時は過ぎて次の日曜日。池谷は高速道路に乗り、軽井沢方面へ向けてシルビアを走らせていた。何を隠そう今日は真子とのデート当日なのだ。池谷はすこぶる上機嫌で長野方面へ向かう高速をひた走っていく。
そんなシルビアの数台後方。白い180SXが周囲の車に紛れるように後をつけていた。そのボンネットには「AKINA SPEEDSTARS」のロゴステッカー。言うまでもなく健二のクルマである。
車内にはドライバーの健二、助手席に拓海。リヤシートには右にイツキ、左にアイが乗り合わせていた。
スタンドで健二が尾行を提案したあの日の話通り、健二、イツキ、拓海に加えて興味を持ってついてきたアイの一行は健二の180SXに乗り合い、こうして池谷のシルビアをバレない位置から追尾しているというわけだ。
「さぁて池谷の言う真子ちゃんとやらをこっそり拝んでやるとしますかー。まぁどうせ本人が言うほどじゃないんじゃねえかなー?あいつ昔っから大袈裟なとこあるし、思い込み激しいし」
「まぁ確かにそれは言えてるかもしんないっすねー」
ステアリングを握りながらそんな予想を立てる健二。やけに低い見積もりをする彼だが、池谷の性格の特徴は確かに合致するとイツキは頷いた。
「確か中学の頃だったと思うんだけどな、あいつと秋名湖に釣りに行った事があるんだけど、全然釣れなくてさー。最後の方になってやっと俺が釣った魚見て、あいつと来たら『うわ!でけぇー!!』って。実際こんなんだぜ??」
幼馴染としてずっと池谷の事を見てきた身として、彼の大袈裟さを象徴するエピソードを語って聞かせる健二。さも特大の魚を釣ったかのような池谷のリアクションを真似てみたのちに健二は左手で実際の魚のサイズを表して見せた。親指と人差し指の間で表現できる程度のサイズである。
「池谷のヤツがそんなリアクションするもんだからしまいに知らないオヤジ達も見に来ちゃってさ、実際の魚こんなくらいしかねーのに。俺ぁ恥ずかしくて堪んなかったぜ全く」
「あははっ☆なんか池崎さんなら言いそうかも〜。でもあの時の池崎さん、誇張とか嘘の気配は感じなかったよ〜」
健二のエピソードトークに鈴を転がしたように笑うのはイツキと反対の後部座席に収まるアイだ。彼女は未だ期間は短いながらも頻繁に会うようになった池谷の言いそうなことだと納得しながらも、ガソリンスタンドで浮かれて小躍りしていた池谷がそれほど大袈裟に真子のことを話していたとは思わないと言う。
「えっ、そんなことわかるのか?アイちゃん」
「私は割と嘘が得意だからね、他人の嘘とか誇張もばっちり分かるんだよ☆」
不思議そうに問いかける健二にアイは自身の持つ能力を告げる。アイの走り屋としての走りのスタイルにも活かされているが、彼女には幼少期の境遇から由来する嘘を自在に操る特技が備わっている。自らが嘘を自在に使いこなすスペシャリストなら、他人の嘘も丸裸というわけだ。
「はぇーそんなもんか……すげぇなアイちゃん」
「えっへん☆」
「そりゃあ俺の推しですからねぇ!!さっすが我らが一番星のアイちゃん!!……あれっ、でもそれなら普段のアイちゃんも嘘が……?」
「そこは大丈夫!仲良しのみんなへの言葉はほんとだよ☆」
「「よかった……」」
関心する健二に胸を張るアイ。横でドヤ顔をしている推しを見て自分までドヤりはじめるイツキだが、ふと「嘘が得意なら普段の彼女も絶えず嘘を纏っている可能性」に思い立ってしまう。そんなイツキにアイは流石に親しい相手にそんなことはしないと笑ってウインクを決めた。
後ろのイツキと同時に助手席で密かに胸を撫で下ろす拓海だった。
