【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
――ついに、ミケール捕縛作戦の日がやってきた。ラクスだけはファウンデーション王国宮殿内にある戦略情報室からコンパス全体の指揮を執る。それ以外の面々は全戦力でもってミケール捕縛の任に当たる。
アークエンジェルに随伴しながら、ミーシャは全体に通信をする。作戦前の最終確認だ。
「よーし、全機、よく聞いてね。私達のお仕事はミケールのクソ野郎を捕まえて地下室に連れ込んで知ってること全部喋るスピーカーに変えること。
「たいちょー、マジでやるんですかー?」
アウルが楽しげに聞く。前の戦争では結局特殊部隊っぽい後ろ暗いことは一回くらいしかやらなかったし、その時は脅しだけで実際にはしなかった。
「もちろん。最初は悲鳴上げる機械になってもらうから」
「隊長、やめてくださいよ。想像しちゃったじゃないですか」
ルナマリアが半笑いで言う。シンは嫌悪ではなく曲がりなりにも笑顔を浮かべている彼女を見て少し焦りが生まれる。バレンタイン隊に染まっている!?
「……そのためには結構な敵を倒さなきゃいけないわけだけど、全軍で向かうのは残念だけどナシ。ミレニアムとルナマリアはここで待機。いざという時の即応要員ね。改めて陣形の確認。ヤマト隊の動き、よろしく」
ミーシャに振られ、キラはどんよりとした声で言う。アグネスに言い寄られたその日、オルフェと深夜に出会って言われた言葉が彼を傷つけていた。……自分は戦う事しかできない。平和になった後、血塗られた手でラクスの手を取るのか……。キラはその言葉のことをずっとぐるぐると考えていた。
だが、折れずにいられるのは作戦前にラクスに告げられた言葉があるからだった。
「キラ。これが終わったらお話ししましょう。ちゃんと、私たちのことを」
何を言われるのか、まだわからない。だが、キラもラクスと話したかった。話すべきだと思っていた。ずっと一緒に暮らしていて、近くにいると思い込んでいた。だから、生きて帰らないといけない。その気持ちだけがキラを支えていた。
「僕は最前線で戦うから、シンとアウルは援護して」
「隊長! ブリーフィングでも言いましたけど俺も前で戦います!」
「はいはい、シン、そういう話は後でするもんだよ。今は確認なんだからよ」
「……わかったよ」
ミーシャはヤマト隊の報告を聞き終わると、自分の隊の動きを言う。
「私は上空で全体の様子を確認するよ。ステラ、アグネスは敵モビルスーツを撃破して。次、ロアノーク隊」
ミーシャが言うと、同時、アークエンジェルからムラサメ隊が出撃してくる。アークエンジェルは現在ムラサメを二小隊運用しており、その隊長にネオがいる。
「こっちはアークエンジェルの護衛と全体の援護だな。嬢ちゃん坊主共、後ろは気にせず暴れていいぞ」
「よし、動きの確認が終わったところで注意事項。私達が出られるのはエルドア地区だけ。ちょっとでも軍事境界線超えたら戦争になるからね。軍事境界線はレーダーマップに表示してあるから。暴走して突っ込んだら最悪私が撃墜することになるんだから、ホントにマップはよく見てね」
「了解」
全員が返事をして、自分のレーダーを確認する。軍事境界線から先、立ち入ってはいけないところは真っ赤にカラーリングされている。
「次に、ファウンデーションとの合同ってなってるけど私達以外は軍事境界線で睨み合うだけ。援軍とか期待しないでね」
「……なんのための合同作戦なんだか……」
アウルが不満げに言う。
「そりゃ、ユーラシアが許可しなかったんだからしょうがないでしょ。まぁ、ファウンデーション方面にミケールが逃げたら捕まえてくれるから、私たちは前だけ見てりゃいいよ。ユーラシアもミケール捕縛に関しては同意してくれたから、どっちに逃げてもあいつは捕まえられる」
ミーシャはため息を吐く。ユーラシア連邦は前の戦争で酷い目に遭った。いきなりデストロイがやってきて街を三つも焼き払ったのだ。百万単位で人が死んで、その爪痕は未だ回復していない。大西洋連邦もファウンデーションもまるで信用できないのだろう。
進軍している先の地上から、対空ミサイルが打ち上げられた。
「イーゲルシュテルン起動、ヘルダート、ウォンバット、迎撃開始!」
ラミアスの鋭い命令がアークエンジェルのブリッジに響く。……戦闘が始まった。
地上から敵モビルスーツが出てくる。ミケールはエルドアにある岩山をくりぬいて作った指揮所にいるらしい。ミーシャは遥か上空に上がると戦場全体を見回す。
