お待たせしました、インパクトブルーvsエトワールルージュ、碓氷バトル開始です。
バケモンがタッグを組んだ赤い一番星がインパクトブルーに襲いかかる……!!
「さて、改めてルールを確認しましょうか」
碓氷峠の開始地点へ今夜の対戦相手が揃った事を確認し、沙雪がバトルのルールのおさらいを始めた。
アイと拓海の二人もそれに頷く。
「碓氷は見ての通り狭いから、他の峠みたいに並んでよーいどん!ってわけには行かないの。だから先行後追い形式で行かせてもらうわ」
「ふむふむ。てことは後追いと先行を入れ替えながら走る感じ?」
「そう!ぶっちぎられたら後ろの負け、ちぎれなかったら次に持ち越し。それを決着がつくまで繰り返すサドンデスマッチってわけ」
沙雪の説明にアイが解釈を挟み、沙雪はそれをその通りと肯定した。道幅が狭いタイトな碓氷峠が故のルールだ。
「スタート後は一つ目のコーナーを過ぎたらバトルスタート、そこからは全開よ」
「おっけー!」
「バトル概要はそんなもんね。あたしらに対抗してそっちもコ・ドライバースタイルで挑むって聞いてるけど、準備はいいかしら」
大まかな確認を済ませた沙雪は最終確認を投げかけた。アイはそれに自信溢れる笑みで応える。
「もちろんだよ!今回は私がドライバーで拓海くんがコ・ドライバー!二人で"エトワール・ルージュ"だよ!ね、拓海くん」
「あぁ、急に決まったけど、意外としっくり来るかも」
例の即席コンビ名をドヤ顔で名乗るアイ。ついさっきの発足だったが拓海も割と気に入っているようだ。
「なるほどね、コンビとしての名乗りも用意してくれちゃってまぁ。相手にとって不足は無いじゃない。ね、真子」
「えぇ。インパクトブルーの最高峰の走りで迎え撃つわ。碓氷最速の名にかけて」
相手にとって不足は無い。インパクトブルーとしても戦意は上々と言ったところだ。こうして両陣営は臨戦態勢に入った。
「それじゃあバトル開始と行きましょうか。うちらは地元だから、先行か後追いかはそっちに選択権をあげるわ。どっちにする?」
地元である事を強みとして、ポジションの選択権はこちらに譲渡してくれるらしい。沙雪の問いかけにアイは暫し考え込む。
「んー……じゃあ後追いで!」
「おーけー!それじゃあ一本目はうちらが先行、そっちが後追いで始めるわよ!」
斯くして彼女は後追いを選んだ。それを聞いた沙雪は了解の意を返し、バトル開始を宣言した。
インパクトブルーの二人がシルエイティへ乗り込み、SR20ターボが低く太いエキゾーストを響かせて目覚める。
「それじゃあ拓海くん、こっちも行こっか」
「あぁ」
アイと拓海もGT-Rへ乗り込み、スタンバイ態勢を整える。セルモーターの勇ましい回転音を伴ってRB26が重厚な6気筒サウンドと共に始動し、パッと鋭く灯った点灯直後の青色からじわりと僅かに青み掛かった白色へと変わったキセノンヘッドライトの光がスタート位置についた眼前のシルエイティとゆく先の路面を煌々と照らし出す。
「頑張れよ、二人とも……!!」
「無敵のアイちゃんと拓海のコンビなら大丈夫っすよー!!」
「まかせて〜!よその峠だろうが相性が不利だろうがその程度で私は負けないよっ☆拓海くんのサポートもあるし!」
「こういう役割は初めてだけど、まぁなんとかなるだろ」
スタート前に池谷達が激励の言葉を掛けてくるのに二人はいつも通りの調子で応えた。溢れる戦意を反映するように星の瞳を輝かせるアイの隣で、拓海も気負った所はなさそうな様子を見せる。
「それじゃあ行くわよ〜!」
シルエイティの左の窓から振り返って顔を出した沙雪の合図と共に前方の青い車体がブレーキをリリースし、ゆっくりと発進していく。
「よーし、行くよ拓海くん!サポートよろしくね☆」
「あぁ、なんとかやってみる。任せてくれ」
ニッと不敵な笑みを浮かべて視線を一瞬こちらへ向けるアイへ拓海はバトルモードへと意識を切り替え、頷きを返した。
滑らかにクラッチを繋いで発進した真紅のGT-Rは前を行く青いシルエイティのすぐ後ろへ追随し、第一コーナーへと向かっていく。
