【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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囚われの星

 ステラは見知らぬ医務室で目が醒めた。ガイアでザフトと戦おうとして……セイバーとインパルス相手にあっさり負けて、捕まったことを思い出した。

 

「ステラ! 目が醒めたんだな!」

 

 今からどんな目に遭うのか。拷問されるのか、殺されるのか、それとも女として辛い目に遭うのか。恐怖でいっぱいになっていたところ、そんな朗らかな声に毒気を抜かれた。身体を起こして声の方を見ると、ザフトの赤服に身を包んだ彼……シン・アスカがいた。その顔を見るだけで、今まで感じていた恐怖が霧散するような気持ちだった。

 

「シン……」

「ああ、よかった! 怪我してて心配したんだぞ!」

 

 ぎゅう、とステラは抱きしめられる。痛いくらいに力を込められて、ステラは嬉しさに目を細める。

 

 ――シン、こんなに心配してくれてる……。

 

 こうやって彼の体温を感じられるのが嬉しい。ステラも同じようにシンを抱きしめ返す。

 二人はずっと、そうしていた。

 

 ――タリアは医者から上がってきた報告に眉を顰めた。捕虜にしたステラはバイタルこそ安定していたが、その体には夥しいほどの手術痕に加えて、全身から不自然な電位が検出された。なにやらインプラントが埋め込まれているのは間違いない。手術の箇所、インプラントがあるであろう場所、その全てがロドニアで入手した研究データと一致する。間違いなく彼女はエクステンデッドだと言えるだろう。しかし、捕虜の現状はデータと大きく食い違う。エクステンデッドは本来専用の装置なしではそう長く保たないはずだ。しかし、捕虜の少女は2日も経つというのにピンピンしている。

 

 ――もしかして、エクステンデッドとはプロトタイプにすぎないのでは? だから放棄された?

 

 タリアはその可能性に思い至ると、捕虜に尋問することを命じた。

 

 ――ステラは内心恐怖に震えながら、ふわふわとした笑顔を浮かべて目の前の男……アスランと向かい合って座っていた。怪我の様子が大したことがないことがわかると、ステラはその住居を医務室から牢屋へと移された。程なくして尋問だと告げられ……そして、狭い部屋にテーブル一つを挟んでアスランと向かい合うこととなった。部屋の出入り口付近にはシンもいる。それだけがステラの救いだった。

 

「俺はアスラン・ザラ。君の名前は」

「ステラ……。ステラは、ステラ・ルーシェだよ」

 

 ふんわりと、まるで今の状況を理解できないかのように微笑む。ときおりシンに無邪気な様子で手を振ったりもする。アスランはその様子に、半ば同情する。こんな子どものような少女が戦わされている。改造され、薬物によって強化されて。

 

「……君は何しにここに来た?」

「ステラはね、お友達のママを助けに来たの。だって艦長が悪い人にやられちゃうって言うから……」

「ステラ。俺達は悪い人じゃないよ」

 

 シンが言うと、ステラは大きく頷いた。

 

「知ってる! だからシン、一緒に悪い人探そ?」

「……ステラ、君はエクステンデッドだな?」

 

 アスランが聞くと、ステラは顔を曇らせて俯く。

 

「……答えて欲しい」

「――うん、ステラは、エクステンデッド。子供の頃から……ずっと戦えって言われてた。だって、だってそうしなきゃ……セツナみたいに……酷い目に」

 

 ステラは仲の良かった……でも優秀じゃなかった友達を思い出して涙ぐむ。いい子だったのに、好きな子だったのに……。訓練中にステラが殺して、埋めた子だった。

 

「……そうか」

「アスラン、もういいでしょう? ステラはただの被害者だ。連合のイカれた研究のね! ……あの魔弾の悪魔だって、ステラのことわかってて部下にしてるんなら同罪だ!」

「……」

 

 ステラは机の下の手のひらを強く握り込む。落ち着いて。ダメ。

 

「……ミーシャが果たしてそういうことをするのかどうかはわからない。キラから聞いてる話だと、仲間には随分優しい子らしい」

「どうだか! ステラを無理矢理戦わされてるのは事実ですよ!」

「……そうだな」

 

