【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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ジブリール討伐作戦

 そもそも、その日の夜はおかしかった。もう日付も変わろうと言うのにラクスの偽物……ミーアが血相を変えて訪ねてきた。おかしいと思って招き入れると、議長に殺されると言う。そんなバカな。そう思った次の瞬間には保安部が訪ねてきたのだ。彼らは自分に情報漏洩とスパイの容疑が掛かっていると、そう彼らは言った。

 

 アークエンジェルと通じていたとかなんとか難癖付けられて殺される。そう思ったアスランの決断は早かった。窓を突き破ると外に出る。そのまま逃走する……ふりをして窓の枠を登り、上方に潜む。そう時をおかずに保安部が突入してきて窓から出てくる。3人。アスランは窓の枠から飛び降りると瞬く間に保安部を気絶させ、小銃を奪い取った。

 一度部屋に戻ると、ミーアに手を差し出す。しかし、彼女はその手を取らなかった。

 

「……ミーア?」

「私はラクスよ……ラクスなの」

「君も今見ただろう? 議長が何を考えて俺を殺そうとしたのかは知らない。だが彼は自分に従わない人間全てを殺す気だ」

「じゃあ……じゃあ従っていればいいじゃない! 居心地の良い役割を与えられてそれを全うすることの何が悪いの!?」

 

 アスランはその言葉に、ミーシャを思い出していた。軍人としての役割を果たし続ける幼い彼女のことを。……だが彼女はその役目を果たさなくなっても殺されたりはしない。

 

「その役目は危険だと言っているんだ! ミーア、用済みになった君を議長が生かしておくと思うのか!」

「そんなことにはならないわ! 用済みになんてならない! わ、私はラクス・クラインなのよ!? みんなラクスが大好きで、ラクスを求めてるの! ――不要になんてならない! だから大丈夫!」

「ミーア!」

「……もう行ってよ! 一緒に逃げたりなんてできないわ! 私は……! 私はこの声と顔で世界を救うの!」

「……世界を……?」

「議長が言ったの、私のおかげで世界を救えるって! だから……! 私は、私は行かない!」

 

 ミーアは頑なだった。アスランは悲痛な顔をするが、無理強いはできない。

 

「……俺は行く。議長に聞かれたら無理やり呼び出されたと言うんだ」

 

 アスランはそう言い残して窓から出ようとした時、倒した保安部の無線が聞こえた。どうやら窓から逃走したことを報告されていたらしい。外を重点的に捜索すると聞こえた。アスランは部屋の扉から出ると、一番近い知り合いの部屋に忍び込む。メイリン・ホークの部屋だった。彼女はもう夜も遅いというのに個人用端末に向かって何かをしていた。後ろから声をかけると、メイリンが振り向く。すかさず口を抑える。

 

「落ち着いてくれ。少しの間匿ってほしいだけなんだ」

「……!?」

 

 メイリンはコクコクと頷いた。

 

「……何があったんです?」

「いや……俺にもよくわからないんだ。ただ議長に殺されそうになって……」

 

 そこからメイリンはアスランが驚くほど協力的だった。保安部が部屋に来た時もシャワー中だと誤魔化してくれたし、基地をハッキングして全然別のところにアスランがいるように見せかけてくれた。

 

「……なぜここまでしてくれるんだ?」

「うーん……特に理由はありませんよ。困っていたみたいでしたので」

 

 アスランはそのままメイリンと一緒に逃走した。

 グフを奪い、レイとシンに追撃され、撃墜された時も、一緒だった。

 

 ――

 

 翌朝。ミーシャはふかふかのベットから体を起こすとくぁ、と大きくあくびをしながら伸びをした。その僅かな動作で完全に目を覚ますと、部屋に備え付けてあるコーヒーマシンでコーヒーを淹れる。ホテルもかくやというこの設備は将官向けの部屋だった。ロゴス討伐の任に当たっている地球軍で最も階級が高いミーシャは、ナタル共々豪勢なこの部屋に泊まっていた。

