【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
ステラを取り返したミーシャは一旦スエズまで退却し、忸怩たる思いで通信室でジブリール、アズラエルを含むロゴスと通信していた。完膚なきまでに負けたことを上に報告するのがこんなにも悔しくて恥ずかしいとは思わなかった。一通りの報告を聞き終わったジブリールは心底可笑しそうに大笑いした。
「ハハハハ……! 実に、実に滑稽ですな。自信満々に一人で出撃し、あっさり負けてくるとは。音に聞く魔弾の天使の活躍っぷりに私も驚きの連続だよ」
「……ごめんなさーい。次は頑張りまーす」
ミーシャは不機嫌な顔を隠しもせずにそういった。まるでテストの点が悪くて怒られる子供のようにも見える。だがことは戦争の勝敗だ。
「……チッ。戦争は遊びじゃないんですよ。――まぁいいです。計画も最終段階……もう魔弾の天使のようなスーパーエースの要らない理想の軍が完成します」
「……どういうことです? もしかして機密とかいうモビルスーツが関係したりしてます?」
アズラエルが聞くと、ジブリールは狂気の笑みを浮かべてそのデータをディスプレイに大写しにした。ミーシャの端末にも詳細なデータが送られてくる。それを眺めながら、ミーシャは彼の説明を聞く。
「これが我らブルーコスモスの、大西洋連邦の新兵器にして最強のモビルスーツ……! デストロイです!」
「ネーミングセンス……」
ミーシャは小さく呟く。だがテンションの上がっているジブリールにそんなツッコミはまるで聞こえていなかった。
「この巨大モビルスーツで!
そのジブリールの言葉を、ミーシャもアズラエルも一瞬理解できなかった。
「……今なんて?」
「いいでしょう、何度でも言ってさしあげましょう! 今からはデストロイの1号機はユーラシアの街を焼き払うのです! ザフトに協力すれば地獄を見るのだと愚かな民衆もこれで理解するでしょう!」
「ジブリール。今すぐ頭の病院行った方が良い。救急車呼んであげようか?」
「あなただって無関係ではないですよ、バレンタイン! お前の生きて帰ってきたエクステンデッドを一体、寄越しなさい。随分丁寧に使ってきたようですがここが使い時です」
ミーシャはしばらく端末に送られてきたデストロイのデータを見る。凄まじいスペックだ。何より防御性能が素晴らしい。陽電子リフレクターにトランスフェイズシフト装甲。ビームサーベル以外の全てを無効化する機体である。これでバッテリー駆動だというのだから技術の進歩は凄い。――だが、ミーシャにはパイロットの項目が気になって仕方がなかった。
「この
「これはですねー、画期的な技術です! 大量かつ短期に製造できる生体CPUで、
それからジブリールは
――アズラエルさんがついていけないって言うわけだ。こんなの悪者まっしぐらじゃん。
「――しかもこれは製造から数ヶ月も経てば7歳程度に成長し、戦闘できるスペックを誇ります! ……しかしまだロットが若くて、ここぞというときには使いたくないのです。実証実験もまだなのでね。なのでバレンタインのところにある生体CPUを改造して――」
「断固拒否」
ミーシャはきっぱりと言った。ジブリールのこめかみに青筋が浮かぶ。
「断固拒否? それができる立場なんだと思っているのかね、君は」
「こんなのイかれてる。しかもクローン? 7歳? 7歳に成長したところで使い物になるわけ無いでしょ?」
ジブリールは嫌味な笑みを浮かべる。ミーシャは嫌な予感がする。ここから先聞いたら絶対後悔する。だが、ジブリールは言葉を止める気がないようだった。
「しますよ。保証付きです。なぜならそのクローンの元になった人間……それはあなたなのですから」
「……は?」
ミーシャは呆然とした。クローン? 誰の? ……私の? ――私のクローン!?
