【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
日付が変わるか変わらないかという時間、アグネスは整備管理室で未だに作業しているキラに夜食を持ってきた。入口に入る寸前、廊下の角にラクスの姿が見えた。……ここで決める。少なくとも、ラクスに一撃を入れる。内心アグネスは決心する。
「ヤマト准将、夜食をお持ちしました」
「え? ありがとう。置いておいて。――ミーシャの指示?」
キラはこちらを見ようともしない。必死に何かを調整しているようだ。コーディネーターのアグネスをして全く理解できないパラメータ、コードの数々に圧倒される。だが作戦が近いと言うのにこんなふうに作業なんて。ラクスのことが腹に据えかね……気を紛らわせるためにやっているに違いない。アグネスはそう思った。キラはそのラクスのために1日でもはやく新装備を完成させようとしているのだが、彼女はそれに気付かない。
それに、アグネスは自身の心遣いをミーシャの指示だと勘違いしたのも気に食わない。あのお子様が男にそんな気遣いできるわけがない。できるなら今頃彼氏の一人でもいるはずだ。
「違いますよ。あの子、そういうところ気が回らないんです」
「なんて?」
キラが手を止めた。アグネスは訝しむ。キラはこっちを見るが、その表情は険しい。
「彼女が僕に冷たくしてるように見えるなら、ラクスに遠慮してるんだよ」
「遠慮? なんでですか? 別にお子様がアプローチしたところで……」
「――もう帰っていいよ。夜食ありがとう」
キラはアグネスから視線を外し、また作業に戻った。ここまで眼中にないと態度に示されたことなど初めての経験だ。いくら待ってもアグネスが帰らないことにだんだんキラが苛ついてきたところで、アグネスが言葉を発した。
「私、隊長がお気の毒なんです」
「僕が? ――僕は恵まれてる」
「あの人、酷いと思います。みんなの前でチャラチャラ男と踊ったりして……隊長が危険な前線に行くっていうのに」
キラは不快感を増す。だがそれを態度に表すことはない。
「それがお互いの仕事だよ。僕は戦って、彼女は外交。――ミーシャに教わらなかった?」
「あの子の言うことなんてどうでもいいじゃないですか。隊長、怒ってもいいと思います。隊長の優しさにつけ込んでるんです」
ピク、とまたキラは手を止めた。アグネスはこれを図星なんだと解釈した。
「僕が優しい?」
「ええ。優しいからこそ、あの人は好き勝手に――」
「――優しい人は人殺しなんてしない」
えっ、とアグネスは呆気にとられる。一体何を言うんだろう?
「君、僕が今何してるか知ってる? 人殺しの道具作りだよ。僕は優しくなんてない。死んだら地獄に行くような男だ。さぁ、僕なんかに構わず。明日も早い。早く寝ないと」
遠くのラクスがこちらに視線を向けたのを視界の端で見る。今だ。
「私を見て」
すっと、アグネスはキラににじり寄る。肩と肩が触れ合って吐息が聞こえるくらい近づく。ああ、やっぱり顔がいい。中性的な整った顔立ちは、アグネスが見たこともないくらい良い顔をしている。
「あの人を見返したいんでしょ?」
キラは不思議そうな顔をする。あまりに的はずれな言葉に、困惑を隠せない。というかさっきから何なんだこの子は。そう思っていると、アグネスが無防備なキラの唇に顔を寄せた。
「――! 離れろ!」
キラはアグネスの肩を掴むと突き飛ばした。
「えっ……!?」
拒絶された? 自分にキスされて喜ばない男なんていないと思っていたのに。それだけならまだしもなんでこんな毒虫を見るような冷たい、嫌悪感の籠もった目で見られるんだ?
「……君は一体何を考えてる! ――このことはミーシャに報告しとく」
「なんで……! なんでよ! あの人のどこがいいの! 私ならしない! 愛する人を戦場に送り出して自分は安全な所にいるなんて!」
「君は何もわかっていない! 僕と彼女はそういうんじゃないんだ!」
キラはすっかり怒り心頭な様子で外に出ていった。アグネスはその場にへたり込むようにして座る。
……わかってないのは、あなたよ。なんで私の良さを理解しないの?