二台の後ろ姿がコーナーの向こうへ消えて行ったと同時に2リッター4気筒と2.6リッター6気筒、フルスロットルで持てるパワーを解き放つ二種の日産製ターボエンジンの咆哮が碓氷峠へ木霊した。
現状当代最強クラスであろう女流走り屋同士がコ・ドライバー形式同士で激突する、今年の碓氷で最も熱い大バトルの開始である。
碓氷峠はストレートらしいストレートがほぼ無く、幅の狭い路面にダラダラと小さなS字やヘアピンが続く狭苦しいレイアウトが特徴だ。
そんな連続コーナー区間へリヤを流し、テールランプの赤い軌跡を残しながらシルエイティが突入して行く。地元最速と言われるのも頷ける鮮やかな突っ込みを見せる眼前の青い車体にアイは一瞬目を丸くしたのちに「そうこなくちゃ」と言わんばかりの笑みを浮かべる。
「わお、良い突っ込みするねえ。よーしこっちも行くよ〜☆」
軽やかにS字区間を抜け、ヘアピンへ突っ込んでいくシルエイティを追い、アイの神業じみたコントロール能力に操られた真紅の巨体が豪快に飛び込んで行く。
(よし、このバトルでの俺の役目はコ・ドライバーなんだ、やってみるか)
コーナー区間へ突入したGT-Rの助手席で拓海は頭の中へ構築した碓氷峠のコースレイアウトを呼び起こした。アイのサポート役となるべく脳内とGT-Rの現在地点を同期させる。
(現在地点はS字を抜けて一つ目のヘアピン、第五コーナーか。次は……)
拓海が脳内碓氷と現在地のリンクをしているうちにGT-Rは第六コーナーを抜けて僅かなストレートを駆け抜け、第七コーナーへと差し掛かろうとしていた。
「ッ――次は左のあとすぐ右ヘアピン……!」
「ごめん拓海くんもうそこだよ!」
「くそっ……むずいなこれ」
同期の取れた拓海がナビゲートを出した時にはGT-Rは既に第八コーナーである右ヘアピンへと飛び込んでいた。ぶっつけ本番故にしょうがない所が多分にあるが、思わず拓海は眉を寄せた。
「まぁ向こうと違ってコドラ初めてだもんね」
「そうなんだよな……このままなんとかやってみるからアイさんは運転に集中しててくれ」
「おっけー!」
なかなか息が合わないが、そもそもこんな形式は初めてであるが故にしょうがないと納得した二人は改めて現状で出来る最高の走りを繰り出そうと自らの感覚を洗練していく。
先を行く青い車体を追って多連続S字区間を抜けていくGT-R。
タイトにコーナーが連続する区間が延々と続き、RB26が出力する380馬力のフルパワーを発揮できるタイミングはほぼ無いが、高度な電子制御スポーツ4WDであるアテーサE-TSを擁する赤い巨体はFRと四駆を常時切り替えながらグイグイと強力なトラクションで路面を蹴り付け、シルエイティを猛追していく。重たい車体は諸刃の剣だが、まだ新しいタイヤと苺レーシング製の巨大なレース向けブレーキキットは今の所確かな手応えをアイに返してくる。
(碓氷は初めてだけど、この感じならいけそうだね)
アイはGT-Rから返ってくるドライブフィールと自らの感覚を照らし合わせ、碓氷のコースへと適応を進めていく。このクルマの得意なコースレイアウトでは決して無いが、ここまで追走している限りでは前を行くシルエイティへ食らいついていく事はそう難しく無いだろうと彼女は結論を出した。
その隣では拓海が徐々にナビゲートの精度を上げていた。初めは遅れがちだったナビもコーナーを抜けるごとに正確さが増し、アイの走りのリズムに合わせてサポートを入れることが出来るようになってきている。
「対向車なし――次は左、キツいのくるぞ」
「おっけい!」
拓海の予告に合わせ、鋭角な左ヘアピンへ飛び込んでいくアイ。その走りのキレはコーナーを抜けるごとに上がっていく。
赤い巨体がブレーキローターを赤熱させながら飛び込み、豪快にリヤを振ってターンしたのちに四駆の強烈な立ち上がり加速でもって、先を逃げる青い後ろ姿に喰らいつく。