そんな拓海がふと窓の外へ向けた視線の先へ見慣れたライムグリーンが映り込んできた。この色はS13シルビアの純正色だが、都合よく同じ色のシルビアが他に走っていたわけでもあるまい。そのボディには健二のものと同じ黄色いロゴステッカー。語るまでもない。拓海は目を見開いた。
「ちょっ、健二先輩、横横!!」
「ん?どうした拓m……アッ」
突然慌て出した拓海に怪訝に思った健二が左へチラ見した視線の先、いつのまにか追い付き並走してしまっていたライムグリーンツートンのS13シルビアからチベットスナギツネのような目を向けてくる池谷と目が合った。
「やべぇ、つい流れに乗ってたら並んじまった……」
「うえぇっ!?どーするんすか健二先輩っ!?」
「あちゃ〜、見つかっちゃったね☆」
脂汗をダラダラ流す健二に狼狽えるイツキ。アイはこんな時でもあっけらかんと笑っていた。
☆ ☆ ☆ ☆
「すまん池谷……!!別に邪魔しようってんじゃないんだ、真子ちゃんがどんな子か見たかっただけなんだよ〜」
「そうっすよ、池谷先輩があれだけ言うから気になっちゃったんすよー!」
かくして途中で寄ったサービスエリアで健二は池谷に謝り倒す事となった。池谷は呆れた顔で健二一行を見る。
「まったくお前らは……しかもアイちゃんまで」
そう、いつもの男どもに加えて彼の推したるアイまでついて来ていたのだ。
「ごめんね?池崎さんの行く末を見守りたくてついてきちゃった☆」
「ん"ッッ……まぁ、しょうがねぇなぁ……」
てへっと舌を出すアイ。池谷としては推しにあまり強く言うことも出来ない。
「はぁ、アイちゃんに免じて帰んなくても許してやるよ……紹介するくらいならいいが、その先は着いてくるなよ??それならいい」
「「よぉしッッ!!」」
葛藤の後に許可を出す池谷に健二とイツキはガッツポーズを取った。こうして池谷の初デートには顔合わせまで同行者がついたのだった。
そうして二台で待ち合わせポイントである軽井沢駅のロータリーへ向かった一行。合流する手筈のポイントへ到着した池谷+健二一行を出迎えたのは池谷の誇張等何も無かったレベルの絶世の美女、佐藤真子であった。
「ぁー、そんなわけで、こちら俺の友達」
どうしたものかと微妙な顔で連れの一行を紹介する池谷。
「はじめまして、佐藤真子です」
「「あっ、どうもっす」」
「どうも(アイさんとはちょっと違うタイプだけどこの人も綺麗な人だな……)」
「はじめまして!わぁ、池崎さんの言う通り美人さんだね〜!!池崎さんをよろしくね☆」
「えっ、えっと、任されました……??」
丁寧に自己紹介をする真子に思わず同時に頷く人形のようになる健二とイツキ。拓海は内心で最近は美人ばかりと出会うな等と思っていた。アイは六芒星の瞳を輝かせながら真子を褒め倒した後に池谷のことを頼んだとサムズアップしていた。
「さっ、あとは二人でごゆっくり〜☆みんな行くよ〜、ほら乗って乗って」
「あっちょ、アイちゃん!?俺の車ァ!」
「行くぞイツキ、それじゃあ先輩、俺らはこれで」
「あっ拓海ぃ!そ、それじゃあ先輩また!!」
先導するように踵を返したアイに引き連れられて一行はわちゃわちゃと180SXに乗り込み、その場を後にしていった。
「あっ、そ、それじゃ真子ちゃん、行こっか」
「あ、はいっ、お邪魔します」
しばしぽけっとしていた池谷だが、真子と二人になったことを思い出し、真子へ声を掛けた。エスコートするかのようにシルビアの左ドアを開ける池谷に従い、真子が助手席へ乗り込む。やたら緊張してきた池谷は深呼吸を一つ挟むと意を決して運転席へ乗り込み、エンジンを始動させた。ギヤを1速へ入れ、普段より殊更丁寧にクラッチを繋いで池谷はシルビアを発進させた。
