おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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16 どうしよう?

 

 航太と同じ中学に通っている、女子中学生のことだが。

 彼が言うには転校して以来、付きまとわれてうっとうしいと言っていた。

 それを聞いた俺は、なぜか安心する自分に気がつく。

 どうしてだろう……。

 

 しかし、俺が彼女を「可愛い子」だと表現したことで、航太の怒りを買ってしまった。

 どうやらあの女子中学生に気がある……と大きな誤解をしているらしい。

 参ったな。

 

  ※

 

 それから数日経ったが、彼の誤解は解けず。

 アパートの廊下で出会っても、無視されてしまう。

 嫌われたかと思ったころ。玄関のチャイムが鳴った。

 

 宅配便か? と思い、壁にかけている時計に目をやったが、もう夜の8時だ。

 一体誰だろう、とのぞき窓を確認したら、明るい緑のトレーナーワンピースを着た少年が立っている。

 航太だ。

 

 勢い良く扉を開くと、航太が少し驚いた顔をしていた。

 

「わっ! もうちょっとゆっくり開けろよ……」

「あ、すまん」

 

 最近話せなくて、寂しかったから……とは言えないしな。

 

「ところで、おっさん。おでんとか嫌い?」

「え、おでん? 好きだけど……」

 

 俺がそう答えると、航太はブラウンの瞳を輝かせる。

 

「ちょっと作りすぎたから、持って来たんだ!」

 

 と大きな圧力鍋を差し出す。

 鍋いっぱいになるまで、具が入っているようだ。

 蓋から、はみ出ている。

 作りすぎた……というより、最初から俺用に仕込んだのでは?

 

「あ、ありがとう」

 

 鍋を受けとろうとしたが、なぜか彼は拒む。

 

「おっさん、家に入れてよ。鍋を温めてあげるからさ」

「え? それは悪いよ……お母さんの綾さんにも、怒られそうだし」

 

 俺がそう指摘しても、航太は首を横に振る。

 黙って顎をクイっと横に向ける。隣りの家を見ろ、と言いたいようだ。

 玄関から顔を出して、右側を見ると。

 

『あははは! 嫌だ~』

『いいじゃん、綾さん綺麗だもん』

 

「……」

 

 また男を連れ込んでいるのか。

 そりゃ家に居たくないよな。

 年頃だし。

 

 相手は同性の子供だから、別に悪いことじゃないだろ。

 

「よし、入っていいよ。汚い部屋だけどな」

「やった! おっさんてさ、料理とかしないタイプでしょ?」

「まあ……昔はやっていたんだけどな。面倒くさくてな」

「そんなんだから、あの豚女に振られたんだよ」

 

 と笑いながら、玄関で靴を脱ぐ航太。

 ていうか、俺の元カノ。豚女って名前にされたのか。

 

   ※

 

 温め直したおでんを、ちゃぶ台の上に置く航太。

 

「ほら、おっさん。熱いからちゃんと、ふぅ~ ふぅ~ しろよな」

 

 首からひよこ柄のエプロンをかけて、胸を張る。

 でも彼の言うように、おでんが入った皿から、湯気が立っている。

 美味そうだけど、熱そうだ。

 

「いただきます」

 

 ぶ厚い大根を箸で掴み、かじってみる。

 たったひと口だというのに、口の中が温かくなった。

 そして作ってくれた航太の優しさが、身体に伝わってくる。

 何年ぶりだろう……こんな手作りの料理は。

 

 気がつくと目頭が熱くなっていた。

 

「どう? おっさん?」

「ああ……すごくうまいよ」

 

 それ以外の表現方法を俺は知らない。

 だが航太には、俺の気持ちが伝わったようだ。

 手を叩いて喜んでいる。

 

「やった! オレの方が料理うまいだろ! あの豚女よりさ!」

「……」

 

 まだ元カノと張り合っているのか。

 確かに未来は、そこまで料理が上手じゃなかったな。

 お互い忙しかったし、喫茶店やコンビニ飯が多かった。

 

  ※

 

 おでんを全て食べ終えると、航太がちゃぶ台から皿を持ち上げる。

 そしてシンクの中で洗い始めた。

 もう同棲しているカップルのような関係だな……。

 

「ところで、おっさんさ」

「なんだ?」

「さっきから気になってんだけど……あのカーテンレールにかけている服ってなに?」

「いいっ!?」

 

 思わずアホな声が漏れてしまう。

 彼に言われるまで忘れていた。

 担当編集の高砂さんから、送られてきた資料……。

 セーラー服、ブルマにスク水。

 とりあえず服にしわが出来ないように、部屋のカーテンレールにかけていたんだ。

 

「まさか、元カノが置いていったの?」

 

 皿を洗っている航太の背中から、無言の圧力を感じる。

 

「いや……あれは編集部から送られてきた資料だ」

「ふぅん。そう言われたらサイズが小さいもんね。中学生ぐらい? おっさんは誰に着せたいの?」

「あ、あの……それは」

 

 どうする、俺。

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