――自室で携帯ゲームをしながら寛いでいたミーシャは、キラからの連絡に困惑した。
「……アグネスがキラにちょっかい……いや、無理矢理キスされそうになった?」
「うん。僕のことならともかくラクスのことを酷いこと言ってね。キスされそうになった」
ミーシャは苦い顔をする。年若い男女が狭い軍艦で過ごしているのだからこういう問題は起こる可能性はある。だがザフト兵とオーブの准将……となるとマズイ。外交問題とか、コンパスの存続にも話が行きかねない。
「そっか……。辛かったね。うーん……でも訴えるとかは難しいかも……。女から男へのセクハラって
立件するのマジ難しいから」
「そこまで考えてないよ。ちょっとお灸を据えてあげるくらいで許して上げてほしい」
キラは軽く言うがことは部下が上官に性的なアプローチをかけて無理矢理キスしようとしたという非常にセンシティブなことだ。なぁなぁにしては軍規が乱れる。知ってしまったからには規定通りに対応するしかない。
「……私だけじゃ判断できない。ラクスに相談する」
「えっ!?」
「しょーがないでしょ? 私だってやだよ。『ラクス、あなたの彼氏を寝取ろうとした奴が部下に居るけどどうする?』って聞くのよ? 私なら最前線に送るか適当に理由つけて銃殺刑まで考えるかもだけど……正直そんなラクス見たくないなぁ」
ミーシャの中でもラクスは清廉潔白でお淑やかな歌姫なのだ。そういう汚い感情からは無縁の存在のように思える。
……でもラクスも女の子なんだよなぁ。好きな人のために、二年も相手の親と暮らして介護生活を送れるくらいには根性と愛情のある人なのだ、
「とにかく、知ったからには報告する以外はない。キラ、今回のことが性別逆にしたらヤバいのはわかるよね?」
ミーシャが言うと、キラは渋々納得した。
「……そっか。クビとかはやめてあげてね」
「被害者がそう言ってるし……なんとかお説教と始末書くらいで済ませるようにするよ。ラクスが怒り狂わなきゃだけど」
ミーシャは電話を切ると深いため息をつく。ラクスのいるはずの部屋に連絡すると、彼女が出た。
「はい。どうしましたか、ミーシャさん」
「あー……その、内密の話があって。今から時間取れる?」
「……ええ」
ラクスの声は少し元気がなかった。それからルナマリアの部屋にも連絡する。
「ルナマリア、ちょっと集合。総帥の部屋に今から」
「え? 何かあったんです?」
「会ってから話す。悪い話だから覚悟してて」
「えー……」
ルナマリアは内心ヒヤヒヤする。もしかして先程シンと
「了解。服装指定はありますか?」
「総帥の前だし一応制服で」
「……了解」
ラクスはオフならそんな事を気にする人ではない。ミーシャもそれがわかっているだろうに制服を指定するということはやっぱりそういう、怒られる系のやつだ。
気が重いまま、ルナマリアは服を着替えて総帥の部屋まで向かう。部屋に着くとラクスが椅子に座り、ミーシャとそれからステラもそこにいた。
「アグネスがキラに迫ったよ」
「……色んな意味で凄いと思う」
ステラとミーシャは淡々としているが、ルナマリアはついにやってしまったか、と天を仰いだ。ラクスは床を見た状態で落ち込んだ様子だった。
「……知っていますよ、ミーシャさん。それを私に知らせて……どうするのですか?」
「まず、アグネスのやったことは明確な軍規違反。男女混合の部隊に置いて性的な事柄は厳に統制されるべき……なんて私が言っても説得力ないけど」
「……隊長のそんな噂聞いたこともないですけど」
ミーシャはその幼い年齢も相まって、マスコット的な人気はあってもそういう意味での人気はない。みんなの妹枠がミーシャである。だがミーシャの口ぶりは過去にやらかしたことがあるかのようだ。――あ、いやまて、思い出した。
「……アークエンジェルにいたときにね。あの時はみんなおかしかったの。私もキラも頭おかしくなってた」
「……ぇ」
ルナマリアは改めてその事実を思い出した。そういえば、キラと自分の隊長は過去にそういう関係にあったのだ。別に今キラとミーシャがそういう意味で仲が良さそうにはさっぱり見えないからすっかり忘れていた。……改めて考えると酷いなぁ。彼を見る目が変わりそうだ。アグネスに靡かないのもロリコンだから?
