【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
本物ラクスがテレビに出てきた時の驚きようからして、デュランダルはラクスの動きをほとんど把握できてないのではないかと思っています。
デュランダルが何を知っていて何を知らないのか、なかなか想像するのが大変で難しいです。
シンの仕事はシンプルだが困難を極める。当代最強のモビルスーツに乗る最強クラスの英雄、キラ・ヤマトを討つ。禍根は少ない。恨みを原動力にはできない。だが心から拒絶するほどキラのことを正しいと思っているわけでもない。シンは大多数の敵を相手にするときと同じような心境で……全力でフリーダムに挑む。
アークエンジェルの追い込みは味方がやってくれる。アークエンジェルのトドメもミネルバがやってくれる。シンは本当にキラを殺すことだけを考えて、キラを殺すことだけに集中すればいい。
対するキラは気にするべきことが山ほどある。アークエンジェルを一人で守らなければならない。ここまで味方戦力が少ないのはキラをしてもほとんど経験がない。
偵察機に補足されたところから始まり、艦隊による攻撃を受けたアークエンジェルは逃走の一手を打った。海に逃げ込もうとしたそのとき、待機していたミネルバの攻撃を受ける。誘い込まれたと気付いた時にはもうどうしようもなかった。
キラは徐々に追い詰められていた。海に逃げ込めさえできれば、ビームはほとんど届かない。逃げることはできるだろう。だがその海が今は信じられないほど遠く感じる。
……戦うしかない。キラは追ってくるシンと戦うことを決意する。
だがシンはミーシャ以上に強く感じる。それはそうだろう。ミーシャはキラを殺すためにキラを殺す練習なんてしない。だがシンはただでさえ高い実力を、キラに合わせて完璧に調整したのだ。キラを殺す戦術を練り上げてきた。
「クソッ!」
シンは通常の戦闘ではおよそ使い物にならない戦術でキラと渡り合う。盾を投擲し、その表面にライフルを撃つことでビームを曲げ、不意を打って肩を損傷させる。足や手を切られようとも直ぐさま替えのパーツが飛んできて換装する。
「……!!」
キラはその様子を見て苦い顔をする。自分が今のスタンスを続けている限りシンを退ける事はできない。
……替えがなくなるまで手足を破壊するという手段もある。だが今のインパルスはコアスプレンダー……戦闘機だけの状態になっても戦うことをやめるとは思えなかった。
――戦闘機……!
キラは脳裏に焼き付いた光景を振り払う。そうなる前に勝負を付けないといけない。何が何でも殺したくなかった。
「あんたは……! あんたは本当によくわからない! でも! あんたは俺の敵なんだ! 命令されたから……だから、俺はあんたを討つんだ! 今日、ここで!」
シンは腰付近に照準されたビームを、上半身を勢いよく分離することで回避する。普通のモビルスーツならあり得ない光景に呆然としていると、反撃がそのまま飛んでくる。インパルスのビームライフルに片翼が撃たれた。キラはインパルスに近づいて、ビームサーベルで腕と頭を切る。シンは上半身を射出して、フリーダムにぶつける。盾で防いだようだが、まだ攻撃は終わらない。コアスプレンダーのバルカンでフリーダムに向かって前進し続けているチェストフライヤーを撃つ。中の燃料に引火して爆発を起こした。パーツとはいえモビルスーツの爆発だ。ミサイルなんか目ではないほどの衝撃がキラを襲う。
「メイリン! チェストフライヤー、フォースシルエット、ソードシルエット!」
「はい!」
シンの命令に応え、ミネルバから2機の小さな機体がシンのそばに飛んでくる。チェストフライヤーと合体してモビルスーツとして完成したインパルスは、そのままソードシルエットの対艦刀エクスカリバーを手にし、フォースインパルスの推力を全開にして突撃する。
「あああああああああ!」
シンはどこまでもキラを研究していた。キラの明確な弱点。およそ英雄に似つかわしくない弱み。
――キラは母艦を見捨てられない。キラは母艦を何を置いても守る対象だと思っている。
だからこうしてアークエンジェルとの直線上に、対艦刀を構えて突っ込めば、避けられるはずの一撃を、受けるしかなくなる。
「……!!」
「フリーダム……!!」
