峠の一番星   作:翠 -SUI-

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後編です。
今回はあの後のアイちゃんの動向と、挑戦状を叩きつけられた拓海君サイドの二本立て。
バトルは次回かな。


ACT.5 秋名のハチロクと一番星(後編)

 給油で偶然寄ったスタンドのお兄さんに聞き込みをしてみたら何とミラクル!秋名のハチロクのお知り合いさんでした!

 

 そんなわけでお兄さんを経由して噂の秋名のハチロクへバトルを申し込んだあと、私はうきうき気分のまま秋名を気持ちよくアタックして帰ってきた。途中今までは出会わなかった地元の走り屋っぽい車がちょこちょこ居たから、テンションの上がった気分のままパッシングを掛けてバトルを仕掛けてみたりもしたんだけど、ちっとも相手にならなくてちょっと不完全燃焼。

 ブレーキングの突っ込みもコーナリングも甘いし、全体的に期待値のはるか下。鼻歌混じりでもコーナー二つも抜けた頃にはバックミラーから消えていた。やっぱり全然物足りないや。

 

 この物足りなさはまだ見ぬ秋名のハチロクへの期待値に変えちゃおう。

 早く秋名のハチロクさんとバトルしてみたいな…!

 

 そんな終始ご機嫌なまま眠りについて、翌日。

 大学の講義が終わり、夕方の帰路についた私はそのまま苺レーシングまで足を運んでいた。

 

 店舗の玄関を開け、社長を探す。

 

「社長〜!いるー?」

 

 あれれ?店内には居ないみたい。

 工場かな。

 

 整備工場の方へ続く扉をくぐり、辺りを見回す。

 お!社長はっけーん!リフトに上げたシルビアの下に潜って何かしてたみたいだね。オイル交換かな。

 

「佐藤社長〜!!やっほー☆」

 

「だぁから俺は斉藤だ!!ったく、ようアイ」

 

 あれれ?また間違えちゃった☆

 少しずつ正確に言えることが増えてるけど、もっと頑張ってお名前覚えなきゃ。

 

「それでアイ、今日はどうしたんだ?」

 

 シルビアの下からよっこいせと出てきた社長がたずねてきた。

 

「そうそう社長!きいてきいて!」

 

「おうおう、どうした?」

 

「昨日あの後ね、秋名のハチロクにバトル申し込んできたよ!!」

 

「はぁ!!?おま、いやはっや!!」

 

 びっくり仰天な社長。思わずグラサンがずれてる。

 

「それがね、秋名走る前に麓で給油しにスタンド入ったら、そこのスタッフのお兄さんが秋名のハチロクの知り合いだったの」

 

「まじかよ…とんでもねぇミラクルだな、相変わらずお前なんか持ってるわ…」

 

「だからそのままお返事先として電話番号教えて、バトルしたいんだって伝えて、ってお兄さんに伝言頼んできたよ」

 

「そうか…いや、にしたってこんなに早いとは思わねぇよ…」

 

 ちょっと呆れ気味の顔をされた。むぅ。

 でもそれだけの運を引きつける何かを持ってるってことだよね、さすが私☆

 

 さぁ、噂のハチロクさんは果たして挑戦状を受けてくれるかな。

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「えぇえーーッ!!拓海宛にまたバトルの申し込みが来たぁ!!?」

 

「うるせーよイツキぃ」

 

 夕暮れ時のガソリンスタンドに絶叫が響き渡る。高校の同じクラスの友達であり、ここのスタンドに共にバイトに来ているイツキ――武内樹が発生源だ。

 俺、藤原拓海は至近距離で絶叫という名の爆音を炸裂させる親友をジト目で睨んだ。

 

「そうなんだよ。しかも今度も相手はGT-Rだ」

 

「えぇ!?またまたやばいじゃないっすか!!」

 

 池谷先輩がイツキに答えているのを眺めつつ、俺宛に来たらしいバトルの申し込みのことを考える。

 GT-R、か。この前のバトルで相手だったあの黒いクルマだよな。

 俺、クルマのことはあんまわかんねーけど、やたらパワーがあって直線とコーナーからの立ち上がりが速かったのは覚えている。あの時は終盤で相手のクルマが曲がるのが苦しそうだったから、外側へのフェイントで内側を開けさせてから溝落としを決めて抜いたんだった。

 

「ちなみに今度の相手のクルマはR33なんだがな」

 

「なんだぁ、R33って重たいデカブツじゃないですか!いくらパワーがあっても峠でR32に勝ってる拓海なら楽勝っすよ!!」

 

