【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
バスターフリーダムのデザインを少し変更しています。ヴェルデバスターの肩パーツ後部にあるスラスター部分をカットして後部に対する長さを短くしています。
感想指摘ありがとうございます!
月面都市コペルニクスに、アークエンジェルは停泊していた。ここはどこに所属しているというわけでもなく、ザフトも連合もオーブも、自由に過ごせる中立都市である。中立といえばオーブ、と言わんばかりにオーブの息がかかっており、アークエンジェルが停泊している宇宙港にはほかにもクサナギを始めとしてオーブ戦艦の姿が見える。
「……ミーシャさん、わざわざ彼女を保護することを疑問に思っていらっしゃるのではないですか?」
「……まぁね。ちょっと理解しづらいかな」
「彼女は……私が戦後に隠れてしまったからこそ、必要とされたラクス・クラインを演じたのです」
懺悔するようにラクスは隣のミーシャに言う。ドミニオンから離れ、ミーシャとネオは敵情偵察という名目でアークエンジェルに乗り込んでいた。ナタル達ドミニオンクルーはエターナルと一緒に廃棄要塞ボアズ近傍に待機している。もう目立った敵勢力は見られないし。
「……別に気にしなくていいんじゃない? だってそうしたいって向こうが思ったんだからさ。ラクスが頼んだんじゃないでしょ?」
自由中立都市とは言えもちろんここにはザフトもいる。アークエンジェルが停泊していることは向こうも把握しているだろう。ザフトに居場所を知られているという状況にミーシャはなんとも言えない気持ちになる。
「それは、そうですが……」
「ならいいじゃん。気楽にいこうよ」
ミーシャは内心でなんでもかんでもしょい込むなー、なんて思っているがそれを口に出したりはしない。
「フリーダム持ってこれなかったからちょっと不安だけど、まぁ人を保護するくらいなら……できるかな」
ミーシャはラクスと元気になったメイリンと一緒にコペルニクスの街へと繰り出した。バスターと呼ぶべきかフリーダムと呼ぶべきか。そんなくだらないことを考えながら街を歩く。目についたショッピングモールに入ると、女性達はまっすぐに服屋へ向かった。
キラとアスランは護衛である。
ショッピングモールの服屋で3人は大いに楽しむ。
「そういえばさ、うちの子達がこうしてカモフラージュするときさ、青髪の子いたでしょ?」
「ええ」
「う、うん」
「その子、山のようにポルノ買ってきてさー、めっっちゃビックリしたの」
当時は頭の中で隊長の威厳! と言った言葉のおかげで取り繕えていたが、内心物凄く驚いた。ポルノなんて見たのは初めてだったのだ。
「まぁ」
ラクスは服を選びながら驚いたようにそんなことを言った。だがラクスも顔を赤くするようなことはしていない。メイリンもである。ラクスは芸能界で生きてきたからで、メイリンはネットの闇に精通しているから。それぞれの理由でそういう話に初心というわけではない。流石に経験があるのはミーシャだけだが。
「うわー、いますよね、そういう人。ミネルバにもそうやって友達に見せびらかしてる人いました」
「どこにでもいるんだねー。ラクスはなんかそういうエピソードない?」
「私は特には……。知り合いのアイドルが誰とも知れぬ子供を身籠った……それくらいですわ」
「十分エグいから。それ枕営業じゃん」
「ふふふ、きっと業界の方誰もが否定しますわ。そんなもの存在しないのです」
ラクスはラクスなりに会話を楽しんでいた。こんなくだらない話をしたのなんていつぶりだろうか。
「私は……捕虜を……ルーシェさんを仲間が無理やりそういうことしようとしたっていうのが一番キツかったかなぁ……。だって女の子を無理矢理するような奴がおんなじ艦に乗ってるんだよ? 正直うげーって思った」
「ああ……アスカに椅子で気絶させられたって奴?」
メイリンは頷いた。それを知った当時は嫌悪感で全身に鳥肌が立ったものだ。いくら敵でもそんなことまでしていいわけがないし、単純に無理矢理女性とそういうことしようとする奴が近くにいるなど恐怖でしかない。
「ホント、そこはアスカに感謝だな……。そういやステラに手を出そうとしたクズはどうしたの?」
「今も元気にミネルバの保安部やってるよ。シンとかレイとかアスランの罪をもみ消すついでにあいつ等の罪も帳消しになったの」
「うげ。ザフトには捕まりたくないなぁ」
「私も。裏切り者に対する拷問って酷くなるって聞くし……」
ミーシャの言葉にメイリンは頷いた。
「メイリンさんは拳銃持ってる?」
「ううん。どうして?」
「一発弾込めた拳銃持つのオススメ」
