バトル本番と、拓海くんと愉快な秋名の仲間たちイニDメンバーサイドは次回。
時は過ぎてあれから1週間。秋名のハチロクからの「バトルを受ける」という連絡を受け、待ち合わせた土曜日の夜に私は秋名峠の頂上へと向かっていた。
今日の天候は晴れ。GT-Rのフロントガラスの先、上りの秋名峠の流れる木々の間から見える夜空には夏の星々が輝いている。今走っているのは秋名もだいぶ上って半分を越えたであろう地点。ここまで来れば麓の市街地の光は遠いから、星空の輝きがしっかり見えるね。
この後のバトル本番に備えたウォーミングアップも兼ねたゆるめペースで流しながら秋名を上っていくこと暫く。道路脇にくたびれた給水塔が見えてきた。ここがダウンヒルのスタートポイントであり、秋名のハチロクとの待ち合わせの場所でもある。
ガードレールで仕切られた側道に入った私はGT-Rを停車させ、相手を待つことにした。よく見ると既に周りには噂を聞き付けたギャラリーがわんさか。なんだか有名人になったみたいだよね。それこそいつぞやに違う私の可能性として考えたアイドルみたい。
エンジンを切り、ライトを消したGT-Rから降りる。ギャラリーからどよめきが上がってるけど、さもありなんだよね。私のルックスは男だらけの走り屋界隈には刺激が強すぎるだろう美少女っぷりだもん。そして愛車はこの真っ赤なR33。色んなギャップにギャラリー諸君は脳を焼かれてるのかも。あ、連れてきた彼女さんかな?に思いっきりつねられてる人もいる。私に魅了されるのはわかるけど、浮気はダメだよ☆
ボディに軽く寄りかかりながらさきほど上ってきた下り方面を見据える。左手首にワンポイントで華を添える赤いレディースウォッチに目を向けると、その針は待ち合わせ時刻たる22時の少し手前。もう少しだね。
黄色い中央線が引かれたアスファルトの向こうを見つめていると、そのはるか向こうから複数のエキゾーストが聞こえてきた。
ひとつは小排気量の自然吸気特有の乾いた甲高い音色。ガォガォっと独特の響きを持つ吸気音と共に聴こえてくるこれは、ハチロクに搭載されるトヨタの4A-GEエンジンのもの。十中八九、これが秋名のハチロクだろう。
後ろからターボのブローオフ音の混じった太い音も聞こえてくるけど、たぶん応援についてきたお仲間か何かだろう。もしかしたらあのお兄さんかな?
そうしているうちに、下り方面の暗がりがヘッドライトの明かりで照らされ、その奥からリトラクタブルヘッドライトを展開した白黒ツートンの小柄な車体がやってきた。
やっぱり!これが秋名のハチロクの正体だね。見た感じは特に特色のない、どこにでも居そうなパンダトレノ。強いて言うなら黄色い角形フォグランプが装着されてるくらい。
そんな秋名のハチロクの後ろからぞろぞろとついてきたのはライムグリーンツートンのS13シルビアと白い180SX。4A-GEに混じって聴こえてたターボサウンドはこのクルマだったみたい。街灯のナトリウムランプが放つオレンジ掛かった光に照らし出されたボディの「AKINA SPEED STARS」の文字からするに、やっぱり応援のお仲間さんかな。
三台の車列は私の手前で分かれ、ハチロクは目の前に。後ろの二台は側道へと入って停車した。
目の前にやってきたハチロクを観察してみる。黒いRSワタナベのエイトスポークホイールがよく似合ってるけど、やはり特筆する点はなさそう。よくいる普通のハチロクトレノだ。足はしっかりやってそうなのと、心地の良い音がするマフラーがついてるくらい。その音も自然吸気そのまま、過給器が付いている様子はないね。
うーん、これでFD3SやR32に勝っちゃうドライバー。わくわくしてきちゃった。
リトラクタブルヘッドライトが閉じたハチロクの運転席から、お待ちかねのドライバーが降りてきた。私とそう変わらないかな…?そのくらいの歳頃だろう男の子だ。
すらっとした長身にシンプルなTシャツとジーンズ。柔らかそうな茶色い前髪の奥の眠そうな目が印象的。思ったよりなんか速そうなオーラ的なものは出てないけど…抑えてるのか無意識なのか。いや、あんまり何も考えてないのかな…?
