だけでなんとかなるでしょう。頃合いかと」

 

 ミーシャはネオと軽く話すと、オーブと通信を繋ぐ。

 

「一旦引こうと思うんですけどどうですか? っあ! クソッ、キラめ!」

「だ、大丈夫なのか?」

 

 タケミカヅチに表示されているミーシャのコクピットは振動と光で酷い有様だった。

 

「こっちは大丈夫! で、作戦目標は大方達成したと思うんですけど!」

「あ、ああ。こちらも想定外事象が確認されている。撤退に同意する!」

「よし! みんな作戦完了! 帰るよ! 帰るまでが作戦だからね!」

 

 ミーシャが地球連合軍に指示を出すと、撤退信号が打ちあがる。

 即座に連合、オーブ、両軍が撤退を始める。キラやアークエンジェルは追撃しようとはせず、何処かへと去っていった。ザフトも追撃する余裕が全くなかった。

 

 ――ここに、勝者が誰か、誰もわからない戦闘が終了した。




いつも感想、評価ありがとうございます。返信は難しくなってきていますが全て読ませて頂いています。とても励みになりますし、そういう解釈もあるのかー、と心から楽しませて頂いています。か
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