「さて……これで全部終わればいいんだけど」
ミーシャは地下の秘密格納庫から出撃しようとしてたウィンダムを、格納庫ハッチごと撃ちぬいて撃墜する。戦艦もモビルスーツも、出撃の瞬間が一番狙いやすい。
「みんな作戦通りにね」
「了解!」
アグネス、ルナマリア、ステラの元気な声が返ってくる。
戦闘は終始コンパスが有利に進めていた。各陣営のエースパイロットが集まっている精鋭中の精鋭の部隊である。半壊したデストロイが向かってくるが、スキュラも一門しかないうえに円盤状の背部ユニットがないのだ。そんな出来損ないのデストロイ、キラとシンにかかれば一瞬で撃破できる。半壊のモビルスーツすら動員するということは、当たりだ。ミーシャは確信する。この先にミケールがいる。ミーシャは勝利を確信していた。
――一方、エルドア地区のファウンデーション王国側の軍事境界線には、逃げてきた市民たちがひしめき合って我先にと押しかけていた。老若男女問わず、戦場になったエルドア地区から脱出しようと必死なのだ。ファウンデーション王国の兵士も、順番に避難誘導を進めている。ユーラシア連邦側の軍事境界線も同じような状況なのだろう。
「……」
ブラックナイトスコードシヴァに乗り込んでいるシュラは、ひしめく避難民を見下ろしていた。ふとシュラは広域通信をオンにする。外部スピーカーもだ。
「安心してください。我々は全ての避難民を受け入れます」
だが、そう勧告するシュラの顔には醜悪な笑みが浮かんでいる。仕込みは終わっているのだ。
「助けてくれ……!」
避難民の中に数人、全く同じデザインのリュックを背負っている人間がいる。大人も、子供も、男も女も区別なく、数十人に一人という割合で同じリュックを背負っている。彼らのリュックから何か電子音がする。赤い光がリュックを透かして漏れている。不審な荷物を背負った彼らの顔は恐怖に引き攣り、全身から冷汗が流れている。自分が背負っている荷物の中身を知っているのだろう。明滅する様な音と光の間隔が早くなると――閃光と、爆発。
「ああっ!?」
わざとらしく聞こえないよう気を付けて、シュラは大げさに驚いた。大混乱に陥る軍事境界線。しかしシュラは何が起こっているか完璧に把握していた。
「何? 爆発? ――敵?」
上空にいたミーシャは異常にいち早く気付いた。戦場から遠く離れた市街地のそこかしこで爆発が起きている。子供を連れた女性が吹っ飛んだ男性を見て顔を青ざめさせ、背中に背負った荷物を慌てて背中から下ろそうとする。リュックと背中には細い線で繋がっていた。女性がリュックを下ろしたその瞬間、リュックが派手に爆発を起こした。
「人間爆弾……? いったい誰が?」
状況がおかしい。ミケールにこんなことする意義は薄い。何せこんなテロが起こりだすと、ファウンデーション王国に人命救助の名目ができてしまう。ユーラシアも人の命がかかっているとなれば断り切れないだろう。ミケールからしたら敵が増えるかもしれない行動だ。まさかもう自分の命を諦めていて、殺せるだけ殺そうとしているのか? ありうるのが嫌だ。
「バレンタイン隊全機に通達。様子がおかしい。総員背後に警戒」
「了解。でも……何がおこってるんですか?」
アグネスが聞いてくる。確かに少し曖昧な指示だったか。ミーシャは頭の中でするべきこと、したいことをまとめるとキラに呼びかける。
「キラ、進軍任せていい? ちょっと市街地でテロ起こってる。人命救助にウチが当たりたい」
「了解、任せるよ、ミーシャ。助けられるだけ助けて」
「了解。バレンタイン隊、ミケール捕縛は中断、エルドア地区の人命救助に当たるよ」
「えっ……隊長、何が起こってるの?」
ステラが聞く。ミーシャも答えてあげたいがよくわかっていない。
「テロが起こっているというかテロを起こさせられているというか……妙なの」
ミーシャが言葉を濁すと、戦略情報室から通信が飛んできた。
「コンパス総員に通達します。只今よりファウンデーション王国のモビルスーツ隊がエルドア地区の救助活動にあたります」
「バレンタイン隊了解。バレンタイン隊もファウンデーション王国と協力して人命救助にあたります」
「ヤマト隊了解。引き続き作戦を進めます」
「ロアノーク隊了解。……嫌な予感がするぜ」
ステラのジャスティスとアグネスのギャンが後方の市街地に転身した。ミーシャはファウンデーション王国のモビルスーツが軍事境界線を越えたことを確認すると、情報収集に集中する。――何が起きてる?