「そう思うだろイツキ?俺も一瞬そう思ったんだがな…そんなことはひっくり返してきそうなくらいのオーラのある相手だったんだよ。俺程度じゃ一瞬で捻り潰されるレベルだ」

 

「えぇ、まじっすか…」

 

 池谷先輩とイツキの会話を聞く限り、めちゃくちゃ速そうな人が相手みたいだな。

 俺は元々ウチの親父がやってる豆腐屋の手伝いで、秋名湖のほとりにあるホテルへ豆腐を配達しに秋名の峠を毎日早朝に走ってたんだ。大きい声じゃ言えねぇが、中1からずっと。当時無免だぞ?なんてことやらせんだクソ親父、って思ったよな。

 日も登らない早朝なもんだから、眠くて眠くて帰りはかっ飛ばして帰るんだが、そんなことを晴れはもちろん、雨の日も雪の日も毎日やってたら、いつの間にか俺にはとんでもない運転技術が身に付いてたらしい。

 

 配達帰りに偶然遭遇した走り屋らしきクルマを帰って寝てぇ一心でぶち抜いて帰ったら、「とんでも速い走り屋」と認識されちまったみたいで「俺と峠でバトルしろ!」っていう申し込みが来る様になっちまったんだ。

 はじめは家の仕事で散々走って峠を走るのなんて飽きてて興味ねーから断ってたんだが、親父にとある事で焚き付けられてバトルを受けちまった。

 そうして勝った相手に「俺は別に走り屋なんかじゃない」って言ったら

 

『お前はクルマの運転が好きなんだ!クルマで走ることが好きなら十分走り屋なんだよ!走り屋なら自分の技術にプライドを持て!!』

 

と諭されちまった。それ以来、峠を走る楽しさ、速い相手に勝ちたい、っていう、無意識だった気持ちを自覚した様な気がするんだ。

 ……今回の相手、気になってきちまった。今の俺がどこまで通用するのか、確かめてみたい。

 

「それで、相手はどこのチームの走り屋なんっすか??」

 

 タイミングよくイツキが先輩へ訊いてくれた。ナイスイツキ。

 

「それがどうも、ソロの走り屋らしいんだ。星野アイ、っていうんだが」

 

「えっ、名前的にひょっとして女の子っすよね…!!」

 

「そうだぞイツキ。お前らより少し上、大学生くらいかなって女の子だった。いやぁ真っ赤なR33が来たと思ったらドライバーは超絶美人で可愛い女の子だったんだからな、接客だってのに暫く見惚れて固まっちまったぜ」

 

「くぅーっっ、走り屋に理解があるどころか自身が走り屋の可愛い女の子!!女神っす!!たまんねぇっすね!!」

 

 なにやら先輩とイツキが盛り上がっている。バトルを申し込んできた相手は女性らしい。

 

「でもな、見た目に不釣り合いなレベルのオーラがあったんだ。あの子の目に宿る星に食い尽くされるかと思った。さっきも言ったけど、相性の不利なんてひっくり返して何もかも呑み込んで来そうな怖さがな」

 

「うぇっ、や、やばくないっすか…?おい拓海ぃ、どうすんだよ…?」

 

 オロオロしているイツキから話がこっちに来た。どうする、か。

 ……決めた。

 

「……俺はこのバトル、受ける。なんでかな、この勝負を逃しちゃいけない気がして」

 

「いいのか?拓海」

 

「はい、先輩。最近こう思う様になったんです。もっと速いやつとバトルして、俺がどこまで通用するのか、確かめてみたくなったんですよ」

 

 会っただけで池谷先輩をああまで呑んでしまうほど「何か」がある相手だ。気になるよな。どんな速さをしているのか。

 

「そうか…。それなら拓海、これが向こうの連絡先だ。バトルをする気なら、ここへ連絡してほしい、と」

 

 そうして池谷先輩から渡されたのは、小さな紙片。メモ帳から切り離された一枚らしき罫線のある紙面には、相手の連絡先らしい電話番号が愛嬌のある丸みを帯びた文字で書かれていた。

 

 二台目のGT-R、か。この前の応用で行けばいいのか…?親父に訊いてみるか……

 まだ見ぬ次回のバトル相手を想像しつつ、俺が見上げた空はすっかり日が落ち、夕焼けのオレンジ色から宵闇へと移り変わりつつあった。




さぁ、いよいよ秋名が生んだ天才ダウンヒラーvs神の足を見て育った天才一番星の才能大決戦バトルが近づいてきました…!
次回は顔合わせとバトルに突入する予定。

1話ごとの文章量について。

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