 

「……朝から元気だな……それが若さか……?」

「あ、おはようナタルさん。ナタルさんも全然若いって。コーヒー飲む?」

「頂こう……」

 

 ミーシャは同室のナタルの分までコーヒーを入れる。なんというか、堅物なナタルは部屋の中だと言うのに制服を着崩しもしていない。ミーシャなんて上着を脱いでシャツ1枚とズボンという格好だ。

 

「……昨日、夜中に警報が鳴ったのは知っているか?」

「まぁね。でもここザフトだし。あんま興味ないかな」

 

 ミーシャが淡々と言うと、ナタルは肩から力を抜いた。

 

「まぁ、お前ならそういう反応だろうな……」

「緊張してたの?」

「もしや地球軍が何かやらかしたのではないかと思ってしまってな……」

「お行儀よくするんじゃないかな、私の信者が多めらしいし」

 

 ミーシャはなんとも言えない顔をしつつそう言った。齢13にして軍に信者を抱える……。ミーシャは人並みの自己顕示欲や名誉欲はあるが、20は上のおっさん連中に崇められても嬉しくない。

 

「信者か……。まぁ、お前の信者には妙なやつも多いが……。

 不思議なものだな、お前とこうして作戦を指揮する立場になるとは」

「まぁ私自身パイロットだし部隊の指揮もあるから、細かい調整とかはやってもらってるけどね」

「お前1人が何もかもやらねばならんわけでもあるまい。任せられることは任せろ」

「ん。……ああ、ごめんナタルさん。ちょっと電話」

「ふむ、構わないが……」

 

 ミーシャはそう言って席を外し、トイレに入る。

 

「……何?」

「おはよう、バレンタイン。ミネルバのパイロット編成に変更があったから伝えておきたくてね」

 

 電話の相手はデュランダルだった。最高責任者同士なので本来ならナタル相手でも憚る必要はないのだが……。ミーシャには若干の後ろめたさがあった。

 

「変更? まぁいいけど……追加?」

「いいや。残念だが、アスランが裏切って脱走を企てた」

「裏切り? また? ……じゃあ今度はヘブンズベース守りにジャスティス乗って来るのかな?」

 

 ミーシャの中でアスランは必要ならあっさりと自軍を裏切って敵対できる人間なのだ。少なくとも『アスランは裏切ったりなんかしない!』とは口が裂けても言えない。ミーシャからしたら、理由はよくわからないけど気に入らないことあったんだろうな、という感想である。何せ前の大戦だとザフトを裏切ってアークエンジェルについたのはお互いが絶滅戦争をする前だ。

 

「そうはならないから安心してくれ。アスランはシンが撃墜した」

「……デュランダル、仲間討たせたの?」

 

 ミーシャが苦々しく聞くと、向こうの声は不思議そうだった。

 

「彼は敵になったのだから仕方ないだろう? 彼も軍人だ。そういうところは割り切るだろうさ」

「まぁそりゃそうなんだけど……。私でやってあげても良かったんだけど」

「そういうわけにはいかないよ。地球軍の君に裏切り者の始末を任せるわけにはね」

「……ちゃんとフォローしてあげてよ? 一緒に戦った人を討つのって、本当に辛いんだからね」

「君でもか?」

「当たり前でしょ。前の大戦のときなんて、知り合いほとんど敵に回って……。アークエンジェルもキラもカガリも敵になって、どうにかなりそうだったんだから」

「……ふむ。貴重な意見ありがとう。是非参考にさせてもらう」

 

 デュランダルはそう言って電話を切った。ミーシャはため息を吐くと、向こうの編成を思い出す。

 

 ……話聞いてあげたほうがいいのかなぁ?