――シュラは広域通信と外部スピーカーを切ると、笑みを深くする。イデオロギーに染まった馬鹿どもを操るのは簡単だった。こうやって越境できればこっちのものだ。
(作戦開始)
シュラは
(了解)
(やっとかよ!)
(みっなごっろしー!)
同じように声なき声がシュラの頭に響く。
――なんであいつらこっちにくんの?
ミーシャはその不審な動きをしっかりと見ていた。もう一機のブラックナイトスコードが市街地の上空を飛び回っている。
「……馬鹿なやつ」
グリフィンは上空にいるミーシャを笑う。あれで見張っているつもりらしい。あんなもので自分たちのすることを気取られるものか。グリフィンは白と青のカラーリングが特徴のヒロイックなデザインのモビルスーツ……ライジングフリーダムを見つめる。彼は自らの精神を触手のように伸ばしていく。不可視で、この世界のどんな技術でも探知できない、いわゆる超能力に分類されるであろう力を、キラに使う。精神の触手が遠くに見えるライジングフリーダムの中、キラに触れた。即座に碇を打ち込むようにして精神的なリンクを確立。
「闇に墜ちろ、キラ・ヤマト――」
――ドクン!
キラは今まで感じたことのない、完全に未知の衝撃に目を瞬かせる。視界がブレる。何もかもが二重に見える。……意味が分からない。何が起こった?
ざりざりと脳裏を撫でられる感覚がする。理解できない。なんだこの感覚は。視界がブレ、目指している岩山があやふやになっていく。胸が熱くなって、次の瞬間深い闇に引き込まれるような感覚がした。視界が黒一色に染まる。
闇が溢れている。コクピットにいたはずなのに、キラは今闇の中を立っていた。遠くにラクスの姿が見える。手を伸ばす。伸ばした手は血塗れで、所々に肉片がこびり付いている。ラクスの隣にいつの間にかオルフェがいる。……なんで? 彼はラクスの腰に手を回すと、エスコートするようにラクスを攫って行く。彼女は抵抗しなかった。追いかけようとするも、足は血と臓物でできた沼に沈んで動けない。無数の手がキラの脚を掴んでいる。次に前に視線を向けた時、そこにはクルーゼがいた。
――君が重ねた業だ。
次にデュランダルが見える。
――私の言葉は真実だったろう?
次の瞬間、キラはコクピットに戻っていた。何もかもが白昼夢だったのだろうか? 冷たい汗が全身に流れている。計器類を確認するも、異常は見当たらない。ふとカメラからの映像を見ると、求めてやまない存在が見えた。ミケールだ。今まで攻め込んでいた岩山の
ミーシャは困惑する。ブラックナイトスコードが何かやらかさないかと見張っていると、いきなりキラが方向転換して全速力で移動を始めたのだ。
「ちょっとキラ?」
「隊長! どこ行くんですか!」
シンも気付いたらしい。だが、キラの回答は信じられない物だった。
「ミケールが逃げる! 捕縛する! シン、アウル、援護を!」
「え? んん……?」
アウルは目の前のウィンダムをシールドカッターで輪切りにすると、いったん退避して状況を把握しようとする。
「シン、ミケールがあっちにいる可能性は?」
「いや……ないだろ……? だってこんなに抵抗が激しいんだぞ」
シンは困惑する。侵攻を阻止しようとブルーコスモスの部隊が必死になっているのだ。ミケールがここにいるのは間違いないように思う。――だがもしかして、キラは何かを見つけたのだろうか。
「キラ、戻って! ミケールはその方向に確認できない! ちょっとどうしたのよ!?」
だが、その可能性を上空にいるミーシャが否定する。ずっと上空で全体を把握しながら敵を撃っていたミーシャに見つけられない物をキラが見つけられるだろうか? いったい何が起こっているんだ?