何はともあれ、楽しみでしょうがなかった秋名のハチロク本人とのご対面だ。
「ね、あなたが秋名のハチロクさんだよね?」
「ん、あぁ…そうだけど」
「バトル、受けてくれてありがと。私が今日のあなたの相手、星野アイだよ!お名前なんていうの?」
「藤原、拓海」
ふじわら、たくみ。藤原拓海君かぁ…!ふふ、覚えちゃったぞぉ☆
待ちに待った私に匹敵するかもしれない天才ドライバー。普段はなかなか人の名前を記憶してくれない私の脳がぶん回り、彼の名前を刻みつけていく。
「うん、拓海君!今日はよろしくね☆」
「ッ…よろしく」
ちょっと星の魅了オーラを解放しつつ、手を差し出す。少し眠たげな目を大きくした彼は握手を返してくれた。やっぱり男の子の手っておっきいなぁ。
…すぅ。呼吸を一つ。私の中のスイッチが戦闘ステータスへ切り替わった。
「早速バトル、始めよっか!秋名のダウンヒル1本勝負!」
さぁ、今夜の主役は揃った。最高のステージを始めよう。周囲に全開のオーラを解き放つ。
「今まで私の
「…!あぁ。今の俺がどこまであんたに通用するのか、試してみたいんだ。今まで見たことないくらい速そうな気がする、あんたに」
頷いた彼の表情がきりりと変わった。やる気になってくれたみたいだね。
分かれてそれぞれの車へ向かう。
GT-Rに乗り込み、イグニッションオン。威勢よく回るセルモーターがGT-Rの心臓を呼び覚ます。図太いエキゾーストを奏でて、日産が造り出した2.6リッターの怪物が覚醒の咆哮を上げた。
向こうもエンジンを始動したようだ。4A-GEが乾いた快音を奏で、ハチロクの目覚めを示す。
1速に入れ、クラッチを繋いでゆっくりと側道を出た後にぐるっとUターンして頭を下り方向へ向ける。その間に方向転換を済ませバックでスタート位置へついたハチロクの横にGT-Rを並べた。
これでスタート準備は万端。GT-Rの青白いキセノンヘッドライトがぱっと灯ると、呼応するかのようにハチロクのリトラクタブルヘッドライトが起き上がり、ハロゲン灯の温かみのある淡黄色の光を灯した。
両車の間にスタートの合図をするカウントマンが出てきた。お!やっぱりこの前のお兄さんだ!あとで「伝えてくれてありがとう」ってお礼をしないとね。
「カウントいくぞぉ!!5!…4!…」
お兄さんによるカウントダウンが始まる。
サイドブレーキを引き、クラッチを切ってギヤを1速に。昂る闘志をぶつけるかのように私はGT-Rのアクセルを煽った。右足に連動してタコメーターの針が振れるのに合わせ、RB26が威嚇するかのように金属質な高音の混じった重厚なエキゾーストを撒き散らし、ターボチャージャーが鋭い音を響かせる。
「…3!」
横のハチロクも準備万端。がぉんがぉんと特徴的な吸気音を響かせ、4A-GEに鞭を入れる。
「…2!」
これから始まるのは星の輝きと、それに匹敵する天才の一騎打ち。一番星の熱と光に焼き尽くされないように、しっかりついてきてね。じゃないと、君のことも呑み込んじゃうから。
「…1!」
さぁ、思いっきり踊ろう☆
行くよ、GT-R…!!
「GO!!」
お兄さんの腕が振り下ろされるのと同時にサイドブレーキをリリース。完璧なタイミングでクラッチを繋いだ真紅の巨体はその獰猛な心臓が解放した溢れんばかりのパワーを受けとめた四輪でアスファルトを蹴り飛ばし、猛然と秋名峠の闇へ飛び出した。
気に入って頂けたらよければ高評価をお願い致します。作者のモチベーションがアドリナリンどっぱどぱの秋山ニキ並みに上がります。
1話ごとの文章量について。
-
ちょうどいい!
-
もっと欲しい!