【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
「敵戦力、移動中。ミレニアムは本艦へまっすぐ向かっております」
「そうか」
アルテミスからファウンデーション王国旗艦、ヴァナヘイム級惑星間航宙戦艦グルヴェイグのブリッジに移動したオルフェが、オペレーターの報告を聞いて思案する。
グルヴェイグはファウンデーションが誇る大型戦艦で、最も特徴的なのは12連装のローエングリンである。
「グルヴェイグはミレニアムの討伐に当たる」
「ミレニアム、地球低軌道で停止。地球軍残存戦艦……ドミニオン、ミレニアムと合流しています」
「……どういうつもりだ?」
オルフェは訝しげな表情をする。ドミニオン……たった一隻の増援で何をする気だ?
――ミレニアムのブリッジに、ナタル・バジルール少将が立ち入った。
「……ありがとうございます、バジルール少将」
「問題ありませんよ、ラミアス艦長。それにしてもまた海賊とは。あの時は討てと言われ、今は協力しろと言われ……。海賊相手に協力しろなどと、上も無茶を言う」
ナタルは微笑みながら口だけはそんな事をいう。
「でも本当によかったの?」
「言い訳は上が考えることです。もう数えるほどしか上にはいませんが。それに……文句を言ってくるような敵対勢力は軒並み今回の戦闘で黙らせるのでしょう?」
ラミアスがなんとも言えずに苦笑していると、ブリッジに端末を片手にしたミーシャが入ってきた。
「艦長、やっぱりステラやヒルダさんを遊ばせとくのもったいないと思うんだけど、ゲルググだけじゃどうにも……あれ、バジルール少将。海賊船に何の用?」
キョトン、とミーシャはナタルを見て言った。ナタルはそんないつも通りのミーシャを見てホッと胸を撫で下ろした。
「お前の生存確認だ。本当に生きていたんだな。核に焼かれかけたらしいが、被爆は大丈夫なのか?」
「海が護ってくれたよ。地球の偉大さを実感した」
「それは何より。――私は今回、配達に来たんだ」
「配達?」
ナタルが頷くと、ミーシャに端末を手渡す。
「あ、フリーダムとバスターフリーダムだ」
「武装あたりの出力、駆動系、操作系は最新のものにアップデートしてあるそうだ」
「ありがとう。これさえあればみんなで戦えるね。いやでも……バスターフリーダムとバスター……どっち使おうかな……」
「バスターか……」
「……流石に古くて使えないかな?」
「バスターは知らないが、バスターフリーダムはお前用に常にアップデートと改良が加えられている。今の戦場でも全く見劣りしない性能だろう。全く……。海賊に物資や機体を横流しする悪徳軍人を演じる事になるとは思ってもみなかったよ」
「このままファウンデーションぶっ殺し作戦にも参加してく?」
「いいや。私はレクイエムを討たねばならん。集結していた地球軍艦隊が撃たれたことは知っているな?」
レクイエムはミレニアムに向けて撃つ前に、地球軍月艦隊へも撃っていた。ようやく少しずつ戦力が回復してきたところにこの打撃。もはやレクイエムは完全破壊するほかなくなった。
「バレンタイン准将。任せる」
「任されたよ、バジルール少将」
ミーシャは拳をナタルの前に掲げる。なんのことかわからなかったナタルだが、視界の端でアーサーが拳同士を合わせる仕草をして気付いた。ナタルも拳を上げると、ミーシャの拳に合わせる。
「よし! 艦長、私ステラに言ってくる!」
「ええ、お願い」
ミーシャは元気にパタパタと駆け出した。
――
「ミレニアム、加速! 会敵予測、四分後!」
「来たか……!」
オルフェは席から立ち上がって宙域マップに表示されている赤い光点……ミレニアムを睨みつける。ドミニオンはミレニアムから離れ、月へと向かい始めた。
奴らは生かしてはおけない。ファウンデーション王国の企て全ての生き証人というだけでなく、核からも生き残ったそのポテンシャル。予想外の状況をこれからも起こしていく、油断ならない戦力となるだろう。ドミニオンもザフトの月戦力が撃沈させるはずだ。
――それにあの船にはキラ・ヤマトが乗っている。何もできないくせに、ラクスから全力の愛を、無償の愛をただ受け取る簒奪者が。ヤツだけは必ず消さねばならない。そうすればきっと、全てがあるべき形に収まるのだ。
「全艦隊相対速度合わせ! フォーメーションを維持! 12連装陽電子砲、敵艦予想進路に照準合わせ!」
オルフェの明瞭な指示に士官達は機敏に応える。
今度こそ仕留める。死ね、キラ・ヤマト!