 

  ザフトだし、元敵だし、そこまでしてやる義理はないのかもしれない。でも一応、今のところは味方なのだ。

 ミーシャは部屋の個人端末にアクセスすると、シンにメールを送る。休憩室にて待つ。まるで果し状だな、みたいなことを考えて、制服をしっかり着る。

 

「ナタルさん、ちょっと出かけてくる」

「どこに行くんだ?」

「えっと……第2だったかな? ザフトと地球軍どっちも使うって言われた休憩室。そこ」

「ふむ。わかった。気をつけろよ」

 

 うん、とミーシャは頷くと部屋を出た。

 

 ――

 

 シンは最初悪戯だと思った。魔弾の悪魔が何の用事かは知らないが呼び出されるなど……。だが相手は地球軍の責任者だ。行かないわけにもいかない。苦肉の策としてシンはレイとルナマリアも連れて行くことにした。

 呼び出された第2休憩室は相応に広く、いくつもソファや自販機が置かれている。昨日の脱走騒ぎのせいか人がほとんどいない。いてもザフト兵である。

 そんな中、ミーシャは壁に背を預けて立っていた。手の中には缶コーヒーがある。彼女はシンたちに気付くと手を振ってきた。

 

「やっほー。昨日は大変だったみたいだね。議長から事情は聞いたよ」

 

 はいどうぞ、とミーシャはシンにコーヒーを渡した。

 

「……何の用事っすか」

「話したくてね。座る?」

 

 ミーシャが対面になっているソファを指すと、シンは頷いた。ミーシャが座ると、シンがその対面に座る。

 

「……我々はそばで待機しています」

「失礼します」

 

 レイは通常通りで、ルナマリアの表情は暗い。ミーシャが頷くと、二人は休憩室の別のスペースに向かった。

 

「……アスランを撃ったんだってね」

「――ええ。撃たなきゃ、いけなくて、敵だから……」

 

 シンは随分と苦しそうだった。それもそうだろう。今まで味方だった人間が敵に回ったのだ。ミーシャはなんか慣れてしまったが、本来ならそれはもうメンタルがグチャグチャになる出来事なのだ。

 

「私もその気持ちわかるよ」

「……どういうことです?」

「キラとアークエンジェルは戦争に巻き込まれてからずーっと一緒に戦っててね。でもアラスカ……まぁそこには基地があったんだけど、そこで別れて次にあったら敵に回っててさ。辛かった」

 

 シンはミーシャの言葉に目を見開く。同じ境遇の人間が、こんな近くに。シンはミーシャに深い共感を感じる。

 

「……実は……アスランといっしょに、メイリンも……ルナの……妹も、脱走して。殺すしか、なくて」

「友達の妹か。辛いね」

「……はい」

 

 ミーシャは悲しそうな顔をする。シンも、ルナも、辛いなんてものじゃないだろう。妹を殺した仇が味方にいて……命令だから仕方ない、で割り切るしかない。そしてシンだってそれをわかっている。

 

「でも……いい子だと思う。こうして一緒に来てくれるんでしょ?」

「……はい」

「大事にしなよ。――ステラよりもさ」

 

 シンはミーシャの顔を見る。

 

「……ステラとは……あんまり期待しないほうがいいよ。敵軍に恋しても碌なことないよ」

 

 ミーシャの言葉は正論だった。シンは顔を曇らせて頭を俯かせる。

 

「あんたは……あんたは、ステラが悲しんで、いいっていうのか……?」

「死ぬよりマシよ。私もキラに振られたけどさ。本当に、死ぬよりマシなの」

「……そんな簡単に、気持ちの整理なんてつかない」

「そりゃ、そうだよね。ごめんね」

「いえ、いいんです……」

 

 シンは項垂れたままそう言うしかなかった。こうやってこれからも一緒に戦えるわけがない。だから……。だから。シンはもやもやする気持ちを吹っ切るように、ミーシャに聞く。

 

