【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
ミーアの居場所をアプリリウスからコペルニクスに変更しています。そのため、ラクスがミーアを助けに行くことをミーシャに頼む会話シーンと、実際にコペルニクスに着いた時の描写、ネオがアカツキに乗って救援に来る時の描写を変更しています。
感想指摘ありがとうございます!
デスティニープラン。それは自由意志の放棄を大前提にする計画である。人はその遺伝子によって適性を見極められ、最適な職に付き最適な人と
アークエンジェルの通信室を借りてミーシャは通信していた。相手はなんと大西洋連邦大統領、コープランドである。その隣のディスプレイにはアズラエルが楽しそうな笑みを浮かべて二人の会話を見守っている。今現在アークエンジェルはボアズ近傍の宙域を目指していた。ドミニオンとエターナルの2隻と合流するためである。
「いいですか大統領。私13歳なんです。人殺し以外は全部勉強中。わかる? あなた今絶好のチャンスなんですよ? 余計な口出ししてくるヤツみんな死んだんだから普通に大統領やればいいじゃないですか」
「だが! で、デスティニープランだと? こんなものどう判断するのが正しいんだ! 私にわかるわけないだろう! 君もロゴスなんだろう? 教えてくれ!」
ミーシャは思わず天を仰いだ。誰か嘘だと言ってくれ。こいつはニセモノだと、そっくりの芸人だと言ってほしい。これが大西洋連邦大統領? 指示を受けるのではなく指示をしてくれと言われるなんて。世も末である。ああ……デスティニープランなんてのを大真面目で宣言する奴がいるんだから世界の終わりが近いのだろう。
ミーシャはアズラエルを見る。
「担ぐ神輿は軽いほうがいいですからね。人って案外、重すぎる責任を負わされると安牌に縋ってしまうものなのです。さぁ、唯一のロゴス生き残り、バレンタイン派閥の長としてビシッと彼を導いてあげてください」
「その気持ちはわかるけどさぁ……」
「ミーシャ、簡単なことから始めていきましょう。引退したら『ミドルスクールの学生にもできる国家運営』なんてタイトルで本でも出しますかね」
「印税がっぽりもらうからね……!」
「おや、金で解決できるなんてなんとお優しい。実は乗り気だったり?」
「んなわけあるか……! 大統領、とにかくデスティニープランなんて断固反対だよ! 遺伝子差別を加速させるつもり!?」
「いや、まさか。そんなわけはないのだが……彼の言葉は確かに戦争がなくなるように聞こえる」
「あのね、遺伝子がどの職業にどう割り振るかなんてわからないけど、人気の職業も、嫌な職業も現実には存在するの。ある日突然『君はアイドルだ』って言われる人と、『君には特殊清掃業者が最適だ』って言われる人がでてくるの! あのふざけ倒したデモアニメーション見たでしょ!? 排除されるのはあなたかもしれないのよ!」
「そ、それは、それはマズイ、なんとか、なんとかしないと」
なんとかしないとの先をいつまで経っても言わない大統領に、ミーシャは痛む頭を抑えながら言う。
「いい、まずデスティニープランは職業選択の自由を奪う人権無視の施策であることを強調して、大西洋連邦は遺伝子差別を助長するありとあらゆる事柄に反対するって声明を出すの! そうすれば私がデュランダルとレクイエムを片付けるから、あなたはイカれたプランから大西洋連邦を守ったヒーローになる。わかった?」
「あ、ああ。君の言う通りにする……」
コープランドはそう言って通信を切った。ミーシャは机に脱力した。アズラエルの拍手が虚しく響く。
「いやぁ……教えることないですね。流石の誘導方法です。新兵相手に訓練する時にもああやっているのなら、きっとあなたが鍛えた新兵は躊躇いなく人を撃てるのでしょう」
