峠の一番星   作:翠 -SUI-

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お久しぶりです。思った以上に難産で気づいたら夏です((
キリのいいところまで行ったので少し短いですが分割。
早くインパクトブルー編を抜けなければ…!!


ACT.26 決戦のC-121

 長野県と群馬県の県境に跨る旧国道18号線――碓氷峠には大小合わせて184個のコーナーが存在する。

 ほぼストレートらしいストレートを挟まずにダラダラと連続するこれらが狭苦しい圧迫感のある道幅と相まってこの峠道の難易度を引き上げているわけだが、その数多のコーナー群の中に際立って頭一つ抜けた難易度を誇る難所が知られている。

 

 "C-121"。

 そう呼ばれるこのコーナーは複数の曲率のコーナーが連続的に繋がっている複合コーナーであり、コーナーの途中で曲率が変わっていく上に入り口から出口までの距離がかなり長い。

 これだけでも厄介だが、さらに極め付けにここを難所足らんとしているのが道幅の急変――入り口は広く幾重ものラインを取ることができるのに対し、奥の出口は道幅が一気に狭まり、脱出ラインは一本のみ――というトリッキーさであった。

 

 そんな碓氷峠随一の難コーナーを見渡せるポイントにはこの辺りの走り屋の情報網を通じた噂によってギャラリーの人だかりが出来つつあった。

 曰く、地元最速の青いシルエイティ"インパクトブルー"を相手に、少し前に秋名峠で異次元級の大バトルを繰り広げた秋名のハチロクと一番星がタッグを組んでバトルするらしい、という噂である。

 

 そんな一大イベントを見逃すわけにはいかない、と碓氷へ集まり出したギャラリーの中に紛れて、ワックスで固めた真っ黒い硬質な髪を中分けにし、両横を撫でつけた特徴的な髪型の男と、長めに伸ばした茶髪を両サイドに垂らした男がやって来ていた。

 これまた特徴的なギョロ目と三白眼。揃って秋名のハチロクに敗北を喫したナイトキッズのワンツー、中里毅と庄司慎吾であった。

 

「なぁ慎吾、そんなに速いのか。お前の知り合いっていう、そのシルエイティのインパクトブルーってのは」

「おうよ、俺が腐れ縁なのはナビシートでコ・ドラをやってる沙雪ってほうなんだけどな。あいつらはそんじょそこらの男どもなんぞよってたかって束になっても歯が立たねぇ。それこそこの碓氷じゃ敵無しレベルの速さだ」

「そんなにか……。俺も以前は13乗りだったんだ、シルビア系でそんなに速いやつは気になっちまうぜ」

 

 そう、この二人も今群馬の峠を騒がせている秋名のハチロクと一番星のコンビがインパクトブルーとかち合う、という情報を仕入れてギャラリーにやって来たのだった。

 慎吾はインパクトブルーのコ・ドライバー、沙雪と幼馴染だと言う。

 ナイトキッズが本拠地とする妙義山は碓氷からそう遠くない地理関係にあるが、更に慎吾は沙雪からのツテでいち早く情報をキャッチし、対立をやめて和解した毅と観戦にやって来たというわけだ。

 ちなみに慎吾は先日の秋名でのバトルにおけるクラッシュで右腕をキックバックし、自らのシビックも修理へ行っているので今日の彼は右腕を治療で吊ったままの姿で毅の横乗りである。

 

「そこのC-121は碓氷でも頭ひとつ抜けた難所なんだ。入り口は広くて何本も進入ラインが取れるが、出口は狭くてほぼ1本しか脱出ラインがない。その上途中で曲率も変わる曲者だ」

「確かにな。迂闊なラインで飛び込んでいけば出口でドカンだろ」

 

 この峠随一の難所として知られる目の前の長い複合コーナーを見遣りながら話す慎吾の口から語られるこのコーナーの曲者っぷりに毅も同意する。

 入り口が広いからと見誤り、迂闊にオーバースピードで飛び込めば出口付近でアンダーステアを誘発し、脱出ラインから外れてガードレールとお友達になることだろう。逆に慎重に行き過ぎても最短ラインからずれてしまい、ロスになってしまう。余所者は容赦無く呑み込み、地元であっても一筋縄では行かない。碓氷峠の中腹で待ち構えるC-121はそういった類の魔物であった。

 

「ここを流しっぱなしでクリアして行けるのは、それこそ地元の連中でもあいつらのコンビしか居ねぇんだとさ」

「そいつぁこのバトル、ますます見ものだな」

 

