【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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ファウンデーション王国へ

 ……思えば色々あったなぁ。

 ミレニアムのブリッジでミーシャはぼんやりと思った。首都アプリリウスに自分が堂々と入港することになるなんて。

 

「物憂げだねぇ」

 

 コノエが艦長席の横に座るミーシャに聞く。彼はミーシャを心配していた。いくら決まったこととは言え、ミレニアムは大部分をザフト兵で構成した戦艦だ。かつての敵と手を取り合って戦うなんてこと、大人でも難しいのに子供に果たしてできるものなのか……。

 

「ん……私がアプリリウスに行くとしたら攻め込む時か、処刑される時かのどっちかだって思ってたから」

「そのどっちもじゃなくてよかったじゃないの。私はもう戦争はコリゴリだよ」

「……ザフトはみんな、ナチュラルを皆殺しにしたいんだと思ってた」

「若い子の中にはそういう子もいるだろうねぇ。彼らはまだ子供だし……上の言うこと、世間の言うことをまるまる頭から信じてしまうものなのさ」

「……プラントでは、シンたちみんな成人だよ?」

 

 はっはっは、とコノエは笑う。たしかにそうだ。プラントでは15歳で成人だ。大人として扱われる。だがコノエの意見は違う。

 

「法律が大人だと言えば大人ということにはならないと思うよ。それに、プラントの成人年齢が引き下げられたのなんかつい最近だ」

 

 少なくともコノエが彼らと同い年だった頃は、プラントはただの工業コロニーで、成人年齢はプラント理事国と同じ二十歳だった。

 

「ふーん……。変な国だね、プラントって。大西洋連邦はイかれてるけど」

「変な国さ。でも、時が経てばいつか、変じゃなくなる時が来る。国っていうのはそんなものだよ。それに……大西洋連邦だってみんながみんなおかしいわけじゃない。君がいるだろう?」

「――私なんてその筆頭みたいなもんだよ」

 

 ミーシャはどんどん近づいてくる砂時計のようなコロニーの中央部、宇宙港を見る。つくづく脆そうな構造だ。こんなのフリーダムのバラエーナを5発も撃ち込めばポッキリ折れてしまうんじゃないか。そう思ってしまう。

 

「戦争に参加しているからかい?」

「いや……。なんか最近おかしくって。自分が本気で世界最強だとか思ったりみんなのこと心のどっかで見下したり……。かと思えば自分で自分を可哀相だと思ったり……。多分本格的に心の病気になっちゃったんだと思う」

 

 ミーシャはするすると、コノエに心の内を話していた。普通ならこんな事話さないのに、コノエには素直に相談できた。――彼が元教師と知っているからだろうか。

 

「おやおや、それは覚えがあるなぁ……」

「どういうこと?」

「君は普通の14歳ということだよ」

「?」

「もう少し成長すれば落ち着くさ。それまでは周りがきっとフォローしてくれる」

 

 ただ、そうとなれば部隊長なんて重責を背負わせるべきではないのかもしれない。コノエの冷静な部分がそう思わせる。……だが、ミーシャの人事権はコノエにはない。ミーシャの人事権があるのはラクス、カガリ、そしてミーシャ本人か、アズラエルだ。みんな若いねぇ、なんてコノエは内心でため息をつく。唯一酸いも甘いも噛み分けた大人であるアズラエルは重度のブルーコスモス、と。

 ――まぁ、本格的に危なくなりそうならフォローすればいい。コノエはそう覚悟を決めた。

 

 ――ミレニアムの休憩室ではシン、ルナマリア、ステラ、アウルの四人が寛いでいた。アグネスがその場にいないが、誰も気にしない。どうせキラの尻でも追っかけてるのだろう、そう思われている。

 

「俺、信用されてないのかな」

「急にどうした?」

 

 シンの呟きに、アウルが答える。

 

「キラさん……隊長は1人で戦って、俺達はずっと後方だ。それがなんか、悔しくて」

「シン……。ヤマト准将、戦い方知らないんだと思う」

 

 ステラがズバリと物を言う。

 

「いやいや……。そんなわけないでしょ、ステラ。あのフリーダムのパイロットなのよ?」

 

