【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy 作:丹寺 錯視屋
デスティニーに乗るシンはアウル、ステラの二人と連携して、ルドラ達3機と戦う。だが、状況は圧倒的にシン達に有利だった。
ヒルダとルナマリアの二人は少し離れたところで迫りくるザフト戦力と戦っている。
「バカな……! こんな事はありえない!」
デスティニーはまるで心を読んだかのように的確に回避してくる。見えもしないだろう真後ろに、ビームライフルの代わりに持たされたレールガンを放ち正確に命中させてくる。近付けばアロンダイトによる斬撃がまっている。遠くからステラのフリーダムによるバラエーナが飛んでくるのもストレスだった。アレにあたっても撃墜はされないが、ダメージは受ける。苛立たしい。フリーダムは回避とビームサーベルが主体のモビルスーツではなかったのか。
(そんな戦い方するのはね! キラだけだよ!)
グリフィンの脳裏に遠くからミーシャの声が響く。
「なに……? 今お前……!?」
あってはならないことが起こっている。あり得ないことが今起こった。だがそれを気にしている余裕はない。猛然とデスティニーが突っ込んできてめちゃくちゃにアロンダイトを振り回すのだ。
「前はジャスティスだったから負けたんだ……!」
あんな、ジャスティスといえばアスラン! みたいなイメージがついた機体に乗ってるから負けた。
「デスティニーなら、お前らなんて!」
シンたちが戦う戦場から遠く離れてレクイエム近傍。ザフト艦隊とオーブ艦隊が戦闘を続けている中、全速力で移動してきたミーシャのバスターフリーダムと、それを猛追したリデルのルドラが激戦を繰り広げていた。
「ハハハ! 仲間から離れて良かったの!? 死んじゃうよ!?」
「そりゃこっちのセリフ……! お仲間近くにいなくて勝てるの?」
「うるっさいな……! 子供のくせに!」
「あんまり年変わんないでしょ……!」
ミーシャは14歳。リデルは15歳である。そう年の変わりない二人は宇宙空間でビームを撃ち合う。ミドルスクールなら一学年しか違わない二人は、お互いに殺意を漲らせて殺し合う。
「ひいっ! なんで、なんで魔弾が!?」
「魔弾の天使……!」
「オーブ軍! 支援するよ! トーヤによろしく言っといてね!」
ミーシャは笑いながら、スカート状に配置されたシールドドラグーンを全て解放する。四方八方に飛び回らせ、しかしミーシャは平静そのものだった。もはや、頭痛に苛まれていた彼女はいない。訓練と成長……そしてスペックアップがそれを可能にしていた。
「さしずめ、バスターフリーダムver.2ってところかな? 私が魔弾の悪魔と言われる所以……味わってから地獄に行ってね!」
ビームライフルを乱れ打ち、背面のバラエーナを、肩部にあるビームライフルを、とにかく撃ちまくる。それらは明後日の方向に飛んだように見えて、曲がりくねって最終的にはモビルスーツのコクピットを貫く。
「……ッ!? ば、ばば、バレンタイン!? 魔弾の悪魔がなぜここに!? ファウンデーション王国は何をしている!? 殺したんじゃなかったのか!?」
曲がりくねるビームが戦場を支配するころ、最後列にいたジャガンナートがついに異常に気付いた。彼が決起を決めた最後の決め手は、ファウンデーションから齎された『コンパスのパイロットは皆死んだ』という情報を信じたからだ。あの魔弾の悪魔のいないオーブや連合、なんのことやあらん。
……だが、どういうわけかミーシャは戦場で暴れまわっている。経験の低い兵……つまりこの場にいる大多数の兵士をルドラとの戦いのついでに何人も殺し続けている。
「撃て……! 全艦隊全モビルスーツ! 魔弾の悪魔を仕留めろ!」
その場にいる全戦力の火砲がミーシャに向けて放たれる。ミーシャはそのフリーダムが持つ驚異的な推力任せに回避し、避けたビームをシールドドラグーンで曲げて相手に返す。
オーブのムラサメが外したビームをシールドドラグーンで曲げてフォローし、命中させる。
……ジャガンナートはガタガタと震える。またあの時と同じ。
こちらの攻撃にだけ魔弾の
敵の攻撃に魔弾が宿り、撃ったビームが必ず当たる。
「魔弾の悪魔……!」
彼女は射手ではない。敵に味方に、彼女のエゴが思うがままに魔弾を与える悪魔その人なのだ。
「チッ……! いい加減調子乗りすぎ!」
怯えが軍全体に伝播していることをリデルは感じとった。ナチュラルの上位種、コーディネーターたる者が情けない。
このままザフトの兵士が殺され尽くす……そう思われたその時、ミーティアユニットを装備した二機が戦場にやってきた。イザークとシホの二人だった。
「新手……!」
