窓から差し込む逢魔時の光が、部屋全体を柔らかく照らし出す。
僕は次第に意識を取り戻し、ゆっくりと目を開ける。
最初に感じたのは背中に触れる心地よい温かさだった。身体は柔らかなベッドの上に横たわり、周りには安らぎを与える静寂が広がっている。耳には、壁にかかる時計の秒針の音しか入ってこない。
なんとか意識をとりもどした僕の視界には、真っ白な天井と、学校の保健室にありがちなまだら模様のような黒。
意識は徐々にクリアになり、記憶が戻ってくる。僕は倒れる前の出来事を思い出し、そして自分がどこにいるのかを理解する。
知らない天井だ――というわけではない。この一週間、月曜日を除いて毎日救急搬送されているのでもはや常連である。
昨日はついにセナ部長に「最近の行政官は前線に出ているんですか?」なんて質問される始末。
いや…ジュリには申し訳ないことをしてしまった。一週間特訓に付き合ったものの、結局その生命創造術を解除出来なかった…今度学食を食べに行くときにちゃんと謝罪しよう。
ブー!ブー!
突然、ベッドの隅に置かれたスマホがざわめき始める。驚きの表情を浮かべつつ、体の節々に違和感を覚えながらも急いで電話に出た。
「アコちゃん!温泉開発部が校内公園で暴れてる!急いで応援呼んで!」
背後で聞こえる爆発音、そして切羽詰まったといわんばかりに焦っているイオリの言葉に、僕は一瞬固まる。
嫌な予感が的中した。他でもない温泉開発部が一週間も静かだったんだ。きっと計画も十二分に練ってきているだろうし、もしかしたら大規模な戦車とかまで用意しているかも知れない。
一目散に立ち上がり、服装を整えるために片隅にかけられたコートに向かう。ノールックでスマホの全体連絡選び、応戦用の兵力を揃えるために力強く呼びかけた。
「中央の校内公園で温泉開発部と抗争中!大規模戦闘が想定されます、特別指示のないメンバーはすぐに向かえるよう準備を!」
準備が整った僕は脇目も振らず風紀委員本部の司令室に向かう。入り口でセナとすれ違ったが、短い感謝の言葉と会釈を投げつつ本部の方へ全速力で駆け出した。
■
緊迫感に包まれた本部の指揮所の中で、情報部たちは入手した情報のすりあわせを行っていた。すでに温泉開発部の暴動は始まっており、僕らは急いで敵の規模と戦略を分析し始める。
「行政官の予想通り敵はこれまでとは比べものにならないほど大規模です!」
「やっぱりスパイはこれを隠すために消されたんだ…」
「ヒナ委員長が出張でいないタイミングで攻めているようですね」
情報部の参謀達は、早急かつ冷静に状況を分析し、現状を理解しようと努める。
「配置を少々変更して、敵の攻撃に対処しないといけませんね。幸いにも敵が集中しているのは公園だけ、おそらく「公園に素晴らしい泉脈が…」とかカスミさんが言いだしたんでしょう。戦力の分散を極力避け、集中的な反撃を行う必要があります」
温泉開発部は、これまで基本的にブラフとして目的箇所とは別の場所を襲う、なんてことはしなかった。
おそらくそれはカスミ部長の指示とかなのだろうが、その代わりに一点に戦力を全集中させる傾向が大いにある。
しかし当然、重機や爆弾を全て搬入するためには相当の時間を要する。そのため最初に部員を数人暴れさせて場所を確保、つまりは陣取りを行って安全に掘削しなければならないのだ。その弱点を叩けば…勝率は70%といったところだろう。
ちなみにヒナ委員長がいた場合の勝率は100%である。もはや五条悟じゃん。早く帰って来て下さい…
少しの時間が経過し、参謀たちは練り上げた戦術を発表する。
「このポイントで待ち伏せし、敵の進軍を遅らせつつ、同時に待機中の予備部隊を抗争地帯に派遣し鎮圧。そして敵の戦車やトラックが見え次第、それに積まれている爆弾を狙い誘爆を狙います」
「はい、私も異論はありません。ですが、優先するべきは爆発物の処理。それさえなければ、ただのチンピラが暴れてるのと大差ありません」