 ルナマリアが半笑いでツッコミを入れる。恋のライバル相手にずいぶんと仲がいいのは、ステラの幼く見える人柄故か、あるいはしっかりと線引きして弁えるステラの付き合い方がいいのか。……そもそも今ステラはシンをどう思っているのか。本人以外には預かり知らぬところである。

 

「あー、それはあるかも。隊長、指示すんの戦闘開始前くらいなんだよなー。バレンタイン准将なら任せてくれてんだろうなって思うけどさぁ」

「……俺はそういうことを言いたいんじゃない。俺はただ任せるって言って欲しいだけなんだ」

 

 平和を求めるキラの考えに賛同し、コンパスに志願した。キラの経歴はわかっているつもりだ。今まで巻き込まれただけで軍事教育を受けたことがない。だから部隊の率い方も知らないのも無理はない。だが、だからこそ、信用されていないと感じてしまう。きっとキラはミーシャ相手なら、容易く『お願い』と言えるのだろう。信用される人がいる隣で、信用されない自分がいる。それがもどかしい。

 

「……信用されるわけないじゃん、フリーダムキラーさん」

 

 休憩室にひょい、と顔を出したアグネスがシンに向かってくる心無い言葉を向ける。

 

「……なんだよそれ」

「知らないの? あんたの渾名。あの悪夢の片割れ、白いフリーダムを撃墜した最強のパイロットってこと。……私なら後ろから撃ってくるかもしれないやつに任せたりしないわ」

「ヤマト准将、気にしないと思うよ」

 

 ステラが淡々と言った。アグネスはキッとステラを睨みつける。

 

「へえー? なんでそんなこと言えるわけ?」

「ヤマト准将とアスラン、親友を殺され合ったけど前の大戦だと仲良く一緒に戦ってたし……。それに、隊長とも殺し合ったことあるし。……むしろ直接ヤマト准将と戦ったことないのアグネスだけだよ?」

「……それで私が仲間外れにされてると思うと思ってんの?」

 

 ステラは首を振る。

 

「ヤマト准将は気にしないってシンに言いたいだけ」

「ふん! いい子ちゃんぶっちゃって。そんなアピールでルナマリアからシンを盗れると思ってんの?」

 

 ステラは顔をムッとさせる。

 

「盗る気なんてない」

 

 ステラが本心から言うが、アグネスには届かない、カラカラと笑うと、同士を見つけたように楽しげに嗤った。

 

()()()()()()()()()()()()。仲良くしましょ」

「ん……」

 

 複雑な気持ちだったが、出された手を振り払うほどステラはアグネスを嫌ってるわけではない。素直に握手すると、用事は終わったとばかりに手を離し、アグネスはシンに詰め寄る。

 

「ねぇあんた、ジャスティスよこしなさいよ」

「はぁ?」

 

 よこすもなにもシンはジャスティスを所有しているわけではない。そりゃ自分のものだという認識はあるが人にあげられる物ではないことくらい理解している。

 

「いや自分の機体気に食わないならバレンタイン准将に言えよ……」

「いやよ怖いもの。だからシンが自分から隊長とヤマト准将に『俺が弱くてどうしようもないからアグネスにジャスティス譲ります』って言うの」

「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ!」

「てかギャンも普通に強くない?」

 

 アウルが会話に割り込む。アグネスは肩を竦めて、わかっていない奴らに解説してやる。

 

「いい、ジャスティスはウチじゃ副隊長の機体よ。ヤマト准将の隣に相応しいのはこの私! ヤマト准将の隣でジャスティスを駆って戦うことで、公私共々パートナーになれるってわけ。強い弱いじゃないの」

「俺が信用されてないのにアグネスが認められるわけ無いだろ!」

「落ちこぼれのあんたが言うようになったじゃない」

 

 アウル、ステラがその言葉にぽかんとする。落ちこぼれ? シンから最も縁遠い言葉のように思える。アウルは自分達と戦ってそれでもスティングを仕留めるほどの実力を持つシンを馬鹿にされ、庇うようにシンとアグネスの間に入る。

 

「言うじゃん。じゃあ今度俺とステラの2対1でシミュレーターでバトろうぜ。それで負けたらお前のがシンより弱いってことだ」

「なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないのよ? オフはヤマト准将と仲を深めるつもりなのに」

 

 アグネスの言葉に、アウルは呆れたように脱力した。

 