「止まってってば! キラ、軍事境界線に近いって! マップが見えないの!?」
「――ミケールを逃がすわけにはいかない!」
ブラックナイトスコードルドラに乗るグリフィンはコクピットの中で大混乱に陥るコンパスを眺めて笑っていた。愉快だ。あのキラ・ヤマトも、自分達アコードの力にかかれば赤子のようだ。ここまで上手くいくと逆に怖くなってくる。だが……まぁ、当然の結果である。自分たちは誰よりも上位に位置する種族なのだから。グリフィンはライジングフリーダムの向かう先……ユーラシア連邦の軍事境界線を見据える。
「待ってって! そのスピードで追いつけない車なんてあるわけないでしょ! しっかりしてよキラ!」
何も手を打とうとしないミーシャに、グリフィンは心から馬鹿にしたような嘲笑を浮かべる。命令があれば味方でも躊躇なく撃つと噂の魔弾も、ただの噂に過ぎないと言う事か。
「『魔弾の天使』……バカバカしい。ザフトも連邦に乗せられて『悪魔』などと呼ぶなど情けない。あんな広告塔に何ができる」
戦略情報室でも同じように混乱に陥っていた。
「ヤマト機、105チャーリーへ転進! ユーラシア連邦軍事境界線に向かっています!」
その報告を聞いたラクスは一瞬意識を空白にさせた。――何が起こっている? だが、事態は急速に進もうとしている。ユーラシア連邦から来た監視将校が机を叩いて怒鳴った。
「なぜヤマト機がユーラシア連邦に向かっているのだ! クライン総帥! 意図をお聞かせ願いたい!」
それに答えることなく、ラクスは必死にキラに呼びかける。
「キラ! 止まってください! そちらはユーラシア連邦です! 引き返してください!」
「警告射撃開始!」
ユーラシア連邦側のコンソールからそんな通信が聞こえた。
「待ってください!」
「フリーダム相手に待てるか!」
あり得ないことが起こっている。キラが事前の取り決めや確認を忘れていきなりユーラシア連邦に攻め込むなんて、そんなことをするわけがない。
だがユーラシア連邦からしたらそんなこと知ったことではない。軍事境界線から近い上空にはあの魔弾の悪魔もいるのだ。もしこれがコンパスが仕組んだユーラシア連邦への侵攻なら、止めるなら今しかない。
ユーラシア連邦の将校からしたら、全戦力を終結させたとしても、ライジングフリーダム2機……それも、キラとミーシャの二人を止められるのは無理だと理解している。前線でキラが大暴れして、遥か上空からミーシャが狙撃。単純にして強力な戦法だ。今のユーラシア連邦に二人を止めるエースパイロットはいない。ただ蹂躙される国土が監視将校の脳裏には映っている。待てるわけがない。
「撃て!」
「待ってください!」
――キラは無数に降り注ぐ火線を回避しながら顔を顰める。
「まだ抵抗するのなら……!」
キラの目には逃げ続けるミケールと、それを守るモビルスーツ群が映っている。武装を展開し、次々とロックオンする。
「ちょっとキラ正気!? 撃ったらダメ!」
「キラ君! 攻撃を止めて!」
「隊長!!」
自分を止めようとする通信も、キラの耳には届かない。
「もう終わらせる――ここで!」
キラは引き金を引いてしまった。
ラクスは呆然と凍り付いてしまった。ミーシャのコクピットからの映像がラクスのコンソールに表示されている。そこにはユーラシア連邦のモビルスーツを次々に無力化していくキラの姿が映っている。ミーシャの悲鳴のような通信が指揮所に響く。
「キラが止まらない! ラクスどうすればいいの!?」
そんなの、ラクスが教えてほしい。
「これは明確な侵略行為だ!」
ユーラシア連邦の将校が怒鳴る。
「キラ! 応答してください、キラ! 聞こえないのですか!」
「ミケールだ! ミケールを発見した! 捕縛する!」