「もう……。あんなやつが頭になる可能性がなくなるってんならデスティニープランも悪くはないんだろうけど……」
はぁ、とミーシャはため息をつく。
「……とにかく、私ブリッジに行ってくる。ラクスとこれからの話しないと」
「ラクス……あのアバズレですか」
ミーシャはムッとする。好きなアイドルをここまで言われてキレないファンはいない。
「なんて?」
「いえ、失言でしたね。彼女の顔と身体にかかればプラント一の歌姫も艦長の座も思いのままかと思うと」
「それ以上言ったら怒るからね。ラクスが枕営業とかするわけないじゃん。そんなのしなくても向こうから仕事はやってくるもんなの」
「おやおや……。ま、ミーシャに免じて本人に言うのはやめてあげましょう」
「本人に言う気だったの……?」
アズラエルは肩を竦める。こいつは本当にプラント出身のコーディネーター相手には冷酷かつ差別的だ。だがまぁアークエンジェルとエターナルをなんとかして沈めようとしないあたり成長したということなのだろうか。
「……あんまり言うなら、アイドルの女の子に対して酷いこと言ったって奥さんにチクるからね」
「――それは卑怯です」
ミーシャは降参するように両手を上げたアズラエルを背に、ブリッジと向かった。
「……どう思う、ラクス」
それから数時間。ドミニオンと接舷したアークエンジェルは人員や物資を移動させながら最終決戦に向けての準備を進めていた。
ブリッジにはドミニオンから移ってきたバレンタイン隊とナタル、ネオもいた。
「……デスティニープラン。それが、議長の最終目標なのかな?」
「――思ったよりクソだったね」
ミーシャは即座に切って捨てた。戦争がなくなり人が悩みから、尽きぬ欲望から解放されるのならそれもいいのでは、そうキラが思った矢先のことだった。
「どうして、そう思うの?」
「つまり優秀な遺伝子を持つ人が有利で、旦那も妻も遺伝子様が決めるってわけだよね?」
「まぁ、そうなるだろうな」
ナタルは苦い顔をしてそう言った。各国がどう動くか。それだけが肝要だと考えている。
「遺伝子ってのはその名の通り遺伝するわけ。……じゃあ適性『種馬』とか……『苗床』……アウル、なんかいい言葉ない?」
「……ぼ、僕に聞くの!?」
「知ってるでしょ、そんな感じの言葉」
ミーシャに言われてアウルは狼狽える。その場にいる人間の視線が突き刺さる。……こんな、女性が山程いるような場所で種馬の女性版の単語を口に出せと!?
「あ、あのときの意趣返し……? あ、謝るので許してください……」
アウルは早々にギブアップした。隣のステラのゴミを見るような目に耐えかねたのだ。
「別にそういうつもりはなかったんだけど……まぁ、ポルノみたいな目に遭う女性もできるんじゃない? お前は何もせず子供を産んでろ、みたいな」
「あのなミーシャ。いくらなんでもそこまでするような遺伝子を持つ……女性など……」
アスランは言いながらミーシャを見る。ラクスも見た。天然自然のまま優れた遺伝子を掻き集めた先にいるミーシャの適性とは一体何なのか。プランにおいて誰が振り分けをするのかはわからないが、彼女の遺伝子を増やすことが最も人類に貢献するとイカれたことを考えないなど誰が言える。
「流石に私は兵士だと思うけど……そうじゃない人もいると思う。一生事務員とか、したくもない芸術をさせられるとか。っていうかさ、もしデスティニープランが導入されたらプラントにいる人同士で結婚できなくない? だってコーディネーター同士って子供出来にくいんでしょ?」
「あ……」
キラもラクスも、呆然とミーシャの言葉を繰り返した。
「デスティニープランが導入されたら起こるのはこの世の地獄。好きでもないナチュラルと、憎んですらいるコーディネーターと、結婚しなきゃいけなくなる。――無理矢理」
ミーシャはあーやだやだ、と肩を竦める。