 この魔物を流しっぱなしでクリアしていくと言うインパクトブルーの技量の高さを示唆する慎吾に、ますます良いバトルが見れそうだと毅は期待を高めた。走り屋として参考になるものは間違いなくあるだろう。

 ましてや今回インパクトブルーの相手をしているのは、あの一番星こと星野アイのGT-Rへ秋名のハチロクこと藤原拓海がコ・ドライバーとして乗り込んだスペシャルチームとのことらしい。秋名であの夜に根こそぎコースレコードを書き換えんばかりのスーパーバトルを見せた猛者二人がタッグを組む等、今宵のバトルはどれだけ豪華な事であろうか。

 自らもGT-R乗りである毅としては自らを負かした拓海がサポートについた彼女がどんな走りを見せてくれるのか楽しみで仕方ないのだ。間違いなく彼にも糧になる何かが得られるだろう。

 まだコーナーを幾つも隔てた向こうだろうが、遠く響くスキール音とエキゾーストノートの二重奏が刻一刻と近づいて来ている。

 

(あの時はバトル相手だった藤原とタッグを組んで、あいつはどんな走りを見せてくれるんだ。そのR乗りとしての底力を俺に見せてみろ……!!)

 

 気がつけばコーナー入り口の闇の先を見据える毅の口元は期待に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、右ヘアピン、またキツいのがくるぞ」

「おっけー!」

 

 じわじわと正確性とタイミングの的確さを増す拓海のナビゲートに合わせ、アイは持てる限りのドライビングセンスを動員してGT-Rを駆ってゆく。重戦闘機のような真紅の巨体は空気を掻き分け、先を行く青い車体へじわりじわりとその差を詰めつつあった。その差はもう幾ばくかもない。

 

 ブリッピングで回転数を合わせ、アイは瞬く間に流れるようなシフトダウンで3速から2速へとギヤを落とす。大柄な車体を振り、FRのようにリヤを流し気味にヘアピンをクリア。アクセルオンと共にRB26が吼える。四駆の強烈なトラクションで出口を立ち上がり、逃げる青い後ろ姿へ喰らいつく。

 

 鮮やかなまでの突っ込みで先を行くシルエイティの走りは見事なれど、その背中は既にアイの射程距離内へと捉えられたと言っていいだろう。

 

「どんどん拓海くんのサポートが上手くなっててすっごい走りやすいよ〜!さっすが〜☆」

「そうかな、でもなんか俺もわかって来た気がする」

 

 上機嫌にステアリングを握るアイの言葉に拓海はどこか自覚無さげに、されど何かを掴んだ確信を持ったような顔をした。ここまでに二人の連携はバトル開始時とは比べ物にならないほど深まっていた。前を行くインパクトブルーの二人にも引けはとらないだろう。

 

「アイさん、もうすぐC-121が来る。入り口は広いけど出口は狭くて脱出ラインが一つしかないらしいんだ。アイさんなら大丈夫だと思うけど、念のため気をつけてくれ」

「りょーかい!前にピッタリついていけばいけるかな」

 

 拓海の脳内に構築されたマップによると、もうすぐ碓氷峠最大の難所と呼ばれる"C-121"の番号を冠したコーナーがやってくる。拓海の視界の端で流れていくコーナーナンバーを記した看板の数字もそれを示していた。

 

 眼前を行く青い車体が緩いS字を軽やかに抜けていく。その先に左へ続く大きなコーナーの入り口が見えて来た。

 

「「来た……!!」」

 

 拓海とアイの呟きが異口同音に重なる。

 いよいよかの難所、"C-121"のお出ましである。先を行くシルエイティのテールランプが一瞬のブレーキングで赤く灯る。

 

「対向車なしだ、アイさん――」

「――ん!いけるよっ」

 

 一瞬星の瞳が交錯し、アイと拓海のリズムが同期する。

 

「「せぇの――」」

 

 全開加速からブレーキングを挟み、身を振って突入姿勢を整えその先へ飛び込んでいくシルエイティの引くテールランプの赤い光の尾を追って、アイはGT-Rの赤い巨体を間髪入れず飛び込ませた。

 

「「行けぇッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ……!!」

「いよいよお出ましか……」

 

 いつの間にやら間近に聴こえるようになってきたエキゾーストの二重奏に慎吾がコーナー入り口の奥を見遣った。毅も同じく闇の向こうに目を向ける。

 

