今回はバトル終わりの星に焼かれた皆様の様子。少し短めかも?
ほぼ同時に秋名峠麓のフィニッシュラインを駆け抜けた何もかも正反対の二台のマシン。星野アイと藤原拓海、異次元の大天才同士の極限ダウンヒルバトルは最後の最後まで大激戦を繰り広げた挙句、引き分けという形で幕を閉じる事となった。
山頂のスタート地点で結果を待ち侘びる秋名スピードスターズの面々の元にもその情報は入ってきた。
「おい池谷、イツキ!!どうもバトルは同着の引き分けに終わったらしいぞ…!」
ゴール地点のギャラリーからトランシーバーで情報が入ったらしい。ざわめく山頂組からバトル結果を聞きつけた健二が慌てて池谷とイツキの元へ戻ってきた。
「おいおいマジかよ健二!?あの拓海がちぎれなかったなんて今まで無かったよな、やっぱアイちゃんもとんでもなく速かったんだな…」
「拓海が逃げきれないなんて…一体あの二人はどんなすげーバトルしてたんっすかね…」
「ほんとだよなぁ…俺らには想像もできないような次元のバトルなんじゃねぇか…?」
まさかの結果に顔を見合わせる三人。今回の相手は只者ではないとは三人共に思っていたが、まさかこの秋名で拓海が引き分けまで持ち込まれるなど予想だにしていなかったのだ。
今まで拓海はパワーもなければボディも足回りも旧態依然とした作りであり、戦闘力という面では時代にとっくに置いて行かれているはずのハチロクというマシンをその卓越したセンスで駆り、最新鋭のハイパワーバトルマシンと言えるFD3SとR32をいっそ爽快なまでの下剋上で打ち破っている。そんな拓海相手に食らいつき、逃げ切ることを許さないどころかまさかの同着へ持ち込んだ星野アイというドライバーは池谷達が想像していたさらに数段上を行っていたということだろう。
そうしているうちに麓のほうからエキゾーストが響いて来た。スタートラインを飛び出して行った時のように攻撃的な全開サウンドではないが、穏やかに回る直列6気筒ターボと直列4気筒自然吸気、二種のエンジンが織りなすデュエット。異次元のハイスピードダウンヒルバトルを繰り広げた後にフィニッシュラインを駆け抜けた今夜の主役二台が戻って来たのだ。
「お、戻って来たみたいだぞ…!」
池谷ら三人が視線を向けた先、1コーナーの先から白黒ツートンと真紅、対照的なカラーリングの二台が現れた。
ハチロクとGT-Rは連なってホームストレートを上ってくると、そのまま給水塔前へ停車した。
エンジンを切った二台からそれぞれのドライバーが降りてくる。拓海がハチロクの運転席から降り立つと、その後ろへGT-Rを停めたアイが駆け寄ってきた。
「拓海君!!すっごい楽しかったね…!」
楽しくてたまらなかったと言わんばかりの満面の笑顔で拓海に話しかけるアイ。興奮冷めやらぬらしい頬はほんのり赤みを帯び、その目に宿る星が煌めいている。
「あ、あぁ…俺、めちゃくちゃ必死に追っかけてたんだ。直線で速いのはわかるけど、コーナーでもなかなか隙を突けないのなんて始めてだよ…」
頑固な負けず嫌いが発動して無我夢中にアイを追っていた拓海としては「全力でついていって逃げていたらバトルが終わっていた」というような感覚だ。
「でも拓海君、私が全力の走りでちぎれなかった相手、私の
バトル中を振り返り、改めて目の前の少女の規格外の速さを実感する拓海だが、アイは拓海が初めての対等なバトル相手だと言う。星の瞳がまっすぐに拓海を見つめた。
「…その、俺、ちょっと前まで峠を走るのってそんなに楽しいのか…?って思ってたんだ。家の豆腐屋の配達の手伝いで秋名ずっと走って、仕事だからやってるだけで飽きてるしって」
「うん、うん」
ぽつぽつと出る拓海の独白をアイの相槌が受け止める。
「少し前に『無自覚なだけでお前は車を走らせることが好きなんだよ』って諭されて、なんとなく意識し始めてた事が、今日分かった気がする。無我夢中だったけど…俺、あんたと走って確かに楽しかったんだ」
「ふふ、そっか…!私も一緒だよ!拓海君と走れてすっごくすっごく楽しかった☆」
拓海の言葉を受けて微笑みを浮かべて聞いていたアイが花の咲くような笑顔を浮かべた。
「改めて、これはお友達の証☆これからよろしくね、拓海君!」
「あ、あぁ、よろしく…」
アイの差し出した手をおずおずと拓海が握り返した。普段縁のないほっそりした色白な手の柔らかい感触に拓海が密かにソワソワしていると、後ろから聞き覚えのありすぎる声が飛んできた。
「たぁっくみぃいい!!」
間違えようがない、親友のイツキであった。一目散に向かってくるイツキの後ろには池谷と健二の姿もある。
「んぁ、イツキか」
「拓海ぃ!バトル結果、まさかの引き分けだったんだろ?ってぇええ!?お前!!いつの間にアイちゃんとそんなに仲良くなったんだよぉおお!?」
駆けてくるなり百面相。相変わらず騒がしい男である。イツキはアイとの握手に驚愕しているようだが、どうしたのだろうか。