ようやく答えが返ってきたかと思えば、それはその場にいる誰もが困惑するような言葉だった。
「ミケールがいるわけないでしょキラ! 逆だって!! 言う事聞いてよキラ!」
ラクスが呆然としているうちに、オルフェが必死に弁明をしている。
「これは当方の意思ではない! ヤマト准将の独断です!」
「そんな言い訳通じるか! 元々このつもりだったのだろう!? こうやってフリーダムと魔弾を使って我らを滅ぼすつもりだったのだな!」
将校は当然の推測をした。領土拡大の第一歩として、まずは戦闘可能な戦力を削れるだけ削る。適当に謝罪したらあとはファウンデーション王国の戦力で悠々と領土を拡大していけばいい。抵抗するための戦力はミーシャとキラが削ってくれるのだから。……想像できうる限り最悪のシナリオだ。だが、現状それを否定できるだけの証拠はない。
「しかし……! ――かくなる上は、姫」
「違います、宰相、キラにはきっと理由が」
「明らかなせん妄状態にあります」
ラクスは言葉に詰まった。否定したかった。だが否定できる要素が何もない。何度も違うと、そちらではないとそこにはいないと呼びかけているのに彼は聞き入れない。そういう異常な精神状態にあるとしか思えない。
「あるいは、反逆」
「あり得ません!」
反逆はない。それだけはない。だが、逆に言えば……逆に言えば、せん妄は否定しきれない。彼が嘘を言っているようには見えない。
――ああ、ついに。ついに、彼は壊れてしまったのか。恐れていた事態がついに、こんな場面でやってきたのだとしたら? そのとき、ラクスはどうすればいいのかわからなかった。
「姫。ご決断ができないのなら――どうか、我らにお任せください」
オルフェがラクスを気遣うように言う。
「もはや、彼を止める以外に方法はありません。今までの外交努力を全て、無駄にするわけにはいきません! たった一人の暴走によって、壊されるわけにはいかないのです!」
ユーラシアとファウンデーション王国が戦争になれば、そこから戦火が広がる。それに、コンパスにも砲火は向けられるだろう。また戦争が起こる。
キラを想い、彼を愛する一人の女としてのラクスは、声を大にして嫌だ、違うと言いたかった。だが、今ラクスはコンパス総帥としてここにいる。その両肩にはたくさんの人の命が、使命がかかっている。
「……はい。止めてください、キラを」
――すべてがあいまいな世界で、キラはその声だけがはっきりと聞こえた。
「ヤマト准将への攻撃を許可する。そういう意味で捉えて問題ありませんね」
オルフェ? 何を言っているんだ。なぜいきなり自分を? 理由はわからないがオルフェは自分に敵意を持っているのはこの前の邂逅でもわかっている。戦闘にかこつけて消しに来たのだろうか? だがラクスがそんなことを許可するわけが――
「……はい」
――キラは自分の耳を疑った。ラクスが、今、許可を出した? なんで?
「待ってよ、ラクス! これにはきっと――」
通信にノイズが走って何も聞こえなくなった。ラクスが自分への攻撃を認めた? なぜ!?
――キラの脳裏にラクスとオルフェが親し気に話している光景が浮かんだ。
……まさか……彼女は裏切ったのか?
そんなわけがない。何か理由があるはずだ。きっと、理由が。だが、彼女は確かに自分への攻撃を許可した。撃墜を。何もかも理解の外だった。何が起こっている。信じていたものがガラガラと崩れ去っていくような感覚がする。唯一の心の支えが根元から折れたような感覚がする。
――キラは未だ、混乱の中にいた。
特に作中で明言はされてないですが、本作では彼らの力をテレパシーとか超能力とか言っています。また公式で設定が発表されたら変更します。