 アスランはため息をつくと、次の話題に移る。

 

「君はどれくらい生きられるんだ?」

「……?」

 

 ステラは質問の意図がわからず首を傾げる。

 

「ロドニアのデータによると、エクステンデッドは調整なしでは一週間も保たず死に至るらしい。君は……今にも死にそうには見えないが」

「それはねー、ステラはね、新しいの、なの」

「新しい? どう新しいんだ?」

 

 ……ステラは自分が旧式のエクステンデッドとどう違うのか具体的には知らなかった。だから、知っていることを正直に、ステラなりにわかりやすく言うしかなかった。

 

「よく知らない。()()()()()()()()()()()って言われてたよ」

 

 まるで家電製品の謳い文句だ。シンは表情を曇らせる。アスランはしばらく瞠目していると、立ち上がった。

 

「……君は何も知らないようだな。牢屋は狭いだろうが我慢してくれ」

「……痛いこと、しない?」

「俺がさせない! ステラ、怖がらなくて大丈夫だよ!」

「シン……ありがとう」

 

 アスランは微笑むと、シンに向き直る。

 

「……お前が彼女を担当するのがいいだろうな。好きだからって手を出すなよ? 捕虜への虐待でキレたミーシャに殺されるぞ」

「なっ……! しませんよそんなこと!」

「ならいいんだ」

 

 アスランはそう言うと、部屋から出る。捕虜はただの被験者であり自分がされたことを何一つ自覚していません、と、成果なしと同等の報告をするために艦長室へと向かった。

 

 ――ミーシャはネオ、アウル、スティングの3人をブリーフィングルームに集めて今後の予定を伝える。

 

「――というわけで、私達はオーブ海軍と共にクレタ島沖で、ミネルバを南と北から挟撃する。ミネルバを落とすよ」

 

 ――MIA。公的にステラは死んだものとして扱う。捜索にも出れない。たとえ人質に取られても、気にしてはならない。

 

 ミーシャの頭にはそのことがぐるぐると巡っていた。ミネルバを撃つ。そうすればもちろんミネルバはステラを殺すだろう。こちらがミネルバに損害を与えれば与えるほど惨たらしく殺されるだろう。でもじゃあミネルバを撃たないかというとそんなことができるわけもない。人質が有効であると向こうに認識されたらずっとステラは人質として利用され尽くすことになる。ミーシャがもしステラを救出できるとしたら、開戦と同時にミネルバへ突撃。ブリッジを沈黙させて艦内に移乗。迅速確実にステラを救出するというプランになるだろう。

 

 つまり、不可能である。モビルスーツで突撃し、ミネルバに乗り込むまではできるだろう。しかし、ミーシャはミネルバの艦内構造は当然の如く知らないし、どこにステラがいるのかも知らないのだ。

 

「……待てよ、隊長」

 

 スティングが僅かに怒りを滲ませて言った。

 

「――なに?」

「ステラはミネルバに捕まってるんだろ? ミネルバに攻撃したらステラが殺されちまうだろ!」

「そんなのわかってるよ」

「わかってるだと!?」

 

 スティングがミーシャに詰め寄る。ネオが止めようとすると、ミーシャが手のひらを上げてそれを制した。

 

「じゃあスティング、教えてよ」

「なに……?」

「ミネルバの艦内の見取図。ステラの捕まってる場所。艦内の人員配置場所。――全部教えてくれたら、戦闘中でも私が突っ込んでミネルバから取り返してくるよ」

「そ、それは……」

「わからないんだったら、ステラは取り返せない。――私だって……」

 

 ミーシャは今まで我慢してきたことがこみ上げてきて、泣きながら叫んだ。

 

「私だって嫌だよ! 嫌だけど! じゃあ私にどうしろっていうの!?」

「それは……!」

「ステラを助けるのに何が要るのか考えもしてないくせに……! 偉そうなこと言わないで!」

「俺が……!」

 

 スティングはミーシャに詰め寄り、彼女の胸ぐらを掴む。

 

「俺がステラのこと何にも考えてないって言うのかよ!」

「違うっていうの!? それにね――!」

「――スティング、よせ!」

 