「ジブリール! いくらなんでも人権侵害甚だしい!」
「やつらに勝つためだ! 宇宙の化け物を殺すためにこちらも化け物を用意する。それになんの不思議がある! 足りない年齢を薬物と改造で補えるんだ、むしろ経済的で戦略的にも優れている!」
「英雄にする仕打ちとは到底思えません。人間性を疑いますよ」
「人格攻撃しかできないとは落ちたものだなアズラエル代表! バレンタイン本人を使わないだけ情があると思ってほしいくらいだ!」
「これが無意味な人格攻撃だと捉えるならそれでも構いません。あなたには即座にAG生体CPU研究の中止をしていただきます。こんなもの存在自体が許せるわけがない」
「無駄だよ! もう何百と作ってある!」
ミーシャはアズラエルとジブリールの言い争いの殆どが聞こえなかった。自分のクローンがいる。それも無数に。その子達は愛も知らず苦痛だけを刻み込まれ、戦うことしか教えられない。
……自分と全く同じ遺伝子情報を持つ人間が、少なくとも数百人いる。
その感覚をなんと言えばいいのだろうか。自己同一性……もっと言うなら『自分はこの世界にただ一人しかいない』という根本を揺るがされた感覚がミーシャを襲う。
「ジブリール」
ミーシャの声は淡々としていた。
「デストロイは殺す」
ジブリールは舌打ちする。道理のわからぬ子供め。癇癪に付き合っている暇はないのだ。……本気で彼はそう思っていた。これを癇癪扱いされたらたまったものではないが。
「わかっているのか? これで地球は一つになれるのだぞ?」
「一つに? バラバラになるの間違いでしょ? 私のクローンに……それが使えるかどうかわからないから部下を今から薬漬け? 戦場に出したらすぐ死ぬような改造手術? バカ言わないでよ。誰がこんなイカれた事に部下を出すか。ステラは私の部下だ! お前の玩具じゃない!」
ジブリールは心底不愉快そうに顔を顰めた。そんな反応をしたいのはミーシャの方である。勝手にクローン作ってそのクローンを虐待しながら薬漬けで改造? 悪夢だ。この世の地獄だ。
「――まぁいいです。私の理想の軍は命令に逆らわない、従順にして優秀な駒! このデストロイがその理想形!」
「ゲームでやっててよ……本気で地球の街を焼き払う気?」
「もちろんですとも! 我々は反ザフト、反コーディネーターで結束せねば!」
ミーシャはため息を付く。
「付き合いきれるかバーカ。一人でやってろ。ここにいる人たち、まさか協力するとか言わないよね?」
「それは……まぁ」
「うむ……」
歯切れの悪い回答に、ミーシャがキレる。
「こんなのに即拒絶しないなんてどういうつもり? もし協力したらあんたら死んだあと世紀の虐殺者として世界中に告発してやるからね。世界中のみんなに、ここにいる連中全員子供を改造してキャッキャしてたサイコパスの集まりだったって覚えられたくなかったら、まともな判断してよね。通信終わり!」
ミーシャは言うだけ言って、通信を切ってしまった。
「……皆様。まさかとは思いますがあんな小娘の言う事真に受けるとは言いますまい?」
ジブリールが脅すように言う。しかし、思ったような反応は帰ってこなかった。
「……彼女の名声は脅威だ。我々と違い彼女には表の顔がある。それに……いくらなんでもバレンタインの令嬢のクローンとは……。こんなものどうやって同意できる?」
「ファントムペインであることを公表してやれば……」
「フフ」
完全にキレたアズラエルが笑う。その目は全く笑っていない。ジブリールが訝しげな顔をする。
「いかがしました、アズラエル代表」
「いやぁ……ジェネシスを止めるために……そして、ユニウスセブンを砕くために自爆を選べる彼女が自分の名声程度で揺らぐとは到底思えませんがね」
彼女は基本的に自分の命の優先順位が低い。自己肯定感が低いわけでもないのだが……英雄は死んでこそ完成するとか思ってそうな自棄ぶりに、アズラエルはよく心配になる。本来ならガルナハンの支配地域にいるレジスタンスの一掃だってやらせたくなかった。しかしそこまでやるとジブリールに過保護だなんだ言われて攻撃材料にされる。彼女も拒否しなかったので、やらせるしかなかったのだ。
……自分の命すら軽い彼女にとって名声なんて叩き売っても構わない物にすぎない。それに……彼女の人気の本質をジブリールは勘違いしている。
「それにですねぇ、果たして公開したところで彼女の傷になるのかどうか」
「なんだと……?」
「一般人が第81独立機動郡とかファントムペインとか言われても……バレンタインが所属しているなら『自由に動ける正義の部隊なんだな……』としか思いませんよ。まさか機密だらけの任務内容を公開するとかバカやりませんよね?」
「……」
ジブリールは流石にそこまでやる気はなかったらしい。今そんなことをすればミーシャの名声が地に落ちる前に地球軍将校がダース単位で辞任に追い込まれて戦うどころではなくなってしまう。ファントムペインの活動に法や倫理、条約等々違反していないセーフな任務など極々少数なのだ。
「……まぁ、いいです。皆々様方、どうかデストロイのお披露目会……楽しんでください」
