峠の一番星   作:翠 -SUI-

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壱護社長と大天使ミヤコさん登場回。
社長が名前間違えられてこそ推しの子((


ACT.2 苺印のグラサンチューナーと大天使

 家からGT-Rを走らせ幾許か。私、星野アイを乗せた真紅の車体は快晴の高崎市街をゆったり巡航していた。夏の日差しを浴びて真っ赤なボンネットがフロントガラスの向こうで輝いている。

 

「やっぱり真夏のお昼はあっついなぁ…」

 

 ステアリングを軽く握りながら思わずぼやいてしまった。

 季節は7月。1、2ヶ月ほど前に比べると圧倒的に熱量を増した太陽光が紫外線と一緒に等しく降り注ぎ、市街地は茹だるような暑さ。走り出してしばらく経ってるから車内はエアコンがいい感じに効いてきたけど、フロントガラスを突き抜けてくる直射日光の熱量までは防いでくれない。

 

「うぇーあつーいまぶしーい!」

 

 絶賛働きすぎだと思う太陽への恨み言を漏らしながら信号待ちをしている前の十トントラックの後ろに着き、荷台の箱が作る日陰にGT-Rの鼻先を避難させて一息。こうも暑いと人も車も参っちゃうね。

 

 せめて夜は熱帯夜じゃありませんように。

 そう思いながら私はゆっくり動き出すトラックの後を追ってGT-Rを発進させた。

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 高崎市街を抜けた私は郊外の大通り沿いに建つ、とある建物の敷地へGT-Rを乗り入れた。中に二柱式リフトの見える建屋の横に店舗スペースがくっついている。建屋にはタイヤの4つついた苺のイラスト。ご丁寧にスポーツ志向っぽいシャープな5本スポークのホイールまで履いている。芸が細かくて笑っちゃうよね。

 店舗の玄関入り口には「ICHIGO RACING FACTORY & CAFE」の文字。

 

 そう、ここが私の車の面倒を見てくれているチューニングショップ、「苺レーシング」である。

 ちなみに店舗には社長の奥さんがやっているカフェが併設されてくっついている。ここのいちごパフェが美味しくてつい食べてっちゃうんだ〜。

 

 店舗前の駐車場にGT-Rを入れ、イグニッションをオフに。低くアイドリングエキゾーストを響かせて居たエンジンが止まり、ダッシュボードに居並ぶ社外の三連メーターが一斉に眠りにつく。

 

 ハンドバッグを手にドアを開けるとむっとした生温かい夏の熱気が私を出迎える。うぇっと思わず顔をしかめちゃう。

 

「よぉアイ、流石のお前でも今年の暑さには勝てないか」

 

 そんなところに話しかけてきた金髪にフォックススタイルのグラサンの無精髭。ぱっと見ヤの人?って思っちゃう見た目をしたこの人がおとうさんの友達でここの社長さんである()()壱護さん。あれ?()()だっけ?

 

「佐藤社長ひどーい。こんなかわいい女の子をなんだと思ってるのー?」

 

「俺は斉藤だこの規格外かっ飛びガールめ!!わざとやってんじゃないだろうなほんと…確かにお前はアイドルやれるくらい可愛いが、R33を峠であんなタイムで走らせるのなんて北関東の何処探してもお前ぐらいだ」

 

「てへっ☆ごめーん、でも前に比べてちょっとは間違えないようになったでしょ?」

 

「んーまぁそりゃそうだが…まぁいいけどよ」

 

 そうそう斉藤壱護さん。

 私は人の名前を覚えるのが苦手だからよく名前を間違えちゃうけど、でも昔に比べればちょっとましになったんだよ。

 

「それはそうとアイ、今日はどうした?33のセッティングはばっちし決めてあるし、オイルはこの前換えたろ?」

 

「んーとね、お昼食べにきた!!後いつものパフェ!」

 

「あぁ、そうか昼時だもんな。ミヤコはいつも通りカフェの方に居るからそっちで食べて行きな」

 

 ミヤコさんのごーはん♪ごーはん♪

 

「はーい!ありがと斉藤社長☆」

 

「おう。33のことでなんかあったらいつでも声かけてくれな」

 

 そう言ってショップの店舗に引っ込む壱護社長。夏は屋内に限るってぼやいてたのには心底同意しちゃうね。

 

 カランカランとドアのベルを鳴らしながら喫茶スペースへ。エアコンが効いた冷気が生温い外気にうんざりな私の身体と心を癒す。

 

「ミヤコさーん!!こんにちはー☆」

 

「あらアイ、いらっしゃい。お昼かしら?」

 

「そうお昼ご飯!鉄板ナポリタンといちごパフェ!」

 

「わかったわ。少し待ってて頂戴ね」

 

 この人は大天使斉藤ミヤコさん。社長の奥さんでめっちゃ若い。ゆるくウェーブ掛かった明るいミルクティーみたいな茶髪のすっごい綺麗な人。あと包容力がめっちゃある。お姉ちゃんみたいな存在かも。

 お料理がうまいのを活かして店舗に併設した喫茶をやってるんだ。エンジンのヘッドカバーを模したお皿に載ってくる直列鉄板ナポリタンに特製苺パフェをデザートにつけるのが私のお気に入り。

 

 ミヤコさんが引っ込んだ厨房から聞こえてくる調理の音を聴きながらカウンター席で待っていると、ショップ側の店舗から通じるドアから社長が入ってきた。

 

「社長?どうしたのー?」

 

「あぁそうだアイ、ちょっと聞きたいことがあるんだが…」

 

 なにやらお話がある様子。

 

「なになにー?」

 

「それなんだがな、アイは“秋名のハチロク“って名前を聞いた事があるか?」

 

 お…??なんかきいたことあるような。

 

「あ…!それきいたことあるかも!でも詳しくは知らないや。それって何?」

 

 秋名峠だったら私もちょくちょく走りに行ったりするし。

 

「秋名のハチロクっていうのはな、ここ最近この辺の走り屋達の間で噂されてる話だ。なんでも秋名の下り最速のアホみたいに速いパンダトレノのハチロクが居て、それが赤城レッドサンズのFDをぶっちぎって完勝したんだと」

 

「え、ハチロクって私が小学生とか、下手したらもっと前の非力も非力なクルマだよね…?」

 

 ダウンヒルとはいえ、それでRX-7、それもFDを負かしちゃうなんて。

 

「社長がぶっ飛んでるって言う私に並び立つほどの規格外の走り屋なんじゃ…?」

 

「あぁ、間違いねぇ。秋名のハチロクとやらは十中八九、お前レベルの天性の天才だってことだ」

 

 自分で言うのもなんだけど、私は今やそんじょそこらの木っ端走り屋なんて鼻歌混じりにバックミラーから消せる。その私に並び立てるほどのドライバーなんて、そんなの聞いちゃったら興味を惹かれないわけないじゃん。

 基本的にそこまで他者に興味のない私だけど、こんなのは別。わくわくしてきちゃった。

 

 会ってみたいな。秋名のハチロクに。

 今夜、もしかしたらチャンスかな。

 

「お待たせアイ、召し上がれ」

 

「いただきまーす!!ミヤコさん大好き愛してる☆」

 

 それはそうと今日もミヤコさんのごはんはおいしい。まだ見ぬ秋名のハチロクとやらもこれを食べてないのは損してるね。




最速の豆腐屋に一番星が目をつけたようです。

1話ごとの文章量について。

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