「一発だけなど……何の役に立つのですか?」
ラクスが不思議そうに聞く。ミーシャは自分のこめかみに人差し指を当てる。
「そりゃもう絶対当たる相手にブチ込むんだよ。で、ブチ込んだ後のことは考えなくていい。生き地獄が嫌ならこれが一番だよ」
「そ、そこまで覚悟決まってないかなぁ……」
「私もです。どのような目に遭おうとも、必ず生きて……生きて、キラのところに戻ります」
ラクスの強い覚悟……生きるという覚悟を聞いて、ミーシャは微笑む。
「ラクスはやっぱりすごいね」
ミーシャ達はそれからあまり買い物をすることなくただショッピングモールをブラブラする。やがて、護衛していたキラに、見知らぬハロがやってきた。そのハロの口には紙が添えられていた。ミーアから、助けを求める内容の手紙だった。
「……罠かなぁ? モビルスーツ乗ってたら食い破るって言えるんだけど」
「ミーシャ、お前生身での銃撃戦はどうだ?」
アスランに聞かれると、自分の戦績を思い出す。
「クルーゼ以外に外したことないよ」
「お前クルーゼ隊長と生身で撃ちあったのか……?」
「ま、私ってその手の才能あるみたいだからね」
そういやあいつもクローンだったな。ミーシャはそんなことを今更思い出した。
「クルーゼ隊長と撃ち合って生き残れるなら実力は十分だな。お前逆に何ができないんだ」
「まともな学生生活と恋愛」
「……そういうことを聞いてるんじゃない。ふざけているのか?」
「今から殺し合いに行こうってのにユーモア一つなくてどうすんのさ? 戦争なんて笑いながらやるもんだよ」
「ヘラヘラ笑って戦争ができるか!」
「やらなきゃあっという間に病んじゃうよ? 実例隣にいるじゃん。何? アスカにもそんなノリだったの?」
「それの何が悪い! シンのことでお前に口出しされる謂れはないぞ!」
ヒートアップしそうだったミーシャとアスランの二人を、キラが間に入って取り持った。
「ま、まぁまぁ。ミーシャは過度な緊張は良くないって言いたいんだと思うよ、アスラン。ミーシャも、アスランは真面目だから軽い調子は合わないんだよ」
「む……」
「……キラが言うなら」
二人はなんとか離れてクールダウンできた。キラは内心胸を撫で下ろす。二人はスタンスがあまりに違い過ぎる。
「……とにかく、行くしかないと思う。僕たちにミーアを探す方法なんてないんだから」
「向こうからの接触待ちってすごい作戦だね。……皮肉じゃないからね、一応」
一行は指定の場所……今は使われていない廃劇場に向かった。
――まるでローマの劇場を思わせる石造りの扇状の劇場の舞台上で、ミーアは付き人のサラと共にミーシャ達と相対した。ラクスがミーアに近付くと、彼女は恐れるように後退る。
「……な、なんで……。なんで来たの……? ――い、いいえ、違うわ。私はやるの。
私がラクスよ、私が! 何が悪いの? 何処かに行ったあなたの代わりに……! 私が頑張ったのよ!? くれたっていいじゃない!」
「――声も、顔も、欲しいのなら差し上げます。姿もです。
ただ、私はあなたを護りたいのです。いるべきではない人の所に、いるべきではない理由で居るからです」
ラクスは真摯にミーアへと話す。もうミーアに利用価値はほとんどないと言っていいだろう。計画は大詰め。発言力を失った、デュランダルの闇を少しでも知っている人間を生かしておくとは到底思えなかった。
「……そんなこと……!」
「ミーアさん。私達はたとえ、どんなに同じ声で、同じ姿で……
その言葉に、ミーシャはラクスを見る。
「だから私達は出会えるのです。あなたと、私で」
「……!」
「あなたの夢はなんですか? 夢を、誰かに預けてもよいのですか?」
「ひ、人の気も知らないくせに……!」
ラクスは悲しげに目を細める。
「あなたの目指す夢は……誰かの代わりとなって歌うことだったのですか?」
「――!」
ミーアはふるふると首を振る。違う。そんなわけがない。ラクスのように自由に歌いたかった。自分の顔と体で勝負したかった。でもダメだった。……届かなかったのだ。何が足りなかったのかはわからない。だが、栄光の道は遠く儚い。そこをデュランダルに拾われたのだ。……共に、世界を救おうと。
「わ、私……私は、私の歌で世界を救う! そこに、本物のあなたの居場所は……!」
ミーアが拳銃を取り出してラクスに向ける。
「……」
「ミーシャ、ダメ」
拳銃をミーアの頭に向けていたミーシャの手を、キラが止めた。その時にはもうアスランが拳銃を撃ち抜いており、ミーアの無力化は終わっていた。
「……別に、ラクス守ろうとしただけ」
「わかってるよ」
「それから、狙撃手が狙ってきてる。――みんな! 回避!」
「えっ? ――アスラン!」