 他のギャラリー陣もにわかに沸き立つ中、コーナー入り口が徐々に明るむ。ターボエンジンの咆哮も高らかに、宵闇のベールを吹き散らしてパッとキセノンヘッドライトの青白い明かりが飛び込んできた。

 先頭は夜に溶け込むような深い青のボディに切れ長のヘッドライト。インパクトブルーのシルエイティだ。

 碓氷最速で鳴らす彼女らの通り名に違わない見事な突っ込みを見せる蒼の閃光はリヤを振ったままそのままのスピードでコーナーをクリアして行く。

 

 その車体のすぐ後ろにもう一対のキセノンヘッドライトの光。張り付くように真紅の巨体が追従してくる。

 前のシルエイティとは対極のような真っ赤なボディ。大柄なボディを振り回し、さながらFRのような鮮やかさで真紅の重戦闘機――星野アイのR33 スカイラインGT-Rがピッタリ追従してくる。

 その重たい車重の巨体もなんのそのと言った具合のドリフトの応酬に周囲にどよめきが上がった。

 

「あの33正気かよ!?真子達のシルエイティにピッタリついてこの魔のC-121を流して行くなんてどうなってんだ!?」

「地元じゃ誰もついて行けねぇのに、何もんなんだ……!?」

 

 ギャラリーには地元の走り屋達も混ざっているらしい。地元最速で鳴らすインパクトブルーに車格と車重の不利もなんのそのと張り付いて行くGT-Rに驚愕する声がある。

 

「出やがったな、秋名の時にも見せたアテーサドリフト……!!」

 

 毅の記憶にある秋名のハチロクと一番星の秋名峠での1本バトル。片っ端からコースレコードを粉砕せんばかりの怪獣大決戦となったあのバトルの終盤、麓の方で観戦していた毅が見たものと同じコーナリングが、ここ碓氷で炸裂している。

 

 毅のR32よりも一回り大きな巨体が破綻する様子も見せず、軽快に流して行くシルエイティにぴったりとくっついてドリフトでコーナーを抜けて行く様は鮮やかとしか言いようがない。あの時と違ってタイヤのグリップは未だ生きているようで、より鋭いキレを見せているほどだ。

 

(とんでもねぇぜ……俺もRをわかった気で居たが、まだまだ奥は深いのかも知れねぇな……)

 

 思わず口の中でごちる毅の目の前を抜け、とうとうシルエイティに離されることなく流しっぱなしで難所と言われるはずのC-121の全区間を見事にクリアした真紅のGT-Rは特徴的な丸型四灯のテールランプを彗星の尾のように引きながら、RB26の腹に響く咆哮と共に瞬く間にコーナー出口の闇の先へと消えていった。

 

 

 

「なぁ毅、俺ら想像以上にスゲェもん見たんじゃねぇか……」

「そうだな……」

「秋名のハチロクと言い、あいつと言い……世の中にはすげぇ奴がいるもんだな」

「あぁ……」

 

 

 あまりの鮮やかで並外れた光景に毅と慎吾は思わず二台のエキゾーストが遠ざかり、聴こえなくなってもそのまま余韻に浸って突っ立っていた。その姿はとてもつい最近まで犬猿の仲だったとは思えないものだった。




【星野アイ】
 エトワールルージュのドライバー担当。万全な拓海のサポートを得て、鬼に金棒の一番星。まさかのR33でC-121をシルエイティにぴったりくっついて流し、クリアし切った事で碓氷民の脳を焼き払っていった。

【藤原拓海】
 不慣れそのものだったコ・ドライバーもなんのその、脳内マップ能力を覚醒させることにより、完璧で究極のシン・スーパーナビTAKUMIとなる。アイの走行リズムと完全にシンクロしたサポートを行使できるようになった。

【ナイトキッズのおふたり】
 鈑金7万コースを経て無事復活した毅のGT-Rへ相乗りしてギャラリーしにきた。沙雪と幼馴染関係である慎吾のツテで情報をキャッチし、インパクトブルーを見にきたという意味もあったが、無事一番星のやべー走りに焼き払われた。同じR乗りである毅は一層焼けた。




 本作を気に入って頂けましたらご気軽に感想・高評価等よろしくお願い致します。新鮮な感想は作者のハイオクになります。
 原作が長いだけあって超長編が見込まれるゆえに各話の構想が相応に大変であり、不定期更新となるやもしれませんがMFゴーストまで大まかなプロットは立っております。エタることだけはありませんのでご安心くださいませ。何卒ゆるりとお楽しみにしていただければ幸いです。

1話ごとの文章量について。

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