そう言ってジブリールは通信を切った。アズラエルは即座にジブリール抜きで会議を再び立ち上げる。もちろんそこにはミーシャの顔もあった。その表情は不愉快そうにゆがめられていた。
「……で、どうです? アレ、本気でこのままにしておくつもりですか?」
「あんなの野放しにしてたら近いうち世界の敵だよ。街焼き払って恐怖政治って……。思考回路が古代なんだけど。ジブリールって最近そんなゲームやったのかな?」
「戦略ゲームで経験してたなら街を焼き払うなんて選択にはならないと思いますよ」
アズラエルは冷たく切り捨てる。ちょっと忠誠心が下がったからと言って街を焼き払うことでメリットを得られるゲームなんて存在しない。バカのすることだ。
「――ということで、我々ロゴス及びブルーコスモスは彼を切り捨てる方向で進むことにしましょう。異論ある人、います?」
10人程度のロゴスメンバーの中、7人ほどがアズラエルの……ひいてはバレンタイン派に賛同することになった。まぁ裏切られるよりかはこうやって堂々と立場を表明してくれたほうが何かと助かる。
「一応、聞かせてほしいんだけど」
ミーシャはジブリールに賛同した数人のロゴスメンバーに向けて聞く。
「町焼き払うって簡単に言うけど、めちゃくちゃ人住んでるんだよ? 本気でそれ同意するの?」
「君のような才能溢れる子にはわからんと思うがね。コーディネーターは持たざる者にとっては悪夢だよ。いつ寝首を掻かれるか……」
「その凄くて悪夢そのもののコーディネーターの軽く2千倍は金持ってるのに?」
コーディネーターは……プラントには金持ちがほとんどいない。持っていても大企業レベルであり、連綿と歴史を重ね金を貯めて、金を生んできたロゴスの人間より金を持っている人間など一人もいない。
「それでも、だよ。ユーラシアを足がかりに地球の都市を奴らが持てば、今後百年の禍根になる……」
「町焼き払ったら二百年は恨みに持たれそうだけどね」
「君が止めるのだろう?」
ミーシャは苦い顔をする。ミーシャが止める……つまり、地球軍の暴走を地球軍が止める形になる。賛成派にとって今の状況は理想とも言えるわけだ。街を焼く悪いモビルスーツは地球軍の過激派が勝手にやったことで……その暴走を、地球軍の英雄ミーシャが止める。まるでユニウスセブンの焼き直しだ。
「資金、装備、その他支援は惜しむつもりはない……だがね、襲撃の日程は明かせない。そうだね、2つか3つ焼いたあとに来てもらえればありがたい」
「――絶対ロクな死に方しないよ」
「お互いにな……」
そう言って、通信が切れた。ミーシャはぶすっとした表情をしている。全部こっちの思い通りにことが進んだはずなのに手のひらで転がされた感がすごい。肝心の日程が掴めないのも辛い。
「アズラエルさん、調べられそう?」
「期待しないでくださいね」
アズラエルはそう言って通信を切る。
「……みんなも、やり過ぎには注意してね。通信終わり」
ミーシャはそれだけを言うと通信を切る。通信室の机に倒れ込むようにしてぐだっとすると、ため息をつく。
「……私の、クローン? 私がいっぱい……。もし成り代わられたら……? それに……また人が死ぬ」
自分のクローンが、自分と全く同じ遺伝子を持つ子供たちがたくさんいて……。それが、虐げられて過ごしている。そもそもいつ遺伝子なんて取ったのか。……チャンスなんていくらでもある。軍の健康診断で採血もするのだ。血があるなら遺伝子情報は取り放題。ちょこっとサンプルほしいなんて上官から言われれば、何も知らない人間なら従うに決まってる。
――また、人がたくさん死ぬ。この世界は一体、どれほどの命を捧げれば戦いはよくないと思うのだろうか。
ミーシャは立ち上がると、机に置いてある電話でネオに電話を掛ける。
「ネオ、私」
「隊長か。今俺の端末に2つの命令が同時に届いてな……ザフト支援区域の襲撃支援ってのと、地球軍脱走兵によるテロ攻撃防衛任務……ってやつだ」
ミーシャは苦笑する。なんだそれ。自分の個人端末を見ると、その通りの命令が発令されていた。ゲームか何かだろうか? ルート分岐の選択肢みたいだ。闇ルートと光ルートがどっちの命令を取るかで分岐するのだ。……どっちにしたって闇だけど。ミーシャは馬鹿な考えを振り払うと、大して悩むことなく言った。
「襲撃支援の方は間違いだよ。上に確認取った。私達がやるのはテロ防止の方。今すぐユーラシア地域に網張るよ」
「どんなテロなんだ?」
「ん? ――巨大モビルスーツによる虐殺……かな」
ミーシャはそのままネオと通信を切ると、様々な手を打つ。スエズからユーラシアの内陸部に辿り着くには海上戦艦では都合が悪い。かと言って地上戦艦が行けるかというとそんなこともない。今から行くには遠すぎる。ならば――。
「……ナタルさん、聞こえる?」
――ならば、空から行くしかない。
調整を終えたミーシャは通信室から出ると、自分の旗艦にある営倉まで歩く。そこにはスティングとステラが営倉の中に入っており、アウルが見張りに立っていた。
「あー……隊長」
スティングが言う。
「二人共反省した?」
「反省……した」
ステラは少し嬉しそうに答える。妙な反応に訝しんでいると、隣のアウルが小銃を入口そばに立てかけながら言う。
「営倉入りのまま基地だろ?
