【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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遠く果てなき融和

 ラクス・クラインにとってコンパス総帥とは何をする仕事なのか……。誰に聞かれるかによって答えは変わるだろう。誰よりも本音に近い回答ができるとしたら、ミーシャに聞かれたときだろうか。彼女の側にいると自分はただの年頃の娘で在れるように感じてしまう。そして、ミーシャに聞かれたらラクスはこう笑うだろう。

 

「偉い人の前でただひたすらに謝るお仕事ですわ」

 

 と。

 

 プラント最高評議会。文字通りプラント全体の意思決定をする会議である。正直、父の職場最前線ともなれば憧れの気持ちがなかったかといえば嘘になる。今はもうないが。

 

「クライン総帥は我が軍の被害をご存じない? 2個中隊24機。なんの数かおわかりか?

 

 ――残存戦力の数だッ!!」

 

 怒声と共に議場のテーブルに拳を叩きつけたのはハリ・ジャガンナートである。

 

「そもそもクライン総帥は我々が被害者であるという認識が果たしておありなのか!? 一方的にブルーコスモスに攻め込まれたのだぞ!?」

 

 ラクスは神妙な顔を作ってひたすらに頭を下げる。お悔やみの言葉を言って、申し訳ありません、とひたすらに謝罪を繰り返す。

 

「ヤマト隊長は何を考えているのか! 兵の気持ちを慮る気はないのか!?」

 

 ありますと言えたらどれだけ楽か。言ったところで意味はない。

 彼はコンパスが気に食わないのだ。だから彼らの瑕疵をあげつらって攻撃して、あわよくば解体まで持っていこうとする。彼はコーディネーターが地球軍やナチュラルと融和するなど言語道断、コーディネーターはコーディネーターだけで繁栄していけると頭から信じている。あのパトリック・ザラですら『いつか我らの叡智が解決して見せる』と楽観論しか唱えることができなかった致命的かつ絶対的な生物学的特性――出生率の低下――がある以上は、コーディネーターだけの繁栄はあり得ない。いつかどこかでナチュラルと共存しなければどんどんと数を減らしていき……ブルーコスモスの『バレンタイン派』が1人で笑う結果になってしまう。老境に差し掛かったミーシャが1人コーヒーをすすりながら『やっぱり思ったとおりだったね』と呟く光景が目に浮かぶようだ。

 だというのに彼や彼と思想を同じくする者はナチュラルとの融和などけしからん、とラクスを怒鳴りつけるのだ。

 

 ――だが、ラクスは彼らを否定する気はなかった。彼らもまた傷ついた結果なのだ。戦乱の傷は未だ生々しく残っている。かさぶたもできていない傷口はふとしたことで再び裂けて、鮮血が溢れだす。

 血のバレンタインで、レクイエムで。積み上がった死者を思えば軽々しく融和だ和平だ友好だなどと言えるわけがない。

 奪われたのだ、家族を、恋人を、仲間を、親友を。

 ――だが、もう戦争など二度としたくない。もう二度とこの世界で戦争など起こってくれるなと思っている人々がいるのも事実なのだ。憎むのにも疲れ果てて、ただ平穏がほしいと望むようになった人々がいるのだ。

 

 世界は未だはっきりしておらず、曖昧なまま進んでいる。ラクスがさらに謝罪の言葉を述べようとしたその時、現在の最高評議会議長、ワルター・ド・ラメントが横から口を出してきた。

 

「しかし、彼らの働きもあって、オルドリン自治区防衛隊の越境は阻止されたのでは? 現在の状況で地球連合と一戦交えるのはジャガンナート氏も望んではいまい?」

「ぐっ……」

 

 ジャガンナートは呻く。……保有戦力が激減し、トップエースが限られる今のザフトにとって最も嫌な存在、それはたった1人の戦士だった。

 ……魔弾の悪魔、ミーシャ・バレンタイン。彼女が前線にいるだけで士気は下がるわ兵は減らされるわでろくなことがない。

 もし、今回オルドリン自治区防衛隊が越境し、いもしないミケールを追って越境し、そこをブルーコスモスに突かれて戦争なんかになってしまえば悪夢が始まる。

 