ミーシャは警戒するが、彼らはジャガンナートの援護に来たのではなく、その逆。
「宙域にいるザフト軍および、ジャガンナートに通告する! 貴官らにはプラント最高議長より投降命令が出ている! 即刻武装解除し戦闘を中止せよ! さもなくば反逆罪を適応し戦後は銃殺刑に処す!」
イザーク・ジュールの声だった。
「ルミナの仇……!」
ミーシャが攻撃の手を止めてイザークの機体を見る。
「隙あり!」
リデルが近付いて襲ってくるが、ミーシャにはそれが手に取るようにわかった。ビームライフルとサーベルの連携を大して意識することなく躱すと、事の推移を見守る。イザークがジャガンナートに何を言うか、気になった。
「武装解除!? 投降!? 貴様この光景を見てもそれを言うのか! 我らの命が脅かされているのだ! あの魔弾の悪魔に! 魔弾と手を取る!? 気でも狂ったか!?」
「それでも、命令は命令だ! 貴様も軍人なら目の前に死があったとしても命令には従え!」
「断固として拒否する! コーディネーターがナチュラルと手を取るような未来――存在してはならんのだ!」
「……そうか。それが貴様の答えか」
イザークの声は悲しそうだった。助けられなかった人を想うような声だった。
「貴様こそ! それが貴様の答えなのかイザーク・ジュール! 私が何も知らないと思っているのか……! お前だってあの魔弾に何人も友を殺されているだろう! 復讐を……! 仇を取る気はないのか!」
ミーシャはリデルの攻撃を避けながらイザークの答えを待つ。なんと答える。ルミナを殺したお前は何を思う。
「……戦場にあって殺し殺されは日常だ。俺は間違った。償う機会は永遠に失われた……。だからこそ、俺は誰より正しく在らねばならんのだ……」
正しさは何か、そんな者はわからない。だが、殺し合うより困難な道を歩み続けることではないかと、そう思うのだ。
「……そっか。イザーク・ジュール」
イザークの言葉に、ミーシャは通信をいれる。
「なんだ、魔弾」
「そいつ、もらうよ」
「いや、これはプラントの内乱だ。こちらで処理する」
ミーシャはシールドドラグーンを展開した。
「こっちで殺す。――
「……!」
イザークは目を見開いた。魔弾が、ミーシャ・バレンタインが自分を、気遣った? 何故だ、どうして?
「なんでかわかんないけど。なんか、今復讐しようとお前に武器向けたらさ。――ルミナが、泣くような気がして」
「何を綺麗事を! お前のような悪魔に人の心など……!」
ジャガンナートの言葉をきっかけに、ミーシャはバラエーナをジャガンナートの乗るザフト軍旗艦のブリッジに叩き込んだ。
「バレンタイン……」
「別に。人の心がないとか言われてキレただけだし。――仲間殺しなんてするもんじゃないよ。イザーク・ジュール。せいぜい地獄で苦しんでね。……何十年か後でいいからさ」
ミーシャはそう言うと、リデルとの戦いに集中し始める。
「……そうか。そうだな。……現宙域にいるザフト軍に通達! ジャガンナートは討たれた! 今すぐ戦闘を中止し原隊に復帰せよ! 繰り返す!」
イザークが呼びかけるも、ザフト兵の動きは鈍い。ダメか。そう思った次の瞬間、広域通信でラクスの声が響いた。
「皆様。わたくしはラクス・クラインです」
時勢が変わった。
――
「わたくしはファウンデーション王国の監禁から逃れ、こうして放送をしております」
オルフェはラクスの演説を聞きながら、通路に連れ出したイングリットに平手打ちをした。アウラを連れて旗艦に戻ってきたことはまぁいい。オルフェはアウラを丁重に案内すると、イングリットを連れ出した。国家元首をアルテミスから連れ出したのは功績と言っていいだろう。……だがラクスを奪われるということはその程度の功績では贖い切れるものではない。
「……もはや状況は絶望的だ。わかっているのか?」
オルフェの叱責にも、イングリットはただ項垂れて涙を流すだけだった。イングリットを見る目はまるで路傍の石を見るかのよう。
「我らの望みを叶えるためには、もはやキラ・ヤマトをはじめとする反抗勢力を撃滅するしかない。わかっているな? 手伝え」
「……はい」
オルフェはイングリットを従えて、格納庫へ向かう。もはや選択肢はなかった。
「――変化。失敗。自らの選択。それらを否定するデスティニープランを、わたくしが認めることはありません。ましてや、恐怖や暴力で従えようなどという行為は、けして容認できるものではないのです」
ラクスの演説は彼女の力が十全に発揮され、まるで胸に染み入るようだ。彼女の声を聞くだけで、自分たちが悪いのではないかという気がしてくる。
――それほどまでに、あの男がいいのか。
オルフェは足早に歩きながら心を燃やす。
それほどまでに、キラ・ヤマトが!