参謀の戦略と思考が概ね一緒だったことに少しだけ安堵しながら、最終的な指示を出す。変数さえなければこれでなんとかなるだろう。計算通り、かんぺき~。
視界の隅で、本部待機中のまだ抗争に投入されていなかった風紀モブちゃんたちが、機敏に動き出すのが確認出来た。
我々風紀委員の真髄は、個人的には圧倒的な「数」だと考えている。僕の場合、何故か本編中の先生みたく遠隔から戦術指揮を飛ばすことは出来ないようだけど、部隊の大まかな動きの指示ぐらいは出来る。
やつらはどうせヒナ委員長なしの風紀委員なら余裕とか思っているのだろう。あんまり舐めていると痛い目を見ることを思い知らせてやる。
■
――少し前…
特定のたびに何度も場所を移し替えることで知られている温泉開発部部長、鬼怒川カスミの秘密アジト。かつて放棄されて誰も寄りつかなくなったであろう第68アジトに、呼び出された4人組をそこの主が出迎えた。
「ちょっと正気!?あの風紀委員にケンカを売れって?冗談じゃないわ!」
「おや、報酬さえ受け取れれば何だってするのが君たちのモットーじゃなかったか?我々の悲願に助力さえしてくれれば、望む額をくれてやろう!ハーハッハッハッハ!」
閑散とした空間に悲鳴と歓声が交差する。
萌え袖を振り回し意気揚々とした様子の主とは対照的に、一方のリーダーは困惑した様子だ。
「えーアルちゃん断っちゃうの~?最近口座が凍結して事務所の家賃さえ払えないって言うのに、こんな大金を見逃しちゃうの~?」
「うっ…わ、分かったわよ!受けるわ!」
「えっ、社長待って!いくらヒナが不在だからって、わざわざゲヘナに戻るのは悪手…」
白髪の小悪魔系な少女*1がそのリーダーを煽る。実際、彼女たちは社員4人だけとは言え規則違反である起業をし、他にも諸々の悪事を成した為に指名手配されている。
さらに口座は凍結され、事務所の家賃支払いにさえ四苦八苦しているのだ。だからカスミが提示している金額が報酬ならば。このミッションを受ける理由は十分だと言える。
しかし委員長が不在とは言え、風紀委員と闘う面倒事とその報酬を脳内で天秤にかけた、チームの保護者役で顔が怖いけど実は可愛くてASMRがえっちでメモロビも湿度があって実は18歳なので合法でネコが好きそうな少女は、リーダーの投げやりな返答を冷静に制止した。
だが、その静止の声はにやりと笑みを浮かべたカスミの大声によってかき消される。
「ハーハッハッハッハ、そう言ってくれると思っていたよ!では君たちには、我々が爆薬を運び込むまでの時間稼ぎを頼みたい!」
「ええ分かったわ!やってやるわよ、ハードボイルドなアウトローに二言はないわ!ハルカ、武器の準備をしておきなさい!」
「はい、アル様の道をじゃまする奴らは私が殺します!」
自らの社長がここまで言い切ってしまったならば、常識人ポジで振り回されてばっかりだけど内実皆のことが大好きで最終編でリンちゃんから把握されてるほどの大物で洞察力もあって本音を口に出さず淡々と仕事をこなすクール系で鎖骨がえっちで声もえっちで顔を怖がられているのを気にして傷ついてそうな少女も、もはや従う他に選択肢はない。
こうして奇妙な、されど風紀委員会にとっては完全に想定外な同盟が出来上がっていた。
■
「行政官!補充部隊、何者かにより全滅です!」
「通路に爆弾が仕掛けられていたようですね…」
「ドローンの映像を確認します…あれは便利屋!便利屋68です」
スクリーンに表示されるのは、銃を天に掲げて周囲のモブちゃんたちを恐怖状態にする便利屋68課長「鬼方カヨコ」、大量の爆弾を爆発させながら先陣を切ってツッコむ平社員「伊草ハルカ」、鞄を放り投げて次々と戦闘不能にしていく行動隊長兼突撃隊長の「浅黄ムツキ」、そして少し離れた場所から確実に部隊のリーダーを撃破していく社長の「陸八魔アル」。
…は?なんで?全滅?便利屋?