「……怯えてねぇよ」
「――こわかった」
スティングは照れながら、ステラは同等と気持ちを吐露する。ミーシャはため息を吐くと、営倉の鍵を開けて二人を解放した。
「スティング・オークレー少尉は上官への暴行のため一週間の営倉入り及び3ヶ月の減俸。ステラ・ルーシェ少尉は無断出撃で同じく一週間の営倉入り及び一ヶ月の減俸。正式な処分よ。ちなみに始末書も書くように」
「えっ」
スティング、ステラ二人共顔を顰める。ちなみにミーシャも始末書はめちゃくちゃ書きたくない。今回の負けた件、始末書書く羽目にならなくてよかったと内心ホッとしていたくらいだ。
「点検はネオにやってもらうこと。罰則はそれで全てよ。返事は?」
廃棄処分も、辛い折檻も、恐ろしい苦痛も、何も無い。
ステラとスティングはその事に心から安堵した。
「……了解!」
外に出た二人が最初にしたのは、ミーシャに元気よく返事することと、敬礼することだった。
「全く、心配かけさせて……。本当によかった。ステラ。おかえり」
「……ただいま、隊長」
ステラはふにゃりと笑う。自然なその笑みに、ミーシャも釣られて微笑んだ。
「ステラのガイアだけど、製造試験用に2、3機作ったらしいからそれを受領する目途立ってるから、引き続きガイアに乗ってね。もう今度は鹵獲されちゃだめだからね」
「了解、隊長。……もしかしてカオスとアビスもそうなの?」
ミーシャは頷く。データ取りは終わっているが、欺瞞情報が紛れているかもしれないので、そのデータが正しいのかどうかを試しに作ってみて確かめる必要があった。その結果、スエズには何機かカオス、アビス、ガイアのスペアがあるのだ。
「……今度の戦場は辛いだろうけどやらなきゃだめだから、気を引き締めていこうね」
ミーシャがそう言うと、三人は敬礼して答えた。
――数日後。ユーラシアの街を2つ焼き払った巨大モビルアーマーがベルリンの街で大暴れしているという報せを聞き、バレンタイン隊は即座に行動を開始した。スエズに入港していたドミニオンに乗り込むと、ミーシャはフリーダムで、ネオ、アウルの二人はウィンダムで、ステラはガイア、スティングはカオスという編成で出撃する。ベルリンの様子を確認したミーシャは舌打ちしてナタルに報告する。
「ナタルさんこれヤバイ……! ジブリールのクソが! この光景見て地球が一つにまとまると思ってるならマジで病院に叩き込んだほうがいい……!」
地獄。ベルリンの街はまさしく地獄と呼ぶに相応しい場所になっていた。
街にはザフトの防衛戦力もある。だが、悠々と空を飛んで下手な戦艦よりも数の多いビーム砲塔に近付くことすらできないし、近づいたところでその大きな足に踏み潰されるだけだった。じゃあ離れればいいのかと言うと、そっちも望み薄である。どんなビーム射撃をも防ぐ陽電子リフレクターを装備し、当然のようにトランスフェイズシフト装甲まで備えている。実弾射撃は効かず、ビームも無効化される。理論上の有効なのは近づいてのビームサーベル……。だがそれができれば苦労しない。
あらゆる抵抗を踏み潰し薙ぎ払い、上方の円盤部に装備された主砲のドライツェーン4門で街を砲撃し、平らに均す。万単位で無辜の民が死ぬ戦場で、ミーシャは焦りながらも部下に通達する。
「……まず、情報整理から。理論上あいつはそこまで長く動けない。2時間もすればパイロットが死んで動かなくなる」
「……またぞろ俺等の後輩か?」
ミーシャ達は少し離れたドミニオンから、ベルリンに向かって移動している間に情報のおさらいをする。ドミニオンは鈍重というわけではないが、デストロイに近付けば落とされる可能性がある。迂闊に近付けない。