ミレニアムも当然、敵艦の動きは見えている。
「ブリッジ遮蔽。総員第1戦闘配備」
ミレニアムのブリッジが後退し、前面にある窓が遮蔽されていく。モニターには絶望的なまでの戦力差が表示されている。だが誰も……アーサーさえも怯んだ様子はない。
「敵艦の主砲を回避することは難しそうですな」
「問題ありません。我が方に新装備あり」
ぼやくコノエに、アルバートがすかさず答える。
「耐熱耐衝撃結晶装甲展開!」
その装備はラミアスすら知らなかった。コノエも名前は知っているが実戦で使ったことはない。
ミレニアム各所からジェルのような粘液状の物質が出てきて、ミレニアム全体を覆う。ジェルは瞬く間に硬質化し、水晶のように結晶化し、ミレニアムを包んだ。
「ミサイル、射出。遠隔起動できるように宇宙に浮かべなさい」
「記録で見ましたな。ドミニオン……バジルール少将の戦術ですか」
「あの時は苦しめられたわ……」
未だに前線で戦艦に乗っている戦友との戦いを思い出してラミアスは苦笑する。あの時は迷惑をかけた。
「……戦術使わせてもらうわね、バジルール少将」
ミレニアムは進む。何十、何百という砲を前に怯えもせずに突き進む。
「アンチビーム爆雷発射! 近接対空砲起動! ミサイル発射管、ナイトハルト、ディスパール装填! 最大速度で敵陣中央を突破する! 目標、敵旗艦!」
地球の低軌道からずっと加速し続けたミレニアムには凄まじい速度が乗っている。ミサイル並みと言えばその速度の凄まじさが伝わるだろう。もはや軌道修正にすら苦労する速度で、敵陣に突っ込む。
「撃て!!」
信じられない速度で近付いてくるミレニアムに向けて、オルフェは全砲門を放つ。しかし、ミレニアムは1ミリたりとも進路を変えなかった。
「回避する気すらないのか!?」
進行方向未来位置に向けて放たれた無数のビーム、砲弾の中へミレニアムは自ら突っ込んだ。
ビームを防いでいると、次はミサイルの豪雨が降り注ぐ。
近接対空砲が火を噴き、先頭のミサイルを撃墜し、次々に誘爆する。
ビームとミサイルの雨を抜けて、ミレニアムはそれでも健在だった。
「バカな……無傷!?」
特殊装甲に守られて、ミレニアムは傷一つ受けた様子がない。何百という火砲に晒されてもかすり傷すら負った様子がない敵艦に、グルヴェイグのブリッジにも動揺が広がる。オルフェは舌打ちをして次の攻撃指示を……そう思った時、味方の艦艇がミサイルを受けて爆発した。
「何!? どこからだ!」
「遠隔起動のミサイルです! 事前に発射していたものと思われます!」
「小細工を……!」
不意打ちでひとつやふたつ艦艇を落としたところで戦況に変わりはない。オルフェはそう思っているが、周囲はそうではない。
マリュー・ラミアス。歴戦の猛者。この数相手に怯むどころか中央突破を試みて生存するどころかこちらの戦力を削ることさえしてのけた。
生ける伝説の戦いぶりに、新米だらけのファウンデーション王国の軍人は慄いていた。
「モビルスーツ隊発進!」
ミーシャはその命令をいまかいまかと待っていた。バスターのコクピットで待機して時期を待つのは中々辛い物がある。
「よし! みんな行くよ! 全機出撃!」
ミーシャが号令すると同時、格納庫から機体がせり上がり、ミレニアムのカタパルトデッキに二機ずつ出撃する。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「ルナマリア・ホーク、インパルス行くわよ!」
二人が出撃したあと、エクステンデッドの二人がカタパルトデッキに上がる。
「まさか隊長の最初の機体に乗れるとはね。アウル・ニーダ、
「久しぶり……。ステラ・ルーシェ、フリーダム、行く!」
最後に、ミーシャとヒルダが出撃する。
「やっぱりこいつは手に馴染むねぇ。ヒルダ・ハーケン、ギャン、出る!」
「……なんか、懐かしいな」