「あのなぁ。お前もうちょい現実見たら?」

「ふん! 私に靡かない男なんていないのよ」

「そりゃ経験ないやつ限定じゃね?」

「馬鹿言わないで。私は何人も寝取って来たのよ」

「おー、堂々とよく言えるぜそんなこと。なぁ、シン、告げ口してやろうぜ」

「えっ?」

 

 アグネスの顔が剣呑に歪む。アウルを睨んで、今にも噛みつきそうな勢いだ。

 

「そんなこと言ったら許さない……!」

「おっと……頼み方ってのがあるんじゃないか?」

「――! 言ったら一生恨むから……!」

 

 アグネスは捨て台詞を吐いて駆け出した。アウルは肩を竦めてシンを見る。

 

「気にすんなよ。シンが副隊長ってのは僕が認めてる。ま、3対1で負けてたら認めるしかないんだけどな!」

 

 ハハハ、とアウルは笑う。シンは複雑な気持だった。仲の良さそうなステラとアウル。兄妹みたいだ。本当ならそこにもう一人いたはずなのに。命を奪った自分に対する恨み言はない。なぜ――?

 

「あ、ああ。悪いな、アウル」

「気にすんなよ」

 

 ――本当に恨みはないのか。ああ、こんな調子なのに、よく自分はキラに信用して欲しいなんて思ったものだ。武器を交えて殺し合うということは、もっと重いものなのだ。それを心から理解した。

 

 ――ラクスは短い休暇を、キラのために費やしていた。自分も忙しいのにわざわざ休みをとって、自宅でキラのためにと料理を作っていた。カリダ……キラの母から教わったキラの好物だ。あれほど儚げに見えるのに、料理の好みは唐揚げなど油物が多い。そういうところは年相応なのだな、と思わず心がときめいてしまったのを思い出す。

 

 揚げ物が一段落したところで、家に電話がかかってきた。相手はキラだ。

 

「……ええ、はい。わかりましたわ」

 

 今日、帰れない。言葉にすればどれほど簡単なのか。だがラクスはその言葉で楽しく高揚していた気持ちは消沈する。だがそれを声に出すことはない。電話を切って、項垂れる。ふと、キッチンにある料理が目に入る。

 ……続き、作らないと。

 ――誰も食べてくれないのに。

 

 ……夢を見ている。いつ眠ったのだったか。そう、料理を作り終わって……泣いているうちに眠ってしまったのだ。暗い世界の中、靄の奥に人影が見える。

 ――キラ?

 その人影に向けて駆け出すと、彼が振り返る。キラとは似ても似つかない男の顔だ。

 ――誰……?

 

 髪の色も目の色も顔の作りもすべて違う。だがラクスは彼を、キラに似ている。そう認識した。

 

 ――ラクスが目を覚ますと、毛布がかけられていた。家の中を探すとキラは自分の机の上に突っ伏して寝息を立てていた。机の横の壁にはコルクボードがかかっており、そこには写真が何枚も飾られている。アークエンジェル時代のものもある。

 ……彼が戦うきっかけになった戦艦。今のラクス・ クライン始まりの場所。

 あれから長い時が経ったように思う。独り歩きする自らの称号、地位はあまりに高い。ラクス自身は、好きな人の帰りを料理を作って待つことを無常の喜びとする、ただ一人の女性にすぎないのに。だが、投げ出すわけにはいかない。また、ミーアのような存在を生み出さないためにも。

 

 翌日、ラクスはキラを誘ってピクニックに出掛けることにした。バスケットにサンドイッチを詰めて、キラのバイクの後ろに座ってツーリング。ピクニックシートを広げて座り、愛しい人と自然を楽しむ。理想の休日。だがキラの顔は晴れない。些細な日常会話も、気のない返事をするばかり。

 ――わかっている。彼にはそれを楽しむ心の余裕がないのだ。

 だからといって、どうしようもなく寂しい思いをしてしまう。隣りにいて、誰よりも近い場所にいるのに、果てしなく遠く感じる。

 

「……申し出を受けるべきなんでしょうか」

 

 ……キラがラクスの方を見たのは、ファウンデーションからの申し出について話してから……仕事の話をしてからだった。ラクスはキラのどんよりとした目を見て思わず息を呑む。ああ、やはり、戦いなどに彼を放り込んではいけなかった。また休ませなければいけなかったのに。

 