「……魔弾……君は、どうして戦ってるんだ? ……ですか?」

「ん……。前の大戦の時……ヤキンでお互い絶滅させあおうとしたのは知ってる?」

 

 シンは首を振る。ヤキンでの戦いは、壮絶で凄まじく、山のように人が死んだとしか知らなかった。

 

「ジェネシスって言ってね、えーっと……。核爆発の時に発生するガンマ線をレーザーとして収束させて撃ち込む兵器で……それを地球に向けてたの」

「――そんなことしたら地球は生き物が住めなくなる」

 

 シンはジェネシスの危険さをすぐに理解できた。やっぱパイロットともなると優秀だな、とミーシャは思う。当時のミーシャは説明されても地球がやばい以上の理解はできなかった。

 

「こっちもこっちで核ミサイルでプラント撃ち落とすとか躍起になってね」

「……最低だ」

 

 ミーシャは躊躇いなく頷いた。

 

「……だから、戦うって決めたの」

「……?」

「だって……ある日突然、ジェネシス撃たれて血溜まりに変わるかもしれないのに……黙ってなんてられないよ。ワシントンDCには友達がいるの。その子達はずーっと普通に生きてきた普通の子でね。だから……血塗れの私が、みんなを守るの」

 

 ミーシャのその思いは日に日に強くなっている。ユニウスセブンが落とされて、デストロイが街を焼き払う。この世界に安全なところなどなく、優しく暖かい世界など存在しない。血肉と死体によって囲われた壁の中で仮初の平和を楽しむ以外に道はない。そしてミーシャは、壁の外で壁の中にいる友人達を守ると決めた。壁も、壁の中も外もみんなまとめて殺されるかもしれないことを、知っているから。

 

「……花を植えても、人はまた吹き飛ばす。君なら、どうする?」

 

 かつて、オーブで出会った少年に聞いた問い。その時、彼から答えは聞けなかった。しかし、ミーシャは即答した。

 

「吹き飛ばそうとする奴を皆殺しにする。吹き飛ばす気がなくなるまで、殺し続ける」

「……そう、か」

 

 シンは顔を上げて、ミーシャを見る。

 

「君は、アスランを撃ったこと、正しいって言うんだな?」

「命令なら仕方ないでしょ。撃ちたくないで済む場合ならいいけど……裏切り者の討伐じゃ、そうも言ってられないだろうし」

「裏切り者……。君は、アスランが裏切ったって信じられるのか?」

 

 シンは本当にアスランが裏切り者なのか……信じきれなかった。しかしミーシャは驚くほどあっさりと頷いた。

 

「まぁ、アスランは……そういうやつだから。前の大戦だって、アスランがザフト裏切ってアークエンジェル側についたのは……オーブと戦う時かな」

「……オーブ……」

 

 つまり、マユが死んだ時。それからヤキンの戦いが起こって停戦するまで結構時間がある。……学校ではジェネシス使うことを決めたザフトに対して義憤に駆られて、っていうふうに教えられたのだが。

 

「だからアスラン撃ったことはそこまで気にしなくていいと思う。ホークさんの妹に関しては……残念だったね」

「……ああ」

 

 シンはやりきれない思いを抱え、天井を見上げる。

 

「戦えそう?」

「――俺は……俺は戦える」

「そっか。一緒に戦おうね。たとえどんなにつらくても……戦ってくれる仲間がいるでしょ?」

 

 ミーシャはレイとルナを指さす。シンは頷いた。

 

「――はい」

「なら、頑張ろうね、お互いに」

 

 ミーシャは立ち上がると自販機でコーヒーを2つ買うと、レイとルナマリアのところに行く。

 

「はい、二人ともどうぞ」

「え? そ、そんな悪い……ですよ」

「受け取って。なんか怖がらせちゃったみたいだし」

 

 ミーシャはレイとルナマリアの手に缶コーヒーを握らせると、さっさと休憩室から退散した。立ち上がったシンが缶を開けながら近づいてくる。

 