「……!」

 

 あの悪魔が、またザフトに向かってくる。ジャガンナートはついに黙りこくってしまう。そのとき、ラクスが立ち上がってジャガンナートに向けて深く頭を下げた。

 

「この度は誠に申し訳ありませんでした、ジャガンナート国防委員長……」

 

 何度も下げた頭をまた下げる。辛くはない。何も辛くない。前線で戦うキラに比べれば。また戦争の泥沼が愛しい人を捉えることに比べたら。なんでもない。

 

――会議が終わったあと、ラクスは宇宙クジラの化石が置いてあるホールでワルターと話していた。

 

「ありがとうございます、ラメント議長」

「いやいや。だが彼の気持ちも汲んでやってほしい。ザフトは元より反地球連合の義勇兵で作られた組織……今更融和と言われても、戸惑う人間が多いのだよ」

「はい」

 

 ラクスは頷く。人の気持ちを蔑ろにしては、進む融和も進まない。人は正しさだけでは生きて行けず、かと言って欲しかないのかと言えばそうでもない。

 

「ただ我らは失いすぎたのです」

「……はい」

 

 ラクスの脳裏には自分の声と顔をした女性の姿がよぎっていた。守れると思ったのに、死なせてしまった。……そもそも自分がラクス・クラインを辞めなければ、済んだ話だったのに。

 

「しかし……ミケールのテロ行為が我らの感情を逆撫でするのも事実。結局カナジ……オルドリン自治区の近くには潜伏していなかった」

 

 ラクスはラメントの情報に肩を落とす。コンパス発足とほぼ同時期に頭角を現した、ミーシャやアズラエルですら知らないブルーコスモス過激派の筆頭。ラクスは彼に作為を感じていた。ただブルーコスモスの思想が故にテロをしているのではないと、そう直感していた。

 ……まず、彼がブルーコスモスかどうかすら怪しい。アズラエルは曲がりなりにも……と言っては彼に失礼か。彼は間違いなくギンッギンのブルーコスモスである。かつては核ミサイル満載のメビウスでプラントに核攻撃を仕掛けたほどのブルーコスモスっぷりは記憶に新しい。そんな彼が全く把握していない過激派ブルーコスモスの構成員などいるだろうか? 木端ではなく、一軍を率いてここまでコンパス相手に戦えるような人間を。

 

「やはり彼の居場所は……」

「ユーラシアの軍事緩衝地帯。まぁ、あそこでしょうな」

 

 コンパスにも手出しできない歴史ある緩衝地帯。そこに潜まれたらラクスの伝手では手の出しようもない。そもそもユーラシア連邦はコンパスを承認していない。主なコンパス理事国はユーラシア連邦と長年敵対していたプラントに、急に頭角を現して世界のリーダーを気取り始めたオーブに加えて3つも街を焼き払ったイカレ共の親玉、大西洋連邦である。ユーラシア連邦がこんな組織に入りたがるわけがない。ユーラシアは徹底的にコンパスを否定するスタンスを取っていた。無理もないが。

 彼らはミケールとその手下達に出玉に取られるザフトとコンパスを見て笑っているのだろう。そんな状況でミケールを討つので手伝ってくださいなど言えるわけがない。

 

「しかしまぁ……」

 

 議場の外に出ると一気に視界に映る色が鮮やかになる。空の青色に草木の緑色だ。

 

「彼らが戻るのも一月ぶりですか。ヤマト隊長は休暇を取られるのですかな?」

「はい、その予定です」

 

 ラメントの脳裏には二人の男女が浮かんでいた。優しげで儚さすら感じる少年と、快活で無邪気な年端もいかないように見える少女だ。

 

「彼らは不思議ですな」

「ええ」

「方やこの戦争の災禍全てを引き受けたような面持ちで……方や、戦争などこの世の些事とばかりに心から笑っている。なんとも対象的な二人ですな」

「ええ、本当に」

 

 ――ふと、キラが作ったペットロボット、ブルーがやってきてラクスの肩に止まった。トリィと対になるようなデザインをされたブルーは、華やかに羽ばたいてラクスの心を慰め、癒やす。

 