ミーシャとキラが叫ぶと、アスランはラクスを庇いながら近くの物陰に隠れた。ミーアは叫んでその場に蹲ることしかできない。
「ああ、もう!」
ミーシャは飛び出すとミーアの手を取り同じように物陰に潜む。チュンチュンと銃弾が石の柱に当たる音がする。
「スリリングな演奏会だね。ミーアさんだっけ? こういうステージでの歌い方知ってる?」
「え……?」
「こいつがいい声で歌うんだよ」
ミーシャが自分の拳銃をちらつかせて言う。射撃の隙を見計らって柱の陰から身体を半身出して、襲ってくる狙撃手を狙う。円形劇場の客席側の出入り口から舞台まで30メートルくらいだろうか? 拳銃で狙うのはキツイが不可能ではない。狙いを付けて一発撃つと、胴体に当たって狙撃手のうちの一人が倒れた。気を失ったが死んではいないだろう。……防弾チョッキも着ていないのはどういうことだろうか。
「こいつが銃声を、客が悲鳴を。素敵な音楽でしょ?」
「え……ええ……?」
ミーシャの音楽センスはミーアに全く理解されなかった。とにかく怖くて仕方ない。敵もそうだがミーシャのほうがよっぽど怖い。この子なんで撃たれてるのに笑ってるの? なんであんな遠くの人を一発で当てるの? この子ナチュラルだよね? 議長がそう言ってたし。なんでこんなに戦えるの?
一人の女性……付き人のサラがしびれを切らして前に出てきた。手榴弾を投げ込んでくる。ミーシャのすぐ足元に転がってくる。ミーアが悲鳴を上げる。
「ひっ……!」
ミーシャはすぐにそれを拾うと女の方に投げ返す。中空で爆発し、衝撃で女が倒れた。
「――こ、怖かった! マジ怖かった! 死んだかと思った!!」
「ミーシャ大丈夫!?」
反射で動いたため、行動を終えてから恐怖が湧いてきてミーシャはへなへなと腰を抜かしてその場に座り込んだ。
「ご、ごめん、流石に手榴弾は怖かった……。
キラ そっちはどう?」
「弾が届かない! アスランも!」
「えっ、どうすんの!?」
「応援を呼んである!」
アスランが叫ぶ。応援? そう思った次の瞬間アカツキが空からやってきて劇場中央に降り立った。
「……ねぇラクス、自由都市って言っても堂々とモビルスーツ動かしていいの?」
「いえ。……ですので早急に離れなければなりませんわ」
「いやいや……」
ミーシャは慄く。ラクスがやるんだから堂々とモビルスーツを飛ばしていいものだと思っていたのだ。ダメとは思わなかった。……そういえばこの人、好きな人の為にモビルスーツ盗むような人だったなぁ。必要とあらばルールなんてなんのその。きっとファントムペインでも上手くやれるだろう。
「……とにかく行って。私ちょっと休んでから行くから」
「え、ええ。もう大丈夫なの?」
「まぁ、モビルスーツ相手に暴れたりしないでしょ」
ミーシャは柱の陰で大きくため息をついた。まさか手榴弾が飛んでくるとは。訓練してて良かった。
ミーアが恐る恐るモビルスーツの……アカツキのそばに近寄る。みんなが集まっている様子を、ミーシャは微笑ましげに見守る。
「隊長、大丈夫か?」
外部スピーカーからネオの声が聞こえる。
「聞こえるよー。死にかけたけど大丈夫。早くミーア保護して」
「了解。さ、お姫様、こちらへどうぞ」
アカツキが跪くと掌を地面に下ろす。恐る恐る、ミーアはその手に乗ろうとした。その時。
……手榴弾の爆風のショックで倒れていた女、サラが目を覚まして、ラクスに照準を向ける。ミーシャからはアカツキの掌が視界を塞いでいて、見えていない。キラもラクスもミーアを見ていた。
ミーアとアスランだけが、サラを見つけた。
「ラクス様!」
アスランが銃をサラに向けて、ミーアがラクスを庇った。
サラの銃が弾丸を放った次の瞬間、アスランはサラを撃った。……その一瞬が、致命的だった。
「……あ……」
ラクスの頭部に命中するはずの弾丸はミーアの背中に当たった。舞うようにくるくるとバランスを崩すと、劇場の地面の上にパタリと倒れた。
「ミーア!!」
「何!? 何があったの!?」
ミーシャは恐怖に震える身体を無理矢理立たせて、よろよろと歩く。手榴弾に精神的な余裕が全部持っていかれて、周りのことを全然考えられてなかった。生きていることを噛み締めている場合じゃなかった。
「ミーアが……」
「……守れなかったの……?」
ミーシャがミーアの側まで辿り着く頃には、もう彼女は事切れていた。……感傷に浸っている間も、悲しんでいる間もない。移動しなければバレる。
「とにかく、早く帰ろう」
ミーシャの言葉で、全員は帰路についた。守るべき人を、死なせて。……ミーシャは自分が酷く冷たい人間になったような感覚がした。
――本当に私、友達が死んでも泣けるのかな?