「ファウンデーションからの申し出……」

「はい。迷っているのです」

 

 ファウンデーションから垂らされた蜘蛛の糸のような、怪しすぎる提案。ラクスとしても信じきれない。だがこれが解決の契機になるのなら。そういう焦りがラクスを迷わせる。

 

「どうして僕に聞くの?」

 

 微かな苛立ちを感じる。ラクスは何も言えない。腫れ物に触るような対応をしてしまう。キラとしてはラクスは総帥なのたから命じればいい……そう思っているのかも知れない。こうしている間は、ただの男と女のはずなのに。

 

「終わりに、できるんだよね」

 

 キラは空を見上げて遠くを見る。

 

「……いや、終わりなんてないのか。僕は戦い続ける。彼にそう言った。僕にできることなんて……」

 

 今キラは戦っているし、ラクスとの時間を削ってまで作っているのは人殺しの道具だ。自身の優れた知能が導き出す、最大効率で自身を守り、敵を一方的に殺す技術を開発している。

 

「……いえ、私は決めました」

 

 そんな様子を、ラクスは見ていられなかった。自分の意思で戦う限りキラは罪悪感から逃れられない。なら、共に背負おう。その罪を、その重荷を。

 

「ファウンデーションの招待を受けます」

 

 ――それから数日、ミレニアムは地球の大気圏内を航行していた。パイロット達は休憩室でファウンデーションに辿り着くまでの時間、自由に過ごしていた。

 

「バタバタしたなぁ。式典の練習厳しかったし」

 

 シンとルナマリアは疲れた様子でため息をつく。ミーシャは二人に申し訳なさそうな表情で言う。

 

「ごめんね。でもそれくらいしないと舐められるから」

「……ミリ単位で頭下げる角度揃える意味あったのかよ?」

 

 ミーシャは不思議そうに首を傾げる。

 

「『水平、直角、一直線』はオーブのノリだと思ってたけど……」

 

 ミーシャも共にオーブと肩を並べて戦ったからわかる。あの艦隊は戦列行動する時は艦艇のくせにミリ単位で揃えて航行するし、狙いもいい。船の中に入ったこともあるが、どんな小物もピシッと並べられていて感心したものだ。

 

「いや俺ザフト軍人だし……」

「あ、そっか。……大西洋連邦とかも新隊員はロッカーの中も仲間と揃えるように教育するんだよ」

「……ナチュラルの軍隊は意味分かんないわ……」

 

 ルナマリアは辟易する。なんで個人ロッカーの中まで決められなきゃいけないのか。

 

「そりゃ、仲間が吹き飛んで、その仲間の代わりの追加人員がすぐに戦えるようになるためだよ。ロッカーの中まで揃えてたら、背丈さえ一緒なら着の身着のままで人員補充できるじゃん」

「……」

 

 ルナマリアは絶句する。

 

「……とまぁそれが建前で。本当は跳ねっ返りと『集団行動』のしの字も知らないような人に統制とは何かを叩き込むのが理由なんだけどね」

 

 軍隊の狂気を感じていた所にネタばらしされて、ルナマリアはガクッと来る。

 

「バレンタイン准将! 騙したのね……!?」

「騙してないよー。本音と建前でーす」

「一緒じゃない! もう!」

 

 ミーシャとルナマリアが騒いでいると、そのそばでステラ、シン、アウルが話している。

 

「あんなこと言ってるけど、隊長、モビルスーツ戦闘訓練以外ほとんどやったことないんだよ」

「まぁ……あの見た目じゃなぁ」

 

 正直シンはミーシャが怒るところが想像できない。というか怒っても迫力が……。実力で黙らせる事ができるのはモビルスーツ戦だけなのだ。無理もないだろう。

 

「まぁそうだけどな。ことモビルスーツ戦の訓練に限っては鬼のように厳しいらしいよ。めちゃくちゃ厳しい上に吐くまでやらせるからついたあだ名が『血の』」

 

 ステラはあまりに不謹慎なミーシャの渾名を言いかけたアウルを肘で小突いて止めた。アウルもそれに気づいて思わず止める。

 

「?」

「血の……違った。血まみれの天使とか言われてたよ」

「血まみれ……」

 

