峠の一番星   作:翠 -SUI-

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ガムテープデスマッチも終わったのでインパクトブルー編……の前にイツキ君のレビンのあれこれを少し。


ACT.19 ハチゴー再戦力化計画

 人知れず現場を知るもの達の中だけで行われた秋名の"ガムテープデスマッチ"から暫く経って。

 とある日、イツキはアイのGT-Rの助手席に乗り、先日ハチゴーが引き上げられて行った「苺レーシング」へと向かっていた。後方には池谷と健二のシルビア系コンビが続いている。

 

「でもアイちゃん、ほんとにいいんすか……??ハチゴーの修理費」

「いいのいいの、逃げ場無かったとは言え、あそこでGOサイン出した私も責任があるし」

 

 イツキが申し訳なさそうに切り出した話にアイはウインクを飛ばしながら笑って応えた。

 と言うのも彼のハチゴーレビンは例のシビックに突き飛ばされクラッシュする羽目になったが、そもそも彼は金欠高校生。ハチゴーを購入した後に中古の足回りとホイール、タイヤを導入した事によって元々余裕の無かった彼の財布は今回のクラッシュによって文字通り大破炎上し、財政は火の車どころでは無かった。灰になる勢いである。つまりハチゴーの修理費総額を考えると特大大赤字なのだ。

 

 そこで助け舟を出したのがアイであった。一度制止した後に最終的にバトルのゴーサインを出してしまったのは自らだから、ということで資金援助をしてくれると言うことになったのだ。聞けば父親が社長業をしているらしい彼女の家はかなり裕福であり、免許を取るまでは取り立てて出費の掛かる趣味も無かったというアイが小さい頃から貯まったお小遣いはかなりの巨額になっているので、彼女の意志もあって金銭的な負担等は心配しないで欲しいとのこと。

 イツキは自らや拓海とさほど変わらない程の歳の頃でGT-Rを苦もなく維持するアイのカラクリを知った。何のことはない、彼の推しは一番星で良いとこのお嬢様だったと言うことだ。

 

「明るい所で見るとどうなってるんだろう、俺のレビン……結構派手に行っちゃったからなぁ」

「うーん、暗かったけどあの感じだとフロントの足回りとラジエーターあたりはヤバそうだねぇ」

 

 助手席でまだ見ぬレビンの惨状を想像するイツキ。シフトレバーを5速に送り込んで巡航に移ったアイは横のイツキのそんな姿に自らの見立てを語った。あの時アイはハチゴーの助手席に居たが、かなり派手にフロントセクションが損壊していたのを覚えている。

 

 そうこうしている間に高崎の郊外を走る日産車三台の車列は苺レーシングのそばへとやってきた。ウインカーを出して敷地内に乗り入れていく真紅のGT-Rに続き、シルビアと180SXもその身を敷地へと乗り入れていく。やがて店舗前の駐車スペースは日産車で埋まる事となった。

 GT-Rから降りたアイは3人に向き直り、改めてこの場所を紹介した。

 

「着いたよ!ここが私がいつもお世話になってるショップだよ!苺レーシングっていうの」

「うわ、ほんとにマジで苺なんすねぇ」

「そ、あのタイヤのついた苺良いでしょ?」

 

 にっこり満面の笑顔で紹介するアイに釣られて建屋に目をやったイツキは外壁に鎮座する走る苺に目を奪われる。ご丁寧にいかにも軽そうなスポーツホイールを履いたタイヤが付いている。初見へのインパクト満点である。

 

「お、シルビアやスカイラインがいっぱいあるな……日産系に強いのか?」

「そう!GT-Rもシルビアもおまかせあれって言ってたよ!」

「へぇ、こんなとこがあったんだなぁ」

 

 敷地を見回した先に数台のシルビアやスカイライン、180SXと言った峠の走り屋御用達の日産スポーツカー達が並んでいるのを見つけた池谷が感嘆したように呟いた。シルビア乗りとしては頷ける反応だ。180SX乗りである健二も同じような反応をしている。

 

「池崎さん達もシルビアと180SXだもんね、もし気になったらあとで社長とお話してみるといいよ〜☆それじゃあそろそろイツキ君のハチゴー、見に行ってみよっか」

 

 そんな言葉の後にアイは「ついてきてね〜」と店舗の入り口を開いて手慣れた様子で入っていく。やはり行きつけと言うだけあって勝手知ったる様子だ。

 

「俺たちも行くか、イツキ、健二」

「はいっす」

「おう」

 

 そんな様子で一行はアイの後ろを追い、苺レーシングの玄関を潜った。

 