「どうしたんだよイツキ、そんな顔して」
「どうしたんだってお前!!アイちゃんと握手なんて!!くぅぅー!!なんでお前ばっかり…!」
拓海はなんとなく察した。またイツキの可愛い女の子欠乏症が始まったのだろう。
「んん?君は誰ー?」
そうして騒がしくすれば当然気づくだろう。アイが不思議そうな顔をしてイツキを見た。
「お、俺は拓海の友達の武内樹っす!!よろしくっす!」
「ふむふむ、拓海君のお友達ってことは、もしかして君も走り屋なの?」
推しを目の前にして慌てて自己紹介するイツキに首を傾げたアイが訊いた。
「うぐっ…そ、それがまだ自分の車ないんすよね……早く俺もハチロク買って、拓海とハチロクコンビ組むのが夢なんすよ…!」
いつも通りに見栄を張りたくなったイツキだが、何故だかアイの前で「そうなんっすよー!拓海とは秋名最速のハチロクコンビで云々」などと言った日には一瞬で嘘を見抜かれる気がしたので実はまだ愛車を持っていない事を話す。
「おぉ!じゃあまずはハチロク買わないとね☆」
「はいっす!あ!あとアイちゃんのファンになったっす!推していいっすか!?」
「わ、ありがとー☆よろしくねタツキ君!」
「い、イツキっす…!」
「あれれ…?ごめんごめん、私お名前覚えるの苦手なんだぁ。イツキ君だね!」
微妙に違う呼び間違えをされたものの、なんとかアイに認知されたイツキは震えて歓喜した。
「あっ、この前のお兄さん!バトル申し込みの伝言ありがとね!」
「んぇ!?あっ、あぁいや、俺で役に立てたんなら良かったよ」
池谷を発見したアイが先日拓海への伝言を頼んだ礼を言おうと駆けていく。
その背を見ながら拓海はぼんやり思った。
(ほんとに速かったな、あの人……星野アイ、か…もっと、あの人を超えられるくらいに俺は、速くなりたい)
脳裏に蘇る拓海の視界の前で恒星のような眩いオーラを放って遠ざかる真紅の車体。尾を引く四連テールランプが拓海を釘付けにして離さない。
藤原拓海もまた、一番星に一等近い位置で焼かれ惹かれる一人であった。
☆ ☆ ☆ ☆
先程下ってきた秋名峠を引き返し、山頂の駐車場へ啓介のFDを取りに戻るFCの車中。穏やかに秋名の上りを流すロータリーターボが奏でる軽やかな音色が響く中、FCのステアリングを握る涼介は先程までFCのフロントガラスの先で繰り広げられていた光景を思い返し、面白くてたまらないと言った顔を隠せずにいた。
「星野アイ…想定以上だ。まさか藤原の必殺技をほんのわずかな間にコピーし、成功させることで逃げる藤原に追いすがり、あまつさえタイヤが終わった状態でアンダーステアと戦いながらも同着に持ち込むとはな…」
「マジぶったまげたぜ兄貴…俺まだ信じられねぇ…藤原のあの技を一瞬で盗みやがったのもそうだし、何よりGT-Rがあんな動きするのかよ…」
先程目の前で繰り広げられた次元の違いすぎるバトルに度肝を抜かれすぎて未だに唖然としたままの啓介がなんとか言葉を返した。
(ただでさえハイスピードダウンヒルには不利なあの車重で終始隙を見せず制御下に置き続ける異常なコントロール能力、前走車の走りを即座にコピーする観察力と応用力、全てが予想を上回って来た。藤原と系統こそ似ているが、しかし似ているようで非なる天才型だ)
FCのシフトレバーを3速へ流れるように入れつつ涼介は脳内で考察を回す。峠の一番星、星野アイ。己の目指す理論の先へのピースであると目星をつけた涼介は、いずれ彼女と直接話をする機会を設けることを決意した。
それはそうと、バトル前に文句を散々言っていた弟に一言言ってやるかな。
「啓介。言った通り今夜のバトル、観に来て正解だっただろう?」
「ウッ…まぁ、そうだったけどよ…疑って悪かったよ兄貴」
あんなものを見てしまったがために、山頂へやって来た頃が見る影もない殊勝な態度の啓介をちらりと見やった涼介は小さく笑ってフロントガラスの向こうへ視線を戻した。
啓介も磨けば光るだろうものを持っているんだ。今はまだだが、いずれ遙かな高みへと至るだろう素質を。
今はまだ原始星とも言える小さな輝きである藤原拓海。高橋啓介。そして――既に一足早い覚醒を迎えているだろう一番星、星野アイ。
この三人が揃う時、俺の描く公道最速理論はどんな完成系を迎えるのだろうな。
「――ふっ、楽しみだ」
「ん、何か言ったか?兄貴」
「いや、何でもないさ」
内心高揚で荒ぶる涼介はふと無意識に漏れた呟きに訊き返した弟へ何事も無いかの様に返すと、FCを山頂へと急がせるのだった。
時系列的に次回かその次あたりでイツキ君の納車イベントが発生すると思われます。お前もスピードスターズになるんだよぉ!
ちなみになのですが、小説あらすじ下部へしれっと描いた表紙絵を追加しておきました。良ければ見てやってくださいませ。
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