「……皆様。あなたを愛してもいない人に、あなたの価値を決めさせてはなりません」
イングリットはオルフェの背を見つめながら思う。
ラクスのようには生きられない。それしか生き方を教えられなかったし、そう生きることしか許されなかった。
――どうすればよかったというのか。ラクスの言う愛を、イングリットは知らなかった。許されなかった。愚かな行いだと散々に教えられた。生まれた時から……つい最近までずっと。
ラクス。イングリットは心の中で思う。
――あなたが心底、羨ましい。
レクイエムに向かうため月軌道を進むキラの背に、ビームライフルが放たれた。咄嗟に回避して反転すると、グルヴェイグの方角からブラックナイトスコードシヴァが向かってくるのが見えた。
(もうこれ以上は行かせん!)
シュラの機体がやってきて、レクイエム艦隊への道を塞ぐ。キラはその猛攻に誘導されるように月面のクレーター近くに移動する。クレーターの近くには前の戦争で沈んだ移動小惑星要塞、メサイアが突き刺さるようにして残骸を晒している。
「……!」
シュラはけして自分から目を逸らさない。キラは覚悟を決めた。――シュラを倒してレクイエムへ向かうしかない。
キラリ、と敵旗艦グルヴェイグからモビルスーツが一機、出撃するのが見えた。白いモビルスーツのように見えた。だが今のミレニアムに自分に向かってくるわけでもないモビルスーツに気を払っている余裕はない。ミレニアムの艦長席でラミアスは矢継ぎ早に指示を出し、単騎での決戦を続けている。
「敵旗艦進路変更! 予想進路レクイエム!」
ラミアスの脳裏に戦況がありありと浮かぶ。ファウンデーション王国旗艦艦隊がレクイエムに向かい、残りの全艦隊でミレニアムを引き込み撃滅する気なのだろう。
ラミアスの視界にはレクイエムへ向けて横っ腹を晒すグルヴェイグの姿があった。
「機関最大! 本艦はこれより敵艦隊防衛網を突破し、ファウンデーション王国旗艦を撃滅する! 突撃するわよ!」
「機関最大! 突撃します!」
ぐ、とラミアスの身体にGがかかる。それだけの推力で進み始めたのだ。ぐんぐん加速し、遠くに見える敵旗艦が少しずつ近づいてくる。
「艦長」
速度が乗り切る前に、ラクスがブリッジに通信を入れてきた。彼女がいる場所を見てラミアスは目を見開く。彼女は格納庫……それもプラウドディフェンダーのコクピットの中にいたのだ。救出されたときのパイロットスーツのまま、ラクスはコクピットに乗り込んだのだろう。
「く、クライン総帥」
「これはわたくしが今やるべきことではないのかもしれません。ただ徒に身を危険に曝すことなのかもしれません。けれど、どうか、今だけは。艦長、今だけは、行かせてください」
「それは……」
「たとえ、間違っていようとも。たとえ、するべきではないことなのだとしても。わたくしは今、キラのそばに在りたいのです」
決意と覚悟に溢れる目だった。ラミアスも愛する人を戦場に送り込む女なのだ。ラクスの気持ちは痛いほどわかる。迷うラミアスに、話を聞いていたアルバートが発言する。
「総帥。アルバートです。現時点でディフェンダーの完成率は100%です。しかし、現時点でドッキングはマニュアル操作での微調整が必要不可欠です。しかしご安心ください。私が完璧に誘導致しますので」
いつもの早口は少しだけ熱が入っていた。技術的には問題がないらしい。
「……戦場に出れば死ぬかもしれないわ」
「艦長、そんなことはわかっていますわ。わたくしは、
愛する人のために。ラミアスは呆れたように頷いた。この戦場で自分だけ何をすることもなくただ守られる……それはきっと彼女の矜持が、彼女の意思が許さないのだろう。ラクスは姫とさんざに呼ばれたが、ただキラに守られ、キラの助けを待つだけのお姫様ではない。ラクスは戦う。後ろではなく、隣で。
「了解しました。出撃を許可します」
――アスランは自分も出撃準備をしながら呆れたようにため息をつく。
「ったく……本当に、見ないうちに変わったものだ」
アスランの知るラクスはけして最前線、シュラのいるような鉄火場に飛び込むような子ではなかった。
「アスラン。こんなときに何にもできないほうが辛いってこともあるんですよ?」
「そうなのか」
それで死ぬようなことになってもか。もしこれでラクスが撃墜されるような事になってみろ。キラの心は二度と……。いや、そのリスクを負ってでも、ラクスはキラの隣にありたいのだろう。