 シンは戦慄する。ミレニアムの訓練計画は主にミーシャが立てている。そういうところにまで頭が回って階級が高いのがミーシャしかいないからだ。即応性が高い部隊であるが故にそこまで訓練強度は強くないが……それでも翌日がオフの日の前はかなりキツイ訓練もある。新隊員相手ならもっとえげつなくなるのは目に見えてる。恐ろしい。

 

「なんか面白い話ししてるねぇあんたら」

 

 休憩室に、ハーケン隊の面々がやってきた。ハーケン隊は大柄な女性であるヒルダ、たっぷりとヒゲを蓄えたマーズ、トレードマークのつもりなのか、いつも釘を口に咥えているヘルベルトの3人で構成されるクライン派の猛者である。前の戦争ではドムに乗って三位一体の攻撃マニューバ、ジェットストリームアタックを主力に戦場を暴れまわった。

 ヒルダはミーシャと話しているルナマリアに抱きつくと、すかさず全身をなで回す。

 

「あ、もう……! セクハラですよぉ」

「まぁまぁいいじゃないか、減るもんじゃないし……。バレンタイン准将達はファウンデーションに招待されてんだろう?」

「はい、そうです。ハーケン隊長」

 

 若干羨ましそうな顔をしながらミーシャは言う。ミーシャにとってヒルダはある意味憧れの女性だ。最前線で戦い続ける女傑っぷりは、将来自分はこうなるんだと思わせるだけの魅力があった。

 

「相変わらずオカタイねぇ。――まぁ、それなら気を付けなよ。あそこには『出る』って話だ」

「出る?」

「そ、『化け物』さ」

 

 マーズが隣のシンの肩に手を回しながら言った。

 

「化け物? ……そんなのターミナルの報告になかったよ?」

「嬢ちゃん、そんなのあいつらが大真面目に調べるかよ? 現地の連中は『ケルピー』って呼んでるらしい。つい最近……1年くらいか? よく出るってさ」

「ケルピー……? また、古典的な呼び方だね。水中に潜む魔物か」

「そうそう。何もかも古めかしくてまるで中世……それがあの国さ」

 

 ヒルダはルナマリアに抱きついたまま、ミーシャを抱き寄せる。ミーシャの頭に顔を寄せると、すう、と深く呼吸をする。

 

「やめてくださいよ! まだシャワー浴びてないのに!」

「おやおや嫌われたねぇ」

「嫌ってるとは言ってないでしょ!?」

 

 ――中身がおっさんなんだよなぁこの人……。

 

 シンはヒルダとミーシャのやり取りを見ながらしみじみと思った。

 

 ――それからしばらくして、ミレニアムに強い振動が起こる。ミレニアムがファウンデーション領海内に着水した時の振動だ。

 ミーシャは意識を切り替える。時計を見ると予定通りの時間だ。

 

「みんな、今から30分後にミレニアム甲板に集合してね。ファウンデーション招待組はヘリでファウンデーション入り。ハーケン隊はミレニアムで即応体制を維持したまま待機。質問」

 

 ミーシャが周りを見回して聞くと、誰からも質問は上がらない。

 

「ステラ、キラのおっかけファンにも以後の行動を伝達して」

「了解」

「ヘリに乗った瞬間から私達は外交使者だと思うこと。以上、行動開始!」

 

 ミーシャが指示すると、その場の全員が敬礼して答える。パタパタと走り出してその場にいるヒルダ以外の全員が駆け出す。

 

「……私、上手く隊長できてるかな? ザフト兵から見てどうです、ハーケン隊長」

「ん? 上出来上出来。ザフトじゃ嬢ちゃんと同じ働きができそうなのは白服くらいだろうなぁ。つまり、よくできてるってことさ」

「……ならよかった。キラは軍人教育受けてないから現場の細かい指揮全部私が受け持ってるの。だから……地球連合方式に反発持たれてないかなって思ってたんです」

「まぁ、ちょっと窮屈には思ってるだろうさ。でもまぁそこはザフトが緩すぎるんだろうねぇ」

「……。

 とにかく、私達も行動しましょう。あまり時間がありません」

「そうだね。じゃあ、頑張りなよ、バレンタイン准将」

 

 ミーシャとヒルダはお互いに敬礼して、休憩室から出て分かれる。

 

 ……ファウンデーション王国。古くて、しかし新しい国。ミーシャ達は謎に包まれた王国に足を踏み入れる。

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