「これがデュランダルの切り札なら……まぁあいつは終わりだよ。こんなの従うヤツは自分の遺伝子を
……例えば昔は腕力体力が大正義で、計算なんて覚えたって何の意味もない。だが今はテクノロジーに強い人間が金を得て伴侶を得られる。たった数千年でそこまで変わるのだ。遺伝子を恣意的に運用するということは、遺伝子多様性を損なう結果になるのでは、と思う。誰だって
「……止めなくてはなりません」
「うん。僕達は……選べない明日は嫌だから」
「……そんな小難しい話しなくてもよ。あいつのやる事気に食わないでいいんじゃないすか、二人共」
スティングが飄々とした様子で言った。
「シン……シンが好きな人と一緒になれないのは嫌」
その好きな人が自分でなくてもいい。……きっとそうなるだろう。自分は連合で、相手はザフト。シンが選んだのなら、悔しいし悲しくなって泣いてしまうだろうが……きっと納得できる。――ただ、遺伝子なんかにシンの相手を決めてほしくない。
「僕は難しいこと考えたくないけどさ……流石に奥さんくらい自分で決めたいよ」
「……アウルに……お嫁さん?」
「いくらなんでもいつかは来るって!」
ステラは疑わしげだった。こんなときでもいつもの調子を崩さないバレンタイン隊の面々に、キラもアスランも毒気を抜かれる。
「ミーシャ」
「ん?」
「今度は……一緒に戦えるね」
「まぁね。次からの戦闘は楽なもんだよ。なにせキラとアスラン相手にしなくていい」
「僕も……君と戦わなくていいなんて、夢みたいだ」
キラがそう言い終わると、ドミニオンから通信が来た。ドミニオンに一人残ったアズラエルからだった。彼は元ザフト兵と元脱走兵だらけの艦に乗り込むのを断固拒否したのだ。ドミニオンを乗っ取ってローエングリンをアークエンジェルとエターナルにブチ込めば最高にスカッとするだろうな、そんなことを考えながら通信をしている。
「ミーシャ、担ぐ神輿が軽すぎて自分で飛んでいきましたよ」
「……?」
アズラエルの言葉にその場にいる誰もが意味を理解できずに首を傾げる。
「……神輿……?」
「コープランドの現在地、知りたいです? アルザッヘルです」
「……は? え? なんで?」
アズラエルの言葉に、アークエンジェルのブリッジがざわつく。なぜ大西洋連邦大統領の名前が出てくるんだろうか。ミーシャとしてはそれどころじゃない。月基地に大統領が? なんで!?
「アズラエル理事。どういうことですか?」
「これはこれは歌姫様。戦艦で慰問ライブですか?
「アズラエルさん。ちょっとヘイト抑えて」
「ミーシャが言うなら抑えましょう。そこの歌姫様は自分の遺伝子適性が『煽動家』か『テロリスト』のどちらかではないかと恐れていらっしゃるので止めたいのでしょうが……」
「アズラエルさん?」
ミーシャが再三注意すると、アズラエルは不愉快そうに肩を竦めた。
「……わかりましたよ。どうやら彼、ヒーロー願望があったらしくて、止める間もなく宇宙に上がってアルザッヘル基地にいます」
「いや……いやいやいや……。何をどう考えたらそうなるの? っていうか行動早すぎない?」
アークエンジェルの通信室でコープランドと話したのは数時間前だ。あの会話のすぐに宇宙行きを決めたとしか思えない行動速度である。……もしかして自分の『ヒーロー』という言葉が何か琴線に触れたのだろうか。
「まぁ彼の考えはともかく……彼は今危険です」
言われなくてもわかる。
「アレなら世界中どこでも撃てる」
街に撃つのは躊躇っても、軍事基地に撃つのを躊躇ったりはしないだろう。コープランドが危ない。でも……
「助けられそう?」
「相手次第です」
その言葉にミーシャの顔が歪む。相手が撃つか撃たないか。それによると。……相手に一方的に生命が握られている感覚がする。不愉快で、どうしようもなく怖い。