 何かを言い募ろうとしたミーシャを遮り、ネオがスティングを引き離した。ミーシャは悔しそうに歯噛みして、スティングとアウルを見る。

 

「それにね! スティングだけが悲しんでるわけじゃないの! ……いい、3人とも。次の戦闘に出て、ミネルバに向けて攻撃した時点でステラは死んだと思うしかない……! そうじゃなきゃ可哀想すぎるでしょ? だから次の戦闘でミネルバを沈めて……ステラを楽にしてあげるの」

 

 ミーシャは重々しく、呟くような声量で言った。

 

「まてよ、そんな……。別にあいつらだってそんな事するとは限らねぇだろ」

 

 スティングの言葉を聞いて、ミーシャはスティングを睨む。

 

「――女の子が敵に捕まったらどんな目に遭うかいちいち言わないとわかってくれないの?」

「だからわざわざこっちが殺すっていうのかよ!」

「苦しみがずっと続くより……死が救いになることだってある! ただ痛めつけられるだけの人生に救いなんてない! ネオ! スティングを営倉にぶち込んで! アウルとネオは見張り! 次の戦闘には私だけで出る!」

「はぁ!? そんなんで勝てるとでも」

 

 アウルが食い下がると、ミーシャは首を振った。

 

「意見は聞いてない! ネオ! 行動開始!」

「……了解」

 

 ネオは敬礼すると、スティングを連れて部屋から出る。

 

「おい、アウル」

「だがよ……」

「いいからこい」

 

 アウルもしぶしぶ、ネオについて出ていった。ミーシャは部屋の壁に背を預け、座り込む。

 

「……私だってこんなことしたくない……。でも……」

 

 ステラがどうなってるのかなんてわからない。もしかしたらアスランとシンとかいうやつがステラをずっと守ってくれるかも知らない。……でもあいつらはきっと戦場に出てくる。その間ステラを守るものは誰もいない。いないのだ。

 ミーシャは頭を掻きむしる。大事な部下だった。それがほんの気の緩みで失ってしまった。今もなお囚われの身であるステラは一体今どれほど怖いだろう。

 

「……ミネルバ……」

 

 せめて、ステラの苦痛が一瞬でありますように。ミーシャはそう祈る他なかった。

 

 ――営倉に放り込まれたスティングは、大人しく狭く、硬いベッドに腰掛けている。

 

「……なんであんなことしたんだよ。隊長に掴みかかるってヤバイってわかるだろ」

 

 アウルが牢屋の前に持ってきたパイプ椅子に座って言う。

 

「カッとなったんだよ。隊長、泣きもしないし、ステラを殺して当然だと思ってやがった。……ステラのこと大事じゃなかったんだって思って……」

「隊長は『隊長』なんだよ。それくらいお前だってわかってたろ?」

「でもよ! 隊長は……まだ13なんだぞ? もっと……もっとあるはずだ」

 

 スティングは俯く。アウルの表情も暗い。

 

「……ミーシャは」

 

 アウルの後ろに立っていたネオがポツリと言った。

 

「喪いすぎたんだよ」

「……知ってるよ。友達も女の恋人も親もみんな死んだんだろ?」

「部下もな」

「……」

 

 ネオは時計を見る。作戦の時間までまだ余裕がある。

 

「……それに、あいつの言葉はきっと本心だ。あいつはずっと言ってたよ。痛いのは嫌って。アークエンジェルの時だって……拳銃持ち込むなら弾は一発だけあればいいって言うような奴だ。ミネルバを取り逃してずっと苦しみが続くなら……ミーシャがそう思うのも無理はねぇよ」

「……俺達が絶対に助け出す。時間さえあれば」

「それができりゃ、苦労しないぜ」

 

 ネオはため息を付いて、天井を見上げる。……そういや、ラクスを捕虜にしたこともあったな。ラクスが人質になってるって知ったアスランも――ミーシャみたいな気持ちになったのだろうか。そんなことをふと、思い出した。

 

「……それに、ミーシャの判断は間違ってない。お前ら二人、今戦場に出したら死ぬぞ」

「誰が! あんな雑魚共にやられるかよ!」

「ステラのこともミネルバのことも気にかけて、か? お前らにはまだ早いよ」

 