こうして池谷の人生初の初デートが幕を開けたのであった。
カーオーディオから流れる曲をBGMにしてシルビアは軽井沢の街を抜けていく。とにかく何か話題を振ろうと思った池谷はパッと思いついた事を真子に振ってみた。
「えーっと、真子ちゃんって好きな車とかあったりする……?」
「うーんと、好きな車……というより、憧れの車なら、一個前のRX-7かな」
「お!FCかぁ、いい趣味だよ……!!」
試しに車の好みを聞いてみる池谷だが、出て来たのはまさかのFC3S。池谷は感心した。RX-7でも現行型のFD3Sではなく、ひとつ旧型のFC3Sを挙げてくるところが渋い。
「池谷さんって、走り屋でしょう?」
「え、あはは、その、やっぱりわかっちゃうかなぁ?普段は一般ドライバーと同じように走ってるつもりなんだけどな」
なんとなしに出た真子の言葉に池谷は一瞬ドキッとした。まさか走り屋であることを言い当てられるとは思わなかったからだ。しかしよく考えてみればシルビアは当初こそデートカーだったが、今や峠の走り屋に定番の車種として確固たる地位を確立している。走り屋だと考えても不思議ではないと思い当たった。
そうと来れば、肝心なことを訊いておかねば、と池谷は口を開いた。
「真子ちゃんはさ、走り屋やってる男って、どう思う?」
「いいと思いますよ、私も車好きだし」
「えっ…!?ほんと!?」
走り屋の男をどう思うか、という池谷の問い掛けに返ってきた真子の反応はかなり良い、というか池谷の予想を超えて好意的なものだった。池谷は思わずだらしなくにやけて顔面崩壊を起こしそうになった。ステアリング操作を誤らなかったのは褒めるべき点だろう。
「だって走り屋やってる人って普通の人より運転上手いじゃないですか。良いクルマはお金があれば買えるけど、走りのテクニックはお金じゃ買えないもの。私は高い外車をこれ見よがしに乗り回してる人よりも、テクニックのある人の方が素敵だと思います」
真子は自身の思う走り屋への想いを語った。これほど走り屋を好意的に見てくれる女の子などかなり貴重なのではないだろうか。池谷は思わず内心で感涙を流した。
(うぅ、めっさええ子や……理想の女の子やぁ……!!)
そのまま市街地をゆったり巡航すること暫く。少し躊躇するようにおずおずと真子が口を開いた。
「あ、あの……池谷さんは」
「ん??」
「池谷さんは、峠が好きで、走り屋の真似事みたいな事をしてる女の子がいたら、どう思います……?」
そんな真子の言葉に池谷の脳裏によぎる人物が一人。アイドルでもやっていそうなルックス抜群の小柄で華奢な少女ながら、その辺の木っ端走り屋なんぞ鼻歌混じりに蹴散らしてしまう異次元の腕前を以て真紅のR33 GT-Rを駆る一番星の少女。先程までスピードスターズの面々と一緒に池谷をこっそり見守りに来ていた星野アイその人である。
そんな強烈極まりない前例を知っている池谷としては答えは決まっている。
「走り屋の女の子なんて最高だよ!めちゃくちゃ良いと思う!!」
「ッ!ほんとですか!?」
女性の走り屋に極めて好意的な池谷の返答に真子はぱぁっと花開くような笑みを見せた。
(この反応……憧れの車はFCって言ってたし、ひょっとして真子ちゃんは走り屋になりたいのか?……いや、他ならぬアイちゃんって例があるんだ。こんな可愛い子だけど既に現役の走り屋でも驚かないぜ……!!)