映し出された映像を見た情報部たちのざわめきから、皆が緊張と不安に包まれているのが読み取れた。やがてそれは部屋中に蔓延し、僕の心を大きく動揺させるようになった。
押し寄せるのは、完全に思考から外れていた便利屋が乱入してきた混乱と、自らの誤った判断で一個小隊を犠牲にしてしまった自責の念。
しかし当然、校内公園では戦闘が続いており、部隊は僕の指導と判断に依存している。この場で最終決定権を持つのは自分だ。この明らかに劣勢の状況で、最適な指示を見極めなくてはならず、この場の誰もが僕に視線を注いでいた。
(どうする、どうすればいい!策を練られた便利屋は、当然風紀委員の強みである「数」の対策はしてるはず。悔しいけど、部隊の練度は圧倒的にあっちが上、ならもっと「数」で上回るためにヒノム火山の駐屯部隊を呼び寄せる?…だめ、時間がかかりすぎる!)
手探りで可能性のある策を探し、頭の中で打開出来そうなシナリオを何度も繰り返すが、どれもうまく組み立てられず、不完全なままである。僕は自分の無力さと不甲斐なさを痛烈なまでに覚えた。
心臓は激しく鼓動し、頭の中は思考の混沌に包まれている。指示を求める部下たちの視線を感じながらも、次第に頭が真っ白になったかのように、何も考えられなくなっていった。
奥底から自分の物ではない過去の経験や知識を湧き上がらせてみるも、それらは状況に合わないものばかり。あれほどあった自信と冷静さはどこか遠くに消え去ってしまったかのようだ。
…当然、この状況を一発でひっくり返す方法は存在する。
それは先ほどから思考の隅にちらついていた考えであり、確実かつ即効性のあるもの。
想定したパターンの中で最も犠牲者だって出ないし、費用だってかからない。
しかし、それにすがってはいけない。頼ってしまっては、その小さな背中に、さらに責任というおもりを乗せることになる。
震えながらも口を開く。仕方ない。彼女は圧倒的。こんな騒動すぐに鎮圧してくれるはずだ。
その呪いの積みかさねが、すべての終わりの始まりでした。
疲れているだろう。そんな彼女を急に呼び出すことなんて、酷い行為だ。
「ヒ…
遅すぎる後悔は何万回だってしました。でも、全てが終わってからじゃ、償えるはずがなかったんです。
彼女に頼られた想いを無下にする、最低な行為。何より、元大人として、ここに転生した意味がなくなってしまう。
だが……
「………ヒナ委員長に緊急連絡を。きっと、10分ほどで到着してくださるはず、です」
■
言った。言ってしまった。
風紀委員本部を飛び出し、学園の中心にある公園へ全速力で向かう。
今頃は本部の情報部の子達が緊急時に使用する連絡網で委員長を呼び出していることだろう。
最適解だった、というのは頭では分かる。だが、それは自らの力不足を認めているようなものだ。そしてそれも事実である。
だからこそ、今の自分が出来ることをやりに行く。以前パンちゃんと闘ったときに使った「先生」としての戦術指揮能力。
本編の、特に最終編では、先生はかなり離れた距離からも生徒達を指揮し、虚妄のサンクトゥム攻略と自治区防衛に努めていた。
だが、僕の場合はそれの廉価版とでも言うべきか、少なくとも風紀委員本部からではあの指揮画面のイメージが出来なかった。
だからこうして戦場に直接出向いて、その場で戦術指揮を行う。あのときとは違い相手には明確な敵意があるので銃撃の雨を浴びることになるだろうが、委員長が到着するまでに肉壁にでもなれたら御の字だ。
しばらく走って、ようやく公園中央にある噴水が見えてきた。いまだ銃撃や爆発の音が止まないが、風紀委員側の生徒が少数でも持ちこたえていたら、チート染みた指揮能力でなんとか逆転出来るかも知れない。
だが、噴水の袂、壇上になっている場所に倒れ伏した2つの見知った影を捉えた。
心臓が高鳴り、急いでその場に駆け寄る。地面に横たわって、血と泥にまみれ、ところどころが焼けてしまった制服が2人の身体を覆っていた。
「2人とも大丈夫ですか?!起きてください!」
肩を掴みながら大声で呼びかけるが、反応はない。頭上のヘイローだって消えてしまっている。
2人の顔は青白く、目は閉じられていた。急いで彼女の脈を探り、心臓がまだ動いていることをひとまず確認した。