「……ミーシャさん……」
「――だから、ラクス。私はキラに未練なんてないって。とにかく、アグネスはどうするの? ちなみに被害者のキラはできるだけ穏便に、が希望だよ」
ミーシャが聞くと、ラクスは苦々しげに言う。
「……それなら、作戦に影響が出ない範囲でお願いします」
「それでいいの……?」
「まず、今この場で内輪で揉めて隙を晒すのは避けたいです。作戦も近いです」
「ん……」
「次に、相手がキラというのが少し問題です。私が嫉妬に狂って沙汰を下したという噂が立つのは避けるべきです」
ミーシャは苦い顔をする。それがあったか。
「あ……なるほど。……なら減俸と始末書とか?」
「はい。悔しいですが」
「……悔しいんだ」
ラクスは本当に、小さく頷いた。
「ミーシャさん。権力とは怖いものですね」
「まぁ、ね。最近特に実感することになったかな」
ラクスは自らの手の内にある権力に慄く。ただの小娘が人一人の進退を自由にできるのだ。人を支配する感覚に嫌悪感を抱けず……そんな自分を恐ろしく思う。
「……ミーシャさん、わたくしはずるい女なのでしょうか?」
「どうしたの?」
「キラを前線に送って……自分は後ろでふんぞり返って……フリーダムを贈ったのだって……きっと異常なことなのです」
ラクスは思い返す。始まりからしておかしかった。あの時はキラの助けになれるなら、キラの欲しがるものを与えられるならと危ない橋をいくつも渡って、規則を無数に破ってキラにフリーダムを渡した。普通の女なら行かないでと、危険なことをしないでと泣いて頼むべきだったんじゃないかと。そう思わずにはいられない。
「ん……。気持ちはわかるけど……。じゃあキラがフリーダムを貰わなかったら平和に生きられるかと言うと違うと思う。多分……キラはあの時、私とフレイに手を出した時から、戦争から降りられなくなったんだよ」
「……なぜでしょう?」
「ずーっとキラは苦しんでた。苦しむべきだと思ってた。私みたいな子供に手を出して、
でもまぁキラの気持ちもわかる。例えば今ミーシャが10歳くらいの男の子を精神的なストレスから
「……隊長、アグネスにそれ言ったらどうです? きっと諦めますよ」
「やだなぁ……。あのときのこと言うの辛いんだけど」
「ご、ごめんなさい」
「いやいいよ……。ああ、もう」
ミーシャは呻く。割と誰彼構わず自分とキラの関係を言い触らしていた過去の自分を狙撃したい気分である。幼かった頃の自分は性的なものが持つ本当の意味に気付いていなかったのだ。今となっては葬り去りたい過去である。封印するべき忌まわしき過去……黒歴史というやつだ。
「とにかく、アグネスには作戦前に言っておくから。ラクスも頑張ってね」
「……はい。あの、ミーシャさん」
「ん?」
ルナマリアを連れて帰ろうとしたミーシャに、ラクスが声をかける。
「キラは……キラは幸せになれるのでしょうか?」
「なれるよ。ラクスが一緒なら」
ミーシャは笑って、断言した。
……ミーシャは預かり知らぬところだが、ミーシャとラクスがアグネスについて話している最中、キラはオルフェに、アグネスはシュラに、それぞれ接触されていた。
――更に時間が経ち、深夜。様々な仕込みを終えたブラックナイトスコードは、女王アウラの部屋で憩いの時を過ごしていた。彼らはアウラの前でだけは不良少年のようななりは潜め、年相応の……いや、年齢よりもさらに幼い様子でアウラに甘えている。
女王アウラの寝室で、ブラックナイトスコードの面々は甘く蕩けたような表情で口々に感想を口にしていた。
「きれいだったね、姫様」
「うん、思ってた通りの人だった」
彼らの話題はラクス・ クラインその人だった。まるで熱狂的なファンのように、彼らはラクスを褒め称える。皮肉げなリューも素直に彼女を称賛する。