「社長ー!来たよ〜!!」

「おうアイ、待ってたぜ。そちらさん方が連れだよな、例のレビンの少年、武内君って言ったか。それと、仲間のS13のにーちゃんだな。もう一人もお仲間か?」

「あっ、武内樹っす」

「あの夜はお世話になりました、池谷です。こっちはチームの仲間です」

「あ、どうも」

 

 アイを先頭に店内へ入った一行を中のソファでアイ達を待っていたこのショップの主、壱護が出迎える。池谷とイツキの二人は確かにあの夜に秋名に積載車に乗って現れた人物で間違いないと納得した。金髪に染めた髪に無精髭、フォックスタイプのサングラス。人相の悪さも相まって一瞬その手の職業かと思うこの迫力満点の見た目は一度見たら忘れなそうだ。

 アイに率いられてやってきた集団が以前アイからの電話で秋名まで引き上げに行ったレビンのオーナーである少年、武内樹とその仲間達である事を確認した壱護は今日のメインテーマに入る。

 

「それでだが、まず武内君のレビンの状況なんだが……あー、まぁ、見てもらったほうが早いな。こっちだ」

 

 話題を出したのちに若干の間を挟んだ壱護は、「見るに勝るものはない」とばかりにソファから立ち上がり、一行をピットへ案内する。

 壱護に続いて「PIT」と書かれたドアを潜ったアイ達は店舗の隣へ隣接して繋がったピットスペースへ案内された。

 

「見ての通り、こんな有様だ」

 

 ピットの一角で立ち止まり、そう言う壱護のサングラス越しの視線の先には、あの夜の秋名ぶりに見るイツキのハチゴーレビンが居た。

 

うっ……俺のレビン……

「あぁ、やっぱり明るい所で見るとなかなか派手にいってるな……」

「うーわ、池谷から話には聞いてたが、こりゃひでぇな……直せるのかこれ」

 

 リジットラックの上に安置された車体のフロントセクションは見るも無惨にグシャグシャであり、特にフェンダーからヘッドライト周りに掛けて大きなダメージを受けている右半分の損傷が酷いようだ。ひしゃげたバンパーを取り外した車体正面には、痛々しく潰れたラジエーターが覗いている。

 日光と照明に照らされて浮かび上がる愛車の惨状にイツキは思わず涙目になる。池谷は改めて確認する損傷状況の酷さに渋い顔をし、健二は事故を池谷から又聞きしていたとは言え、実際に目の当たりにして池谷と似たような顔になった。

 

「社長、どんな感じ?結構派手にいってるけど、イツキ君のハチゴー直りそう?」

 

 アイが代表して改めてハチゴーの損傷状況を訊いてみる。

 

「まぁ……直せるか直せねぇかって二元論で言えばまだなんとかなる、と言えばなるんだが」

 

 アイの問い掛けに渋い顔をしてガシガシと頭を掻いた壱護は傍に鎮座するレビンの現状を話し始めた。

 

「リヤも派手にヒットした痕跡があるが、あれはまぁまだ良い。だがフロント周りは完全にダメだな、フェンダー、ラジエーター、コアサポ、フロントフレーム、メンバー……正直言って全滅だ。直すなら鈑金でフレーム修正掛けてどうにかすることになるだろうが……足回りもアームごと逝ってるし、ラジエーターから押されてエンジンもダメージ喰らってる。この3A-Uはもうダメだな、載せ替えになる」

 

 こう改めて聞いてみると実に満身創痍である。すなわち大破と言っても良い。思った以上に内部のダメージは酷いようだ。

 

「武内君。今一度確認するが、ほんとにこいつを直すか……?はっきり言って普通なら廃車級のダメージだ。フレームからボディまで歪んじまってるし、なんとか直しても正直もう真っ直ぐ走らん可能性だってある。修理の予算でなんならまともなハチロクだって余裕で引っ張ってくることもできる」

 

 壱護はイツキに向き直り、真剣な眼差しで問い掛けた。ここまで大破しているクルマ――それも言ってはアレだがAE85だ。はっきり言って乗り換えた方が早い損傷を受けているこのクルマを、それでも直したいまでの愛があるのか、と。

 

「俺、このクルマ最初はハチロクと間違って買っちゃって……でも、念願の初めての愛車だし、乗ってるうちにどんどん愛おしくなってきて。こいつをもっと速くしてやるんだって、愛してやるんだって思ったんすよ。ある意味俺にとっては特別なクルマなんす。だから――たとえ真っ直ぐ走らなくてもいいんす、こいつを直して、もう一度走れるようにしてやりたいっす……!