「全く……女心がわからない人ですね、相変わらず。アスハ代表とよく上手くやっていけるもんですよ」
「カガリは最高の女だからな」
アスランはさらりとメイリンに惚気けると、コクピットの操縦桿を握りしめる。さて、作戦が上手くいくか……いや、まぁ上手くいくだろう。アスランはどこか確信を持っていた。
「アスラン・ザラ。ズゴック、出る!」
赤い水陸宙両用の万能機が、カタパルトデッキから出撃していった。
次に、戦闘機のような見た目のバックパックがカタパルトデッキにセットされる。
「……」
ラクスはコクピットモニターに表示される外の景色を見た。ゾッとするような黒。瞬く星だけが光源の世界。
「――ラクス・クライン。プラウドディフェンダー、行きます」
カタパルトのGを感じて、次の瞬間には宇宙に投げ出された。上も下もない、ただ黒と膨大な無の空間の中、ラクスは進む。操縦せずとも、機体はキラの下へと自動で向かっている。だからこそ、余計に不安が募る。ラクスは歯を食いしばって、その恐怖を噛み殺し、ただキラを想う。
――これが、みんなの感じている、宇宙。
なんと、残酷なまでに広いのだろうか。
月面でキラとシュラは戦っていた。機動力に優れるストライクフリーダムに追いすがるようにしてシヴァの巧みな剣戟が襲う。ドラグーンを展開して牽制しなければ、それこそ前の焼き直しになっていただろう。
そこに、さらなる敵影が現れた。白の装甲に金の縁取りがされた高貴な印象を受けるモビルスーツだった。ブラックナイトスコードカルラ。オルフェの乗機である。
彼は背面のドラグーンを展開すると、シュラと連携してキラに襲いかかる。
「哀れな奴!」
「なにが!」
「旧式のモビルスーツで我らに挑むことだ!」
キラは展開していたドラグーンで、オルフェのドラグーンに攻撃する。ドラグーン同士が激しいドックファイトをしながら移動し、無数のビームが戦場で放たれる。後方にカルラが、近くにはシヴァが。かなり不利な形勢だった。
「モビルスーツの性能差が、決定的な差じゃない!」
「そうとも! パイロットの腕! 性能! そして数! 何一つお前が勝るものはない! ……つまりお前は、死ぬんだ! キラ・ヤマトォ!」
キラのドラグーンを、オルフェのドラグーンがビームカッターであっさり斬り捨てた。次々に敵へと趨勢が傾く。シヴァのビームブレイドを避けきれず、翼を切り落とされる。速度、反射神経、何もかも向こうが上に思える。
――だが負ける気は……死ぬ気はまるでしなかった。
彼らは殊更に強さを強調する。機体が強いのだと。パイロットが凄いのだと。数が凄いのだと。まるで子供が自慢するように差を強調するのだ。
――本当の強さはそんなものだろうか? 機体で左右されるものか? 違う。
遺伝子の優劣で決まるものか? 違う!
「君達がいくら強くても。僕には武器がある」
月面に叩きつけられた。這いつくばりながら、自分に向かってくる無数のミサイルを見据える。マルチロックでそれら全てをロックオンすると、持てる火砲全てで迎撃する。
「武器だと?」
「そう。武器。僕だけの」
「そんなものあるものか! なんなんだそれは?」
「ラクスの愛だ」
愛していると、言われた。
愛していると、伝えた。
たとえ敵がどれほど強くても。たとえ自分がどれほど弱くても。どんなに戦力差があろうと。キラは決して諦めない。命が止まるその瞬間まで抗い、戦い続ける。
ラクスのもとへ帰るために。
愛するラクスと共に生きるために!
「愛!?」
「愛。僕とラクスは、愛し合っている! だから僕は……僕は、戦い続ける!」
悲壮な覚悟ではない。デュランダルにしたときのような使命感に満ちた誓いでもない。
彼女への愛が、キラを一歩前に進めてくれる。
彼女からの愛が、傷付く心を慰めてくれる。
愛が何もかも解決するとは言わない。
愛があれば何も要らないということもない。
だが愛があれば優しくなれる。勇気が湧く。
愛し合って、お互いに愛を贈り合ったそのとき、人はきっと、永遠を感じることができる。ほんの、少しだけ。
でもそれでいい。それだけで、十分なのだ。きっと。
「ラクス……!」
ラクスの名を呼ぶ。キラは絶望的な戦いの中、強く、強く思う。
――絶対に、死んでたまるか。