「……ワシントンDCもだよね」
「もちろん射程内です」
ミーシャの決断は早かった。
「バレンタイン隊、即時ドミニオンに帰還。レクイエムを撃破しにいくよ」
「了解」
ミーシャは即座に行動を開始する。ふと、ラミアスの傍にぴったりとくっついて立っているネオを見た。
「……ロアノーク少佐」
「はっ」
ラミアスもそのネオの距離をなんの疑問も思っていないようだった。きっとラミアスには打ち明けたのだろう。
「……ロアノーク少佐はアークエンジェルに一時出向。アークエンジェル指揮下に入って戦え。あー、えっと、不審な動きがあったら報告せよ」
ミーシャが取り繕うような命令をすると、ネオはふっとほほ笑んで、それから敬礼する。
「了解。ロアノーク少佐はアークエンジェル指揮下で戦いつつ、監視の任に就きます」
「ん。行動にかかれ……ということだから、よろしくね、ラミアス艦長」
ミーシャがほほ笑むと、ラミアスは心配そうな顔になった。
「い、いいの? だってそっちも戦力が……」
「いいんだよそんなおっさん、いてもいなくても」
スティングが突き放すように言った。アウルが笑う。
「そーそー、気にしないでくださいよ、ラミアス艦長! ……ロアノーク艦長になったら言ってくださいね?」
ステラはほほ笑んで言う。
「……一緒になれるなら、一緒になったほうがいい。……と、思います」
優しく優秀な部下を持ったものだ。ミーシャは誇らしい思いをしながら、頷いた。
「そういうわけだから、大丈夫だよ。じゃ、よろしくね、ネオ」
「……恩に着るよ」
ネオは心からそう言った。こんな風に、堂々と愛しい女の傍にいられることになるなんて思ってもいなかった。名前を捨てて、地球軍兵士として生きることを決めて。……アークエンジェルが戦場に出てきたときは、もうラミアスと話すことなどできないとすら思っていたのだが。
……だが、ネオは今こうしてラミアスと戦うことなく話していて、それどころかラミアスを護るために戦うことすら許された。……ミーシャには感謝してもしきれない。
「いいって、そんなの。……さ、みんな行くよ!」
「了解」
ミーシャは改めてブリッジから出ようとする。その背中に、ラクスが声をかけた。
「あの、ミーシャさん、本当に議長と戦うのですか?」
「あいつの考えなんてもうどうでもいい。あいつも結局はクズのザフトだったってことだよ。……デュランダルはレクイエムを握ってる。ならそれを破壊する以外道はないんだよ」
それ以上の会話をせず、ミーシャ達はドミニオンに帰っていった。
「……私達も決断せねばなりません。議長の考えを受け入れるのか、立ち向かうのか」
ラクスがその場にいる人間を見回して言う。
「僕は……苦しくても、辛くても、自分で選べる明日が欲しい」
キラがラクスを見て言う。
「俺は、遺伝子に自分のやることを決められたくない」
アスランが言う。
「俺は……マリューと一緒になれないんじゃあなぁ」
ネオ……堂々とラミアスと共にいられるようになったムウが言った。
「私もよ、ムウ」
「よせよ、俺は今ネオなんだって」
ネオに抱きつきながら、ラミアスが言う。
口々に、自分の戦う理由を言っていくアークエンジェルクルー。最後の一人……メイリンが言う。
「私、自分のしたいことは自分で選びたいです」
ここに意思統一が図られ、三隻同盟のクルーはエターナルとアークエンジェル……そして、ドミニオンに別れてそれぞれ発進。一路、レクイエムへと向かう。
――議長の齎した新たな世界地図は、ザフトの中でも戸惑いを持って語られていた。特に動揺したのがシンだった。親友のレイは困惑するシンを連れて自室へと戻る。
「レイ、アレはなんだよ? デスティニープランって……」
「人に不自由を強いるものだ」
レイは自分のベッドに腰掛けて言う。あっさりと議長を否定するような言葉に、シンの動揺は強くなる。
