【完結】機動戦士ガンダムSEED Infancy   作:丹寺 錯視屋

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放つ光

 メサイアの残骸が近くに見える、月面のクレーター内。オルフェのブラックナイトスコードカルラと、シュラのブラックナイトスコードシヴァはキラを追い詰めていた。

 

「愛だと……!? ふざけるな……! ふざけるなぁあああ! 貴様のようなゴミが! お前のような失敗作が! 軽々しくラクスの名を口にするだけでは飽き足らず愛している!? 百万回殺しても殺し足りん!」

 

 オルフェにとってキラは存在していてはいけないモノだ。キラの全てが、オルフェの全てを否定する。

 父親のようなデュランダルを殺した。デスティニープランを否定した。ラクスをオルフェから奪った、

 

 ――親からなんの使命も与えられず、ただ力を持たされて、愛されている。

 

「私は彼女のために生きてきた! 彼女と添い遂げるために!」

 

 オルフェが叫ぶと、その後ろに座るイングリットの表情が曇る。

 

「それを! 何も知らず今までのほほんと生きてきた貴様が! ラクスを奪ったのだ! その資格もないくせに!」

「愛されるのに資格はいらない!」

「黙れ失敗作がああああ!」

 

 オルフェはキラへ攻撃しながら叫ぶ。納得できない。不条理だ。理不尽だ。なぜ彼女の為に努力を重ねてきた自分が選ばれず、今までずっと普通に暮らしていて、ただラクスと先に出会っただけの男がなぜ選ばれる。

 

「彼女は私のものだ! 彼女は私のものになるべく生まれてきたのだ! それを貴様が!」

「彼女が愛する人は彼女が決める! それをわからない君が!」

「下等種族が偉そうに!」

「アコードのどこが上位なんだ! 僕一人殺せないのに!」

「黙れえええええええ!」

 

 オルフェとシュラが連携をとってキラを追い詰める。ストライクフリーダムのあちこちに傷ができる。度重なる連撃の前に、ストライクフリーダムのフェイズシフト装甲が落ちる。防御をすると電力を消費する以上、許容量を越えるとどうしても起こる、フェイズシフトダウン。すかさずシュラが胸部ハッチを開いてとどめを刺そうとする。その瞬間も、キラは恐怖を感じていなかった。今のキラは一人じゃない。仲間がいる。

 

「キラ!」

 

 シュラとキラの間に割り込むようにしてアスランのズゴックが戦場に降り立った。針のような弾丸が無数に発射され、ズゴックを針山のようにする。

 

「アスラン!」

 

 キラが名前を呼んで無事を確かめる。ズゴックの装甲にひびが入り、中から光が漏れる。装甲が爆発するように弾け、中から……。

 

「アスラン・ザラ……! 音に聞くジャスティス!」

 

 中から出てきたインフィニットジャスティス弐式を見て、シュラが歓喜の声を上げる。やっと、やっと歯ごたえのある敵が出てきた。

 ジャスティスは見せつけるようにしてビームサーベルを引き抜き、アンビテクストラス・ハルバードモードにして構える。両足のビームブレイドと新型リフターの4枚の翼部のビーム刃を展開する。

 

「キラ。俺はただの護衛だ」

 

 アスランがキラに言うと、キラのコクピットに新たな友軍機の機影が見えた。反応がずいぶんと小さい。まるで戦闘機か……開発が終わったばかりの新装備のように見える。

 

「キラ!」

 

 キラのコクピットに愛しい人の声が響く。キラは慌ててラクスの……プラウドディフェンダーの傍による。

 

「エンゲージ!」

 

 キラの音声入力で、エンゲージシークエンスが開始される。アルバートが事前に言った通り、よどみなく、誤差もなく、完璧に完全に、キラのストライクフリーダムとラクスのプラウドディフェンダーが合体する。その瞬間、エネルギー残量が完全に回復し、フェイズシフト装甲が色づく。

 

「邪魔をしてくれたな……! だがもう終わりだ! イングリット! 全弾をキラ・ヤマトに叩きこめ!」

「了解……」

 

 オルフェの命令に従って、メサイアの裏に控えさせている無人機に指示を出す。無人機に搭載されているミサイルポッドからレーザー誘導のミサイルが放たれ、ストライクフリーダムに殺到する。