「だいぶ慣れてきたね、拓海くん!サポートめちゃくちゃ助かってるよ〜」
「意外となんとかなるもんだな。段々アイさんのリズムが掴めてきた」
「おっ、ほんと?嬉しいこと言ってくれるじゃん☆」
幾度もそれを繰り返す中でコツを掴んだであろう拓海は、いつしかアイの走行リズムに合わせて最適なサポートを入れることの出来る優秀なサポーターと化していた。彼の脳内には碓氷峠のマップとそれに同期したペースノートが出来上がりつつあった。初めてのコ・ドライバーでよその峠とは思えない所業である。
自らの走りのリズムを掴んでくれたらしい拓海の言葉にアイはGT-Rを旋回させながら嬉しくてしょうがないという笑みを見せた。
「よーし!エトワールルージュ、反撃開始だよっ☆」
不慣れによる連携不和でコ・ドライバースタイルの強みを発揮しきれずアイのドライビングセンスのみで地元のシルエイティへここまで食らいついてきたGT-Rの走りが、機能し出した拓海のサポートにより一段と鋭さを増す。
微妙に前後しつつも均衡して保たれていた二台の差が、じわじわと縮まりつつあった。
☆ ☆ ☆ ☆
碓氷峠の闇夜を二種の異なるエキゾーストノートを響き渡らせながら二対のヘッドライトの光が切り裂いて行く。
先行するは深いブルーのボディカラーを身に纏うシルエイティ。軽量で身軽な車体を振り回し、今日まで碓氷最速を欲しいままにしてきたアグレッシブなツッコミで以ってコーナを抜けていくその後ろ姿を今にも捉えんばかりに追走してくるのは、対照的な鮮やかな真紅を纏うR33 GT-R。
重量級の車重もあって前を行くシルエイティほどの軽やかさは無いが、この狭苦しい碓氷において、その巨体からは信じられないほどの身のこなしで逃げるシルエイティの後を追っていく。
前を走るシルエイティの車内では、沙雪が予想外の展開に舌を巻いていた。
「噂に聞く話とあの子から感じるオーラみたいなもので只者じゃないとは思ってたけど……この碓氷で地元最速のあたしらにここまで食い付いてくるなんて、やっぱりそんじょそこらの峠小僧なんかとはスピードレンジがダンチね。しかもあのデカくて重たいR33がこんなに離れないなんて」
コ・ドライバー用に助手席のサンバイザーへ後付けしたサブミラーに映るキセノンヘッドライトの青白い光に沙雪は歯噛みした。
R33型のスカイラインGT-Rといえば先代のR32から受け継ぎ強化された日産謹製の強心臓、RB26DETTのハイパワーと、それを無駄なく路面へ伝え、かつ走行状況によりFRと四駆を自動的に切り替える可変トルク配分機能によりFRのシャープな回頭性と四駆のトラクションを併せ持つクレバーな4WDシステム"アテーサE-TS"による強力無比な戦闘力が強みだ。
だがその反面、R32から増して大柄になった巨体は1.5トンにもなる重量級――概ね1.2トン前後のシルエイティからすればおよそ300kgは重い――であり、その巨体が持つ慣性質量はGT-Rの本来の主戦場であるスピードレンジの高いサーキットではともかく、勾配のついた道が曲がりくねる峠――ましてや非常に道幅が狭くほぼ全区間に狭苦しいコーナーが続くこの碓氷ではその要素は極めてネガティブであり、非常に巨大な足枷となる筈なのだ。
だと言うのに今回のバトル相手であるところの、"エトワールルージュ"――ドライバーを星野アイ、コ・ドライバーを藤原拓海という即興コンビが駆る真紅のR33 GT-Rは、序盤こそ本来の持ち味を発揮し切れていないような様子であったものの、決して置いて行かれる事なくこちらに追随し、つい先程からはあろうことかじわじわとにじり寄って来ているように見える。
そう思った彼女であったが、直後その懸念を確信へと変えた。
気のせいでは無い。沙雪のミラー越しに見える視界には、ラジエーターと大型インタークーラーへ走行風を導入する大きく開いた攻撃的な印象の開口部と、その上部に追加されたツインダクトが威圧感たっぷりのニスモ顔をしたGT-Rの赤いフロントマスクがじわりじわりと差を詰めて来ていた。