だが、チナツのベージュでセミロングの綺麗な髪は銃撃でところどころ焼けており、いつも持ち歩き、大量の医薬品が入っている大型のバッグは入念に打ち抜かれて液体が漏れ出ていた。
特に酷いのはイオリの方で、戦場に立って部隊の指揮をする彼女は重点的に始末する対象だと思われたのだろう、体中がすすにまみれ、殴られでもしたのか顔にアザが大きく出来ている。左右の足の長さが不自然に違うので、おそらくアキレス腱が切れるまで戦場で動き回り、闘ったのだろう。
…僕が判断を誤ったせいだ。
苦しかったはずだ。辛かったはずだ。僕だったら、途中で諦めて降参でもしてしまったかもしれない。
軟弱な僕の心とは対照的に、爪が割れて血まみれの2人の手には、倒れてもなお愛銃のサポートポインターとクラックショットが握られていた。
――この銃と炎に包まれたゲヘナを見ていると、ふと脳裏に、過去の記憶が浮かび上がってくる
歪められた戒律、火と灰に染められた条約…全部奴らの思惑通りだったんでしょう。
実際、あの日から全てが狂いました。連邦生徒会長が指名したシャーレの先生は心臓を貫かれ死亡。ヒナ委員長も蘇生が不可能な重傷を受け、亡くなってしまいました。
先生がいなくなった直後、奴らの親玉である大人はキヴォトスの全てを実験場として活用し、素性の分からない光を呼び寄せました。
なんとか生き残った風紀委員のメンバー(とは言っても、連日起きる奇妙な事件のせいで参加していたのはイオリとチナツぐらいでしたが)で調べた結果、ゲヘナの蔵書に「終末の予言」なるものを確認。尤も、蔵書のほとんどはゲヘナにも襲撃してきた忌々しいトリニティのシスターのような幽霊によって蔵書室ごと破壊され、消失してしまいましたが。
…いったいどうしてこんな風になってしまったのでしょう。
神に慈悲を乞えば良かったのでしたら、私は持てる全ての力を使い、あのトリニティに転校してシスターフッドの長にだってなりました。
悪魔に魂を売れば良かったのでしたら、私は持てる全ての力を使い、あのタヌキのブーツを舐めて万魔殿に侵入することだってしました。
私の判断が誤っていたのなら、正しい判断が出来る人に全てを渡すことだってします。
それが、委員長の為になるのでしたら。
あの光に飲み込まれて存在が曲げられてしまった後でも、この後悔は変わりません。
もう詰み、なのでしょうね。元々機能していない連邦生徒会はおろか、あのクロノススクールの放送さえ途絶えました。私は世界の終末なんて、眉唾ものの噂と思ってたんですが。まぁ、もうどうだって良いのですけど。
……ですが、ヒナ委員長が必死に守ってきたこの学園を、我が物顔で汚されることは極めて不愉快です。
光に飲み込まれた後に使えるようになった空間から、イオリが残したクラックショットを取り出して中距離にいるシスターの霊を撃ち殺す。
音に反応した近くの少数には、私のホットショットと、チナツのサポートポインターを片手で使って対処。
遠くから近づいてくる集団は、あの方ほど上手く扱うことは出来ませんが、デストロイヤーを構えて連射することで消し飛ばす。
当然私は元々後方支援を担当していたので闘うことは得意ではありません。それにあのシスターの霊たちは通常の弾幕では殺すことが出来ず、私の歪められた神秘を弾に込めないと倒せません。そして、その神秘を使えば使うほど、自分が自分でなくなっていく感覚。
それでも、構いません。
なんにも守れなかった私が、最後に出来る罪滅ぼしのようなものですから。
頭上に銃口を向けられる気配を感じ、意識が戻る。向こうから暗に示された通りに、頭は動かさないようにしながら周りを見渡すと、便利屋の4人が僕を囲んでいた。
「埋設した爆弾で増援を遮断。その間に指揮系統を崩壊させ、強みである「数」の利点を潰す。流石にイオリは強かったけど、これは私達の勝ちじゃないかな、アコ?」
「カヨコさん…」
普段通り淡々とした、カヨコの声。他のメンバーだって、ヘラヘラしているように見えて全く警戒を抜いていない。
おそらくモブちゃんたちも誰一人として残っていないのだろう。完全に負けだ。
…でも、僕一人だけだからと言って、おとなしく投降しろと?