「だが、戦争のない世界ができる」
「あっ……」
「シン。人は色んな理由で戦う。それは人が迷うからだ。こいつがいなければアレは俺のものなのに。あいつが生きていたら俺は生きていけない。そんな理由で武器を取り、戦火を広げ、悲劇と慟哭は新たなる戦いの狼煙となる。
――そんな世界もううんざりだ。そうだろう?」
レイの目は沈んでいた。だがそれは閉ざされた未来を知っているからだ。彼はシンを見上げる。
――彼はどう生きるのだろう。ステラという地球軍の少女か、ルナマリアか。どちらを選ぶのだろう。朴念仁なシンのことだ、もしかしたら数年はかかるかもしれない。親友の恋の鞘当てをこの目で見れないことが、心残りだ。
「俺は……」
「シン、議長は正しい。やり方については……俺もどうかと思う部分はある。だがギルについていけばきっと、戦争のない世界ができる。大手を振ってステラに会いに行ける世界になる」
「レイ……」
「お願いだ、シン。ギルを助けてやってほしい。ギルにはお前の力が必要なんだ。きっとギルは、お前に報いる。幸せになれ」
――俺のいない世界で。
「な、なんだよ、レイ。おかしいぞ。まるで、まるで死ぬみたいな言い方じゃないか。お前だって議長に期待されてる。お前だって幸せになれるさ」
大丈夫だ。そう言おうとしたレイだが、手先が震えて仕方がない。……もうか。枕元の収納を開いて薬を取り出すと、中の薬を何錠か飲む。
「な、なんの薬だよそれ?」
「さぁ、なんだったか。覚えていないんだ」
自分の生に無頓着だったレイは、生命線である薬のことをよく知らなかった。だが、もういい。薬を飲む生活もすぐに終わる。
「……お前には言ってもいいか。シン、俺はもう長くない」
「えっ……?」
「テロメアが生まれつき短くてな……。まぁ、なんだ。
クローンなんだ、俺は」
「クローン……?」
レイは頷く。自分がクローンだからとシンは離れたりしない。そう信じられたからこそ打ち明けた秘密だった。
「だからシン。俺の代わりに守ってくれ。議長と、議長が示す新しい世界を。誰を犠牲にすることになっても」
「……レイ」
「俺は……俺は心から、お前の幸せを願っている」
――デュランダルは議長室でコープランドの演説を聞きながら冷ややかな目を向けていた。
「糸の切れた操り人形ほど哀れなものはない」
それは誰に向けた言葉なのか。デュランダルの心は凪いでいた。もう少しで世界が終わり、新たなる世界が始まる。人類は欲望と無知から解放され、自身の適性と遺伝子が齎す恩恵を最大限に受けて、栄光と繁栄の道を歩みだす。……生命体としての幼年期が終わるのだ。
「大統領……まさかミドルスクールの少女に指示を求めてはいないだろうね?」
一人、デュランダルは呟く。もしそうなら本物の愚物であろう。いや、自分で判断した結果が、月基地アルザッヘル入りなのかもしれない。初めて自分でした決断が自身の破滅を呼び込むとは。やはり運命は抗う者に厳しいということだろうか。
「切り札は手元に……敵の手札を削る。
――人類存亡を賭けた最終防衛策だと、言ったのだがね……」
勝利は目前。オーブは宇宙戦力をそれほど保有していないし、次の一撃で地球軍の月基地は全滅。
デュランダルは通信を開くと指示を出す。
「私だ。レクイエムを放て。目標はアルザッヘル基地。地球軍の反抗を許すな。人類最後の策を否定する……彼らは人類の敵なのだから」
デュランダルが命じてしばらく。再びレクイエムは放たれた。
アルザッヘル基地、消滅。中にいたコープランドも、当然宇宙のチリへと変わった。