確かにパワー勝負では如何な230馬力を誇るSR20ターボと言えども、元々自主規制値目一杯の280馬力を誇るパワー自慢な上、ほぼ確実にノーマル以上のパワーが出ているであろう向こうのRB26相手には分が悪いだろう。
しかしここは有り余るパワーなぞ宝の持ち腐れと化するテクニカルな碓氷峠。そんな峠で最速を名乗る自分たちと、このステージへ特化したスペシャルセッティングが為されたシルエイティが真逆の性格をしている筈の相手を振り切れないどころか、差を詰められつつある。
近年流行りのアクションゲームの類で例えるなら身軽さがモノを言う機動戦でスピード自慢の短剣の遊撃兵がクソ重い大剣と全身鎧の重装歩兵に追いつかれて圧倒されているようなモノだ。頭がどうにかなりそうだった。
「相手にとって不足はないとは言ったけど、あの重たいクルマに碓氷でここまで食い付かれるとは思ってなかったわね……。でも、例えそうでもあたし達がやる事に変わりはないわよね」
じわじわと背後に迫る真紅の巨体を一瞥した沙雪は、一呼吸挟んでからその表情を不敵な笑みへと変えた。
「後ろはあたしが見てるから、真子、あんたはドライビングに集中して。今日のあんたにできる最高の走りを後ろの二人に見せ付けてやりましょ」
背中は任せろと言わんばかりの沙雪のバックアップ体制に一瞬彼女の方へ視線をやった真子は、普段の清楚ぶりとは似ても似つかない強気な笑みを返した。
「ええ、ここまでの相手とバトルできるなんて、こんな走り屋冥利な事ないと思うもの。インパクトブルーの名に賭けて、全力全開で行くわ」
「そう来なくちゃ!最小限のスライドで最速で抜けるマジモード――対向車なし、路肩に障害物もなし。さぁ、派手に行くわよ真子!!」
「OK沙雪!GOッ!!」
突入態勢を作ったシルエイティが先程までに増して鋭さを見せるツッコミで疾風の如くコーナーへ飛び込み、間髪入れず真紅の巨体が背後に食らい付いていく。
碓氷名物の難所、C121コーナーまでもう間も無く。蒼い衝撃と真紅の一番星の一大バトルは激しさを増した次の段階へと幕を進めた。
【星野アイ】
エトワールルージュ:ドライバー担当。池谷デート回の折に健二号からコースを下見したとは言え、ドライバーとしてはほぼ初見に等しい碓氷を走りながら爆速で攻略・適応する。バケモンその1。拓海のサポートが出来上がってくるまでは自らの能力のみで先を行く地元最速のシルエイティへ食らいついていた。狭くてコーナーだらけの碓氷をデカくて重いR33で、である。こわい。当代最強で無敵の一番星。
【藤原拓海】
エトワールルージュ:コ・ドライバー担当。ぶっつけ本番のコ・ドラ役に最初は悪戦苦闘したものの、程なくコツを掴み、脳内に作り上げた碓氷マップとペースノート、アイの走行リズムを同期させてスーパーナビTAKUMIと化す。バケモンその2。原作のプロD編で猛威を振るった脳内コースマップ能力の片鱗を既に見せ始めている。
【沙雪】
インパクトブルー:コ・ドライバー担当。碓氷には相性最悪のはずのR33がびったり食いついてきてぶったまげた。今のところ強敵との燃えるバトルとして戦意に転換できているが、相手は無法レベルのバケモン×バケモンである。果たして……。
【佐藤真子】
インパクトブルー:ドライバー担当。かつてない強敵とのバトルに内心うきうき。スイッチが入り走り屋の血が騒ぎまくってカーニバルしている。しかし相手は無法レベルの(ry
【秋名スピードスターズのみなさん】
出撃前に応援隊としてたっぷり激励。開始地点組故にバトルが始まった後は戦況を見れないので拓海のハチロクに何故かあったトランプで大富豪をしつつ戻ってくるのを待っている。
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早く池谷先輩を幸せにしなきゃ……
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