「本当に……優しい人なのです」

 

 白いフリーダムは、魔弾の伝説と共に語られる最強無敵のモビルスーツの代名詞だ。歴史がこのまま続けばきっと、エース級モビルスーツにフリーダムをあしらったデザインが伝統と言えるようになるのでは、そう思えるほどその戦果は華々しい。

 しかし中のパイロットが物憂げな少年であることを知る人はほとんどいない。

 彼はその戦闘能力に見合わないほど優しい。討った相手の大切な人を思って嘆き、守れなかった人の亡骸を思って傷付く。

 

 ――平和を。

 

 ラクスは誰よりも何よりも平和を熱望していた。切実に平和になってほしかった。魂を悪魔に売れば世界が平和になると聞かされれば迷わずに売り渡すだろう。それほどに平和を、戦争のない世界を渇望していた。

 全てはキラのため。

 

 キラの優しさが、彼自身を壊してしまう前に、平和にしないと。ラクスは、どうしようもなく焦っていた。

 

 そこから少し離れた東屋で、ジャガンナートと誰かが会っていた。サーベルを思わせる鋭い目をした男だった。

 ……タオの使いだと、彼は名乗った。

 

 ――カガリは痛む頭を指で押さえながら、コンパス理事会を開いていた。参加者はオーブ代表カガリ、プラント代表ラクス、そして大西洋連邦代表……ムルタ・アズラエル。

 

「以上が、ファウンデーションのアウラ女帝から届いた申し出だ。プラントと大西洋連邦にも同じものが届いているはずだ」

「アスハ代表……コレ、本気で信じるおつもりで?」

 

 ここにいるメンバーはコンパス創設に携わった重要人物である。本来ならカガリとラクスだけの、大切な、しかし友人として腹を割った会話ができるはずだった。ここにミーシャもいたかもしれない。しかし、アズラエルが割り込んだのだ。そして、かなりの出資をしている大西洋連邦に強くでれず、カガリもラクスもアズラエルの参加を許すしかなくなっている。

 

「不審な点は多い。だが筋は通っている」

 

 だが、奇しくも会話を重ねることでカガリもラクスもアズラエルの人となりがかなりわかってきた。かなり差別的な男で重度のコーディネーターアンチ。しかしこんな男にも妻と子供がいてちゃんと愛している。その上ミーシャと仲が良い。ロゴスにしてブルーコスモスという悪役街道ぶっちぎりの男が味方など、思えば遠くに来たものだ、とカガリもラクスも思っている。

 

「これで全く不審に思わないならコンパスの未来も暗いところでしたね」

 

 アウラ女帝直筆の親書には以下の点が綴られていた。

 ブルーコスモスの指導者、ミケールを捕縛する手伝いをしたい、と。

 

「彼の国はミケールの居所をかなり正確に掴んでいるようです。協力する意義はあるかと思うのですが」

 

 努めて冷静を装っているが、興奮を隠せない様子でカガリの隣のトーヤが発言する。今まで雲を掴むように所在がわからなかったミケールの居場所がわかり、捕縛を手伝ってくれるなんて。しかし、アズラエルは目を光らせて、トーヤを嗤った。

 

「それで、トーヤ・マシマ。先輩として1つ助言をしましょう。まぁ子供でも知ってる簡単な理屈なのですが。美味い話には裏がある、ということです。――もしや初めての手柄を前に逸ったとか、ないですよねぇ? そんな様子ではミーシャと一緒に横で歩こうなんて無理ですよ」

「……そんなんじゃないです。でも向こうの利益がわかっているのならどうです?」

 

 ミーシャを引き合いに出されるとつい噛みついてしまうしついやる気になってしまう。トーヤはそれがなぜだかまるでわからない。わからないが、1つだけはっきりしていることがある。

 この男は嫌なヤツだ。

 

「ほう? いいですね、言ってみてください」

「コンパスは国際組織です。平和維持を目的とする国際組織に協力することで国家承認を大西洋連邦から取り付けたいのでしょう。向こうの見返りはコンパスへの参加ということも、裏付けになるかと」

 