盾でダメージを軽減し、ビームサーベルを前に出す。コクピットへの直撃を極限まで避けて……。それでも、キラは胴体ど真ん中にエクスカリバーの刃を食らった。
それと同時、ミネルバのタンホイザーが潜航したてのアークエンジェルに向けて放たれた。
「……!! キラ!!」
ミネルバの艦内で、アスランが叫ぶ。その直後、核エンジンが爆発して周囲に凄まじい爆発が起こった。
……海上で最後に健在なのはインパルスだった。シンは苦い顔をして……。討つべき敵を討ったはずなのに心は晴れず。誇らしい気持ちにも清々しい気分にもならなかった。ただ、一度は共闘した敵を殺した。
……敵ではなかった人を、殺してしまった。
「……俺って……今、正しいことしてるのかな、マユ……」
命じられるままに、敵を討つ。それが軍人としてあるべき姿なのだ。
――その当然の理屈を、今のシンは受け入れられなかった。まるで鉛のように心が重い。シンはコクピットシートに背を預ける。
「……疲れた……」
ミネルバからの呼びかけにも答える気力がわかない。ただ、疲れた。もう、休みたかった。
シンは疲れを訴える体に鞭打って、ミネルバに帰還する。格納庫に降着装置で降りると、ミネルバのクルー全員がいるんじゃないかと言うほどの人にもみくちゃにされた。
「すげー! シン! お前あの白いフリーダムを倒したんだ! ザフトの英雄!」
「シン! よくやった!」
そんな風に持ち上げられると、シンも思わず笑みが浮かぶ。こうやって褒められると嬉しいし、自分のやったことは正しかったんだと思い直す。――ふと、視界の隅でアスランが格納庫から去ろうとしたのが見えた。
「アスラン」
その背に、声をかけた。……フリーダムのパイロットとアスランが知り合いだということは知っていた。それでも、二人は敵対関係になってしまった。それは不幸なことだとシンは思う。いくら
「……なんだ」
「その……。仇、代わりに……取っときました」
ハイネの仇。タンホイザーの爆発に巻き込まれた仲間の仇を。ミーシャなら内心モヤモヤしながらも、その言葉に大いに同意しシンを労っただろう。
仇討ち。ミーシャや……大多数の軍人にとって戦いの正当性を証明する言葉。しかし、アスランにとってその言葉は……
アスランはかつてニコルの仇を、ラスティの仇を、数多のザフトの仲間の仇と、仲良く戦場で大暴れした。殺したから殺されて、殺されたから殺して。そんな連鎖を断ち切るために、恨み辛み、仇討ちで戦うことをやめたのだ。
――しかし、そのアスランの信条は普通の感覚からは大いにかけ離れている。特に、今現在殺し合っている軍人が理解し、実践できる思想かと言われれば、大変に困難としか言いようがない。
困難だからこそ素晴らしく。
困難だからこそ、理解されない。
「キラは……キラは、敵じゃなかった」
何を言い出すんだと、その場にいる全員が思った。
「敵じゃないって……。どういうことです?」
「キラは敵じゃなかった。だってそうだろう? キラはお前を殺そうとしなかった。それを仇? 仇だと!? あいつがどんな気持ちで
シンは明らかに不機嫌そうになる。それはそうだろう。必死で戦って勝った敵に対して、アスランは『本気で戦っていなかったから勝てた』と言ったに等しいのだ。
「……それで死んでるんじゃ、世話ないですよ。手加減してくれてありがとうって言えばいいんですか?」
アスランはシンを睨む。
「違う! あいつを殺す必要なんてなかっただろ!」
「敵なんですよ!? 俺もあいつみたいに意味不明な手加減しろって言うんですか! それとも、俺が撃たれりゃよかったって言うんですか! 『あいつは殺してこないから、お前は無様に海に浮いてろ』って!」
アスランは黙る。それはアスランの理想とも言える流れだった。シンがキラに負けて……でも殺されることはないから、またシンの人生は続くし、キラもアークエンジェルも生きている。
……負けてはいけない戦いで負けたシンの評判、プライド。その他諸々。全てをかなぐり捨てたアスランのエゴに塗れた『理想の展開』だ。流石にアスランもそれを口にするつもりはなく、そうならなかったたことを嘆いているわけでもない。
――だが、万が一にでもそうなれば……そう思っていたことも、否定できない。