――ミーシャはドミニオンのブリッジで頭を抱えて掻きむしっていた。また負ける。オーブで補給と修理を受けて宇宙まで来たが、まさかアルザッヘルが落ちるとは。あそこは現存する最後の地球軍月基地なのだ。つまり、もう補給は受けられない。アークエンジェルとエターナルの三隻でザフトを蹴散らしてレクイエムを破壊して中継コロニーも壊して……やることが多すぎる。いや……たしかオーブ宇宙戦力がある。あと限られてはいるが残存戦力がまだ地球軍にもある。もうギリギリだ。
「……アズラエルさん、核ミサ――ごめん、忘れて」
「核ミサイルはあそこにあったのが最後です。大統領も死にましたし、これからどうしましょうかねぇ」
アズラエルは余裕の様子だが、それはミーシャが物凄く取り乱しているからだ。狼狽えて取り乱す人間がそばにいれば冷静になるというやつである。アズラエルももう打てる手はほとんどない。コネのある相手がほとんど死んだのだからもうどうしようもない。ここに至って金の力などなんの役にも立たないことを実感する。おそらく今この宇宙にいる地球軍で最も権力を持っているのはミーシャだ。彼女以外の上官はみんな死んだ。自分が一番上。重すぎる責任に発狂しそうだった。
「業腹ですが、アークエンジェルとエターナルの2隻と協働するしかないでしょうね。忌々しい……」
ぶつくさ言いながらもザフト脱走艦とウルトラCをキメて正規軍に返り咲いたアークエンジェルと協力することを受け入れるあたり、アズラエルも相当追い詰められているのだろう。
新三隻同盟とか後年言われたらそれだけでアズラエルは自殺したくなるだろう。何が何でも教科書にはその単語を書き換えてやる。彼は内心そんなことを思う。
「私達、引くこともできない戦いで月のザフト戦力とレクイエム潰さなきゃいけないんだよね。できるかな……やるしかないよね」
「別にレクイエム自体を破壊する必要はありません。レクイエムの仕組み上、発射装置の直上に必ず中継コロニーがあって、それを破壊すればただ上にビームを撃つだけの置物に早変わりです」
「迷ってる暇はないね」
ミーシャが決断し、進路を月に取ろうとしたとき、デュランダルがまたもや放送を始めた。
「あいつ煽動家か何かなの? いちいち放送して……」
「彼の野望を打ち砕いてその顔を全国放送してやりたいところですね」
アズラエルは苛立ちを隠さず言う。まるで世界のリーダーかのように振る舞う彼は何よりうっとおしく感じる。デュランダルはいつもの断り文句を言って、早速本題に入った。
「私の提唱するデスティニープランは人類全ての最後の救済策です。これがなければ人々は争いを辞めず、いつかお互いを滅ぼし合うでしょう。地球軍は即座に軍を差し向けてきました。このような乱暴な対応には、我らも力で対抗するしかありません。
――そして、私はこのプランを否定する全ての国家、組織を恒久和平を否定する者として、断固たる態度と対応を取らせていただきます」
ミーシャは彼の放送に心底感動した。まさかこんな人がいるなんて。
――
彼は教科書に載せるべきだ。稀代の詐欺師として。
「バジルール大佐、行こう」
「ああ」
きっと、自分達がデュランダルと戦うことを決めたと知ったら、きっとデュランダルはワシントンに向けてレクイエムを発射する。いや……もしかしたら元気なオーブ相手かも。とにかく、だからといってデスティニープランなんてものを導入するわけがない。
「みんな、ごめんね」
たとえレクイエムがワシントンに撃たれてもミーシャは死なない。安全なはずの場所が何より危険なんて世界は間違ってる。
……もし、もしワシントンにレクイエムが撃たれてみんな死んだら。全部終わった後、自分に向けて銃を撃とう。何も守れない人殺しなど、生きていたってしょうがない。
……月宙域近傍で、エターナル、アークエンジェル、ドミニオンの三隻は揃って航行していた。
最後の戦いが、やってくる。
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