「映像で見るより遥かに美しい」
ダニエルも熱に浮かされたようにラクスを褒め称える。
長年待ち望んでいた姫が思ったとおりに見える人で、興奮冷めやらぬ様子だった。
「みな、今までよう耐えた」
小国とはいえ国で最も優遇され、満たされているはずの彼らに向かってアウラは優しく慰めるように言う。
――こんな小国で収まる器ではないのに、長い事こんな狭苦しい国に押し込めてしまった。
「じゃが、それももう終わりよ。世界に示すのじゃ。ゆこう。世界がそなたらを持っておる」
彼らが世界に羽撃く時、彼らは世界を手に収める。
――そう彼らは信じている。心の底から。
ターミナルの秘密拠点に帰還したアスランは偽装用のサングラスを取って机に置く。
「どうでした?」
メイリンがコーヒーを片手に彼に聞いた。二人はコンパスが活動を開始すると同時にターミナルに出向し、カガリの密命を受けて活動する相棒同士だ。狭っ苦しい活動拠点でふたりきりだというのに二人の間に恋愛感情は皆無だった。アスランはカガリに首ったけだし、メイリンは恋愛なんか比べ物にならない最高の娯楽を目一杯楽しんでいる。
「カガリの読み通り、といったところか。鮮やかな復興劇の裏側にはいつもどおりの悲劇があった」
宮殿周りと大通り。キレイで完璧に復興を果たしているのはそれくらいで、1つ路地を外れるだけでスラムのような荒廃した街並みが見える。
「そしてお決まりの弾圧だ」
連日行われるデモに対して、ファウンデーションは対話ではなく軍による鎮圧を選択した。射殺される者も大勢出ている。彼らの主張はたったひとつ。
「デスティニープラン反対」
素晴らしき発展と復興の裏にはデスティニープランがあったのだ。
「……結局は力ずくか」
アスランはため息をつく。遺伝子によって職が決定されるなら、大多数の要職をコーディネーターが独占するのは当然の帰結だった。コーディネーターを押し退けてトップになれる人間など、ほんの一握りだ。それを不公平だと不満に思う気持ちはある意味当然だろう。
「そっちは?」
「素性はなんとも」
メイリンは少し悔しそうに答えた。情報のエキスパートを自称する彼女も複雑怪奇な欧州事情を完全に理解するのは難しかった。アークエンジェル時代のミーシャ並みに幼い子供がどういうカラクリで女王の座についたのか、完全に解明することができなかったのだ。ファウンデーション王国の歴史は再構築戦争と、前の大戦の2度の災禍で記録があやふやになり、ついには追いきれなくなったのだ。ユーラシアの国々には未だ、電子化されていない重要情報が多数存在する。王族の家系図なんかがその筆頭だ。さすがのメイリンも物理的にしか存在しない情報を取得するのは不可能だ。
「確定しているのはアウラ女王は先帝の養子であるということだけです。先帝の遠縁のカイドゥ家からとなってますが……正直疑わしいです」
嘘ならなんで先帝の養子になんてなれたのか、ということだが……。結局は謎のままである。
「ただ、先帝はやむにやまれぬ事情があったのかも。先帝の金の流れは追えました」
メイリンがパソコンの画面をアスランに向ける。そこには嫌な名前が存在していた。
――メンデル。
アスランは苦い顔でその画面を見つめていた。
翌日。ミーシャはアグネスを隊長室に呼び出していた。不満そうな顔で彼女は立っている。なぜ呼び出されたかくらいはわかっているらしい。
「アグネス、なんで呼ばれたかわかるよね」
「……ヤマト准将にちょっかいかけたからです」
ミーシャは頷く。白を切られたり舐めた態度を取られたらどうしようかと思った。
「ウチは軍艦じゃ珍しく艦内恋愛が許されてる」