そんな内心の葛藤は、シンにも、レイにもありありと読み取れる。そもそも今の質問に即答できない時点で、シンにとってしてみればあり得ないのだ。
「……! アスランにとって、仲間は誰なんすか。俺達ザフトか、それともアークエンジェルなのか!」
「――俺は……! 俺は、お前たちを……仲間だと思ってる」
本心だ。嘘ではない。だがアークエンジェルも、キラも、同じように仲間だと思っているだけなのだ。
……シンはアスランの回答が気に食わない。仲間だと本気で思ってるならなんでフリーダムを庇い続ける。なんで戦った自分を一言も褒めない。自分のやったことは偉業と言えるレベルのはずだ。最強のモビルスーツに乗った最強のパイロットを倒した。仲間なら素直に喜んでほしい。それができなくてもせめて、責めてこないでほしかった。
「……アスラン」
レイはシンを庇うようにして前に出る。
「重ね重ねお伝えしますが、シンは命令に従ったまでです。これ以上理不尽な叱責はやめてください」
「理不尽……。いや……。そうか。そうだな……」
アスランは周囲の視線を見て、悟る。自分の言動は明らかにこの場にはそぐわないと。
「シン」
「……なんですか」
「……悪かった」
「え」
「……確かに、俺は……お前の気持ちを、考えてやれなかった。だが……だが、キラは……あいつは俺の幼馴染で……親友だったんだ。ずっと、仲良くしてて……前の大戦でようやく一緒に戦えるようになったと、思っていたから……」
アスランの言葉を聞いて、シンは顔を曇らせる。……それを、先に言ってくれれば。それを戦う前に言ってくれたなら、もっと、やりようはあったのに。それこそ……それこそ、さっき自分が言ったようなことをしてもよかったのに。
「……もう俺は行きます。レイ、行こう」
「ああ」
シンはレイを連れて自分の部屋に戻る。
アスランも、同じように自分の部屋へと向かう。背中に突き刺さる様々な視線から、逃げるようにして。
――
ミーシャはドミニオンの隊長室でネオとミーティングをしていた。つい先日落とされたと報じられたアークエンジェルのこと……ロゴスに対する対応……そして、ザフトとの共闘。話題は尽きない。
「……キラとアークエンジェルが落ちた。ザフトの公式発表よ」
「――マリューはこんなところで死ぬタマじゃない」
ミーシャも頷く。だがキラはどうだろうか。
「アークエンジェルは撃破確認できてないらしいから生きてるかもね。でも……フリーダムはコクピットを対艦刀でブチ抜いたらしいから……流石にキラは死んだと思う」
淡々とミーシャは言う。取り乱しも悲しみもしない様子に、ネオは心配になった。
「大丈夫か、ミーシャ」
「……別に。テロリスト同然の行動して、テロリストみたいに討伐された。……それだけ。あとで、お酒でも飲んで泣くから気にしないで」
「酒か……。まぁ、いいんじゃないの?」
「止めないんだ」
ネオは肩を竦める。普通なら止めるところだが、肌を重ねた元恋人の訃報を聞いても素面で泣けないと言うほど心が擦り切れてしまったというのなら……。ミーシャのためにも、思い切り泣くことは必要だと思ったのだ。それに飲酒くらい、ミーシャの今までを思えばなんでもない。
「……それよりも」
デュランダルの演説から数週間。世界は混沌と化していた。
ロゴスの住所氏名が公開され、デュランダルに戦えと焚き付けられた非力で無力な人々は……ロゴスメンバーを皆殺しにするべく暴徒になっていた。反ロゴス、反ブルーコスモスで統一された彼らは的確にロゴスメンバーの居所を掴み、一人、また一人と始末していった。金も力もある権力者であるロゴスのメンバーも、そのへんの民衆が束になってかかるだけで次々死んでいった。もう残っているロゴスのメンバーは5人しかいない。ミーシャ、アズラエル、ジブリールを抜くと2人。
「……戦争経済ってどんなのだと思う?」
「ん? そりゃ……弾薬とモビルスーツと……武器と兵器と弾薬で稼ぐ奴らの事だろ?」
「たったそれだけの品目のために戦争起こすとかマジでみんな信じてるの?」
ネオは黙った。ミーシャははぁ、と深いため息を吐く。デュランダルを仲間だと、平和を求める新しい人間だと思ったのも懐かしく思える。もう彼女の心はデュランダルから離れていた。彼は、確かに平和を望んでいるのだろう。確かに平和のためなら戦えるのだろう。彼の目指す先にはきっと平和があるのだろう。だが、その過程で今と変わらないくらい人が死ぬ。彼はロゴスを諸悪の根源として人々を煽った。そんなわけではないのに。