「中の人は……」
ミーシャと同じ遺伝子を持つ、ミーシャのクローン。
「――そうだね、みんなの、後輩。完全にパーツ扱いだけど」
「……そりゃ、哀れなもんだな」
ネオが言う。スティング、アウル、ステラとは全然違う使われ方。もはや自我が残っているかすら怪しいデストロイのパイロットに同情するが……だからといって止めないわけにはいかない。もう百万単位で人が死んでいるはずだ。なにせベルリンは3つ目の街なのだから。ミーシャは内心の気持ちを言わず、部下に命令する。そうするしかない。
「……隊長からのデータじゃ陽電子リフレクターにフェイズシフト装甲って書いてあったけど……マジ? 勝ち目ねぇじゃん」
アウルが苦々しい顔で言う。最初はアビスから降りて量産機に乗るのが嫌な彼だったが、デストロイのデータを見て考えを改めた。陸上のせいで変形が無意味な上にアビス唯一の強みである火力も効果なしとくれば、生存性が高く機動力のあるウィンダムのほうが遥かにマシだ。
「勝ち目なくても勝つの。やるしかないの。もしデストロイがこのまま正式採用なんてことになったら地球軍は終わりよ終わり。わた……子供を改造してコクピットに組み込む外道軍の完成よ。アニメの悪の組織だってもうちょい道理弁えてるよ」
「この部隊……こんな任務ばっかだね……。やらなきゃ町とか地球が滅ぶとか……そんなの」
ガイアは変形してベルリンまでの道を駆ける。移動に大量の燃料が要らないガイアはこの場において最も継戦能力が高い。いざとなったらステラだけが頼りである。
「文句はパラノイアとブルーコスモスをちゃんぽんでキメてハイになってるジブリールに言って!」
「……誰……?」
「悪の親玉! ――そろそろ敵の射程に入る! 全機戦闘開始!」
「了解!」
ビームで焼かれ、ミサイルで燃やされ、その巨体で潰された街が目に入る。その中心にいるのは意思さえ定かではない子供が動かす巨大モビルアーマー、デストロイ。その名の通り、周囲の命全てを破壊し、虐殺し、地獄をこの世に作っている。
「……地獄みたい」
ミーシャのイメージする地獄がここにあった。赤々と燃える人、木々、建物。崩れて瓦礫だらけの街。ただ無意味に殺される人々。そして、そんな地獄の官吏だと言わんばかりに周辺へ破壊をまき散らすデストロイの随伴機――ウィンダム。
デストロイの周囲に辿り着いたミーシャは状況を確認して困惑する。
ミネルバ及びインパルスがいるのはまぁいい。ここはザフトの勢力圏だ。ジブラルタルからも近い。
……なんでアークエンジェルとフリーダムがいる? オーブ軍のはずのムラサメが何機も出撃しているようだし……。情勢がわからない。キラやインパルスと通信をしようとして……今は敵に大西洋連邦とジブリールがいるのを思い出し、踏みとどまる。今政治的に危ない動きをするのはやめた方がいい……気がする。もしここでジブリールに『敵と通じている』とか突っ込まれたらめっちゃめんどくさいことになるのでは? ミーシャは舌打ちして、味方への通信だけにとどめた。
「……全機慎重に行動せよ。下手に撃つと敵が増えるよ」
ミーシャは3つの勢力ひしめく戦場で、冷や汗をかきながらそう言った。
――地獄での戦いが始まる。
本作のエクステンデットはミーシャがまともな人間をちょっと強くしたレベルに落ち着けてしまったので新しい技術が生まれました。AG生体CPU技術の素晴らしいところは、幼いまま戦場に出しても成果を上げられるということをこれ以上なくミーシャが証明しているところにあります。おんなじ遺伝子使うんだから、幼くても強いクローンが量産できるよ、やったね! という技術です。