池谷は一瞬真子のことを走り屋志望なのかと思ったが、アイの事を思い出して自らの予想を改めた。真子がバリバリ現役の女流走り屋でも何ら不思議はない。
「ほんとほんと!俺の知り合いにもめちゃくちゃ速い女の子の走り屋が居て、これがほんとにすげー速いんだ。実はさっきついて来てた紫っぽい黒髪の女の子のことなんだけどな」
池谷はそのままアイの事を話に出した。彼の話を聴くにつれて真子の表情が興味を持ったものになっていく。意を決したように真子は池谷へ頼み込んだ。
「あの、よかったらその話、詳しく聞かせてくれませんか……??私も実は、走り屋なんです」
信号待ちで真子の方を見た池谷の目を助手席から見つめ返してくる真子の瞳。そこにはアイの瞳に宿る、コチラを呑み込まんとするかのような、眩いばかりの六芒星の輝きとは違うが、同じ走りへの情熱を秘めた夜空の無数の星々を閉じ込めたような煌めきが宿っていた。
「いやぁびっくりしたぜぇアイちゃん、急に撤収して来たけどいきなりどうしたんだ?」
「だって健一さん、あのまま大人数で居てもデートの邪魔になっちゃうでしょ〜?」
「いやまぁ、そりゃそうかぁ……あと惜しい、俺ゃ健二だ、一足りねぇな」
「にしても真子ちゃんほんとにめっちゃくちゃ可愛かったっすね……!!今回ばかりはアイちゃんの言う通り池谷先輩の言うことに誇張は無かったんす!!」
「いやほんとにな……なんで池谷にはあんな可愛い子が居て、俺には……ウッッ」
「だーいじょうぶだよ健三さん!!いつか良い人見つかるって☆」
「うぅ、そうだといいなぁ……あと健二だ、今度は一多いぜ」
「なぁイツキ……腹空かねぇか」
「んー、確かに拓海の言う通りそろそろ昼飯時だよな」
「おう、確かにぼちぼち腹減ったな……よし、碓氷峠にでも出向いて、途中で峠の釜飯でも食うか!!」
「わ、なにそれ気になる!私あんまりこっちのほう来たことないんだ〜!行こ行こ☆」
【池谷浩一郎】
いよいよ真子ちゃんとの初デート!とうきうきしながら走っていたら原作通り秋名池谷見守り隊につけられていた。真子との会話はほぼ原作と同じ流れだが、この世界線では前例としてアイが居ることから真子の素性を勘違いする事なく予測する事に成功する。流れに乗ってアイの話をしたところめちゃくちゃ食い付かれた。
【佐藤真子】
池谷との初デートに待ち合わせたらぞろぞろ友人一行が見送りに来た。きらっきら輝くルックスの暴力かのような少女の勢いにちょっとビビる。内心で「池谷さんってお友達いっぱい、慕われてるんだなぁ」と思っていた。池谷との会話で自分のことをぼかして「走り屋やってる女」について尋ねてみたらまさかの自分以外の同類の話が出てきてびっくり。思わず食い付いてしまった。彼女の目の星はアイのような瞳の中心に煌々と輝く六芒星ではなく、重s……もといかなちゃんのような瞳全体に星屑が散りばめられてキラキラしているタイプ。
【秋名池谷見守り尾行隊】
健二の発案で組織された池谷の春の真偽を確認しがてら見守る組織。顔触れは原作と同じメンバーが主だが、興味を惹かれたアイが飛び入り参加で加わっている。彼女は真子を見た瞬間にルックスの良さと内に持っているだろうものを直感で感知し、真子に池谷をよろしく頼んだ。二人を残して撤収した後は昼食として峠の釜飯を堪能しに行く模様。
いけまこは成就されねばならんのだ……(鋼の意志)
次回もゆるりとお待ちあれ。
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1話ごとの文章量について。
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