 

「今度こそ死ね、キラ・ヤマト!」

 

 ストライクフリーダムのバックパックの翼が展開し、煌めく金色の粒子が周囲に漂う。粒子が機体を包み込み、光の繭のように眩く光り輝いた次の瞬間、ビームやミサイルの雨が降り注いだ。爆発と、閃光。オルフェはキラの死を確信する。

 

 ――だが。

 

 だが、煙が晴れたあとにいるのは、全く無傷のマイティーストライクフリーダムだった。

 

「……バカな」

 

 金色に輝く翼をもつキラの機体は、まるで天使のようにも見える。そして、オルフェはもう一つ……。ストライクフリーダムのコクピットハッチの傍に立ち、自分を強い瞳で見据えるラクス・クラインが見えた。

 

「それが、あなたの意思だというのか」

 

 そうまでして運命に抗おうと言うのか。キラの隣で、戦場ど真ん中に来るほどに、キラのことが大事で、オルフェの気持ちを受け入れられないというのか。

 キラの傍に立つラクスは、オルフェの理想のままだった。理想のまま、思い描いていたラクス・クラインが敵の手の内にある。自分のところにいた時にはけして見せなかった表情で、まるで罪人を見るかのような目でこちらを見ている。

 

「そうまでして……! ならば、ならば……」

 

 オルフェはコクピットの中で拳を握り込む。手酷い裏切りを受けたような気持だった。今まで信じていたモノ全てに裏切られたような絶望、怒り。その時オルフェは全てを忘れて、操縦桿を握りしめた。使命も、運命も、役目も、何もかももうどうでもいい。ドロドロとして怒りと憎しみだけが今のオルフェを突き動かす。

 

「ならば、その愚鈍な愛と共に滅びるがいい!」

 

 オルフェはラクスがいるストライクフリーダムへ向けて、ビームを放った。ストライクフリーダムの光の繭はそのビームもあっさり防ぐ。ストライクフリーダムのコクピットハッチが開くと、ラクスはその中に身を躍らせる。キラの膝に乗った彼女は、キラを見てふんわりとほほ笑んだ。愛しい人が、手の中にある。

 

「ラクス、どうして……」

「あなたのそばにありたかったのです。私の意思は、あなたと共にあります。――幾久しく、よろしくお願いしますわ」

 

 彼女はまるでここが戦場ではないかのようにほほ笑む。つられて、キラも笑ってしまう。戦場だと言うのに。でもそれでよかった。

 

「ずっと、一緒に」

「ええ」

 

 二人で頷き合う。それだけでいい。彼女と一緒ならどこへだって行けるしなんだってできる。――強敵を倒すことくらい、簡単なことだ。そう思える。

 

「さあ、ラクス。行こう」

「ええ」

 

 ラクスはパイロットシートの横にあるサブシートに座る。カルラのドラグーンから無数のビームが、無人機からはミサイルが飛んでくるが、翼から放射されるナノ粒子がそれらすべてを防いで、機体には傷一つ付けさせない。

 

「ここは私が」

 

 ラクスはそう言うとディフェンダーに脳波をリンクさせ、その場に存在するすべてのミサイル、ドラグーン、そして援護にやってきた敵戦艦をロックする。……直後、ディフェンダーから発せられた電撃が宇宙空間を駆け、ロックされた対象全てに同時に着弾した。ミサイルは爆発しドラグーンはその場で慣性に任せて浮遊し、その後の操作を受け付けなくなった。戦艦は全て機能停止に陥り、戦えるのはカルラとシヴァの2機だけだった。フェムテク装甲がなければ戦艦と同じ目に遭っていただろう。

 キラはラクスを見る。彼女は一瞬でこの宙域の情報を把握し、正確にロックオンした。今まで開花することのなかったアコードとしての力。彼女もミーシャと同じで、アコードの能力に触れることで覚醒を促されたのだ。今までしたことのなかったことを、あっさりと、さらりとやってのける。確かに知らない人が見れば、新人類だとか上位種だとか思ってしまいそうな力だ。