教導隊の同僚に聞いたことなのだが、軍艦は基本的に艦内恋愛は禁止である。発覚したら即座に配置換えが普通らしい。しかしコンパスは総裁ラクスとアークエンジェル艦長ラミアスの意向が強く反映され、艦内恋愛が許可されている。なかなか鮮やかな職権の使い方だと感心したものだ。
「はい」
「ただし、前提条件に同意があるのはわかってる?」
「……はい」
「もう。わかってるならなんで無理矢理キスしようとしたの?」
「……いけると思いました」
アグネスは自分の髪を弄って心ここにあらずの様子だった。怒鳴りつけてやろうか。そんなことをちらりと思う。
「総帥もキラも大事にする気はないそうよ。減俸1月と、始末書書いて提出。あと接触禁止。……返事」
「はい」
もう。アグネスの意気消沈している様子は少し可哀想になるが、人の元カレを今カノから奪おうなんていい度胸だ。
「あとそれから」
ミーシャは立ち上がるとアグネスの顔をよく見る。
「なんでダメだったか教えてあげよっか? 好みじゃなかったからだよ」
「……なんで知ってるんですか」
ミーシャは自分を指差す。
「私、元カノ。アークエンジェル時代……10歳の時に付き合ってた」
「!!??」
アグネスが今まで見たことないくらい驚いた顔をしてミーシャを見る。
「え……は……?」
「キラの好みは赤系統の髪の色で、尽くしてくれる女だよ」
「わ、私だって尽くすし……」
んー、と私は首を振る。
「じゃあアグネス、キラのために死ねる?」
「……いや、そんなわけないじゃないですか」
「私は死ねたよ? あの時、キラのために死ぬなら喜んで特攻したと思うし……キラのために殺しまくったもん」
化け物を見るような目で見られた。でもぶっ飛び具合ならラクスだって負けてない。
「人生全部キラに捧げられる?」
「いやいや……」
「ラクスは『戦いたい』っていうキラのためにザフトの最新鋭モビルスーツを盗んでポンとプレゼントしたんだよ。かの有名な白いフリーダムだよ」
アグネスは絶句する。全陣営に轟いている最強のモビルスーツ、白いフリーダムって盗品だったのか。しかもそれをラクスがプレゼント? 流石のアグネスもそんなどデカいプレゼントは聞いたことがない。あんな非の打ち所がない完璧そうに見えるお姫様でも好きな人のためならそこまで狂えるものなのか。アグネスは戦慄する。
「しかも戦後は二年間も病んだキラを介護して、キラの両親と一緒に暮らすの。キラにとってそれくらいしないと『尽くしてくれる』の枠に入らないと思うけど……どう? できそう?」
キラの為に山のように人殺し? 最新鋭のモビルスーツを盗み出してプレゼント? 相手の両親と二年も暮らす? それを聞いたアグネスの感想は1つだ。
「……あんたらおかしいわよ」
それはそう。ミーシャは肩を竦める。自分もラクスも存外愛が重い方のようだ。入れ込みすぎると良くないな。もしかしたらトーヤに気に入られるためにとんでもないことするかもしれない。気を付けないと。
「悪いこと言わない。……諦めなよ」
さあ、どう出る。ミーシャが身構えていると、アグネスは脱力してぼそりと言った。
「――わかりました。ヤマト准将は諦めますよ。まさかそんな地雷男子とは思わなかった」
「……ああーうん、そうだね」
アグネスからのアプローチはやめさせられそうだが……これキラの評判大丈夫? ちょっとやりすぎた?
「私、私を見てくれる人と付き合います」
「ん、そうだね、それがいいよ」
アグネスの回答に満足したミーシャは彼女を解放した。
……その『見てくれる人』をもう見つけているとは想像もしていなかった。
――とりあえずキラに謝らないと。
ミーシャはその後すぐにキラに連絡を取ってアグネスの説得に成功したことを伝えた。そしてその時の被害についても。キラは力なく笑って、「それが普通の感想なんだろうね。気にしてないからいいよ。僕からも、辛いことを話させてごめんね」と答えた。