ミーシャはキラやアスラン、ラクスたちと一緒にアークエンジェルへの帰路についた。
――アークエンジェル内で、彼女の葬式を執り行うことになった。ミーアの遺体が安置されている部屋に、ラクスとミーシャが座っている。
「……ラクス、大丈夫?」
「――この人は、私が責任を投げ出したせいでこうなったのです」
「思い詰めすぎだよ」
「……求められるラクス・クラインという者は私には重かったのです。歌姫ではなく、政治家として人々を導くことなど私には……。だから、逃げ出したのです。その結果が……ミーアさんです」
自分がプラントにとってどういう存在なのか、まるで把握していなかった。
まさか偽物……いや、この言葉は彼女に失礼だろう。身代わりを用意してでも必要なほどとは思わなかったのだ。
「……さっきも言ったけど……ラクスがさ、ミーアにこうしてほしいって頼んだの?」
「いいえ。ですが」
「それならラクスは悪くないよ。悪いのはデュランダル。あいつが望んだから、ラクスの身代わりなんて現れたの」
「しかし……」
「自分に関わる全部が自分のせいって、そんなの思ってたら潰れちゃうよ?」
ミーシャの言葉に、ラクスは顔を曇らせる。確かに、潰れてしまいそうなほどに辛く、重い。自分の身代わりが自分を庇って死ぬ。それがどれほど重いのか……人の死を初めて間近に感じた。
「……暖かったのです」
「うん、わかるよ」
「でも、血が流れるほどに冷えていくのです」
「怖いよね」
ミーシャの言葉に、ラクスは涙を流しながら頷く。
ミーシャは立ち上がるとラクスの頭を抱き寄せる。
「……人の死がこれほど冷たいのだと、知らなかったんです……!」
涙を流して泣くラクスを、ミーシャが抱き締める。
「……たくさん、殺してきたけどさ。やっぱり、こうやって身近に感じる死は辛いよ」
「うう……!」
「たくさん泣いていいんだよ、ラクス……」
ミーシャはただ、ラクスを慰めるように抱きしめる。守るように、慈しむように。
――それから数時間後。ミーアの葬儀が終わってすぐのことだった。再び、デュランダルが全世界に向けてメッセージを送ったのだ。
「皆様。再三に渡るメッセージ、申し訳なく思います。しかし、これが最後です。どうかご清聴願います。
――ロゴスは、悪の根源は潰えました。我らは最後の戦争に勝利したのです」
デュランダルは言うが、民衆の熱は冷めない。真実はともかく彼らの熱はまだ血を、死を求めていた。
冷水を浴びせ掛けるように、デュランダルは続ける。
「ロゴスは確かに悪でした。彼らは確かに我らを戦争へと駆り立て、尽きぬ戦いに身を投じよと世界を煽っていました。――しかし、忘れてはなりません」
彼は毅然と宣言する。自らの根幹を、自らの望む世界を。
「我らは確かに彼らに扇動されました。しかし、銃を取り引き金を引いたのは間違いなく私達なのです」
デュランダルは立ち上がる。引けないところまで来た。だが、これで世界は、変わる。
「戦争が絶えないもう一つの元凶。それはいつまで経ってもなくならない、我らの無知と欲望です。
――故に。人類存亡をかけた最後の施策として、『デスティニープラン』を全人類に適用することを宣言、要請します!」
世界はもう保たないところまで来ているのだ。
彼女のように生きるのが最も幸せだ。自分の欲を持たずただ命令に従うのが、考えうる限り最大の幸福なのだ。
……宣言した時のデュランダルの脳裏には、戦場が自分の庭のように振る舞う彼女が浮かび、すぐに消える。
――そして、タリアの顔が、タリアの身体が、いつまでもいつまでも、焼き付いて離れない。
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