 国家承認。新興国家ファウンデーションにとってそれは多少の血を流してでも得たい物だろう。国というのは意外にも誰かから認められなくては国として存在できない。いくら勢力が強くても国として認められないのであればそれは規律の取れた武装集団にすぎないのだ。周辺国家全てを力付くで殴りつけて自らの存在を刻み込み、無理矢理国家として認めさせる……そんなことができるのはいいとこ中世までである。現状ユーラシアは当然としてオーブも大西洋連邦も国家承認はしていない。

 

「――なるほど。一理あります。まぁ優秀というのは事実なようで安心しました」

「なら……」

「しかしいくらなんでも話が出来すぎています。歌姫様もそうお考えでしょう?」

「……アズラエル理事。わたくしはコンパス総裁ですわ」

「おや? その椅子随分座り心地が悪そうですが気の所為でしたかね」

 

 ラクスは黙る。この男は本当に嫌な所をついてくる。……というか嫌味なしに自分と話は出来ないのだろうか。できないのだろうな。

 

「――ともかく。確かに話は出来すぎています。どれほど探しても見つからなかったミケール大佐をあと少しのところで手が届く……そう思わされていると考えることはできます」

「……へぇ」

「しかし、我々はその罠かも知れない手を振り払うことはできないのです。それに、半年前のフリーダム強奪事件の際も……」

「ザフトの警備手腕には実に驚かされます。退屈しませんよ」

「借りがあるのは事実だ。……まったく。厄介な所に逃げ込んでくれた」

 

 カガリは呻く。ユーラシア連邦の軍事緩衝地帯は当のユーラシア連邦ですら触れたくない地域だ。国境を接して血みどろの泥沼絶滅戦争を起こさないためだけの土地。そこには最前線で活躍するような部隊が犇めき合って監視に励んでいるらしい。おいそれと手を出すには怖すぎる場所だ。

 

「……まぁ、泥をファウンデーションが引き受けてくれると言うならそれこそ国家承認も考えないでもありません。しかしミケールがそこから出てきて前線に出てきたと彼らが言い出したらその時は……」

「その時は、なんです」

 

 トーヤの言葉に、アズラエルは苦い顔をして言った。

 

「危険信号です。多分奥に囲い込まれた時点でカタにハマってると考えるべきでしょう。それでも貴方がたはコンパスを彼の国に向けるのですか?」

 

 ラクスは悩む。本来なら一択のはずだ。もはやどこも疲弊している。ミケールのような過激派は一刻も早く捕縛しなければならない。

 なのに、ラクスは首を縦に振るのを躊躇っていた。

 

「ああ、それと。ミケールを捉えたら身柄は是非ミーシャに引き渡してください」

「なぜです?」

「彼女の拷問が役に立つからですよ」

 

 くくく、といかにも悪役っぽく笑うアズラエルにトーヤは怯む。拷問。その言葉がトーヤの頭に何度もリフレインする。

 

「……トーヤを脅かすのはやめてくれ」

「おや、これは失敬。それで、アスハ代表、クライン総帥。早く結論出して欲しいものですねぇ」

 

 ラクスはしばらく悩む。そして、絞り出すようにして言った。

 

「少しだけ、考えさせてください」

 

 ――その日の夕方、パイロット達はブリーフィングルームに集められていた。整列させられているキラたちパイロットはミーシャが乗馬用の鞭を手にしていることに少し嫌な予感がしながらも、代表してキラが聞いた。

 

「えっと、ミーシャ。この集まりは何かな?」

「元民間人で軍事教育ゼロの隊長に、エクステンデッドとしてまともな日常より戦場暮らしの方が長い隊員。おまけにプラントにはそういう礼儀作法がまだ発達途上で、ミネルバの進水式の時には式典っぽく豪華なジンをでっちあげるような有り様。

 ――私達の次の目的地がどこか言ってみて、シン」

「えっ!? ファウンデーション王国、の予定、だけど。まだ総帥が決めてないから未定って言ってた……ました」

「王国!」

 

 ミーシャは鞭でびし、とシンを指さした。

 

「備えあれば憂い無し! 今でこそ新興国として冷遇されてるけど、あの土地はそれなりに古い場所なの」

「……土地が古かったら何が偉いんだよ?」

 