「……何話したの?」

「ん……いや、大したことじゃないよ。アスランを討ったこと……気にしてくれてさ」

「彼女は地球軍だ。なぜ気にかける?」

「――味方討つのは辛いだろうって。魔弾も……アークエンジェルにいたけど戦ったって言ってた」

「……」

 

 魔弾の悪魔もアークエンジェルにいた。つまり、前の大戦では元々仲間だったのに、最終的には殺し合うことになったのだ。

 

「……シン。軍人としては彼女が正しい。アスランを討ったお前は正しい」

「――わかってるよ。もう行こうぜ。レイはレジェンドの調整あるだろ?」

 

 シンが言うと、レイは頷く。二人は並んで歩き出す。

 

「……」

 

 そのシンの背を、ルナマリアはじっと見つめていた。

 

――それからさらに数日。ザフト、連合の両軍はヘブンズベースに向けて進路を取り、最後通牒を通達する。デュランダルが通信に出て、地球軍の司令部に毅然とした態度で通告する。

 

「地球連合軍総司令部ヘブンズベースの地球軍司令に通告する。ロゴスのメンバーの身柄を全員、引き渡してほしい。彼らは戦争を望み、戦争を起こすことを望む世界の敵であり……恐るべき脅威なのだ。2時間の猶予を与えるので、どうか理性ある決断を期待する」

 

 ミーシャはフリーダムのコクピットでその通信を聞きながら、どうせ素直に引き渡すなんてことあり得ないんだろうな、と思っていた。もうすでにドミニオンからは出撃しており、モニターには壮観な大戦力が見える。空からはザフトのMSが宇宙から降下してくるし……どう考えても勝ち目はないように見えるのだが。

 

「ん……?」

 

 ミーシャはほんの僅か、ヘブンズベースが動いたように見えた。だがそれが何かはわからない。……そう思った次の瞬間、拡散する何かが基地から放たれ……降下部隊が全滅した。

 

「……秘密兵器ってこと? 上空飛ぶのはヤバそうね……」

 

 ミーシャは基地から出てくる機体を見て舌打ちする。

 

「デストロイが……5機!?」

 

 それだけではなく、次から次へとヘブンズベースから機体が出てくる。

 

「回答をすることなくこの仕打ち……。もはや会話の意思はないと判断する。総員、戦闘開始!」

「こっちもやるよ、地球軍! テロ屋の親玉ブチ殺すよ!」

 

 ミーシャはフリーダムを先行させる。

 

「アウル! 海の中はディープフォビドゥンがいるよ! いける?」

「任せてよ! このアビスならいける!」

 

 アウルから元気な声が返ってきてミーシャは微笑む。カオスと、ステラとネオが乗るウィンダム2機もミーシャの少し後ろをついてきている。

 

「ネオ、地球軍の様子は?」

「いい子だぜ? 流石は天使様。統率力もバッチリだ」

「おだてないの。ステラ、調子は?」

「シンと一緒!」

 

 ステラの嬉しそうな声に、ミーシャは呆れる。

 

「浮かれて撃墜されたら許さないからね」

「はい!」

「もう。……撃てそうな奴から撃ってくね」

 

 デストロイにビビると思っているのか、敵のウィンダムが無警戒に基地から離陸しようとしていた。その瞬間を狙って、ミーシャはそいつを撃つ。

 ヘブンズベースの格納庫前で爆発炎上が起こった。

 

「ひいっ! ま、魔弾の天使が! か、神様助けて……!」

 

 ヘブンズベースにいる地球軍は、次から次へと量産機を撃墜するザフトと同じ感想を抱いた。

 

 

「あ、悪魔だ……」

 

 シンはその光景を見て顔を顰める。

 

「……元々仲間だって言うのに……あんな簡単に撃てるんだな」

 