ミーシャは宇宙を見る。いつだってミーシャが見る宇宙は殺伐としていた。今だってビームの光と爆発が遠くに見える。でも、相変わらず、瞬く星たちは美しく、目も眩むようにキレイだ。
「……これで全部終わらせる。ミーシャ・バレンタイン、バスターフリーダム、行ってきます!」
ミーシャは出撃すると、ステラを連れて月へと向かう。
「ステラ、前の戦争の焼き直しだよ。レクイエムを守るザフト達に……地獄を見せてやろう!」
「了解、隊長。……バスターフリーダムでよかったの?」
「ハインラインさんの分析だと、ブラックナイトスコードの装甲は大火力のビームまでは防げないみたい。ヤタノカガミの劣化版だね。この子とフリーダムで勝てない相手じゃないよ」
正確には劣化というわけではないのだが……こっちの装備は優秀で、敵の装備の方は劣化版。そう思うほうが精神衛生的にいいのでミーシャはそう断言する。
「わかった……! 頑張る!」
ミーシャとステラは月に向けて機体を駆る。
――一方、アルテミス基地。指揮所ではオペレーターからの報告があった。
「モビルスーツ接近。数1。ストライクフリーダムです」
「ぷはっ」
思わずアウラが笑った。単騎でとは笑わせる。近くに母艦もいないし
「狂ったか」
シュラが吐き捨てるように言った。
「だが単騎で攫われた姫を助けようとする気概は認めてやらんとな。シュラ」
「はっ。私が再び、今度こそ奴を殺します」
うむ、とアウラは愉快そうに笑う。シュラは意気揚々と格納庫へと向かった。
……それが敵の手のひらの上とは、思いもせずに。
所変わって、ファウンデーション艦隊。旗艦のモビルスーツ隊にもついに発進命令が出た。
「デスティニーにインパルス? フリーダムに……バスター? ハハハッ! バカじゃねえのアイツラ」
「自殺に付き合う気はないよねーキャハハハ!」
「兵隊の訓練にはちょうどいいんじゃねぇの?」
ブラックナイツの面々は口々に嗤う。彼らにしてみればミレニアムから出てきたのは旧世代の機体のオンパレード。警戒に値しない相手だった。
「ねぇアグネスー! あんたお仲間やれんの?」
「うるさい! あのガキンチョにできることを私ができないわけないでしょ!」
「こっわーい! アハハハ!」
リデラード……リデルのからかいにアグネスはコクピットの中で爪を噛みながら怒鳴る。どうなってる。勝ち組だと思ってついてきたのに全然そんなことないじゃないか。
アグネスは尻は軽くても頭まで軽くはない。現状が追い詰められていることをちゃんと理解している。
バスターフリーダムにフリーダムの組み合わせは前の戦争のまんま焼き直しだ。ザフト艦隊はおそらく全滅だ。何せ今ザフトに残っているのは前線をほとんど経験したことのない人間ばかりなのだ。この世界にはもはやベテランと呼べる人間や歴戦の戦士と呼べる人間は非常に限られていて……その大多数がミレニアムにいる。
少なくともアグネスはミーシャのバスターフリーダムに勝てるビジョンが1ミリも浮かんでいない。なのにシュラの部下は能天気に部下の訓練になるとか言っている。
そのシュラもラクスラクスばっかりで全然構ってくれないし。『強い者は美しい』が本当にただの褒め言葉だったとでも言うのか? それならどんな感性してるんだ。
アグネスは選択をミスったと後悔し始めていたが……ここに至ってはしょうがない。やるしかないんだ。
もし殺されかけたら命乞いをしよう。多分大丈夫。ミーシャは想定外事象が起こるとまず止まって上に確認する。大丈夫、大義名分は用意してる。これがダメならもう諦めよう。半ばヤケクソ気味にアグネスは思った。
――シュラはアルテミス要塞の格納庫から出撃する。アルテミスの傘のほんの一部が消失し、シュラのブラックナイトスコードシヴァが宇宙に出る。
「キラ・ヤマト……今度こそ殺す!」
シュラはストライクフリーダムに斬りかかる。なかなか気分の乗らない戦闘だ。もう決まった勝負。この前の焼き直し。歯ごたえのない相手と戦っても魂が震えないというのに。