 シンが面白くなさそうに聞く。プラント育ちってわけでもないのにすっかり染まった様子だった。

 

「歴史は重み。歴史がないと、どうしても国際社会じゃ軽んじられてしまうの」

「じゃあ、何年くらいあったらプラントも『歴史ある国家』になれます?」

 

 アグネスが素直な疑問を口に出す。プラントは国として正式に認められてまだ5年も経ってない。深い歴史のある、とか言う言葉にはどうしても弱い。

 

「え、まぁ一概には言えないけど千年は欲しいなー」

「せ……」

 

 でも確かに千年も家が続けば、アスカ家も武家の名門なんて言われたりするんだろうか、なんてことをシンはぼんやり思う。

 

「――話題がずれたね。とにかく、私達は敵か味方かわからない相手に挨拶しに行くの。この時舐められないようにするために必要なことは? アウル!」

「はい! 相手を挑発して手を出させてボコボコにします!」

「バカ! ぜっったいそんなことしちゃダメだからね!」

 

 ミーシャはプンスカ怒るが、内心アウルと同じことを思っていた人もいる。アグネスとステラ、シンである。

 

「礼儀作法! 完璧な礼儀作法で相手を威圧するの!」

「……礼儀で威圧……?」

「観閲式とか経験ない? あんな感じ」

「……それってなに?」

 

 ルナマリアの言葉にミーシャは天を仰いだ。流石は元々義勇兵で、階級すらあやふやな軍隊だ。まぁ、そういうのはこれからできていくんだろう。始まりはきっとどの国だってそうだった。……国の黎明期を間近で見られると思えばかなり役得なのではないか。うーん、これは記録すればきっと50年後とか良いお金になるかもしれない。今からでも原稿を考えてるといいかもしれない。そうだ日記をつけよう。そんなことを頭の片隅で考えながら、ミーシャは仕切り直す。

 

「とにかく、平時の軍隊は誰よりも規律正しくすることで戦うと言っても過言じゃない。だから、ファウンデーション王国に舐められないために、練習するよ!」

「えっと、練習ってなに?」

 

 ミーシャはブリーフィングルームのプロジェクターのスイッチを入れて書類を映す。

 

「……ファウンデーション王国謁見式、式次第……?」

「これに細かく私達がやること書いてるから、それを練習するの。歩くタイミングから頭下げるタイミングまで完璧に揃えるよ!」

「えー……? やる意味あんのかよそれ」

 

 シンは凄まじく度胸のある言葉を宣った。アグネスなんか信じられないものを見るような目で見る。

 

「ふーん、別にしなくていいけど、向こうの女王陛下の前で失態演じて恥かいても知らないからね。みーんな揃ってぴしっとしてるなか自分だけ遅れたりうまくいかなかったりするの……。想像して? ルナマリアの冷たい目を。そのあと呆れ返った顔で『もっと練習しとけばよかったのよ』とか言われる瞬間を。彼女の前で男としての魅力がガラガラと崩れる瞬間を……」

「やります」

 

 シンは素直な子だった。ミーシャがにんまりと笑うと、ルナマリアが頭痛を抑えるような仕草をする。どうしよう、私の彼氏、14歳の子に手玉に取られてる……。なんか、そういうところも可愛いと思う。確かにシンが女王陛下の前で1人だけ遅れたりしたらきっと恥ずかしいし文句も言うと思う。でもその光景はきっとこの上なくシンが可愛く見えるはずだ。……なんかその光景が見れなくなるのが少しだけ惜しい気もする。

 

「ん……僕はまだアレの調整と開発があるから……」

「ちゃんと練習しなよ? まぁキラなら大丈夫か」

 

 ミーシャはあっさりとキラに許可を出す。キラはみんなにペコリと会釈すると部屋から出ていった。また忙しく兵器開発に勤しむのだろう。

 

「よし、じゃあ全員の認識が揃ったところで始めようか! これから毎日特訓だ!」

 

 ミーシャは楽しげに笑う。

 ――なんか、教導隊っぽいなぁ。ステラやアウルはミーシャの経歴を思い出しながら、そんなことを思った。

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