 ――だが、彼女は新人類でも上位種なんかでもない。キラを愛し、キラに愛されるだけの、キラの為なら戦場に行くことも躊躇わないだけの、普通の女の子なのだ。彼女は新たな役割を押し付けられかねない力もためらいなく使った。それは全てキラの為。

 

「……ディスラプターを使う」

 

 メサイアの裏に隠れた支援機が邪魔だった。キラがそう言うと、コクピットに特殊な承認パネルが表示される。

 

「――キラ・ヤマト准将、ディスラプター使用を申請」

「ラクス・クライン総帥。ディスラプター使用を承認します」

 

 戦場にあって使用に申請と承認が必要になる武装。今回は承認者がすぐ隣にいるからスムーズに使えるが、本来は慎重な検討の上に使用されるべき兵器なのだ。それほどまでに、強力な力を、キラは得た。

 

「ディスラプター起動」

 

 ストライクフリーダムの額にある小さなハッチが開き、発射口が露出する。

 

「キラ、心を少し繋げます。私の見ているモノを見てください」

 

 キラは目を閉じる。彼女の見ている物が見える。メサイアの裏に機体が隠れている。透かしているようにそれが見えた。

 

「ディスラプター発射。出力80%!」

 

 巨大なエネルギーが、ストライクフリーダムの額から発射される。しかしそのエネルギーは目に見えないほど細く、小さい。原子を崩壊させ、しかし核分裂は抑制する……次元を切り裂く刃。ディスラプターが通り過ぎた後には、ただ切断された結果だけが生じたかのように、無人機も、メサイアも、輪切りにされたように真っ二つになった。上下二つに切って捨てられたメサイアが月面に墜ちて、もうもうと砂埃を上げる。

 キラはディフェンダーから実体刀、フツノミタマを抜いて構える。ただまっすぐに、オルフェを見ていた。

 

 レクイエム、近傍。心を繋げて溶け合い、まじりあったアコード達はシンを追い詰める……どころか、状況は不利に傾いていた。

 

「馬鹿な! シンクロアタックまでしたのに!」

 

 さっきからシンの思考が読めなくなっている。ステラやアウルなどの雑兵の心は読めるのに、なぜかシンだけが読めなかった。まるで反射で戦っているかのような……。

 

「まさか! 何も考えていないのか!?」

「戦闘中に考えている暇があったら……! 身体動かせえええええええ!」

 

 シンの絶叫が彼らに響く。

 

「前時代的な根性論!?」

「今やってるのが高尚なもんだと思ってんのか、お前らは!」

 

 シンは有機的に連携してくるアコード達の攻撃を捌きながら言う。

 戦闘なんて原始時代の理屈で戦うのがちょうどいいくらいだ。どこまで行っても殺し合いで、どこまで行っても野蛮で残酷な行いなのだから。

 

「ちっ……! 闇に墜ちろ、シン・アスカ!」

 

 今度こそとどめを。そう思ってグリフィンがシンの心の奥深くに入り込む。

 

 ……闇の中、彼らはただ見ていた。

 

「なんだ……これは……」

 

 深い、深い闇。彼の歩いてきた地獄を、アコード達は目の当たりにする。

 幸せだった日々を。

 

 ――そして、それがあっさりと吹き飛んだその日のことを。

 無残な死体となったシンの両親が見える。ずたずたになったシンの妹、マユがいる。三人の死体を、嫌味なくらいにキレイな花畑が囲っている。ずる、とマユが起き上がった。

 

「ひっ」

 

 誰の悲鳴だったのか。

 

「お兄ちゃんたち、だぁれ? マユはね、マユ・アスカ!」

 

 次第に人の形を、生前の姿を取り戻したマユは、シンの心に侵入してきた外敵に近づく。

 

「お兄ちゃんたち……ダメだよ、こんなところに来たら」

「……な、なにが」

 

 マユはアコード達の後ろを指さす。つられて振り返ると、そこには無数の死体が立って彼らに近づいていた。

 ……彼が作り上げてきた死体だ。山のように積み上げてきた死体が彼らに群がろうとしている。

 

「……彼は、ただ、戦ってきただけなのだ」

「あ、トダカさん」

 

 やっほー、とマユは軍服を着た男性に手を振った。彼はマユにほほ笑んで手を振ると、アコード達に厳しい目を向ける。

 