確かにロゴスは軍需に力を入れているところもある。だがそのためだけに、金を稼ぐためだけに戦争を起こし戦争を維持するなんてバカなことするわけがないのだ。デュランダルはそれをわかったうえで、民衆を味方につけるためにロゴスをこの世界から切って捨てた。結局、彼も他の大人と同じ。気に食わない物、自分に従わない物なら死んでもいいやと思う人間に過ぎなかった。なんだろう、憧れのアイドルが実は理想のためなら人殺しも厭わない人だったと知るような……そんな落胆があった。
「……みんなそう思ってるから大喜びでロゴス狩りしてるんだろうけどね……」
「……まぁ……。俺達は嬢ちゃんほど世界が見えてないんだよ」
ミーシャは子供ながらに世界をよく知っている。より広い範囲を見回すには、高いところに登るのが一番なのだ。金の流れ、力の流れを操る側の彼女にとって、今の民衆は正義のために立ち上がったというよりは……『正義の戦い』に酔っているようにしか見えない。
「正しい戦いって……ホント気持ちいいよね」
「……否定はしねぇよ」
ミーシャは彼らを否定できない。正しいもののために戦う。正しいと信じることのために戦う。正義となって悪と戦う。それらの行為は信じられないほど気持ちいい。一度知れば快楽を求める心は止まらない。民衆が愚かだとありきたりなことをミーシャは思わない。ただ……。
一度知っちゃったら大変だよ? と、そう思う。
「あんまりお外じゃ言えないけどさ」
「ん?」
「あのとき……ヤキンのときね。連合が核持ち出して……本当によかったなって、今になって思うの」
「――そりゃまた、妙なことを言うんだな」
「だってもしあのとき核がなければ……。連合は絶対正義だった。本当に悪の宇宙人と正義の軍隊になるところだった。そんなところに所属して戦ったらきっと私……ホントにおかしくなってたと思う」
もちろん、核ミサイルを護衛したことや、部隊の一部が勝手にプラントに向けて撃ったこと……連合のせいでミーシャがおかしくなった部分はある。だが、あのときミーシャが100%正しかったとしたら、きっとミーシャは今のようになっていない。
「笑いながらザフトもプラントも殺してるんだろうなぁって。心からそれが正しいことだと信じてさ」
「そいつは怖いな」
「怖いんだよ、正しいって」
正しいことのために戦う。何よりも大切なはずの命を紙くずみたいに消費する場所で一体全体何が正しいのか。
「……とにかくさ、今は……嫌なことから話を進めよう」
ミーシャは苦い顔をして端末のデータを開く。そこには次の任務についての詳細が書かれていた。
「世界の敵ロゴスを、
「やめろ、縁起でもない」
ミーシャはため息を吐く。ドミニオンの一室に住んでいるアズラエルが最近ずっと機嫌が悪い。死ぬほど嫌いなザフトと仲良しこよしで戦場へお出かけ。ミーシャも流石にどうかと思う。
……でも、恐らくきっとここが潮時なのだろう。
「戦争、終わるのかな」
ミーシャがポツリと言う。オーブと連合がディオキアという小さな拠点を攻めることでその繫がりを確たるものとしたように……。ザフトと連合、一部とは言え正式に共闘すれば……もしかしたら、この戦いがきっかけで終戦に向けた動きもあるのでは。そんな希望を抱かずにはいられない。
「……終わるさ、いつかな。何も、敵全部滅ぼしたりしなくてもな」
「うん」
ミーシャは立ち上がる。
「さ、嫌で嫌で仕方ないけど……命令ってんならザフトと仲良しごっこだってやるよ。久々の英雄業、がんばろうね、ネオ」
「ああ。どこまでもついてくぜ、隊長」
二人は並んで部屋から出る。目指す先はブリッジ。
……ドミニオンの外は、広大な軍事基地が広がっている。
――ここはジブラルタル。
ザフトの最大の基地に、ミーシャ達ドミニオンは、殺すことも殺されることもなく滞在していた。
本作のシンは殺意こそ少ないですが逆にデバフになるようなことも起きてないので相応にめちゃくちゃ強いです。逆にキラはメンタル底値割ってる感じなので……。
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