おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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10 まぜるな危険

 

「ですから、SYO先生。たまには趣味を変えて、ムチムチ女子大生からロリ体型に変えたら、どうでしょうか!?」

 

 そう言って、喫茶店のテーブルを平手で叩く地味な女性。

 普段は大人しい女の子なのに、創作の話になると興奮しがち。

 元々、俺が所属している編集部は男性が多かった。

 そりゃ成人男性向けのマンガ雑誌だからな……。

 若い女性は、働きづらいだろう。

 

 だが、この目の前にいる高砂(たかさご) 美羽(みう)さんは違う。

 元々ロリ好きで、なおかつ百合が大好物。

 母体である博多(はかた)社の採用担当は彼女を見て、女性向け雑誌を扱う”BL編集部”へ配置したが、問題が生じた。

 彼女の性癖が強すぎて、女性作家たちからクレームが殺到。

 

 仕方なく、男性向けの編集部へ異動された……。

 しかし本人は、この左遷を喜んでいる。

 むしろ転職だと叫ぶほど。

 

「あの……高砂さん。いきなり『ムチムチシリーズ』を、休載はまずくないですか?」

「いいえ! 前々から思っていたんですよ! SYO先生ならロリっ娘を無理やり襲うような、鬼畜ものを書けそうだって!」

「……」

 

 酷い偏見だ。

 

「だって、文字でしか表現できないのに。あの妙にリアルな女子大生! まるで実体験を基に書いているとしか思えません!」

「それはその……」

 

 返答に困っていると、喫茶店のマスターがメニューを持って来た。

 

「いらっしゃい。あれ? ひょっとして、翔ちゃんの新しい彼女さん?」

 

 天然なマスターらしい誤解だ。

 でも話が逸れて、好都合かもしれない。

 

「えぇ!? 私がSYO先生の彼女だなんて、おこがましいですっ!」

 

 先ほどの勢いは消え失せ、両手を左右にブンブンと振る高砂さん。

 創作に関しては暴走しがちな女性だが、恋愛や私生活になると大人しくなってしまう。

 ここは、俺が助け舟を出そう。

 

「マスター、この人は編集部の高砂さんだよ。前にも何回か来たろ?」

「ああ~ そう言えば、そうだったね、ごめんごめん」

 

 年上のマスターが頭を下げると、高砂さんは慌てだす。

 

「いえいえ! あ、それより注文ですよね? えっと私は……」

 

 一生懸命、メニューを眺めているが、今のままでは注文できない。

 逆さまだからだ。

 

「高砂さん。カレードリアとかどう? ここのは美味しいらしいよ」

「え、そうなんですか? じゃあ私はカレードリアを一つお願いします!」

「カレードリアね。翔ちゃんは、いつもの大盛りでいいかな?」

 

 いつものとは、ナポリタンのことだ。

 

「うん。それでお願いします」

 

 マスターが「あいよ」と注文を取ると、カウンターの奥へと去っていく。

 

「はぁ、ビックリした。私、こういう喫茶店って慣れてなくて……」

「そうですよね、俺はこの店長いんで。ていうか、毎回天神(てんじん)からここまで来てもらってすみません」

「全然構いませんよ。私も編集部にずっといると、気を使うので」

 

 本来なら出版社のある繫華街、天神まで俺が行くはずなのだが。

 年がら年中、金が無くてヒーヒー言ってるので、編集部から藤の丸(ふじのまる)まで来てもらっている。

 さすがに汚いアパートで打ち合わせは、気まずいので。この喫茶店を利用しているが。

 まあ、俺の狙いはこの店の会計が、編集部の経費になることだ。

 ナポリタンを大盛りで食べて、食後に飲むコーヒーとタバコが最高。

 

 でも、カレードリアか……。

 相手が若い女性だし、勝手に好きだろうと勧めてしまった。

 本当は違う。

 

 学生時代。

 あいつといつも、バイト帰りにこの店へ寄っていたから、癖になっているだけ。

 

『マスター、ナポリタン大盛りとカレードリアね!』

『ちょっと! 翔ちゃん、私はまだ決めてないよ?』

『でも、お前。毎回悩んだうえでドリアじゃん』

『そうだけどさ……酷くない!?』

 

 別れて3年も経つのに。

 まだ忘れられないのか、だせぇな。俺って……。


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