 ネオはまたため息を付く。心情が最底辺のときにでも万全に戦う……二人はまだそこまで戦場に慣れてない。ネオは時計を見ると、再びため息を付く。

 

「お前ら大人しくしといてくれよ、頼むから。……足撃ってでも止めるからな」

 

 ネオはそう言って、スティングの見張りについた。

 

 ――ミーシャはミネルバの航行ルート上に陣取るように飛行していた。オーブのムラサメ部隊や連合のウィンダムなどがミーシャと同じように待機している。しばらく待っていると、クレタ島沖の海域にミネルバの艦影が見えた。

 

「連合艦隊……総員、作戦、開始」

 

 血反吐を吐くような思いで、ミーシャはそう宣言した。フルバーストモードで、ミネルバの艦首に向けて射撃。躱された。だが意図は伝わっただろう。

 

「フリーダム、撃ってきました!」

「人質は通用しないってことね……。魔弾の悪魔相手にそんな甘い手が通じるとは思っていなかったけど……。それとも、魔弾の悪魔にとってあの子は使い捨ての道具だってことかしら?」

 

 タリアは万が一の可能性……人質を気にして撃ってこない可能性もあるのではと内心思っていたが、流石にそう甘くはないようだ。

 

「キツイ戦場よ……! モビルスーツ隊、出して!」

 

 戦闘が始まった。

 

 ――オーブ戦力はタケミカヅチを含む海上艦隊4隻と、地球連合軍軍艦2隻による同盟軍は、単艦のミネルバを追い詰めていく。終始状況は同盟軍に有利なまま進んでいた。何せミネルバの防衛戦力の大部分を空を飛べるインパルスとセイバーの2機が担っているのだ。レイのザクファントムとルナマリアのザクウォーリアは空を飛び続ける推力がない。たった2機ではこの戦力差をひっくり返すのは流石に不可能である。

 

「ステラ……! ステラ、ごめん、ごめんね……!」

 

 ミーシャはインパルスの猛攻を掻い潜り、空高く飛び上がる。遥か上空に上がったフリーダムを見たレイとルナマリアは苦い顔をする。

 

「直上……! 射角が取れない! キャアッ!」

 

 上空からビームが降ってきて、ルナマリアの頭部、コクピットすぐ脇の胸部、そしてその真下にあるミネルバの装甲を貫いた。

 

「ザクウォーリア大破! お姉ちゃん!」

 

 ミネルバのブリッジに悲鳴のような報告が上がる。ルナマリアの妹、メイリンの叫びだ。

 左右からはムラサメがやってきている。正面にはウィンダム。シンは驚異的なペースでミネルバに近づく敵を撃墜していくが、いくらシンが強いと言っても限度がある。しかも仕留めようとしたちょうどそのタイミングに上空からの援護射撃が飛んでくるのだ。上に行こうにもシンはミネルバから離れられない。ウィンダムを撃墜していたセイバーは、状況を悟ると即座に上昇。ミーシャのいる高度までたどり着いた。

 

「クソッ、ミーシャ……!これ以上好き勝手やらせるか!」

「アスラン……! 早くミネルバを落とさないといけないのに!」

 

 

 ミーシャとアスランは高高度でビームを撃ち合う。一進一退の攻防の中、ミーシャのレーダーが新しい熱源を感知した。

 レーダーの方角にカメラを向けると、そこには白いフリーダムとストライクルージュ、それからアークエンジェルが来た。ストライクルージュは戦場ど真ん中に陣取るとまたもや広域通信で停戦を呼びかけた。

 

「オーブ海軍! 軍を引け! この戦いに大義はない! 中立の理念にそぐわぬ間違ったこの戦いを今すぐ停止してオーブに帰るんだ!」

 

 ミーシャはなんの躊躇もなくビームライフルでカガリのストライクルージュを撃った。射線上にキラが割り込んで、ビームサーベルでビームを切り払った。器用なことを。ミーシャでは逆立ちしてもできなさそうな芸当に、苛立つ。

 