 

 大破したレビンの無惨に変わり果てたフロントフェイスを見、次いで壱護のサングラスの奥の瞳を見つめたイツキは、このハチゴーレビンが自らの掛け替えのない相棒なんだ、と言うことを語った。直せるなら、こいつを直してやりたい。彼の気持ちはこう言うことだった。

 

「…………そうか、分かった。そこまで言うなら止められねぇな――良いだろう。そこまで愛してもらえるコイツも幸せだろ」

 

 イツキの返答を聞いた後、暫し黙り込んだ壱護は、意を決した笑みを浮かべてハチゴーの修復を快諾した。

 

「ほんとっすか!!ありがとうございますー!!!」

「よかったな、イツキ。大手術になりそうだけどなんとかハチゴー直りそうで」

「安心してイツキ君、うちの社長のウデは確かだよ〜☆」

 

 思わず喜び躍るイツキを池谷と健二は優しく見守った。自らが行きつけの店のウデにアイも太鼓判を押す。

 そんな盛り上がる集団を見て、壱護は不敵な笑みを浮かべながら言い放った。

 

「普通ならこのまま解体屋行きだろうハチゴーを見捨てずに愛し貫くその意志、おもしれぇ。気に入ったぜ、ただ直すだけじゃ味気ない――武内君、君のハチゴーを意地でもマトモに走れるように直して甦らせた上で、もっと戦えるマシンに仕上げてやる。追加料金は無しだ」

「へ??」

 

 どうやらイツキの愛車愛は壱護のチューナー魂のスイッチを振り切った方に思い切り叩き込んでしまったようだ。

 何はともあれ、こうしてイツキのハチゴーレビンの長期入院での大手術が始まる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!!ってあっ」

「よ、よぉ……レビンの坊主。確かイツキ、って言ったか」

「あの時の……それと、中里さん」

「その、だな。あん時は本当に済まなかった、二度とあんなことはしねぇよ」

「藤原との前のバトルぶりだな。ったく知らねぇうちに慎吾がとんでもねぇことやらかしやがって……この大馬鹿が本当に済まなかったな。こいつ絞って修理費は出るだけ出させる。あぁ、今日はハイオク満タン、頼むぜ」




【武内樹】
クラッシュした日ぶりに愛車の様子を見に行ったら思った以上に重症だった。彼単体の財力では火の車どころか燃え尽きるレベルだが、一番星の好意によって費用面はどうにかなった。自身にとって特別な車だからなんとか直るなら直したい、と壱護に頼み込んだ結果、苺のチューナーの変なスイッチを押してしまった模様。愛車の魔改造フラグが立った。

【星野アイ】
車に目覚めるまでは特にこれと言った大きな趣味が無かった。好造おとーさんは社長なので家の財力はどこぞの高橋さんちに次ぐレベル。地味に実は社長令嬢である。一度のお小遣い自体の規模も一般家庭に比べれば巨大だが、あまり使われずに幼少期から貯まり続けたそれは気づけばとんでもない額になっていた。逃げ道がアレしか無かったとは言え、バトルのゴーサインを最終的に出してしまったのは自らだ、としてハチゴーの修復援助を表明した。

【スピードスターズのみなさん】
イツキの付き添いとしてついてきた。苺レーシングが日産系を得意とするショップであることを知って自分たちの車も持ち込んでみようかなーなどと密かに思っている。健二は池谷からイツキの事故を又聞きしていたが、ハチゴーの現状を目の当たりにしてぎょっとした。あのペラペラボディでよく無事だったなイツキ。

【斎藤壱護】
久々登場の苺チューナー。アイからの連絡で何事かと積車で引き取りに行ったハチゴーだが、店に引き上げて来て診てみたら想像以上に酷かった。よくピンピンしてたなイツキ。「正直こんなん直すよりまともなハチロクでもシルビアでも引っ張ってきて乗り換えた方が早いべ」とイツキに提案するが、彼の熱いハチゴー愛に何か感じたのか、「ふっ、おもしれーイツキ」と内に眠るビルダー魂が着火してしまった。基本の修理費以外はタダで廃車同然のハチゴーをあの手この手でマトモに走るように復活させた上で、シルビアが来ようがFDが来ようが勝負できるスーパーハチゴーへと生まれ変わらせる事を決意した。

【ナイトキッズのみなさん】
後日イツキのバイト先であるスタンドを中里のR32に相乗りして訪ねてきた。中里としては「なんか知らん間に副リーダーがいらんことして事故車を出した上に秋名のハチロクとバトルして自滅して事故ってた」寝耳に水である。わけわからんちん。ナイトキッズの面目丸潰れだァ!!当の本人である慎吾は漂白されて素直になっているので、チームリーダーとして絞り上げてハチゴーの修理費を捻出させることにした。




原作よりだいぶ酷く大破して廃車寸前のハチゴーですが、大手術の後にスーパーハチゴーに生まれ変わって帰ってくるようです。イツキ君にはしばらく代車生活をしてもらいましょう。

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