そんなことしたら、あれほどボロボロになるまで戦ったイオリとチナツに、そして1人でも武器を取って闘ったアコに顔向けできなくなる。
先ほどから僕に銃を突きつけているハルカが口をひらく。
「あぁ、アル様の為に死んでくだ…」
諦める訳にはいかない。素早く立ち上がってハルカがこちらに向けている銃口を足払いでそらしつつ、引き足で着地して軸足にしつつ横蹴りを食らわせる。
思いっきり力を込めたため、ハルカはアルの方めがけてすっ飛んでいった。
蹴りの着地から流れるようにイオリの手からクラックショットを拾い、
銃弾は、吹っ飛んだハルカとその先にいるアルに当たるよう狙った。
…生徒を蹴って、その上銃撃までしてしまった。こんなところが、完全な「先生」の権限を有せない所以なのだろう。
だが、僕はアコちゃんが託してくれた願いを遂行するまで。それまで先生としての能力が使えるなら万々歳、せいぜい活用するまで。
「へ…」
遠くから間の抜けた悲鳴が聞こえたが無視する。残った2人は比較的理性的なメンバーだ。交渉して、どうにか撤退してもらおう。
「あと3分ほどで委員長が到着します。…いまなら見逃しますので、速やかにゲヘナ校内から出て行きなさいッ!」
見れば、ムツキの表情からは2人を戦闘不能にされた怒りが読み取れた。だがカヨコの方は、僕の言葉を疑う表情が鮮明に浮かんだ。目を細め、眉を寄せ、口角を引き下げる。それは、言葉の真実性を疑っていることを明確に示していた。交渉の余地ありだろう。
「あの行政官、アルちゃんとハルカちゃんを気絶させちゃった癖に嘘までついちゃって。もうぶっ殺すしかないんじゃない!?」
「…まってムツキ。アコの言っていることが本当かも知れない。どのみちアコは強くないから、ムツキは下がって2人を起こして撤退も視野に入れてて」
「…カヨコっちがそこまで言うなら」
あまり納得のしてない様子でありながらも、ムツキは銃を下ろした。そして吹っ飛ばされた2人に駆け寄る。
ヨシ!
あぶなかった…さっきは不意打ちだったからなんとかなったけど、普通に2人を相手取るのは絶対無理だったから助かった!
ムツキが2人を揺さぶって起こすのを見守りつつ、カヨコは決して銃を下ろさない。
「さっきの、半分嘘だったでしょ。ヒナが来るのは本当、でも時間はあと5分ほどかかる」
「…なんでわかるんですか」
「落ちてた風紀委員のスマホに、緊急通知が入ったのは5分前だったから。でも、目的は十分果たせた。それにアコを殴ったところで何もならないから。だから見逃してあげる」
うわ!!!マジでよく見てるなこの子!
「それに、アコがこんな前に出てくるなんて珍しいし。飼い主さんの為にって感じ?」
…?
カヨコは淡々とした口調で告げながら、ようやく銃を下ろす。ムツキのような怒りでも、かといって微笑みとも取れない、探るような妙な表情を浮かべている。
その声は極めて小さく、ちょうど便利屋の3人からは表情が見えないような位置取りだ。
雰囲気も、若干の気まずさを孕んでいるように思える。
…カヨコとアコって一体どんな関係だ?なんかただならぬ関係であることは読み取れるけど。
記憶を見れちゃったりしないかな?
僕はカヨコの事を思いながら記憶を辿る。…だが、アコの記憶の中では、不自然なほどカヨコについての思い出は見れなかった。まるで、これだけは見せれないと隠しているかのように。
「昔のよしみ、1回しか言わないからよく聞いて。私たちはもう撤退する。温泉開発部はあっち。…私達の気が変わらないうちに行かないと、アコにだって容赦はしない」
「ッ!…わ、わかりました」
カヨコは先ほどまでの雰囲気を一転させ、こちらを脅すようににらむ。その顔を見ていると、身の毛がよだつような恐怖を感じた。あの表情は脅しじゃない、本気なのだろう。
だが、便利屋を撤退させること事態には成功した。あとは温泉開発部をなんとかして食い止めるだけだ。
先ほど確認したとき、イオリとチナツは気絶しているだけだった。全快に至るには時間がかかるだろうが、今すぐ救急医学部を呼んで適切な処置を受けさせることが出来たら、キヴォトス人本来の回復力の高さも相まって大事にはならないだろう。
…今回の騒動を鎮圧した後には、絶対やり返してお説教してやる。
(僕はセナにイオリとチナツの場所を連絡しながら、再び全速力で示された方向に向かった)
「アルちゃんの方背負ってよ~カヨコっち~。行政官ちゃん、嘘かも知れないのにこんなに簡単に背中向けちゃって。戦いなれてないのバレバレじゃん。…何話してたの?」
「…別に」
一部修正致しました。