「ミーシャ」

「キラ。そこの偽物に言っといてくれる?」

「カガリはニセモノなんかじゃない」

「今そんなこと正直どうでもいいし。――大義がないだの間違ってるだの……。随分軽々しく言うじゃん。うるさいからその口塞ぎたいんだけど邪魔しないでくれる?」

 

 ミーシャは今とにかく余裕がない。言葉のトゲも鋭く、作戦を邪魔するキラとカガリに殺意すら湧いている。

 

「前も言ったよ。僕たちはこの戦いを止める」

「……見ないうちに随分と、()()()()()()

 

 ミーシャはキラにバラエーナを撃つ。キラはさらりと躱すと困惑の表情でミーシャに聞く。

 

「どういうこと……?」

「戦いを止めろ? そんな言葉はね……相手に怒鳴りながら言うもんだよ!」

 

 ミーシャは急降下してミネルバに向かう。

 

「ユウナ様! 前も言ったけど……カガリの偽物は殺す! それでいいよね!」

「あ、ああ! もちろんだ! ――総員撃ち方用意!」

 

 ユウナの声に、トダカは苦い顔をしながら答える。

 

「……もう、やらせない……! 僕たちは戦いを止めたいんだ!」

「なら政治で止めてよ! 一兵卒ってわけでもないのにさ!」

 

 ミーシャの言葉に、カガリは目を見開く。

 カガリが呆然としている間に、戦場は次第に拮抗していく。ミネルバの敵は皆キラが撃墜していくのだ。だがミネルバの攻撃も、キラは妨害していく。一方的にその場にいる全戦力に対して攻撃を仕掛けるキラに、アスランは怒鳴る。

 

「お前は! お前たちはこんなところで何やってるんだ! 戦場を混乱させて……! これがお前たちのしたいことなのか! するべきことなのか!?」

 

 キラはその声に傷ついたような顔をして答える。

 

「アスラン……! 君の言う事もわかるけど……君の言いたいこともわかるけど……!」

 

 キラはアスランに向き直る。フリーダムをセイバーに接近させる。

 

「――カガリは……! 守る人がいなくなって、どうにもできなくなって……!」

 

 アスラン。君なら守れたはずなのに。一番近くにいたはずなのに。それなのに君はザフトに行った。ザフトでオーブと戦っている。

 ……カガリを守ると言ってそばにいたはずなのに。

 

「カガリは……! カガリは、今泣いているんだ!」

 

 カガリを守ると言って、カガリを守るはずの手で、カガリの大切なモノを傷付けている。それなのに、アスランは自分たちに軍人の理を説いてくる。キラにしてみれば受け入れられる話ではなかった。アスランがそばにいるだけで、変わったことなんてたくさんあるはずなのに!

 

「何を……!」

「僕は……君を倒す!」

 

 ビームサーベルを警戒したアスランは回避しようと距離を取ろうとする。しかし、キラの抜刀はアスランの想像以上に早かった。

 

 ――逆手!?

 

 逆手で抜かれたビームサーベルはセイバーの片手を切り落とした。

 カガリが……泣いてる。

 

 呆然としているうちにキラの猛攻は続く。アスランはつい、キラのビームサーベルを防ごうと足を合わせてしまった。

 

 ――ジャスティスなら防げたその一撃は、なんの抵抗もなくセイバーの足を切り落とした。そこから先はまるで抵抗らしい抵抗もできずコクピット以外を切り刻まれ、海に落ちることとなった。

 海に落ちる寸前、ミーシャのビームがセイバーのコクピットを狙って放たれる。キラはその狙いに気付くと、アスランを庇って盾で防いだ。

 

「殺そうとしたり助けてみたり……! 自分が無茶苦茶やってる自覚ある!?」

「それでも僕たちは……! やるべきことをやるんだ!」

「なんなのよそのやるべきことって……!」

 

 ミーシャは戦況を確認する。もうムラサメ隊も数少ない。

 ――負ける。嘘でしょ? 戦艦一隻に6隻とモビルスーツ隊でかかって負けるの?

 

「……キラ! もう邪魔しないで……! 私にだってやらないといけないことあるの!」

「何を……!」

「ステラを……! 捕まった部下を楽にしてあげないと……!」

 

 キラの顔が困惑に満ちる。楽に……? 殺すってこと? なぜ!?