それも相手はわかっているのか逃げる一方だった。バカバカしい。時間を稼いだところで何になるというのだ。助けが来るわけでもあるまいし。
シュラは逃げる相手を追いかける。……アルテミス要塞がとんでもないことになっていることには全く気付かなかった。
「防衛ライン内……いえ、宇宙港に突発音。火災発生」
オペレーターは淡々と、大したことのないように言った。最強無敵の防衛設備の中にいるためか、全く警戒していない。敵襲である可能性はほんのかけらもなかった。なにせ敵はアルテミスの外でシュラ相手に逃げるばかりなのだ。これで警戒しろという方が難しいのかもしれない。
「……陛下、私が対処します」
「イングリットが? そこまですることはないと思うがのう。まぁよい。ラクスを安心させてやれ」
「はっ」
胸騒ぎが起きて、イングリットが奏上するとあっさり許可が降りた。イングリットは駆け出して、火災のあった宇宙港へ向かう。
――彼らは全く想定していなかった。ここまでダーティなことをやって世界を脅しているというのに、姫を救いにくるナイトが手段を選ばずやってくるなど思いもしていなかったのだ。
アメイジングズゴックはキャバリアーに搭載された条約違反のシステム、ミラージュコロイドを使い、透明になった状態で侵入した。奇しくもそれは過去にニコルがやったことと全く同じ方法であった。
「早く早く早くっ!」
メイリンがキャバリアーの中で焦りながらキーボードを叩く。失敗したら何もかも終わり。自分のハッキングの腕に全てが掛かっている。メイリンは焦りながらも今の状況を楽しんでいた。こんなに楽しいハッキングがあるか? ドラマやゲームみたいだ。
「……侵入した! 隔壁閉鎖! キサカ一佐! 行けます!」
ターン、とエンターキーを叩いてメイリンは叫ぶ。全ての仕事が終わった。流石に汗がすごい。だが……やりきった。
……部下がいきなり倒れ込んだのを見て、イングリットはすかさずパイロットスーツのバイザーを閉じた。毒ガス。いや催眠ガスか?
イングリットはゾワリと背筋に嫌な感覚が走る。彼らがラクスを奪い返しに来た。勝てる見込みもないだろうに、こんな堅固な要塞に乗り込んできたのだ。その執念と情熱に怖気が走る。
「なんであの人ばっかり……」
愛している人に愛されるのだろう。……ストライクフリーダムに乗っているのはキラではない。イングリットは確信を持ってそう思った。キラ・ヤマトはここにいる。
ラクスを自分の手で取り返しに、ここに来た。
イングリットは踵を返してラクスのいる貴賓室に向かった。守らなければ。ラクスの存在は計画の……これからのキーパーソンだし……。
オルフェが、彼女を望んでいるから。
イングリットはテレパシーでシュラに呼びかける。
(シュラ、キラ・ヤマトはアルテミスにいる)
シュラはその思念通信を聞いて驚愕する。オープンチャンネルでストライクフリーダムに繋ぐと、そこには侮蔑の表情を向けるアスラン・ザラがいた。
「アスラン・ザラ……!?」
「なんだ。心が読めるんじゃなかったのか? 侵入にも気付かないし……使えないな」
「貴様!?」
「今回のやり方もかつてニコルがやった戦術だ。ナチュラルだって同じやり方で侵入されるなんてバカなことしないだろうに……アコードってのは、大した上位種なんだな」
ナチュラル以下。シュラは怒りで顔を真っ赤にした。キラも、ミーシャも、アスランも。
「貴様ら……! 揃いも揃って我らアコードをナチュラルと同一視したな!」
「話を聞いていなかったのか? ナチュラル以下だと言ったんだ」
シュラはキレた。かつてないほどに。
「――殺す!」
「やってみろ」
アスランとシュラがアルテミス近傍で激突する。
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