「君らのような子供にいいようにされるほど、彼の闇は浅くない。最期に、オーブの諺を教えてあげよう。冥途の土産にするといい。

 

 ――人を呪わば穴二つ」

「人を呪わば、穴二つ!」

 

 直後、マユが元気な声でそう繰り返すと、アコード達にとてつもない悪寒が襲った。マユが巨大化し、彼らを見下ろしている。

 

「悪い人は……! ここからでていけー!」

 

 ぎゅ、と大きくて幼い掌に掴まって、三人はぎりぎりと締め上げられる。シンの歩んできた道のり。地獄のような人生。だが彼は死人に、想われているのだ。

 

「なんだ……こいつの闇は……!」

「深すぎる……!」

 

 ぐちゃり、と潰された次の瞬間、アコード達は精神世界から弾き飛ばされ、コクピットの中に意識が戻っていた。恐怖の体験のせいで、操縦もままならない。精神が繋がった影響で、三人全員が数秒、完全にマヒしたように動けなかった。その隙を見逃すような雑兵は、この場に一人もいない。

 

「さっきからぬるい分身しやがって……!」

 

 シンはデスティニーの翼を展開し、ヴォワチュール・リュミエールを起動する。

 

「分身はーー! こうやるんだあああああああああ!」

 

 粒子が四方八方に散って、その粒子にデスティニーの虚像が投影される。無数の分身。どれが分身でどれが本物なのか、まるで分らなくなる。

 

「な、なんだこれは」

 

 その分身に目をやっている隙に、後ろから忍び寄っていたギャンと、遠くから近づいてきたライトニングバスターが攻撃する。ライトニングバスターのミサイルが降り注ぎ、爆発の煙が晴れる前に、ギャンのビームシールドがルドラのコクピットを両断する。

 その瞬間。

 

 

(ぎゃあああああああああああ!!)

 

 死んだ瞬間の凄まじい断末魔の叫びと痛みと恐怖が、二人の中で共有される。

 

「うああああああああああああ!!?」

「いやだああああああああああああああ!」

 

 自分が今、死んだような感覚が彼らの脳を焼いた。もはや誰が死んだのかすらわからない。死んだのは他人なのか、自分なのか。強烈な感情と思念を、融合に近いほど繋げていたのだ。その衝撃は人間が耐えられるものでは到底なかった。逃走どころか操縦すらままならない状態になったルドラはもはや脅威でもなんでもなかった。

 

「やあああああああああ!」

 

 ステラが猛然と近づいてビームサーベルでルドラを仕留めた。その死の衝撃も、唯一生き残ったグリフィンに伝わる。だがもう彼はまともな思考をしていなかった。デスティニーのアロンダイトに切り裂かれるその瞬間も、彼はただ、呆然と何もない空間を見つめていた。

 

 ――アウラはその情報が信じられなかった。

 

「馬鹿な。私の子供たちが!」

 

 あり得るはずがない。今、アコード達4人の信号が途絶えた。敗北……討ち取られた。アウラの知識と技術の粋を集めて作り上げた子供たちが、ナチュラルとコーディネーターの混合部隊に負けるなんてそんなことはあり得ない。あってはならない。

 

「く……! ユーレン・ヒビキィ……! クラウス・バレンタイン……!」

 

 彼らのしたり顔がアウラの脳裏に浮かぶ。

 

「人を支配することを運命づけるなんて、君はなんて傲岸なんだろう」

 

 そう憐れむように忠告してくるユーレン・ヒビキ。

 

「世界を知らずに世界を支配できるのか……実に興味深い実験だね。普通に学校に行って普通に恋して普通に働く……そんな『普通』の積み重ねが『世界』だって、君にはわからないんだね。

 

 かわいそ」

 

 ひたすらバカにして嘲笑ってくるクラウス・バレンタイン。

 

 その二人に、アウラは囚われ続けていた。

 

「こうなったら……! オーブも、プラントも、何もかも焼き払ってやる! レクイエム発射準備!」

 

 もはや彼女を動かしているのは怒りと恨みだけだった。

 過去に囚われ過去にこだわり恨みと怒りだけで行動する……。今を生きているはずの彼女は、まるで亡霊のように行動していた。

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