 

「……君は……! 君は捕まった部下を殺すために戦っているっていうのか!?」

「そうだよ! ステラは女の子なの……! かわいそうな目に遭う前に! 楽にしてあげないといけないの!」

「違う! 君は……! そんなことは間違ってる! 部下を殺すなんて!」

 

 ミーシャは舌打ちする。

 

「男にこの気持ちがわかるもんか! ――オーブ軍! 状況は!?」

 

 通信に出たのはユウナではなくトダカだった。怪訝な顔をするミーシャに、トダカは淡々と言う。

 

「ユウナ様は部下と共に退艦させました。以後、オーブの指揮をトダカ一佐が執ります。……バレンタイン大佐、この戦我らの負けです」

「カガリが来なきゃ勝てた! ――クソッ! ミネルバは落とさなきゃいけないのに……!」

「――何もかも我らオーブの責。ならば、死力を尽くして戦いましょう。旗艦タケミカヅチが敗戦の隻を取ります。オーブ隷下の残存戦力は()()()()()()()へ撤退させます」

 

 言うや否や、タケミカヅチが前に出始める。空母の戦闘距離じゃない。

 

「そ、それはわかったけどなにするの!? 出すぎ!」

「……これで良いのです。我らの武勇、覚悟、どうかご覧あれ」

 

 ミーシャがキラと戦っている間も容赦なく戦闘は続く。ミーシャの押さえがなくなったインパルスがオーブ海軍相手に大暴れしていた。

 

「……カガリ様!」

「お前ら……! やめろ! なぜ地球軍に組みして戦う! これが大義ある戦いなのか!?」

「大義はなくとも! 命令は下ったのです! カガリ様、我らの覚悟――どうかご覧あれ!」

 

 最後に残ったムラサメ隊は、戦闘機状態のままストライクルージュの隣を通り、ミネルバに突っ込む。

 ミネルバの対空砲火の中、次々に落とされる。ミサイルも弾も使い切ったムラサメは、それでも退避せず、ミネルバに向かう。

 

「なにする気……? まさかぶつける気!?」

 

 ミーシャは慌ててその機体に通信を入れる。

 

「何してるの!? 死ぬ気!?」

「その通りです!」

 

 彼は今から死ぬというのに笑顔だった。

 

「そこまでしろなんて誰も言ってない!」

「しかし、こうせねばミネルバは落ちません!」

「待って、やめて! 私が……今すぐキラを殺して助けに行くから!」

 

 そのパイロットは笑みを深くする。てっきり連合に使い潰され無為に死ぬものだとばかり思っていた。だがこうして天使に看取られて死ぬならそれも悪くないとすら思う。

 

「魔弾の天使……! 共に戦えて幸せでしたよ!」

 

 直後、通信が途絶。ミネルバの艦上で凄まじい爆発が起こった。その爆発の余波でザクファントムが中破。レイが戦闘不能になった。

 

 ――そして、オーブ艦艇はソードシルエットを装備したインパルスが撃滅している最中だった。2隻の駆逐艦を沈めると、空母タケミカヅチの甲板に降り立った。

 

 ……シン・アスカにはオーブの軍人に知り合いがいる。情勢の危うい中、シンをプラントまで逃がしてくれた恩人だ。ザフトに入ってからも手紙のやり取りは続けていて、今度落ち着いたら手紙を出そうか……そう考えているくらいには、まだ交流のある人がいる。

 

 そのオーブ軍人の名前をトダカと言い……。今からシンが殺す相手の名前でもあった。シンがそれに気付くことなく、インパルスの攻撃が終わる。タケミカヅチの艦橋は切り裂かれ、爆発炎上する。

 

 ――ミネルバを追撃するための戦闘能力を喪失したミーシャは泣きながら旗艦に戻った。撤退信号を上げて、残存戦力をまとめて撤退するしかなかった。負けたのだ。キラに邪魔されてミネルバを落せなかった。ステラを……楽にしてあげられなかった。

 

「うう……ううううう……!」

 

 ミーシャは一人、コクピットの中で泣き続けた。




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