 デスティニーに乗ったシンは対艦刀アロンダイトを構えてデストロイに肉薄する。相手はバルカンと指のビームで近づかれまいと牽制してくるが、シンのデスティニーにはまるで意味がなかった。

 

「あれ……? 敵いっぱい増えた? なんで?」

 

 正確に敵機を把握したデストロイのパイロットは、重なるように存在するデスティニーに困惑する。どこを攻撃すればやっつけられるんだろう。そんなことを考えているうちにデスティニーに近づかれ、コクピットを貫かれた。もう何も考える必要はなくなった。

 

「クソ! この中にもあんな子供が……!? ロゴス!!」

 

 シンは叫んで他のデストロイに向かう。シンが一機を撃墜する間に4機のデストロイが大暴れしてザフトや連合の艦艇を何隻も沈めていた。

 

「隊長! こっちに群がられてる!」

「! スティング!」

 

 ミーシャはカオスに3機のウィンダムが向かっていることに気付くと、一機を撃墜した。

 

「ダメ! スティングを守る!」

 

 ステラが突っ込んできて、ビームサーベルでもう一機を撃墜した。瞬く間に敵機が2機減ったスティングは、残りの一機に照準。背面のビームでコクピットを貫いた。

 

「ステラ、よくやったね! スティング、ネオ、ステラ! このまま前進して! アウル、状況は!?」

「スリリング! でもごめんねぇ? 強くってさ!」

 

 アウルがそう言った直後、海上に水柱が二つ上がった。

 

「こっちは大丈夫だよ、隊長。ま、僕とアビスがいたらディープフォビドゥンなんかに負けないって」

「流石アウル。バジルール大佐、そっちの状況は?」

 

 ミーシャはバラエーナとビームライフルの一斉射で4機のウィンダムを同時に撃墜しながら言う。

 

「デストロイの火力が依然脅威だ。しかし友軍のデスティニーが優先的に撃破しているおかげで問題はない」

「デスティニー……シンの新型だっけ? アレ敵に回したくないなー」

 

 ミーシャはシンを見ながら言う。今彼は掌のパルマフィオキーナでデストロイのコクピットを吹き飛ばしているところだった。全身兵器という言葉がピッタリ合うような武装の数々に、ミーシャは苦い顔をする。

 

「気持ちはわかるが今は控えろ」

「誤射ってる人はいる?」

「いや、両軍共に行儀よくしている。相手がデストロイだからだろうな」

「それもそうか。未確認勢力……アークエンジェルが来たりは?」

「そちらも未確認だ。戦闘に集中しても大丈夫だ、バレンタイン大佐」

「ちゃんと集中してるよ」

 

 ミーシャは味方のザクに切りかかっていたウィンダムを撃墜しながら言う。強いエースの存在は確認されていない。それならミーシャは伸び伸び戦える。その場にいる味方全員を守り、敵を殺す。

 

「――恐ろしいな、彼女は」

 

 自分に向かっていた3機の敵機が全員ミーシャの援護射撃で撃墜された光景を目にしたレイがコクピットで呟く。彼とミーシャの距離はとんでもなく離れている。隊長たる彼女は気にすることも多いだろうに……。

 

「彼女を味方に引き入れるとは、流石ギルだ」

 

 デストロイのコクピットをビームサーベルで攻撃しながら、レイは言う。

 ――ここにデストロイは全機撃破され、あとは司令部を制圧するだけ。

 

 ――しかし。

 

「残念だったな、ミーシャ・バレンタイン」

 

 ヘブンズベースが存在する島の真反対の近海の海中。彼は戦闘開始よりも遥か前。デュランダルに最後通牒を突き付けられた時には既に脱出していた。

 

「まさか魔弾の悪魔に狙われて素直に殺されてやると思っていたのかな、彼女は。そういうところが子供だというのだ」

 

 ハハハハ、と脱出艇の中でジブリールの高笑いが響く。

 ……彼の脱出先はオーブ。セイラン家を頼るつもりだった。 

 




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